十二大戦~盲亀の浮木~   作:白白明け

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皆様の暇つぶしになれば幸いです(_ _)





その②

 

 

 

「みんな!ちょっときいてくれる!」

 

『申』の戦士・砂流がそういったのはドゥデキャプルが「それでは世界が世界に誇るべき、強靭な戦士たちのご健闘をお祈りします」と言って始めから其処に居なかったかのように闇に溶けて消えて直ぐの事だった。

さてこれからどうしようかと家名は考えていたので、砂流の声に心底驚いた。

 

「提案があるんだけれど。このルールなら、誰も死なずに済むかもしれないわ。みんなで協力すれば」

 

そして砂流の言葉にも心底驚いた。他の戦士全員の虚を突く形で発せられた言葉はドゥデキャプルが話していた時よりもよっぽどぴりっとした空気の中で放たれた溌剌とした言葉で、聞き間違いなんて起こるはずも無かった。

だから、家名は心底驚いた。

 

『みんなで協力すれば』

『誰も死なずに済むかもしれない』

 

平和主義者である砂流のことを家名は知っていたけれど、知っていたつもりだったけれど、まさかその博愛主義を十三大戦にまで持ち込もうとするなんてことは想定外だった。よくて優勝者に与えられる『たった一つの願い』を叶える権利で死んだ戦士全員を生き返らせるくらいだろうと考えていた家名の砂流への認識は改めさせられる。家名は視界の端で異能肉の顔が歪むのを見た。家名よりも砂流と多くの戦場を(敵としても味方としても)共にした異能肉からすれば砂流の言葉は半ば予想通りだったのだろう。

 

砂流は「私に賛同してくれる人はいるかしら?」とまるでボランティアを募集するような口調で言った。家名はいる訳が無いとそう思った。(だってそうだろう?十三大戦は殺しが前提の戦争。そして、第十二回十三大戦のルールは皆殺しが前提の戦いだ)その中で全員が生き残る方法なんて家名が考えた様に優勝者が与えられる『たった一つの願い』を叶える権利で死んだ戦士全員を生き返らせるくらいだ。

十三大戦に参加する戦士は全員が叶えたい『たった一つの願い』を持っていると家名は考えていた。その為に戦うし、その為に殺すのだ。亀井家の長女。一番上の姉に命じられて十三大戦に参加することとなった家名ですら、叶えたい『たった一つの願い』があるのだから、他の戦士もそうだろうと、なら優勝者に与えられ『たった一つの願い』を他の誰かの為に使う筈がないと、家名は砂流の提案に誰も賛同はしないだろうと思った。

 

けれど、そんな家名の思いとは裏腹に砂流の提案に手を上げる者がいた。

 

「………」

 

気だるそうに手を上げ砂流の提案に乗っかったのは先ほどまで壁際で寝ていた少年の戦士だった。年若い彼からすれば砂流の提案は理想的なものに移ったのかもしれないと家名は考え、そしてその考えの通りに少年の戦士は今にも眠りそうになりながら「誰も……死なずに済むなら……、それに越したことは……ない……」と眠たげな声で言った。

 

そして「あんたを優勝者に祭り上げて……、あんたがみんなを生き返らせる……って算段かい?」と続いた言葉に砂流の「少し違うわ。そのやり方だと、私がみんなをちゃんと生き返らせるかどうか、不安が残るでしょう?私が想定する必勝法は、もうちょっと安心感があるものよ」という言葉が返される中で家名はどうしようかと悩んでいた。

 

誰も賛同者など現れる訳が無いと考えていた砂流の提案に賛同する者が現れた。それは始まる前から優勝も勝つことも諦めていた家名にとって僥倖ともいえることだった。十三大戦において優勝を諦めること、勝ちを諦めることは、生きることを諦める事と同意犠だ。

先ほど家名は『たった一つの願い』を叶える為なら他の戦士を殺すことなんて躊躇わないのが戦士だという持論を展開していたが、それを覆すつもりはないが、家名は『たった一つの願い』を叶えることを諦めている(優勝できないから)。

 

なら、ここで砂流の提案に乗っかり生き残る術を模索するのもありなんじゃないかと家名は節操なく考えた。

 

(そうだ。優勝を諦めても、生きることまで諦めることはないよなあ)

 

そんな家名の背中を押すように眠たげな少年に続き『丑』の戦士・失井と派手な格好をした女の戦士、そして恐らく『馬』であろう巨漢の戦士の三人が手を上げた。

砂流の提案に乗った戦士の中に最強の戦士である『丑』が居るのは大きい。

これは乗り遅れたら拙いと家名が手を上げようとしたところで、悪寒が家名を襲った。心臓が止まる程の寒さを感じた方向を見れば、そこには普段と変わらない優雅な表情-しかし、絶対零度の視線を家名に向ける-異能肉がいた。

おそらく右手をあと一センチでも上に上げれば異能肉の持つ機関銃が自分に向けて火を噴くだろうことを理解して家名は冷や汗をかきながら右手をひっこめた。家名の態度に異能肉の蔑む様な冷笑が向けれた。

 

異能肉の考えを家名は理解した。異能肉は砂流の和平案が成立することを望んでいない。異能肉は家名が知る中でもぶっちぎりのトップクラスでプライドの高い戦士だ。戦士としての矜持があると言っても良い。戦いの中に気高さと優雅さと豊かさ求める古いタイプの戦士だ。故に十三大戦という大々的な舞台で戦わないなんて言う選択肢は初めからないのだろう。その上で戦いを止める和平案を提示しているのが異能肉が八つ裂きにしても足らない位に嫌っている砂流なのだから、その成立を認める訳にはいかない。

それなのに砂流の提案に既に砂流を含め五人の戦士が乗っている。そこに家名が加われば六人。十二戦士中六戦士という過半数の一大勢力が出来上がってしまう。それを異能肉は自分を脅すことで食い止めたかったのだと家名は理解して、それならそれでもいいかと流された。

 

ここで『亀』の戦士・家名の悪い部分が露呈した。七人の姉に囲まれて育ってきた家名には基本的に年上の女性の言うことには逆らわないという悪癖があった。

亀井家は名家であったが先々々々代の男性家長の所為で一度は没落の憂き目にあった。それを立て直してきたのは代々の女性家長であり、亀井家が完全復活を遂げたのは現家長である一番上の姉の御蔭だった。そんな家柄ということもあり亀井家において男性であり末っ子でもある家名のヒエラルキーは当然ながら低い。上の姉達にいじめられながら育った家名にとって年上の女性の言うことを聞くことはある種の処世術だった。

 

一度は優勝することを諦めて、命も諦めていた家名だ。異能肉が砂流の和平案には乗るなと言っている以上、無理をして(機関銃に粉みじんにされるめにあってまで)砂流の和平案に乗る気はなかった。

もし仮に異能肉と同じく年上の女性である砂流が家名に「家名君も私に協力してくれないかな」とお願いしてきた場合、異能肉と砂流を天秤にかける非情に面倒な展開になってしまっていたのだが、幸いにも、あるいは不幸にも、砂流はそんな事をいう女性ではなかった。

 

異能肉は家名の平和主義者同盟(仮)への参加を止めた。しかし、だからと言って家名以外の戦士が参加すれば平和主義者同盟(仮)は戦士の過半数を有する巨大組織になる。

そんな異能肉のあるいは家名の考えは、しかし、杞憂に終わった。

六人目の戦士が手を上げた。否―――それは手ではなく血塗れの刃物だった。

十三大戦が始まる前に断罪兄弟の弟を殺したと思われる『卯』の戦士・憂城が平和主義者同盟(仮)への参加を表明したのだ。それを受けて『丑』と『馬』、そして派手な格好をした女性の戦士が手を下げた。『卯』の戦士が賛同することによって、和平案から三人の戦士が離反する。

当然だろうと家名は思った。『卯』の戦士は見るからに異様な雰囲気の戦士だ。そんな戦士を警戒しない戦士はいない。

 

「オーケー。ありがとう。平和主義者が二人もいてくれて、嬉しいわ。他のみんなも、気が変わったら、何時でも言ってきてね」しかし、砂流はそう言って憂城の参加を歓迎するようにそう言って、そのことを家名が不審に思うまもなく、砂流による三人チームの成立を恐れたのだろう判断の速い誰かの何かしらの行動によって唐突に部屋の床が大きく崩れた。

 

 

「!」「!」「!」「!」「!」「!」「!」「!」「!」「!」

 

 

「(;゚Д゚)…なんつって」

 

 

足場が抜けたことにより、仕掛けた一人と家名を除く十人がそれぞれ驚き、それぞれ落下しつつも、しかしそれぞれに対処する―――これが第十二回十三大戦の幕開けだった。

 

 

 

 

 

 

 

最上階の部屋の床が砕け散り倒壊し始めた廃ビル。十二人の戦士達がそれぞれにその事態に対処する中で『亀』の戦士・亀井は自分の周りで自分と同じく落ちていく瓦礫群に飛び移りながら落下の勢いを殺し最終的には受け身をとり何とか無傷で倒壊した廃ビルから生還した。受け身の姿勢から起き上がった家名が周りを見渡すが周りには誰もいない。十二人の戦士達は廃ビルの倒壊と共にちりじりになったのだろうかと考えて、いや、一人は確実に近くにいる筈だと思いつく。家名が十三戦士の中で最も親しい異能肉だけは近くの何処かで優雅に着地することを選んだに違いなかった。家名の知る異能肉という女性はそういう性格だ。

 

「なら、どうするか?異能さんを探す?いや、探してどうするんだよ。十三大戦がはじまった以上、あの人は普通に俺を見つけ次第殺しにかかるぞ。たぶん、話も聞いてくれないだろうし………見つからない内に逃げようか?いや、でもそれって問題を先送りにしてるだけじゃないか?」

 

家名が(;^ω^)こんな顔をして悩んでいると近くの瓦礫の裏側から二人の戦士の声が聞こえた。

 

「『亥』の戦士―――『豊かに殺す』異能肉」

 

「『卯』の戦士―――『異常に殺す』憂城」

 

その声をきいて家名は不味い!と声のした方向の瓦礫の裏へと駆け出した。その動きは『亀』の様に遅くはなかった。飛び出した家名が見たのはまさにぶつかり合う瞬間の異能肉と憂城だった。異能肉が構える二丁機関銃の前に憂城が両手の凶器を振り上げて跳ねる様に突進していた。銃口に怯える様子もない憂城の特攻に異能肉はその心意気は買うとでも言いたげな笑みを浮かべながら二丁機関銃の引き金を引いて―――瞬間、異能肉が背後から首なし死体が羽交い絞めにされるのを家名は目撃した。

当然、体勢を崩された異能肉の二丁機関銃の銃口はあらぬ方向を向いていて突進する憂城にかすりもしない。

そして、憂城の刃が異能肉の身体へ届く瞬間に

 

「『亀』の戦士―――『動いたら殺す』家名」

 

家名は間に合った。家名は腰に差していた日本刀を抜くこともなく、憂城の横から飛び出して体当たりする。それは無様な体当たりだったが、突如として現れた家名に対して憂城は反応することが出来ずに体当たりをまともに喰らい転がった。家名はその隙に首なし死体に羽交い絞めにされている異能肉の方へと駆け寄り、首なし死体の両腕を日本刀で切り落とす。

自由になった異能肉が左右の機関銃、『愛終』と『命恋』をそれぞれ憂城と首なし死体に向けるが家名はそれを阻止するように「異能さん。逃げよう」と言った。

家名の言葉に異能肉はふざけるなと言葉を返した。

 

「助けてくれたことには礼を言いますわ。けれど、わたくしに名乗りを上げた戦いから逃げろですって?頭に蛆でも湧きましたの?」

 

「蛆は湧かない。蛆が湧くのは、断罪兄弟・弟。『巳』の戦士の身体からだ。異能さん。『卯』の戦士は『死体作り(ネクロマンチスト)』だよ」

 

「ええ、わかっていますわ。だから、ここで殺すべきでしょう?その能力は放置する訳にもいかない位に危険じゃありませんの。これ以上、死体(なかま)を作られる前に此処でわたくしの『愛終』と『命恋』で粉みじんにして差し上げますわ」

 

「粉みじんにしたくらいで死体は死なないよ。だってもう死んでいるんだから」

 

家名の言葉に対する異能肉のどういう意味ですの?いう言葉は家名の日本刀で切り落とされた『巳』の死体の両腕が蠢き此方の様子を伺っているのをみて、止まる。

 

「機関銃で粉みじんにしたくらいじゃ憂城の『死体づくり(ネクロマンチスト)』は終わらない。粉みじんにされた肉塊がこっちに襲いかかってくるだけだよ。ほら、スライムって斬られた分だけ増殖するでしょ?それとおんなじ」

 

異能肉は家名の説明にお前は架空生物(スライム)と戦ったことがあるのかとツッコミたかったが、異能肉のツッコミというマニア必見の光景は、しかし、起き上がった憂城の言葉によって遮られみられずに終わった。

 

「ああ、どこかで見たことあると思っていたんだ。きみは家名くんじゃないか。ほら、僕だよ家名くん。僕だよ家名くん」

 

起き上がった憂城はもう異能肉を見てはいなかった。代わりに黒い白目と赤い黒目で真っ直ぐに家名を見つめながら、優しく笑った。

 

「とても寒い場所で一緒に戦ったよね?あの時にきみが僕を助けてくれたことは本当に感謝してるんだ。だから、僕とお友達になってよ」

 

一見して何の問題もない憂城の言動は、しかし、彼にとってのお友達がイコール死体であることを知っている家名からすれば恐怖しか感じない。

 

「(;´・ω・)…なんつって」

 

「家名さん。あなたがあの長女に命じられるままに様々な戦場。わたくしには似合わない底辺の最下層の戦場にまで足を運んでいるのは知っていましたけれど、あんなのと共に戦わなければならない戦場にも参加していましたの?」

 

異能肉のゴキブリでも見るような視線が家名を襲う。しかし、それは否定の出来ない事実だったので反論しなかった。いや、たとえ否定できたとしても異能肉に対して家名は反論という選択肢は取れないのだが…年上の女性には逆らってはいけませんby姉たちより。

 

「まあ、うん。それは置いておこうよ異能さん。それより、ねえ憂城君」

 

「なんだい家名くん」

 

「君が俺に感謝してるなら、ここは見逃してくれないかな?それで君と俺との間の貸し借りはなしだ。その方がすっきりとして今後、俺と戦えるんじゃないかな?俺に借りがあるままに俺と戦うなんて、君もやりにくいだろう?」

 

「………」

 

家名の言葉に憂城の動きが止まる。まさか本当に家名の説得により此処は憂城が見逃すのかと、あの異様な戦士にそんな人間じみた感性があるのかと異能肉が驚いたその時に両腕を斬られたまま倒れ伏していた『巳』の戦士の死体が地面を這いながら、さながら蛇のように家名へと襲い掛かった。同時に切り落とされた両腕は異能肉の方へと向かってくる。

 

「そうか、そうか、つまりきみはそんなやつなんだな。---いや、知ってたけどね!」

 

同時に家名は懐に忍ばせていた四番目の姉お手製の煙玉を地面に叩きつける。

 

瞬間的に周囲は白い煙で包まれた。

 

 

煙が晴れると其処にはもう家名と異能肉の姿はなく、憂城と『巳』の戦士の死体しかいなかった。

 

 

憂城は少し考えた後、「家名くん。君もお友達にするのはもう少しだけ後にするよ」と言って満月を見上げながら笑った。

 

 

 

 

 

 

 

『卯』の戦士・憂城。『死体作り(ネクロマンチスト)』というチート級のキャラから何とか逃げ出すことの出来た家名はとある有名ファストフード店の店内に身を隠す為に逃げ込んでいた。家名が憂城から逃げ出せたのは幸運だった。たまたまかつて森林限界よりもはるか高地で行われた底辺の最下層の戦場で戦士・憂城と名ばかりの味方であった為に辛うじて共闘の様なことをしていたおかげで『死体作り(ネクロマンチスト)』の能力を知っていたからこそ、逃げ出せた。ちなみにその戦場がどれだけ最下層の底辺だったかというと憂城の他に仲間の戦士として敵国の捕虜を殺して現地調達した毛髪や皮膚、筋肉や内臓をフルに使って防寒着を作り無料配布するような戦士が居たりした。家名はドン引きだったが、憂城は躊躇なく受け取っていたのを覚えている(着ているところはみたことなかったが)。

 

そんな家名は現在、(;^ω^)こんな顔をして有名ファストフード店のレジに立たされ、両手を上げさせられていた。ハリーアップである。言うまでもなく客席にたつお客様の名前は異能肉。約十メートルという距離を置いて、家名は異能肉に機関銃を付きつけられていた。

 

「あの、異能さん。俺は仮にも貴女のピンチを救った訳ですなんですが…」

 

「ええ、だから、わたくしはあなたに礼を言ったではありませんの」

 

家名は確かに先ほどの戦闘で「礼は言いますわ」と言われたが、それでまさか異能肉の中で家名への貸しが帳消しになっているのだろうかと考えて、「なっているんだろうなぁ」と思った。所詮、異能肉の中で自分がその程度の男であることを自覚している家名はその事実に落ち込む事も無く、取りあえず引き金を引かずに入れくれている現状に感謝することにした。

 

「なら、まあ、うん。いいや。両手を上げながら話すことにするけどさ。異能さん。これからどうするの?」

 

大都市の各地に十三戦士(『巳』の死体を含む)がばらばらになっている現状で最も優位に立っているのは巳の死体とチームを組んでいる憂城だ。一対一対一対一対一対一対一対一対一対一対一対二ではどれが優位なんてことは語るに及ばない。あるいは最初から和平案を提示して共闘を望んでいた『申』の戦士・砂流が他の戦士、例えばあの眠そうな少年とチームを組んでいるかもしれないが、その場合は二人一組(ツーマンセル)が二組あることになるが、憂城が率いる死体同盟ラビット一味がその仲間(したい)を加速度的に増やすことができるのを考えればやはり優勝に一番近いのは『卯』の戦士・憂城だ。

 

それを家名と同じ様に理解している異能肉からでたのは「わたくしに従いなさい。わたくしに従っている間は、殺さないで差し上げますわ」という家名への同盟の申し入れだった。

その言葉を半ば予想していた家名は「うん。わかった」と素直に頷いた。

その家名の態度に異能肉は訝し気に眉を潜めた。そして引き金にかかる指への力が少しだけ強まった。

 

「あ、あれ?…俺、素直に従うって言ったよ?なんで異能さんは引き金に力を込めてるの?」

 

「いえ…家名さんがわたくしの言葉に従うのは何時も通りのことなのですけれど、それは仲間として戦場に立った時の話ですわ。敵として相対した時は戦士としての役割を果たす為にわたくしにその萌えキャラみたいな名前の刀を向けていたというのに、どうして今回は敵であるわたくしにそうも素直に従うのか…疑問をもっているだけですわ」

 

「萌えキャラみたいな名前の刀って…酷いなぁ。格好いいじゃん。『無無(むなしぃ)』」

 

家名は心底傷ついた様な素振りで腰の日本刀に目を向けると、ため息を付きながら語りだす。

 

「どうしてって言ってもさ。俺は今回の十三大戦で優勝できないってわかってるから、異能さんの力に成ろうって考えてるんだよ。憂城が優勝するより異能さんが優勝した方がいいって言うのは、考えるまでもない事でしょう?」

 

それは言うまでのない事だった。例え異能肉が世界一の大悪党でも、あるいは姑息な卑怯者であったとしても憂城が優勝するよりはずっといい。そして異能肉が傲慢不遜ではあるが大悪党でなく、姑息と卑怯という言葉から最も遠い戦士であることを家名は知っている。だから、異能肉が優勝することに力を貸すと家名は(`・ω・´)こんな顔をしながら言った。

 

それを受けて異能肉は半ば納得しながら、残り半分の疑問を家名に投げかける。

 

「ならば、なぜ尚更自分で優勝を目指そうとしませんの?あなたにとって『卯』の戦士の優勝よりわたくしの優勝が望ましい様にわたくしの優勝よりあなた自身の優勝の方があなたにとっては望ましい筈ですわ。たとえ、わたくしや『丑』や『申』にあなたが勝てなかったとしても挑んでみる価値はある筈ですわ。なぜ、そうしようとはしませんの?」

 

異能肉の値踏みをする視線が家名を射抜く。もし仮にここで家名が「自分では絶対に異能肉や失井や砂流に勝てないから」なんて言葉を吐いたなら、異能肉は家名を撃ち殺すつもりでいた。ラビット一味と対する為に仲間が欲しいと思っている異能肉だが、欲しいのは戦力であり軟弱者ではない。家名がその程度の戦士ならば、異能肉には必要ない。

 

そして、家名の口から出た言葉は「1パーセントでも勝率があるならあきらめちゃ駄目だって伍姉(いつね)ぇ、五番目の姉から言われてる。だから、もし俺が異能さんや砂流さん、失井さんを倒すことで勝てるなら、優勝を最後まであきらめたりしなかったよ。けど、俺はたとえ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。1パーセントじゃない、ゼロなんだ。だから、優勝は異能さんに譲ろうと思っている」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()というのは、どういうことですの?」

 

家名は「言うより見せる方が速いかな」と言いながら上げていた片手を下げて服の胸元に伸ばす。そして、懐から黒い宝石を取り出した。

 

「‼それは!」

 

「そう、あのドゥデキャ?いや、ドゥデギャ?…まあ、いいや。審判員から呑み込む様に言われた猛毒結晶『獣石』だよ。俺はこの宝石を呑み込まなかったんだ。これは明確なルール違反だ。十三大戦の運営側に知られれば、というより、もう知られているだろうから、俺には優勝する資格がない」

 

「なぜ、呑み込まなかったんですの?まさかそれが毒の宝石であるとわかっていて、命が惜しくなったなんて言いませんわよね?」

 

「まさかだよ。俺はこの宝石が毒だなんて知らなかったし、死にたくないなら尚更呑み込むべきだろう?呑み込んで居ても居なくても他の戦士たちに狙われることに変わりはないわけだし、仮にルール違反をしてまで、例えば毒の宝石呑み込まずに十二時間というタイムリミットが過ぎるまで何処かに隠れてやり過ごして生き残った所で運営側に十三大戦を台無しにした罪で殺される。あるいは『戦犯』認定だ。それは死ぬよりも辛い」

 

ならば何故呑み込まなかったのかという異能肉の至極当然な疑問に対して家名は少しだけ口籠りながら、ルール違反を犯した理由を語りだす。

 

「俺の三番目の姉。三姉(みつね)ぇは宝石が三度の飯より好きなんだ。この黒い宝石は今まで見たことない宝石だったから、きっとあげたらすごい喜ぶと思った。けど、三姉ぇは一度、誰かの体内に入った宝石なんて嫌だろうし、綺麗なまま渡してあげたかったから、呑み込むふりをして隠したんだ。………それが明確なルール違反になっちゃったんだよなぁ」

 

ついてないなぁと(´;ω;`)こんな顔をして後悔している家名に対して、異能肉は今まで抑えていた感情を爆発させた。

 

「ク…ク、ク、アハ、アハハ!アーハハハッ!」

 

もはや機関銃を家名に向けることも優雅さも忘れて異能肉は腹を抱えて大笑いした。

 

「フフフ、家名さん。わたくしはあなたのことを馬鹿だ馬鹿だと思っていましたが、まさか姉の為に命まで捨てるシスコンだとは思いませんでしたわ。ええ、あなたのことを見くびっていたわたくしをどうか許してください」

 

異能肉に許しを請われるというマニア切望の瞬間に立ち会いながら、内容が内容だけに家名は苦笑いを浮かべることしかできなかった。そんな家名を肴に更に笑い続けた異能肉はひとしきり笑い終えると満足げな顔を浮かべながら「では、家名さん。此処にわたくしとあなたの同盟は締結されましたわ。わたくしはあなたに名家の戦士として相応しい戦果を期待します」と言った。

 

此処に『亀』の戦士・家名と『亥』の戦士・異能肉との同盟が結ばれた。

ルール違反による確約された死がある以上、『亀』の戦士・亀井が『亥』の戦士・異能肉を裏切ることはなく、死体連合ラビット一味と同じく死によって結ばれた強固な同盟の誕生は十三大戦の行く末を大きく左右することとなる。

 

『亀』の戦士・家名と『亥』の戦士・異能肉。

二人の関係は死がふたりを分かつまで、揺るぐことはない。

 

 

 

 

 

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