十二大戦~盲亀の浮木~   作:白白明け

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気が付けば前の投稿から1年以上たっていました。すみません。

皆様の暇つぶしに成れば幸いです。(__)





その⑦

『丑』の戦士‐失井。その姿を正面から見た瞬間、家名は自分の死を( ゚Д゚)こんな顔をして覚悟した。それもその筈だ。『午』の戦士との熾烈な戦いをようやく終えて銀行傍にある某有名チェーンの珈琲喫茶で一息つこうとしたら、これである、

運が悪いどころではない。運命が最悪に過ぎた。最強の戦士。皆殺しの天才。登場以来、天才の意味合いすら変えてしまった男。勝てるはずがないと生存能力のみを見るなら十三戦士の中でもトップクラスである家名にして諦める他にない状況に固まる彼に対して失井は「どうしたのかね?」と陰鬱な雰囲気のままに首を傾げた。「私が名乗りを上げたのだから、君もそれにならったらどうかね。『亀』の戦士」。失井のその言葉になんてことを簡単に言ってくれるのだと家名は(-"-)こんな顔をして苛々した。

 

戦士が名乗りを上げ、名乗りを返す。その時点で戦いは始まってしまう。戦いが始まってしまえば最強の戦士に勝てる訳もない自分は死んでしまう。目の前の最強はあんなにも簡単に自分に死ねと言っていた。

失井という戦士に幻想を抱いていた訳ではない。それでも家名は苛々したままに刺々しく言わずにはいられなかった。

 

「もう少し優しくしてくれてもいいのでは?お義兄(にい)さん―――( *´艸`)なんつって」

 

おにいさん。お兄さん。お義兄さん。失井は家名から掛けられた正しくない言葉を前に動きを止めた。それはその言葉に動揺したとか、生き別れの兄弟との再会!とか、今明かされる衝撃の真実!だとか、そう言った事実無根なことが理由ではなく家名の言葉を正しく訂正しなければならないと思ったからだ。「私は君の義兄ではないのだがね」。失井は当たり前の事を言う。「あるいはそういう未来もありえたかもしれないのだがね。残念ながら、そうなる前に君の姉と私の間にあった関係は壊れてしまった」。失井の面白みのない返答にたいして家名は笑いながら「ええ、知ってます。貴方に振られて姉は泣いて大変だったんですよ。気晴らしに苛められる弟の気持ちなんて、貴方には分からないのでしょうが」と最後に舌打ちを返す。

 

その家名の(--〆)こんなやさぐれた顔を異能肉が見たのなら軟弱な男がこんな顔も出来たのかと驚いたに違いない。あるいはそのギャップに意外と好意を抱いたかもしれないが、異能肉が既に亡き今、家名の恋にどんな可能性があったかという議論は無意味でしかないので、話を戻そう。

今の短い家名と失井のやり取りを聞いていればわかることだが、家名の姉である女性と失井は少し前まで交際をしていたという事実がある。失井は家名にとって義兄になるかも知れなかった男なのだ。無論、十三大戦という舞台の中でそんな家庭事情を持ち出す気は当初の家名にはなかった。実際に家族になったというならまだしもその話は流れてしまったのだから、持ち出せる筈もなかった。戦士として公私混同は避けるべきという一般常識を家名は持っていた。けれど、状況は当初とはだいぶ変わってしまった。

 

優勝資格を失い。片思いしていた相手を失い。自主的な退場の機会も失った。そんなときに現れた最強の戦士‐失井は昔のことなど忘れたとでも言いたげな表情で戦士としての名乗りを上げる。失井の戦士としての姿勢は正しいのだろう。彼は①正しい事をしようとして②正しいことをしているに過ぎない。けれど、家名はその正しさの前にやさぐれる。まるで年の離れた兄に甘える弟の様に(-"-)こんな顔をしてやさぐれる。

 

「『亀』の戦士‐『動いたら殺す』家名」

 

それでも文句を言いながらも失井に言われた通りに名乗りを返したのはやはり家名がどうしようもなく戦士だったからに違いが無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「『亀』の戦士‐『動いたら殺す』家名」

 

『丑』の戦士‐失井にとって『亀』の戦士‐家名がどのような存在なのかを語るのなら、まずは前提条件から話さなければならない。失井は彼を以前付き合っていた女性の弟としては見ていない。なぜなら失井はそういう関係が構築されるはるか前に家名に出会っていたのだから―――眼前を白刃が通り過ぎる。家名から放たれた居合切り。失井の知る達人のそれと比べても見劣りしない一撃を放つ若者の姿を陰鬱とした目で見据えながら失井は自身の武器‐サーベル『牛蒡剣(ごぼうけん)』に手を伸ばす。次いで失井から放たれる三連の斬撃を血飛沫を上げながらも辛うじて皮一枚、否、肉三欠片で躱し切った家名はこの時点で驚異的な戦士と呼んでよかった。当然だ。失井は間違えようもなく最強の戦士。五歳の頃に戦場に立って以降、ただの一度の敗北もなく君臨し続ける絶対王者。戦争では失井を自陣に引き入れた側が勝つといわれるほどの戦士。その戦士と曲がりなりにも戦いを成立させている家名は間違いなく戦士としては一級品だった。

 

ただし、それは家名が純粋な戦闘能力のみを持って失井との戦いを成立させていた場合に限る―――家名はそういう意味では失井にとって切り札(ジョーカー)と言える戦士だった。

日本刀『無無(むなしぃ)』の斬撃をサーベル『牛蒡剣(ごぼうけん)』が捌く。返す刃で肉体を切り裂かれ血みどろになりながらも家名は失井と対峙し続けていた。もし、この場に観客が居たのならまるで演武の様だという感想を抱いたに違いない。それほどまでに二人の動きは合致していた。それもその筈だ。家名の剣は失井の剣を真似て造られたものなのだから―――家名の視線と失井の視線が交差する。互いの頭に浮かぶのは一人の女性の姿。ではない。それは―――遠い昔、という程古くはない。高々15年ほど前の戦場の記憶。

 

 

 

 

 

とある軍人の起こした革命の戦場に立つ齢5つ程の子供。それ自体は悲しいが数多の戦場を掛けてきた失井にとって珍しくもない光景だった。それでも失井が関心を持ったのは子供の持つ武器が自動小銃でも手りゅう弾でもなく小太刀だったからだ。本来、少年兵が持つ武器とはかけ離れた獲物をもつその子供に失井は声を掛けた。「君は戦士なのかね?」。使い捨ての少年兵ではなく戦士であるならば小太刀という武器を持っていることにも納得がいく。他でもない失井の初陣も5歳の頃だ。だからこそ、ある種の親近感を持って掛けられた失井の質問に対する子供の返答は―――「『かめ』のせんし。『・・・・ころす』-かめい」―――白刃だった。

 

上目遣いで失井を見上げながら、家名は手に持っていた小太刀で失井の腹部を突き刺した。突然の事態に流石の失井も混乱する。まさか目の前の子供は自分を戦場以外で殺害する為に敵陣営が放った暗殺者かともおもったが、それならば天才である失井はその殺意を感じ取る事が出来た筈だ。天才の意味合いを変えてしまった天才は伊達ではない。だからこそ失井は目の前の子供が味方側の戦士だと言い切ることが出来た。ならばなぜ、湧き上がる疑問を失井は腹部を小太刀で突き刺されたまま口にする。「なぜ、君はこんなことをするのだね?」。腹部を刺されながらも淀みなく口にされた疑問を前に家名は純粋な眼で失井を見上げたまま返答した。

 

「ほんとうにひとをころしたら、ひとがしぬのか、ためしてみたかったんだ」

 

人を殺したら人が死ぬのか試してみたかった。そんな理由で味方の戦士を、皆殺しの天才を殺そうとした少年を前に流石の失井も失笑を禁じ得ない。そして、人を殺したら人が死ぬことすら知らぬ子供が戦場に立つ現実を前に失井はらしくもなく陰鬱と笑う。「君は知らないのだね。ならば、覚えておきなさい。人は殺したら死ぬのだよ」「でも、あなたはしんでないよ」「それはだね。君が私を殺せていないからだよ。君の小太刀では私を殺し切れないようだね」「そうなんだ」「そうだね。けれど、私以外なら殺せていただろうね。覚えておくことだね。人は、殺したら死ぬのだよ」。そう言って失井はようやく家名の小太刀を握る手をゆっくりと押しながら、腹部から刃を抜いた。家名は失井の血の滴る小太刀を不思議そうに眺めた後、再び失井を上目遣いで見上げる。その姿がまるで教師に教えを乞う子供の様で失井は柄にもなくその頭に手を置いてみたりしてみた。

 

「人はね、皆、自分は殺さないと思っている」

 

それは失井の言葉ではなかった。それは失井が前に戦場ではない場所で出会った一人の殺人鬼が語った言葉だった。今、目の前の子供に必要なのは自分の言葉ではないと正しく判断した失井はまるで教師の様に殺人鬼であった彼の言葉を引用する。

 

「殺人事件が連日連夜報道されようとも、死体の積み重なる戦争の現実を特番で見ようとも、それを自分の人生とは無関係なドラマと同じように眺めている。けれど、人は人を殺す―――何があろうと殺す。恋愛感情で、損得勘定で、戦争で、平和で、車で、食事で、うっかりで、甘やかしで、漫画の影響で、勘違いで、いつだって人は人を殺してきたのだからね」

 

そして、此処から先は殺人鬼ではなく戦士である失井の言葉。

 

「だからこそ戦士は殺すことに理由を持たなければならない。それがどんな理由でもいいのだよ。けれど、理由なく殺すことだけは戦士はしてはならない。殺す為に殺す事だけは、してはならない。①理由を決めて。②殺す。目的の為に手段があるという順序を忘れてはいけないのだよ。手段の為なら目的など選ばないなどということは口が裂けても言ってはいけない。わかったかね?」

 

失井の言葉を聞いて家名は「おにいさんは、なにをとつぜん、むすがしいことをいっているんだろう」と思った。幼い家名は自覚もないまま思ったことを口にしていたのだが、失井がそれを責めることはなかった。そして、失井の言葉の意味の全てを理解出来ずとも自分が悪いことをして諭されているのだと気が付くことの出来た家名は頭を下げる。「ころそうとして、ごめんなさい」「いいのだよ」「ゆるしてくれて、ありがとうございます」「うむ」。頭を下げて許してもらた事に安堵してパタパタと駆けて去っていく小さな背中を見送りながら、失井は小さな戦士の行く末を案じた。人を殺せば人が死ぬことすら知らなかった純粋な子供は、何時の日にか人を殺す事を生業とする戦士になる。それを嘆く資格がないことを正しく認識している皆殺しの天才はせめて祈る様に言葉にする。「君が戦士である以上、私の様な人殺しと―――皆殺しと再び出会うことは避けられないだろうが、せめてその再会がなるべく先延ばしになるといいのだがね」

 

これが家名と失井のファーストコンタクト。そして、以降、失井の祈りも虚しく二人の戦士は度々戦場で鉢合わせる。味方の陣営の戦士として失井は何度も家名を見かけたが、二人が言葉を交わすことはなかった。失井は風の噂でどうやら家名はあの時の戦場で失井を刺した事が家族に露見し実の姉たちに袋叩きの刑に掛けられたらしく、それがトラウマとなって失井に近づかないらしいということを知った。だからこそ、たまに見かけても直ぐに家名は失井から逃げてしまう。かと思えばチラチラと感じる視線も失井が家名に声を掛ける理由にはならないので―――逃げる子供を追いかける趣味は失井には無いので―――ファーストコンタクトから長い間、家名と失井が関わることはなかった。それに対して実は安堵していた失井だったが、けれど、運命と言うものは悪戯好きで、ファーストコンタクトから五年後、敵対する陣営の戦士同士という形でセカンドコンタクトの機会は訪れた。

 

 

セカンドコンタクト。その戦場での勝敗は既に失井を要する陣営の勝利という形で決していた。もとより失井は一人で戦況を左右する比肩する者のいない天才だ。その失井を敵に回して家名の所属する陣営は勝ちを拾うことは出来なかった。勿論、家名の所属する陣営が何の失井対策を講じていない訳ではなかった。敵陣営が失井を引き入れたことを知った時点で、家名の所属する陣営‐とあるカリスマ的指導者の支配から脱したばかりの新興国家‐は失井に比肩するかもしれない知る人ぞ知る英雄‐平和主義者である『申』の戦士‐砂流に停戦の調停を打診していたのだが、残念ながらセカンドコンタクトには間に合わずに家名と失井は地雷原の上で敵同士として対峙することになった。

 

「『亀』の戦士。『動いたら殺す』---家名」

 

「『丑』の戦士。『ただ殺す』---失井」

 

5歳の頃とは違い10歳になった家名は舌足らずではない口調で堂々と名乗りを上げ、そして小太刀ではない日本刀を振るいながら正々堂々と戦士として失井の前に立った。それを成長というかどうかは判断の別れることだろう。なぜなら5歳児であった頃の家名の方が、失井に対してダメージを与えられていたのだから。---腹部を一突きする。どころではない。かすり傷すら、与えられないまま家名は失井との戦闘開始から30秒後に敗北した。

神速と信じた居合抜きは神の領域に掠りもせずに叩き落とされ、名だたる名刀であった武器は無残に砕けた。家名は失井にあっけなく敗北した。そして、無論、失井のサーベルがそれで止まる筈がない。皆殺しの天才という名は伊達ではなく、嘘でもなく、失井は齢10歳の弱い家名を殺そうとした。皆殺し。皆、殺す。戦場に敵として立つ者を一切合切躊躇なく殺害する。それこそが天才である失井が決めた戦場での正しさ。敵を皆殺しにすることで戦争を一刻も早く終結させる。天才の考えは凡人にはわからない。失井ががどういう経緯でその結論を出したのかは失井以外にはわからない。只わかっていることは、失井が苦しい気持ちを欠片も顔に出すことなく家名を殺すということだ。

 

失井のサーベルが家名の首を斬らんと振るわれる。その一撃に容赦はなく、慈悲もなく、だからこそ、痛みも恐怖もなく家名の命を両断する。---筈だった。不可避の一刀。天才が天才たる所以を家名は首の皮一枚、否、首の肉三分の一を犠牲に避けてみせた。「どういうことだね」。失井の言葉に返す言葉を家名は持たない。驚天動地なのは家名も同じだ。まさか避けられるとは思わず死を覚悟した一撃に家名の身体は反応してみせた。それが後に家名の戦士としての生命線となる超反射神経‐『後の先(あとだし)』が発現した瞬間であったが、そんなことはこの状況ではどうでもいいことだった。重要な事実は一つ、皆殺しの天才が家名を殺すことに失敗したという現実。

無論、再びサーベルを振れば家名はあっけなく死ぬ。否、肉を三分の一切り裂かれた首から血が止めどなく流れている。家名が手で傷を抑えているが止まる様子もない。放置しても失血死するだろう。けれど、失井は何を思ったかサーベルを引き、身に着けていた赤いネクタイを外し、家名の首の傷を止血する。天才の天才的処置により家名は失血死を免れる。「どうして僕を助けるのです」と(;´・ω・)こんな顔をする家名に対して失井は何も言わずに立ち去ろうとして、立ち止まり、振り返り問いかけた。「君は以前、私と交わした会話を覚えているかね」「…はい」「なら、今の君になら聞いてもいいだろうか。君は、なぜ人殺し(こんなこと)をするのだね?」「…家族の為です。今の僕は、家族の為に、戦っている」。家族の為に戦っている。五年前、人を殺すと人が死ぬのかを試す為に失井を殺そうとした子供は家族の為に人を殺す戦士に成長していた。それを正しいことだとは失井は思わない。---本当に正しいことは家族の為に戦士など止めてしまうことだと失井は思う―――けれど、失井はどこか救われた気持ちになった。その安堵を呼び水とするかのように―――空から人が降ってきた。

 

「間に合ったかな。うん。間に合ったわ。少なくとも、目の前の二つの命を助けることができるのだから」

 

既に勝敗の決した戦場で戦士が命を散らすのを止める為に、調停者‐平和主義者が遅くなりながらもなんとか間に合いやってきた。

 

こうしてセカンドコンタクトは終わる。後の家名はあの皆殺しの天才と対峙して尚、生きている戦士として若くして『長寿の家名』なんて呼ばれることとなるのだが、それは失井にはどうでもいいことだった。重要なのは失井が感じた安堵。「戦争を終結させる為に皆殺しにする私。家族の為に人を殺す彼。平和の為に、家族の為に、殺すのならば許されるような気もする。無論、そんなものは勘違いだろうがね」

 

 

 

 

そして、サードコンタクト。否、ラストコンタクトとなる戦場で家名は失井と対峙する。戦闘開始から既に5分が過ぎようとしていた。五年前から比べれば素晴らしい進歩だと家名は(≧▽≦)こんな顔をして自画自賛する。加えて未だに家名は切り札である『後の先(あとだし)』を使ってはいない。なぜ、五年前とは違い『後の先(あとだし)』を使わなくても家名が失井の攻撃を肉一片で避け続けられているのか、その理由は失井のサーベル捌きを家名がある程度、予測できるからに他ならない。家名の剣は失井の剣を参考に造られた。十五年前、失井と初めて出会った時から、家名はその剣を見続けてきた。失井の剣に憧れ続けてきた。多感な時期の子供が天才的な失井のサーベル捌きをみて憧れるなという方が無理があった。だからこそ、家名は長姉に頼み込んで失井のいる戦場に味方として捻じ込んでもらうような真似をしてまで失井の戦いを見続けてきた。家名の眼は失井の剣を見続け離さなかった。一説によれば居合抜きにおいて一番重要なのは剣速ではなく『目』だと言う。鍛えれば誰でも最高速度が第一宇宙速度に達する居合抜きの剣速に対して生まれ持った眼は鍛えようがない。天性の眼が無ければ第一宇宙速度に達した剣先を十全に扱うことは出来ない。家名はその天性の才を辛うじて持っていた。そして、その眼で失井の剣を味方として見続け、見撮り続け、見稽古を続けていた。そして、五年前‐長姉の悪戯により失井の敵として戦ったことにより、家名の見稽古は終わった。憧れを手に入れた。断言しよう。誰が何と言おういとも、この世界――この世界線――で誰よりも最強の戦士‐失井に近づいた戦士は家名だ。なぜなら彼は味方といて失井と共に戦い彼に憧れた数多の戦士たちとは違い、敵として失井の前に立ち存命している唯一の戦士であるのだから―――二つの白刃は舞う。まるで演武の様に、殺し殺そうとした子弟はその関係性を相互理解しないまま殺し合う。

 

そして、終わりの時間は訪れる。もとよりこの演武は拮抗してはいなかった。家名の刀は失井の服も切り裂けず、失井のサーベルは振るわれる度に家名の肉を削っていた。これが天才とそうでない者の差。憧れだけでその差は埋まらない。家名は遂に失井から逃れるために距離を取る。無論、失井はそれを許さない。失井にとってもはや家名は見逃すことなど許されない立派な戦士に成長していた。「逃がさないのだね」。取った距離を一息で詰める失井に対して家名は『後の先(あとだし)』を発動する。全力で逃げて全力で追ってくる相手に対して放つ『寅』の戦士との戦いでも見せた魔剣。---しかし、失井はそれを当然の如くに捌ききる。最強の戦士の最速の足運びを越えて放たれた最速の魔剣は最速を塗り替えられる事で捌かれる。ならばと家名は(`・ω・´)こんな顔をして覚悟を決めた。「二連続(あいこで)後の先(しょ!)」。最速を越えた最速を越えた最速を越えた最速の一刀が放たれる。途端、家名の利き腕からブチブチと筋線維の引き千切れる音が聞こえた。これが家名の隠し持つ最後の魔剣。第一宇宙速度を越えて第二宇宙速度で放たれた魔剣はけれど、やはり最強には届かなかった。あっさりと、ではない。無意味に、でもない。そんなことはその一刀を受けた他ならない失井自身が否定する。家名の最後の魔剣『二連続(あいこで)後の先(しょ!)』は確かに失井の肉体を切り裂いていた。日本刀から血が滴る。けれど、その刃は失井を殺し切れなかった。「………言い残すことはあるかね」「………ありませんよ。ある筈がない」。十年の歳月を賭けて尚、家名の刃は失井には届かなかった。だというのに家名の心には一切の曇りはなかった。「人は人を殺す。人は人に殺される。その中で憧れに殺される俺は…残念ながら、幸せだ」。唯一、否、唯二、心残りがあったとするならそれは姉たちにもう二度と会えないということと、異能肉が繋いでくれた命をたった一時間に満たない短い時間で散らしてしまうことだが、それは心の中に秘めて死ぬことが美しく豊かであることくらい家名にもわかる。

 

失井のサーベルが振り上げられる。家名は死んだ。

 

 

―――その結末を覆したのはどこかで見たことのある光景だった。空から人が降ってきた。

 

「よかったわ。私はまた間に合ったみたいね」

 

サーベルを振り上げた失井と死を覚悟した家名の間に割って入り、右腕と引き換えに家名の命を救った平和主義者‐『申』の戦士‐砂流は尊い犠牲となった右腕の痛みを欠片も表情に出すことなく家名を安心させるような声色で言う。「家名君。怪我はない…訳もないけれど、うん、死ぬような怪我ないようでよかった」「…砂流さん。何故、此処に?」「それについては、うん、私としても思うところが無い訳じゃないのだけれど…憂城君のお陰。憂城君の”お友達”のお陰で私たちは貴方たちが戦っていることに気が付けた」。『卯』の戦士・驚異的な死体作り(ネクロマンチスト)である憂城のお友達。つまりは死体と化した『巳』の戦士・断罪兄弟・弟の戦士としての才能は『地の善導(ぜんどう)』。地面からの振動をびんかんに感じ取り周囲の状況を把握できるその能力は使い方次第ではこの大都市全域をカバーする高機能レーダーと化す。死体となった戦士の能力すら扱える憂城の死体作り(ネクロマンチスト)としての才能に改めて(;^ω^)こんな顔をしてビビりながらも家名の利き腕は日本刀を辛うじて握りながら、失井のサーベルを受け止める砂流の腕の間を縫うように失井の頸部めがけて振るわれる。

砂流の介入。それによって動きを止めざる得なかった失井の隙をつかないなんて真似を家名がしない訳がない。異能肉がいる間はだまし討ちなんて真似をすれば後ろから機関銃の玉が飛んでくるので行えなかったが、『午』の戦士との戦いでもわかるように、家名は元々真っ向勝負の間に挟む卑怯卑劣を売りとする戦士である。

 

その卑劣な家名の攻撃を止めたのもまた砂流だった。右手で失井のサーベルを、左手で家名の日本刀を、両手を交差させた形で受け止めて立つ平和主義者を前に天才的な戦士と天才ではない戦士は今度こそ完全に動きを止めた。「…何の真似だね」。「…どういう積りですか」。失井は自分を倒す為に、家名と協力する為に、砂流が家名を助けるのは理解できた。けれど、自分まで助けるのは何故だと怪訝な顔で砂流を見る。家名は失井を倒す為に、砂流が自分を助けてくれて、その隙を突き放った攻撃を妨害するのは何故だと( ゚Д゚)こんな顔で砂流をみる。

二人の男に挟まれ熱い視線を向けられる砂流は当然と言った口調で「私はあなたたちの戦いを止めに来たの。五年前と同じように全員が助かる方法があるんだよ。だからお願いします。剣を、刀を、下げてください」。『申』の戦士・砂流は平和主義者である。それを失井も家名も痛いほどに知っていた。しかし、まさかこれほどまでに終わっていると言っていいほどに一貫していようとは、思わなかった。事ここにいたりどこか嚙み合わない二人の戦士の思考は初めて一致する。

 

まず倒さなければいけないのは―――砂流だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

砂流の語る必勝法‐全員が助かる提案は言うまでもなく十三大戦開始直後、十三人の戦士が存命だったからこそ意味を成したものだ。いや、その時点ですでに『巳』の戦士は憂城によって殺されていたのだが、それはともかくとしてどう考えても十三戦士の内、すでに半数以上が死亡している現時点において砂流の語る”皆が助かる必勝法”が意味を成すものだとは思えない。あるいは異能肉さえ存命であったなら、家名は砂流の提案に耳を傾けたかもしれない。けれど、何度も重ねて言うようだが異能肉は既に死亡している。故に家名にはもう砂流の提案が魅力的とは思えない。いや、それ以上に、破滅的だとさえ感じてしまう。多くの戦士の命が散った。その状況下で尚も平和を叫ぶ者。頭がおかしいと思わずにはいられない。大勢の姉に囲まれ育ち年上の女性の頼みを断れない悪癖を持つ家名にして、砂流の提案に乗ることが出来ないほどに。そして、その思いは失井もまた同じだった。その中で砂流は「あはは、そんな怖い顔で見られるとまいっちゃうよ」と笑った。「私も綺麗ごとを言っているっていう自覚くらいはあるよ。…家名君が一人で失井さんと戦っているって言うことは、肉ちゃんが死んじゃったってことだものね」。異能肉の死亡に暗い色を落しながらも、それでも砂流は力強く言った。「それでも、私はみんなを守るために戦いたいの。せめて、生きている人たちと一緒に幸せになりたいって思ったの。綺麗ごとでもいいの。だから、お願いします。剣を、刀を、下げてください」。ポタポタとサーベルから、日本刀から、砂流の血が滴る。そして、その音に混じり聞こえてきたのは鋼が軋む音だった。「…っ!?」。「…っ!?」。家名と失井が互いに武器を下げ砂流から距離を取ったのはほぼ同時だった。「…ありがとう。武器を下げてくれて」。そんな暴言を年上の女性に吐くことが出ないが、どの口が行っているだと家名は思った。武器を下げていなければ、砂流はサーベルと日本刀を砕いていた。戦士としての生命線と言える武器を失井も家名も失っていた。あまりに暴力的な停戦調停に家名が(;∀;)こんな顔をしてビビる中で、砂流は優しく微笑みながら言った。「綺麗ごとなめんなよ。ボク」。そこには314の戦争と229の内乱を和解に導いてきた英雄が立っていた。

 

 

その場は硬直するかに思われた。

 

 

『丑』の戦士・失井。天才の意味合いすら変えてしまった天才戦士。紛れもなく最強である戦士。

『申』の戦士・砂流。停戦ではなく終戦を目指すならば宇宙戦争でさえ一日で終わらせると噂さされる英雄。

『亀』の戦士・家名。失井と砂流の戦い方をしる生き残る術に長けただけの戦士。

 

家名が塵芥の様に片手間で吹き飛ばされることはあろうとも失井と砂流が戦えば決着には相応の時間を要するだろうことは誰であろうと予想できた。そして、時間を掛けて訪れる決着が双方に大きな傷を負わせることも予想できた。だから、訪れるかに思われた膠着状態。それを、許さないと微笑んだのは、やはり平和主義者の英雄だった。「武器を下げてくれてありがとう。うん。大切な事だから、二回言うね。そして、次は私の、いえ、()()()の話を聞いてください」。砂流の言葉にぞくりと家名の首筋の産毛は逆立った。

 

カツンカツンと金属を時折地面に引きずるような音と共に現れたのは異様な風貌の男。バニー服を着た死体作り(ネクロマンチスト)。『卯』の戦士・憂城。「ああ、家名くん。無事だったんだね?よかった。君が無事で僕はとっても嬉しいよ?」。そして、憂城が従えるのは首なし死体となった『巳』の戦士。更にその後ろから眠たげな眼を擦りながら『子』の戦士・寝住が歩いて来ていた。この状況には( ;∀;)こんな顔をしている家名だけでなく、流石の失井も焦りを覚えた。失井と家名の戦いに介入したのは砂流だけではなかった。平和主義者同盟全員で乗り込んできていた。一対一の戦いが一対二になろうと一対一対一に成ろうとも何も問題は感じない天才でも、流石に一対一対三。『巳』の戦士の死体を数に数えるなら一対一対四になるのなら、流石に冷や汗くらいは流れる。

それを知りながら、砂流は微笑んでいた。暴力的と言えるほど強力な平和主義者‐平和主義者同盟は戦う前から戦いを終わらせるという快挙を成しえながら、それでもそれに驕ることなく局地的な戦争だけでなく”大戦”を終わらせる為に動きだす。

 

混沌と化す戦場に、更に色が混ぜられる。「ぐるるう。あたい抜きで宴会かい?なんだよ。寂しいじゃんかよ。あたいも混ぜろよ」。街灯の上から、声がした。見上げれば黄色と黒の縞模様。虎模様のビキニにレザージャケット。獣の様な嗅覚で血の匂いを嗅ぎつけたその戦士の登場を、砂流は予見していた。既にこの十三大戦は終盤ではなく終焉に向かっている。それに間に合わない戦士が居るはずがなかった。そして、砂流はこの場にいる戦士が現時点で存命の戦士全員だと理解した。「うん。勿論よ。あなたにも私の考えた必勝法に参加して欲しい。平和裏に行きましょう」。「ぐるるう。へへ、平和ねぇ。うん。あたいも好きだぜ。マッコリの次くらいに」。『寅』の戦士・妬良は街灯の上で胡坐をかきながら獰猛に嗤っていた。「じゃあ、話を始める前にまだ名前も知らない人もいるだろうから自己紹介から始めましょう」。どれだけ場が混沌と化そうとも場を仕切るのは砂流である。十三大戦開始からそれなりの時間が過ぎ、半数以上が脱落した戦場で遅すぎる自己紹介が始まった。

 

「『亀』の戦士・『動いたら殺す』家名」

「『申』の戦士・『平和裏に殺す』砂流」

「『卯』の戦士・『異常に殺す』憂城」

「『寅』の戦士・『酔った勢いで殺す』妬良」

「『丑』の戦士・『ただ殺す』失井」

 

「『子』の戦士・『うじゃうじゃ殺す』寝住」

 

生き残った6名の戦士たち。そして、その場で語られた砂流の”必勝法”はとても素晴らしいものだった。聞いてしまえばなるほどその手があったかと失井が頷いてしまう程、けれどてめえじゃなきゃ考え付かねぇぜと妬良が手を叩いてしまう程、みんな幸せになれるねと憂城が純粋な笑顔を浮かべてしまう程、驚いて眠気が飛んでしまったと寝住が冗談を言ってしまう程、\(^o^)/こんな顔を家名がしてしまう程、砂流の”必勝法”は完全無欠で完璧だった。

 

そして、十三大戦は終わる。

 

全員が砂流の”必勝法"を聞き驚いている隙をついて転がってきた爆弾(モノ)によって。

 

その爆弾は家名視点で唯一、大戦中に直接的な関りを持たなかった戦士。郊外の公園で妬良に腹を割かれ死亡した『未』の戦士‐必爺が芸術の域にまで昇華させたと豪語する投擲手りゅう弾-()()()()()()醜怪(しゅうかい)()り』。

 

 

それが集まった戦士たちを根絶やしにするかのように、爆発した。

 

 

爆風に晒されながら、家名は(爆発オチなんてサイテー)と(`・ω・´)こんな顔をしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





次回、完結。

年内に投稿できるといいな…
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