向カイ風ニモ負ケズ   作:柴猫侍

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※投稿についてのお知らせ
 『向カイ風ニモ負ケズ』は一章ずつに分けて投稿しております。
 一章分が書け次第、一日につき一話で連日投稿という形です。



六. 一先ず暫定ニート

『旅に出る!?』

 

 学校を卒業した後、両親に語ったこれからの進路について、父と母は両方驚愕の声を上げた。

 十二歳の子供が旅に出るというのも勿論、どこかでのんびりすることが好きそうな自分の息子が、突然アクティブな事を言い出したことも驚愕の対象だろう。

 

 半信半疑。両親は、ピクニックを旅と言い換えているのだと勝手に理解し、あれよこれよと心配しつつも、旅に出ることを許してくれた。

 そんなシライトは、旅に必要になりそうな物を準備し、背嚢へ詰め込んでいく。

 

「……まあ……重そうなのは口寄せすればいいかな」

 

 荷物としてかさ張りそうな物に関しては、巻物に口寄せの術式を書き込み、いつでも口寄せができるようにしておく。これだけで旅がし易くなるというものだ。反面、巻物を無くしたり壊れたりした途端、何もできなくなってしまうが。

 医学を学ぶ上で、薬草についての知識も得、道中生えているであろう野草や山菜が食べられるかも判別できる。湿骨林へ赴く上で、弁当にと何度も作った兵糧丸は、主婦顔負けの出来で作成可能。

 滝の国を歩き回る上では、知識も技術も十分得た。

 このまますぐにでも旅立てる用意は出来ているが……

 

「……釣りに行こう」

 

 やり残したことがある。

 

 

 

 ***

 

 

 

「エイエンゴイ……釣らでおくべきか」

 

 里にほど近い吊り橋。谷間の下からは、清らかな川の流れが聞こえてくる。

 そこへ釣り糸を垂らすシライトは、エイエンゴイを釣らんと張り切っていた。

 理由は割と単純だ。フウへの祝いである。

 釣ると意気込んで数年、昨日までは遂に釣ることが叶わなかった獲物ではあるが、ここで一匹釣りあげ、友人として何かをしてやりたいところだった。

 

 旅に出る前に、一つでも多く思い出を作りたい。

 子供なりに考えての行動。もし釣り上げることが出来れば、彼女はとても喜んでくれるハズ。

 次にフウが遊びに来るのは明日だ。

 それまでがタイムリミット。

 

「……まあ……そんな簡単には釣れないとは思ってますけど」

「そうですねぇ」

 

 呑気に雑魚寝しながら、竿が撓るのを待つシライト。肩に乗るミニサイズのカツユが、同意を示し、流れる雲を眺める。

 根気強さはこの二年で得た。

 一日待ち続けることなど他愛もない。

 緩やかに流れる時の中、辺りに広がる自然に目を向け、じっくりその時を待とう。

 

 そんなことを思っている時だった。

 

「あ、シライトくん! 竿が!」

「あ」

 

 地面に刺していた竿が、突然グワリと大きく撓る。これはかなりの大物だ。

 期待を胸に抱きつつ竿を手に持ち、身を乗り出して谷間の下を見れば、今まで見たこともないような巨大な魚影が、飛沫を上げつつグルグルと泳いでいた。

 

―――そう。この少年、運は良い方だ。

 

 だがしかし、これは想像を絶する戦いの始まりに過ぎない。

 

「あ、これ……竿折れますね」

「えぇっ!?」

 

 かつてない程に撓る竿を見て、冷静に呟くシライト。

 竹で出来ており、柔軟性には富んでいるハズなのだが、どこからともなくビキビキと裂けているような音が響き渡ってくる。

 折角の獲物を前にし、まさか道具の限界がこうも早く訪れかけていることに、焦燥を隠さぬカツユ。

 しかし、次の瞬間シライトは、何を思ったのか谷間へ飛び降りた。

 

「何しているんですか!?」

 

 100%驚愕の声。

 このままでは水中へ落ちる。ナメクジは有肺目。一応カタツムリ同様、巻貝に分類されている生き物ではあるが、水の中へ落ちれば溺れ死ぬ。分裂体の一体が死んだ所で、本体のカツユにはさしたる影響がないとは言え、突然入水しようとする少年を目の前には慌てざるを得ない。

 しかし、二年でチャクラコントロールを鍛えた彼だ。

 そのまま入水する訳もなく、巨大な魚影が渦を巻くように泳いでいた水面の中心へ降り立った。

 

 ホッと一息つくカツユ。彼女に弁解すべく、シライトは結んでいた口を開いた。

 

「いや……その……竿折れそうだったので……だったらこっちから行こうと……」

「お、おぉ……豪快ですね」

 

 若干カツユに引かれることとなった。

 だが、悠長に話している暇などない。

 思っていたよりも魚の抵抗が激しい。竿を持っているシライトから離れようと、水中を暴れ回る獲物は、川の上流へ上流へと泳いでいく。

 

「どうなさるんですか?」

「……釣りは……魚が疲れた所を釣り上げる……そういうものです」

「と、言うことは……」

「追いかけましょう」

 

 これより始まるのは、前代未聞の魚との鬼ごっこ。

 行く先を導かんばかりに、水中へ誘われている糸を頼りに、逃げおおせようとする魚を追いかけるのであった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 鬼ごっこが始まり、早三時間。

 谷間を抜け、森を抜け、時には人が踏み入ることが不可能な断崖絶壁にさえ足を運ぶことになった。

 竿が折れぬよう細心の注意を払って追い続けるシライトの額には、玉のような汗が滴っている。流石に三時間の鬼ごっこには疲弊してしまうという訳だ。

 しかしそれは相手も同じ。心なしか、魚の抵抗も緩くなってきた。

 ここが正念場だ。先にシライトと魚、そして竿も含め、折れた方が敗北を喫することとなる。

 

 熾烈な戦い。

 友が為に力を振るうシライトは勿論、魚にとっては命がかかっているのだ。激闘にならないハズがない。

 

「頑張って下さい! 生き物は、今際の時こそ力を振るうもの! 油断せず、着実に釣りあげましょう!!」

 

 だが、一番興奮しているのはカツユだった。

 耳のすぐ傍で行われる実況。柄にもなく、その可愛らしい声に熱がこもっている。そして熱くなっている所為か、いつもに増してヌメヌメしている気がした。

 

(……このままじゃ埒が明かない……)

 

 カツユのヌメヌメ具合は置いておき、膠着状態の中で思案を巡らせるシライト。

 このままでは釣り上げるのに決定打が欠けている。チャクラコントロールで身体能力を向上させ、無理やり引っ張り上げようとすれば、竿が折れてしまって逃げられるだろう。それでは今までの苦労が水泡に帰す。

 どうすればいいものか。

 一時間前から考えていたお題に、実は彼は既に答えを一つ出していた。

 

 

 

 上空で、キー! と啼いた鷹の声が木霊する。

 

 

 

(ここだ……っ!)

 

 刹那、シライトの目の周りに濃緑色の隈取、同時に額にも二重丸が浮かび上がった。

 

「そ、それは仙人モード!? まさかシライトくん、貴方は……」

「ずっと……異身伝心の術で……チャクラを集めて練ってました……」

 

 信じられないと言わんばかりに、カツユの声が震えている。

 そう、今に至るまでの―――一時間ほど前から、シライトは仙人モードを発動すべく、地道に身体エネルギーを集めた上で、仙術チャクラを練っていたのだ。

 緻密なチャクラコントロールを要求される仙力……それを、巨大魚と格闘している中で集めているとは。

 波紋呼法は、動きながらでも宙に漂う僅かな自然エネルギーを、呼吸と共に体内に取り入れることのできる吐納法。その特性を最大限に生かしている。

 

 その神経に驚いているカツユ。仙力を釣りに使用していることについては、一切驚いてはいない。

 

「ですが、貴方の仙人モードは……いや、まさか!?」

 

 シライトは数秒しか仙人モードを維持できない。とてもではないが、戦闘に用いるには実用性がない。

 しかし、時にはその数秒―――刹那と呼ばれる一瞬であっても、力を発揮できれば流れを変えることが出来る場面が、人生には訪れる。

 今日、今、この場面がその時であった!

 

(見える……動きが見える)

 

 僅か数秒の仙人モード。

 しかし、仙人モードが発動している際は、身体能力、知覚能力が大幅に上昇し、並みの感知タイプの忍をも凌ぐ察知能力を得ることができる。

 その数秒、五感の全てが鋭敏化しているシライトは、未だ水中に佇む巨大魚の動きを見極めようとした。

 この時初めて、秒の世界というものを体感したような気さえする。

 時間がゆっくりと流れていく。鋭敏化された感覚より脳へ伝えられる膨大な情報量に、脳が沸騰しそうな気分だ。

 

 そんな中シライトの脳裏に過った複数の案の内、彼が選んだのは―――

 

「とぅ」

「えっ? きゃあああああ!!?」

 

 竿、そして釣り糸を手繰り寄せるかのように、自ら水中へ赴くことだった。

 この糸の先に獲物が佇んでいる。決して離すものか。

 澄んだ水の中、しっかりと相手を見定めようと瞼を開けば、何度か見たことのある美しい鱗を持った巨大魚の姿を確かめられた。

 

―――エイエンゴイだ。間違いない。

 

 尚のこと、敗北することができなくなったシライト。

 しかし、ここで仙人モードが解けてしまう。途端に元の身体能力に戻ったが、それを察したのか、少し大人しくなっていたエイエンゴイが、最後の力を振り絞らんと、体を大きくくねらせ始める。

 

 最後の抵抗。

 そう、これが最後だ。

 

 ならばコレを乗り越えよう。

 

 負けじと力を振り絞るシライトは、残ったチャクラを総動員し、身体能力を上昇させる。

 着実に糸を辿り、獲物に近づいて行く。ここは水中。筋肉を酷使していることもあり、長く息は続かない。

 

―――しかし、捕らえた。

 

 糸を辿った先には、ギョッとした瞳を浮かべるエイエンゴイの口。

 シライトは糸を辿り終えた後、マウント(強いて言えばバックマウントポジションに当たるだろうか)を取りかのように背に乗った。

 

(鯉の〆方はまず……)

 

 徐に手刀を構える。

 その様子が見えているのか、エイエンゴイは水面に水柱が噴き上がるほど、尾びれを振るって暴れ回った。

 しかし、勝負は決まる。

 

(額を叩いて気絶させる……!)

 

 血と汗と涙も混じっている清らかな水の中、鈍い音が鳴り響いた。

 

 

 

 ***

 

 

 

「ほぉぉおおおぉおぉおッ……!」

 

 感嘆の息を漏らし、瞳を爛々と輝かせているのは他でもない、フウだ。

 

「おっきいっすね!」

「……おっきいね」

 

 興奮が収まらないフウは、ちょうどいい石の上に置かれているエイエンゴイを前に、鼻息を荒くしている。大きさは勿論、その鱗は光の反射で虹色にも輝き、見る者の心を奪う美しさも兼ね備えていた。

 改めて自分が釣り上げた(?)獲物の大きさにしみじみと感慨深さを覚えるシライトであったが、ふと聞こえてきた涎を啜る声にハッとする。

 

 フウに目を向ければ、何やら口の端で手の甲で拭っているではないか。

 

「……食べたい?」

「食べたいっす!」

 

 これほどに目を爛々と輝かせている相手に、『食べさせてあげない』とは言えない。

 だが、この大きさだ。この場に居る二人の分は予め切り分けておき、残りはご近所に配る旨を伝えれば、フウは快く了承してくれた。

 

「よーし、じゃんじゃん捌くっすよ~!」

「……魚の捌き方……知ってる?」

「知らないっす!」

「……分かった」

 

 この笑顔百点。

 満面の笑みで知らないと言われれば、教えなくてはならないだろう。とはいっても、軽く一メートルを超す魚を捌ける包丁など、一般家庭にあるハズがない。

 海に面する国であれば、多少は家庭にも巨大な包丁があるかもしれないが、滝隠れの里は内陸部に位置する。

 しかし、滝隠れには便利な術が一つあった。

 

「滝隠れ流、水切りの刃!」

 

 印を結ぶフウの手に現れる、一振りの刀。

 水で刀を形成する術、それが“水切りの刃”だ。切れ味はかなりのものであり、人体を貫く程度には鋭い。魚を捌くには充分だ。

 鯉は、鱗をひく場合とひかない場合で、二通りの捌き方がある。

 エイエンゴイも鯉ではある為、一応それらの捌き方が適応されるとは思うが……。

 

「……鱗は唐揚げにして食べるから……まず鱗をひこう」

「合点承知っす!!」

 

 鯉の鱗は唐揚げにし、塩を振りかけると、酒が実に合うおつまみへ大変身する。

 時折、シライトも自宅で父が酒のつまみにしている鱗の唐揚げをつまみ食いし、カリカリとした食感に病みつきになったものだ。

 エイエンゴイの鱗を使えば、恐らくは歯ごたえ抜群になることだろう。

 そんなことを思いつつ、楽しそうに鱗をひくフウの傍らで、飛び散る鱗をざるの上に収集するシライト。後で食べようとは思いつつも、ついつい鱗の光沢に心奪われてしまう。

 

(……美味しく頂きます)

 

 淡々と集めること十分、ざるの上には山盛りの鱗が積もっていた。

 鱗もほとんどひき終え、後は身を捌くのみ……なのだが。

 

「忍鯉と契約してる手前、ほんのちょっと抵抗があるっす」

「……今更な気もするけど」

「そう言われればそうっすね!」

 

 フウが口寄せ契約している忍鯉のことを口に出し、エイエンゴイに刃を入れることを少し躊躇していたが、鯉は滝隠れの食卓に欠かせない食材だ。

 動物を飼っている飼い主のような悩みを覚えたフウであったが、一瞬のうちに乗り越え、『どこに入れればいいっすか!?』と、シライトの指示が来るのを今や今やと待っている。

 

 その後は、切り口から溢れ出る血にフウが騒ぐといった出来事はあれど、比較的なんの問題もなく捌き終えた。

 今日のたきの家のご近所では、夕飯にエイエンゴイが出て、贅沢な気分に浸ることができるだろう。

 

 そして実食タイムだ。

 シンプルに切り身を焼き、持参した塩をちょこっとだけ振りかけて口に運ぶ。

 

「おいひィ~~~……!!」

 

 余りの美味しさに、落ちそうになったほっぺを手で押さえつつ、恍惚とした表情を浮かべるフウ。

 一方でシライトもまた、食したことのない美味に舌鼓を打っていた。

 

 しっかりと締まっているものの、歯を立てた瞬間にホロホロと崩れ落ちる柔らかい身。

 解ける身の間からは、魚にも拘わらず甘い脂がジュワリと溢れ出る。しつこくない上品な甘さだ。甘露とはこのこと。川魚特有の生臭さもなく、実に食べやすい―――否、どんどん食べ進めたい。

 わざと剥がず、焦がすように焼いた皮は、カリカリと歯ざわりがよく、尚且つ身の間に詰まっていたコラーゲンがプリプリと舌の上で踊る。

 そして、それらをちょうどよく〆るのが塩だ。ご飯があれば進むことだったろうに。

 

「美味し」

 

 そんな複雑な味わいを、シライトは三文字で表現した。

 つまるところはそれだ。旨いのだ。今まで食べてきた絶品の料理が霞んでしまうほどに。

 

「こりゃ、永遠に忘れられない味っすね!」

「……そうだね」

 

 結婚祝いに食べるとされるエイエンゴイ。もし離婚でもすれば、永遠に苦い思い出を舌に刻むことになってしまうだろうが、流石にそれを口には出しはしない。

 フウは実に幸せそうに、竹串に刺したエイエンゴイの切り身を頬張る。

 その笑顔が見ることが出来ただけで、昨日三時間奮闘した甲斐があったというものだ。

 

「……あぁ……そういえば」

「ん? どうかしたんすか」

「忍者になって……おめでとう」

「おー、知ってたっすか! どういたしましてっす!」

 

 ドヤ顔で、右腕に着けられている滝隠れの忍であることを表す額当てを見せつけてくるフウ。下に向いている矢印の中心を、縦にくり抜いたような文様は、滝が重力に従い流れ落ちている様を表しているのだ。

 これを着ければ、あどけない顔をしているフウも立派な忍者。この里を守る忍の一人なのだ。

 少々落ち着きがないものの、それも時間が流れる共に彼女が成長することでどうにもなるだろう。

 

 新品の額当てを指でなぞるフウを眺めつつ、そう思ったシライトは微笑みを浮かべる。

 

「……あと」

「あと?」

「……暫く旅に出るから」

「え?」

 

 一瞬、フウが固まる。

 

「えぇ―――っ!!?」

 

 エイエンゴイの美味など忘れたフウの驚愕した声が、青い青い空に木霊した。

 

 

 

 ***

 

 

 

 やや長めの黒髪を、後ろへ流れるように抑える白いヘアバンド。

 必要な荷物(と、それらを口寄せできる巻物)を全て詰め込んだ背嚢。

 杖代わりに、子供の頃から使っている唐傘を一本。

 そして、肩乗りカツユ。

 準備は全て整った。

 

(まずは……空区に行って蜂蜜酒探しかな……)

 

 大雑把な地図を眺め、滝隠れの東に値する廃墟群、空区へ進路を定める。

 どこの国にも里にも属さぬ地域ではあるが、一説には闇商人が屯する危険な場所とも言われているらしい。

 すっかりピクニックに行くものだと勘違いしている家族に別れを告げ、里の出入り口まで来たシライトは、一旦断崖の上まで軽やかに上り、進むべき方向に目を遣った。

 

 世界を二分割する緑と青。

 これでも、全体からしてみればちっぽけなものなのだと思うと、自分の旅の果てしなさが身に染みて分かるというものだ。

 もし、故郷に用事ができたのだとすれば、里に置いて行く分裂体のカツユに逆口寄せしてもらえばいい。いつでも帰ることのできる旅程、気楽なものはない。しかし、決して危険がない訳でもないことは承知だ。

 

 それでもかなえたい夢がある。

 託された責務(と言う名の酒探し)がある。

 

「さて……」

「シィ~ラァ~イィ~トォ~!」

「……ん?」

 

 背後から聞こえてくる大声。

 聞き慣れた声に振り向けば、そこにはゼェゼェと息を切らすフウが、大急ぎで走ってくるではないか。見事なフォームの忍者走り。様になっている。

 

「どうしたの……そんな急いで」

「んっ!」

「……?」

 

 徐に突き出される小指。

 何かと視線で問えば、次の瞬間に少女はパァっと太陽のような笑みを浮かべた。

 

「約束してほしいっす! 里の外がどんな感じなのか……旅が終わったら、い~~~っぱい土産話するって!」

「……わかった」

 

 『十二にもなって……』など恥ずかしがる必要はない。

 真っすぐな思いには答えるべく、シライトもまた小指を突き立て、指切りげんまんをする。

 その時彼女が歌った内容が、『指切りげんまん嘘吐いたら千本で点穴を射抜く』と、本当にやりかねないのではないかという内容で内心驚いたものの、終わると同時にフウは、シライトの背中を押すと同時に激励を送ってくれた。

 

「ファイトっす、シライト!」

「……うん。頑張る」

 

 背中を押されるがままに、見送りに来てくれたフウへ軽く手を振りつつ、断崖の下へ降りていく。

 忍者でないにも拘わらず、ほぼ直覚の壁を降りることに慣れたものだ。

 あっという間に地面に足を着けたら、視界はほぼ鬱蒼と生い茂る木々に埋め尽くされる。

 

「さて……行きましょう」

「はい」

 

 一息吐き、故郷の空気を今一度堪能してから歩み出す。

 

 まず目指すは空区。

 手に入れるは、森の千手一族に伝えられし蜂蜜酒。

 

 これより、たきのシライトの冒険の始まり始まり。

 




***一章 完***

 次章『糸と綱』
 賭博と腕力とあひィーな章、のんびり待って頂ければと思います。


補足説明
・エイエンゴイ
 『BORUTO-ボルト- NARUTO NEXT GENERATIONS』34話に登場する、一度食べたら忘れられない味の鯉。見た目は鯉と言うより、巨大な鯛。
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