びじょとやじゅう   作:彩守 露水

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短め


第13話「親情の自覚」

 夕陽が照らす住宅街の道。美咲とコウの二人は手繋ぎで歩いていた。花音がこの場にいないのは、帰りに直接バイト先に向かって行った為だ。

 

「やー、疲れたね」

「こんなにクタクタになったのは初めてです……」

 

 歓迎会が終わったのは六時頃。平日の学校終わりということでおよそ二時間という短さであったが、彼らがこうなってしまう程度には濃いパーティーだった。

 初めの内こそ立食会のように料理を摘まみながら皆でおしゃべりをしていたのだが、途中から舞台は広い庭に移り、その場でこころが考案した意味不明な遊びをしたり、鬼ごっこではぐみが一人無双したり。思い返せばこうして長いが、パーティー終了直後の彼にはまさしく一瞬に感じられた。

 

「しんどかったけど、まぁ楽しかったよね。しんどかったけど!」

「そう、ですね。とっても楽しかったです」

 

 タハハ、と美咲が笑いかけるとコウはえへへ、と笑み返した。誰にも違和感を受取らせない、至極自然な笑顔。

 

「…………」

「……美咲、さん?」

 

 それを見て、美咲には思うところがあった。

 

――果たして、自分はこの子のために何かしてあげれているのだろうか?

 

 『いっぱい楽しい事を教えてあげてほしい』とは彼の姉からの訴えだが、美咲の考えでは、そもそもこれは一つの頼みとしては完結しているが、一つの願いとしては不完全なのだ。例えるなら、詳細不明のスイッチを渡されて『押してくれ』と言われているような、そんな代理行為じみた何かを感じてしまう。

 きっと優はコウに対して『してほしい何か』や『辿り着いてほしい何処か』を持っていて、その為に楽しい事を知ってもらおうとしているのだろうと美咲は思うが、そういった優の願いの本質がわからない以上、先の彼女の疑問への答えは見つかりそうになかった。

 

(祖師谷さんはあたしに何を求めてるんだろう……?)

「――さん。美咲さん?」

「……ん?」

 

 突然――彼女からすればだが――横側から声を掛けられた美咲はおもむろに発生源の方向へ顔を向ける。そこでは、下がり眉のコウが心配そうな表情で美咲をじっと見つめていた。

 

「……あ、かわいい」

「か、かわっ!?」

 

 深い思考から引き戻された直後だったからか、美咲はポロリと心内の言葉をそのまま口から零してしまう。当然、コウはおおいに慌てた。

 

「あれ、あたし何言ってんだろ? ……や、ごめん。道端でさ、散歩してる犬とか猫とかいたらつい言っちゃう時あるでしょ? そんな感じで」

「急に黙っちゃうから、心配してたんですよ? それなのに……もう」

 

 そして今度は上がり眉。小さく頬に袋を作るコウを見て、美咲の口はまたも勝手に動いてしまった。

 

「……怒ってもかわいいとか反則じゃない? ――あ」

「美咲さん! もう、もう!」

「ごめ、ごめんって。だからそんなにポコポコ叩かないでよ……かわいいだけだから」

「ッーー!?」

 

 謝ると見せかけての追いうちに、コウは袋をさらに大きくしてポコポコと抗議をする。だが、痛みはまったくない。そんな彼の愛らしさにモヤモヤとしていた美咲の心は、すっかり晴れ模様を呈していた。

 

(祖師谷さんが最終、何を望んでるのかは結局わからないけど……まぁ、いいかな)

 

 小火山は依然として小火(ぼや)の如く怒っているが、それも軽く微笑んで撫でてやると完全に鎮まる。思わず、かわいいと口にしてしまいそうになったが、それは何とか留めた。奥沢美咲は二度した事を三度せずにいられる女なのだ

 

(この子を、もっともっと笑顔にしてあげたい)

 

 それは優の協力者としてでも、ハロハピのメンバーとしてでもなく。ただ一人の、奥沢美咲という人間としての想いだった。

 

 

――――――

 

 

「た、ただいま」

「おかえり!」

 

 祖師谷宅。優は、扉を開けた己の弟の挨拶に間髪いれず返事をした。彼女はどうやら、昨日の出来事を踏まえて帰りを玄関で待ち構えていたようだ。

 

「もうお姉ちゃんったら、こんなところでずっと居たらお腹痛くなっても知らないよ? 体は足から冷えるんだからね?」

「う、わかってるわよ……。けど、どうしても我慢できなくって」

 

 そのもっともな言葉に優はたじろいだ。靴下を履いてこそいるが、確かに足が少し冷たくなってきている事は否めなかったから。

 その事を誤魔化すように彼女は、弟が靴を脱ぐとすぐに手を引いて自分の部屋まで引っ張った。優命名、おねえちゃん署である。

 

「さーてさてさて、それじゃあ今日の取り調べといきましょうか!」

「お姉ちゃん、そのテンション何なの……?」

 

 二人がベッドに腰を掛けると、優は早速目を輝かせてぐい、と顔を迫らせる。見るからに高揚している姉に彼は、少しばかり冷めた目を向けた。

 

「まぁまぁ、いいじゃない別に。ふふ、今日は一体どんな事が――あら?」

 

 弟の口から楽しい話を聞く。そんな優の幸せな時間が始まろうというそんな時、彼女の携帯が電子音を鳴らした。手にとって確かめてみると、その発信元は優の友達の一人、山吹沙綾。

 

「ちょっと待ってね」

「お友達?」

「そ、友達……もしもーし、沙綾?」

(山吹さん?)

 

 優は一言断りを入れた後、着信ボタンを押して電話を寄せた。

 

(山吹さんがお姉ちゃんに……一体どうしたんだろう?)

「今ね、今日あった事をたっぷり聞かせてもら――んん?」

 

 沙綾が電話をしてきた理由について彼なりに考えていると、優が突然素っ頓狂な声をあげた。

 

「え、えぇ? あれ、どういう事? なんで沙綾が……?」

 

 考え事をしていたため会話を聞き逃してしまった彼は、何があったのか優へ問おうとしたが、それより先に彼女は小さく耳打ちをした。

 

「ごめん、話は一旦中止。ちょっと自分の部屋に戻っておいてくれる?」

「え、え? ……うん」

 

 背中を押され、何が何だかよくわからないまま彼は言葉通り自室へ戻る。電話なんて長くても精々十分ほどだろう、そう考えた彼は姉が再び迎えに来る事をひたすらに待ったが、ついに彼女が訪れる事はないまま夕食の時間が先にやってきてしまった。

 

(あ、そういえばメンチカツ美味しかったな)




この物語は作品内時間二週間で完結する予定なんですが、まだその内の二日目なんですよね……。
二日目で約五万五千文字と考えると、完結するのは……





      \ 三十八万五千文字 /



いけるかな?

改行具合、どのように感じましたか?

  • 地の文間もっと開けた方がいい
  • セリフ間もっと開けた方が
  • 上記二つとも
  • 特に問題ない

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