向カイ風ニモ負ケズ   作:柴猫侍

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二十八. 紡ぐ糸

(仙人モードと創造再生……それにフウへの網療治夥。……悠長にしてられない)

 

 身構えるシライト。

 真面に戦うことなど、綱手以外にはほとんどない。しかし、やらねばならぬ時が今だ。

 しかし、シライトが気にしていたのは制限時間だ。元々チャクラ量に特別秀でている訳でもないシライトにとって、“百豪の印”にてチャクラを補ってはいるものの、仙人モードと他人への治療を行いながらでは、すぐに枯渇しかねない状況と言える。

 

 狙うは短期決戦。

 間の抜けた格好で壁にもたれ掛かっている飛段の下へ、シライトはもう一度拳を振るう。

 

 すると、拳から放たれた衝撃がまたもや飛段へと襲い掛かり、『ぶはッ!?』と飛段が悲鳴を上げることとなる。

 

 仙人モードでのみ放つことのできる“桜花衝”の発展技、―――“桜花裂衝”。

 自然エネルギーが術者の一部となることで、拳撃の勢いをそのまま軌道上に居る相手に伝えることができる技だ。

 遠距離攻撃の手段に乏しいシライトにとっては、遠方に居る相手に対しての貴重な攻撃手段である。

 

「でっ! あ゛ぁ!? チックショォ―――! わけわかんねえ攻撃しやがって!」

「っ!」

 

 次々と身に降りかかる衝撃に吐血しながらも、飛段は瓦礫に埋もれていた陣へと戻ろうと必死に駆けだす。

 それを目の当たりにしたシライトは、させまいと何度も“桜花裂衝”を放つものの、不死身ではないかと思うほどの耐久力を持つ飛段は、嵐のように降りかかる攻撃に構わず、陣へ足を踏み入れた。

 

「さっきはなんで死ななかったのか不思議だが……今度こそジャシン様の供物にしてやるぜェ!」

「っ……ぐっ!」

 

 再び適当な槍を取り出し、今度は自身の二の腕に突き刺す飛段。

 次の瞬間、シライトが今まさに振るおうとしていた腕の二の腕部分から出血したではないか。痛みに耐えかね、攻撃を絶えさせてしまうシライト。怪我自体は“忍法・創造再生”によりすぐさま治るものの、そう悠長に事を構えられるものではない。

 

「おらおらおらおら! これでも死なねえのか!?」

「っ……」

「死なねェェェエエ!! こいつを殺したら、きっとジャシン様大喜びだよ、こりゃあよォ!!!」

 

 絶え間なく自傷行為に走る飛段の一方で、シライトの体も次々に傷つき、みるみるうちに癒えていく。

 ここまでやられれば、流石の戦闘慣れしていないシライトでも、飛段と自分の体がリンクしていることには気が付いた。だが、どうやってリンクしているのかは未だ見当つかない。

 

 このままではじり貧だ。いずれチャクラが尽きて、やられてしまうだろう。

 しかし、それではフウを治療するためのチャクラがなくなることと同義。

 早々に決着をつけなければ、シライトにとっては敗北に等しいのだ。

 

 傷ついては癒え、傷ついては癒え―――それを繰り返しているシライトの周りには、血の海が出来ている。

 このままではいけない。

 シライトは必至に活路を見出すべく、飛段をじっくりと観察する。

 その時、ふと気が付いた。

 

(……なんでわざわざ変な模様の上に立っているんだ……?)

 

 飛段の足元。

 赤い絵の具―――血―――で書かれた謎の陣。最初は気が付かなかったが、ああも見栄えよく立たれていると、逆に不自然に感じてしまう。

 そう気が付くや否や、シライトには先程飛段が何をしていたか思い出した。

 自分の攻撃を喰らっても尚、あの陣の中へ戻ろうとしていたではないか。

 その時、“桜花裂衝”を彼は喰らっていたのにも関わらず、その攻撃についてのダメージはシライトに反映していなかった。

 

 一つの手がかりを得た瞬間、不可解な点が次々に浮かんでくる。

 

 そんな時、シライトの脳裏に一つの作戦が浮かんだ。

 

(なら―――)

 

 徐に印を結び始めるシライト。

 口寄せ以外印を結ぶのが致命的に遅い彼の姿を前に、飛段は恍惚とした笑みを浮かべつつ、自傷行為を続ける。

 

「ゲハハハハァ! なにするんだ、今度は!? オレは今でもムチャクチャ痛ぇーんだぞ!?」

「づぅッ……!」

 

 激痛に次ぐ激痛は、シライトの集中力をかき乱す。

 痛みに歯を食いしばり、自然と出てくる涙を零しつつ、それでもシライトは印を結び終え、グッと上体を反らした。

 

「仙法溶遁……」

「あぁ? せんぽー?」

 

―――酸酢川(さんずがわ)!!

 

「おぉ!?」

 

 頬を膨らましたシライトが、反らした上体を戻す勢いで吐き出したのは、得体のしれない液体だ。

 一見、水遁に属する術のようにも見えなくもないが、シライトは“溶遁”と口にした。

 

 それはつまり、溶かす術であるということ。

 

 “呪術・死司憑血”にて、相手の血を体内に取り込んだ上で陣の上に立ち、相手の肉体と自身の肉体をリンクさせていた飛段は、不死身の肉体も相まってか、“避ける”という選択肢を取ることがなかった。

 

「お゛……おおおおおお!!?」

 

 迫りくる濁流の如き水―――とは言っても、膝が浸からない程度の高さの津波に、足を踏ん張ることしかしていなかった飛段は、途端に足に力が入らなくなり、ガクンと膝から崩れ落ちてしまった。

 何事かと己の足元を見遣れば、そこには皮膚が、そして肉が溶けて骨がむき出しになっている。

 

「い、いでええええ!? なんじゃこの痛みィ!! 初めての感覚だぜェェエエエ!」

 

 溶ける痛みを初体験したと叫ぶ飛段は、足が溶ける激痛に悶えながら喜んでいた。

 シライトにとっては理解し難い感覚だが、飛段は酸の海に溺れつつ、シライトの方へどす黒い眼差しを浮かべる。

 それもそうだ。自分をこのような目に遭わせた怒りと、相手が自分とリンクしていると知っているかどうかは分からないが、わざわざ自分にこのような再起不能の傷を与えたのだ。

 

 勿論、相手も自分と同じ地獄を見るような目に遭っているハズだとばかり、飛段は考えていた。

 

「……あ゛?」

 

 だが、飛段の考えは外れていた。

 足が溶け、骨がほとんどむき出しになっている自分と違い、シライトは五体満足ではないか。しかも、“忍法・創造再生”によって傷一つない綺麗な体へと戻っている。

 

―――なぜ、ナゼ、何故!?

 

 不可解な状況を前に混乱していた飛段だったが、ハッとして自身の腕に目を遣れば、吸い込まれそうな黒色の肌は元の色に戻っているではないか。

 

「はああああッ!!!?」

 

 声が裏返るほど叫ぶ飛段の一方で、シライトは彼の足元に目を遣る。

 

(狙いは……地面を溶かすこと)

 

 赤々としていた陣は、“仙法溶遁・酸酢川”による綺麗さっぱり溶かされ消えていた。

 そう、シライトの狙いは始めから足下の陣であったのだ。かろうじて水遁も使えなくはないシライトだが、はたして本当に自分が繰り出す程度で、岩肌に書かれた模様を消せるのだろうか―――そのような不安から、“忍法・創造再生”で多少の無茶はできるとだけあって、溶遁にて模様の消去を試みた。

 無論、特別な一族ではないシライトは、普通の溶遁は使えない。

 

「見事」

「ふぅ……うまくいきましたね」

 

 ノソノソとシライトの袖から出てくる二匹の生き物。

 口寄せした二匹の口寄せ獣である、ムカデのタンバとナメクジのカツユの協力なければ成り立たぬ術だ。

 彼らの毒と酸を混ぜて放つ水遁が、“仙法溶遁・酸酢川”の正体。

 二匹がミニマムなサイズだからこそ、足が少し溶ける程度で済んだものの、もっと巨大な状態で放てば全身もれなく溶けてなくなることだろう。

 

 だが、狙いは陣のみ。

 必要以上の攻撃は必要ないと判断したシライトの考えが、飛段の足を溶かす程度で済ませたのだ。

 

(これで大分楽になる……)

 

 相手の足を封じ込めることには成功した。これでロクに動けなくなるだろう。

 そう考えたシライトは、追撃を警戒し、飛段の下へ一歩ずつ歩み寄っていく。

 足を溶かされて立てない飛段は、それでも立ち上がらんと、大鎌を杖代わりにしつつ、膝立ちで歩み寄ってくるシライトへ吼える。

 

「こんなもんでオレは殺せねえよ! オレは不死身だ……足溶かされようが、這いつくばってもテメーを殺してやるぜェ!」

「……!」

 

 歩み寄る間、飛段による罵倒は延々にシライトへ向けて言い放たれる。

 ダメだ。この人間は自分には理解できない頭をしている。なんとなくだがそう察したシライトは、自身の拳を眺め、どうするべきは今一度思案した。

 

 だが、ある一言が洞窟内に響きわたる。

 

「そっちの女みたいに殺してやるよ、ゼッテーによォォォオオ!!」

 

 爪が肉に食い込み、血が流れた。

 かつてないほど感じた怒りに、思わず拳に力が入り過ぎてしまったのだ。

 

 しかし、シライトの面持ちはとても穏やかであった。哀しそうに歪み、哀れみの目を以て飛段を見下ろす。

 

「そう……ですか」

 

 そう呟いて飛段の目の前に立つシライト。

 それを見計らい、飛段が大鎌を振るったが、袖の中に居たムカデが大鎌に絡みつき、彼の攻撃を中断させる。

 徐に飛段へ手を翳したシライトは、あろうことか“掌仙術”のような光を放ちつつ、飛段に体に触れた。

 

「あ……なにしてんだ、テメー?」

「……」

「なんだなんだ!? オレにお情けかけようってか!? あれか、もうてめえの勝ちだから見逃してやろうって魂た―――」

 

 シライトの不可解な行動に嘲笑するかのように声を張り上げていた飛段であったが、自身の体に起こる変化に言葉を失う。

 

「な、なんじゃこりゃあああ!?」

 

 体が徐々に、軟体動物のように柔らかくなっていくではないか。

 次第に皮膚の表面には粘液らしきねばついた液体も滲み出し、手足も退化するかの如く縮んでいく。

 それだけならばまだよかった。

 辛うじて動かせるか確かめるべく腕を見遣れば、浸食するかの如く石化し始めていたのだ。

 

「……“仙人衝(せんにんしょう)”」

「あぁ!? なにしやがったんだ、てめェ!」

「……掌仙術の療養で、自然エネルギーを込めたチャクラを体に流し込んでいます」

「自然エネルギーだァ?! クソ! なんだこの術……!! あぁ、ジャシン様の御加護を受けたオレの体が!」

「……あなたは先程、自分のことを不死身と言いましたね……死なないとも」

「それがどうした!? そうだ! オレはジャシン様の使者だ!! 一に殺戮二に殺戮、三四に殺戮、五に殺戮!! 殺しこそが救いとするのがジャシン教なんだよォ!!」

 

 ナメクジの体へと変貌する最中でも、大声を張り上げて叫ぶ飛段を前に、シライトはため息を吐く。

 徐々に石になる体。

 最後に顔だけが残ったところで、シライトは悲痛な面持ちでこう告げた。

 

 

 

「不死身という意味なら……―――一生石でも大差ありませんよね……」

 

 

 

 殺戮を心より願う男を野に放てない。

 医者として、人の人生を殺すことは許され難い。だが、これからも人殺しを続けることを誓って止めないであろう者はどうしたらいいものか。

 苦渋の決断の末、シライトが下したのは、不死身の飛段を石にすることだった。

 湿骨林で何体か見たナメクジの石像。昔、その地で仙力を習得しようとしたものの、志半ばで習得することが叶わなかった石像のことだ。

 

 彼らと同じ道を歩んでいるのだと考えれば、少しは気が休む。

 

「石に意思なし……せめて自然へと還って下さい……」

 

 この世に生を授かった者を自然へと還した。

 それだけのことだ。

 

「……フウ……!」

 

 仙人モードを解いたシライトは、石になった飛段を後にし、分裂体のカツユの中で治癒されているフウの下へ駆けつけた。

 “蛞蝓・網療治夥”によって、“忍法・創造再生”の恩恵を受けている以上、外傷はほとんど治っているハズ。

 

 問題は血と―――、

 

(チャクラが……!)

 

 一切チャクラを感じられない。

 はたしてそのようなことが未だかつてあっただろうか?

 見たことの無い状態に、シライトの頬には冷や汗が流れる。どうすればいい、どうすればいいと何度も思案を繰り返していたが、

 

「っ……!」

 

 迷っている暇など無かった。

 チャクラ解剖刀で胸の横を切り開き、素手で心臓を掴み、チャクラを当てながら直接心臓マッサージをする。

 それに加え、もう片方の手はフウの顎にかけることで気道確保をし、人工呼吸するために血の気の悪い唇に覆いかぶさるよう口をあてがい、息を吹き込む。

 

 少しでも足しになれと、“異身伝心の術”にて周囲の生命エネルギーも集めながらの作業だ。

 

(死なせない……絶対に死なせないから……フウ!)

 

 

 

 ***

 

 

 

「水遁・挫苦!」

「土遁・土流壁!」

 

 角都の背中より出てきた化け物の一体が、口より高圧水流を自来也目掛けて放つ。

 しかし、地面を抉りながら向かってくる水流に対し、自来也は即座に印を組み、堅牢な土で出来た壁を生み出し、水流を防いで見せた。

 鋭く抉られる土の壁だが、それでも尚貫通を許さない所を見るに、自来也の忍としての実力を窺うことができるだろう。

 

 しかし、その光景を前に角都がほくそ笑む。

 

「“土”に強いのは“雷”……」

「むむっ!」

「雷遁・偽暗!」

 

 また別の化け物の口から、今度は激しい閃光を纏った電気の槍が放たれる。

 

 土遁の忍術では雷遁に負ける。忍であればだれもが心得ているであろう相性の観点から、目の前より向かってくる電気の槍を交わそうと試みる自来也であったが、それよりも早く緑色のオーラを纏ったミズチが前に飛び出した。

 

「雷遁・蛇雷!」

「なにっ!?」

 

 袖より蛇をかたどった電撃を放つミズチ。

 額から生えている角と、目元に描かれているクマドリ。そして背中から生えている異形の翼から分かる通り、彼は仙人モードと呪印を併用し、全力を出していた。

 その状態での“雷遁・蛇雷”は、角都の“雷遁・偽暗”と同じ威力であったのか、暫しの拮抗を繰り広げた後、両方の電撃はスパークを散らしながら中で爆ぜるように消える。

 

「やだっ。仙人モードなのに結構なパワー……ゾクゾクしちゃう♡」

「大蛇丸に似て変な奴だのォ……それよりミズチとやら。分かるな?」

「ええ、自来也様。化け物一体につき一つの“性質”」

「だのォ。全部の性質変化……隙が無いように見えて、案外弱点は目に見えているのォ」

 

 ニヤリとほくそ笑む自来也は、他の化け物と戦っているナルトたちの方を見遣る。

 

 そこでは、化け物一体が口腔から炎を吐き出そうとしていた。

 しかし、相対するナルトとヒナイの目の前に佇む二つの巨体。

 

 火遁・頭刻苦!!

 

 放たれたのは小さな火球。それを阻むように、一つの毛玉がヒナイたちの前に飛び出した。

 そして火球が毛玉に当たったかと思えば、爆発が起こったかのように周囲が火の海と化す。

 しかし、依然毛玉は健在。

 寧ろ、たった今喰らった火球による炎をその身に宿し、轟々と背中が燃え盛っているではないか。

 

「ぬおおお!! 俺っちァ火鼠! こんくらいの炎じゃあやられねえっチューの!」

「よし、ぶっ潰しちまえ! ノブ!」

「見ていて下せえ、姐御!! 火遁・火廻!!」

 

 炎を一身に纏ったハムスターことノブは、途端に前回りを始める。

 だが、次第に凄まじい速度で回るようになり、その光景はさながら火車のようだった。

 

 刹那、猛スピードで化け物へと突進するノブ。

 そんなノブを目の当たりにし、化け物の一体が、先程自来也に繰り出した水流“水遁・挫苦”をノブ目掛けて放つ。

 “火”には“水”。単純な話だ。

 しかし、そう易々と反撃を許すハズもない。

 

「ガマ吉!」

「おうよゥ! 水飴鉄砲!!」

 

 ナルトに口寄せされた蝦蟇であるガマ吉が、口より仙術チャクラを混ぜた球状の水飴を放ち、化け物の放った水遁の忍術を相殺する。

 その間にもノブは化け物に迫り、化け物が避ける間もなくノブの巨体は激突した。

 回転速度もそうだが、なにより燃え盛る体だ。

 抉られた上で焼かれる化け物は、この世のものとは思えぬ悍ましい叫び声を上げた後、仮面が粉々に砕け散り、同時にその黒い線が集まったような異形の体も飛び散る。

 

「やりィ!」

 

 敵を一体倒した連携プレーを称え、ナルトとヒナイはハイタッチする。

 

 だが、まだ戦いが終わった訳ではない。

 喜ぶ二人を仕留めようと、先程攻撃を防がれた化け物が再び水流を解き放つ。

 しかし、風遁や雷遁の忍術に比べ、速度は速いが軌道は読みやすい術だ。攻撃の軌道を見極めた二人は迫りくる水流を軽やかに避け、今度は水遁を使う化け物を標的とする。

 

「多重影分身の術!!」

 

 十字の印を結び、両手の指では数えきれないほどの数に影分身を生み出すナルト。

 

「ヒナイのねえちゃん、アイツの動きちょっと止めてくれってばよ!」

「任せろ、コラ!」

 

 そう言うや否や、ナルトは複数体の影分身で“螺旋丸”を放つ準備を始める。

 一方でヒナイは、水流を放つ化け物目掛け、金色に輝く鎖を解き放った。うずまき一族特有の封印術“金剛封鎖”。そう易々と砕かれるものではない鎖は、瞬く間に化け物の体に絡みつき、身動きを取れなくさせた。

 そこへ、ナルトたちが飛び上がる。

 無数に煌くのは、乱回転するチャクラの塊。

 

「忍を……舐めるなってばよォ!!」

 

 螺旋超多連丸!!

 

 複数体の螺旋丸を手に持った影分身と本体のナルトが、化け物の四方八方から、その歪な体へ螺旋丸を叩きこむ。

 無数にねじ込まれる螺旋丸は、ブチブチと繊維が引きちぎれるような音を奏でる。

 

「ヴォォオオオ!!」

「これで終いだァ!!」

 

 尚も足掻く化け物へ、トドメと言わんばかりに特大の螺旋丸を携えたナルトが、その仮面へと巨大な螺旋丸を叩きこむ。

 

「大玉螺旋丸!!」

 

 仮面に“大玉螺旋丸”を叩きこまれた化け物。

 仮面はみるみるうちに、ミキサーにでもかけられたかのように粉々になり、そのまま化け物の体は“大玉螺旋丸”により、体を縦に真っ二つに両断された。

 化け物だった残骸は、周囲にバラバラと散らばる。

 そんな中、ナルトは軽快に飛び降り、自身の二の腕に手を当てた。

 

「よっしゃあ!」

「おのれ……よくもオレの……!」

 

 喜ぶナルトに、角都の顔は怒りに満ちる。

 まさか、自分の分身たる心臓を二つもやられるとは思っても居なかった。

 彼の用いている禁術“地怨虞”は、他者の心臓を取り込むことによって生き永らえることのみならず、取り込んだ者の性質変化まで自身のものとすることができる術だ。

 バランスよく取り込めば、三代目火影猿飛ヒルゼンのように、五つの性質変化を扱えるようになるなど、破格の戦闘力を有することができることが強み。

 

 しかし、このザマはなんだ?

 

 既に二つもやられ、残るは三つ。

 本体たる自分と、雷遁と風遁の個体のみだ。

 

「これが伝説の三忍……そして九尾の人柱力か。少々侮り過ぎていたようだ」

「ふん、今更後悔したところで遅いのォ。尾獣を集めて回っとるようじゃが……お前はここでワシがきっちり始末する」

 

 そう言うと自来也は、印を結ばんと手を構える。

 そんな自来也を前にし、数秒思案した角都は何を思ったのか、体の外へ出していた残りの化け物二体を戻すではないか。

 

 だが、ただ戻した訳ではない。

 化け物の顔は背中より出したまま、自身も体の至る所にある継ぎ接ぎの部分から、黒い触手のような物体を蠢動させる。

 いよいよ人間離れした姿に、自来也は嫌悪感を表すかのように顔を歪めた。

 

「げぇ……気持ち悪ィ姿だってのォ……」

「心配するな。お前の心臓も今からこの中に入るのだからな」

 

 そう告げる角都に、自来也は神妙な面持ちで身構える。

 

 静寂が辺りを覆う。

 

 木々のざわめきが鼓膜を鋭く揺らす。

 そして、木葉が一枚地面に落ちた時、両者は動いた。

 

「雷遁風遁・穢琉眼巣(エルメス)!!」

「口寄せの術ゥ!!」

 

 二体の化け物の口から、暴風と電気の槍を放つ角都。それらは混じり合い、電撃を混じった猛烈な風となって自来也に襲い掛かった。

 一方で自来也は、何故か自身の斜め上の空中に蝦蟇を一体呼び寄せたではないか。

 

「屋台崩し……じゃねえな!」

「エロ仙人!?」

 

 なにをしているのだと言わんばかりに声を上げるヒナイとナルト。

 角都もまた、この瞬間に口寄せの術を選んだ自来也の選択にほくそ笑む。

 

―――殺った!

 

「―――かのォ?」

「っ!!?」

 

 しかし次の瞬間、自来也の体は地面に吸い込まれるようにして消えたではないか。

 影も形も無くなった自来也を前に、角都の“雷遁風遁・穢琉眼巣”は宙を奔るのみで、敵を捉えることはなかった。

 一方、空に居る蝦蟇は明後日の方向に舌を伸ばす。

 舌が伸びたことにより、自ずと蝦蟇の影も伸びる。

 その影は角都の背後まで伸びた―――その瞬間、伸びた舌先の影から自来也が飛び出た。

 

 “蝦蟇平影操りの術”―――対象者の影に入り込み、操ることのできる術だ。

 自来也はそれを応用し、角都の背後に回り込んだのである。

 

「弟子の前だ。カッコイイとこ見せなきゃのォ」

「なに……!?」

「螺旋連丸!!!」

「ぐ、ぉぉおおおお!!?」

 

 即座に両手に“螺旋丸”を作り出して見せた自来也は、両手に掲げる“螺旋丸”を、角都の化け物それぞれに一つ叩き込む。

 ナルトより荒々しく、それでいて極限までに収束したチャクラの塊は、化け物を形作る触手を巻き込みながら、化け物の心臓を突き破るように抉り込んでいった。

 普通の人間ならば体内がスクランブルエッグ状態になることが避けられないが、あいては触手の化け物。内部に納められている心臓をミンチにするだけに留まる。

 

 攻撃を追えば自来也はしてやったと言わんばかりの笑みを浮かべつつ、反撃を警戒して下がった。

 

 その間、角都は背中の上で崩れていく化け物の叫びを代弁するかのようにうめき声を上げる。

 

「ぐ、ぐぅ……おのれ……!」

「どうした? 注意力が散漫だのォ」

 

 不意打ちにより多大なダメージを受けた角都。

 そんな彼に対し、余裕と言わんばかりの笑みを浮かべている自来也に、弟子たる二人は尊敬の眼差しを向ける。

 

「す、すげェ、エロ仙人……!」

「スケベなだけじゃねえんだな、コラ」

 

 失礼な言葉も聞こえた気がするが、今更な話だ。自来也は聞き耳こそ立てれど、反応はしない。

 

「さて、終わりにするかのォ……」

 

 弟子たちの声を受け、自来也はトドメを刺すべく身構える。

 しかし、そんな彼へ手裏剣がいくつか飛来して来た。

 気配を察し、即座に躱す自来也であったが、突然の乱入者に眉を顰める。

 

「何奴!?」

「あれれれ、角都さーん! メチャクチャ劣勢じゃないですか」

「情ケナイ奴ダ……」

「飛段もやられちゃったしね」

 

 全員が、声の響いてきた方向へ目を遣る。

 そこには、渦を巻いたような模様の仮面を被る者と、ハエトリグサのような植物を上体に生やしている者が、木の枝の上に立っていた。

 着ているのは違うことなき暁のコート。

 新手の登場に、優勢であった四人は警戒を強める。

 

 だが、現れた者達の内、渦巻模様の仮面を被った者は、あっけらかんとした声色で語り始めた。

 

「もう用は済んじゃいましたし、さっさと帰りましょう! あ、そうだ! 飛段さんやられちゃったから、今度はボクが角都さんの相棒ですかね」

「バカ……ソンナ簡単ニ暁ニ入レルト思ウナヨ……」

「いいじゃないか、入れてあげれば」

 

 明るく語る仮面の者の一方で、ハエトリグサの者は一人二役であるかのように交互に喋っている。

 一方で角都は、『あの狂信者め……』と飛段が倒されたことを恨めしく思っているかのように呟きながら、新手の下へ走っていく。

 それを目の当たりにし、ナルトが『この!』と追いかけようとするが、自来也はそれを手で制止する。

 

「深追いするな、ナルト!」

「っ……テメーら、何者だってばよ!!」

 

 深追いは禁物。

 それを理解しているナルトは、せめてもと言わんばかりに、相手の正体を問う。

 そんな彼の問いに答えたのは、またもや仮面の男だ。

 

「何者かって、そりゃあ……また会うことになるさ、九尾の人柱力」

「っ!」

「バイバイ」

『っ!?』

 

 次の瞬間、仮面の男は角都とハエトリグサの男と共に、まるで空間に呑み込まれるかのようにしてその場から消えていった。

 

「なんだ!? なにが起こったんだってばよ!?」

「……かなり高度な時空間忍術かのォ……いや、話は後だ。カカシたちは敵のトラップで足止めを喰らっていたようだが、もうすぐ戻ってくるようだ。ワシらは、綱手の弟子んトコに行くぞ!」

 

 その声に、ナルトを始め皆が洞窟内へ入る。

 先程の会話を鑑みるに、飛段はシライトに倒されたことが分かるが、新手が彼を手にかけなかったとは限らない。

 最悪の事態を想定しつつ侵入した四人であったが、悪い予想に反し、シライトは一人でフウの心肺蘇生を行っていた。

 

 しかし、状況は芳しくなさそうだ。

 

「しらたきの兄ちゃん!」

「……ッ」

 

 ナルトの声に気が付き、一瞬彼へ目を遣ったシライトであったが、その余裕はなさそうだ。

 必死に心肺蘇生を行っているものの、一向に瞳を開けないフウ。

 人柱力が尾獣を抜かれればどうなるか知っている自来也にとって、シライトの行っている行為は、痛々しくて真面に見て居られない。

 

 しかし、必死に命を救おうとする男の姿から目を離す訳にはいかないだろう。

 少女の命の灯火の一片が完全に消え去るまで、諦める訳にもいかない。

 ド根性だ。自来也は、何かできぬかと必死に思案する。

 

(なんとかできぬか……なんとか……!)

 

 ナルトの母親―――クシナのような光景は見たくない。

 すると、シライトの鋭い声が響く。

 

「ヒナイさん!」

「へっ……オレか!? 血か、コラ!」

「いいえ……あの……あれを……」

「あれってどれだ!?」

 

 神妙な面持ちとは裏腹に、はっきりとしないシライトの言葉に、思わず声を荒げてしまうヒナイ。

 そんな時、シライトは一旦フウの唇から放し、ヒナイの懐を指さす。

 

「声が……声が聞こえたんです」

「声……しらたき、何言って―――」

「この前の抜け殻を出してください、早く!」

「お、おう!?」

 

 漸く見当がついたヒナイは、“封入の術”にて札に封印したフウの抜け殻を出す。

 それを目の当たりにした自来也がハッと目を見開く。

 

「成程、そういう訳か……!」

「確かに、それならなんとか……」

 

 自来也に続き、ミズチも何かに気が付いたかのように面を上げる。

 この中、ただ一人置いて行かれているナルトは、ただただ困惑し、『あれをこうすれば……』などとブツブツ呟いている自来也たちを後ろから眺め、あらんばかりの声量で心の内を叫んだ。

 

 

 

「つまり……どういうことだってばよ!!?」

 

 

 

 決してナルトの理解力が乏しい訳ではない。

 ただただ、知識の数の面で置いて行かれている。それだけだった。

 

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