向カイ風ニモ負ケズ   作:柴猫侍

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第四章 蛇と鶏
二十一. 脳筋ドクター&生臭坊主&ビッチ娘


「ったくよォ、しらたきも懲りねえなァ」

「……なにが……ですか?」

 

 道行くシライトとヒナイ。

 波の国を発って数か月、彼らは旅路を共にしていた。若い男女が一緒になって旅をする……二人の距離が縮まることがあると思いきや、そのようなことはない。

 性欲に乏しいシライトと男勝りなヒナイの性格から、二人の関係は友人以上になってはいなかった。

 

 そんな二人であったが、辟易した様子のヒナイが不服そうに物申す。

 

「行く先々で人助けして、全然てめェの師匠んトコつかねえじゃねえか」

 

 ヒナイの言葉に成程、と首肯するシライト。

 そう、シライトたちは彼の師である綱手の下へ向かって進んでいるのだが、道行く途中で困った人を見かける度、シライトは人助けしていたのだ。

 荷物運びから病の治療まで―――『病払いの蛞蝓綱手姫』と謳われた綱手よりも積極的に病を治すどころか雑用までこなす様に、ヒナイは素直に感嘆する一方で呆れにも似た感情を抱いていた。

 

 人助けには相応の時間を要す。

 その分、綱手たちの下まで辿り着く時間がかかってしまう。

 にも拘わらず、シライトは何度も何度も困っている人に手を差し伸べる始末。

 

 ヒナイ自身、世助けの旅に出てきた手前、今までは強く言えなかったものの、当初の目的を果たすのもままならないのは如何なものかと、このタイミングで口に出したのだ。

 

「ですけど……何て言うか……放っておくのも忍びないので」

「忍びないって……とことんお人好しだな、コラ」

「……一応……褒め言葉として受け取っておくことにします」

 

 少し申し訳なさそうに気落ちするシライトに対し、ヒナイはポリポリと頬を掻く。

 

「ま、人助けもほどほどにして綱手って奴に会いに行こうぜ。話はそっからだろ?」

 

 別に、ヒナイが綱手に会いに行く理由はこれっぽっちもない。

 ただ、師を待たせているシライトへの心配で提言しているだけなのだ。

 そんなヒナイを前に、無表情ながらも思案する様子を見せるシライトは、ウンウンと頷いて見せる。どうやら、一度綱手の下へ会いに行くことに決心したようだ。確かに今のペースでは、観光がてらあちこちの賭場を巡る綱手に会いに行けるペースではない。最終手段として、カツユに口寄せしてもらうという手があるが、わざわざ師を呼び出した後に自分を呼び出してもらうなど、失礼極まりない行為と言えよう。だからこそ、シライトは牛歩ながらも己の足で歩んでいたのだ。

 

 だが、その遅き歩みもここまで。

 

「少し……急ぎましょうか」

「よし来たっ!」

 

 忍者ではないものの、彼らはそれなりのチャクラコントロールできるものだ。

 身体強化して走れば、一週間もあれば火の国を横断することができる。

 

 その土地の風を、香りを、そして光景を楽しみながら人助けの旅も中々乙なものではあったが、一先ずは師の下へ。

二人の歩みは早くなるのだった。

 

 

 

 ***

 

 

 

「―――って、言った傍からこれかよ、コラ!」

「……すみません」

「ごめんなさいねぇ……お急ぎなのでしょうに、手伝ってもらって……」

 

 酒樽を肩に担ぐシライトとヒナイ。その二人の間には、壊れた荷台を引く老人が居た。

 この老人は、近くの町で酒屋を営んでいる人物。しかし、店で売る為の酒を運んでいる途中に荷台の車輪がイカレてしまい、困っていたのだ。

 そこへやって来たのが二人。

 お人好しなシライトは勿論、ヒナイも助けずには後味が悪いと運搬を申し出て、こうして担いで町まで運んでいるのだった。

 

 向かう先は、火の国の中でも田の国との国境に近い町だ。

 稲作が盛んな町なようで、普通に玄米や米、煎餅などを売っている他に、酒も製造しているという訳らしい。老人は、そんな町へ運ぶ酒を、町はずれの酒蔵から運んでくる途中だった。

 

「本当にありがとうございます……お礼に、お酒をふるまいますよ」

「すみません……僕十五歳なので、遠慮しておきます」

「オレぁこれでも坊主だからよ。酒は飲まないぜ、ばあちゃん。悪ィな」

「あら……そうなの?」

 

 礼に酒をふるまう気だったらしい老人であったが、相手が酒の飲めない人であると知ると、目に見えて落ち込んでしまった。

 手伝ってもらっているにも拘わらず、礼をできないことに罪悪感でも覚えているのだろう。

 

 そんな老人の感情を汲んだのか、シライトは『そうだ』と声を上げる。

 

「それでしたら……お酒を少し頂けませんか? 恩人にお酒が好きな方が居るので……」

「あぁ、そういうことでしたら喜んで」

 

 シライトの知り合いには酒豪が居る。

 一人は大蛞蝓仙人。そしてもう一人が、何を隠そう綱手だ。後者には酔った勢いで桜花衝を繰り出され、死にかけた思い出がある。余り進んで贈りたくはない相手だが、老人の気持ちを考えれば、酒をもらった上で恩人に贈ってあげれば、どれだけ優しい世界か。

 

 にこやかに笑う老人を前に、シライトもフッと微笑む。

 

 その様子を少し前から覗くヒナイは、自分が担ぐ酒樽を見上げ、ポツリと零す。

 

「酒ってうめェのかな……?」

「……飲んだらダメですよ?」

「の、飲まねえよ!」

 

 生臭坊主に片足を突っ込んでいるヒナイに、シライトは冷静に注意するのだった。

 

 

 

 ***

 

 

 

「ん~……な~んか、酒臭ェ町だなぁ……」

「お酒が有名とのことですし……」

 

 老人の酒樽を店に届けた後、数本ほど酒を一升瓶に入れて貰ったシライトたちは、今日の宿探しのために町を散策していた。

 酒の香りがあちらこちらから漂う。

 油断すれば、酔ってしまいそうになるほどだ。

 それだけ酒の香りが濃厚な町の中では、あちこちで盃を傾けている人々の姿が垣間見える。皆、ほんのり頬を紅潮させ、恍惚とした表情だ。

 

「昼間っから酒飲んで、大丈夫なのかねェ……」

「……まあ、土地柄の体質というのもありますし……例えば……一部の内陸部の人には、生海苔を消化できないです」

「マジでか」

「焼き海苔なら消化できるらしいんですが……先祖からの食文化は、そのまま現代の人々の体質に関係するという例……だと思います」

「ほー。じゃあ、ここらの人は酒に強ェーってか」

「どれくらい前から飲んでいるかにもよりますが……」

 

 ちょっとしたうんちくを話したシライトは、感心するヒナイを余所に、辺りを見渡す。

 酒が苦手な人には少々厳しい町かもしれないが、一年中酒臭い霧に覆われた湿骨林で修行していたシライトにとっては、この程度の酒臭さなど屁でもない。

 時折漂ってくる、煎餅に塗った醤油が焦げる香りに腹を空かせつつ、宿がないものかと目を右往左往させる。

 

 と、その時だった。

 

「いいじゃねえか嬢ちゃ~ん……ちょっと、俺とお茶してから楽しいことしようぜ~?」

「だ~めっ♪」

「いいじゃねえかよォ~」

「あんまりしつこいと嫌われちゃうわよ? うふっ。じゃあ、アタシはこのくらいで」

 

 酔った勢いでしつこく絡む中年男性を振り払い、一軒の店からすたこらさっさと出てきた人影。

 

 身に纏うのは、帯の代わりに薄紫のしめ縄で締めた、紺色の着流し。

 猫目の瞳は、少し切れ長で凛々しく、その色も相まって黄玉のように見える。

 少々癖のある水色の髪は腰の辺りまで伸び、酒の臭い漂う往来に、そこはかとなく花の石鹸のいい香りを振りまく。

 薄い唇は紅を塗っているのか、熟した林檎のように赤い。

 身振り手振りもいちいち艶めかしく、往来を行く男たちの目を惹き、その度に悪戯に微笑んでいる。

 

 美人と言っても差し支えないその者は、酒を飲んでいるのか少々たどたどしい足取りだ。

 すると、覚束ない足取りで進んだ後、不意に膝を落として倒れ込もうとするではないか。

 

 だが、寸でのところで駆け寄ったシライトが、倒れ込もうとした美人の手を取り、支えてみせる。

 

「……大丈夫ですか?」

「あら、ありがと。親切なのね」

 

 紅を塗った唇を半月のように歪ませ、美人は目を細める。

 

「……もしかしてお医者さん?」

「……見習いですが」

「そっか。アタシ、てっきりこのまま『介抱する』とか言われて、宿に連れ込まれてイケないことされるかと思っちゃった♪」

「……しません」

「紳士ね」

「そこは……医者と言ってもらえれば」

「うふふっ、冗談よセンセー」

 

 シライトより漂う薬草の香りで、彼が何者かを当てた美人。

 そのまま手を取られて立ったかと思えば、徐に彼と手を組んで、彼へもたれかかった。

 舐めるような視線。毒のように甘い香り。ふと髪を掻き上げた時にのぞくうなじの色っぽさなど、性欲の乏しいシライトでなければ、いちいち男性の下半身が反応してしまいそうな色気を遠慮なしに振り撒いている。

 これは治安の悪い町や村であれば、悪漢たちに襲われかねないだろう。

 

 そんな美人は、シライトへ医者(見習いではあるが)であることへの尊敬と、若干の揶揄いを含めたような口調で『センセー』と呼んでみせる。

 なんと反応すればいいものかとシライトが困っていると、生暖かい視線を送るヒナイの姿が目に映った。

 

「……どうすればいいですかね?」

「カイホーしてやりゃあいいだろ。別にオレぁ構わないぜ。持ち帰ってずっこんばっこんやっても文句は言わねえ」

「うふふっ、嫉妬? もしかして彼女さん?」

「「違います(違ェ)」」

「息ピッタリ♪」

 

 熱い吐息を漏らす美人は、シライトの腕を離れて、何故かヒナイの方に近寄る。

 

「男勝りなのね。サバサバした子、嫌いじゃないかも」

「は?」

「アタシ、受けでも攻めでもどっちでもイケるクチなんだけど……どう?」

「お、往来の真ん中でなんてこと言ってんだ、てめェ!」

 

 顔を真っ赤にして関係を迫る美人を突き放すヒナイ。

 彼女の師であるガマ仙人が見れば『お前が言えることじゃないのォ』と言うだろうが、こちらの美人は些か雰囲気が生々しすぎる。

 

 フェロモンに耐え切れなかったヒナイに突き飛ばされた美人は、『あぁ♡』と嬌声にも似た声を上げ、再びシライトの下まで戻ってきた。

 その際、彼の胸と腕で受け止められるが、その際に『はっ』と声を上げ、徐にシライトの腕を揉み始める。

 

「……あの」

「凄い……お医者さんって言ってたけど、ケッコー鍛えてるじゃん」

「いや……なんで……腕を……」

「腹筋も触っちゃうね? わぁ……すっごい! 顔に似合わずバキバキ!」

「その……揉まないでください」

「うふふっ、センセー。アタシ、センセーみたいなギャップすっごい好み……」

 

 潤んできた瞳で見上げ、漏れるような息遣いをしながら語る美人を前に、シライトは頑なに無表情だ。そのあたりは、ヒナイも感心して彼のことを見つめている。

 

 だが、面白くはない。

 他人がチヤホヤされている姿を見るとむかっ腹が立つのは何故なのだろうか?

 ヒナイは一度思案し、それが他人への嫉妬だと決めつけると、一度その場で精神統一を図り、気を落ち着かせる。

 

 あの美人はただの酔っ払いだ。

 そしてシライトは、酔っ払いに関わられている困っている人だ。

 ならば、助けようではないか。

 

「はいはい。ねえちゃん、そこらへんにしとけって、な? オレの連れも困ってっし……」

「あ、折角なら三人でどう? きっと夜が情熱的になると思うんだけど……♡」

「……は?」

 

 とんでもない爆弾発言をしなかったか、こいつ。

 ヒナイはそう思った。

 

 この時、ヒナイはとある言葉を思い出した。

 酒が人をダメにするのではない。酒は、その人の本性を暴くだけなのだ―――と。

 今目の前に居る美人は、酒に酔って本性を現した、いわば享楽主義の人間だろう。人生を楽しむことにつぎ込んでいると言い換えてもいいだろう。

 

―――楽しければなんでもいい。

 

 ゾッと、背筋を舐められたかのような悪寒をヒナイは覚える。

 要するにドン引きしただけだ。白昼堂々3Pを誘うなど、常人であれば思いつかない。

 

「すすすっ、する訳ねえだろコラ!! 頭沸いてんのか!?」

「んもゥ、つれな~い。じゃあセンセー……二人っきりは?」

 

 ヒナイを勧誘できなかった美人はジト目を浮かべ、頬を膨らませる。

 そのまま真後ろのシライトへ上目遣いをすれば、ピタリと体を密着させ、囁くように誘ってくるではないか。

 

 しかし、

 

「……すみません」

「そーだそーだ、言ってやれしらたき!」

「僕……そっちの気はないので……」

「貞操観念は大事なんだぞー……って、え」

 

 サッとヒナイの顔が青ざめ、尻もちをつく。

 

「……どうかしましたか? ヒナイさん」

「い、いや……なななな、な、なんでもねェ……いや、うん。色々あるよな、ああ。あ、安心しろよ……ダチとしてやってくにゃあ……うん」

 

 何かを取り繕うように、狼狽えながら視線を泳がせて喋るヒナイ。

 一方で、首を傾げるシライト。何故ヒナイがそこまで狼狽えているのか分からず、逆に彼も狼狽えてしまう。

 そんな混沌とした中、唯一平静を保っている美人は、にっこりと微笑む。

 

「もしかして……気づいてた?」

「……なにがですか?」

「ああ、ううん。そうね、医者って言ってたもんね」

 

 意味深に語る美人。

 一変する様子に、ヒナイは目を丸くする。

 

「なな、なんだってんだよ……オレぁもういっぱいいっぱいだぞ、コラ」

「はぁ~あ。この子は反応が単純で面白かったんだけど、センセーは気づいてたから、あんな淡白な対応だったの?」

「多分……それは元々の性格の影響が大きいかと」

「ぷっ。そう」

 

 狼狽えるヒナイの一方で、美人とシライトは淡々と話を進める。

 だが、未だに状況を呑み込めていない様子のヒナイを見かねたのか、にやにやと笑いながら美人が尻もちをつくヒナイに手を差し伸べた。

 

「立てる?」

「え、お、おう……って、なに二人で納得し合ってんだよ、コラ! 詳しく教えろ!」

 

 混乱したまま手を取るヒナイは、そのまま美人に持ち上げられるようにして立ち上がる。

 華奢な体に反し、体を引く力はそれなりに強かった。軽々しく立ち上がらせられたヒナイは、そんな美人にガンをつけ、真相を追求するように詰め寄る。

 すると美人は、深く深く、それこそ三日月のように唇を歪ませ、そっと口をヒナイの耳元に近づけて耳打ちした。

 

「アタシ……オ・ト・コ・の・コ♪」

「オトコノコ? オトコのコ……おとこのこ……男の子ォ!?」

 

 素っ頓狂な声を上げたヒナイは、堪らず美人の股間に手を当て、男ならばぶら下げているであろう一物の有無を確かめる。

 

 ムギュ。

 

 フニフニ。

 

 コリッ。

 

「あんっ♡」

 

 股間をまさぐられて嬌声を上げる美人は、恍惚とした表情で、未だ信じられぬと言った様子のヒナイに呟く。

 

「ね? ついてるでしょ」

「う、嘘だろ……?」

 

 世の中、どれだけ美しくとも男が居ると、ヒナイは改めて知ることになった。

 いわゆる彼女―――否、彼は男の娘だったのだ。

 

 

 

 ***

 

 

 

「アタシは『ミズチ』。よろしくね、センセー。ヒナちゃん♪」

「どうも……」

「男……男……?」

 

 美人―――ミズチが男であるとヒナイが知ってから、茶屋に寄った三人。

 依然としてヒナイは信じられぬものを見るかのような瞳でミズチの体を嘗め回すように見るが、その視線にミズチは頬を紅潮させ、口元を着流しの袖で覆う。

 

「やだ、ヒナちゃんったら……そんな熱い視線で見つめられたら照れちゃう」

「……てめェ、ホントに男なんだよな?」

「そうよ。生まれて十七年、ずぅ~っと♪」

「アレだよな。手術とかして、生やした訳でもないんだよな?」

「うふふっ、ちゃんと天然物なんだから」

 

(てんねんもの)

 

 ミズチとヒナイの会話の横で、茶を啜りつつミズチの『天然物』発言に目を細めるシライト。

 彼は以前、白を骨格で男性と見抜いたように、今回もミズチのことを男性と見抜いていた。

 だが、白よりも女性的な身振り手振り故、見抜くにもそれなりの時間はかかったことを、ここに追記しておこう。

 

 それにしてもミズチは色っぽい。

 茶屋にて彼が頼んだ白玉あんみつを食べる際の挙動にしても、髪が食べ物につかないよういちいち髪を掻き上げる動きや、唇についた黒蜜を舐め取る動きは、大人の女性のソレと言って過言ではないだろう。

 これは、騙される者が多くても仕方がない。もっとも、彼に自分を女性と間違えさせる意図があるのかは不明だが、先程の会話を鑑みるに、女性と勘違いした者をからかうことはするようだ。

 

(世界には、色んな人が居るんだなぁ……)

 

 しみじみと啜る茶は、いつもより渋い。

 

 

 

 閑話休題。

 

 

 

「それにしても、なんで女装なんてしてんだ……?」

「女装もなにも、アタシが好きな美的感覚にビビっとくるのがコレだっただけ。何を美しいと思うのかはアタシの勝手でしょ?」

「そりゃあ……そうだな」

「人の生き方って人それぞれだけれど、アタシは美しく生きたいの。もっとも、美しさの定義自体が人それぞれなんだけれどね」

「……おー」

「ま、あとは楽しく生きたい感じ? 折角の人生、楽しまなきゃ損じゃない」

 

 明るい口調で語るミズチは、あっという間に白玉あんみつを食べ終える。

 それから、茶を啜って口の中に残る甘さを流した後は、一息吐いて二人に視線を送る。

 

「それで、若い男女が二人で旅して、なにしてるの?」

「……強いて言えば……世助け……ですかね?」

「あら素敵。若いのに立派じゃん?」

「それほどでも……」

「ふ~ん……世助け、ねぇ」

 

 舐めるようにシライトを見つめるミズチは、常に弧を描く口をさらに湾曲させ、突然告げた。

 

「面白そうね。アタシも連れてってよ」

「……え」

「ううん、嫌って言っても付いてく。アタシ、今ちょっと変な人らに追われててね……」

「おいおいおい! 勝手に面倒事持ち込んできてんじゃねえよ、コラ!」

 

 ミズチの提案に茫然とするシライトの一方で、追手に追われていることを暴露する彼に声を荒げるヒナイ。

 しかし、数秒思案したシライトは、悩まし気に眉を顰めた後、決心がついたように真っすぐな瞳を浮かべた。

 

「分かりました……乗りかかった舟です」

「やった! センセー、素敵。抱かしてあげちゃう♡」

「……遠慮します」

「じゃあ、抱いてあげちゃう?」

「それもちょっと……」

「んもゥ、甲斐性なし。ヒナちゃん、フラれたアタシを慰めて~」

「慰めっか、コラ!!」

 

―――こうして、凸凹なトリオが完成するのだった。

 

 

 

 ***

 

 

 

「―――ミズチはどこに逃げた?」

 

 闇より声が響く。

 

「そう遠くには行っていないハズだ」

 

 木々を飛び移る音が響く。

 

「まあ、どちらにせよ……」

 

 布擦れの音が響く。

 

「音隠れを……いや、大蛇丸様を裏切った者には、死、あるのみだ」

 

 死の音が、歩み寄ってくる。

 

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