骸骨魔王のちょこっとした蹂躙   作:コトリュウ

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第19話 「強権魔王」

 

 ナザリック第十階層、玉座の間。

 その正面大扉には、天使と悪魔の像が彫り込まれている。無論、ただの像であり襲い掛かってくることはない。

 ただ現在、扉の前では本物の白い悪魔が殺気を纏って、軍服埴輪野郎を睨み付けていた。

 

「なにか言うことはないの? パンドラ」

 

 優しげな衣を言葉にまとわせて『抜け駆けしてモモンガ様の元へ行くんじゃないわよ! うらやまぶち殺すぞ!』と笑顔で語るアルベドに対し、パンドラは気楽に対応する。

 

「はて? 私はモモンガ様から直接、“専属”であると言われておりますので、統括殿の許可を必要としませんが……。なにか問題でも?」

 

「せんぞくぅ!」

 

 守護者に腹を殴られてもビクともしないアルベドが、一撃を喰らってグラついたような幻惑に囚われる。それ程に衝撃的な発言であった。

 専属、モモンガ様の専属。

 妻としては許せない、許してはいけない役職だ。

 

「な、な、なんて羨ましいぃぃ! この私を差し置いてぇぇ!!」

 

「“(しもべ)”としての専属ですよ。統括殿は“伴侶”なのですから別枠でしょう?」

 

 伴侶。

 なんとも甘美な響きである。

 大口ゴリラに変身しそうなアルベドの思考を、一瞬にして鎮静化させ得る魔法の言葉だ。

 

「ぇえ?」

 

「ですから、私はモモンガ様に創造された直轄の(しもべ)なのですよ。専属になるのは自然な流れでしょう? それより重要なのはモモンガ様の伴侶。正妃となるべき立場のアルベド様。貴女なのではありませんか?」

 

 敵だと思っていた相手が“伴侶”だの“正妃”だのを口に出すので、アルベドとしては顔がにやけて仕方がない。もうすっかり、パンドラの抜け駆けや専属の話などは頭の中から消し飛んでいる。

 

「そ、そうね。そうよね。モモンガ様の伴侶は私、妻となるべきはこの私。あなたはそう認識している、ってことでイイのね。パンドラズ・アクター?」

 

「もぉちろんでございます、統括殿。今後は陰ながら協力させて頂こうかと思ってぇおります」

 

「くふふふ、モモンガ様直属のあなたが味方なら心強いわ」拳をグッと握りしめて、アルベドは勝利を確信する。これでシャルティアとの差は決定的になったと言えるだろう。他の(しもべ)の中にもアルベドに匹敵するような者はいないので、不確定要素は皆無である。

 容姿、能力、立場、そして旦那様への圧倒的な愛情。加えてモモンガ様を愛するように、モモンガ様自身に求められているという事実。

 つまりこれは事実婚。

 実質的に、結婚していると同じ状況であるということだ。

 

「では統括殿、モモンガ様の元へと参りましょう」

 

「ええ、愛する旦那様の元へ」

 

 もうすっかり新婚気分で大扉の前に立つと、悪魔と天使の巨像が歓迎しているかのように玉座の間への道を開く。

 視界に映るは幻想的で神秘的な、巨大かつ静かな大広間。

 四十一の旗が掲げられ、最奥には水晶の玉座。

 しかしながら、アルベドにとって重要なのはそのどれでもない。

 重要なのは、大事なのは、命よりも大切であるのは、玉座に座りマスターソースを操作している骸骨の大魔王、モモンガ様だけだ。

 

「あぁ、統括殿。我を忘れてモモンガ様を押し倒すような非礼は御勘弁願いますよ。一応押さえ込む準備は整えておりますけど、なるべくなら自重して頂きたい」

 

「んぐっ! わ、私がモモンガ様を押し倒すだなんて……、押し倒すなんて……、押し倒す……。くふー!」脳内ではすでに押し倒しているのであろう守護者統括は、この場が玉座の間であることを思い出したのか? 埴輪顔の領域守護者に冷ややかな視線を送られていると気付いたのか? しばしクネクネした後、真剣な表情で自身の潔白を表明する。「馬鹿なこと言わないでちょうだい。愛するモモンガ様に対し、そのような不敬なことをするわけがないじゃない」

 

 曇りなき美しい笑顔を前にして、パンドラはため息しか出ない。

 

「失礼いたしました。では参りましょう」

 

「ええ」

 

 静かな足取りでアルベドを前に、数歩後ろにパンドラが続き、大魔王モモンガ様の前で二人は跪く。

 

「モモンガ様、各階層守護者にナザリックの警備と周辺偵察、そして捕らえた勇者の対応を指示し、行動へと移らせました。私はパンドラズ・アクターと共にモモンガ様のお手伝いをするべく、玉座の間へと参った次第であります」

 

「そうか……」マスターソースから目を離さないモモンガは、何かを考えているかのように骨の指をこめかみにつけ、しばしの沈黙ののち、ちらりと二人の守護者を見る。「ちょうど良かった。お前たちに聴きたいことがあったのだ」

 

 ぶるりと感激に身を震わせ、アルベドは答える。

 

「はい。男の子は一人、女の子は二人ぐらいがよろしいのではないでしょうか?」

 

「ん?」

 

「もちろんモモンガ様が望むのであれば、十人でも二十人でも産みたいと思います」

 

『いや、ちょっと多いんじゃないか?』とか、『そもそもアンデッドなんだが……』などの返答が頭に浮かぶものの、元よりそんな話をしようとしたのではない。

 モモンガは呼吸もしていないのに軽く咳をすると、手早く思考のズレを整える。

 

「その話はまた後で聴くとして、今回は“たっち”の件だ」

 

「“たっち・みー”……様、でございますか?」

 

 世継ぎのことより至高の御方を優先しているように感じられて、アルベドには嫉妬の念が浮かんでしまう。とはいえ、至高の御方々はナザリックの支配者だ。モモンガ様と同じく、絶対の忠誠をもって仕えるべき御主人様である。不本意ながらも。

 

「たっちがナザリックに攻め込んでくることを、皆があれほど嫌がるとはな。セバスもたっち側に付いてよいと言ったのに、喜ぶようなそぶりは微塵も無かった」

 

 困ったような大魔王の口調から察するに、どうやら仲間との合流を望んでいるわけではないようだ。この世界に出現するかもしれないギルメンたちと、ナザリックの総力を挙げて戦争できないことが残念でならない、と言っているかのよう。

 アルベドは少しばかり身を震わせる。

 

「ナザリックにとって至高の御方々は絶対の主人でございます。敵対するようなことを望む者など一人もおりません」

「いえ、統括殿。私は例外ですよ」

 

 斜め後ろからの横やりにイラッとするも、アルベドは『私もだけどね!』と無言で振り向きつつ、埴輪野郎を睨み付ける。

 

「モォモォンガッ様! 私ならば至高の御方々が敵であっても、なんら問題ありません! たっち・みー様であろうとウルベルト・アレイン・オードル様であろうとも、首を刎ねて御覧に入れましょう!」

 

「ほぅ、物騒なことを言うわりには……呼び捨てではない、か」なにやら(しもべ)の挙動を観察しているかのような大魔王は、マスターソースへ視線を戻すと、他の守護者には聞かせられない一つの試みを口にする。

 

「やはりギルドメンバーが今の立場のままでいると、ナザリックとしては戦いにならんな。であれば、やるしかあるまい――ギルメンを“アインズ・ウール・ゴウン”から強制脱退させる」

 

 ギルドからの脱退。

 それは至高の御方々をギルドから追放する、ということだ。

 NPCからしてみれば、己の造物主がナザリックに二度と戻ってこない――戻ってこられなくなることを意味しており、気が気ではあるまい。

 当然、タブラに創造されたアルベドなどは、血の涙を流して「どうか、御考え直しを!」と懇願してくるはず……だが。

 

「脱退、でございますか?」涼しげに小首を傾げ、アルベドはいつもの態度を崩さない。まるで己の造物主など気にもしていないかのように。

 

「ああ、スレイン法国でギルド解体の話を聞いた時から考えていたのだが、今がちょうど良い機会だろう」モモンガはマスターソースに並ぶギルドメンバーの名前を骨の指で転がし、「さて、誰から脱退させるかな?」とアルベドをちらりと見る。

 

「おそれながら、タブラ・スマラグディナ様がよろしいかと。創造された直轄の(しもべ)がどのような反応を示すのか――を探る上でも、私の造物主で試してみるべきかと愚考いたします」

 

「う~む、タブラかぁ。確かにNPCの反応は気になるが、ニグレドとルベドに暴走されても困るしなぁ。いや、ルベドは最初からタブラの命令なんて聞かない設定だったか。ならば問題はニグレドだけか? いやそれより、アルベドはどうなんだ?」

 

「なんの問題もありませんわ」守護者統括は花満開の笑顔で大魔王を見つめると「私はすでにモモンガ様の妻です! 身も心もモモンガ様御一人のモノ! ですから父親が殺されようとも造物主が追放されようとも、わたくしには一切影響ありません。御安心ください!」

 

「そ、そうか」

 

 安心しろと言われても、別の不安が頭をもたげてくるようなアルベドの猛烈アピールに、モモンガはため息を吐きながら己の(しもべ)を眺める。

 

「お前はどう思う? パンドラ」

 

「はっ、統括殿は御自身の言葉通り問題はないかと。ですが、ニグレド殿には何かしらの変化があってもおかしくありません。脱退確定後、統括殿には姉君の心境を確認して頂くべきでしょう」

 

「ふむ……」誰を脱退させたとしても、一番まともで――そうは見えないかもしれないが――どんな状況にも対応できるのがパンドラだ。モモンガとしては、ギルメンを脱退させても大した変化は起こらないと予想しているものの、万が一の対策は用意しておくべきであろう。

 

「よし、まずはタブラを脱退させる。アルベドは己に起こった変化について報告を。その後、ニグレドの元へ向かい、なにか問題が発生していないかを探れ」

 

「はっ、かしこまりました、モモンガ様」

 

 アルベドの返事に頷いたモモンガは、軽く骨の手を動かし、マスターソースを操作する。

 ギルドメンバーの名簿を軽く転がし、目当ての名を見つけては左手に持った“スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン”を強く握りしめ、ギルドマスターの強権を発動させた。

 ギルドマスター、ギルド武器、そしてギルドメンバーからの決定権譲渡。

 すべての条件が揃い、マスターソースは指定された名簿の個人名を点滅させる。これで再度の決定を成せば、名簿欄には二度と埋めることの叶わない空白が現れよう。鈴木悟であれば、絶対に行わない操作だ。

 しかしモモンガは、なんの痛痒も示さず、タブラ・スマラグディナを消し去った。

 無論、消した後の後悔もない。

 

 

 

「ではアルベド、気分はどうだ?」

 

「御安心ください、モモンガ様。アルベドは今も昔も、モモンガ様の妻であり、愛する旦那様の奴隷であります」

 

 なにか余計な役職が追加されたようにも思うが、まぁ問題ないのであろう。マスターソースから確認できるナザリック全体への影響も皆無のようだ。

 これならば他の三十九人も、同様に脱退させることが可能であるに違いない。

 

「であれば、次はニグレドだな。頼んだぞ」

 

「はっ、畏まりました」

 

 返事は立派ながらも、アルベドが玉座の間を出て拠点内転移用指輪(リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン)を発動させるまで、名残惜しそうに振り向いた回数は五回だ。

 やれやれ、と魔王のため息も漏れる。

 

「モモンガ様、一つ、よろしいでしょうか?」いつになく真剣な、らしくないパンドラの言葉が魔王の耳を誘う。

 

「なんだ? パンドラ」

 

「はい。モモンガ様は……、至高の御方々と戦うことを望んでいらっしゃるのでしょうか? 帰ってこられても、仲良くナザリックで過ごすことはないと?」

 

 他の守護者では、決して言葉にできぬ問いであっただろう。他の至高の御方を殺せると公言した者にしか許されぬ、禁断の問い掛けだ。

 

「そうだな」魔王はじっくりと時間をかけ、ユグドラシル時代を振り返る。「支配者は一人で十分だ。それにナザリックを捨てた者が昔の地位に返り咲こうとは片腹痛い。私の命令に従うのであれば使ってやらんでもないが、望むのは敵対だな。その方が楽しめるというものだ」

 

 アインズ・ウール・ゴウンのメンバーは曲者ぞろい。

 戦えるのであれば、真の竜王(ドラゴンロード)よりも楽しい死闘が味わえるであろう。魔王側が敗北する可能性も非常に高くなる。

 まぁ四十人の内、血沸き肉躍る激闘を大魔王にも感じさせてくれるような強者は、三分の一にも満たないのだが……。

 

「あぁだが、生産職や偵察専門などのメンバーはどちらにおいても不要だな。戦っても面白味はないし、パンドラがいる以上生産系スキルにも困ることはあるまい」

 

「ありがたき幸せ。……それではモモンガ様、のちほど統括殿よりお話があるかと思いますので、よろしくお願い致します」

 

「ん? なんの話だ?」

 

「それは、後のお楽しみということで」

 

「やれやれ」

 

 また妙なことを――と思いつつも、大魔王様に見通せぬことなどこの世には無い。話の流れからも、アルベドが語るであろう内容を推察できないわけがないのだ。

 とはいえ、後の楽しみを看破するほど無粋でもない。

 モモンガは完成された美しいパンドラのお辞儀を眺めながら、「期待して待つとしよう」と機嫌よく微笑むのであった。

 

 

 ◆

 

 

 煌めく鋏、振り乱される黒髪。

 室内に響く赤子の叫びは、聴いているだけで呪いに犯されそうだ。

 

「こどもこどもこどもぉ、わたしのこどもぉぉぉ! どこへやったあぁぁぁぁ!! よこせぇぇぇ!!」

 

「はい、姉さん。子供はここよ」

 

 顔の筋肉むき出しの鬼女を前にして、白い悪魔は平然と玩具の赤子を差し出す。その退屈そうな仕草からは、毎回同じ手順を踏まなければ実の姉とも会えない――という理不尽さへの不満が見えてくる。

 スキップできないムービーシーンなんか、いまどきあり得ねぇだろ! とペロロンチーノの雄叫びが聞こえてきそうだ。

 

「ああ、私の赤ちゃん……。あら、私の可愛い方の妹。久しぶりね」

 

「ええ、久しぶり姉さん。と言いたいところだけど、面倒な手続きさえなければもっと気軽に足を運べるのよ。何とかならないの?」

 

『そうあれ』と創造されたからにはどうしようもない、とアルベドも解ってはいるが、それは造物主が至高の御方であった場合だ。

 タブラが追放されている今とは状況が異なる。

 

「そうねぇ」可愛らしく皮なし顔をこくりと傾げて「可愛い妹の我儘なら聴いてあげたいところなのだけど……。私たちのお父様、タブラ・スマラグディナ様がお決めになったことだから御免なさいね」とニグレドは優しい口調で妹を諭す。

 

「おとう、さま?」変化のない姉の思考に、アルベドの眉がピクリと跳ねる。「姉さん、少し聴きたいことがあるのだけど」予想では、自分と同様にタブラを虫けら程度と認識――とまでは言わないものの、ある程度の敬意は削がれるだろうと判断していた。それなのにお父様とは。

 

「もしモモンガ様から、タブラ・スマラグディナ様を殺せと命令されたら、姉さんはどうするの?」

 

 とても仮定の話とは思えない暗くて鈍重な笑みをもって、アルベドは姉を見つめる。

 

「私の可愛い妹、どうかしたの? 答えるまでもなく、答えが一つしかない質問よ」頭の良い妹がどうしてそんな質問をしてくるのか、と不思議そうなニグレドは、静かに答えを待つ守護者統括の態度に仕方なく答えを口にする。「当然、お父様を殺すに決まっているでしょ。モモンガ様の御命令は絶対なのだから。造物主の命()()()とは、比べることすらおこがましいわ」

 

「ふふっ」

 

 期待していた答えを前に、アルベドは思わず笑みを漏らす。これで計画を進められる、これで殲滅できる、これでやつらは皆殺しだ! と言わんばかりに強く拳を握り、目の前の姉がオロオロと狼狽えてしまうほどに目を見開く。

 

「ど、どうしたの? アルベド。私、何か変なこと言ったかしら?」

 

「くふふ、まぁそのね。モモンガ様に幼子を殺さないよう嘆願した姉さんが、モモンガ様は絶対なんて言うものだから……」

 

 ニグレドの失態は未だ記憶に新しい。配置場所からの勝手な移動、殺されるはずだった幼子の助命嘆願。アルベドも肝を冷やした危うい一件だ。

 

「うぅ、それは……、私の生まれてきた意味でもあるのだから、否定はできないのよ。造物主の立場とは別問題――なのよねぇ」

 

「ふ~ん、そういうものなのね」造物主が追放されれば、『そうあれ』と刻んだ宿命も否定されるのかと思いきや、実際は無関係のようだ。アルベドは少しガッカリしつつも「それで? 姉さんが保護した人間の子供はどこにいるの? 追加も送ったはずだけど」

 

「ああ、受け取ったわよ。でもまさか、可愛らしい幼子を二人も預けて下さるなんて……。だから私の可愛い妹、モモンガ様には『私が感謝の言葉を捧げていた』と伝えてもらえるかしら?」頷き返す妹の仕草を確認し、ニグレドは言葉を続ける。「クーデリカちゃんとウレイリカちゃんはとてもイイ子で、今はネムちゃんと一緒にニューロニストの授業を受けているの。モモンガ様の偉大さを知る、大事な授業をね」

 

「流石姉さん」とアルベドは微笑みつつ、モモンガ様の偉大さに打ち震える。

 恐らくモモンガ様は、(しもべ)に褒美として渡した幼子たちが、骸骨大魔王様の美しさ、素晴らしさ、強大さに感銘を受け、いずれ人間世界への宣教師となる――という未来を予見していたのだ。

 近い将来、多くの人間どもがモモンガ様のために命を投げ出し、または実験体として身を捧げることだろう。魔王様が追いかけ追い詰め、手を下す必要など無いのだ。(しもべ)を送り込むことすら不要。

 人間はモモンガ様への信仰でまとめ上げられ、必要な時に必要な数だけ殺される資源となる。その数は、デミウルゴスが運営している牧場の比ではないだろう。

 

「くふふ、私もその授業に交じりたい気分だけど、またの機会にするわね。それじゃあ、姉さん。またね」

 

「ええ、私の可愛い方の妹。また顔を見せにきてね」

 

 上機嫌の妹が一瞬『どちらの妹も可愛い、でしょ?』と訴えるかのような視線を飛ばす――と共に片手を振りながら転移してしまうと、ニグレドの周囲は再び赤子の泣き声で満たされる。

 心が洗われるような、うっとりする室内BGMであろう。定められた待機場所が、この場であることの意味を実感してしまう。

 

「はぁ、それにしても」ニグレドは起動させていたナザリック周辺の魔法監視システムを軽くチェックすると、〈水晶の画面(クリスタル・モニター)〉を複数展開させながら妹の行動を思い返す。「あの子ったら、結局なんのために私のところへ来たのかしら? 変な質問ばかりして。造物主であるお父様は確かに私たちを創ってくださった大恩ある御方だけど、モモンガ様の御命令なら喜んで殺すのに……。まぁ、私では返り討ちでしょうけどねぇ。悔しいけど仕方ないわ。お父様は――、()至高の御方であるのだから」

 


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