第1話
菜月昴、この世界に合わせて言うならナツキ・スバルは驚愕と共にその場面を目にしていた。いや、正確にはその人物を目にしていた、となるだろう。
その人物とは
「ええい、通さぬか馬鹿者が!」
などと言っている金ぴかの王様?だった。
時刻を少し程戻す。それは貧民街とロズワールの屋敷、そして近くの村でのゴタゴタを経、とにもかくにも王選の場へやって来た時の事だった。フェルトと驚愕の再会を果たした直後、何やら外から揉め事のような声が聞こえてきた。
「我は…………の…………で有るぞ!」
「ですからこそ………出来ないのです」
そしてそれは徐々に近づき詳しく聞こえるようになる。
「ええい、では我はクルシュの友だ」
「それでもお通し出来ません」
ふと前方から半分わざと半分本気といった溜め息が聞こえてくる。その出所は男装の麗人といった雰囲気の女性だった。はてはその女性が「クルシュ」という女性だろうか、とスバルが考え始めた矢先、遂に扉があき、渦中の人物が姿を表した。
そして前述の場面へと繋がる。
「ええい、通さぬか馬鹿者が!」
「ですから、お通し出来ませんと言っているではありませんか」
衛兵らしき人物達と共に入ってきた金ぴかの王様?は、さも当然といった様子で中に入ってこようとする。衛兵達も力ずくで止める訳にも行かないといった様子で困り果てている。だがスバルにとって衝撃的だったのはその人物の容姿だった。そう、初めて見た時から「王様」と呼称していた理由、その容姿から自然と導き出される言葉は…
「ギル…ガメッシュ…………」
そう、Fateシリーズの登場人物、ギルガメッシュそのままの容姿、そして雰囲気いや風格を纏っていたのだった。純金製の金糸に見紛おうばかりの金の髪に、ルビーか何かの宝玉のような赤眼。己の肉体を誇示するが如きアラブ風?の服から見えるのは細身ながらも引き締まった筋肉。どちらかと言えばキャスターとして現界した時のような外見だが、それでも周囲を畏怖させる空気を纏っていた。とそこで、
「ほう、我の名を知っているか。……いや、違うな。その顔立ち、そういう事か」
何やら王様の方も納得したようだが、驚きは隠せずにいた。と、
「貴様、名は何という?」
「菜、菜月昴です」
「ではスバルよ、後で我の部屋に来い」
「は、はい」
何が何だかわからないままに約束を取り付けられた。だがこの城に部屋を持つという事から、部屋に呼ばれるという事は名誉な事であろうとは推測出来た。
「用事はお済みになりましたね。ではお戻りを。」
「おっと、そうであったなあ。クルシュ、竜殊を貸せ。」
「何をなさるおつもりですか。」
「いいから貸すのだ。」
「はぁ。分かりました。フェリスこれを。」
クルシュという女性はまた先程と同じ溜め息を吐き、フェリスに何やら紋章のような物が描かれた物を渡し、そしてフェリスはギルガメッシュにそれを渡した。と、その途端、
「おお!」「何という事だ!」「そ、そんな事が…」
などと悲鳴のような声が上がった。その原因は紋章のような物がギルガメッシュの手に渡った途端、光り出した事にあった。
「ろ、六人目!?」
と、スバルが驚いていると、
「それに加えて彼は隣国の王子だからね。てっきりスバルも知っていたのかと思っていたんだけど」
と、ラインハルト。それを聞いてさらに納得する。それはそうだろう。他国の王子が自国の王になるなど、征服されるも同義だ。
「ええい、安心しろ。我はこの国の王になどなるつもりはない。我は自分の国だけで十分だ。とは言え、貴様らが王の選択を間違わぬ限りではあるがな。何、クルシュを王にしろと言っているのではないぞ。ただ不甲斐ない者を選ぶでない、という話だ」
そこでラインハルトから、
「ギルガメッシュ王子とクルシュ様は古くからの友人なんだ」と補則の説明。
ある意味緊急事態ではあったものの、流石の対応の速さと言うべきか、これ以上この騒ぎに時間を掛けられないという事なのか、しぶしぶといった様子で衛兵達は下げられ、とにもかくにもギルガメッシュ王子は王戦の場への同席を許された、いや許さざるを得ないといった様子か。そして賢人会側に急遽作られた特等席にギルガメッシュ王子がさも当然とばかりに座った。
やっと王選の説明が再開されると思った矢先、賢人会の一人がフェルトの態度や言葉遣いなどにケチをつけ始めた。
だがその話は次第にフェルトの髪と目の色へと論点を移していった。そこでふとギルガメッシュ王子の髪と目の色が目に入った。それについて少し腑に落ちないという顔をしていると、今度はフェリスから"ギルガメッシュ王子は正真正銘隣国の王子であり、ルグニカ王家とは関係がない"という補則が入った。
そして話はフェルトの王選への心持ちへと話題を変え、そこにプリシラが乱入し混沌のていを示していた。と、そこでスバルにも無関心ではいられない事態が起きた。
「悪いことをしたら謝るものでしょう?叱られてみないと分からないの?」と、エミリア。
「ああ、これは面白い。今のは久々に楽しめたぞ、褒めてやってもよい」と、プリシラ。
「イチイチ不愉快な子ね。なにを…」
「悪いことをしたら謝る、とな。ならばさながら、貴様の場合は『生まれてきてごめんなさい』とでも謝罪してみせるか?銀色のハーフエルフよ」
「わ、私は……魔女と関係なんて」
「そんな言い訳が誰に意味を持つ、意味がある?貴様は世界の禁忌存在の映し身で、人々はその姿を見るだけで恐ろしくってたまらない。だからこそ、そんな上辺を取り繕うだけの布切れに頼り切っておるんじゃろうが」
そしてスバルが動こうとした瞬間。
「フハハハハッ、フハハハハハハハハハッ!下らん!下らん争いよな。プリシラとやらよ、世界は貴様に都合良く出来ておるのであろう?ならば世界の禁忌も、その映し身も何が関係ある?それが貴様の限界よ。上辺に囚われているのは貴様も同様ではないか?」
「貴様、何を!」
「姫さん、そこまでにしてくんね?あんまし敵増やされても困るんだよ、マジ」などとアルが宥める。
とそこで、
「ーー全員、お気は済みましたかな」とのマイクロトフの鶴の一声。
さらにマイクロトフがフェルトに気遣う声を掛け、この一悶着は終わりを迎えた。そして、
「では本来の議題――王選のことについて、候補者の皆様を交えて、賢人会の開催をここに提言いたします」
そうして王選は始まりを迎えた。