下校時に美琴と黒子は一緒に歩いていた。
「そう…なんですの…そんなことが…」
黒子はあの事件でアンチスキルと共に対応に追われていたが、美琴に詳しい内容を聞かされて言葉を詰まらせた。
目の前で親を殺され、死んでいたと思われた恩師が化け物並の存在になって現れたという情報になんと言ったらいいか、分からなかったのだ。
「それにしても…心理さんが入ってくるなんてビックリだわ」
心配していたのが嘘のように平然と美琴の前に先輩として現れたのだ。
「それにあんな紹介…恐怖しかありませんの」
黒子は思いだして少し顔色が悪くなった。
美琴は苦笑いをしている。美琴としては、あの第五位をもろともせずに正面からメンチを切る心理を流石としか、言わざるを得ない。
「おー。御坂にチビ助じゃねぇか」
そんな風に思いを馳せていると前から聞き覚えのある声。
それはもう一人心配していた男で、心理の兄である
「あ、アンタ…!ってその格好っ!?」
坂田銀時がいた。
それにも驚くが、銀時が制服を着ている事が一番の驚きだった。
黒子はチビ助言うな!と憤慨しているが。
「あ?あぁ…成り行きで上条んとこの高校に入ったんだよ。オマエらんとこに、ここちゃん来てたろ?」
こちらはダルそうにしてさらには目が死んだ魚のようになっている。
「アンタ達…大丈夫なの?」
銀時は一瞬、空を見上げてから美琴達を見た。
「大丈夫って訳ではねぇが…いつまでも引きづっていても仕方ねぇだろ。それに…母親みてぇな奴がいるし、奴の分まで背負って生きていくしかねぇんだよ、俺達は」
どこまでも見据えている銀時の目に美琴達は吸い込まれそうになっているが、彼はニヤニヤと笑って美琴をからかう。
「んだぁ?そんなに心配してくれてんのかぁ?御坂ちゃんは」
ポンポン、と彼女の頭に手を乗せてにやけていると顔がこれ以上ないほど顔が真っ赤になった。
「そ、そんなんじゃないわよ!!//」
手を払い退けて反論するが、相変わらずケラケラしている銀時に腹が立った。
横では、黒子は何故か悔しそうにしていた。
「相手が第一位様ではなければ…」
相手は銀時なのだから敵う筈がないとがっくりと肩を落とした。
「あれ?美琴に黒子?だっけ?あと銀兄、何してんの?」
「ここちゃん。学校どうだっ……た」
近くから心理の声が聞こえて振り向くとビシっと凍ったように固まった。
美琴と黒子も同じ反応だった。
「…どうしたの?」
心理は不思議そうにしていたが、周りを見ると彼女を遠ざけるように歩いている人がたくさんいた。
何故なら
心理の後ろにはゾロゾロと常盤台の生徒が集結していたからだ。
「いや、なんでだぁあああ!!!!!!!」
銀時がいち早く覚醒してシャウトした。
「心理!!初日で何しやがればこうなるんだよ!!!!お嬢様支配して何する気っ!?」
二十人はいるだろうお嬢様の中心に堂々と彼女が立っているのだから叫ばずにはいらない。
心理は後ろを見てあぁ、と納得して
「ちょーっと脅したら…ついて来ちゃった」
ニコッと笑う心理に後ろでは思い出したくないのか、青白い顔をした生徒がほとんどだ。
(オィイイイイイイイイ!!!女王どころか、魔王誕生しちゃったんですけどォオオオオオオオオオオっ!!!)
段々と妹が自分からかけ離れていく存在になりつつある事に頭を抱えた。
「やっぱ目立つか。もういいよ解散で」
そう言うと一礼して別々に離れていった。
「あーっ!!ぎんときーっ!ここりーっ!!」
更にそこに新たな人物が二人。
右手をこちらに振りまいてニコニコしているインデックスの左手には
「「ブフォッ!!?」」
不機嫌そうに向かっている高杉の右手が繋がれていた。
思わず、心理と銀時は同時に吹き出した。
派手な着物を着た男と修道服がきた女子供が手を繋いで歩いているなど、 シュールな光景だからだ。
「しんすけがねー、“お前はウロチョロしていなくなると悪りぃから、こうしてろ”って言ったんだよ!!私だってそこまで子供じゃないかもっ!!」
プンプンと怒っているインデックスに対して
「事実だろ」
と鼻で笑った。
「で、テメーらはいつまで笑ってんだ…」
未だに笑いが収まらない兄妹に益々、不機嫌になった。
「オマエがそんなに子供好きになってるとは思ってなかったからよぉ」
「危うく、ロリコン疑惑でそこにいるジャッジメントに捕まえて貰おうとしてたわ」
ニヤニヤ、クスクスといった二人の表情に睨みつけるが、効果はいまひとつのようだ。
チッと舌打ちしながら溜息を吐くも、まだ手は繋いだままだ。
変わったなぁ。高杉
そんな事を思いながら、ニヤニヤから穏やかな表情に変えた銀時。
美琴も黒子もあははと笑って見ていた。
「んで、何でオマエがインデックスと一緒に来てる訳?」
「コイツ一人にしちゃあ、どこぞの連中が狙うかわかんねぇからな」
高杉はインデックスをハァっと溜息をつきながら見て、銀時の問いにそう答えた。
「そう言えば、あの“魔術師”二人…あれ以来見てないわね」
心理が思い出したかのように呟けば、美琴も同様に頷く。
「オイオイ。銀さん抜きで何、進めちゃってるんですかぁ?つーかオマエら会ってたのかよ」
黒子は何の話をしているか分からない為に首を傾げているが、銀時は眉間に皺を寄せている。
高杉が再びインデックスを見遣るとピクリと反応する。
「聞いてなかったなぁ。お前が何で追われてんのか」
「…私の頭の中には“十万三千冊の魔道書”があるんだよ。そして見たもの、聞いたもの全てを忘れない“完全記憶能力”を持っている。あの人達はそれを狙っているのかも」
観念したかのように自分の推測で話し出すインデックス。
完全記憶能力は分かるが、十万三千冊の魔道書が頭の中に詰まっているなど、オカルトチックなものが出てきた。
「魔道書…ねぇ」
「そういやぁ、そんな事言ってたっけなぁ?」
高杉は興味深く呟けば、スタスタとインデックスの方に近づく銀時。
「ぎんとき?」
不思議そうにしている彼女の頭に手を当てると銀時は目を瞑り、演算を開始した。
その瞬間だった。
ピキっと頭の中で何かが弾け
「ゴフッ!?」
大量の血が銀時の口から流れてそのまま倒れた。
周りは何が起きたか分からず、混乱している。
「おいっ!!銀時っ!!」
「インデックス!?銀兄に何をっ!?」
高杉はすぐに銀時に近寄り、上体を起こしてあげた。心理はインデックスを睨みつける。
インデックスも美琴も黒子もこの状況に追いつけないでいる。
ただ一人、銀時だけは納得したように血を拭い、笑った。
「なるほどねェ…科学の力で魔術を解析しようとするとこうなるって訳かい」
「オマエ、魔術使ったことあるか?」
銀時はインデックスの様子を伺う。
「う、ううん……魔術は私は使えないんだよ…でも、何で」
訳が分からない、と言った顔で答えると
「その十万三千冊の魔道書に俺が魔術とは違う、異能の力を使っちまったからだろ。これではっきりと分かった…科学(俺達)と魔術(オマエ達)が共存する事はありえねぇだろうよ」
科学と魔術さ相対すべき関係であり、交わる事はない。
銀時は憶測でそのように判断した。
それといきなり美琴に振った。
「御坂。オマエの能力は上条に通じなかったんだよな?アイツは何だ?」
「え?アイツは無能理者らしいけど、右手には“能力を打ち消す力”を持っているわ」
いきなりの事にビクっとしたが、上条の能力を思い出して嫌そうに答えた。
もし、その力が魔術も打ち消す事が出来るのならインデックスを救えるのは銀時ではなく上条である。
「ハッ。どうやら…俺じゃあ、テメェを救えねぇな。インデックス」
「…え?」
この男は今、何と言ったのだらうか。
「高杉、心理…帰るぞ。俺達とオマエはここで“お別れ”だ」
「……」
「銀兄さん…本気で言ってるの?」
高杉は黙ったまま銀時を見ている。心理は苦い表情で尋ねる。
銀時はそれを肯定すると
「い…いやだよ…ぎんとき。一緒に居てくれるって…」
苦し紛れの声で彼が離れていくのを阻止しようと手を伸ばす。
「悪りぃな。全部忘れてくれや」
インデックスを見向きもせずに歩きだした。
「いやだよっ!!忘れたくないんだよっ!!…ぎんとき!!」
ポロポロと涙を流して銀時に近づく。そして掴める位置までになった瞬間
「さよならだ。インデックス」
最後まで此方を見る事なく、非常な言葉を放った。
インデックスは掴もうとした手を止め、歩みを進めた銀時の背中を茫然として立ち尽くした。
高杉はインデックスを見たが、無言で通りすぎる。
心理は心配そうにしているが、銀時の呼ぶ声に従って渋々、彼女から離れていく。
「どうして…?なんで……待ってよ、しんすけ…ここり………ぎんときぃ…」
もう、さっきまで手を繋いでいた高杉の優しさも
心理との楽しかった日々も
銀時の自分の全てを包み込むような温もりも感じられなくなってしまう。
ポタリ、と何度も涙が地面に落ちる音は彼女の声をかき消した。
そんな姿に美琴と黒子は何も声をかける事が出来ずに悔しそうに表情を歪めた。
次は久しぶりに魔術師二人が登場します。