十二大戦~盲亀の浮木~   作:白白明け

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暇つぶしになれば幸いです<(_ _)>


その④

 

 

 

『戌』の戦士・怒突と『酉』の戦士・庭取の死体から黒い宝石を取り出した異能肉は「これで四つ集まりましたわ。滑り出しは上々ですわね」と豊かに笑った。戦いで得た『戌』と『酉』。そして自身と家名の分の宝石を合わせれば異能肉の手には既に三分の一ちかくの数の宝石が集まっていることになる。他の戦士が現状、どれだけの宝石を集めているかはわからないが、おそらく今の段階で優勝に一番近いのは異能肉だろうと家名は(*‘ω‘ *)こんな顔をしながら思った。

手に入れた二つの黒い宝石を月明かりに照らしながら楽し気な表情を浮かべていた異能肉はひとしきり眺めて満足したのだろう、二つの宝石を懐に仕舞うと家名の方に向き直り「では、『辰』の捜索を再開しますわ」と言った。

家名は異能肉の言葉に頷き探索を再開したのだが………『辰』の戦士の姿は何処を探しても見つかることは無かった。町中を歩き回る中で次第に異能肉の機嫌が悪くなっていくのを家名は戦々恐々としながら感じていた。見た目こそ目も眩むような美女であるが屈強な戦士でもある異能肉がまさか探索で疲れてしまったという訳ではないだろうが、しかし、肉体的な疲労と精神的な疲労は別物だ。失せものが見つからないというのは中々に堪えるものだということは説明するまでもないだろう。結果として、異能肉は家名に八つ当たりをした。

 

「ねぇ、家名さん」と家名の前を歩いていた異能肉は唐突に立ち止まり振り返ると、その豊満な胸に家名の頭を抱き寄せた。「(゚д゚)!…」家名は固まった。身長176の異能肉が

身長177センチの家名の頭を抱き寄せるのは家名に無理のある前傾姿勢を取らせるものではあったが、異能肉は淑女の嗜みとしてハイヒールを履いていたので家名はあまり抵抗なく異能肉の胸に収まった。「ねぇ、家名さん。『辰』の戦士が見当たりませんが、どこにいるのでしょう?」と家名の耳元で異能肉の艶のある声が囁かれる。家名はだらだらと冷や汗を流しながら「ち、地上は十分に探しましたし…あと、は、上と下かと…」と答える。異能肉の胸に収まって見る光景はマニア感動のものではあったが生殺与奪を握られている家名としては感動を覚える暇もなかった。「なるほど上空と下水道ということですわね。わかりましたわ。此処は二手に別れて『辰』を探しましょう。わたくし、下水道なんて汚い所に行きたくありませんので、そちらは家名さんにお任せしますわ」と異能肉は右手に持った機関銃『愛終』の側部で家名の左側頭部をゴリゴリと撫でながらそう命じる。家名は(`・ω・´)ゞこんな顔をしながら命令に何時も通りに唯々諾々と従うのだった。

 

 

「では任せましたわ」

 

 

そう言って優雅に去って行った異能肉を見送った後、家名はやっと訪れた平穏にため息をついた。(いや、異能さんのことは嫌いじゃないんだけどさあ。むしろ人間的にも戦士的にも好きな部類の人なんだけどさあ。あの人の前に居ると緊張しちゃうんだよなあ)と内心吐露した。家名にとって異能肉という戦士は傲慢で高飛車で、見た目通りに嫌で性悪な性格をした戦士ではあるが、彼女の持つ大凡の人間が持ちえない強固な程の自信と轟く程に揺るぎない矜持には、正直、憧れにも似た感情を抱いていた。亀井家という女尊男卑な家系において七人の姉たちに虐められる日々を送ってきた家名には大凡持ちえない自信と矜持を異能肉は持っている。(青い血とか、現代で惜しみなく使えるの異能さん位のものだ)と考える家名の異能肉に対する評価は高い。だからこそ家名は異能肉に追随している。

早々に優勝資格を失ってしまった十三大戦で家名に出来ることは誰かの優勝に力を貸すことだけだ。誰かのたったひとつの願いを叶えてあげたいだとか。十三戦士の中で彼(彼女)がたったひとつの願いを叶えるべきだとか。そういう思いは家名には無いのだけれど、彼(彼女)が優勝するのなら納得できるくらいの依怙贔屓はある。(異能さん。砂流さん。失井さん。その中でなんで俺が異能さんに協力するのかって言うなら…)

 

「惚れたら負け…なんだよなあ」

 

実は亀井は異能肉のことが人間的にも戦士的にも、女性としても好きだった。亀井と異能肉は相性が悪い。戦士としての能力の相性は悪く。性格的にも相性が悪い。けれど、だからこそ家名は自分には無いもの全てをもつ異能肉に恋をしてしまった。戦場で仲間の戦士として戦う度に恋い焦がれて、敵の戦士として戦う度に愛してしまった。家名にとって異能肉は姉弟愛以外の愛情を教えてくれた女性だった。

だから、家名は十三大戦の中で異能肉と戦わなければならないと知った時に(;^ω^)こんな顔で困惑して、味方として戦えるとわかった時に(*‘ω‘ *)こんな顔で安堵していた。

(もちろん、こんな気持ちを異能さんに伝える気なんてさらさらないんだけどね)と家名は(*´ω`*)こんな顔をして考える。家名は異能肉が十二人の男性と健全に付き合っていることを知っているし、異能肉の眼中に自分の存在が男性として映っていないことも理解している。第一、戦士が戦士と恋仲になれば碌な事にならないなんてことは史実と創作が家名に教えてくれている。(さっきの『酉』の戦士も彼氏だった『戌』の戦士が目の前で死んで動揺なんてしていなければ、俺に勝てたかもしれない)。そんな家名の思考は庭取に騙されるまま信じてしまった残念な勘違いだったけれど、考え自体は的外れではないのだ。

だから、異能肉への想いを自覚して以降も家名は異能肉と戦場で敵の戦士として相対した時は殺す気で、本気で、戦ってきた。それが戦場での戦士としての習わしであったし、亀井家の家長である一番上の姉の命令でもあったし、何より家名自身も愛しいから敵でも殺さないとか、好きだから敵でも殺さないとか、そんな軟弱な思考を戦場に持ちこむ程に戦士として落ちぶれる気はなかった。(何よりそんなことになってしまったら、そんなざまになかってしまったら、それこそ俺は戦士としても異能さんの眼中に入らなくなってしまう)

だから、

 

「さて、行こうか」

 

余分な考えを捨てて『亀』の戦士・家名は歩む。向かう先はマンホールの下の下水道。七人の姉に囲まれ育ち年上好きを拗らせた彼は『亥』の戦士・異能肉の忠実なる恋の奴隷にして、異能肉に認められるために異能肉を殺す覚悟を持った一人の男だった。

 

 

 

 

 

 

 

下水道。人口五十万人規模の巨大都市を地下で支えるそこは血管のように様に張り巡らされていて、隠れ家としたは絶好の場所だと家名は思った。(けど、まあ、街全体がゴーストタウン化して隠れ家なんて選び放題の現状で下水道を絶好の場所だなんて思うのは『亀』の戦士である俺と後は鼠だけに『子』の戦士くらいかな)と下水道を歩きながらそんなことを考え始めた家名の脳裏に浮かんだのは集合場所で眠そうにしていた、半分くらいは本当に寝ていた小柄な少年のことだった。(『丑』の戦士・失井。『寅』の戦士・妬良。『卯』の戦士・憂城。『辰』の戦士・断罪兄弟・兄。『巳』の戦士・断罪兄弟・弟。『午』の戦士・巨体の戦士。『未』の戦士・爺さんの戦士。『申』の戦士・砂流。『酉』の戦士・庭取。『戌』の戦士・怒突。『亥』の戦士・異能肉。そして『亀』の戦士・俺。なら、あの少年は残る『子』の戦士だってことになる)。

『子』の戦士。戦士の中では若輩者の部類である家名よりも年若い、少年と言って差し支えないだろう戦士の姿に家名は見覚えが無かった。戦場でも悪目立ちしてしまうだろう年頃の戦士である以上、一度でも出会っていれば忘れることはないだろうから、つまり本当に家名が初めて見た戦士ということになる。幾多の戦場で数多の戦士と出会ってきた家名が見た事どころか噂にも聞いたことのない戦士。(見た感じ戦えるタイプの戦士には見えなかったけど、だからこそ、警戒はするべきなんだろうな)と家名は思う。家名が見た事も聞いたこともない戦士ということは最近戦士になったばかりなのかもしれない。(あの年頃を考えれば、それが一番しっくりくる)。ならば、あの『子』の戦士はあの若さで戦士としての経験も浅いのに十三大戦の参加資格を得た戦士という事になる。(天才って奴なのかな?)。まさか『皆殺しの天才』と呼ばれる天才という言葉の意味すら変えてしまった『丑』の戦士程ではないだろうけれど、あの『子』の戦士もまたあの若さで十三大戦の参加資格を得るだけの何かしらを持っている事に間違いはないのだと家名は( 一一)こんな顔で考えていた。

 

そして、そんなことを考えながら歩いていた家名の足が止まる。家名は進む先に誰かがいる気配を感じ取った。家名はちらりと横を流れる下水をみた。臭いが酷くヘドロだらけだが、下水も水は水だ。『亀』の戦士たる家名には馴染み深い。水面の波紋を見て、家名は考える。(誰かいる。それも一人じゃない。二人以上だ。………向こうは此方に気が付いていない?)。家名は日本刀の柄に手を掛ける。(このまま進めばニ対一という戦闘になるかな?)。ニ対一という戦闘は珍しくもない戦場の光景だ。加えて家名の戦士としての能力『後の先(あとだし)』なら即座に一対一に持ち込むことも可能だろう。それなら何の問題も無いと家名は考える。しかし、仮にこの先に居るのが家名の『後の先(あとだし)』を超える能力を持った戦士だった場合、家名は死ぬ。(考えられる最悪はこの先に居る戦士の一人が、失井さんだった場合だ。あの人は一度砂流さんの平和主義者同盟(仮)に手を上げていたから、他の戦士と組んでいる可能性がある)。その場合、家名はあっけなく死ぬ。下水道という逃げ場の少ない場所でまさか最強の戦士から逃げられるとも思わない。(俺の能力は失井さんにはたぶん意味がない)。

『亀』の戦士・家名の持つ戦士としての能力『後の先(あとだし)』は動いた相手より速く動けるという超反射的能力だ。一見して強力な能力だが、無論、制限はある。それは能力を使い続けることは出来ないという事。当然だ。それが出来てしまえば家名はどんな戦士よりも速く動くことの出来る最速の戦士になってしまう。最速ほど『亀』に似合わない言葉は無い。能力の発動は相手の動きに対して一度が限度。発動後は一定時間、筋線維と反射神経を休ませなければならない。無理に連続使用しようとすれば二度目で筋肉が引きちぎれ。三度目で骨が砕ける。四度目でたぶん全身の血管が破れて死ぬ。三度目までは五番目の姉との訓練という名の拷問で経験済みの家名のそれが予想だった。(無論、それは無理をすればギリギリ三連続『後の先(あとだし)』が可能だっていう事なんだけど、それが俺の秘中の秘な訳だけど、それで仮に敵の戦士に勝てたとしてもこんな不衛生な下水道で身体がズタズタになって動けなくなれば破傷風なっちゃうだろうしなあ)。それは敗北と同じだ。こんな不衛生な下水道で倒れることになれば、それこそ家名の想い人である異能肉から汚物を見るような視線を向けられるに違いない。(なら、どうする?引き返すか)と家名は考えてそれも駄目だろうと思った。(何の成果も無いどころか、得ようともせずに逃げ出せばそれこそ異能さんに殺される)。ならばもう進むしかないと覚悟を決めて家名はゆっくりと慎重に亀の様な足取りで人の気配がする方へと歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

結果から言えば家名の亀の様にゆっくりとした慎重な足取りは全くの無駄足となった。それは向かった先が既にもぬけの殻だったとか、待ち構えていた戦士が家名にとって歯牙にもかけない実力の戦士だったとか、そういう訳では勿論なく。下水道に居た戦士が戦々恐々とした足取りでやってきた家名を「遅かったね。家名くん」と敵意の無い笑顔で迎え入れてくれたからだった。

 

「…砂流さん」

 

『申』の戦士・砂流。生粋の善人にして平和主義者がまるでピクニックにでも来たかのように、レジャーシートを敷いて、その上に座って家名のことを待っていた。その溌溂とした陽気そうな雰囲気は、ここが下水道であることも、今が殺しあいの最中であることも、わからなくなってしまいそうなそれだった。その陽だまりにも似た砂流の雰囲気を受けて、家名は(この人はどんな時でもかわらないなあ)と思った。どんな状況であれ自分のスタンツを変えないフィジカルを持つ砂流はそういう意味では異能肉と似たタイプの戦士だと家名は思っている。(だからこそ、異能肉さんは砂流さんのことを八つ裂きにしても足りないくらいに思っているんだよな)。そう異能肉と砂流は家名からすればあり得ない程に仲が悪い。と言うより異能肉が一方的に砂流のことを毛嫌いしている。そういう意味では異能肉と同盟を組んでいる家名としては、砂流はある意味で失井よりも出会いたくない戦士だった。しかし、まさかそんな感情を家名が砂流(年上の女性)に対してみせるはずも無く家名は(^ω^)こんな顔をして砂流に言葉を返した。「遅かったねって…俺が来ることを分かっていたんですか?」「うん。戦士が近づく気配を感じたからね。それが家名くんの気配だってことは直ぐにわかったよ」離れた場所にいる敵の戦士の人数を水の波紋をみて把握するどころでは無い、個人の特定まで軽々とやってしまう砂流はやはり相変わらず化物じみていると家名は冷や汗を流す。「まあ、取りあえず座って。今コーヒーをいれるわ」砂流に促され家名はレジャーシートの上に腰を下ろす。

そこで家名は砂流の影に隠れて見えていなかったもう一人の戦士の姿をみた。レジャーシートの上に寝転がり、頭の後ろで手を組み、足も組んで、眼を閉じている少年がいた。「砂流さん、その子は?」「ああ、寝住くん?」砂流は寝ている少年の身体を揺り起こす。少年は目を覚ますと家名に視線を向けて、「『子』の戦士――『うじゃうじゃ殺す』寝住」と欠伸を交えながら言った。唐突な自己紹介に困惑しながらも家名も「『亀』の戦士――『動いたら殺す』家名」と返す。寝住は眠気眼で家名の名前を聞いた後で「そうか。『亀』の戦士。かめ、なのか…」とつぶやくと再び目を閉じてします。その様子に砂流は「本当、困った子だなあ」と呆れたように言ってから家名の方に膝ごと向いた。「ごめんなさいね。悪い子じゃないみたいなんだけれど」「あ、いえ、気にしませんよ」家名としては十三人の戦士の中で唯一情報の無い『子』の戦士についてもう少し会話をして情報を集めたいと思いもしたけれど、まさか砂流を無視して寝住と話すわけにも行かず視線を砂流へと戻した。(まあ寝住君と砂流さんが二人一組(ツーマンセル)で動いているなら、砂流さんが指揮を執っているのだろうし。あまり気にしなくていいか)と家名が思っていた所で、「はい。コーヒー」と砂流から鉄製のマグカップに淹れられた湯気の立つコーヒーが渡された。

戦いの最中で敵から渡されたコーヒー。本来ならそんなモノは受け取るべきじゃないことは言うまでもない事だが、砂流が渡してくれたものならば別だと家名は受け取り口を付ける。口の中に広がるのは苦み。ただそれだけ。「ふぅ…」「一息つけたかな?…戦いの後なんでしょう?」「わかりますか?」「うん。少しだけ血の匂いがするわ」と砂流は少しだけ悲しそうに視線を落とした。(他の戦士の死を、それも敵の戦士の死を悲しむことができる戦士がいる。俺は砂流さんに出会うまでそれを知らなかった)。家名は言いにくそうにしながらも伝えた方がいいのだろうと言葉を続ける。「『戌』と『酉』の戦士を殺しました」「そう、もう二人死んじゃったんだ……残念だわ」砂流は本当に残念そうに言う。その事実に、ショックを受けたことを隠そうともしない――強がろうともしない。

砂流が本気で誰も死なないことを望んでいるのだと。平和裏に十三大戦を終わらせようとしているのだと改めて痛感した家名は砂流に問いかける。「砂流さん。貴女が言っていた和平案は、必勝法は、二人の戦士が死んでしまってもまだ使えるんですか?」「使えるわ。まだ、その詳細をつまびらかにするわけにもいかないけれど……けど、犠牲者が増える前にそろそろ動かないとね。幸い腹ごしらえも済んでいるし、すぐにでも」そう言って砂流は真っ直ぐと家名の目を見た。

 

「家名くん。お願いがあるのだけれど、私に協力してくれないかしら」「………それは俺に平和主義者同盟に入れってことですよね」「ええ。あのとき、家名くんは手を挙げてはくれなかったけれど、それでもお願いしたいの。私に力を貸してください」砂流は深々と家名に頭を下げた。

砂流と家名の力関係は、隔絶している。戦士としての能力を比べたのなら、家名が砂流より秀でいる部分など無いほどに砂流は強い戦士だ。そんな格上の戦士に頭を下げられている状況に、いや、年上の女性に頭を下げて頼まれるなんて状況に家名が耐えられるわけもの無く「あっ、頭を上げてくださいっ」と慌てた。続けて直ぐにでも砂流(年上の女性)に追随することばが出るのが家名(今回の砂流の申し出に家名にデメリットは何もない)なのだが、しかし、今の家名にはそれが出来ない理由がある。

 

「すいません。直ぐに返事はできないです」と次は家名が砂流に深々と頭を下げた。「いま、俺は…その、異能さんと同盟関係にあります。だから、俺の一存では決められません」家名は迷った末に素直に自分が異能肉と同盟を組んでいることを砂流に伝えた。それを受けた砂流は少しだけ意外そうな驚いた表情を浮かべた後に笑った。「そっか…困らせちゃってごめんね。家名くんは(しし)ちゃんともう同盟を組んでいたのね。それならすぐに返事なんてできないよね」砂流の口から出た(しし)ちゃんとは勿論、異能肉のことである。幾度となく敵として味方として戦場でぶつかり合う内に砂流が異能肉のことを「肉ちゃん」と呼ぶようになった経緯を家名を含めた三人が味方であった戦場で家名は当人たちから聞いてた。勿論、家名の知る中で異能肉を「肉ちゃん」呼びする者は砂流以外にいない。(そういう面では異能さんはただ砂流さんが嫌いなだけじゃない。たぶんライバル視しているんだろうなあ)と家名は(*'ω'*)こんな顔で思っている。

「なら、家名くんから肉ちゃんに伝えてくれるかしら。私が肉ちゃんにも協力して欲しいって思っていることを」「ええ、それは伝えますが…たぶん厳しいですよ?」「うん。わかってる。私、肉ちゃんに嫌われちゃってるものね。けど、お願い」「わかりました」

家名は(あるいは砂流さんに頭を下げられたって伝えれば異能さんも話くらいは聞いてくれるかもしれないな)とそう考えて「では、そろそろいきます」と立ち上がる。砂流と寝住が下水道を隠れ家にしていた以上、此処に『辰』の戦士はいないだろうというのが家名の考えだ。だとするなら残るは上。異能肉がむかった『空』だけだ。早めに合流しなくては家名が考え、砂流にさよならを言って来た道を引き返そうとした時―――向かいから歩いてくる人影があった。

 

「『卯』の戦士――『異常に殺す』憂城」

 

「(;゚Д゚)…なんつって!?」

 

突然姿を現した『卯』の戦士・憂城の登場。そして、家名がそれ以上に驚いたのは憂城が自分はおろか砂流の警戒も掻い潜り此処まで接近してきたという事実だった。家名の知る憂城という戦士にそこまでのスキルは無かった。稀代の『死体作り(ネクロマンチスト)』であっても戦士としての能力は家名より一段劣っていた筈だ。(その憂城が…この凄惨者、成長するのか!?)だとするのなら、手に負えなくなる前に家名は早急に憂城を殺さなければならない。

 

「『亀』の戦士――『動いたら殺す』家名‼」

 

憂城の両手に持った凶器が振り上げられる。家名は『後の先(あとだし)』の権利を行使する。結果、憂城の凶器が振り上げられるよりも遥かに速く家名の居合抜きが憂城の首を断とうと奔った。勝敗は決する。『卯』の戦士・憂城は稀代の『死体作り(ネクロマンチスト)』であり天才的な凄惨者であったが、天才的な戦闘者ではない以上、自身の知覚より速く奔る白刃を受け止める術はない。「……」「……」「……どうして、砂流さん」鮮血は飛び散らない。家名の居合抜きを止めたのは砂流のあまりにも見事な真剣白刃取りだった。「やめて家名くん。憂城くんは…敵じゃないの」「敵じゃない…?血塗れの凶器を持って、後ろに『巳』の死体を従えている奴が敵じゃないって、どういう…いや、まさか……砂流、さん?」家名は砂流と寝住が二人一組(ツーマンセル)だった時点で気づいて然るべきだったのかもしれない。砂流は自分の和平案に賛同する戦士を最初から全員受け入れようとしていた。たとえそれが参加を表明することで他の戦士の参加を取り下げさせてしまう程に危険を感じる戦士だったとしても(そうだ。砂流さんは…最初から、憂城を受け入れようとしていたじゃないか)砂流に例外はない。差別はない。砂流の言う()()()とは、本当の意味での()()()だ。「平和主義者同盟は二人一組(ツーマンセル)じゃない、三人一組(スリーマンセル)なんですね?」「ええ、私と寝住くんと憂城くんで同盟を組んだの。みんなが幸せになる為に戦うの」「………」「家名くん。私の言葉に嘘はないわ。私は君や肉ちゃんにも協力して欲しいって思ってる」「………」「私はみんなと仲良くしたいって思ってる」

 

綺麗ごとだと家名は思った。綺麗すぎる綺麗ごとだと思った。どんな命も分け隔てなく大切とか、根っからの悪人なんていないとか、そう言う類の綺麗ごとだ。世界に生まれてこなければよかったような邪悪はある。無論、家名は憂城がそうであるだなんて思ってはいない。家名は最下層最底辺の戦場で一度、憂城と辛うじて仲間の様なものとして戦っている。その時に家名は憂城と連携を取ることが出来たし、会話もした。その時に憂城が語っていた『世界中の人と友達になりない』という願いには『死体作り(ネクロマンチスト)』を知っていたから身震いしたが、その後に漏らした『生きた人間と生きた友情を築きたい』という言葉が全くの嘘であったなんて家名は思っていない。(憂城と仲間になることはできる。それは俺も知っている。その上で砂流さんが同盟として成立させるというのなら、信用したって良い。けれど…)

 

「今回に限り、それは出来ない相談です」「…どうしてかな?」「俺は憂城が人間的にはよくわかりませんが…戦士としては嫌いじゃありません。『死体を作り(ネクロマンチスト)』は敵に回せば恐ろしく味方に居ても悍ましいけれど、すごい能力です。実際、前の戦場では結構助けられた。だから、俺個人としては憂城を同盟に入れた砂流さんの度量にただただ感服します。けれど………それを認められない戦士も居ます」

 

「彼女は戦場に誇りを求める古いタイプの戦士です。そんな彼女が憂城を認められる筈がない」「………」「古来より遺体の弄びは、最も誇りを傷つける行為ですよ」

 

家名はそう言い残して『亀』の戦士なのに脱兎の如く逃げ出した。下水道を流れるくさいヘドロの浮かぶ水の中に飛び込んで亀のように泳いで逃げた。

 

 

 

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