十二大戦~盲亀の浮木~   作:白白明け

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暇つぶしになれば幸いです





その⑥

 

十三年に一度開催される十三大戦。その参加戦士の数が、半分以下にまで減った所で十三大戦の裏側。所謂運営サイドに動きがあった。その動きは現在所持『獣石』数が六個。約半数の『獣石』を手に入れ優勝に一番近い戦士でありながら、優勝資格のないルール違反者である家名の処遇についてどうするのかという疑問を有力者が当然の様に現れたからである。十三大戦は言うまでもなく『誰が一番強いのか、決めようよ!』なんていう類のものではない。国家の代表―――どころか国よりも遥か上に立つごく少数の有力者達が自分たちの保有する国をチップに争う代理戦争。多くの財産と人命と時間を消費する国家間での戦争をたった十三人に集約しようというふざけたバランス感覚によって開催される、結果によって国が亡んだり新しい国が生まれたり、合併したり独立したり、世界地図が書き換わることになる戦争の為の戦争。ギャンブル感覚で行われる世界大戦。それが十三大戦。

勿論、そんなことは参加戦士達には知らされていない。彼らは有力者の思惑など関係なく彼等なりの思いを持って十三大戦に参加しているのだから、知らせる必要もない事だ。

けれど、あるいはそれが災いした結果として今回の十二回十三大戦では主宰者サイドも頭を悩ませる事態が起きていた。優勝に一番近い戦士でありながら優勝資格のない戦士なんていう非情に扱いに困る戦士が誕生してしまっていた。

『亀』の戦士・家名。現在、六個の『獣石』を保有する彼を失格扱いにして処理してしまうことは簡単だ。しかし、それに異を唱える有力者は当然の如くに現れる。『亥』の戦士・異能肉が死亡するまでは主宰者側は家名には優勝資格は無くとも参加資格はあると異能肉の優勝を手助けするために動いていた家名の存在を黙認していた。それは有力者側も認めていたことだったので問題はない。ギャンブルに面白い要素が組み込まれた位の感覚でしかなかった。けれど、異能肉の死亡に加え家名が計六つの『獣石』を手にしたことで彼らのギャンブルは、国家を賭けた盤上での世界大戦は、混沌とし始めていた。

その結果として十三大戦の参加戦士が半分以下にまで減った所で開示された国をチップとしたベッドのオッズ順は次の通りである。

 

1『丑』2『申』3『寅』4『午』5『卯』6『子』

 

人気一位の『丑』と二位の『申』の差は本当に極わずかだった。それは『わけがわからないほどに強い』との定評を誇る『丑』の戦士・失井と数多の戦争を終結させた英雄である『申』の戦士・砂流が有力者たちからの信頼と期待を勝ち取った結果でもあったが、別の理由として現在六個の『獣石』を持つ家名を正面から確実に打ち破れる戦闘能力を持つ戦士であることも当然上げられる。加えて『寅』がオッズ三位なのは家名を追い込んだ功績を高く評価されたからだ。『死体作り(ネクロマンチスト)』という技能を持ちながら五位という結果に落ちた憂城は逆にその能力を家名に知られているので正面からの戦いでは不利という評価を下されてのこと。最下位である『子』に関しては彼はまだ何もしていないので評価のしようがないという理由。そして、四位。『午』の戦士・迂々真(ううま)がこの位置につけている理由もまた家名だった。『亀』の戦士・家名が誇るジャイアントキリング。神速の居合抜きもイージスの盾と並べて語られることもある絶対の防御力を持つ迂々真(ううま)には通じないだろうという点が評価されての四位である。

十三大戦の序盤で『丑』の戦士と戦い身体も心も傷だらけになり、文字通り心が折れてしまった彼への評価が最下位まで落ちなかったのは皮肉なことだが家名の御蔭だったわけである。

無論、そんな有力者たちの思惑など知る筈もない迂々真からすればだからどうしたという他にない事なのだが、ともかくとして優勝資格を持たない『亀』の戦士・家名の存在は大いに第十二回十三大戦をかき乱していた。

 

 

 

 

 

 

 

―――おお、異能さん。死んでしまうとは情けない。「( 一一)…なんつって」とそんなことを呟きながら家名はオフィスビル群を抜けて、ある場所を目指して歩いていた。異能肉の死に大いに傷ついた家名の心は少なくとも冗談を言えるくらいには回復していた。その家名の表情に元気がないのは少なからず引きずっているからなのだが、しかし、何時までも落ち込んでいる訳にもいかない。戦士にとって死はあまりに身近にあるモノだ。親しい者の死なんて幾多の戦場を渡り歩いてきた家名にとって馴染み深いものであったし、それこそ肉親の死すら経験したことのある家名はいくら愛した女性である異能肉が目の前で自分を庇い死んでしまったからと言ってそれで立ち止まる様な戦士ではなかった。(しかし、まあ、困った事態にはなったよなあ)立ち止まることのなかった家名だが、しかし、流石に異能肉の死体を見下ろした時には「これからどうすればいいのだろう」と立ち往生してしまった。

チームを組んだ異能肉が死んだからと言って、なら自分一人で優勝を目指して頑張るなんてことは家名には出来ない。気分の問題ではなく、ルール違反を犯し優勝資格を持たない以上、絶対に出来ない。ならもう一度、他の戦士の優勝に力を貸すべきか?例えば砂流や失井など家名が考える優勝しても納得できる戦士に力を貸す。と、そこまで考えて家名は(それはなんだか違うな)と思った。異能肉が死んでしまったから他の戦士に靡くなんて事をすれば、それはあまりに異能肉に対して不実というものだ。たとえ異能肉が家名が自分に向ける好意を知りそれを利用して組んだチームだったとしても、家名が納得して異能肉と組んでいた以上、家名には異能肉に対して通す義理がある。生き残る事に定評のある事実として生き汚い家名ではあるが僅かに残る誇りや矜持というものを捨ててまで、愛した女性を貶めてまで、生きたいだなんて考えない。彼は誇り高い亀井家の嫡男だ。(なら、どうするべきだろうか)と考えた家名が出した答えは――戦闘の放棄である。

十三大戦が終わるまでの間、どこかに身を隠すこと。所有する『獣石』をどこかに放棄して、さながら亀のように殻に籠ることを家名は考えた。誰にも手を貸さずに、誰も害さずに、十三大戦が終わるのを待つ。それは体内に毒の宝石である『獣石』を呑み込まなかった家名だからこそ取れる戦略だった。(十三大戦の優勝条件はあくまで十三個の宝石を集めること。なら、俺が姿を消した所で宝石さえあれば誰かが優勝できる。その上で俺を探して殺そうなんて考える酔狂な戦士は…憂城ぐらいだろ。無論、終戦後にルール違反を運営側に咎められて殺されてしまうかもしれないけれど、その時はその時だ)そんな考えの元に家名は拾い集めた六個の宝石を持ってある場所へ―――街の中にある大手銀行へとやって来た。「貴重品を預けるなら警察か銀行だよな」なんていうごくごく一般的な思考を元にこの場所へとやって来た家名だったが、それが悪手だった。

家名が銀行へと足を踏み入れ金庫を探して歩いている最中にその戦士は、巨体を隠していた戦士は家名の前に現れた。

 

 

「『午』の戦士――『無言で殺す』迂々真」

 

 

銀行の金庫(家名の感覚で言えばダンジョンの宝箱)に宝石を預けて戦闘を放棄する筈だった家名の前に現れた戦士は皮肉にも家名と同じく戦闘を恐れて、失井との戦闘で折られて、銀行の金庫の中に引き籠ることを選択した『午』の戦士だった。

だから、あるいは此処で家名と迂々真は会話を交わすことさえすれば戦わずに穏便に事を運ぶことが出来ていた。けれど、家名は唐突な迂々真に動揺し腰の日本刀に手を伸ばし、迂々真は開戦当初に砂流の和平案に賛同したことで同じ穏健派だと思っていた『丑』の戦士と出会って直ぐに戦いに流れ込んでしまっていた経験から家名への警戒心を解くことなどできなかった。故に理由は違えど戦いから逃げ出そうとしていた両雄は、互いに嫌々ぶつかり合う。

 

 

 

 

 

 

 

二メートルを超える迂々真の巨体は数多くの戦士を見てきた家名からしても。やはり圧倒されずにはいられない威圧感だった。加えて纏う筋肉の鎧は暴力の域だ。言葉はない。掛け声もない。名乗りの通りに迂々真は家名を殺す為に無言でタックルを仕掛けてきた。その巨体を生かしてのタックルはさながら暴風雨の様だと家名はΣ(゚Д゚)こんな顔をしながら思った。家名は迂々真のタックルを避ける。家名の頬を冷や汗が伝う。(筋骨隆々の大男と聞けば、大概の人はスピードがないと思うのだろうけど、実際はそうじゃない。筋肉があるから瞬発力が生まれる。膨大な筋肉は膨大な速度を生む)事実、迂々真の無言タックルは家名の見る限り『丑』や『申』や『寅』には及ばずとも一流の戦士の誇るべき速度の攻撃だった。加えて迂々真の無言タックルのなにより恐ろしい点は真に脅威なのが速度でも破壊力でもないという点だ。二度目の迂々真のタックルを家名は避ける。迂々真の身体は勢いを殺すことなく壁に激突した。壁は砕けだ。しかし、迂々真には傷一つない。いや、迂々真の身体には全身に刃物で切られた様な切り傷と打撲痕が広がっていたがそれは壁に激突してついた傷ではない。家名が出会う会った時は既についてきた傷だ。壁を砕くほどの勢いでぶつかりながらも迂々真は無傷だった。それこそが『午』の戦士・迂々真の誇る恐るべき特性であることを家名は噂で聞いていた。(イージスの盾と並び立てられる程の防御力を持つ戦士がいるとは聞いていたけど、やっぱりそれが『午』の戦士だったのか)と考える家名はちらりと腰に差す日本刀に目を向ける。未だに抜かれていない家名の武器は抜かれることを今か今かと待っていた。(『午』の戦士より俺の方が速度という点では分がある。二度のタックルを避けられたのは偶然じゃないんだ。『後の先(あとだし)』を使うまでもなくただの居合抜きでも十分に『午』の戦士の首を狙うことができるが…たぶん通用しないんだろうなあ)と(;^ω^)こんな顔をしている家名の考えは当たっていた。例え家名の居合抜きが迂々真のタックルに先んじる形で当たったとしても、その刃は迂々真の身体に傷一つ付けることが出来なかっただろう。最悪、家名の愛刀である『無無(むなしぃ)』はその銘の通りに虚しくぽっきりと折れていた。(なら、どうするべきか)と繰り返される迂々真のタックルを避けていた家名は焦り始める。迂々真の攻撃を避けられるからと言って、避け続けられる訳ではない。当たらない為に動き続けるという回避行動は当たれば終わるという恐怖感と相まって相当な疲労を強いられる。そして持久戦にもつれ込めばどちらの体力が先に尽きるかなんてことは家名と迂々真の体格差を考えれば明らかだ。戦士としてはそれなりに恵まれた体格の家名だが、身長二三〇センチ、体重一五〇を誇る迂々真には敵う筈もない。家名の基本戦闘である日本刀での攻撃は通じずにジャイアントキリングを成し得る居合抜きも効果がない。普段の家名なら逃走を考えるしかない戦力差だったが、実は家名には普段はない第三の選択肢があった。家名は背中にある重みを感じながら(これなら通じるのか?)と考えた。

家名が背負うもの。それは『辰』の戦士・断罪兄弟・兄の死体から剥ぎ取った冷却液の放出器。その名も氷冷放射器『逝女(ゆきおんな)』だった。元々は憂城の『死体作り(ネクロマンチスト)』に対抗する為に家名と異能肉はこの氷冷放射器を求めて『辰』の戦士を探していて、結果として異能肉が死体となってしまったのだが、だからこそ家名はこの氷冷放射器を『辰』の戦士・断罪兄弟・兄の死体から剥ぎ取り背負って持ち運んでいた。この氷冷放射器は家名が異能肉との最初の共同作業ならぬ最後の共同作業で得た大切な思い出の品だった。(あるいは冷気なら『午』の戦士に通じるかもしれないか?)と考えて氷冷放射器『逝女(ゆきおんな)』を迂々真に向ける。一か八かと考えて、家名は思いとどまった。(いや、イージスの盾と並び立てられる程の防御力に冷気が効くとは思えない。最悪、辛うじて負っている傷口を凍らせて止血してしまうなんて言う、それだけの効果しかないかもしれない)家名の考えは当たっていた。物理的な攻撃だけではなく超高温にも超低温にも超重力にも超電圧にも耐えうる故の絶対防御(イージス)だ。氷冷放射器『逝女(ゆきおんな)』では迂々真の表面を精々しもやけにするくらいの効果しかない以上、『午』の戦士・迂々真の持つ戦士としての特性にして自慢の肉体『(あぶみ)』を正面から打ち破る術を家名は持たない。

 

あるいはこの状況が『午』の戦士のオッズを四位にまで引き上げた有力者たちの戦士を見る眼を証明するものだったが、しかし、その思惑を超えながら『亀』の戦士は『亥』の戦士が存命だった頃には決して見せなかっただろう(@_@)こんな顔をしながら「なら、仕方がないなあ」と邪悪に笑った。

正面から打ち破れないのなら裏をかけばいい。裏をかけないのなら隙を突けばいい。隙がないなら作り出せばいい。どんな手を使ってでも―――生き残ることが勝ちだ。

そんな考えを持つが故に敗戦しても生き残り、生き汚く生き残り、いつしか『長寿の家名』なんて呼ばれるようになった若い戦士は―――異能肉が傍にいた頃には取れなかった戦士としてはあるまじき行為に打って出る。

迂々真が攻撃に移る瞬間を狙いすまして、日本刀からも氷冷放射器からも手を離して、右手の人差し指で真っ直ぐと迂々真の背後を指さして「あ!失井さん!来てくれたんですね!助けてください!」と叫んだ。

迂々真の身体が硬直する。すぐさまに迂々真は背後を振り返るが、当然そこに『丑』の戦士・失井の姿などない。家名に騙されたと気が付いた迂々真が正面に向き直ると同時に家名は迂々真の口腔内に氷冷放射器の放出口を捩じり込む。「! うぐ!?」隙を作り隙を突いた。家名がしたことはそれだけだ。名家である亀井家の戦士に有るまじき行為を姉達に知られれば家名はそれこそ死ぬよりも恐ろしい目にあうのだが、それを密告する者は――面白がって言いふらす異能肉は――もういない。「やっぱり、貴方を傷だらけにしたのは、貴方が恐れて怖がっていたのは、失井さんでしたか」「!?」「わかっていましたよ。俺と貴方はきっと似たタイプの戦士だ。戦いを前に逃げ出す選択肢が浮かぶような、戦士に有るまじき戦士だ。妬良さんのように仕切り直そうとする訳でもなく死にたくないから逃げ出そうとする男だ。だから、貴方の隙を作るには恐怖を思い出させればいいと考えました」そして出たのが迂々真の自慢の肉体『鐙』を傷だらけにしただろう『最強の戦士』失井の名前だった。亀井の考えでは『鐙』を打ち破ることの出来る戦士は失井の他に砂流がいたが、平和主義者である砂流は自ら力を振るうことを好まない。加えて迂々真をボロボロに痛めつけるなんて真似をする戦士じゃない。だから、家名は失井の名を叫び、結果として迂々真は致命的過ぎる隙を晒してしまった。「狙い通り。誤算があったとすれば貴方がそこまで動揺した事です。俺は逃げる隙が出来ればいい位に考えていたのに、そんな大きな隙を晒されたら、殺すしかないじゃないですか」逃げることを考えていた家名がそれでも隙を晒した迂々真に対して一転攻勢に出たのはやはり彼がまだ戦士であるからだった。

 

 

「『亀』の戦士――『動いたら殺す』家名」

 

 

そうして、家名は名乗りに反して一切動かずにいる迂々真に対して一切の慈悲も無く氷冷放射器の引き金を引く。迂々真に対して体表をしもやけにするくらいの効果しか発揮しない氷冷放射器『逝女(ゆきおんな)』も口腔内に放射口を突っ込んで使用するとなれば話は別だ。どれだけ身体に耐性があろうとも呼気に水蒸気が含まれる以上、水分は冷気により容易く凍り付く。こうして『午』の戦士・迂々真は体内から凍死した。

その戦って死んだ死様が戦士として真っ当であったことが、ある意味で彼にとっての救いだった。

 

 

 

 

 

 

氷像と化した迂々真の死体を砕き家名は七つ目の『獣石』を手に入れる。放棄しようとしたのに増えてしまった黒い宝石を見ながら、家名は「あるいは異能さんが俺に戦えっていってるのかな」なんてセンチメンタリズムなことを言う。そして結局、家名は『獣石』を放棄することなく携えたまま銀行を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

有力者たちの思惑を外れ『午』の戦士に勝利した優勝資格を持たない優勝候補筆頭というイレギュラーに対して運営側は遂に動き出そうとした。しかし、それは有力者たちの多数決によって否決される。何時の世も神々は娯楽に飢えている。十三大戦がはじまる前に行われた『有力者アンケート』では中堅どころでしかなかった戦士がどこまで戦えるのかという好奇心に救われて『亀』の戦士は辛うじて処罰を免れた。

無論、実際に家名が優勝資格がないのに優勝してしまい十三大戦が台無しになってしまえば困るのは彼らなのだが、しかし、彼らは家名が生き残ることは難しいと考えているからこそのそれは残酷な遊び心だった。

人気一位の『丑』の戦士と二位の『申』の戦士。この二人の戦士は隔絶している。特に『皆殺しの天才』と呼ばれる最強の戦士・失井と相対したのなら、生き残る事に長けた家名といえども死は免れないだろうという確信が有力者たちにはあった。

そして、それは事実であり。またこれまでの家名の幸運を考えれば当然の如くの不幸としてその瞬間は直ぐに訪れた。

 

銀行を出た家名の前に道路の真ん中を歩きながら近づいて来る戦士の姿があった。

それは取り逃がした『午』の戦士を追いかけてやって来た丈なす黒髪の男。

 

 

「『丑』の戦士――『ただ殺す』失井」

 

 

家名の前に最強が顕現した。

 

 

 

 

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