二十五. 行けたら行くは基本行かない
「はぁ……はぁ……はぁ……!」
息を切らした少女が、鬱蒼とした木々の群れの間を潜り抜けていく。
鮮やかな黄緑色の髪は木漏れ日によって明るく照らされる。彼女の女性にしては豊かな筋肉美を誇る褐色肌の体も同時にだ。
しかし、その肌には深い切り傷などの細かな傷が無数にあり、少女の顔色も悪かった。
血の零れる脇腹を手で抑え、痛みに顔を歪める少女の名は『フウ』。
滝隠れの里の忍であり、七尾の人柱力でもある少女だ。
普段の快活な笑みも、この切迫した状況では浮かべることができないのか、フウはただただ滝隠れのある里の方へと走る。
しかし、そんな彼女に襲い掛かる影が二つ。
「ひゃっはァ!!」
「ッ!」
横より飛び出てきたオールバックの男が、フウに目掛けて大鎌を振るう。
腰から生える翅の飛行能力により、辛うじて致命傷を避けることができたフウであったが、また一つ、彼女の柔肌に傷が刻まれた。
だが、すでに脇腹にもらっている傷の痛みのせいで、その一撃の痛みはさほど感じることができない。
痛みとは危険信号のようなもの。痛みを感じないことがすでに、フウが危機的状況にあることを示しているのであるが、生憎フウにはそこまで考えが回らなかった。
回避したまま、大鎌を持つ男から逃げ去ろうとするフウ。
そこへもう一人の男が、腕を伸ばして彼女を捕まえようとした。
だが既に印を組んでいたフウが、口から日光を受け光輝く鱗粉を吐き出す。
「秘伝・鱗粉隠れの術!」
「むゥ!?」
眩い光が森を包む。
あまりの眩さに目がくらんだ二人。
チカチカとする視界が元に戻った時には、もうフウの姿は彼らの前から消え失せていた。
「……取り逃がしたようだな、飛段」
「取り逃したのはてめーだろうが、角都」
互いに名を呼び合う男たち。
彼らは“暁”。
今まさに、人柱力―――正確には彼らに宿る尾獣を収集しに、各国を巡る犯罪集団だ。
***
「はぁ……友達……百人……」
とうとう疲れと痛みに耐えかねたフウが、木の根元に腰を下ろす。
空を見上げる瞳は焦点があっておらず、今にも倒れてしまいそうな、そんな危うさを彼女は孕んでいた。
「せっかく無理言って中忍試験出たのに……友達……できたのに……これじゃあ、百人できる前に死んじゃいそうっス……」
ガクリと肩を落とすフウ。
先程腰を下ろしたばかりだというのにも拘わらず、地面にはすでに血だまりができている。
早々に処置をせねば失血死してしまうだろう傷。
しかし、処置さえ億劫になってしまうほどに、フウは気力を削がれてしまっていた。
「眠ったら……元気になるっスかね……?」
『―――……ウ』
「五分……五分だけ……」
『フウ……おい、フウ』
「ふにゃ?」
頭に響く声に辛うじて意識を保ったフウは、刹那、景色が暗闇一色になることを錯覚した。
これは現実ではない。精神世界―――いつも七尾と語り合う心の中の光景だ。
体の痛みも忘れて見上げれば、いつも通りの七尾がそこに佇んでいる。虫然としている姿形であるため、表情がどのようなものであるかは常人には理解し難いものの、今日に限ってフウは、彼の様子が手に取るように分かった気がした。
「心配してくれてるんスか、七尾」
『ラッキーだったな、俺が居て。でなけりゃ、お前はこのままおっ死んでたトコだったぜ』
「……みたいっスね」
カラっと笑うフウに、七尾はため息を吐く。
『……ラッキーだぜ、フウ。今日の俺の気分はいつもと違う。少しばかり力を貸してやってもいい』
「ホントっスか!?」
『人が死ぬのは縁起が悪いからな。フウ、
「了解っス!」
自分の危機を案じていつも以上に力を貸してくれると豪語する七尾に目を爛々と輝かせるフウは、彼に言われた通りの術を発動するべく、現実世界では朦朧とした意識の中で印を結んでいく。
そして結び終えると同時に、胸の内よりじんわりと、それでいて粘着質なようなチャクラが全身に満ち溢れる感覚を覚えた。
―――蛹化の術。
刹那、フウの体の至るところから放たれる糸状のチャクラが、フウの体を包み込んでいく。
その光景は、さながら羽化のために眠りにつく蛹。
淡い光を放ちながらフウの体を包み込む糸状のチャクラは、物の数分で、傷ついた彼女の体を包み終えた。
するとどうだろうか。
突然、フウを包み込んでいた蛹の表面に亀裂が入り、中から少々ねばついた液体を纏うフウが、怪我一つない綺麗な体でどっこらしょと這い出てきたではないか。
「ふぃ~……助かったっス」
息を吐くフウは、自分の体の動きを確かめるように軽く伸びをする。
チラリ、と背後にある自分の抜け殻を見て、『こんな感じなんスねー』と呑気の感想を垂れつつ、傷がないことも今一度確認した。
―――問題はなし。
暁の手先の者達につけられた傷は癒えた。
これならば、滝隠れの里に帰還できる可能性がグッと向上するだろう。
“蛹化の術”は、蛹となって体の傷を癒す術。羽化した体には、蛹になる直前まで受けていた外傷などを完全に完治することにより、傷一つない綺麗なものへと変化する。
しかし、蛹になるということから、回復中は一切抵抗ができない。
この術を用いる時は、それこそ黙っていれば死ぬしかない傷を負った時のみの、イチかバチかな場面だ。
『よし。さっさとズラかるぞ』
「オッケーっス。ケゴンとヨウロウの命を無駄にしないためにも……」
中忍試験の帰りでの襲撃。
目当ては人柱力たるフウだった。
それを察し、中忍試験に下忍として護衛について来てくれていた上忍二人は、暁二人を食い止めるべく立ち向かっていったのだが、現実は無常。
暁二人が執拗にフウに攻撃を加えていることが、二人の結末を暗に示していた。
そのことに顔に影が落ちるフウ。
しかし! と、彼女は次の瞬間には笑顔を浮かべた。
「皆の下に帰ゔッ……!?」
突如、発音がままならなくなった。
熱い、胸の―――心臓の辺りが。
口の端から垂れているのは、血だ。
何が何だかわからぬまま、フウが胸元に目を遣れば、何も刺さっていないのにも拘わらずぽっかりと穴が穿たれた光景が目に入った。
血は鼓動に合わせて溢れ出す。
ドクン、ドクンと。その度にフウの命の灯火が小さくなっていく。
「れれ……? おかしい……スね……あっし、ぁ……」
『フウ! しっかりしろ、フウ!』
「し、ちび……あ、しのこォ……しんぱい……し―――」
長年連れ添った相棒が見せてくれた心配に、嬉しそうにほほ笑んだフウ。
だが、現実はまったく穏やかでもなんでもなく、一人の少女の命を無残にも奪おうとしているのだった。
***
「ったく、ひでー目に遭ったってのォ」
「悪かったってばよ。オレもわざとじゃねーんだからさ」
「それで殺されそうになったワシの身にもなってみろ」
ブツブツと文句を垂れる自来也の横に並ぶのは、黒とオレンジが基調のジャージを身に着けているナルトであった。
木ノ葉崩しから約二年半。
ナルトは師である自来也の下で身も心も成長し、忍としての実力も格段に向上した。
なのだが、忍としての威厳など一切ない。
幾ら成長したとはいえ、まだまだ十代。直情的な根っこの部分はそのままとでも言おうか。
そんなナルトと自来也は、木ノ葉隠れの里を離れて修行の真っ最中。
忍としての心構えについてのいろはや、自来也直伝の忍術を教えてもらうなど、伝説の三人を知っている者であれば喉から手が出るほどの貴重な経験を積んでいる。
特には互いに死にかけることもあったものの、それも今となっては思い出の一つだ―――笑えはしないが。
「それよりエロ仙人。オレってば、そろそろ腹が減ってきたってばよ。ラーメン食いに行こうぜ」
「お前は腹が空けばラーメンラーメンと五月蠅いのォ。この世にラーメン以外に旨いものなんぞ山ほどあるだろう」
「それでもオレはラーメンが好きなんだってばよ! 一日三食ラーメンでもバッチコイだ!」
(こいつ、いつか高血圧で死ぬんじゃねえのォ?)
ラーメンを熱望してやまない弟子を前に、自来也は彼の塩分過多による高血圧を案じる。
忍がラーメンの食べ過ぎによる高血圧が原因で死ぬなど、笑い話ではない。余りにも情けなく、自来也としてもすでに故人のナルトの両親に顔向けできない。
だが、こんなバカな弟子でも長年連れ添えば可愛いものだ。
かつての弟子を彷彿とさせるナルトを前に呆れたように笑う自来也は、『分かったってのォ』と渋々ラーメン屋へ向かう。
適当に探すこと十数分。
それっぽい店を見つけた自来也は、ナルトと共に暖簾をくぐって店の中に入る。
部屋に充満する空気は熱く、一瞬息が詰まりそうになるものの、すぐさま鼻腔を擽る食欲そそる香りに否が応でも腹が空く。
「へへッ、なーににしようっかなァ~!」
「まったく、いつまで経ってもガキだのォ……」
「―――あ、ガマ仙人」
「「ん?」」
自来也に向けて言い放たれたと思しき声に、思わず二人は声が聞こえた方向へ目を向ける。
するとそこには、三人仲良くカウンターに並んでいるヒナイ、シライト、ミズチの三人が居るではないか。
「なんだ、お前らもここで昼飯食ってたのか。奇遇だのォ」
「世間って狭いな、コラ」
「……ご無沙汰しています」
「こんにちは、自来也様♪」
各々の反応を見せる三人に対し、店に入った自来也たちも自然に彼らの隣に並ぶように席へ腰かける。
こうして彼らと出会うことも二年半ぶり。
以前は、大蛇丸と戦った後での遭遇であったが、あの時よりも三人はより大人びた雰囲気を纏っているように窺える。
特に、
「なんだ、ヒナイ。おめー随分立派に育ったのォ……!」
「このエロ仙人が、コラ」
下心丸出しでヒナイの胸元に目を遣る自来也に、ヒナイが額に青筋を立てて苛立ちを顔に出す。
法衣の上から出もはっきりとわかるたわわに実った胸。
脱げばスゲーことになるってのォ! と興奮する後ろでは、ナルトが軽蔑の眼差しを師へと向けていた。昔からこうだが、流石に弟子にもそういう目を向けるとは思っていなかった
いや、しかし思い返せば“おいろけの術”で女に変化したナルトを見て、即弟子入りを認めていたではないか。
ナルトは遠い場所を見るような瞳を浮かべつつ、現実逃避するように店主に味噌チャーシュー麺を注文する。
そして、少しばかり自来也の隣には座りたくなくなったため、ミズチに一個横に移動してもらい、シライトとミズチに挟まれる形で席に着いた。
熱気の満ちる空間だが、店員に差し出されたお冷を飲めば、喉にひんやりとした爽快感が突き抜ける。
これだ。ラーメン屋にて、熱々のラーメンが来る前にひとまずキンキンに冷えたお冷で喉を潤す。このプロセスがあるからこそ、ラーメンを最大限に楽しめることができるのだ。
だが、ラーメンが来るまではまだ時間がある。
ナルトは自然と横に二人に会話を振っていた。
「なあ、しらたきの兄ちゃん。前、こんな綺麗なねーちゃん居たか?」
「……そう言えば、あの時ナルト君は寝てたね」
「あの時?」
「綱手様が五代目になるとかなんとか言った頃……」
「……あぁ、あの時か! そういや、エロ仙人が懐かしい奴に会ったって言ってたけど、しらたきの兄ちゃんたちだったのか!」
「はい」
大蛇丸との激闘後、ぐっすり眠っていたナルトは、彼が眠っていた間に綱手と自来也の下に訪れていたシライトたちの詳細を知らない。
シライトとヒナイの二人に関しては波の国で出会っているが、波の国からの間に出会ったミズチの存在をナルトは知らないのだ。
綺麗と告げられたミズチは、実に嬉しそうにほほ笑んでいる。
「あら、ありがとう」
「おう! オレ、うずまきナルト! 火影になるのが夢だってばよ」
「そうなの? 凄いわね」
「へへッ! ……あれ、そんな喋り方する奴に会ったことがあるようなないような……」
「気にしなくてもいいのよ。後、アタシはお姉さんじゃなくてお兄さんだから」
「え゛っ!?」
ミズチが男であることに驚愕し、思わずシライトの座っている方向へ飛びのくナルト。
そう、彼はこう見えても竿と玉を股の間にぶら下げているのだ。
白を彷彿とさせるような美人の男の存在にデジャブを覚えつつ、ナルトは『マジかよ……』と暫し放心状態である。
そう言えば、自来也は一切このミズチに反応していなかった。師匠の性格を鑑みれば、彼にも反応してもおかしくはないハズだが、ナルトが知らない内に出会い、尚且つ男と知っていたとするならば辻褄は合う。
「世界は……摩訶不思議だってばよ」
「そうですね」
ナルトの驚愕に同意するシライトは、お冷を飲んで喉を潤す。
「……ナルト君は……ここで何を?」
「ん? ああ、オレか。オレはエロ仙人と一緒に修行の旅に出てたんだってばよ!」
「修行に……」
「おう! しらたきの兄ちゃんたちは何してたんだ?」
「まあ……旅だけれども」
もごもごとバツの悪そうにまごつくシライトに、ナルトは怪訝そうに眉を顰める。
そんな彼に助け舟を出したのはミズチだ。
至極おかしそうに微笑む彼は、首をかしげているナルトにこう話す。
「アタシたち、二年前から滝隠れの里を目指してるんだけれども、行く先々でセンセーが人助けに勤しむものだから、まだ里に着けてないのよー」
「えっ!? 二年も前からって……しらたきの兄ちゃん、かたつむりじゃねえんだから」
「……」
返す言葉もない。
そう言わんばかりにシライトは硬直し、黙り込んでしまう。
そうなのだ。以前綱手に里帰りを提案されたシライトであるのだが、二年以上たっても里に着かない。理由は至極単純。シライトが旅先で見つける困った人を助けるものだから、時には長期間滞在し、またある時には里とは逆方向へ進むこともあった。
お人好しなのも考えもの。
そうからかうような笑みをミズチに向けられたシライトは、更にバツが悪そうな顔を浮かべ、空になったお冷の入っていたコップに口をつける。
「しらたきの兄ちゃん、それはどうかしてるってばよ」
「……はい」
「オレ、しらたきの兄ちゃんの家族とか知らねえけど、帰ろうって思ってることは知り合いなりなんなり居るんだろ? なら、一回くらい帰らないと心配してるってばよ」
「……はい」
年下に説教されるシライトは、最早ブロークンハートだった。
流石に堪えたのか、徐に面を上げた彼の瞳には強い意思の光が宿っている。
「……次は帰ります」
「そう言う奴に限って帰らないんだってばよ……」
「……」
呆れた面持ちのナルトに、シライトは得も言えない表情を浮かべていた。
ここから全力で走れば、滝隠れには三日も経たずに到着する。
たったそれだけの距離。なのにも拘わらず、いつまで経っても帰られないのは何故だろうか?
今一度思案するシライト。
その時、ふと脳裏を過ったのは里に居る一人の友達の笑顔だ。
(フウ……)
六年などあっという間だ。
自分が人並みに男らしくなった一方で、彼女もまた女らしく育っていることだろう。
互いの成長の変遷を見ることは叶わないが、一度帰って彼女と話をしたい。旅をして何を見たのかを語り合いたい。
きっと、彼女は嬉々として耳を傾けてくれる―――そんな確信があったから。
この足が、心が逸り、今すぐにでも駆け出したい気持ちを何と言えばいいのだろうか。
とにかく会いたい。
フウにも、家族にも、子どものときから過ごしていた故郷へと帰りたい。
ようやく決心がついた。
「……すみません、ミズチさん。ヒナイさん。食事が終わったら、すぐに滝隠れに向かってもいいですか?」
「ええ、アタシは構わないわよ」
「んあ? オレも別にいいけど……」
「……ありがとうございます」
突然その気になって帰郷を提案するシライトに、二人は特に否定することもなく受け入れる。
彼らにとっても、明確な行先はない旅路だ。
向かう場所がどこであろうが、別段問題はないという訳である。
連れの快諾を得られたところで、シライトは『早速』と言わんばかりに席を立つ。
「しらたき。そう急いでも仕方ねえだろ、コラ。一先ず座れ」
「……はい」
しかし、ヒナイに窘められ、彼はしょぼんとした表情で再度席につくのだった。
***
「ふぃ~、食った食ったァ! 腹一杯だってばよォ!」
「……ナルト君。ラーメンのスープを全部飲み干していたけれど、ラーメン一杯に含まれている塩分量は一日の摂取量を軽く超えています……健康を考えるなら、スープは残した方がいいと」
「えぇー!? ラーメンはスープを飲み干してこそだってばよ! それに! 残さず食ってくれた方が、作ってくれたおっちゃんとか喜んでくれるじゃんか!」
「……それも……そうですね」
「折れるなよ」
ラーメンの塩分について説明するシライトであったが、並々ならぬ熱を込めてラーメンを語るナルトを前に、医学的観点など払いのけられてしまう。
そんな弱腰なシライトにツッコみを入れるヒナイだが、彼女の立場的にはナルト寄りだ。
例え塩分が多かろうと旨い物は旨い。
幼少期、腹八文目も食事を摂ることができないことも多かった彼女にとって、物を残すなど言語道断。出された物は全て食らう。それが彼女のモットーだ。
「アタシは、スープ飲んだ分動けばいいだけの話だと思うわ」
因みにミズチは中立だ。
その時の気分で、残すか残さないか決めるようである。
「昔はともかく、今はキツイのォ……」
自来也は年齢的な問題で、胸やけしそうな食べ物は全般避けたい様子。
そのように呑気に話す五人は、途中まで道が同じという理由で並んで歩いていた。
旅は道連れとも言う。折角の機会、会話に花を咲かせるのも悪くないと、談笑していた五人。
ゆるり、ゆるりと時間は過ぎる。
風向きが変わったのは、深い林道を歩んでいた最中のことだった。
林の奥より忍び寄る音。
咄嗟に振り向けば、そこに佇んでいたのは血みどろの姿の忍が一人。額当てに描かれた紋様は滝隠れの忍を表すもの。
「こ……木ノ葉隠れの……自来也様とお見受け致します……」
血みどろの忍は、息も絶え絶えとなりながら、血色の悪い顔で必死の形相を作り、吐き捨てるように言葉を発する。
「わたしは……滝隠れの上忍……ケゴンと申します。滝隠れと同盟国たる木ノ葉隠れの者とお見受けしたあなたに……ただちに頼みたい事が……!」
脱力し、その場に崩れ落ちてしまうケゴンと名乗った男の下へ、アイコンタクトをとった五人が駆け寄る。
医者であるシライトが真っ先に治療にあたった。
騙し打ちの可能性も考えられたが、シライトは彼の姿に見覚えがあったのだ。
よく、フウを迎えに来ていた忍の一人。
そんな彼が瀕死の状態になっているとは、よい予感はしない。
無言で治療に徹していると、その甲斐あって顔色が良くなり、呼吸も整ってきたケゴンが、顔を歪めて言葉を紡ぐ。
「先日……木ノ葉と砂の合同で開催された中忍試験……わたしたちはその帰りでした。ですが、襲撃に……ぐっ!」
「敵は一体?」
自来也が問えば、ケゴンは脳裏に焼き付いた悍ましい光景を思い出す。
「“暁”」
「っ……!」
「その者らに……我等と共に居た一人が狙われて……!」
「誰だ、その狙われた者とは?」
いつになく神妙な面持ちを浮かべる自来也に、ナルトも静かに話を聞こうと耳を傾けている。
「―――フウ。滝隠れの……下忍です」
「!!!」
シライトの目が見開かれ、彼の異変に気が付いた他の者達が反応する。
ここまで彼が動揺を露わにすることなど、未だかつて見たことが無かった。
心なしか、“掌仙術”を用いている彼の手が震えているようにも見える。
しかし、自来也はあえて質問をシライトに投げかけず、引き続きケゴンの話に耳を傾けようとした。
「何故、その下忍が狙われたのか見当は付いているのか?」
「それはっ……」
そこまで口に出し、言葉を続けることを躊躇するケゴン。
だが、自来也は既に提示されたキーワードから、大方の予想はつけていた。
彼自身、極秘裏に調査していた“暁”という名の組織の目的。彼らが狙う理由と言えば、
「人柱力なんだな。その子は」
「っ! ……」
「無言は肯定と捉えるぞ」
そこまで自来也が言えば、ケゴンは苦心に満ちた表情で頷く。
一方で、初めて人柱力という言葉を聞いたシライト、ヒナイ、ナルトの三人は首を傾げる。
只一人、ミズチだけは険しい表情で、分かっていない三人へ視線を投げかけた。
「人柱力……少しだけ聞いたことがあるわ。忍び五大国と滝が有している膨大なチャクラの塊たる魔獣―――尾獣を体に封印している人のことだって」
「それってば……」
ナルトは何か心当たりがあるかのように言葉を漏らした後、自分の胸の辺りの服をギュッと握る。
すると、ナルトが言葉を続けるよりも前に、自来也がいかにも真剣な様子で全員を見渡し、口を開いた。
「これはワシらだけでどうすることもできない問題だってのォ。ワシが頼まれた以上、これは木ノ葉と滝……両方が関わらなきゃいけない問題だ。そのフウって子を探すにしろ……既に囚われていると仮定するならば奪還せにゃアカンが、迅速かつ的確な対応が必要だ」
目を鋭くする自来也は吼える。
「すぐに木ノ葉と滝に連絡する! ここからは一分一秒が勝負だ!」
―――命がかかっている。
直接自来也は口にはしないものの、そういった雰囲気を嫌というほど感じ取ったシライトは、自身の手にいつも以上に力がこもっていることを自覚した。