皆様の暇つぶしになれば幸いです<(_ _)>
十三大戦が行われる範囲について明確な規定は存在しない。開戦時の集合場所こそ真新しい廃ビルの一室と定められていたが、戦いさえ始まってしまえばどこに行ったとしても、それこそ国外へ出たとしても問題はない。現に家名の前を優雅に歩く異能肉の先代。前任の『亥』の戦士は第十一回十三大戦においてあえて人口が密集する大都市に戦闘のフィールドを映すことによって戦いを優位に進めたという。(それがありなら、実は憂城を倒すことはそんなに大変じゃないんだよなぁ)と家名は考えていた。
稀代の『
家名の持つ能力に弱点がある様に、万物がそうである様に、『卯』の戦士・憂城の『
憂城が操るのが死体である以上、『
なら、どうするのか?その答えを出したのは家名から憂城についての話を聞いた異能肉だった。
「そういうことでしたらわたくしに豊かな考えがありますわ。わたしく、冷気を放出する武器に覚えがありますの」
そう高らかに宣言した異能肉に家名は拍手喝さいを送った。異能肉はまんざらでもない表情で喜びながら十三大戦に参加している一人の戦士の名前を上げる。
「『辰』の戦士。断罪兄弟・兄。あの双子の戦士はそれぞれ熱気と冷気の殺戮者。炎と氷を操る戦士だと聞いたことがありますわ。首なし死体となった弟が担いでいたのが火炎放射器の様に見えましたから、兄が持つものが冷却液の放出器。中身はおそらく液体窒素ですわね」
液体窒素。言わずと知れた-196℃の冷却液である。確かにその放射器さえあれば憂城の死体を瞬時に冷凍することができるだろう。「わたくしたちが狙う戦士は『辰』ですわ」と異能肉は口元を釣り上げて嗤った。ここで『卯』の戦士を倒す為に『辰』と協力しようと言わない所が異能肉の異能肉たる由縁である。必要なものがあるのなら、欲しいものがあるのなら、奪い取ればいい。自分はそれが許される立場の人間であることを知っている異能肉にとって、それが当たり前な強者の理屈だった。
異能肉がそんな女性であることを知っている家名は異能肉の反対意見を唱える事も無く(まあ彼は年上の女性の言うことなら異能肉以外にも従うのだが)唯々諾々と追従の意を示してみせる。
そうして異能肉と家名の二人は『辰』の戦士の捜索を始めた。
身を隠していた有名ファストフード店を出てオフィス街を堂々と歩く異能肉と家名。家名は無人となったオフィス街を隠れもせずに歩くことに対して家名は目立ってしまって危ないのではないかと考えたが他ならぬ家名の前を行く異能肉があまりに堂々と優雅に散歩でもする様な足取りで歩くので、まさかそれに続かない訳にもいかず、(;´・ω・)こんな顔をしながら歩いていた。そんな中で異能肉が唐突に「そういえば家名さん。今、わたくしが知る『丑』『申』『卯』『辰』『巳』『未』以外の戦士の中であなたが知っている戦士はいるのかしら?」
と家名に問いかけてきた。
それは『辰』の戦士を探す最中の時間で同盟を組むこととなった家名との親睦を深めようと異能肉が考えたからの雑談ではなく、あくまで今後の戦略を立てる為に必要な情報の共有。バトルロイヤルの情報戦的な側面をクローズアップしただけの問いかけだった。
「わたくし、あなたの踏んできた場数だけは素直に賞賛してあげても良いと考えていますの」
確かに家長である一番上の姉に命じられるまま否応なく戦ってきた家名の踏んできた場数は中々どうして大したものだった。故に家名は今回の十三大戦に参加している戦士達の中でもトップクラスに他の戦士達の情報を持っていた。本来であればそれは家名にとって十三大戦を戦い抜く上で大きなアドバンテージとなるものであるから、聞かれても答えず自身の財産として保管しておくべきものであるのだが、家名は素直に異能肉の問いかけに応えた。
それは異能肉(年上の女性)に褒められて嬉しかったからではない。ないったらない。
「そうですね。俺が他に知っているのは『午』と『戌』と『寅』ですかね。その内で『午』と『戌』の戦士については噂で聞いたことのある程度ですが」と家名はだから全面的に信用はしないで下さいよと念を押しながら続ける。
「十三人いた戦士の中で一番の巨体の戦士がたぶん『午』です。南米の戦場で絶対防御を持つ巨体の戦士がいると聞いたことがあります。『午』の戦士の戦士としての才能は巨体に見合った攻撃力ではなく防御力なんでしょうね。『戌』の戦士については何でも噛み砕く『
「あと一人、『寅』の戦士は虎柄のビキニなんてはしたない恰好をしていたあの女ですわよね?」
「ええ、『寅』の戦士・
「はあ、煮え切らない言葉ですわ。『午』と『戌』は良くて何故『寅』はわたくしにとって戦いにくい相手だと言いますの?」
「それだけ妬良さんがエキスパートだってことです。酔拳とか関係なく純粋に格闘技術が飛びぬけて強いんですよ。千鳥足でたった一人で戦場に赴いて敵を全滅させる戦士なんて俺の知る限り妬良さんだけですし、あの失井さんと接近戦でいい勝負するかもしれないなんて思った戦士は砂流さんと妬良さんだけですよ」
『寅』の戦士・妬良。酒に溺れて味方の名前が覚えられなくなったから一人で戦うようになったとか、地図が読めなくなってしまったから行き当たりばったりで戦うようになったとか、そんな酔っ払いの戯言を実践しながら戦果を挙げ続けた戦士。酒に溺れ血に酔う狂戦士。様々な戦場で色々な戦士を見てきた家名からしてもそんな戦士は妬良以外に知らない。
だから『寅』の戦士には注意しましょうという家名の言葉に異能肉は素直に受け入れることにした。異能肉は先ほど言った通り家名が踏んできた場数だけは素直に賞賛している。『亀』の戦士・家名は異能肉より歳は若いけれど、戦場で生きてきた時間ならば自分よりも長いだろうことを異能肉は知っている。幾多の戦場で数多の戦士達と戦ってきた家名は、ならばその歳で長寿の亀たり得ているのだ。(伊達に亀井家で
家名が異能肉に率いられオフィス街を歩く様子をオフィスビルの屋上という高所から見下ろしている二人の戦士がいた。『戌』の戦士・
怒突は猟犬の様な眼光を異能肉に向けながら「あいつは『
庭取と同じく怒突もまた異能肉だけでなく家名のことを知っていた。曰く生存のスペシャリスト。曰く動かずの亀。曰く敗戦しても生きている戦士。曰く年上好き。などなど様々な戦場に顔を出す家名については色々な噂が流れている。その大半が家名の戦闘力を彷彿とさせるものではないのだが、庭取の言うようにその戦闘経験の高さは警戒に値すると怒突は思う。そして何より歴戦の戦士。熟練の猟犬たる怒突からすれば幾多の戦場を越えて生きているというだけで家名は化け物だ。(生きているということは勝ってるっつーことだ。たとえ敗北した陣営の戦士として戦っていたとしても生きいるならそりゃ勝ちだ。ある意味じゃ異能肉より化物じみた戦士だぜ)と怒突は内心で毒づきながら、「庭取!」と声を上げた「ひゃ、ひゃいっ」と庭取の可愛らしい返事が返る。
「どうやらあの二人はお前が見た通り同盟を組んだようだな」
「は、はい。残念ながら鳥さん達が入れなかったファストフード店の中でどんな会話があったかまでは解りませんがわたしが『鵜の目鷹の目』で見た通りに同盟を組んでいます!」
怒突が言ったことを何故か自信満々に復唱する庭取に対して怒突は何とも言えない情けない感情を抱いたが、しかし、『酉』の戦士・庭取の能力『鵜の目鷹の目』は優秀な能力だった。あらゆる鳥類との意思疎通が可能で、視界を共有することの出来る能力は怒突からしても金で話が付くのなら打ってほしい程には羨ましい。庭取はその能力を持って実は廃ビルの倒壊現場で行われた異能肉と憂城の戦闘。そして家名の乱入を終始見ていた。そこで『卯』の戦士の持つ『
「そ、それで怒突さん。あの二人はラビット一味を倒す為に私達と一致団結してくださるでしょうか?」と庭取は眼下を歩く異能肉と家名をじっと見つめながら怒突に伺うように問いかけた。
「いや、駄目だな。実際に見て分かったが、異能肉は噂通りで見た目通りの女だ。俺達と対等な同盟なんて組んじゃくれねーよ。家名も一人なら引き込めたかも知れねーが、異能肉と一緒じゃ無理だろう。噂じゃあいつは年上好きだからなぁ」と怒突は言い切り、次に庭取の身体を見て溜息を付きながら「お前が異能肉より大人の女性として魅力的ならわからなかったんだがな」と言った。そして「あー!あーあー!怒突さんっ!それはセクハラですよっ!セクハラっ!」とぷんぷんと起こる庭取に形ばかりの謝罪をして、怒突は猟犬の眼光で庭取を見た。
「そういう訳だ。仲間に出来ない以上、あの二人は殺さなきゃならねぇ。これ以上、『卯』の戦士に
「は、はい。けど、勝算はあるのでしょうか?さっきも言いましたが、二人とも手強い戦士ですよ?」
庭取の言うように異能肉と家名の二人の戦士は手強い相手だ。しかし、怒突にはそれを打破できるだけの秘策があった。世間には『狂犬鋲』による噛みつきこそが戦闘スタイルだと思わせている怒突の秘中の秘。その牙から分泌される毒を扱う『毒殺師』としてのスキル。それこそが『戌』の戦士・怒突の本当の戦闘スタイル。そして「庭取」「は、はい。なんでしょう?」「腕を出せ」「? こうですか?」疑問そうに、こわごわと突き出された庭取の華奢な腕に有無を言わせず怒突は噛みついた―――牙を突き立てた。
「え?う、うわ、ひええっ!」悲鳴を上げる庭取に「動くな!」と声を掛けながら牙から分泌される毒と同時に麻酔薬も注入する。毒を操る『毒殺師』。その施術は一秒も掛からない内に終了した。庭取の腕から口を離した怒突が「どうだ?」と尋ねると「えっと…どうだと言われましても…いえ、なんか力が湧いてくるような?」と庭取は身体の底から湧いてくる感覚に戸惑った。その様子に怒突は牙を覗かせる獰猛な笑みを浮かべながら言う。
「その名も秘薬『ワンマンアーミー』。ドーピングだよ」。
『毒殺師』として噛みついた相手を時には殺し、時には殺し、時には殺し、時には殺してきた怒突だったが、殺さない毒もある。対象者の潜在能力を限界まで引き出す秘薬『ワンマンアーミー』。
「これで一時的だがお前の戦闘能力は限界までパワーアップされた。これならお前でもあの二人の戦士と戦える筈だ」と怒突はいいながら(無論、これもまた劇薬である以上それなりの無理が伴うから、自分には絶対に処方しようとも思わないがな)と思う。
戦闘能力の低い庭取を強化し戦力として異能肉と家名の前に立たせ自分は、その背後を突く。なんなら『毒殺師』としてのスキルを存分に使って『亥』と『亀』と『酉』がいる戦場に無差別に毒を散布したって良い。(その場合、『酉』も死んじまうだろうから、また『卯』を倒す為に誰かと組まなきゃならねぇが…それならそれでいい。狂犬にして猟犬、『戌』の戦士・怒突のそれがやり方だぜ)と怒突はドーピングにより強化された肉体に驚く庭取を見ながら内心でほくそ笑む。
「わ、わわ、何これ、何これ、何これ」そんな怒突の邪悪な考えの横で、噛まれた腕を抱える様にただただ混乱する素振りの『酉』。秘薬『ワンマンアーミー』の効果で突如として溢れてくる未経験のパワーに戸惑っている様子の庭取に怒突は「落ち着け。俺はきっかけを与えただけで、あくまでもそれはお前自身の力だ。心を落ち着かせてコントロールするんだ」と声を掛けた。「こ、コントロール……、こ、こうですか?」と庭取はそれまでと変わらないあたふたした口調で拳を床へと向けて、そして、次の瞬間にオフィスビルの屋上の床は砕け倒壊した。
「!」「( ゚Д゚)…」突如として背後で響いた轟音。家名と異能肉が振り返ればそこには今まさに倒壊していくビルがあった。先ほど通り過ぎたビルが倒壊する様子を見た二人はすぐさまに動きだす。異能肉が左右にもつ機関銃を倒壊したビルの方向へと向けて、家名がそんな異能肉の前にでて日本刀を抜く。後衛と前衛。後衛である異能肉の機関銃が現れる敵諸共に前衛である家名を粉みじんにしかねない事にさえ目を瞑れば理想形な陣形を組んで二人は倒壊したビル。立ち上る砂煙の先を見据える。そして――砂煙の先で無数の何かが蠢くのを二人の眼が捕えた。砂煙の先から飛び出してきたのは、鳥の大群だった。
「家名さん」異能肉の優雅な呼びかけを聞いて前衛に居た家名は倒れ込む様に地面に伏せる。直後、家名の頭上を無数の弾丸が通り過ぎていった。異能肉の持つ機関銃『愛終』と『命恋』が火を噴いた。現れた鳥の大群を粉みじんにしながら尚も止まらぬ機関銃の連射の中で家名はまさしく亀の様に頭を引っ込めながら実直に匍匐前進での砂煙の先への進軍を試みる。そして、倒壊したビルの傍まで家名が辿り着いた所でようやく異能肉の機関銃の連射が止まる。もう鳥の大群は何処にもおらず無数の肉片が辺りに散らばるのみだ。
家名は倒壊したビルに隠れているであろう鳥を操っていた戦士を探す為に立ち上がる。
瞬間―――
「『酉』の戦士――『啄んで殺す』庭取っ!」
派手な格好をした女性の戦士。庭取がトライデントにも見える武器『鶏冠刺』を家名に向けながら羽ばたく様に飛び出してきた。家名は日本刀で迎撃する。異能肉はまさか本当に現れた敵の戦士ごと家名を撃ち殺す訳にもいかず機関銃を庭取と家名の方に向けながらも引き金を引くことはない。無論、異能肉は必要ならば家名ごと敵の戦士を打ち抜くことに躊躇はない。例え味方の戦士を撃ち殺してしまったとしても高貴なる自分の為に死ねたのならば、それが豊かな死様であると異能肉は思っているし、それが家名であるならば尚更だ。異能肉が引き金を引かなかったのは引く必要が無いと思ったからだ。(『酉』の戦士が操っていた鳥たちはわたくしの『愛終』と『命恋』が粉みじんにしてさしあげました。なら、もう『酉』の戦士に残されたのは手に持った槍の様な武器で戦うことだけ。それならば家名さんはあんな気弱そうな、力のなさそうな戦士に負ける訳がありませんわ)それが家名と数多くの戦場を共にした異能肉の考えだった。そして、それは決して間違いでない。幾多の戦場に赴き数多の戦士達と戦ってきた家名の戦闘能力は当然ながら高い。最強クラスである『丑』や『申』の戦士。相性が悪い自分には敵わなくとも戦士としての実力は『亀』もトップクラスだと異能肉は考えていた。だが、しかし、そんな異能肉の考えを裏切る様にぶつかり合った家名と庭取の武器。家名の『無無』は庭取の『鶏冠刺』に呆気なく押され、家名は( ゚Д゚)こんな顔をしながら呆気なく吹き飛ばされた。
「なあっ!?」戦士としてそれなりに恵まれた体躯を持つ家名が華奢な女戦士に吹き飛ばされるという光景に流石の異能肉も優雅さを忘れて驚いた。そして、『酉』の戦士の細腕にそんな本来は力がある筈がないと考える。(第一、あの『酉』の戦士にはオーラがありませんわ。戦闘を得意とするタイプではないだろう戦士が家名さんを吹き飛ばしたということは…ドーピングですわね!)そこまで考えて異能肉は(しまった!)と思った。『酉』の戦士がみせた鳥を操る能力。そして『酉』の戦士に掛けられたドーピング。
(鳥を操る能力と毒を操る能力なんて関連性の薄い二つの能力を持つ戦士なんている筈がありませんわ。つまり敵はわたくしたちと同じく二人以上のチームを…!)そこまで考えた所で異能肉の背後から飛び出してくる影があった。
「『戌』の戦士――『噛んで含めるように殺す』怒突!」
異能肉の隙を伺っていた『戌』の戦士・怒突が異能肉の背後から現れた。飛び出してきた怒突の間合いは既に異能肉の間合いではない。巨大な機関銃を武器とする以上、異能肉の得意とする間合いは言うまでもなく中距離~遠距離。近距離まで近づかれては怒突の『噛みつき』の方が当然ながら速い。そのことを怒突は見抜き異能肉の隙を突いた。そして、異能肉は言うまでもなく自らの弱点であるそれを理解していた。故に敵の戦士に無用に近づかれない様に細心の注意を払ってきた。格下と見下す家名と同盟を結んだ場面でさえ、異能肉は10メートルという距離を保っていたのだ。そんな彼女が、傲慢であり高飛車であり堂々としているが思慮深く知性に満ちた淑女である彼女が、こうも簡単に怒突に、見ず知らずの男に手を伸ばせば届くほどの距離に近づかれてしまったのは他の事に気を取られていてしまったからに違いがなかった。
それを理解した異能肉は屈辱的な表情を浮かべて思った。(このわたしくが、まかさ、このわたしくが)。それは背後を取った怒突へ向けられる感情ではなかった。全く別の戦士に向けられた屈辱的な感情だった。(家名が『酉』の戦士に敗れたことに動揺したといいますの‼)。異能肉のそんな心の中での葛藤を知る筈もない怒突は猟犬たる自身の持ち味を以て正確に、狂犬たる自身の持ち味を以て躊躇なく、異能肉の首元に噛みつこうとして―――怒突の喉元めがけて槍の様なものが飛んできた。
(!)(!)(!)決まったと思われた勝負に投げ込まれた乾坤一擲に三人の戦士は驚いた。中でも驚いたのは喉元を狙われた怒突だったが、その驚きは飛んできた槍の様なもので喉元を潰されてしまったので声に出すことも出来なかった。「っー!っー!」喉が潰され息も出来ずに暗転し始めた視界の中で怒突は自分の喉を潰した後に地面に落ちた槍の様なものを見た。それは日本刀の鞘だった。つまりそれは庭取に吹き飛ばされる中で異能肉よりも早く敵が二人以上いることに気が付いた家名が、次に狙われるだろう異能肉を護る為に我武者羅に異能肉の方へと投げた『無無』の鞘だった。(ああ、糞。ツイてねぇぜ。いや、違うか。此処は『亀』の戦士を褒めるべきだ。流石は『長寿の家名』。自分が生き残る術だけじゃなく、味方を生き残らせる術にも長けてやがったか)。そんな風に最後には自分を殺した戦士を褒め称えながら、『戌』の戦士・怒突は犬のように誇り高く死んだ。
「嘘。怒突さん。死んじゃったんですか?」『戌』の戦士・怒突の死に『酉』の戦士・庭取はそんな呟きを漏らした。まさか怒突が死んでしまうなんて、まさか利用しようとしていた相手が利用する前に死んでしまうなんて考えても見なかった庭取は動揺した。けれど秘薬『ワンマンアーミー』によって底上げされた彼女のメンタルはそんな事では折れはしなかった。怒突の死を「死んでしまったのなら仕方ありませんね」と受け入れて『鶏冠刺』を異能肉へと向けた。異能肉は自分を殺しかけた怒突と自分を救った日本刀の鞘を一瞥した後、庭取と向き合う。その表情に最早、先ほどまでの焦りはない。それもその筈。異能肉と庭取の距離は先ほどまで怒突とは違い十分すぎる位に離れている。この距離は異能肉の間合いだ。庭取の『鶏冠刺』が異能肉に届くよりもずっと早く彼女の愛機関銃『愛終』と『命恋』が庭取を粉みじんにすることだろう。
庭取の生存は絶望的だ。それを更に確実にするように吹き飛ばされていた家名が砂まみれになりながらも大きな怪我は追っていない様子で立ち上がってきた。「礼は言いませんわよ。そもそもあなたが無様に吹き飛ばされなどしなければわたくしがピンチになることなどなかったのですもの」「(;^ω^)…なんって。いや、うん。面目ない。ちょっと油断した」そんな異能肉と家名の会話を聞きながら、庭取はどうやってこの場から逃げ出すかを考えていた。今の庭取に怒突の仇を取りたいだとかそういう考えは勿論ない。庭取は秘薬『ワンマンアーミー』によって極限まで強化された頭脳を持って自身の生存の可能性のみを模索する。
『酉』の戦士・庭取は戦士としては『亀』の戦士・家名に似たタイプの戦士だった。いや、『亀』の戦士・家名が『酉』の戦士・庭取に似ていると言うべきなのだろうか。ともかくとして『最終的に生き残れば勝ち』という考えを持つ庭取は気弱だけれど弱くなく、強くはないが
それが果たして目の前の二人の戦士にはどう映るのかを計算しながら、強かに二人の戦士の情に訴えた。
そして、庭取が流した涙は狙い通りに家名の心を撃っていた。家名はまかさ仲間の戦士が死んだことで涙を流すような心優しい戦士が『申』の戦士・砂流の他に存在するなんて思わなかったと驚き。また先ほど自分が喉を潰して殺した戦士と目の前の戦士との関係はただの仲間の戦士同士という間柄ではなかったのか?とΣ(゚Д゚)こんな顔をしながら思っていた。そんな家名の感情の揺れを感じ取った異能肉は無能を見る眼で家名を見下しながらも、しかし、ある意味で泣いている女性を相手に手間取る家名の様子に古き良き戦士の面影も感じた(無論、それで目の前の戦士を見逃そうなどと家名が言えば諸共に粉みじんにするのだが)。
「家名さん。『酉』の戦士と決闘しなさい」と異能肉は言った。「え?どういうこと?」と首を傾げる家名に対して異能肉は溜息を付きながら、「決闘ですわ決闘。『戌』の戦士の仇を討ちたいと思っている『酉』の戦士の意思を組んで差し上げなさいと言っているんですの」と捲し立てる。
「下の者の挑戦を受けるのも名家の戦士の義務ですわ。決闘にて尋常に勝負なさい。それで良いですわね。『酉』の戦士。わたくしは手を出しませんわ。無論、決闘が終わった後もわたくしの機関銃があなたを狙うことはありません。無論、それはこの場限りですけれどね」と言いながら異能肉は左右の機関銃の銃口を地面に降ろして後ろに下がる。代わりに異能肉に決闘を命じられた家名が地面に落ちていた鞘を拾い一度日本刀を鞘の中に収めながら前に出た。
その光景を見て庭取は眼から滲む涙を止めることなく、内心でほくそ笑む。計算通りだった。気持ちの悪い位に庭取にとって理想的な出来事が目の前で起きていた。(いくらわたしが秘薬『ワンマンアーミー』で強化されていても二人の戦士を敵に回して勝てる訳が無い。けど、一人の戦士が相手なら今のわたしなら勝ち目はある)そう庭取は考えながら前に出てきた家名に両手で持った『鶏冠刺』の先端を真っ直ぐと向ける。(正直、『ワンマンアーミー』で強化されていても鳥さん達がいない現状で一対一で『亥』の戦士に勝てるとは思わない。けど、さっき強化された腕力で吹き飛ばすことができた『亀』の戦士が相手なら勝てるはず。『亀』の戦士に勝った後で、『亥』の戦士が宣言通りにわたしに手を出してこなければ身を隠してもう一度、鳥さん達を呼んで。そして『亥』の戦士は『鳥葬』で殺す。それで私は生き残れるんだっ)
「『酉』の戦士――『啄んで殺す』庭取っ!」
「『亀』の戦士――『動いたら殺す』家名」
そして、秘薬『ワンマンアーミー』によって強化され拳でビルを倒壊させる程に強力になった筋力に追随する、驚異的な脚力で生き残るために走り出した庭取は、(--え?)首を斬り落とされ絶命した。くるくると回転する視界の中で庭取は、「俺の戦士としての能力は『
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