一. 契約はしっかりと確認を
世の中、不思議なことは数多く存在する。
僕の人生において最も不思議であった出来事は、未来で起きるだろう出来事を教えられたことだ。
“人事を尽くして天命を待つ”。本来であるならば、未来―――結果などは全てを行った後に知るものだ。何もしない段階で結果だけを伝えられたとしても、ただ単に興を削がれるだけだろう。
しかし、一つの未来に失意する僕に告げられた次の言葉はこうだ。
『天命を変えたくば、人事を尽くした上で人外の手を借りるべし』と。
これが、今までぼんやりとしていた僕の人生において、一つの目標を立てる瞬間だった。
***
彼―――『たきの シライト』は釣りをしていた。
これが日課とでも言おうか。十歳の彼は、故郷である滝隠れの里の学校の授業を受け終わった後、放課後の時間は全て釣りに費やしている。
元々は、祖父の趣味であった釣りだ。そこに孫のシライトが付いて来る形だったのだが、最近腰が悪くなってきた祖父は家に留まり、こうしてシライト一人で釣りを満喫している。
悠々と時間が過ぎるのを楽しむシライト。
人付き合いは疲れると、同年代の子供たちとも遊ぶこともせず、一人呑気な時間を過ごして居る。
しかし、その時間をにわか雨の如く突然現れた少女がぶち壊す。
「ひゃっほ~!」
陽気な声を上げ、里の断崖を猿よろしく飛び降りてくる人影が一つ。
凡そ常人には出来ない真似事をし、釣りに興じていたシライトの下へ駆け寄ってくる褐色肌で黄緑色の髪の少女は、満面の笑みでこう告げた。
「シライト! 遊びに来たっすよ!」
「……フウ」
ローライズな服装に身を包む少女の名を呼ぶシライトは、能面のような表情を浮かべつつ、一旦釣り糸を垂らすのを中止した。
遊んでくれそうな雰囲気に目を輝かせるフウ。
だが、シライトは『ちょっと待って』と言わんばかりに掌を翳す。
「……また……脱走してきたの?」
脱走。
不穏な言葉だが、これは別にフウが犯罪者であり、牢屋に投獄されていたという訳ではない。
彼女は滝隠れの里において、少々変わった人物。活発で天真爛漫。その場にじっとして居られないような性格だ。にも拘わらず、里内において彼女を知っている同年代の子供はあまり存在しない。
まるで、彼女の存在が秘匿されているとでも言わんばかりだ。
そんなフウとシライトの出会いは突然だった。
ある日、日課の釣りをしていたシライトの下に、滝の上から彼女が落ちてきたのだ。それから二人は知り合いになり、時々こうしてフウの方から遊びに来るのだが、毎度毎度途中で迎えの忍者らしき者がフウの首根っこを掴み、どこかへ連行していく。
余程、大層な家柄のお嬢様なのかもしれない。
きっと、こうして遊びに来るのもお忍びなのだろう。シライトはそう思っている。
故に、フウが自分の下へ遊びに来るのは、彼女が家から脱走してきた時なのだとばかり考えているのだ。
しかしシライトの問いに、フウは『ちっちっち』と人差し指を揺らす。
「今回は大丈夫っす。影分身を置いてきたっすから!」
「……そう」
影分身がなんたるか分からないシライトであるが、自信に満ち溢れているフウの様子に、とりあえず何かしら対策はしてきたのだと理解した。
因みに影分身とは、自分の実体を作りだす高等忍術。実体そのものがある程度の自我を持ち、オリジナルの思考に基づいて行動したりするのだ。
本来は諜報活動に用いたりする術なのだが、シライト同じく十歳のフウは、遊びに出てきたいが為だけに、自分の身代わりとして影分身を置いてくるべく、この術を習得したのである。執念はおそるべしといったところだろうか。シライトのあずかり知らぬ場所で、彼女は無駄な方面で技術を磨いている。
「……それで今日は……何をして遊ぶの?」
「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれたっすね!」
仰々しく、柄にもない笑い声をあげるフウ。
いい意味でも悪い意味でも分け隔てなく接する彼女は、同級生から“ナメクジみたい”と称される性格のシライトにも同様に接してくれる。
そんなフウが今回提案する遊びとは……、
「……それよりも、ちょっと汗掻いちゃったから滝行するっす!」
「やめて」
それよりも彼女は、分け隔てが無さすぎる。
***
あどけない少女がすっぽんぽんになって滝行することは、何とか押しとどめることができた。
因みに、仮にフウが全裸になって滝行したとしても、その華奢な体は轟々と唸る瀑布に呑み込まれて全く見えない。理想と現実は剥離しているという訳だ。
それは兎も角として、シライト憩いの場は一応里の子供たちが訪れる場でもある。水場で真っ裸で遊んでもいいのは幼児までだ。既に十歳のフウが全裸になるのは、色々と問題が生じる。
閑話休題。
「……それで、今日は何するの?」
「今日は、あっしがシライトに忍術を教えるっす!」
「……ほう」
藪から棒になにを。
そう言わんばかりに目を細めるシライトであるが、彼自身忍術に全く興味がないという訳ではない。
事実、彼は釣りをする時に水面に立っている。これは忍術を発動する際に使用するチャクラを足裏から放出し、ちょうど水面に立てる程度のつり合いを保つことにより、その芸当を成り立たせているのだ。
滝隠れの忍塾には通っていないシライトではあるが、幾度の忍界大戦を経験している祖父に、遊びがてら木登りの業や水面歩行の業を学んでいる。加えて、それを用いての釣りが日課になっていることから、チャクラコントロールに関してはそれなりに上手い方だ。
そんなシライトは、上述の技能を生かし、断崖絶壁に映えているタケノコやキノコを採取している。
今回フウが教えてくれる忍術を学べば、何かしら生活の役に立つのではないか? シライトはそんな仄かな希望を胸に抱きながら、フウの次の言葉を待つ。
「昨日あっしは、ゼンジから口寄せの術を習ったっす」
ゼンジとは、里長ヒセンのお付き人であり、尚且つヒセンの息子であるシブキの教育係である老人だ。
そんな老人に術を学んだということは、“フウ、お偉いトコのお嬢様説”が濃厚になってくるのだが、シライトは聞いたこともない術に眉を顰めるだけ。
「……口寄せの術?」
「まあ見てるっす」
そう言うや否や、フウは徐に自身の親指をカリッと噛み、血を出して見せる。
それから手早く印を結び、地面に掌を押し付けると、煙と共に一匹の―――
「……鯉」
「どうっすか!?」
ピチピチと地面の上で跳ねる鯉。いや、錦鯉か。
暫しの沈黙。最初は元気よく跳ねまわっていた鯉も、次第に疲れてきたのか全く動かなくなり、果てには、
『はぁ……はぁ……フウ、貴様……! 地面で妾を呼び出すとは気が触れているのかっ……!! しかも水場のすぐ近くで……生殺しとはこのことじゃ……!!』
「血で契約した生き物を好きな時に好きな場所に呼び寄せる術、それが口寄せの術っす!」
「フウ、それよりもこの鯉を水場に……」
息も絶え絶えとなっている鯉を余所に術の説明をするフウを窘め、シライトはすぐさま鯉を近くの滝壺へ放つ。
あやうく一命が犠牲になるところだった。
そして、『覚えておけ』と滝壺から呪詛のような言葉が聞こえてくる間にも、術を披露できて興奮冷めやらぬフウは説明を続ける。
どうやら今口寄せした鯉は、滝隠れに契約巻物が置かれている
里長ヒセンも、忍鯉の一匹『
優美な朱と白の鱗を持つ龍鯉丸も、一たび龍神変化にて龍へ変われば、どのような忍も一飲みしてしまう猛々しさを有す。
美と力の共存。滝隠れの忍鯉は、それら二つを有す口寄せ獣として、里の誇りとも称されている。
無論、他にも鯰だったり多種多様な口寄せ獣はいるが、『滝隠れといえば忍鯉』という者が多いのは事実だ。
「……それを僕に覚えてほしいの?」
「そうっす!」
わざわざ忍術を教えに来ているのだから、彼女は自分に口寄せの術を覚えてほしいのだろう。その意図を汲んで問えば、思っていた通りの反応が返ってくる。
「印は亥、戌、酉、申、未っす」
「……印……分からない」
「あ、そうっすか? じゃあ、あっしの見て真似するっす!」
そもそも印を学んでいないシライトが困ったように声を上げれば、ニカっと笑うフウが彼に迫り、ゆっくり印の形を作ってみせる。
それを真似るシライトは、指の皮膚を少しばかり齧って血を流してから、しっかりと体内―――特に丹田でチャクラを練ることを意識した。術を発動するには、まずチャクラを練らねば話にならない。
(こんな感じかな……)
しっかりチャクラを練れた感覚を覚えながら、たどたどしく印を結び終えたシライトは、『さぁ!』とフウに音頭を取られるがままに掌を地面に翳した。
次の瞬間、シライトの体は巨大な煙に包まれる。
煙の合間からは、期待が籠ったフウの瞳も見えた。
しかし、シライトはふと視界が揺らいだことを感じる。
(……ん? これって……)
得も言えぬ不安感を覚えたシライト。
その予感は的中してしまった。
「……あれ? あれれ?」
煙が晴れた途端、忽然と姿を消した友人を探し、挙動不審になって辺りを見渡すフウ。
―――彼女は知らなかったのだ。未契約の状態で時空間忍術を行使した時のリスクを。
「シ……シライトが神隠しに遭ったっす~~~!!?」
***
「へぶっ」
今迄感じたことのない流れを覚えながら身を任せていれば、シライトは突如、湿った地面と接吻する形で地面に落下した。
かなり湿った土だ。立ち上がろうと地面に手を着ければ、ぐにゃりと土が歪み、結果としてシライトはまたバランスを崩して倒れることとなる。
立ち上がるまで数度トライし、なんとか泥まみれで立ち上がったシライト。鬱蒼とした木々の群れ、そして濛々と立ち込める霧を目の当たりにし、頬を引きつらせる。
―――これは口寄せではなく、逆に口寄せされたのではなかろうか。
完全に予想外の出来事に焦燥を抱く。
その心情は、頬に張り付く霧が水滴となり、ツーっと汗のように流れ落ちる形で本人に自覚させる。
初めての時空間忍術で、まったく知らない場所に飛ばされた。
忍術も扱えぬ子供にとって、それがどれだけ恐ろしいことか。
(……どうしよう)
―――夕飯までに帰らないと、家族が心配する。
割と、彼は肝っ玉が据わっていた。
遠い目が見据えるは、自宅の食卓。今日のおかずはなんだったのだろうと、少しだけ空いてきた腹を擦りながら妄想する。
「おやおや。此処に人の童が訪れることがあるとは」
そんな時だった。
ヌルリとどこからともなく現れるかの如く、艶っぽい声が背後から響いてくる。反射的に振り返れば、そこには形の見定まらぬ靄が佇んでいた。
確かに靄は近づいてくる。
されど、それが何者であるのか、シライトにははっきりと見ることができなかった。
「……あのう……申し訳ないんですが……たきのシライトと言うんですが……道に迷ってしまいまして……」
「ほぉう。あちきの家に土足で上がり込むとんと礼節無き野暮かと思えば、名乗るだけの礼節は有り、と」
「……すみません……本当に……思いもよらぬ出来事だったもので……」
「ふふっ、そう考えるのが妥当。でなければ、この秘境とも言うべき場に、只の童が来ることなどできささんす」
靄が歩み寄ってくる。
すると次の瞬間、靄は一人の優美な花魁の姿に変貌したではないか。変化の術だろうか? それをシライトが知る手段など持ち合わせていないが、例えまやかしであったとしても、なんと美しい容貌だろう。
異性にほとんど興味を持ち合わせていない(そこもまた『ナメクジ』と称される理由であるが)性格の彼でさえ目を奪われる美女は、クツクツと笑い寄る。
「漸くあちきの“形”が定まったようでありんすな」
「……?」
「まあ、こういう喋り方であるのだから、そうなるのは致し方なし」
茫然と佇むシライトに、何かを納得する美女は、『こっちへ』と彼を手招く。
どうするのかと悩むシライトであったが、このままこの場に留まっても進展はないだろうと判断し、目の前の美女について行くことにした。
鬱蒼とした霧の濃い森の中、美女と少年が歩んでいく。
「主さんの境遇を思えば、蝦蟇のトコの自来也を思い出すでありんすなぁ」
「じ……その方は……どなたですか?」
「ふふっ、こっちの話。さぁ、お出でなんし」
自来也。
聞いたことのない名前だ。
どこかの界隈では有名な名前なのだろうか?
この不可思議な状況の中、呑気に思考を巡らせる―――というより、巡らせることにより平静を保っているシライト。
五里霧中。自分一人だけでは身動きすることすら憚られていたであろう状況の中、彼は目の前の美女に連れられるがまま進む。彼女が子供を攫う妖怪でなければいいのだが。
不安と共に、どこか達観した考えを持ったところで、ふと霧は晴れた。
「―――ようこそ、我が城“湿骨林”へ」
「……二人?」
霧が晴れた先の玉座らしき椅子にふんぞり返るのは、間違いなく自分を連れてきた花魁風の美女だ。
まさか双子なのか。至って冷静な思考のまま、先程まで美女が居た場所に目を遣れば、不敵な笑みを浮かべる美女が霧散する直前だった。
「……狐さんですか?」
「狐につままれている、と。安心しなんし。そもそも、今まで主さんが見ているあちきの姿は全て幻」
「……へ?」
「湿骨林に満ちる霧は、余所から来る者を拒むのみならず、足を踏み入れた者に幻術をかけささんす」
「……はぁ……」
「分からぬ、と言いたげじゃ。人とは形に囚われる生き物。全ての形は人間の偏見。主さんがあちきを花魁の姿と見定めたのも、あちきが廓言葉を使っているから。そうでありんしょう?」
「……あ……はい」
「……童にしては
余りにも口数の少ないシライトを見かねた美女は、パチンと指を鳴らして見せる。
すると、どこからともなく降って来た巨大なナメクジが、『お呼びでしょうか?』と可愛らしい声を上げた。見た目のおどろおどろしさとは打って変わって、少女のように高くも、澄んだ落ち着いた声だ。
「カツユ。その童の下へ」
「畏まりました、太夫」
「……だ……」
「む? おぉ、名乗らささんしたな」
『太夫』という言葉に目を丸めていたシライトに、自分が自己紹介していなかったことに気が付く美女。
その艶やかに潤った唇を歪ませ、目を三日月のように細めた彼女はこう言い放つ。
「―――あちきが、蛞蝓が秘境・湿骨林の主、人呼んで
***
かくかくしかじか。
「―――という感じです。ご理解いただけたでしょうか?」
「……なんとなく」
大蛞蝓仙人なる人物の自己紹介を終えた後は、同じく湿骨林に住まう大蛞蝓の一体『カツユ』による説明を一通り受けたシライト。大蛞蝓と言うだけあって、普通に里で見る蛞蝓よりはるかに巨大な体躯をしている彼女(そもそもナメクジは雌雄同体であり、性の区別はないことを付け加えておこう)だが、今の大きさでも本来の何千分の一にしかならないというではないか。
「……仙人様も……大きいんですか?」
「はい。大蛞蝓仙人は、その巨躯故、人と話す際は幻術で自分の姿を作ってみせています」
「……合理的手段と」
「それもありますが、仙人という高尚な地位に居る故、おいそれとは人前に出たくないという理由もあります」
「はぁ……」
やけに平然とナメクジと話していることに疑問を覚えつつ、シライトは状況を整理する。
ここは、蝦蟇の秘境・妙木山と蟒蛇の秘境・龍地洞に並ぶナメクジの秘境・湿骨林。本来ならば、外部の者が侵入できぬよう、幾重にも幻を見せる霧に包まれている秘境なのだが、未契約の状態で時空間忍術を行使してしまったシライトは、ランダムに空間を移動した挙句、ここにたどり着いてしまったという訳だ。
「……ここから滝隠れの里に帰るには、どうすればいいですかね?」
「滝隠れ……あぁ、木ノ葉と合同で中忍試験を行う里ですね。そこ出身なのですか?」
「はい」
「ここ湿骨林は雨隠れの里に近い火の国に存在します。ここから滝隠れに向かうとなると、歩いて……貴方が子供なのを鑑みると、三か月はかかるかと……」
「……」
「あぁあ! 安心してください。これも何かの縁。私が責任をもって里までご案内いたしますから!」
「あの……はい……ありがとうございます」
三か月。
その言葉を聞くや否や、シライトの双眸に影が差す。辛うじてカツユの優しい声に我に返ったが、ドアップのナメクジの顔面を前に一瞬肩が跳ねる。
不味い。三か月も行方不明となると、家族がこれ以上なく心配する。もしかすると何者かに攫われたと誤解され、トラブルに発展してしまうかもしれない。
いや、目の前で見ていてくれたフウが事情を説明すれば、口寄せの術の知識を有す忍者が状況を察してくれるかもしれないが、それでも行方不明と認知されることには変わらない。
「はぁ、主さんが仙力を身につけていれば、
「觔斗雲の術……?」
「雲に乗って移動する術のこと。その乗り心地の爽快たるや、天にも昇る快感でありんしょう」
「おぉ……」
雲に乗って飛ぶという浪漫ある術を口にする大蛞蝓仙人に、目を輝かせ感嘆の息を漏らすシライト。
しかし、一つ気がかりな部分もある。
「……その……仙力を身につけていないとどうなるんですか?」
「移動速度に耐えかねて四肢がもげささんす」
「お゛ぉ……」
次の瞬間には引いた声を上げてしまった。
例えるならば、豆腐を凄まじい速度で投擲すれば、的に当たるよりも前に速さに耐えかねた豆腐が自壊する感じだろうか。
「……地道に歩いて帰ります」
「まあ待ちなんし。童が三か月歩くには相応の準備があるというもの。どれ……」
肩を落とすシライトの下へ、ふったびヌルリと大蛞蝓仙人が近寄る。
と言っても、それは意図的に見せている幻の姿なのであるが、シライトが廓言葉から連想した花魁の姿をした彼女は、徐に手をシライトの頭に翳した。霧に濡れた濡羽色の髪は、雨天の下の烏を思わせる。
「ほう」
手を翳す大蛞蝓仙人は、何かに気が付いたのかニヤリと笑みを浮かべる。
「主さん、し……いや、フウという少女と友であるな」
「え……」
「何故知ってる? という顔をしているが、仙人のあちきにとって他人の心の内を除くなど容易いこと。平静を装っても、里の者を心配している考えは筒抜けでありんす」
「はぁ……」
「まあ、仙人でなくともチャクラさえあれば、他人の思考を読み取ることなど容易いもの……」
掌をシライトの頭から退ける彼女は、こう続ける。
「世にチャクラを広めた六道仙人曰く、チャクラとは人と人の精神エネルギーを繋ぐもの。この穢土に生まれ落ちた瞬間より、潜在する量が決まっている身体エネルギーとは違い、理論上は修行や経験で際限なく増え続ける精神エネルギーに彼は重きを置いていた。言葉を交わさずとも、人と人が……否、この世に生を受けた生き物全てがチャクラによって意思を繋ぐ。それが、六道仙人が広めた忍宗でありんす」
「……糸電話みたいなものですか?」
「まあ、そういう理解も有りでありんしょう」
「……有りなんですか?」
「理解の仕方は人それぞれ。他の“形”に置き換えて理解するのも人らしいと言うべきか……」
「?」
「いんや、こちらの話」
長々と語ってくれた六道仙人が広めた“忍宗”を聞いていたシライトは、あろうことか“糸電話”と置き換えた。
そのことを少しばかり可笑しいと言わんばかりに微笑む彼女は、口元を着ものの袖で覆いながら言葉を紡ぐ。
「で、そのフウという童だが……」
「はい」
ここで一拍。
それからにべもなく、彼女は言い放つ。
「―――殺されるぞ」
「え」
補足説明
・龍鯉丸
『NARUTO 滝隠れの死闘 俺が英雄だってばよ!(小説版)』に登場。本文にも記載の『龍神変化』という変化術を用い龍に変化し、相手の忍を呑み込むなど、物理攻撃で戦闘した巨大な錦鯉。人と話せる知能はある。契約者は里長ヒセンと、後の里長でありヒセンの息子であるシブキ。
・ヒセン
『NARUTO 滝隠れの死闘(ry』に登場する人物。男性。小説版においては、”英雄の水”なる秘薬を求めて里を襲撃してきた忍を相手取ったが、英雄の水を服用した反動で力尽き死亡した。
・ゼンジ
『NARUTO 滝隠れの死闘(ry』に登場する老爺。里長のお付き人で、かなりのご老体。小説版では、里に襲撃して来た忍に対し水遁、大瀑布の術を発動した。