びじょとやじゅう   作:彩守 露水

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※この話は二話同時投稿の二話目です。一つ前の話を読んでいるか、確認してから下へお進みください。




第27話「恋情の自覚」

 あたしは自己分析が得意な方だと思う。

 自分の事なのに『思う』なんて曖昧にしか言えないのは、そもそも他人がそれをしている様子なんて見れるものではないので、想像で語る他ないからだ。だから、今のあたしも所詮は、自分が自己分析が得意だと自己分析しているに過ぎないわけで。

 なんて、無意味に難しい事を考えて、目を逸らすのはここまでにしておこう。

 

「……完っ全に『ほの字』だよねぇ」

 

 隣に寝ている少年を見て、あたしはポツリと呟いた。

 祖師谷幸。『コウくん』と呼んでいるこの子のことを、あたしは好きなのだ。多分……いや、きっと。

 昨日の時点で『もしかしたら……?』とは考えていたものの確証はなかった。けど、朝起きて一番に目に入ったのがコウくんの可愛らしい寝顔で、その瞬間、すごく幸せな気分になったんだ。

 恋には二種類、何処かを起点に一瞬で始まるものと、いつの間にか始まっているものがあるらしいが、あたしの場合は後者のようだ。ただまぁ、強いて言うならば、好きを自覚した今この時こそが、あたしの恋の始まりなのだろう。

 『Roselia』との合同練習で湊さんがコウくんを悪く思った時、ムッとした気分になった。昨日の水族館でコウくんを抱き上げた時、思わず離したくないと考えてしまった。こんな風に兆候自体はあったようだけど、今といったら今なのだ。

 

「けど、意外だなぁ」

 

 一応、あたしだって女子の端くれではある。昔から、いつか恋をしてみたいな、なんて考えて、けど、恋をしている自分を想像できなくて。憧れているあたしのすぐ傍に、なんだかんだ恋をしないまま生きていくんだろうなぁ、って考える冷めたあたしがいて。

 そんな、心を覗かれるような事でもあれば、一発で面倒な女認定を受けるだろうあたしが、まさか出会って一週間にも満たない相手に恋をするとは思ってもみなかった。

 存外、あたしは惚れっぽい人間だったということだろうか? いや、でも仮に恋する早さの原因があたしにあるのなら、高校生になるまでの間に一度くらい恋をしてなければおかしい。だからそう、きっとこれは、コウくんが魅力的なのが悪いのだ。

 

 あたしは今日の今日まで自分が恋をするだなんて思っていなかった。けど、いざ実際にその立場になってみると、あれをしたい、これもしたい。あぁなりたい、こうなりたい。そんな気持ちがあふれて止まらない。

 

(けど……)

 

 あたしは、小さな寝息を立てているコウくんへ、目をやる。確かに、乙女な思考をしている間は胸が温かくなって、幸せな気持ちになる。けど、どうしても脳裏に居座って、姿をちらつかせる事があるのだ。

 

――果たして、この子はあたしの事をどうおもっているのだろう?

 

 少なくとも現時点で両想い、なんて事は絶対にないだろう。あたしはそこまで自惚れていない。だから、大事なのは今後そうなれる可能性があるのか、ということ。

 自惚れていない、なんて言った直後ではあるけど、客観的事実をもとに少しだけ驕らせてもらうなら、あたしはおそらくコウくんに一番接している家族以外の異性だ。可能性は十分にあると思う。

 けど、その客観的事実っていうのも、あくまで自分がそれを客観的だと分析しているにすぎないのであって、本当に客観的なものなどというのは――。

 

(って、やばいやばい。なんだこれ、あたしの心内は哲学書か?)

 

 恋を自覚した影響か、思考がめちゃくちゃになってしまっていた。一度、深呼吸をして落ち着こう。

 

 ふぅ……よし。とにかく、あたしはコウくんに恋をしている。これが重要だ。ここまで色々考えてきたけど、正直それ以外の事は全部どうだっていい内容にすぎない。

 今まではただ、祖師谷さんに頼まれて一緒に過ごしている。ただそれだけの関係だった。けど、これからは違う。コウくんと、そして何よりあたし自身の為に、この子と時間を共にしていきたい。その為にも一先ず、祖師谷さんにはもっと色々尋ねる必要がありそうだ。

 

 一週間後から、コウくんの生活はどうなってしまうのか?

 そもそも、何故この二週間が用意されたのか?

 

 頼まれて動いていた間は必要に感じず放っておいたが、今はどんな些細な情報だって欲しい。なんとしても、聞きだしてやらねば。

 

「……んぅ」

 

 あたしが一人、決意を固めたところで、コウくんが目を覚ましたようだ。小さな身体で大きく伸びをして、不思議そうに頭を捻っている。寝ぼけているせいで、ここがあたしの家だという事を思い出していないみたいだ。

 

「コウくん」

 

 いつまで経ってもこちらを向いてくれない事に痺れを切らして、あたしはコウくんの頬へ手を添えて自分の方へ顔を向けさせる。彼に触れた掌には、温もりが感じられた。体温の移動だとか、そんな科学の理論では絶対に説明なんてできないだろう、明るくて、優しい温もりだ。

 そうまでしてようやくあたしの存在に気付いたコウくんは、でもやっぱり理解が追い付いていないようで、ポカンとした表情を浮かべている。

 あぁ、こう言うと君はきっと、頬っぺたふくらませて怒るのだろうけど、

 

「おはよう」

「ふぁい、おはようございます……?」

 

――私の好きな人は、こんなにもかわいい。




一人称ってこんな感じ……?
ワカリマセンฅʕ•ᴥ•ʔฅ

改行具合、どのように感じましたか?

  • 地の文間もっと開けた方がいい
  • セリフ間もっと開けた方が
  • 上記二つとも
  • 特に問題ない

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