今、非常にマズイ状況にある。
周囲からの視線が、たった一点……自分へと集中しているのだ。
針の筵とはまさにこの事。もしも視線に質量があったらなら、身体は疾うの昔に蜂の巣となっていた。
いや、胃に穴が開きそうだった。むしろ既に開いてるかもしれない……
ひとまず、視線は全て後方……最悪、左右からしか来ていない。
必死に視線を前へ固定し、視界から周囲の視線をシャットアウトする。
―――どうしてこうなった。
本当に、そう思う。
この世には、科学で説明出来ない事がある。
幽霊だとか、魔法だとか。そういったファンタジーなモノでは無くて、もっと現実的な話で。
即ちそれは“現代科学”で説明し切れないモノであり、所謂オーパーツと呼ばれる代物だった。
して、現代。そのオーパーツと認識されるモノが、世界には存在していた。
その名はインフィニット・ストラトス、通称IS――《無限の成層圏》と名付けられたパワードスーツである。
謎の原理で空を飛び、謎のエネルギーでバリアを展開する。
仕舞いには謎の技術で物体を電子化し、そして再度物質化させたりも出来る。
機能どれ1つとってもオーパーツの癖に、そんな謎技術がこれでもかと詰め込まれた逸品である。
……そして、それは世界に500個くらいあった。
1個でもトンデモナイのに、3桁もあった。冗談じゃない。
しかもそれを作ったのが未成年の女子だと言うのだから、本当に笑えない。この世界はファンタジーだった。
そのISだが、極めつけに意味不明な機能がある。いや機能というか欠点なのだろうか。
何故か、女性しか動かせないのである。理由を知っていそうな開発者は逃げたので、誰も知らない。
そんなこんなで世界に残された500近くのオーパーツ。
世界中の研究者達は、この謎技術を解明したくて仕方がなかった。
そこで作られたのがIS学園……世界中から集められた才能ある少女達が、ISのフルポテンシャルを引き出せる様に頑張る場所である。
………――ん、織斑さん!!」
「……ぇ、あ。すいません聞いてませんでした!」
「織斑さんの番ですよ、自己紹介」
「うう……わかりました……」
渋々と席を立つ。振り返れば、視界に映るのは女子、女子、女子………
……そう、この学園には少女しか居ないのである。女子校だった。
いや技術関連で男性も居るのだが、テストパイロットとしては女性しか居なかった。
「織斑って……やっぱり千冬様の……」
「……いいなぁ……」
ヒソヒソと声が聞こえる。
俺は割りと、耳が良い方なのだ……今だけは難聴になりたい。
この空気の中で自己紹介とか勘弁してほしい。
緊張のあまり妙な事を口走ったりしそうだし、この注目の中でそんな事をすれば卒業までのネタである。死ぬ。
ちらり、と窓際の席へと視線だけ向けてみれば、そこには幼馴染が居る。
目と目が合った。視線の交差……心の中で呪文を唱える。
(た・す・け・て)
1秒、2秒と経ち……肝心の幼馴染は首を傾げて終わった。
なんてこった、お前それでも俺の幼馴染か……いや、俺がお前の立場でもそうすると思うけど。
改めて言おう。この学園は女子校である。
で、ありながら……実は俺、男性である。何故かテストパイロット生。重ねて言う、男性である。
「織斑さん大丈夫? 自己紹介だけど……後に回そうか?」
小声で背後、教卓から声が聞こえた。
さっき名前を教えてくれたが、山田先生である。童顔の若手教師なのだが、もしかしなくとも新任教師だろうか。先生の声にも緊張が滲んで見える。
自己紹介を後にまわしてもらう……実に甘美な誘いだった。
しかし、もしそれを受けようモノなら、きっと卒業までシャイな子、略してシャイ子として扱われるだろう。それはマズい。
なればこそ、ここでいっそ自棄糞にでも自己紹介した方が今後の為なのである。
すぅ……っと一呼吸。
心を落ち着けて、視界全てに映るクラスメイトを見据える。
「……織斑円夏です」
やっべ、ネタ尽きたわ。
幼馴染へ視線を向ける。目を逸らされたチクショウ。
ならば逆側ならどうか。知り合いは誰も居ないだろうが、もしかしたら救いの女神が―――
――ドアの隙間から、知り合いが覗いていた。
いや、知り合いというか、実の姉だった。なんで此処にいるんだ。
(ち、千冬姉ぇ!! 助かった、自己紹介のネタが無いんだ!!)
必死のアイコンタクト、廊下に立っていた姉は鷹揚にコクリ、と頷いて視線を返してきた。
(――好きなものはお姉ちゃんです、と言え)
「――好きなものは、おにゅッ?!」
な、何てことを言わせやがる!
思わず舌を噛んだ。油断していた……まさか身内が敵だったとは。
ニーチェ曰く、神は死んだらしい。
ついでに今、俺も死んだ。これから俺は自己紹介で噛んだ奴として認識されるのだ。死ぬ。
恥ずかしさのあまり顔を下げた。
俯いて震える俺の視線に映るのは、2房の髪束……俺の頭から垂れるツインテール。
(本当に、なんでこんな事に……)
正直、本当に涙目だった。
色褪せて見える視界の中、右手に嵌められた白銀の腕輪だけが輝いて見えた。
助けて、しまっちゃうおじさん……!!!
人里離れた山奥の様などこか。
たった1人でそこに住む魔女がいた。
へらへらと笑いながら、世界を手球にとる魔女である。
――インフィニット・ストラトスには不可思議な機能がある。
1つはバリア。大抵の物体を停止させ、エネルギーを減衰する不可視の力場。
1つは反重力航法。重力に反して、推進器無しに自在に動きまわる。
1つは物体の量子化。物体の存在を量子の海へと引き摺り込み、存在を遷ろわす機能。
そしてもう1つ、乗り込んだ者の髪を左右で結わえる機能。
通説では髪が長かった場合に、機関部に巻き込まない様にする為に存在すると言われている。
この機能故に、ISにはもうひとつ。ツインテール・ストラトスという呼び名があった。まあ、誰も表立っては呼ばないが。
そして最後にもうひとつだけ、殆ど誰も知らない、知られていない機能があった。
それは適合した“男性”を、女性に変える機能。
そう、Twintail-Stratosは、Trans-Sexial機能を持っていた。
この機能を発動させたのは現代においてただ一人、織斑円……いや、織斑一夏ただひとり。
魔女はただ独り、世界を手球にへらへらと笑う。
――― 俺、ツインテール・ストラトスに乗ります。
執筆タイトル「俺、ツインテール・ストラトスにのります。」
内容としては
「インフィニット・ストラトス」
「俺、ツインテールになります。」
以上、2作のクロス。
「最弱無敗の神装機竜」を入手したので、その記念に書いた。