十二大戦~盲亀の浮木~   作:白白明け

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暇つぶしになれば幸いです




その⑤

 

 

 

家名は下水道から逃げ出した。ヘドロの浮かぶ下水に身を投げて、なりふり構わず脱兎(亀の癖に)の如くに逃げ出した家名の努力は実を結び『申』と『卯』と『子』の平和主義者同盟から逃げ切ることが出来た。マンホールから這い出して家名は(;^ω^)こんな顔をして安堵する。(危なかった…というか、砂流さんには、見逃してもらって言うべきなんだろうな)。『申』の戦士・砂流がその気になれば逃げだす自分の追跡など容易いことだという事を家名は重々承知していた。何しろ相手は自尊心の塊である異能肉にして認めざる得ない程の戦士だ。家名が幾多の戦場を渡り歩き数多の戦士達と戦ってきた経験豊富な戦士だとしても敵いようがない。相手は三一四の戦争とニニ九の内乱を和解に導いた平和主義者なのだ。(だから、逃げ出した俺の判断に間違いはない。あの場で砂流さんと憂城と『子』の戦士を相手に敵うなんて俺は驕らない。だから、あの状況から逃げ出したんだ。……いや、違うか)と家名は思う。(俺は…本当は、砂流さんの綺麗事から逃げ出したかったんだ)。家名は砂流ほど人を救ってきた戦士は知らない。そして、人を救えなかった戦士も知らない。どんな命も分け隔てなく大切とか、根っからの悪人なんていないとか、そんな言葉が綺麗事だなんて事は、大人になれば誰でも気が付く。(世の中には死んだ方がいい屑はいる)と家名は考える。戦場で人殺しを生業とする戦士なんてその筆頭だろう。家名は綺麗事を言う気はない。(いや、言うことなんて出来ない。言える訳が無い。戦士として多くの人を殺してきた俺は、文字通りに血に汚れている。綺麗事なんて、綺麗な奴しか言っちゃいけないんだ)。だから、家名には砂流が信じられない。同じ戦士でありながら、綺麗事を並び立てる砂流のことが、そんな戦士が存在することが信じられない。それが世間知らずな戦士が放つ戯言ならよかった。無垢な少女が夢見る妄想ならよかった。けれど、そうでないことを家名は知っている。『申』の戦士・砂流が現実を見た上でみんなで仲良くしたいと思っていることを家名は知っている。(だから、俺は…砂流さんのことが嫌いなんだ)。心臓の痛みを感じながら、家名は胸に手を置く。この痛みの意味を家名が考えることはない。家名には既に心に決めた年上の女性がいるのだから。だから家名は何時も通りに(^ω^)こんな顔をしながら「じゃあ、異能さんと合流しよう」と歩きだす。

 

 

 

 

 

 

 

そんな家名を見ている戦士がいた。家名がマンホールから這い出して来るのを見ていながらも、不意を打つ事を考えもしなかったその戦士は、しかし、考えのない馬鹿ではなかった。ただその頭脳がアルコールに侵されていたから、家名が這い出して来るのを酒瓶を片手に待っていて、這い出してきた家名が歩き出すとその正面に千鳥足で現れたというだけのことだった。血塗られた手を隠す事も無く堂々と立つ戦士をみて家名は本日何度目かもわからない”死”を感じた。

 

「あー、あー、えへへ。こっんちわー」と『寅』の戦士・妬良はへらへらとした笑顔を家名に向けた。締まりのない赤ら顔は文字通りに酔っ払いのそれである。しかし、家名の顔は青ざめた。「(=゚ω゚)ノ…なんって」家名がなんとか平静を装い返答を返す中で妬良は赤ら顔の儘に家名を見る。文字通りの獣の様な鋭い眼光に晒されながら、家名の眼は妬良の一挙手一投足を見逃さないよう注意深く観察していた。(まさか砂流さんと会った直後に妬良さんに会うことになるなんて…ツイてないどころの話じゃないぞ。マジで!)。妬良の戦士としての活躍を、妬良は覚えていないだろうが、家名は味方として見たことがある。その格闘技術は訳が分からないほど強いと称される『丑』の戦士・失井に通ずる所があるというのが家名の見立てだ。(つまり俺では敵わない戦士だってこと!)家名は再び脱兎のごとくに逃げ出す。妬良に背を向けて全速力で駆け出した。(正面からの戦闘では勝てない!せめて一度、身を隠して不意を打つ機会を…!)そんな家名の考えを嘲笑うかのように『寅』は「ぐるるう。良いねぇ、かくれんぼの次は鬼ごっこかい!あんたは『未』のおじいちゃんよりあたいを楽しませてくれるかな!」と四つん這いの姿勢を取ると家名の背を追いかけた。その速度は家名の全力疾走を軽く凌駕する。「はっはー。二足歩行のあんたが四つん這いのあたいに敵う筈がないだろうよ!」と意味不明な妬良の言動はこの際、置いておくにしてもこのままではスタートダッシュの優勢など即座に詰められると悟った家名は急ブレーキを踏むと姿勢を反転させた。「ほえ?」家名の視界に惚ける妬良の顔が映る。全力の逃走から反転し特攻へ。

 

「『亀』の戦士――『動いたら殺す』家名」

 

そして、全速力の家名を上回る速度で動いていた妬良を、更に凌駕する速度で家名の居合抜きが放たれる。家名の一連の動きは”魔剣”と呼ばれる動作だった。その魔剣は家名が空の戦場で活躍する撃墜王と呼ばれた戦士に出会った時に考案したものであり、全速力で逃げる自分を追う全速力の敵にのみ絶大な威力を発揮する。ジャイアントキリングを成し得るこの技は家名の『後の先(あとだし)』の効果と相まって不可避の一撃だ…と家名はこの瞬間まで思っていた。

家名の居合抜きを妬良は刃を口で受け止める事で防いで見せた。そして、そのまま名乗りを上げる。「『とりゃ』のふぇんし――『よっふぁいきふぉいでこりょす』とりゃ」「なっ!?」

家名の驚きは無理もない。下水道で砂流に真剣白刃取りされた時とは訳が違う。躱しようもない体制を狙い躱せるはずも無い速度で放った”魔剣”と呼ぶに相応しい奥義をまさか「これぞホントの真剣白()取り!」なんて言われながら防がれるなんて考えもしなかった。実力差は理解していたつもりだった。けれど、所詮はつもりでしかなかったことを家名は悟る。(妬良さんの実力を見誤った。この人、今までの戦場じゃあ欠片も本気を出していなかったのか?…いや、違うか。前に見た時より強くなったんだ。何があったかは解らないけど、何かがあって、この人は前よりも強くなったんだ。元々強い戦士の癖に、卑怯じゃんかよ)幾多の戦場を渡り歩き数多の戦士達と戦ってきた『亀』の戦士は、その年で『長寿の家名』などと呼ばれた熟練の戦士は、敵を見る審美眼を養ったつもりであった戦士は、しかし、実際には見る眼の無い戦士だった。妬良の手刀が家名の胸に迫る。唯一格上の戦士である妬良に通じる可能性のある居合抜きを止められた以上、最早家名に抵抗する術はない。(ああ、ここまでかぁ…姉さん達と異能さんに合わせる顔がないなぁ)そう家名が諦めかけた時、救いは弾丸となって空から降ってきた。「!」「(゚д゚)!」銃声を聞いた瞬間に獣じみた反射神経で妬良は家名から飛びのく。家名は動けずにいたが、降り注ぐ弾丸が家名を撃ち抜くことは無く。全ての弾丸は家名の身体に掠る事も無く地面に弾痕を刻むに終わる。家名と妬良が驚き空を見上げると同時に二つの人影が落ちてくる。一つの人影は受け身を取ることも無く地面に衝突した。見ればそれは死体だった。体中をズタズタになるまで撃ち抜かれた死体はその特徴から『辰』の戦士だということがわかる。そして、もう一つの人影は優雅に着地すると妬良に機関銃の銃口を向ける。「一体、誰の許可を得てそのヘドロに塗れた汚物を処分しようとしていますの?それはわたくしの下僕でしてよ」と人を人とも思わない事を言いながら冷笑を携えて家名にとっての救いの天使が降りてきた。

こうして家名は異能肉との合流を果たす。

 

 

 

 

 

 

 

「家名さん。落下しながら見ていましたが、なんですのあの体たらくは。攻撃が防がれた位で何諦めてますの?意地汚い位に生に執着するのが家名さんの数少ない取り柄でしょうに」「返す言葉もございません…」「反省なさい。わたくしとチームを組んだ以上、家名さんには死ぬのならわたくしの為に死んでいただくのですから」「(`・ω・´)ゞ…なんつって」なんていう家名と異能肉のやり取りをみながら妬良は目を細めた。「ぐるるう」と喉を鳴らしながら異能肉と共に落ちてきた死体を見る。機関銃によって無残に撃ち殺された死体に妬良は見覚えがあった。(背中に背負った格好いいやつ…あれ、集合場所で死んでた死体が背負ってた奴に似てるぜ)と妬良は酔った頭でなんとか思い出した。(だとするなら、あの機関銃の女はついさっきまで死体の戦士と戦っていたって訳だ。機関銃の女の身体に傷はないが、なんの戦士でどんな戦士しかも知らないが、あの胸糞悪い『丑』でもない限り、戦士同士の戦いに無傷ってのはあり得ねぇだろ。…しかし、なんであの女は空から落ちてきたのかねぇ。まさか空を飛んで戦っていた訳でもあるまいし)と考える頭はいまだにアルコールに酔っていたけれど、妬良は馬鹿でもましてや愚鈍でもなかった。むしろ、『寅』の戦士である彼女は酒に血に酔うほどに戦士としての才覚を発揮するタイプの戦士だ。

だからこそ妬良は酒に酔いながらも、その才能の一切を欠けさせることも無く四つん這いで駆け出した。ニ対一という状況は妬良にとっては何のブレーキにもなりはしない。いや、ブレーキを掛ける気さえ今の妬良には無い。目の前に敵がいて此処に自分がいるのなら、妬良は文字通り虎の狩りを行うだけだ。家名と出会う前に公園で戦った『未』の戦士を屠った様に「『寅』の戦士――『酔った勢いで殺す』妬良!」と次は口の間に何も挟むことなく堂々とした発声で高らかに名乗りを上げた。それを受けての異能肉の行動はシンプルだ。名乗りを上げられたのなら、名乗り返さないなんて選択肢は異能肉には元からない。あくまでもシンプルに名家の戦士として「『亥の戦士』――『豊かに殺す』異能肉」と名乗り返しながら左右に持つ機関銃『愛終』と『命恋』の引き金を引く。

銃声と共にばら撒かれる銃弾を妬良は避ける。避ける。避ける。獣じみたセンスとフィジカルで避け続ける。妬良は無論、機関銃の銃弾よりも速く動いている訳ではない。銃口を見て銃声を聞きながら銃弾の行く先を予想して避けているだけだ。しかし、それができる妬良は十分に驚異的な戦士であることを異能肉は認めた。(家名さんの『寅』の戦士ならば『丑』の戦士といい勝負をするかもしれないという予想は当たっていたようですわね。わたくしがただの機関銃使いなら、全弾避けられて終わりでしたわ。しかし、わたくしの『湯水のごとく(ノンリロード)』に終わりはありませんわ!)。例えどれだけの銃弾が避けられようとも引き金を引く異能肉の指先が緩むことはない。『湯水のごとく(ノンリロード)』文字通りに弾切れ知らずの機関銃という異能肉の能力前に妬良の表情は徐々に歪んだ。

そして、遂には異能肉から距離を取る為に妬良は飛び退いた。「あら?どうしましたの?威勢よく吼えておきながら、臆しましたの?」異能肉の挑発を受けて妬良は「ぐるるう」と喉を鳴らした。妬良が飛びのいたからといって異能肉の機関銃による攻撃が止まることは無い。あくまで妬良から狙いを外すことなく銃弾に言葉を乗せる。「わたしくしの『愛終』と『命恋』の前に手も足も出ませんの?これなら先ほどの『辰』の戦士の方がよっぽど脅威的でしたわ。空を制する戦士がいるなんて、流石の私も考えていませんでしたもの」と続けざまに放たれる異能肉の挑発に妬良はギリッと歯を擦る。妬良は考えなしの馬鹿でも愚鈍でもない。異能肉の挑発が自分から冷静さを奪う為のものであることは理解していた。しかし、彼女で異能肉の挑発を受け流してながらも、何れ来る反撃の機会を伺い続けるなんて言う千日手を行っている訳にもいかない理由があった。(こんな奴を相手に手間取ってる暇はあたいにはない。少なくとも『丑』の戦士なら、機関銃の掃射なんて軽々避けて射手をサーベルの錆にしてるだろうよ)と思う妬良にとって異能肉との戦にあまり時間を掛ける暇も無ければ意味も無いのだ。もっと言うのなら妬良は十三大戦に優勝するために必要な異能肉達が持つ『獣石』にも興味がない。彼女の興味の対象は、モチベーションの対象は、『丑』の戦士・失井のただ一人だけ。(二兎追う者は一兎も得ず…か)妬良は陰々滅々とした雰囲気を放つ、丈なす黒髪の男の姿を思い浮かべ否応なしに酔いの冷めた頭で逃走を考える。退くことは戦士にとっての恥ではない。弾数無限の機関銃の掃射を前に考えなしに突っ込むことは蛮勇でしかない。(加えて…)妬良の視界が機関銃を撃ち続ける異能肉の隣で前傾姿勢を取りながら居合の構えを取り(`・ω・´)こんな顔で自分をじっと見ている家名の姿を捕える。(たとえ銃弾の嵐を掻い潜ったとしても、待っているのは神速の一太刀ってかい。全く厄介な戦士同士がチームを組んでるじゃないか)少なくとも正面から挑むには分が悪すぎる布陣だと妬良は撤退する。妬良にとって意外だったのは、家名はともかく苛烈な印象を受ける異能肉による追撃が全くなかったことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「異能さん?」「………」妬良が撤退し後もしばらくは逃げた建物の方向に向けて機関銃を乱射していたが、それ以上の事は何をすることも無く機関銃の銃口を地面に降ろした異能肉を不審に思い家名は声を掛けた。返答はない。どうしたのだろうかと家名は(?_?)こんな顔をしながら疑問符を浮かべる。異能肉の性格を考えれば逃げる妬良を追わない理由などない。それともこれは言われずとも猟犬の如くに獲物を追えという異能肉から自分への言外の命令なのだろうかと考えながらも猟犬よりも忠犬寄りな家名は異能肉の顔を覗き込んで―――青ざめた。そこには青ざめた家名の顔色よりも青白い異能肉の顔があった。「異能さん!」叫びと共に家名は咄嗟に異能肉の頬に触れる。普段の異能肉ならば許可も無く自分の顔に触れる家名の手など叩き落としていただろうが、そんな反応はなく家名の手には冷え切った異能肉の温度が伝わった。同時に異能肉の身体がゆっくりと倒れていく。家名は咄嗟にそれを受け止めると静かに異能肉の身体を横たえた。(顔だけじゃない…全身が冷たい。それに意識も消失している。さっきの戦いの中で毒物を盛られたのか?いや、妬良さんにそんなスキルはない。なら…その前の戦いか!)混乱の極みの中で家名は異能肉に対して心臓マッサージと人工呼吸を繰り返す。しかし、異能肉の身体に触れる度に異能肉の身体の温度が凍るように冷たい事実に家名は追い詰められていく。

「どうしてっ、気が付かなかったんだっ!」絞り出すような家名の声は自分の愚かさを呪っていた。距離と取り相対した妬良はともかく傍にいた家名なら異能肉の身体の異常に気が付くことが出来た筈だった。シミ一つない異能肉の白い肌がいつもよりも白かったことも。携えた冷笑が何時もよりも柔らかかったことも。異能肉が『辰』の戦士・断罪兄弟・兄。冷気を操る戦士との空での戦いで満身創痍だったことに気が付くことが出来ていた筈だった。いや、家名は気が付いていたのだ。気が付いていながら「異能さん相変わらず美しいな」なんてヘドロに塗れた自分と対比して思っていた。恋は盲目だった。幾多の戦場を渡り歩き数多の戦士達を見てきた家名の眼は異能肉の異常を異常と判断することができなかった。「俺は…なんて女を見る眼の無い男なんだっ!」絞り出した様な声で心臓マッサージと人工呼吸を繰り返す。力を緩めることなく繰り返す。暫くして家名の眼から涙が零れた。かつて戦士の死に涙を流すことの出来る戦士がいることに衝撃を受けた家名は、異能肉の死に涙を流す己を愚かしく思った。「なんで…なんで…貴女が死ぬんだ。俺は貴女を優勝させる為に戦ってきたんですよ。なのになんで…俺を遺して、貴女が死ぬんだ!」だから、あるいはそれは奇跡だった。もしくは暖かな家名の涙に振れたことによるただの偶然だった。「ねぇ…家名さん」「! 意識が!」異能肉の眼が薄っすらと開いた。「あなたに言わなければならないことがありますの」家名は掛けられる言葉に声は出さなくていいですと慌てながら救命措置を続ける。そんな家名の様子を見て異能肉は口元を皮肉気に歪めながら、「まったく無様な…最後ですわ」と言う。そして、異能肉の手が家名の頬に触れた。

 

 

 

 

異能肉にとって家名という戦士は取るに足らない男だった。自分の持っている物を何も持っていない男に靡くほどに異能肉は軽い女ではなかった。むしろ、プライドの塊のような彼女は家名から向けられる好意にある程度は気づきながらも、気に留めることもしなかった。所詮は自分に惚れた数多いる男の中の一人でしかないと異能肉は家名を見ていた。(そう、わたくしが惚れた十二人の男性…わたくしがお付き合いしている方々とは違う。家名さんは…つまらない男ですわ)戦士としての家名を異能肉はある程度は認めている。けれど、家名を男として見ることは異能肉にはできない。ならば何故、異能肉は家名を助けて命を落とそうとしているのか。それは、なんてことは無い。異能肉が初めから家名を助けるまでもなく手遅れだったかに過ぎない。(『天の抑留(よくりゅう)』でしたかしら?まさか空を飛ぶ能力を持つ戦士が存在したなんて、思いもしませんでしたわ。流石のわたくしでも空という領域(テリトリー)で『辰』と戦うのは分が悪かったですわね)それでも引き分けに持ち込んだ異能肉の戦士としての才覚は素晴らしいものであったけれど、そこまでだった。空飛ぶ『辰』を撃ち落とした異能肉だったが、撃ち落とした時には既に身体はどうしようもない程に冷やされてしまっていた。

だから、空から落ちていく最中に妬良と戦う家名を見つけた時は安堵した。自分の死様を華々しく飾ってくれる戦場が其処にはあった。最後の力を振り絞り異能肉は優雅に着地して、妬良と戦った。(わたくしの武器が機関銃で本当によかったですわ。例え全身が動かずとも指先が動けば、最後まで、豊かに戦うことが出来たのですから)最後の戦いの結果として妬良を取り逃がしてしまった事には歯痒い思いを感じる異能肉だったが、しかし、それでも満足のいう華やかさだったと納得する。(味方のピンチに駆けつけて…戦って死ぬ。助ける相手が家名さんでなくあの不愉快な『申』の戦士だったなら、もう少し美談になったかもしれませんわ)なんて最後まで家名の事など気に掛けずに異能肉は死んでいく。

異能肉の霞む視界に家名の(;O;)こんな顔が映る。(最後まで不快な顔ですわね)と思いながらも異能肉の口元に笑みが浮かんだ。「ねぇ…家名さん。わたくし、あなたに言わなければならないことがありますの」と異能肉は何も言わずに死んでいくつもりだった心に少しばかりの悪戯心を抱いて家名の頬に手を伸ばす。

「まったく無様な…最後ですわ」異能肉の手が家名に頬に触れた。「わたくし、あなたを助ける気など微塵もありませんでしたのに」異能肉がこの後に語る全ての言葉は家名を虐める為だけのものでしかなかった。「わたくしにとって家名さんなんて替えの利くただの一戦士でしかありませんもの」「……」「わたくしのハーレムに家名さんは要りませんわ。だって、わたくしのハーレムはわたくしが愛した殿方が集う場所」異能肉がたった一つの願いで願うつもりだった彼女の為のハーレム。其処に家名の居場所はないと伝えれば、異能肉の思い通りに家名の顔が寂し気に歪んだ。(まったく、最後の最後までわたくしの思い通りになるつまらない男ですわね)と異能肉は愉快気に笑う。

 

「わたくしを愛した男なんて、わたくしには要りませんもの」

 

異能肉は最後まで見た目通りの悪女として死んだ。

 

 

 

 

 

 

……死体となった愛した女性を見下ろしながら家名は静かに日本刀の切っ先を死体の胸に向ける。そして彼女の身体から黒い宝石を取り出すと、さらに彼女の懐から二つの宝石を手に入れる。そして『辰』の戦士の死体から手に入れた宝石が二つ。そして自分の分の宝石。合計六個の宝石を手に入れた優勝資格のないルール違反者は街の中へと向かって歩く。

 

その眼から涙はもう枯れていた。

 

 

 

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