びじょとやじゅう   作:彩守 露水

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第11話「其々の贈物」

「やぁ、みんな。待っていたよ」

 

 なんやかんやで辿り着いた弦巻邸。薫は昨日とは違い、五人のことを門の所で待っていた。

 

「すいません薫さん、待ちました?」

「いいや、今来たところさ。気にしなくていいよ、美咲」

 

 晴れてメンバー全員がそろったということで、一同は屋敷へ入る。幅が広く、かつ長い廊下を六人仲良く進む。その光景といえばもう、誰が見ても仲良しだと思うだろう。

 

「あの、美咲さん。昨日は流されちゃって訊けなかったんですけど……」

「ん、どうしたの?」

「えっと、どうして僕たち手を繋いでいるんでしょう?

 

 何故なら、六人全員で手を繋いでいるのだから。まるで『はないちもんめ』しながら歩いているようだ。

 

「あぁ、そうか。コウくんもうちに入るなら知っておかなきゃいけないか。ハロハピにはね、絶対にしちゃいけないこと……まぁ禁止事項みたいなものかな、そういうのがあるの」

「き、禁止事項……?」

 

 自分の左手を握る少女からの神妙な言葉にコウは思わず息を呑む。基本的に陽気で楽しげな雰囲気があるハロハピだというのに、()()事項とは穏やかでない。それは一体どれほど重大なものなのか、と彼は次の言葉を待った。

 

「例えば『広い場所では、花音さんから目を離してはいけない』とかね。それであたしが花音さんの手を握ってたら、こころたちが便乗してきたのが習慣化したというか……」

「……へ? あぁ、えっと、なんといいますか……」

「拍子抜けした?」

「禁止事項っていうくらいですから、もっとこう怖くて厳しいものかな、と……」

「まぁ、そう思うのも無理ないよね。けど、実際花音さんの方向音痴は偶に本気で洒落にならない時あるから……」

 

 美咲の脳裏に浮かんでいるのは、それを破った為に大惨事一歩手前にまでなった事態の数々。例をあげれば、電車で出かけたときに気づけば花音一人が新幹線乗り場にいたり、弦巻邸で行方不明になり黒服達による捜索でもなかなか発見されなかったり。

 ちなみに禁止事項には他に『はぐみの父にこころが建てたバッティングセンターに関することを知らせてはいけない』やそこから連鎖的に生まれた『こころの前で安易に規模の大きい望みを口にしてはならない』などがある。もっとも、この事項を認識し守っているのは美咲と花音の二人だけで、他の三人はそんなことなどお構いなしなのだが。

 その後も他愛ない話をしながら歩き続け、六人はハロハピ会議室を目前にしていた。

 

「じゃあコウ、ちょっとここで待っててくれるかしら? いいよって言ったら入ってきてね」

 

 扉をあける直前、こころがコウへそんなことを言った。それから肩をグイッと押して後ろを向かせ、部屋へと入って行く。他メンバーもこの事は予め知っていたらしく、何も言うことなく続いた。ただ、その最後に美咲がコウの耳元でこう囁く。

 

「部屋前で待機なんて、いまどき言われても色々丸わかりだろうけど。ま、付き合ってあげてよ」

 

 バタンと背後で扉が閉まる。それから数分、扉一枚を隔てた向こうから、許可を示すこころの声が届いた。

 取り決めに従って、コウは扉に手を掛ける。恐る恐るといった様子で彼が力を込めてゆくと――パァン! と。突然に、破裂音が鳴り響いた。三つも、四つも、連続して。

 

「ひゃぁっ!?」

 

 さらに同時に、頭上から正体不明の何かが降りかかってくる。光を反射させながらヒラヒラと舞い落ちるそれを振り払うこともできず、コウはただ茫然としていた。

 

「……? へ? え……へ?」

「ちょっと、大丈夫?」

 

 前振り有りのサプライズでまさかここまで驚くとは、と逆に驚く美咲が手を差し伸べる。が、まだ頭が回っていないようで、彼はそれを取ることなく見つめるだけ。もしこれが事前に頼んだ通り、こころたちの為の演技だとすれば、彼はとんだ役者ということになる。

 

(いや、本気で驚いてる……?)

 

 もっとも、そのような可能性は見るからに皆無であるが。

 

「えー、そこまでびっくりする事だった?」

「み、美咲さん、さっきのは一体何ですか……!?」

「何って、普通にクラッカーだけど――あー、なるほど」

 

 言っている最中に美咲は感づいた様子だが、果たして、コウはクラッカーという物を見たことがなかった。その存在自体はかろうじて知識に中にあったが、具体的なことは、形状すら未知なくらいだ。

 いつまでも動かないコウを美咲は能動的に引っ張り起こし、きちんと立たせる。

 

「じゃあ改めて。コウくん、ハロハピへようこそ」

「あ、そうだったわ。コウ、ようこそ!」

「こーちゃん、よろしくね!」

「初対面ではないのだが……初めまして、と言っておこうか。ハロハピへようこそ」

「これからよろしくね、コウくん」

「本当はクラッカーの直後に言う予定だったんだけど……しまらないなぁ」

 

 しかし、そこがまた彼女たちらしい。そんなこんなで、なんとかパーティーは始まった。

 

「じゃあ、早速だけどプレゼントにしましょう!」

 

 料理の並ぶテーブルや、たくさんのおもちゃが部屋にはあるというのに、こころはまず最初にそう言った。

 

(えっ!?)

 

 その言葉に、またもびっくりしたのはコウ。何の話かわからず自分以外の反応を窺ってみるが、四人は『そうする?』などと、当たり前のように話を続けているものだから、混乱はさらに極まった。

 

(プレゼント……ぷれぜんと……?)

 

 思えば、昨日の帰り道。優からの着信履歴の発見によって、『ROW』を入れるという話が有耶無耶になってしまっていたが、もしや彼が知らないうちにそのアプリで話し合いがされていたのか。パーティー定番のイベントとして、互いに贈り物をし合うプレゼント交換なるものがあると、これまた知識の上でだけは知っていた彼は頭を抱えた。

 

(えっと、えっと……)

「あー、コウくん? 見るからにすっごい慌ててるけどさ、いま考えてるだろう事は多分、杞憂だよ」

「……へ?」

「だって今言ってるの――コウくんへのプレゼントだから」

 

 ズイと箱がコウの目の前に差し出される。それは彼が両手で抱えられるほどの大きさで、差出人はこころだった。

 

「あたしからはこれよ!」

「これは……?」

「その箱にはね、私が今まで『楽しい』って感じたものがたーっくさん入ってるの! コウに、幸せのお裾分けよ」

 

 コウは箱の蓋を開けてみる。そこには数冊の絵本に、ルービックキューブ、他にもよくわからない玩具が多数入っていた。

 

「私からはこれは贈らせてもらおう」

「これは、哲学書?」

「あぁ、数ある中でも特に私が気に入っているものだ。ニーチェという人物の本なのだが……ふふ、知っているかい?」

 

 薫が手渡したのは一冊の本。日本語で書かれた表紙はところどころ端が傷んでおり、深く読み込んできた事がわかる。それを受け取ったコウは薫の言葉に、少しだけ考える素振りをした。

 

「ニーチェ……確か、プロイセン生まれの哲学者でしたっけ?」

「プ、プロ……? んん! あぁ、そうだったかもしれないね」

 

 先の事を見越して学んだ倫理の単元の知識を引っ張り出してコウが答えると、薫は何故か少し狼狽し、それから取り繕ったように相槌を打った。まるで、お気に入りだと言いながら、実は著者について何も知らないかのような反応だ。

 

(まぁ、そんなことはないでしょうけど……)

「こーちゃん、ごめーーん!」

 

 次にコウの前へ躍り出たのははぐみ。しかし、その手には何も握られておらず、涙目で勢いよく頭を下げた。

 

「はぐみもね、何か用意しなきゃって昨日一日ずっと考えたんだけど……結局何も思いつかなくって。ほんっとごめん!」

「いえ、そんな。お気持ちだけでとっても嬉しいです」

「――だからね! 代わりにとーちゃんに頼んで厨房借りて、メンチカツ作ってきたんだ。ゆーうんが好きって言ってたからこーちゃんもきっと気に入ると思う!」

 

 そう言ってはぐみが手を向けた先には、鮮やかな色の料理が並ぶ一角に遠目からでもわかる茶色いワンコーナーがあった。話を聞く限り揚げたのは大分前の筈だが、何かしらの方法で温めなおしたのか、湯気を立ち昇らせている。

 

「じゃあ、次は私だね。はいどうぞ、コウくん」

「あ、花音さん。ありがとうございます」

 

 四番手。花音は中腰になって、小さな箱を渡した。促されるままコウが開けてみると、中にはさらに小さな縦長の袋が。彼に見覚えはない。

 

「えっと……」

「これはティーバッグだよ。私、紅茶にはちょっと拘ってて、お気に入りのをいくつか見繕ってみたんだ」

「紅茶、ですか。そういえば飲んだ事なかったかも……。ありがとうございます、おうちでゆっくりいただきますね」

「そうなの? じゃあ私の選んだのがコウくんの初紅茶になるんだね……ちょっと緊張というか、でも嬉しい」

 

 えへへと花音が笑うと、コウもつられて笑んだ。

 

「んじゃ」

 

 そして、この場にいる最後の人。コウの事情に最も詳しい人。奥沢美咲が、声をあげた。

 

「あたしの番か。はい」

 

 今までの誰よりも淡白に、美咲は何かを手渡す。コウが手を開いてみると、それは小型の音楽プレイヤーだった。イヤホンも付いている。

 

「そこに今あるハロハピの曲、全部入ってるから。操作方法は……まぁ、わかんないだろうし、あとで教えるよ」

「あ、ありがたいですけど、こういう機械って高かったんじゃないですか?」

「ん、まぁ買うとそれなりにするけど、これは父さんのお古だから気にしなくていいよ」

 

 値段でいえば高価かもしれないが、あくまで貰いもの。他のメンバーの事を考えれば、むしろ申し訳ないくらいだと美咲は考えていた。だから、

 

「じゃ、次はこれね」

 

さらなるプレゼントを、彼女は用意した。

 

「え、二つですか?」

「まぁ、ある意味ではそうなんだけど。こっちはミッシェルからだよ」

「あ、なるほど」

 

 もう言うまでもない事だが、ミッシェルと美咲を別の存在だと認識できているのはハロハピ内で半数だけ。残りの三人の中では、ミッシェルは今日はお休みということなっている。ここで事前に美咲が受け取っておいた事にして、後日ミッシェル状態の時にとやかく言われるのを避けようというわけだ。

 美咲からの第二の贈り物は、紙の束だった。

 

「あ、楽譜ですね。これ」

「そ。紙かメモリースティックかで悩んだんだけどね。コウくんならこっちのがいいかなと思って」

 

 果たして、彼女の判断は大正解である。祖師谷家にパソコン自体はあるが、あいにく彼の手の届く範囲にはない為、もし電子媒体で受け取っても見ることは叶わなかったはずだ。

 

「皆さん……ありがとうございます。すごく嬉しいです」

「何を言っているの? まだ終わりじゃないわよ」

「え?」

 

 コウが礼を述べると、しかしこころは『どういたしまして』とは言わなかった。言うには、美咲で最後ではないらしい。彼女がパンと手を鳴らすと、これまでで最大の大きさの箱を持って黒服の人達が奥の部屋から現れた。

 

「これは、あたしたちみんな――ハロハピからのプレゼントよ!」

 

 声に合わせて、見事な手際で包装が解かれる。ピカピカのキーボードが、そこには居た。

 

「わぁ、小さなピアノですね」

「コウくん、これはキーボードっていうんだよ」

「本当はオルガンを用意したかったのだけど、ミッシェルがこっちの方がいいって」

「もう、まだ言ってるの?」

「だって――」

 

 わいわいと。少しでも何かあればすぐに騒ぎが起こる。しかし、そこにいる誰もが楽しげに笑顔を浮かべていて――。

 

「今度こそ、皆さんありがとうございます」

 

 コウの言葉に、皆一様に動きを止め彼の方へ顔を向ける。それから揃ってこう言った。

 

『どういたしまして!』

 




はぐみの父の呼び方がガルパラだと『父ちゃん』で、運動会星4のメモエピだと『と-ちゃん』なんですが、どっちなん……

改行具合、どのように感じましたか?

  • 地の文間もっと開けた方がいい
  • セリフ間もっと開けた方が
  • 上記二つとも
  • 特に問題ない
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