モモンガ様が私に授けてくださったのは、ひとつのスキル。
《伝言》の魔法すら超え、直接モモンガ様と私の心を通わせる絶対無二の力。
偉大なる御方の御心を誰よりも深く理解し、支えて差し上げるのが妻の務め。
それに相応しい力を、このお方は手ずから私にお与え下さったのだ。
ただ、何もかもが無条件に伝わるわけではない。
『聞いて欲しい』。そうモモンガ様が思った思念、想いが、スキルを通じて私に流れ込むのだ。
(だけど……まさか!こんな”想い"は予想していなかった……!)
至高の41人の旗を見上げながら、その一つ一つを指差していくモモンガ様から流れ込む思念。
モモンガ様は決して”私に"『聞いて欲しい』と思ったわけではないだろう。
その御心に秘めた悲痛な思いは、かつて御方と共に在り、そして今は"御隠れに”なられた筈の至高の40人に向けられたもの。
あまりにもーーー空虚。大切なものが抜け落ちてしまった心を、その残滓で無理矢理に埋め、自嘲し、『誰でもいいから応えてくれ』と願っている。
そんな濁流の様な、それでいて今にも消えてしまいそうなモモンガ様の想いが私に流れ込んでいた。
ーーー張り裂けそうだ。
こんな想いをモモンガ様に抱かせ、今尚姿を見せない自らの創造者を、私は初めて『殺してやりたい』と思った。
捕らえたところへ全てのしもべに刃を持たせ、順番に一刺しずつ制裁を加えたところでまだ足りない。
ああ、憎い。憎い。憎い。
私達の在るべき場所を、意味を、たった一つの喜びを護ってくださったモモンガ様を、なぜあの者達は残していったのか……!
ーーーと。
できることならそう思いたかった。
そうする事ができなかったのは、モモンガ様から流れ込む大きな悲しみの他にもうひとつ、それと比肩する程に強い想いが私に伝わってきたからだ。
それは『愛』。
モモンガ様はこのナザリック全ての者を、本当に深く愛して下さっていた。
無論慈悲深い方だとは誰もが理解していた。
だから最後までこのナザリックに残って下さったのだろうと。
けれど不安があった。
あまりにも慈悲深いからこそ、彼のお方は望まぬお役目に留まっているだけなのではないかと。
モモンガ様がいなくなればナザリックは絶望に沈む。
敬い仕えるべき創造主全てを失えば、私達は存在意義を失う。
それどころか、自らの力の無さ故に見捨てられたことを悲観し、自死を選ぶ者もいるだろう。私もその中に含まれるのは間違いない。
そんな私達のことを思うあまりに、モモンガ様は我々を見捨てることができないだけなのではないかと。
だが違った。決してそうではなかった。
偉大なる御方の中にあったのは憐れみなどではなく、全てを包む深い愛。
モモンガ様は心の底から私たちNPCを愛して下さっていた……
そう、それは主従の枠すら超えーーーまるで『家族』の様に。
悲しみの淵にあって尚揺るがぬその愛に、私は溢れる涙を抑えきれなかった。
そして、そんなアインズ様が未だ深く愛されている他の至高の御方々に害意を抱くなど、その御心を踏み躙る最大の不敬でしかないと思い知った。
偉大にして絶対なる至高の御方の創造物として、守護者として。
そして何より妻と定めて頂いた者として、私はその御心に寄り添い、癒して差し上げなければ。
だから、どうか。
「ーーーモ、モモンガ、さま。どうか…そのように、哀しまれないで…ください。」
次回は話を動かしたいです。