威厳あるマイクロトフの宣言により、広間に緊迫感が張り詰める。
その増した存在感により自然と玉座の間の全員の視線がマイクロトフへと集められる。
「賢人会の開催の提言にあたり、まず他の同士に賛同を頂きたく。」
その一声で賢人会の皆は賛同をし、眼下の候補者は急いで集合する。アルとラインハルトがスバルを挟む形になり、スバルはとても居心地が悪い結果となる。どうやらそれはアルにも言える事らしく、
「俺、ここにいないとダメかな?」と、スバル。
「オレとしちゃそこにいてくれた方が緩衝材的な意味合いで嬉しいけどな。正直、剣聖と事構えるとかありえねぇよ、マジに」と、アル。
と、話している内にも話は進み、再び進行役が騎士団長マーコスに移り、各候補者の所信表明へと話は移った。
「ではまずクルシュ様よりお願いいたします。ーー騎士フェリックス・アーガイル!ここに!」
「うむ」
「はーい」
という言葉と共に所信表明は始まった。
ふとギルガメッシュの方に目を向けると、親友だというクルシュの所信表明に聞きいっていた。
そしてクルシュの所信表明が終わり、プリシラの傲岸不遜な所信表明が始まった。スバルの頭の中では既に、プリシラの演説に水を差すギルガメッシュの姿が思い浮かんでいたのだが、驚くべきことに最後の最後まで真剣な面持ちで演説を聞いていた。
次にアナスタシアの強欲な所信表明が始まる。ここでもギルガメッシュは真剣な面持ちで演説を聞くのみで、黙りを決め込んでいた。
そしていよいよエミリアの所信表明が始まる。とそこで、ボルドーという名前らしき人物がエミリアに難癖を着けてきた。
「マイクロトフ殿こそおわかりか?銀色の半魔はかの『嫉妬の魔女』の語り継がれる容姿そのものではないか!」
などとつらつらとエミリアへの難癖を吐き出していく。当然スバルの怒りのボルテージは絶好調で上がってゆく。ラインハルトの静止も押しきりスバルが暴発する直前、
「フハハハハッ!フハハハハハハハッ!愚かなことよな、雑種よ」とギルガメッシュ
「何を!」とボルドー。
「先も言ったではないか、上辺だけに囚われる。それが限界とな」
「これは上辺だけなどという問題ではない!」
「では言わせてもらおう。いや、問おうではないか、このルグニカのすべての民にな。」
「何っ!?」
「貴様らは本当に龍を敬い奉っているのか、とな」
「当然だ!」
「では何故嫉妬の魔女を恐れる?龍と初代剣聖、賢者によって封じられた魔女を何故恐れるのだ?その復活に備えて軍備を整えるのは構わん!それは人の上に立つ者として当然だ。だがな、龍の力を信じているというのなら何を恐れることがある?それこそが貴様らの矛盾!貴様らの不信の証よ!」
「貴様、魔女が恐ろしくないのか!」
「無論だ!それが貴様らの、龍を信じながらも、信じ切ることさえ出来ぬ貴様らの限界よ!」
とまだまだ続くかと思われた言い合いに終止符が打たれた。
「確かにギルガメッシュ王子の指摘は最もやもしれません。ですが今は王選の場、その議論はまたの機会に」
「ふん!よかろう」
「私はまだ納得などしておりませぬ」
と、今まで黙りを決め込んでいたロズワールが口を開く。
「ボルドー様、もうよーぉろしいではありませんか?」
「よい訳があるか!卿の行いはそれほどのものだぞ。わかっているのか、筆頭宮廷魔術師よ」
「わーぁかっていますとも。私のしている暴挙の意味も、賢人会の皆様の意見を代表してくださったボルドー様の計らいも、そしてエミリア様を見ることとなるであろう国民たちの感情の問題も」
「しーぃかーぁしーぃ、お忘れではないですか。ボルドー様が問題にしている部分はこと王選に関してはなんの意味も持たないことを」
「……どういう意味だ?」
「奇しくも、最初にプリシラ様が仰っていたじゃーぁないですか。形だけでも五人の候補者が揃えば王選が始まる、と。王選が始まりさえすれば、あとは竜歴石の条文に従って粛々と進めるのみ。そーぅじゃあーぁりませんか」
「ふぅむ、つまり御身はこう言うわけですかな。エミリア様は竜殊に選ばれた存在であるという一点が重要であり、実際に王位に就く資格があるかは問題ではない、と」
「そーぉのとおりです。私は一刻も早く、王選を始めて終わらせて、国を元の正常な状態に戻したい。そうでなきゃ、私が道楽を楽しむ余裕も持てませんからね」
衝撃的な言葉の数々だった。そしてまだ彼はエミリアを当て馬にするという内容を語り続けている。一度下がった怒りのボルテージが再び上がってゆく。そして、
「わかった、いいだろう。先の反対は取り下げる。卿の推薦通りにことを――」
「ふざけてんじゃねぇ――!!」
遂に堪忍袋の尾が切れ、怒声は広間中に響き渡った。
そして一瞬の静寂の中にスバルの荒々しい吐息だけが存在した。と、
「おーぉやおや、場が見えていないのかな? 今は君のような立場の人間が口を挟んでいい場面じゃーぁない。謝罪して、退室したまえ」
「俺の意見は伝えたぞ、ふざけんな。そんで続く言葉はこうだ。謝るのはお前らの方だってな」
「ますます驚きだ。――命がいらないだなんて」
そう言った彼の周りが陽炎のように歪んで見える。彼の威圧的な鬼気がマナを伴っているのであろう。スバルの脳内を彼がこれから放つであろう太陽のような火球が過った。彼の力量、技量ならばスバルを骨だけに、いや骨も残らず焼き尽くすことも可能であろう。
「まとまりかけたところにこの無礼だ。もう一度だけ、這いつくばって許しを乞うならば機会を与えよう。どーぅかな、ナツキ・スバル」
「い、言ったぜ、俺は。謝るのは俺じゃなくて、お前らの方だってな!」
スバルは今、力でも、心の強さでもなく、意地だけで立っていた。そんなスバルに残酷な死刑宣告が下る。
「いーぃだろう。力なくばなにも通すことができない。その意味を、身を持って知ってみるといい。来世ではそれを活かせることを願うとも」
その瞬間、スバルを焼き尽くすべく火球が生み出され、放たれる。煌々と極光を放つそれは正に太陽の映し身であった。
「火のマナ最上級の火力を見せてあげよう。――アルゴーア」
放たれた死が徐々に近付いてくる。そんな時でもスバルの脳内に湧いた感情は喜びであった。目の端に映る、自分を心配してくれる存在への異常な喜び。
そうして炎が彼を焼き尽くす直前、
「フンッ」
『力がなければなにも通すことができない。なるほど、いい言葉だね。ああ、まったくもってその通りだと、ボクも肯定するところだよ』
二つの声が聞こえてきた。片方はとても偉そうな、もう片方は聞き慣れた筈の聞き慣れない声。
そして目の前には火球の極光をも打ち消す黄金の輝き。その輝きより出でたる盾を模した水の塊。それと同時にスバルの身体を覆う青白い輝き。
だが青白い輝きよりも先に水の盾が火球に触れ、火球を消し去った。それと同時が青白い輝きも役目を終えたとばかりに消え失せた。
その各々の現象を起こした一人と一匹は威圧感さえ纏った怒声と感情を凍らせた声でそれぞれの言葉を紡いだ。
「その者には用があると我は言ったぞ、下郎が」
『ニンゲン風情がボクの娘を目の前に、言いたい放題してくれたものだ』