向カイ風ニモ負ケズ   作:柴猫侍

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九. 弟子と言うよりは小間使い

 

「シライト。荷物を持て」

「……はい」

 

 ある時は荷物を担ぎ、

 

「シライト。お酌をしろ」

「……はい」

 

 ある時はお酌をし、

 

「シライト。ちょっと金を借りてこい」

「それはちょっと……難しいです」

「……それもそうか」

 

 金を借りに行かされかけもした。

 

「……トントン、僕は疲れたよ」

「ブーブー」

 

 師(?)の飼い豚であるトントンを撫でながら、一日を振り返る。

 民宿の部屋の角。酔った後にすぐ眠った綱手と、すやすや寝息を立てている姉弟子のシズネを横目に、シライトはどこか遠い所を見る瞳を浮かべていた。

 

 弟子入りして一か月。

 ロクに綱手に修行もつけてもらえないままだった。

 

 

 

 ***

 

 

 

「はぁ~、ちょっと肩を揉め」

「あ……はい」

「歳の所為か、最近肩こりが酷くてねぇ……まったく」

 

(……歳の所為より……胸の問題だと……)

 

 自動球遊器―――所謂パチンコの台の前に佇む綱手の後ろで、つま先立ちのまま彼女の肩を揉むシライト。

 肩こりに悩んでいるようだが、それは歳よりも豊満な胸による負担ではないかと考えるシライトだが、当人を目の前にしてサイズを口に出すほど失礼ではない。

 

「あー、いいねー。うんうん、大分いい感じに慣れてきたじゃないか」

「……ありがとうございます」

 

 恍惚とした声を漏らし、パチンコ台のハンドルを回す綱手。

 しかし、見ていて清々しいほどに当たらない。

 無情にも、ただひたすらに落ちるのみの銀色の玉。滝のように一定の流れを保つことのない玉の流れは、遊びに興じる者の意思に反し、ハズレの場所へと吸い込まれていく。

 

「だー! なんで当たらない!」

 

(全て……賭け運の悪さだと思います)

 

 騒ぐ綱手の後ろでシライトは、すでに悟ったような顔を浮かべ心の中で呟く。

 それから小一時間、肩もみをしながら綱手のパチンコに付き合っていたシライトであったが、結局彼女が当たる光景を見ることなく、店を後にすることになった。

 綱手の荷物を持つのは勿論シライト。

 彼女からしてみれば、いい小間使いなのだろう。

 師として何かを教えることもなく、この一か月間は雑用を押し付けるだけだ。

 なんとなく追い出そうとする高圧的な雰囲気さえ感じ取れるが、そんな姑にいびられる嫁の感覚を覚えていても、彼女へついて行くだけの価値はあった。

 

「医療忍術の基本術……掌にチャクラ集中させて、傷ついた部位に当てることで傷の治りを早くする。これを掌仙術って言うの」

「ほー……」

「あ、でも必要以上に流し込んだら、相手が昏倒するから気を付けるのよ?」

「はい」

 

 綱手の付き人・シズネの教えを受け、基本的な医療忍術『掌仙術』を学んでいる。

 暇を見つけては、人を治療する者としての知識を授けてくれるシズネの存在は、シライトが綱手という傍若無人な賭け狂いの傍に居続けるモチベーションとなっていた。

 シズネはああ見えて木ノ葉の上忍。選りすぐりのエリートなのだ。

 そんな彼女の言葉を聞きつつ、掌仙術習得に励む。

 対象は、綱手が先導となって立ち寄る賭場のある宿場町……そこの魚屋の生け簀で飼われている魚だ。可哀そうではあるが、一度瀕死にさせてから掌仙術で復活させるのである。

 成功すれば、穫れたてと見間違うほど新鮮な魚を食すことのできる一石二鳥な修行方法だ。

 

(でも……仙術チャクラを練るのとはまた違うし……)

 

 しかし、医療忍術は緻密なチャクラコントロールを必要とされる。

 緻密は緻密でも、仙術チャクラの練り方とも一味違う技術を要求されるため、シライトもまだ会得はできていない。

 

(鮎は犠牲になった……僕の掌仙術の修行の犠牲に……)

 

 小さく『ごめんね』と呟きながら作ったのは、鮎の塩焼きだ。

 ほどよく焦げた香ばしい皮と、絶妙に塩で味付けされた塩焼きは、釣りを趣味とし、釣った魚を調理してきた賜物だろう。

 

「はぁ~……魚ばっかじゃなくて、ささみとかで作れないのかい?」

「……頑張ってみます」

 

 夕方、民宿にて。

熱燗でひっかけている綱手は、ほろ酔いしながら鮎の身を摘まんでいる。

 文句は言っているものの、しっかり綺麗に骨から身を外して食べているあたり、不味いという訳ではないようだ。

 

(あんなにお酒飲んで……そんなに美味しいものなのかな?)

 

 綱手がパカパカ熱燗を飲んでいるのを目の前に、シライトは不思議そうな瞳を浮かべつつ、自分の分であり塩焼きをおかずに白米を食べ進める。

 仙力会得の際、湿骨林に伝わる八塩折の酒を飲んだシライトであるが、あれは厳密には酒ではない。体内の過剰な自然エネルギーに反応し、酒を飲んだ時のような酩酊を覚えるというだけのものだ。

 

 因みに、大蛞蝓仙人の修行の下で、嗜みの一つとして体内のチャクラをコントロールし、酔いをコントロールできるという技術を学んだことがある。現時点、それが役に立ったのは、悪酔いした綱手に無理やり勧められ日本酒を飲んだ時だけ。

 だが、将来人付き合いしていく上で、割と重要な技術なのかもしれないとも考えていたりもしている。

 

「綱手様……そろそろお酒はそのくらいにしましょ? 体にも悪いでしょうし……」

「何を言っている、シズネ! 酒は百薬の長だぞ!」

「薬も過ぎれば毒となる、です! 綱手様ぁ~」

「ええい、私はまだ飲むぞ!」

「あひィー!」

 

(……ホントに大丈夫なのかな)

 

 酒を更に仰ごうとする綱手と、それを阻止しようとするシズネ。この一か月間で既に見慣れた光景だ。

 

「ブーブー」

「……トントン、おいしい?」

「ブー!」

 

 シライトの横で、彼が用意した餌を貪っているトントン。

 内容にはご満足なのか、バネのような尻尾をピョコピョコ揺らし、喜びを表してくれている。

 癒しだ。

 酒と賭博に入り浸っている勝気な女と、行き遅れそうな女との生活の中で、動物との触れ合いはシライトにとって癒しとなっている。

 

(これが……アニマルセラピー)

 

 トントンとの触れ合いで、アニマルセラピーを実感する。

 一方、綱手たちはと言うと、

 

「私の酒が飲めないってのかい!?」

「あ、あひィ~……」

 

 酔った綱手に絡まれたシズネが、これでもかというほどに酒を飲まされていた。

 

―――大人の世界というものは、矢張り面倒なものなようだ。

 

 ひしひしとシズネの苦労を感じ取ったシライトは、自分の分の食器を下げに立ち上がるのだった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 そして翌日、事件は起きた。

 

「無い……無い、無い!? 無い無い無い!」

 

 民宿を出ようと支度するシライトとシズネを余所に、一足遅く起床した綱手が、何か探すかのような挙動で部屋を探し回っている。

 仕切りに、胸元と自分の荷物があった辺りを探す。

 時には、その豊満な胸の間に腕を突っ込み、まるでポケットを漁るかのようにゴソゴソとまさぐっているではないか。

 

「綱手様、どうしたんですか?」

「首飾りがないんだ!」

「えぇー!?」

 

 首飾りがないと騒ぐ綱手。どうやら、物を無くして騒いでいたようだ。

 事が重大であると理解しているシズネはともかく、具体的にどのような物であるのかさっぱりわかっていないシライトは、茫然と立ち尽くしている。

 

「首飾りって……あの……翡翠みたいな、柱状の……ですか?」

「そうだ! まさかお前が盗ったんじゃないだろうね!?」

「盗ってないです」

「……それもそうか。私が、お前みたいなトロそうなのに首飾りを盗られる訳がないな」

 

(……さらっと酷いことを言われた気がする)

 

 一瞬シライトを疑う綱手であったが、仮にも彼女は火の国でも有名な忍者だ。今は酒と賭博に入り浸っているものの、それなりの自負というものがある。

 目の前に居る少年に盗られるハズがない。仮に盗ったとするのならば、自分が寝ている内に民宿から逃げ出せばいいのだ。

 

 二日酔いで頭痛に苛まれながらも、暦戦の忍らしく頭を回した所でシライトが犯人でないと判断した綱手は、もう一度と言わんばかりに部屋中を探し回る。

 

「……大事なものなんですね」

「そりゃあ、あの首飾りは綱手様のお爺様の形見のような―――」

「くそっ、全然見つかりゃしない! こうなったら……昨日立ち寄った賭場、手あたり次第探しに行くよ!!」

 

 やはり首飾りは見つからなかったらしい。

 大切な首飾りを無くした綱手の焦りは二日酔いの頭痛にも勝るようで、頭を抱えながらも、大急ぎで外へ飛び出していく。

 

「あひィ……今日はゆっくり観光の予定だったのに……」

「旅なんて……そんなもんじゃないですかね」

「う~ん、確実に私の方が旅してるハズなのに、その説得力。一体なんなの?」

 

 飛び出す綱手に続くシズネとシライト。

 他愛のない会話をしながら、ヒールにも拘わらずすさまじい速度で走る綱手に置いて行かれぬよう、彼らも全力で足を動かす。

 

 パチンコ店を始め、丁半を興じれる賭場など、賭場だけでも五店。

 その都度、店員に落とし物が無かったか尋ねてはみたものの、どの店でも綱手の首飾りと思しき物はないと告げられた。

 

「くっ……やっぱりお前か!?」

「く、首っ、絞まってます……きゅう」

「綱手様~! 仮にも弟子の首を、往来のど真ん中で絞めないでください!」

 

 疑心暗鬼になった綱手が再び疑うのはシライトだ。

 どの店にも落ちていないとなると、可能性が高いのは、民宿で眠っていた夜に盗まれたというもの。昨日はかなりの量の酒を飲み、更には付き人のシズネも無理やり飲まされた挙句に寝落ちたことから、警備はガバガバだったと言える。

 そんな中、最も盗める可能性の高い容疑者は、弟子入りして一か月のシライト他ならない。

 だが、シライトは自身がやっていないことは他の誰よりも知っている為、首飾りが見つからない今は『やっていない』と弁明する他ない。

 

 綱手の馬鹿力で、骨が折れることを錯覚するほどの首絞めを受けたシライトだったが、シズネのお陰で九死に一生を得た。

 

 しかし、心当たりのある場所は全て探した。

 つまり、既に手詰まりといった状況であるということ。

 薄々察しているのか、綱手の顔からは悲壮感が滲み出ている。

 

―――どうしたものか。

 

 誰もがそう思っていた時、ふと、三人の中央で佇んでいたトントンがハッと顔を上げた。

 

「ブー!」

「ん? どうしたの、トントン」

「ブーブー!」

「え……あれは……ネズミ?」

「ブー! あ、ちょ……トントン!?」

 

 人混みからチョロチョロと姿を現したネズミに反応し、全力疾走でネズミの追跡を図るトントン。思わぬトントンの行動に、三人は流れるがままにトントンを追いかけていく。

 追手の存在を察知し、走る速度を上げるネズミ。

 だが、相手が悪かった。

 一人は伝説の三忍の一人。

 一人は木ノ葉の上忍。

 一匹は忍の走り回る速度に追いつける豚。

 そして、プラスαで仙力を会得している少年だ。プラスαのシライトだけは、普段は下忍の下レベルの身体能力しか有していないため、それほど脅威ではない。

 

 だが、他の二人と一匹は常人(常豚)離れした身体能力がある故、ドンドンネズミとの距離を詰めていく。

 

「あれは……財布?」

「ブー!」

 

 ふとシズネが、ネズミが咥えていた物が何なのか口にした。

 がま口財布。小銭がたくさん入っているのか、パンパンに詰まった物だ。それを容易く運ぶネズミ……やはりただのネズミではないらしい。

 

「成程……スリのために飼いならされたネズミって訳かい。つまり、あのネズミを追いかけて、飼い主の下に行けば―――」

「綱手様の首飾りがある! そういうことですね!? もしかして、あのネズミから綱手様の匂いを嗅いだのね、トントン!」

「ブーブー!」

 

 合点がいった。

 どうやら、トントンがネズミに反応したのは、その個体から綱手の匂いを嗅ぎとったかららしい。

 

「つ、まり……あのっネズミが……首飾り、を、盗んだ……とっ」

「シライトくん、大丈夫!?」

「情けない奴だ! それでも男か!」

 

 一人、今にも息絶えそうな表情で、必死に綱手たちを追いかけるシライト。

 まだまだ体力面は成長途上の子ども。歴戦の忍の全力疾走に追いつけるほどのスタミナと走力はないという訳だ。

 数メートル離れながらも、必死に食らいついているが、余裕は一切ない。

 

 それから一分ほど続いたネズミとの鬼ごっこであったが、終わりは唐突に訪れる。

 

「チュー!」

「むっ?」

 

 財布を咥えたネズミが、不意に歩いていた少年と思しき人物の懐に入り込む。

 商人なのか、背負う大きな籠の中には様々な物品が入っている。ツボであったり玩具であったり、ジャンルが統一されている訳ではなさそうだ。これから売りにでも行くのだろうか。

 しかし、ネズミが懐に入ったにも拘わらず、一切リアクションをとらないのは不自然極まりない。

 即座に瞬身の術で少年の目の前に現れた綱手は、般若の如き形相で、少年の胸倉を掴む。

 

「おい、ガキ!」

「な、なんだよ急に! 人の胸倉掴みやがって、コラ!」

 

 周囲の人々も怯えるほどの剣幕で詰め寄る綱手に、掴み上げられた少年は、気圧されながらもキッと睨み返す。

 そんな二人の間に、シズネとシライトは割って入り、『穏やかじゃない』と綱手を落ち着かせる。

 そうして下ろされた少年は、『ったく、なんなんだ!』と不機嫌そうに、着崩れた衣服を整えた。

 

「ブー」

「ん、なんだこの豚……って、うおぁ!?」

 

 だが、クンクンと鼻で何かを探っていたトントンが、少年の膝裏に突進し、膝カックンをしてみせた。それに伴い少年は仰向けにこけ、背負っていた籠の中身もバラバラと零れ落ちる。

 すると、その中に混じっていた巾着を器用に鼻で漁り、中から翡翠のような宝石がついている首飾りを取り出して見せた。間違いない、綱手の首飾りだ。

 

 それを見るや否や、綱手が、『あっ!』と声を上げる。

 

「お前がそれを盗ったのか!」

「な、なに言ってやがるんだ! 言いがかりはやめろよな! 他のと勘違いしてんじゃねえのか、コラ!」

「その首飾りの石は、この世に二つとない鉱石なんだ! 見間違えるわきゃないだろう! それに、豚の嗅覚を舐めるんじゃないよ!」

「な~にィ~!?」

 

 往来のど真ん中で口喧嘩する綱手と少年。

 場違い感があることを否めないシライトであるが、弟子という立場上、一人そそくさとこの修羅場を去る訳にもいかない。

 

 その後もシライトは、綱手と少年のギャーギャーとした喧嘩を眺めることになる。

綱手は、形見である首飾りを諦める訳がなく、一方で少年も自分の物だと主張を続け、一向に首飾りを渡す様子もない。

 あくまで、少年が持っていた首飾りを綱手の物だと判別できたのは、トントンの嗅覚のお陰だ。実際に犯行現場を見た訳ではないため、綱手も無理やり奪い取るような強硬的な手段には出ていない。もしかしたら、すでにどこかの質屋に売られていたものを、この少年が買い取っただけという可能性も否定できないからだ。

 しかし、持っていたのは事実であるが故、綱手の手が出るのも時間の問題と言ったところだろう。

 

 一触即発。

 いつ、綱手の拳骨が少年に飛ぶかも分からない。

 

「あ、あの……」

「「?」」

 

 思わず綱手と少年の間に割って入ってしまったシライトは、オドオドとした様子のまま、少年の方へ目を遣る。

 深く被っている笠の陰からは、血のように紅い髪の毛が覗いていた。

 こちらを見る眼力は子供とは思えない。

 だが、ゴクリと唾を飲み込み一呼吸おいてから、満を持して言い放つ。

 

「あの首飾り……この人の家族の形見なんです……」

「っ!」

「だから、その……盗んだとか、そういうのはそれほど大事じゃなくて……ただ返してほしいってだけで……」

「……ふんっ!」

 

 シライトの話に耳を傾けていた少年は、徐にトントンが咥えていた首飾りを分捕り、そのまま勢いよく彼の胸へ押し付けるように渡した。

 すると、『ちょっ……』と困惑するシライトにも目も暮れず、その後は散らばった物を籠へ回収し、鋭い瞳を三人と一匹へ向けてから一目散に走り去ってしまう。

 

「待て、こんのガキャぁー!」

「ま、まあまあ綱手様! とりあえず首飾りは見つかったわけですし、ね!? 落ち着きましょう!」

「ああいうガキは、いっぺん痛い目見なきゃ何度も繰り返すんだ! それに、一発拳骨かまさなきゃ、私の気も晴れないんだよ! 放せ、シズネェ!」

「あひィー! 綱手様に殴られたら、もれなく死んじゃいますよー!」

 

 首飾りが戻ってきても、収まらぬ怒りをまき散らす綱手。

 シズネは必至に殴りに行こうとする綱手を食い止めているが、シライトは神妙な表情で、強引に手渡された首飾りを見つめていた。

 

(あの時、一瞬……)

 

 脳裏を過るのは、『形見』とシライトから聞かされた際の、少年の悲痛な顔。

 

(なんでなのかな……?)

 

 

 

 ***

 

 

 

「チャクラをコントロールして、身体能力を向上させることができるのは知ってるわよね?」

「はい」

 

 改めて民宿から出かける支度を整える三人と一匹。

 その間、軽くシズネから講義を受けているシライトは、チャクラコントロールによる身体能力向上について聞いていた。

 仙術チャクラを練れている―――仙人モードが発動している間は、格段にパワーアップすることを知っているシライトにとっては復習のような内容ではあるが、聞いてみれば聞いてみるほどにチャクラは奥が深い。

 

「綱手様は、それを応用してあの馬鹿力を発揮してるわけなのよ!」

「誰が馬鹿力だ、シズネェ……」

「あひィ」

「私の力の話なんかどうでもいい。今日は、ねずみ石がある寺だとかなんとかに行くんだろ?」

 

 えっへんと得意顔で語っていたシズネだったが、綱手の一声で情けない声を発しながら肩を落とす。

 

 そんなシズネは置いておき、今日シライトたちが向かうのは、ねずみ石という小さな穴が開いた石のある寺だ。ねずみ石からは水が流れており、朝に飲めば長寿の効果が。夕方に飲めば若返りの効果があると、地元では言われている。

 効果については眉唾ものではあるが、この辺りの町では有名な寺であるため、観光に行ってみようと言うシズネの提案の下での出立だ。

 

(ねずみ……って言われると、昨日の子のこと思い出すなぁ)

 

 忙しない出立の中、シライトはふと昨日の出来事を思い出す。

 どこかひっかかりを覚える出来事だったが、さっさと先へ進んでいってしまっている綱手たちの姿に、一旦思考を中断させて足を動かす。

 

 

 

―――この時彼は、二度目の出会いが起こることなど、思いもしなかった。

 

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