向カイ風ニモ負ケズ   作:柴猫侍

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二十三. お肌ツヤツヤの秘訣

 

「お疲れ様、クジャ」

「はい。では、失礼致しますわ」

 

 ミズチの労いの言葉を受けて煙と化して消えるクジャ。

 音忍六呂衆から逃げ去った三人であったが、連れてこられた二人は何かを問いたいかのような瞳をミズチへ向けている。

 

「……おい、てめェ」

「ん? なーに、ヒナちゃん」

「なんであんな変な奴らに追われてるか、訊こうじゃねえか」

 

 剣呑な雰囲気を身に纏わせ、ミズチに詰め寄るヒナイ。

 そんなヒナイの様子に、ミズチは笑顔を崩さぬままやれやれと首を振る。

 

「やっぱり気になっちゃう?」

「ったりめえだろうが! こっちの命に係わっかもしんねえんだからな、コラ!」

「そういう訳なら仕方ないわね。まあ、道すがら話すわ」

 

 やけにあっさりと話すことを了承するミズチ。

 そんな彼に続きながら、二人は耳を傾ける。

 

 鬱蒼と生い茂る林の中、どこへ続くかも分からない道を突き進みながら……。

 

「そうね……最初に話さなきゃいけないのは、アタシが大蛇丸様の弟子ってトコからかしら」

「……その人は、一体どなたなんですか?」

「あら、知らない? 結構有名なんだけど。もしかして、火の国の生まれじゃない感じかしら」

「滝の方です……」

「そ。それなら仕方ないわね。大蛇丸様は、彼の伝説の三忍……自来也、綱手に並ぶ人のことよ」

 

 ミズチの挙げた名前に二人が反応する。

 

「綱手様と……?」

「ガマ仙人とか?」

「知り合い?」

「「師匠です(だ)」」

「あら! すっごい奇遇。なんか、運命的なものを感じちゃうわね……♡」

 

 本人たちが認知せぬところで、伝説の三忍の弟子たちが集っていたことに驚きを隠せないミズチ。

 再び舐めまわすかのような視線で二人を見つめるが、ヒナイの引きつった顔を目の当たりに、いい加減で話に戻る。

 

「で、アタシが弟子になった経緯は、大蛇丸様の器になる実験体の一人だったんだけれど、中々いい器かもしれないって大蛇丸様に見込まれてね……一実験体から、色々施しを受けるようになってね」

「お、おい! 実験体ってなんだコラ!?」

「そのまんまの意味よ。ま、そんなに気にしないで」

「気にするだろ普通」

「んもゥ、ヒナちゃんの知りたがり♪ 好奇心は猫を殺しちゃうわよ?」

「オレぁ猫じゃねえ!」

 

(そんな生物学的な話ではないと思います、ヒナイさん……)

 

 声を荒げるヒナイの横で、心の中でツッコミを入れてみるシライトであるが、内心平静ではない。

 実験体とは穏やかではない話だ。

 綱手と同格の人物であるらしいことから、どれだけの人格者かと思いきや、綱手とはまた別のベクトルで危険な人物であることが分かってしまった。

 

―――命を実験に用いるとは、倫理的に許せる行為ではない。

 

 自然とシライトの眉間には皺が寄る。

 だが、ミズチは実験体であった過去を重く感じさせぬ軽い口調で、言葉を紡いでいく。

 

「まあ、かいつまんで話すとするなら……大蛇丸様は永遠の命を欲しがっててね。でも、生き物は普通寿命で死ぬじゃない? だから、同じ体で延命するより、精神だけ生き続けて体は新しいのに取り換えようっていうベクトルの研究になった訳。アタシは、その新しい肉体―――とどのつまり器に見出された一人ってこと」

「とんだクソ野郎だな、大蛇丸ってのァ……」

「んふっ♡ でも、お陰様でやりたいことの幅が広がったから、結果的には感謝してるわよ。ま、暗い実験場にまた押し込まれるのもヤだから、こうしてブラブラ歩いてるんだけどね」

 

 腰を振りながらそう語るミズチ。

 その仕草だと、ブラブラしているのは“玉”の方であるが、敢て二人は口にしない。

 

 だが、今の話で一通りの事情は察した。

 視線を交わして首肯する二人の内、ヒナイは己の胸をドンと叩いて見せる。

 

「ん~……まあ、なんだ。可哀そーな過去があるってのァ分かった。そんなら、オレにどんと任せておけ!」

「あら、男気ある……♪ カッコいいわ、ヒナちゃん」

 

 クスリと一笑するミズチ。

 

「自来也って人も、そんな感じなの?」

「ん、ガマ仙人か? ……どうだろうな、あのスケベ爺は」

「へぇ~……スケベ」

「な、なんだよ。師匠っつっても、そんな知ってる訳じゃあねえぞ? ほんのちょっと忍術教えてもらっただけだしな」

「ううん、そうじゃないの。アタシ、大蛇丸様に似て好奇心旺盛でね……」

 

 徐に手をヒナイの肩に置くミズチは、そのまま撫でるように手をヒナイの二の腕、肘、そして手へ滑らせていく。

 かなりのソフトタッチ。

 スキンケアも欠かしていないようなミズチの手で撫でられれば、それこそ絹に触れたような触り心地であろうが、余りにも滑らかな触り方をされてしまい、ヒナイの腕には鳥肌が立ってしまう。

 

 そんな様子の彼女を見かねて手を引くミズチは、こう続ける。

 

「自分の中にある知識欲を満たしたいの。例えば、このモノは幾らなのかとか、このお酒はどんな味なのかとか、この人と情事を重ねたらどう気持ちいいかとか……特に最後のなんて、とってもプライベートなことでしょ? 些細なことでもなんでも知りたい。知れば知るほど、アタシに何かが満ちていく……そんな感覚が堪らなく大好き♡」

 

 二股に裂けた舌―――スプリットタンをチロリと出し、舌に埋め込まれたピアスを覗かせるミズチの瞳は、まさしく蛇のように鋭い。

 

「大蛇丸様は、知識欲が旺盛な人だわ。でも、その知識欲が忍術に全振りだから、飽き飽きしちゃったの。でもアタシはオールマイティに知りたい。だ・か・ら♪ ヒナちゃんのこと、たくさん教えてね?」

「お、おぉう……?」

「もちろん、センセーもね♪」

「……ある程度なら」

「アリガト♪」

 

 困惑する二人の様子に満足したのか、ミズチは嬉々とした様子で翻り、キャピキャピしながら拳を掲げて『おー♪』と声を上げる。

 

「さ! 次行ってみよー♪」

 

 

 

 ***

 

 

 

 三人がたどり着いたのは、なんの変哲もない小さな村だ。

 しかし、村全体がどこか活気に満ち溢れている。何か祭りでも行われているかのような慌ただしさだ。

 

「……なんなんでしょうね?」

「祭りなら大好きだぜ、オレぁ」

「うふふっ。折角だし、村を散策してみましょ」

 

 十中八九、悪い出来事が起こっている訳ではなさそうな村の散策を始めようとする三人。

 しかし、そこへ一人のガタイのいい中年男性が、三人を目にするや否や嬉々とした表情で駆けつけてくる。

 

「ちょいちょいちょい、アンタ!」

「「「ん?」」」

「そこの紅い髪の……お坊さんだよな!?」

「お、オレか? まあ、一応坊主だが―――」

「そりゃあちょうどよかった! ちょうどお坊さんが居ないか探してたトコなんだよ!」

 

 ヒナイに用事がある男性。

 首を傾げる彼女に、男性は満面の笑みを浮かべながら続ける。

 

「実は、もうすぐうちの娘が結婚するんでな……村を上げて結婚式を挙げるんだが、戒師をしてもらえないか!? もちろんお礼はする!」

「かかか、戒師だとォ!? しかも、結婚式のか!?」

「お、おう……? すまない、突然の頼みで混乱するのは分かるんだが、ここからだとお坊さんを呼ぶのに町へ行くにも大変でな」

「まぁかせろィ!!」

「本当か!? いやぁ~、助かる……いや、助かりますよー!」

 

 突然、結婚式の戒師をするよう頼まれたヒナイであったが、何故か興奮気味に男性の頼みを了承した。

 

「……村を上げてとのことですが……良いお家柄で?」

「ん? いや、まさか! ただ、この辺りは田舎もあって、ほとんどの家が親戚みたいなもんでな!」

「あー……成程」

 

 田舎あるある―――近所がほとんど親戚。

 滝隠れの里にて世帯数が多い『たきの』姓のシライトにとっては、理解する事が容易な事象である。

 つまり、今回村を上げて祝われる結婚式は、特段良家であるため派手に行う訳ではなく、親戚によるどんちゃん騒ぎのようなものなのだろう。

 

「……というか……ヒナイさん」

「ん、なんだコラ?」

「戒師……やったことあるんですか?」

「ねえ!」

「……ない、と」

「ああ。でも安心しろ! 鼠ノ寺はアシュラ宗の流れ汲む寺だが、大体火の国のポピュラーな宗派とほとんど変わらねえよ!」

「……心配しているのは宗派の違いじゃなく……やれるかどうかなんですが……」

「できるって! 和尚の仕事、ちゃんと見てたからな!」

 

 『大船に乗ったつもりでいろ!』と胸を張るヒナイだが、正直不安しかないシライトだ。

 ヒナイが結婚式の戒師をしている姿を想像できようか? いや、できない。

 しかし、既に受けてしまった依頼をはねのけるのも忍びないだろう。見ず知らずの他人とはいえ、幸せに水を差すのは如何なものか。

 

 シライトはただ、ヒナイが立派に戒師を務めあげることを願うしかない。

 

 一方、ミズチはというと、

 

「結婚……素敵ね!」

 

(あれ……僕だけノリ気じゃないのがおかしいのかな)

 

 身内ならば兎も角、他人の結婚式にここまで興奮する二人を目の当たりし、自分の感性を疑い始めるシライト。

 ここにカツユが居れば、多少彼女の賛同を得られたであろうシライトのハズだが、生憎彼の連れは色恋が好きな年ごろの女子と、女のような感性を持った男子だ。

 

 決してシライトが冷淡なのではない。寧ろ、二人は他人の色恋沙汰に過敏なだけなのだ。

 

「アタシも、是非なにか手伝わせてほしいわ!」

「おっ、ありがとうなお嬢さん!」

「うふふっ、お世辞がお上手♪」

 

 完全にミズチを女だと思っている男性は、笑みを浮かべて手伝いを申し出るミズチを前に、鼻を伸ばしている。

 新婦の父親がそれでいいのかと言いたくなるが、シライトがグッと堪え、意気揚々とするヒナイに声をかけた。

 

「僕……なにかすることありますかね?」

「食い過ぎと酔い止めの薬でも作っときゃあいいんじゃね?」

「……わかりました」

 

 賑やかになるであろう結婚式を前に、シライトは今日一日、食べすぎと酔い止めの薬を作る羽目になったのだった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 草木も眠る丑三つ時。

 三日月が夜空に浮かぶ頃、颯爽と彼は林の隙間を縫って走っていた。

 しかし、突然彼は足を動かすことを止める。

 

 すると、彼の周囲に六つの人影が現れたではないか。

 

「どういう心変わりだ、ミズチ?」

 

 太鼓を持った男・断金が、現れた美男子・ミズチへ向けて怪訝そうに声をかける。

 

「ようやく、大蛇丸様の下に帰る覚悟ができたんだろう」

 

 勝絶が続く。

 

「ふんっ、賢明だな」

 

 得意げな声色で、双調も続ける。

 

「……同意」

 

 落ち着いた口調で、双調に同意する黄鐘。

 

「まぁ、本人がその気なら楽ちんだし」

 

 飄々と盤渉が、篳篥を回しながら続ける。

 

「楽の極み」

 

 最後に、上無が締める。

 

 この真夜中、なんとミズチは音忍六呂衆の下へ自ら向かっていたのだ。

 今頃村にて寝泊まりしているシライトやヒナイにはなんの相談もせず、たった一人で。

 

 普通に考えれば自殺行為であるが、相手が殺害ではなく確保を目的としているため、殺されることはない。そうはいっても、大蛇丸の実験は人の生死を問わぬものが多いことは、音隠れの忍者にとっては周知の事実だ。

 音隠れは、つい最近砂隠れとの同盟により木ノ葉に戦争を仕掛け、多大な被害を被った。

 元々新興の隠れ里である音隠れは、優秀な血継限界や忍の一族の引き抜き、そして他ならぬ大蛇丸の実験にて強化された者が多いものの、忍としての練度で木ノ葉の優秀な忍に一歩届かぬところもあり、返り討ちにされた者も少なくない。

 

大蛇丸様()()の候補である立場を理解したならば、早々に戻ってこい」

「……そうだわ」

 

 音隠れにとって、ミズチは重要な実験体の一人だった。

 なにせ、彼は―――。

 

「結婚式には、やっぱり雅楽隊よね。華々しい音楽がなきゃ、式が映えないもの」

『……は?』

 

 全員が素っ頓狂な声を上げた。

 まるで何のことを言っているのか理解できない。

 

「ミズチ……お前は一体なんの話を」

「ううん、大した話じゃないの。ただ、今泊ってる村で式が開かれるから、どうせなら雅楽隊に演奏してもらって、華々しい感じにしたいなーって♪」

「……ミズチ、貴様……!」

 

 プルプルと振るえる断金。

 しかし、憤慨しているのは彼だけではない。他の五名も全員、ミズチの馬鹿馬鹿しい考えに憤慨しているようであり、青筋を立てる代わりにうなじの辺りから異様な紋様を浮かび上がらせる。

 

「リンチにされに来たみたいじゃねえか」

「だったら私らがやってやる!」

「……うん」

「後悔すんなよ」

「多勢に無勢。愚かの極み」

「―――“天”の呪印持ちだからと、俺たちを舐めすぎだな」

 

 直後、六人の姿が異形へと変わる。

 月明りの下では、黒く変色したようにしか見えぬ彼らの肌。実際、黒に変化している者も居るが、赤や茶など、いずれにせよ常軌を逸した肌色だ。

 そしてなにより、六人全員の頭部からは大なり小なり角が生えている。

 まさしく鬼の如く容姿へと変貌した六人は、彼らの主たる大蛇丸に与えられた呪印を用い、状態2へと己を昇華させたのだ。

 

 莫大に上昇するチャクラ。

 量だけであれば、上忍にも匹敵するであろう。

 

 しかし、そんな六呂衆を前にしても、ミズチは余裕を崩さない。

 

「“仙人化”……ね」

「そうだ。この呪印を携えた忍が量産された暁には、忍び五大国と言えど、音隠れを看過できぬものとなるだろう」

 

 凶悪な笑みを浮かべる断金。それだけ彼は、今の姿に自信があるのだろう。

 

 だが、

 

「ぷっ。今のままじゃ、どう頑張っても重吾の猿真似なのに、どうしてそこまで優越感に浸れるのかしら」

「……なんだと?」

 

 鼻で笑うミズチに、いら立ちを隠さない面々。

 そんな彼らにむかって、ミズチは言葉を続ける。

 

「重吾の―――龍地洞出身の一族の仙人化でさえ、蛇の仙人モードのまがい物。力を渇望して、精神を自然エネルギーの奔流に飲まれたカワイソーな一族の、亜流の仙人モードよ」

「それがどうした? 力であることには変わりはない。お前も呪印を授かっている身だ……この力に満ち溢れる感覚、分からない訳ではないだろう」

「ホンットだめだめね~。折角の痛気持ちいいんだから……―――もっと気持ちよくならないと!」

 

 刹那、ミズチの体から水色のチャクラがあふれ出す。

 それはいつの間にか、蛇の如くうねり始め、周囲の者へ警鐘を鳴らすかのようにシューッ、と啼き声を上げ始める。

 そして極めつけは、ミズチ本人だ。

 浅黒く変色していく体には、次々と鱗が浮かんでいき、最終的には額から天を突くような一本の角が生え、人の手を模したようなおどろおどろしい翼が背から生えたではないか。

 

 目の周りには、紫色の隈取。

 それは、六呂衆全員が敬愛する主である大蛇丸の隈取そっくりのものだった。

 

「ま、まさか……仙人モードと仙人化を同時に―――!?」

「重吾の酵素は自然エネルギーを自然に集める。そして、それを元に大蛇丸様が刻んだ呪印は、練ったチャクラに反応して、自動的に周囲の自然エネルギーを収集する! 呪印の痛みなんて、異形と化すのを体が拒んでいるだけの拒絶反応なの。でも、大切なのは痛みも受け入れること……」

 

 バッと翼を広げるミズチ。

 辺りには旋風が吹き荒んだかのような強風に包まれる。

 

 大蛇丸でさえ会得できなかった仙人モードを、存分に扱っている様子のミズチを前に、断金は震えた声を漏らす。

 

「やはり天才か……ッ!」

「うふふっ……そうよ。蛇の仙人モードは“天才”を選ぶの。肉体が弱ければ、蛇の莫大な生命エネルギーを受容できず、精神が弱ければ自然エネルギーに飲まれて狂暴化する。根性論の蛙と、理論的な蛞蝓とは根本的に違うの!」

 

 目を細め、紫色の唇を長い舌で舐めまわすミズチは、一旦高揚を抑える。

 

「……呪印による自然エネルギー収集。“伝異遠影”による仙人化の完全なコントロール……かつて六道仙人は、投身を図ることで古い体を捨てて、仙人へ昇華したと言うのよ。だからアタシは、この術を“羽化登仙(うかとうせん)の術”って呼んでるの♪ 異形こそ、蛇の仙人モードの神髄よッ!!」

「っ……それで? まさか、状態2の俺たちと戦おうと言うのか?」

 

 臨戦態勢に入る六人。

 各々の武器―――楽器を構えたが、そんな彼らに言い放ったミズチの言葉は衝撃的だった。

 

「アタシのお願い聞いてくれないなら、体に言うこと聞かせるしかないじゃ~ん? 流石のアタシでも、お外で七人は初めてかも……♡」

 

―――ゾッ。

 

 まさか。

 まさか、コイツは。

 

 察してしまった六人は、自身の穴という穴がキュッと引き締まることを錯覚した。

 忘れていた訳ではない。ミズチという人間が、気に入った者であればノンケでも構わず食べてしまう人間であり、男女関係なくイケるクチであることは。

 

「か、かかれッ!!!」

 

 六人は立ち向かう―――貞操を守るために。

 

 

 

 結果は惨敗だった。

 

 

 

 ***

 

 

 

「……ミズチさん」

「ん? なァに?」

 

 滞りなく終わった結婚式。礼服と言った礼服もないため、そのままの服装で参列していたシライトは、満面の笑みで新郎新婦を見送ったミズチのとある変化に気が付き、恐る恐る声をかけた。

 

「……なんで、肌がツヤツヤなんですか?」

「え、そ~う? う~ん……たくさん精力貰ったから、かな♪」

「はぁ……」

 

 やけに肌がツヤツヤのミズチに理由を聞いても、はぐらかされたような気しかしない。

 だがシライトは、急遽結婚式にやって来た謎の仮面雅楽隊が、全員内股で覚束ない足取りで村から去っていった光景を目の当たりにしてから、心の奥底で『もしや』と考えていた。

 

 深く聞いたらイケない気がする。

 何故なのだろうか。今になって、急に故郷のフウの顔が脳裏を過る。

 ヒナイとは別のベクトルで活発な少女であったが、今、自分の身の回りに居る者達と比較すると、かなり真面で魅力的な人間に思えてきた。会いたくて堪らない。会いたくて体が震える。震えているのは、主に目の前の美男子の所為ではあるが。

 

 それは兎も角、これが郷愁なのだろうか。

 猛烈に滝隠れに逃げ帰りたいと、シライトはミズチの笑顔を見ながら考えた。

 

 そんな時、ふぃ~と額の汗を拭うヒナイが、依然として式場に残っている二人の下へやって来る。

 

「お~う。まだここに居たのか? 新婦の親父さんがよ、『折角だから家に来て飯どうだ?』って誘ってくれたぞ、コラ!」

「あら、いいじゃない。幸せ一杯分けてもらおっと♪」

「……あんまり搾取し過ぎちゃいけませんからね」

「ん? なにを……かな?」

「諸々です……」

「善処するわ♪」

「お願いします……」

「なんの話してんだ、てめェら……?」

 

 

 

 ***

 

 

 

 少し村から外れた丘で、とある六人はたそがれていた。

 下半身の痛みを忘れるためには、どうしてもこうするしかないように思えたからだ。

 

「なあ……」

「んー?」

「……俺たち、雅楽隊で食っていかないか?」

「……んー」

「右に同じく」

「……同意」

「おーう……」

「……うん」

 

 今日、一つの夫婦が新たな門出を祝う一方で、色々奪われた六人は忍を止めて、雅楽隊として活躍するようになるのだが、これはまた別の話……。

 

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