やみなべのネタ倉庫   作:やみなべ

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艦これはちょっとだけやったことがあるのですが、ストーリーがほとんどないのとゲームシステムに馴染めず早々に頓挫。でもキャラクターは好き、だから二次創作に逃げた身です。
某サイトの漫画とかイラストとか大好き。多分に影響を受けまくっているので、色々おかしいと思いますがご勘弁を。
まぁ、夜戦バカはどこでも夜戦バカなので大丈夫でしょうが(今回いないけど)

あと、BOXイベントの息抜き兼リハビリがてらでもあります。最近、キーボードの調子が悪くて、今もちょっと打ちにくい。PC本体は問題ないのでこの状態に慣れるよう頑張る所存。


〈艦これ×FGO〉神機残響海戦 硫黄島~天 地 人の狭間~

―――“汎人類史の方が平和だ”なんてとんでもない

 

そう言ったのは誰だっただろう。

 

―――全ての地獄の頂点に立つ! それこそが汎人類史を名乗るに相応しい条件だ!

 

胸を張ってそう断言したのは、果たして誰だっただろうか。

 

 

 

……そう。いつだって“滅び”と隣り合わせ、地獄の次にまた地獄を積み重ねるのがこの人理(汎人類史)の在り方だ。

それは、二度に亘る“人理の危機”を経ても変わらない。“齎した者(人類悪)”の愛のカタチなど知る由もなく、“乗り越えた者(最後のマスター)”が何を背負ったかなど見向きもせず。

何一つ変わることなく、今もまた着々と地獄を積み重ねる。

 

だが、積み重ねられた地獄に埋没した“モノ”たちがそれを“是”とするかは別の話。

代り映えもなく、それどころかなお一層惨たらしさを増す地獄の繰り返しに、果たして“彼ら”は何を思うのだろう。特に、最も“人”が“人を殺した”であろう時代に在った彼らは……

 

“赦す”のだろうか。

 

それとも

 

“拒む”のだろうか。

 

分からない。生者に死者の想いなどわかるはずもない。

ましてやそれが、人ならざる“人による被造物”のものとなれば尚の事。

あるいは、遠い過去(神代)の“残滓”ともなれば、最早人知の及ぶものではない。

 

とはいえ、だ。所詮は過去の遺物。片や“思い()はあっても(神秘)はなく”、片や“(神秘)はあっても思い()は既に滅びた”。意思無き力に意味がない様に、力無き意志にも価値はない。

とりわけ、その魂が歴史の浅い、帯びる神秘も薄弱な“付喪神の為り損ない”では……。

 

しかしもしも、“もしも”の話。

“力無き意思”と“意思無き力”が結びついたとしたら……それは互いの“足りないもの”を埋め合う結果になるのではないだろうか。

奇しくも、どちらも在るは“海の底”。“時代に取り残された残骸”と“人理に拒まれた者の残滓”、めぐり逢い結び付く可能性は限りなく“ゼロ”に近いが“無”ではない。

 

本来であれば“神代”と“近代”、“命の混沌”と“鋼の艦”では相性が悪い。巡り合ったところで結びつくはずがない。

だがそれも、世界の土台たる“人理”が揺らいでいる状況では話が別。その程度の“あり得ない(イレギュラー)”ならば十分に起こり得る。“残滓の大本”が一度は目を覚ましたとなれば、尚の事だろう。

 

しかし、相性が悪いことにも変わりない。結びついたとて、融け合い動き出すまでには時間を要した。

人知れず、海の底で胎動していたそれが動き出したのは世界が二度目の“空白”から脱して4年後の事。

 

ある日―――海が“黒く”染まり、そこから“ナニカ”が這い出した。

 

遭遇初期こそ情報不足や生物学的にあり得ない姿形などへの混乱が重なり多数の被害を出したが、無論、人類とて手を拱いてばかりいたわけではない。

狙っての遭遇こそできなかったが、通信や残された残骸から回収した“レコーダー”から多くの情報を得ることに成功する。

 

まず、彼のアンノウンと遭遇する時は黒い海に侵入した時か、あるいは海が黒く染まってから。

確認された姿形は小型のクジラを彷彿とさせ、だがそこかしこから砲塔を生やした有機物とも無機物ともつかない異形の群れだった。

速度は早くてもせいぜい40ノット(時速75キロ)程度。主な攻撃手段は砲塔からの砲撃だが、射程は短く、最新鋭艦はおろか旧型艦にも及ばない。砲塔を備えてこそいるが、所詮は小型のクジラサイズに搭載されたもの。それでも砲撃は砲撃なので、当たれば無傷とはいかないだろうが、一発や二発当たったくらいでなにほどのものだろう。むしろ、射程の差を以て一方的に撃ち据えてしまえばいい。そんな意見が多数を占めた。

 

それら多岐にわたる情報を元に、各国は即座に領海の治安回復に乗り出すことに。

その時、彼らは勝利を信じて疑わなかった。むしろ、いったい何者が裏から手を引いているのか、近隣諸国や大国の暗躍、あるいはテロ組織の生物兵器などを疑いそちらに目が行っていたくらいだ。

だが、彼らの楽観的な予想は見事に裏切られる。

 

確かに射程は短い。速度も特筆すべきものはない。砲塔も、口径からさほどの脅威はないと思われた。

しかし、小型のクジラ程度という小ささが“機動力”としてアンノウンを利することになる。30~40ノットで縦横無尽に海を進む、それは最新鋭のイージス艦でも不可能な小回りの良さを意味している。速度で優っても、とてもではないが追いつけるものではないし、そんな相手に主砲や機銃を当てるのは至難の業。

また、外見に反し装甲は堅く、運良く機銃が当たったくらいではほとんど影響がない。主砲やミサイルですら効果は薄く、一部からは「当たる前に何かに防がれたように見えた」などという証言が上がるほど。

同様に、現代の艦艇から見れば豆鉄砲に等しいような口径の砲撃が、あり得ないほどの被害を齎したりもした。

 

無論、彼らもやられっぱなしでいたわけではない。人類の英知の結晶たる最新鋭の技術を駆使し、空と海の双方から“ソレ”の駆逐に乗り出した。要は、航空機による爆撃やミサイルなどによる逃げ場のない、逃げる間もない広範囲の攻撃による撃退である。

効果の有無を問えば、効果はあった、あったが“抜本的な解決”からは程遠かった。

そもそも“ソレ”は黒く染まった海の範囲内であれば前触れもなく現れ、痕跡もなく消えて行くことが間々ある。現代のレーダーでは、とてもではないが事前に出現を予想することはできず、運良く発見できた個体や集団に攻撃するのが精一杯。加えて、“黒い海”はアメーバのように形を変え、急激に一か所だけ範囲を広げたかと思えば蛇行するなどまるで規則性がない。さらに範囲内は電波の乱れが著しく、その範囲が広がれば広がるほど海と陸、あるいは陸から陸への通信を阻害することに。

ある意味、これが一番の問題だったかもしれない。情報社会と言われる現代において、「海を隔てた通信」に限定されるとはいえ、それが不可能になるというのは大問題だ。

 

ならば、すべての元凶と思われる“黒い海”を除去しようと試みるも、生身で触れれば瞬く間に全身に“黒”が広がり、吸い込まれるように為す術もなく飲み込まれてしまう。かといって、例えばミサイルを撃ち込んでみたところで、その瞬間穴が空いても即座に周りの“黒い海”がその穴を埋めてしまい、奇しくも“焼け石に水”の逆を行く形だ。

大国の中には、核兵器を以てこれを排除しようという意見まで出ているとか……無論、そんなものの許可が早々降りるはずもない。

 

結果、微々たる抵抗を見せつつも自衛隊や各国海軍の治安回復作戦はことごとく失敗、それどころか防衛線が崩壊し、ほぼすべての制海権を失うまでに陥った。それどころか浜辺近くまで黒い海が広がり、海辺のすべてを封鎖する事態にまで発展。

どういうわけか陸への浸食は起きなかったが、それがいつまでも続くはずがない。何しろ奴らは、日を追うごとに姿と戦術を洗練させ、次第に人型へと近づいて行っているとの情報もある。知性の有無は不明だったが、全ての海を制することを優先しているか、あるいは浸食のための力を蓄えているか、いずれにせよ“時間の問題”というのが共通見解だった。

 

あるいはこの時、“星見の観測台”が健在であれば“空白”と“ソレ”の関係に気付けたやも知れない。だが、役目を終えたそれは本部と9割以上の人員を失っていたこともあり解体され既になく、世界の海は正体不明の異形の謎のベールを剝がすこともできず、為す術もなく蹂躙されていった。

 

そうしてソレは、海の底…深海より這い出す脅威として“()()()()”の名で呼ばれるようになる。

 

海路は寸断され、流通が途絶し、日本のような四方を海に囲まれた国を孤立させることになったそれは、二度の“空白”よりも遥かに現実的な危機だった。

幸いだったのは、高高度を行く飛行機や衛星通信ならば辛うじて可能なことだろう。これにより、各国は辛うじて情報共有と連携を図ることができた。危機的状況故に、反目しあっている余裕がなかったとも言えるだろうが。

 

しかしそのおかげで、国連より一つの打開策が提示された。

情報源をはじめ、あまりにも秘匿事項が多く各国の不信を買ったその策の名は「プロジェクト・フェイト」。

かつて国連傘下にあった極秘機関より抽出した技術とデータを用いた、現代科学とは相反する“兵器”。

 

重要なのは主に4つ。

一つ、理論は不明だが製造法だけは開示され量産が進められる“ヒトガタ()”。

一つ、古式ゆかしい手綱を引く鎧姿の兵士が描かれ、裏面がモザイク状の支給された無数の“カード(セイントグラフ)”。

一つ、前者二つを統合することで動き出した“ナニカ”が力を蓄え、傷を癒すための“鎮守府(工房)”。

 

そして―――彼らを土地と現世に繋ぎ止める“提督(マスター)”。

 

これら4つを以て、対“深海棲艦”を目的に運用される人ならざるナニカ、これを正式名称である“●●・●●●●●●”とは別に人々はこう呼んだ。

 

“艦娘”と。

 

 

 

  *  *  *  *  *

 

 

 

東京都新宿区、防衛省庁舎の一室に二つの人影があった。

片や頭髪に占める白いものの割合が多くなり、その分の貫録と怜悧さを感じさせる顔立ちのスーツ姿の初老の男性。

片や髪はいまだ黒々とし、それと対比するような純白の制服を身に纏った柔和な顔つきの壮年男性。

 

初老の男は重厚なデスクに腰掛け眉間の皺を深くているのに対し、壮年男性の方は背筋を伸ばしながらもよい意味で肩の力の抜けた自然体。表情こそ引き締められているが、上役の前だというのにこのリラックスした態度を崩さないのは、ある意味大物の証拠だろう。

初老の男性の方も今更この部下の態度を正す気はないのか、眼鏡をはずして眉間を揉み解すだけでそのことには触れず、話を先に進めるつもりのようだ。

 

「つまり、こういうことかね? 制服組の連中は、これだけ逼迫した状況にありながらも未だに体面にこだわっていると?」

「皆が皆、というわけではありませんが、“保守派”が大勢を占めているのは事実かと」

「連中は……現実が見えていないのか?」

「ですが、言わんとすることは正論では?」

「民間人を守るのが自衛隊の仕事、か。確かにそうだろう。

だが、現実を見たまえ一佐。“ゑ号”なしには我々は自国の領海はおろか沿岸部すら守れなかった。あのままでは、奴らの上陸は時間の問題だっただろう。業腹ではあるが、それを防げたのは国連がどこぞから引っ張ってきた奇怪な兵器とも呼べん兵器によるものだ。それがあったからこそ、辛うじて近海まで戦線を押し上げることができた。

今更、“ゑ号”を運用することに何の不満がある。議論も衝突も散々やり尽くしたではないか。それを今更蒸し返すなど……」

 

苛立たしげに人差し指でデスクを「コツコツ」と叩きながら、忌々しそうに顔を歪める初老の男性に対し、壮年男性の方は相変わらず柔和な表情を崩さない。彼はその穏やかな表情に相応しいゆったりとした口調で、目の前の上官の言葉をやんわりと否定する。

 

「忘れたわけではありませんよ、次官。ただまぁ、“ゑ号”については外見はともかく“兵器”ということで何とか納得することもできました。外見こそ“アレ”ですが、中身は人ではありません。日本が誇るアニメ文化、その象徴の一つですからね“人型兵器”というのは。

ですが、これは流石に本分に悖る…と思うお歴々が多いのでしょう。まぁ、お気持ちはわからんでもないですがね」

「“アレ”が人かどうかは我らが決めることではないが、現実問題として奴らを排除するには“アレ”を用いるしかなく、その運用ができる者は限られる。背広・制服を問わず、予備役すらも引っ張り出して辛うじて近海まで戦線を押し上げることはできた。しかし、それで頭打ちだ。これより先、かつての領海まで制海権を確保するには根本的に数が足りん。

ましてや、それ以上となれば……」

「ここで実績を示せば、首尾よく事態を鎮圧できた折には国際社会で存在感を示せますし、一昔前のご近所さんのように領海を広げることも不可能ではありませんからな。それも、自分たちで確保した領域です。文句を言われる筋合いはないでしょう。それにあわよくば、“世界の警察”とやらも……」

「やめたまえ。我々は、あくまでも自国とその国民を守るための組織だ。領土的野心などなく、あくまでも世界的混乱を終息するためだ。違うかね?」

「おっと、そうでしたそうでした。それは“星の似合う”国の方々の目的でしたな。

 とはいえ、我らの領海を侵犯されても困りますし、やはりここは率先して動くのが吉なのは事実ですな」

「無論だ。まぁ、中には感謝してこちらに“気を遣ってくれる”国もあるかもしれんがね」

「ははぁ、情けは人の為ならず、というやつですな」

 

実際問題として、日本は比較的早く“●●・●●●●●●”…自衛隊内では“ゑ号”と呼ばれる兵器を導入した。四方を海で囲まれ、本土から離れた離島を多く抱える日本にとって一日でも早い制海権の奪取は至上命題だったからだ。多くの問題を孕んだ兵器ではあるが、それらに目を瞑ってでも急がなければならなかった。

深海棲艦が現れて6年、ここまで戦線を押し上げ維持できている国は少ない。これは、国際社会で存在感を示し、その立場を強める格好の機会でもある。せっかくの勢いをここで殺してしまうわけにはいかないのだ。

 

とはいえ、当初は“国防上の秘匿事項”で通してこられたが、最近では“ゑ号”の情報は流出し始めている。まず、戦線を押し上げるにつれ海辺に人が戻ってきているという点だ。

沿岸部を封鎖している間は問題なかったが、海洋国家である日本にとって海に関連する事業・産業は生命線の一つ。船舶による大規模な物資の輸入は未だできず、空路では輸送力に難があるし、国内の生産力には限度がある。その状況では、“海産物”は貴重な食料品である。一時期は大きな混乱などもあったが、今はある程度落ち着いているのも限定的ながら漁業を再開できたのが大きい。スーパーでは肉より魚のスペースが増え、野菜と同じ感覚で海藻などが食される時代になったのだ。

とはいえ、そうして海に出る人が増えれば当然“ゑ号”が人の目に留まる機会も生じる。また、近海の制海権を確保したとはいえ、絶対安全とも言えない。彼らの安全を守るためには、哨戒艇などを回すより“ゑ号”の方が確実だ。下手に“事故”や“襲撃”があれば、叩かれるのは自衛隊と政府なのだから。

 

他にも、日本がある程度順調に成果を上げていることから、その足を引っ張るために他国が手をまわしているという話もある。上辺では“ゑ号”運用のノウハウを求めつつ、裏では足を引っ張ろうとする輩には事欠かないのが現状だ。

 

「ですが、世論もそろそろ五月蠅くなってくる頃合でしょう。そんな時期に“民間人の登用”はリスクもあるのでは?」

「表現には気を付けたまえ。我々は別に強制しているわけではないし徴兵など以ての外だ。あくまでも、適性のある者に“お国のために働ける機会”があることを伝え、希望者に“然るべき教育”をしようというだけだ、違うかね」

「いえ、その通りですな」

「“ゑ号”にしたところで外見こそ年頃の娘を模してはいるが、中身は血の通わん人形だ。少なくとも、国連がよこした“型”はそうだ。ならば、アレは人ではない。違うかね?」

「違いませんな」

「だというのに、マスコミや考えの足りん連中はすぐに勝手なことをほざきおる。国連も国連だ、訳の分からん技術もそうだが、何故人間の形をしている必要がある。いや、それを言うならいっそターミネー〇ー風にでもすればよかったのだ。そうすれば、むしろ世論を味方につけることもできただろうに」

(ある意味、人気ではありますが……“艦娘”か。“日本人は未来に生きている”とか昔は言われていたらしいが、時代が追い付いてきたというべきかな?)

 

口に出せば絶対に怒りを買うので言わないが、もちろん彼はそのあたりのことも承知している。

“ゑ号”の存在が明るみに出るにつれ、一部界隈(オタク層)から“艦娘”などという名称で呼ばれるようになった。それが瞬く間に浸透し、今では自衛隊内でもこの名称を使う者がいる。

防衛省事務方のトップとしては、頭の痛いことだろうが。

 

「とにかくだ。“ゑ号”の数は揃えられるが、運用できる人間が足りなくては意味がない。大勢を占めているのは“保守派”だろうが、それはあくまでも制服組の中の話に過ぎん。“革新派”には頑張ってもらわなければならん、この私が後ろ盾になっているのだ。分かっているな」

「無論ですとも」

 

自衛隊…より正確には防衛省内にもいくつかの派閥がある。

その中で現在最も大きなものが“保守派”と“革新派”だ。

“保守派”は言ってみれば“艦娘”否定派。胡散臭いこと極まりない兵器を信用していないが、かといって彼女らなしには制海権の確保は不可能。そこで彼女らを徹底して“使い捨ての兵器”として扱うのが保守派の基本方針だ。同様に、民間人の起用にも否定的で、“国と国民を守るのは自衛官である”という強い自負を持っている。

対して、“革新派”は“艦娘”肯定派。何はともあれ艦娘なしには話が進まないのだから、彼女らの存在を受け入れようというのが基本方針。その結果、彼女らの個性や人格についても受け入れ、兵器というよりは“仲間”や“部下”に近い接し方をする者が多い。彼らは基本的に「なりふり構っていられる余裕はない」という考えなので、民間人の起用にも賛成している。

実際には各派閥にはさらに細かな派閥があり、“艦娘は認めるが民間人はアウト”だったり、“ゑ号を兵器として扱えるなら民間人も渋々認める”だったりと色々だ。さらに、二大派閥の他に“中立”という名の“日和見”や企業や他国と繋がって自身の利益を追求するような連中もいたりと、様々な者たちがいる。

事務次官にしたところで大まかには革新派に属するが、「ゑ号という兵器を効率よく運用するためにあれらの個性を認める」という方針に過ぎない。どこを見渡しても、一枚岩からは程遠いのが実情だ。

 

(いや、そもそも私からして一枚岩とは無縁か)

 

なにしろ、彼はほとんどの派閥に対して顔の利く実質的には“多重スパイ”だ。建前上は“革新派”だが、“保守派”に情報も流すし、何なら“利益派”に対して協力することもある。

まぁ、そんな彼だからこそ事務次官にこうして裏工作の指示を受けているのだろうが。

 

「ですが、“保守派”を黙らせるとなると“スキャンダル”ないし“失態”を演じてもらうのが手っ取り早い手になりますが?」

「それはいかん」

「やはりですか」

「下手に付け入るスキを作れば、それこそ余計な連中を調子付かせる」

「となると、“革新派”の息のかかった者に実績を上げてもらうことになりますが……」

 

“保守派”に比べ“革新派”の提督たちは実績を上げている方ではあるが、だからこそ目新しさに欠ける。少しずつ影響力を強めることにはなるだろうが、趨勢を傾けるほどとなると厳しい。

それこそ、“起用された民間人が結果を残す”くらいでないと……しかし、それだと順序があべこべだ。“民間人の起用”を押し通すために影響力が欲しいのに、起用した民間人の実績を以て影響力を強めるなどできるはずがない。いや、できなくもないが、その場合リスクが高すぎる。

 

「一応、適性者の中から有望そうな者には秘密裏に教育を始めていますが……使いますか?」

「いや、それだと万が一が怖い。無理を通して起用した者が失敗すれば、それこそ“保守派”を調子付かせることになる」

(一際有望なのもいるが、アレはなぁ……)

 

表沙汰にはできない伝手から紹介された人物であり、色々と癖が強いのでまだ事務次官も知らない相手だ。

期待はできるものの、事務次官を納得させられるかとなると……。

 

(何しろ、お偉方に受けの良いキャラクターをしていないからなぁ。オネエで明らかな偽名を名乗っているとか、こっそり紛れ込ませるくらいでないと……)

「……実はな、国連から推挙されている者が一名いる」

「国連から、ですか? ですが、連中にこれ以上借りを作るのは望ましくないのでは?」

 

この点に関しては、“保守派”“革新派”を問わず共通の見解だ。ただでさえ艦娘の件で多大な借りを作っているのに、これ以上国連が口出しをする口実を作るのは好ましくない。

そんなこと、この事務次官がわかっていない筈がないのだが、そんな考えを読んだかのようにデスクに一冊の冊子を取り出す。

 

「見たまえ。調べたが、何故推薦されたのかわからんくらいに凡庸だ。強いて言えば、高校を休学し留学していた時に運悪く“空白”がぶつかったくらいか」

「ほぉ、ちなみにどちらに?」

「うむ。ロンドンに留学していたようだ。復学後、そのまま卒業し以降は“深海”のことがあるまでは海外を飛び回っていたようだが、とりわけ何かをしたというわけではないらしい。今は、インテリアデザイナーをしているようだ」

「……なぜ、そのような人物を?」

「国連が用意した留学プランに参加した、というくらいしか繋がりはない」

「家族に国連職員がいたり、軍事教練を受けたりは?」

「特にないらしい」

(ますますわからないな。いったいなぜ国連はそんなことを……)

 

だが、国連がよくわからないことをするのはこれが初めてではない。それこそ、“艦娘”の配備を進めようとした時も、各国は“意味が分からない”という顔をしていたものだ。

ならば、この推挙にも何か思惑があるのかもしれないが……。

 

「それを飲むのですか?」

「国連には借りがある、無視はできん。とはいえ、これで失敗するなら良し。その時には、国連の影響力ごと排除し、こちらの有望な者に挿げ替えるまでだ」

(なるほど、国連の推挙を盾に“保守派”を押し切り、失敗すれば挿げ替えて“革新派”の功績にする、と)

 

上手くすれば、国連と“保守派”の両方を黙らせられる一石二鳥の策だ。

強いて問題点を上げれば、国連の候補者の後に“革新派”の候補者を充てるのには少々強権を振るわなければならないことか。だがそれも、事務次官という事務方トップの権力があれば行けるだろう。

いや、もう一つ問題点がある。

 

「もしその候補者が成功したらどうなさるおつもりで?」

「いいや、成功せんさ」

(……なるほど、成功させる気はないということか)

 

事務次官の資料を見る限り、確かにこれといって特筆することのない人物に見える。

“気付けば一年以上の時間が経っていた”という現代の“七不思議”にドンピシャで海外留学中に巻き込まれたことは運が悪いとしか言いようがないが、そんなのは正直掃いて捨てるほどいる。あとは、そんなことがあった後にも拘らず海外を飛び回ったアグレッシブさは非凡と言えるかもしれないくらいか。

とはいえ、それだけの人物がいきなり提督として艦娘の指揮を任されたとして、どうなるかは…想像に難くない。

 

(まぁ、運が悪かったと諦めてもらうしかないな)

 

それが、結果的には国と多くの国民のためになる。恨むのも憎むのも、何なら呪ってくれても構わない。そんなものは所詮負け犬の遠吠えで、何の意味もないことなのだから。それで満足するならいくらでもすればいい。

世界はいつだって「犠牲者」と「利益を得る者」とで回っている。それだけのことだ。

 

「承知しました。では、さっそく要請し了解を得られ次第着任してもらいましょう」

「うむ、習うよりも慣れろ、というからな」

「立場が人を育てるとも申します。()()提督の活躍を期待すると致しましょう」

「ああ、良い働きを期待しているとも」

 

一抹の同情と共に現住所に目を通すと、そこは……「なんでこんなところに?」と言いたくなるような辺鄙な山奥だった。

 

 

 

  *  *  *  *  *

 

 

 

「……提督、ですか?」

「ええ、藤丸さんにはその資格がおありなのです。我々自衛隊としましても、民間の方を引っ張り出すのは遺憾の限りなのですが、何分適性を持つ者は限られておりまして。お恥ずかしながら、こうしてご助力を賜りたく参上した次第です」

 

人好きのする笑顔を浮かべながら、襟には大層な徽章をつけて結構偉そうに見える壮年の男性が遜ってくるものだから、どうにもすわりが悪い。

特に、さも「あなたは特別だ」「選ばれた人だ」と言わんばかりの言い様には背筋がゾワゾワしてくる。自分がそんな大層なものではないことなど、他ならぬ立香自身が一番よくわかっていた。

 

「艦娘のことはご存じでしょう? 彼女らが戦うには特別な資質を持つ人間が必要なのです。これがまた、中々適性を持つ者がおりませんで。自衛隊内でも方々手を尽くしたのですが、100名にも満たないのが実情です。

 それでも、辛うじて日本近海までは深海棲艦を追い出すことが出来ました。ですが、それでは足りないのです。日本は食糧自給率も低く、資源にも乏しい国です。今はまだ何とかなっていますが、それも時間の問題。輸出入の復活は、最優先の課題です。

 ですが、そのためには艦娘たちと共に戦える、彼女らが命を預けられる、そんな勇者が必要なのです」

 

言わんとすることはわかるのだが、一々大仰で反応に困る立香。

人によってはやる気が出たりするのかもしれないが、立香としては唯々戸惑うばかりだ。

かと思えば……

 

「アチッ……いや、お恥ずかしい。どうにも猫舌でして」

 

湯気を立てる出された茶を冷ましもせず口をつけ、ちょろっと舌を出す姿は年齢を考えれば情けなく映りそうなものだが、どうにも不思議な愛嬌がある。そういえば、部屋に通した時も家具に小指をぶつけたりしていたし、そそっかしいというかドジというか、軍人…もとい、自衛隊員らしからぬ人物だ。

まあ、あまり四角四面な人物に来られても、立香としては困ってしまったのだろうが。

 

「……不躾ですが、藤丸さんは艦娘を…彼女らをどう思われますか?」

「 カッコいいですね!

 →可愛らしいな、とは」

「ええ、彼女たちは大変容姿が整っています。“作られた存在”と考えれば当然なのかもしれませんがね、私にはそれが彼女たちの生存本能の表れなんじゃないかと思うんですよ」

 

まるで、あるいはさも当然のように艦娘を“一人の人間”であるかのように語る。

苦汁の滲んだ表情、やりきれないものを飲み干したかのような重い口調、肩には力が入り、組んだ手は固く握りしめられている。これが演技なら、大層な演技派だろう。

 

「人と同じ姿をしていれば、特にそれが見目麗しい少女や妙齢の女性の姿となれば、相手が全人類共通の脅威とはいえ、矢面に立たせることには疑問を持たずにはいられません。だからこそ、そのような姿を取ることで彼女たちは自らを守っていると思うのですよ。

 どれほど大きな力を持っていても、彼女たちは自らを率いる提督なしには戦えません。精神的なものではなく、実際的にそうなのです。一時であれば提督抜きでも戦えますが、彼女たちは提督との繋がりを介してしか体力を回復できません。装備は修復できますし、弾薬も補充できます。体に負った傷も、専用の設備があれば治せます。しかし、失った体力だけは無理なのです。食事や睡眠で多少は回復できますが、提督との繋がりから得られる力がなければ、いずれは衰弱する」

 

聞けば聞くほどに、懐かしい人たちを思い出す。人間と比べ、はるかに卓越した力を持ちながら、契約者がいなければほんの数時間、長くても数日で世界から消えてしまったかけがえのない人たち。

目の前の人は知る由もないはずだが、立香にとってその話はとても他人ごとには聞こえなかった。

 

「身内の恥となりますが、そんな彼女たちを“道具”や“兵器”と見る者は少なくありません。

気持ちはわかるのです。人の枠組みを大きく超えた力に対する畏怖もあるでしょう。年若い女性を戦わせ、自分は安全圏から指示を出すことへのやるせない気持ちもあるのだと思います。だからこそ、“替えの利く道具”や“消耗品”として見てしまった方が楽なのです。

ですが私は、それは違うと思うのです。彼女たちにも心があり、個性があり、命がある。我々と何も変わりはありません。しかし、現実問題として彼女たちの力なしに海を奪還することはかないません。彼女たちには戦ってもらわねばなりません。ですがせめて、彼女たちを一人の女性として、かけがえのない仲間として、人の世の理不尽から守ってくれる…そんな人に提督となっていただきたいのです」

 

言っていることは正しい。彼の主張は、立香にとっても共感できるものだ。サーヴァントと比べあまりにも無力な立香だったが、それでも彼らのためにできるだけのことはしたかった。ちっぽけな自分でも、彼らを守り助けることができるのなら、何でもやるつもりだったから。

結局助けられてばかりの自分だったけど、皆はこんな自分を最後まで支えてくれた。守り、助け、道を拓き、信じて送り出してくれた。ただ、その信頼に応えたいと駆け抜けた10年前の日々だった。

 

「今も、彼女たちは過酷な戦場に向かっています。傷つき、恐怖を押し殺し、時には仲間を失うことも。それはすべてこの世界のためなのです、我々のためなのです。私は、彼女たちの献身に何か一つでも報いたい。

 口惜しいことに、私に適性はありませんでした。ですが、それならば適性のある方に、志同じくしてくださる方に、彼女たちの側に立っていただこうと思うのです。こんなことしかできない私ですが、私にもできることがあるのなら、それを惜しみたくはないのです」

 

つくづく、彼の言葉に頷くばかりだ。

その声に宿る焦りも理解できる。今まさにどこかの海で艦娘たちは命を賭して戦い、散って行っているかもしれないのだから。むしろ、当然のことだろう。

 

「っと、いや失礼。年甲斐もなく、熱くなってしまいましたな。いや、お恥ずかしい」

「気持ちは、分かるつもりです」

「有難い。答えは急ぎませんので、どうかご一考いただければ」

 

深々と頭を下げられると、流石に恐縮する。年齢も社会的地位も上の人物にそんなに頭を下げられるのは、本当に困ってしまう。

 

「そう言えば、藤丸さんは昔よく海外旅行をされていたとか。もしや、今のお仕事も?」

「→出来るだけたくさんの人に、“こんな暮らしもあったんだ”と見てもらいたくて

  旅の中で見てきたものを、無駄にしたくなかったんです」

「なるほど。今の時代、国内はまだしも海外旅行は難しいですからな。恥ずかしながら、私は海を越えたことがないのですよ。ですから、このような異国情緒あふれるデザインというのは、少々憧れます。まぁ、妻にはいろいろと買い過ぎて叱られてばかりですがね」

 

立香の仕事はなにも室内空間の演出だけではない、家具や壁紙、雑貨のデザインなども手掛けている。昔取った杵柄で建造物の構造や資材の知識は少なからずあったし、なにより……自分たちだけが知っているものをそこで終わりにしてしまいたくなかった。“彼ら”は確かにいたのだと、その“歴史”は確かにあったのだと、その痕跡を残したかった。

しかし、旅の思い出や出来事を公開することは固く禁じられている。そこで選んだのがこの仕事だった。立香たちが見たものを知っているのは仲間たちだけ、報告書からでは詳しい生活様式や文化など知る由もない。

だからこそ、立香はそれを世界に伝えることを仕事に選んだ。

 

世界中を回っていたのも同じ。かつて旅した場所を巡り、彼らが生きていたかもしれない場所を目に焼き付けたかった。あの旅を、あの日々を、“過去”の一言で置き去りにはしたくなかった。

最早二度と巡り合うことはないであろう、パートナー(後輩)のためにも。

 

「しかし、不躾ですがなぜこのような山奥に? 色々と不便なのでは?」

「→山が好き――――! でも、海も好き――――――――!

  ネット注文とかあるし、そんなに不便でもないですよ

  自分で家具を作るのもやってみたくて」

「は、はぁ……」

 

というのは、まぁ冗談だが。

元をただせば、先の旅の話にもつながることだ。なにしろ、その旅も決して安全とは言い難いものだった。

そもそも、旅の中で多くの縁を紡いだからか、ついには協会に目を付けられ危うく“貴重なサンプル(封印指定)”として保存されるところだった。そちらは、契約の要であった“右手”を差し出すことでかろうじて回避できた。なので一応、協会からは“手出し無用”との御触れが出ている。

しかし、それに大人しく従う輩ばかりではない。立香がこの山中に居を構えているのも、“安全圏”として確保してもらった場所だからだ。旅に出た場合、命を狙われる可能性は否定できない。

まぁ、その旅の最中に出奔した人体工学に優れた人の好い“元”魔術師と出会い、右手の義手をあつらえてもらったのだから、人生とはつくづく何があるかわからないものだ。

 

そのまま、しばらく雑談に興じると彼はあっさりと帰っていった。もちろん、艦娘や提督の話などを蒸し返すこともなく。本当に“できればやって欲しいが無理は言わない”と態度で示していた……ように思える。

 

一等海佐という結構偉い立場の人の乗った車が去っていくのを見送りながら、立香は彼が残していった書類を手に取り苦笑いを浮かべる。

 

「“赤紙”とはまた、シャレが利いてる」

 

まぁ、ジョークはジョークでもブラックジョークの類だろうが。

 

とその時、立香の背後の茂みから何かが飛び出してきた。

それは、執権すると仔猫のような…でも四肢が太くがっしりとしており、頭には何やら金と青の縞模様の被り物。ここまでであれば、獅子の子どもが変な被り物をしている…位でかろうじて通る、かもしれない。問題なのは、その小動物には顔がなく、顔を含めた全身が宇宙柄であること。

もちろん、こんな生物が通常いるはずがない。普通なら驚天動地ものだが、まだまだ。何しろ、その子どもの後ろには同種ながら体高三メートルはありそうなのが鎮座しており、その更に後ろにはその倍はありそうな巨体が寝そべっている。

 

「 大丈夫、話をしただけだよ

 →襲っちゃだめだよ」

 

一応言っておかないと、立香を害するものと判断してムシャムシャしかねない。いや、何を食べるか知らないが。

何しろ、十年近く前にどこぞのファラオからもらって以来、適当に立香の食事の一部を貰っていただけにも拘らず、このありさまだ。多分、意図的に成長を調整しているのだろうが……あまり深くは考えない。

というか、藤丸家にはこの手の“得体のしれないもの”は結構いるというか、あるというか。例えば、朝になると位置の変わっている三体のぬいぐるみとか、本当にどこからやってきているのかつくづく謎な白いモフモフとか、その他諸々本当にたくさん。

 

とはいえ、アウラード(子ども)……と今も呼んでいいのかはわからないが、あの子たちが警戒したのも無理はない。何しろあの自衛官ときたら……

 

「絶対怖い人だ、あれ」

 

外見こそちょっと抜けたところのある穏やかな人だが、その中身は徹底した合理主義者だろうというのが立香の見立て。

人間は非合理的な生き物だ。そんな人間を相手にするには、合理的に振る舞う方がかえって非合理的。本当に合理的な人はそうとは思わせない。有能かつ冷静でありながらも、人情を汲みつつちょっと抜けたところがあり、大抵のことは鷹揚に受け止めてくれるとなれば、そりゃ支持者や支援者には事欠かないだろう。多少の失敗も“まぁあの人だから”と深刻なことにはなりにくい。そういったことをぜ~んぶ計算したうえで、あのように振る舞っている。

何故そう思うのか、理由は簡単。似たような人物に覚えがあったからだ。

 

「な~んか、ダビデに似た匂いがするんだよなぁ」

 

そう、あの古代イスラエルの王様も結構似たところがあった。一見すると穏やかで寛容、親しみやすく誠実な人柄だ。涼やかで、切羽詰まることなく余裕を崩さない姿は頼もしい限りだろう。また、思慮深く軽率には敵対しない賢者でもあった。まぁ、それらとは別に自分のことを棚に上げた発言が多かったり、女性に滅法弱かったり、自己中心的な面の目立つ“爽やか系クズ”なところもあったわけだが。

もちろん、それらが嘘だとは言わない。ただ彼の本質は冷徹に、あるいは冷酷な判断を下すリアリストなのだ。

そんなダビデと、あの“ダビデ一佐(立香命名)”はどこか似ている匂いがした。

 

味方、あるいは“敵ではない”うちは良いが、明確に“敵”となった時、彼はきっと恐るべき障害として立ちはだかるだろう。

まぁ、今後どうなるかわからないことに頭を悩ませても仕方がない。それよりも、今考えるべきは……この“召集令状モドキ”の事だろう。

ダビデ一佐は「答えは急がない」と言っていたが……

 

「 ホントいい性格してる

 →あれで急ぐなって、無理でしょ」

 

あんな話をされて心動かされない人間はそうはいまい。根が善良であればあるほどに、効果が高い。

艦娘たちの置かれている現状を伝えつつ危機感を煽り、彼女たちの未来を憂えているという彼の話の内容は、立香の人間性的に思いっきりクリティカルだ。そういうことをやってくるから、彼は怖い。

 

まぁ、元より断るつもりもなかったのだが。

 

「王様の言ってた後始末、か」

 

確証はない。だが、カルデアが解体される前夜、“未来を見通す目”を持った彼の賢王は言った。

 

―――貴様にはまだやり残しがある。その完遂を以て、カルデアでの任務は完了となる。努々忘れるな、雑種

 

立香の手元に艦娘についての情報はほとんどない。おそらく、市井に出回っている以上のことと今日語られた事情以上のことは知らないだろう。いまだに手紙で細々とやり取りのある旧カルデア職員たちも、何も言ってきてはいない。

だが、それでもわかることがある。彼女たちはきっと……

 

「終わりにせず、次につなげる。それが人間だというのなら」

 

きっと彼女たちが、自分たちの“次”なのだろう。

ならば、すべきことをしなければ。かつて己が、先達たちによって多くを与えられたように。今度は、自分たちが与える側に回る番なのだろう。

 

 

 

  *  *  *  *  *

 

 

 

一週間後。藤丸立香の姿は、太平洋の真っただ中にあった。

 

「 う―――――――――――み――――――――――!!!

  夏だ! 海だ! デッドヒートサマーレース開幕…しません、やったね♪

 →まさか、話を受けた瞬間に飛ばされるとは……」

 

流石に即決は避けて一応丸三日かけて考えた末に出た結論は、やはり当初と同じものだった。

そんな自分に苦笑しつつダビデ提督に返事をすれば、あれよあれよという間に話が進み、気付けばこうして海の上。向かう先は硫黄島、日本近海とはちょっと言えないものの、一応は辛うじて自衛隊が制海権を確保している範囲だ。とはいえ、実質的にはほとんど最前線。こんな場所に新任の、それもろくに訓練も教育も施していないペーペーを送り込むとか、立香でも正気じゃないとわかる。

まぁつまり、その裏の思惑位察せられないほど、立香も若くはないわけで。

 

「 失敗させるのが目的かぁ

 →期待されてないところからスタート…うん、懐かしくなってきた

  去勢拳されればいいのに、あのダビデモドキ」

 

なぜ失敗させたいのかは立香にはわからない。思惑は察せられても、もっと深いところを探るには足りないものが多すぎる。だが、藤丸立香の動揺は小さかった。

不安はある。恐怖もある。緊張も、焦りも、それこそ山盛りだ。

しかし、やることだけはハッキリしている。ならそれで十分。

 

そう、いつだって“やれることをやる”しかないのだから。

幸い、硫黄島には深海棲艦の侵攻に際して一度は放棄したとはいえ、自衛隊の基地がある。そこに手を加え、“硫黄島鎮守府(仮)”なるものを作ったそうな。まぁ、他と違って立香以外の提督は当面着任予定はないらしいが。

あとあまり詳しくはないが、火山島という地球のエネルギーの噴出点の一つらしいので、霊地としての格もそこそこのものだろう。第二次大戦の激戦地の一つらしいので怨念とかその辺はちょっと心配だが、慰霊はされているらしいので大丈夫…と思いたい。

 

それに、流石に一人で放り出すほど上も無体ではないらしい。鎮守府や基地、泊地には必ず数名の艦娘が配属され、またそれぞれの提督には秘書艦あるいは初期艦なる艦娘がつけられると聞いた。

孤立無援というのは立香としても流石にレアなことなので途方に暮れるところだが、そうでないなら何とかなる、多分。

 

そうやって自分を奮い立たせて硫黄島に降り立った立香を待っていたのは……思っていたよりは立派な赤レンガが鮮やかな庁舎や工廠といった施設の数々。

立香は知らないことだが、一応は“革新派”の息のかかった鎮守府(仮)なので、艦娘に対する設備は充実している。艦娘用の小奇麗な宿舎()があり、孤島という娯楽が少ない場所だからか庁舎や宿舎から離れた場所には食事処のような店舗が見える。さらに、運動場や大型の倉庫など……カルデアくらいしか知らない立香には比較が難しいが、僻地の割に設備は整っているように思われる。

 

ただ、とりあえず港に下りて指令書にある通りまず庁舎の「執務室」とやらに向かうも……

 

「誰もいねぇじゃん!?」

 

そう、人っ子一人会わないのである。一応提督だし、誰か待っててくれるのかなぁと思っていたら、だ~れも出てこない。一人寂しくゴーストタウンみたいな鎮守府を進むのは、寂しいとか怖いとか通り過ぎてなんか虚しい。

 

結局、指令書に同封されていた鍵で庁舎の鍵を開け、なんか新築っぽい匂いのする中を進み、執務室を開ければ……

 

「→え、もしかしてものすごい勢いで嫌われてる?

  ミカンの段ボールって、いつの時代の苦学生だよ

  もうドッキリでいいからだれか出てきてください。泣くよ、マジで」

 

壁紙なし、カーテンなし、絨毯はおろかカーペットもない、挙句の果てに照明は裸電球。外観と内装は立派なのに執務室だけこの有様とか、嫌がらせ以外の何物でもない…と言いたいところだが、この辺はどこの鎮守府でもはじめはこんなもの。まぁ、何の救いにもならないが。ただし、実は一番ひどいのは執務室と隣接した立香の自室だったりする。何しろベッドなし、イスなし、テーブルなし、その上風呂どころかシャワーもない。あとついでにトイレもない。トイレはまぁ、庁舎内のものを使えばいいのでまだいいが、シャワーすらないというのは衛生的にどうなのだろう。艦娘寮には風呂があるようなのでそちらを借りるという手もあるが、上官がプライベートな空間に頻繁に足を運ぶのは、あまりよくないだろう。そのあたり、ロマンもゴルドルフも結構気を使ってくれた。というか、提督なのに官舎はおろかまともな自室すら用意されていないのはどういうことか。これにはさすがに怒ってもいいと思う。

しかも、段ボールの上に載っていた封筒を開ければそこにはとある一文、内容を要約すると……

 

―――手続きに不備があり、初期艦をはじめ大淀、明石、間宮、計四名の着任は遅れる見込み。急ぎ手続きを進めるので、それまではマニュアルを参照し鎮守府を運営されたし

 

完全無欠に嫌がらせである。というかこれだと、艦娘四名と立香以外に基本的に人はいないということか? 建物が立派な分、全員そろっても寒々しさが半端ではない。

余談だが、ハード面がちゃんとしているのは“革新派”のおかげなのに対し、人員不足や着任遅れをはじめとした不手際は“保守派”の嫌がらせだ。より正確には、“革新派”も“保守派”の横槍を止めなかったからこそのこの事態。

要は、さっさと立香を追い出して本命を着任させるための手回しである。

 

が、彼らは自分たちの目論見の甘さをわかっていない。

この藤丸立香が何者で、どれほどの困難を乗り越えてきたかなど知る由もないのだから当然だろう。

 

―――右も左もわからないどころか、限りなく無知なまま炎に包まれた街に放り出されたことがある。

 

―――容易く己を殺せるものたちが跋扈する月の聖杯戦争を模した地獄を、身一つで彷徨ったこともある。

 

―――大勢の仲間たちを失い、補給はなく食料も乏しいまま閉鎖空間で雌伏の時間を過ごしたこともあった。

 

今更、誰もいない鎮守府に一人ぼっちになったところで、挫けたりするほどやわではない。

むしろかつての経験を刺激され、「意地でも居座ってやる」と覚悟が決まったところだ。

 

とはいえ、着任が遅れている四人がいつ到着するかわからない。

自慢ではないが、藤丸立香の戦力は微々たるものだ。昔からの習慣で鍛えてはいるが、深海棲艦の前では無力だろう。ならば、まず自分がすべきことは……

 

「確か、建造ってのができたはず」

 

そう。大体において、戦力補充は各鎮守府が独自に行う。稀に上から配備されることもあるそうだが、建造によって作られた“艤装”にあらかじめ用意された“ヒトガタ()”が反応し、対となる“セイントグラフ”にかつての軍艦の魂が降り、三者が一体となることで艦娘を生み出すか、かつて敗れ轟沈した艦娘を“黒い海”からサルベージするかの二択が基本。

特に前者とかメッチャ立香には覚えがあることだが、そこはスルー。サルベージはそもそも戦力がないので論外だし、上からの配備を待っている状態なのでこれも不可。となれば、今できることは一つ。

 

荷解きをする手間も惜しみ、マニュアルをひっくり返して“建造”の方法と手順を確かめる。

ここは事実上の最前線、いつ深海棲艦が襲ってくるかわからない以上戦力の確保は至上にして最優先。なんか早速書類の山とかあるが、そんなものよりこっちが大事。生きていなければ、書類を処理することもできやしない。

というか、書類の処理の手順がわからないので迂闊に手が付けられない。カルデアと同じ方式ならいいのだが、組織が変われば手順や暗黙の了解も変わる。特に、カルデアは色々と特例が重なっていたので、まっとうな書類の処理とか自信がない。

 

幸い、艦娘たちや鎮守府の設備のあれこれをサポートする通称“妖精さん”はしっかりいるのでたぶん行ける。

なんでも「見えたらレベル“1”、触れれば“2”、コミュニケーションが取れたら“3”」とか基準があり、立香は普通にコミュニケーションが取れる。が、今は知ったことではない。

ただ、ちょこまか動く姿にノウム・カルデアでシャドウ・ボーダーやストーム・ボーダーの整備をしていたネモたちを思い出すが、それも記憶の引き出しにそっと戻す。

 

「よし、まずは戦艦だ!」

 

ちなみにこの人、“軍艦”と“戦艦”の区別がイマイチついていなかったりする。精々、“戦闘に参加する艦が戦艦”、“それ以外の軍務に従事するのが軍艦”位の認識。

なものだから、脇目も降らずにマニュアルに書いてあった“戦艦レシピ”なるものを即実行。もうちょっとちゃんと見ていれば“駆逐艦”とか“軽巡洋艦”とか色々書いてあったのだが、すっかり見落としてしまうという、大ポカをやらかしてしまうのであった。

 

おかげで、自覚がないままに資材がマッハで大ピンチ。

翌々日着任した初期艦こと“電”は……

 

「着任したらすでに資材が破産寸前とか斬新過ぎるのです!!」

 

と頭を抱える羽目になったという。

 

ちなみに、立香は建造の際に燃料や鉄材、弾薬にボーキの他に自前で持ち込んだなんかよくわからない試験管を投入。その結果、どうなったかというと。

 

「え、“くちく”艦? って戦艦じゃないの?」

「ぜんっっっぜん違うのです! クジラとアザラシくらい違うのです!!」

「いやでも! ほら、ちゃんと戦艦来てくれたし!」

「それは……不幸中の幸いなのです。これで駆逐艦だったら泣くに泣けないのです。

 それで、だれがきてくれたのです? というか、建造時間は?」

「8時間だよ」

「は?」

「大和型戦艦、一番艦、大和。推して参ります!」

「ど……」

「ど?」

「どうして通常建造で大和さんが出てくるのですか!?」

 

ということで、実は各派閥から念のためスパイがてら送り込まれていた明石、大淀、間宮の三人もあり得ない事態に頭を抱えることに。

 

とはいえ、最前線であることを考えれば大変頼もしい戦力……なのだが。

 

「とりあえず、大和さん」

「はい」

「当面出撃禁止なのです」

「え、で、でも……ほら、私戦艦ですよ? とっても強いですよ?」

「強すぎて敵より先に資材が死ぬのです」

「せ、節約しますから!」

「節約してどうこうなる問題じゃないのです! 燃料も弾薬も消費が破格過ぎて戦闘=\(^o^)/オワタなのです!」

「ちなみに、もし被弾したら?」

「即破産なのです」

「ごめん、大和。大人しくしてて」

提督(マスター)!?」

 

とりあえず、資材が足りないので明石の工廠も当面は開店休業状態、大淀担当の通信に人手はいらないということから、電の(秘書官)補佐をしてもなお暇を持て余した大和は間宮の手伝いをすることに。

日本一、ともすると世界一有名かもしれない戦艦かもしれないにもかかわらず、大和は料理上手で食の面で大いに貢献してくれたのだが……

 

「ふ、ふふっ。ここでも出撃せずに結局ホテル、そう、私は大和ホテル、戦艦大和? 知らない子ですね、ウフフフフフフフフフフフ……」

 

と、日に日に病んでいくのであった。




ぐだの性別は各々のお好みで。一人称抜き、かつ性別に言及しない書き方を試してみました。アクの強い男性提督が好き、でも女性提督との絡みも好き。なんならオネエや意識の高いドM、鬼とかも好き。なので(?)こんな形に。好きな性別で、脳内で映像化するというのもちょっと楽しいのではないかと思った次第。

ちなみに、マシュの生存は未定。生きているかもしれないし、何かあって故人かもしれない。でも、生きていても元カルデア職員として国連機関所属にされ、ぐだとは引き離されています。まぁ、魔術協会所属じゃないだけマシ? 展開次第では再会の可能性もあり。
また、サーヴァントが出てくる可能性もあります。というか、普通にパイセン辺りはどっか放浪してそうなので顔見せに来るかも。そもそも、立香の置かれた立場がガチで四面楚歌なので、ことと次第によってはサーヴァントの召還も十分にあり得そう。

ただ、その場合問題なのはキャラの濃さ。夜戦バカくらいの濃さでないとサーヴァントたちの前では霞みそうなのがなんとも。吹雪型とか、二度と浮上できなくなりそうなのが結構いる気がしてならない。

余談ですが、サーヴァントと艦娘は比較の仕方で優劣が変わる設定。
それぞれのスペックを数値化して比較すると、基本的に火力と装甲などは艦娘に軍配が上がります。最低でも対軍宝具持ち出ないと駆逐艦とすら勝負になりませんしね。ついでに、運用のし易さや数の揃え易さも艦娘の長所。ただし、スピードに関してはサーヴァントに分があります。特に、水上を突っ走れるアルトリアやオリオンみたいなのは40ノット程度じゃ話にならないでしょうしね。
反面、設定上まっとうにやり合うとサーヴァントが有利。このあたり、艦娘が割とオカルトに片足突っ込んでるのが悪い。オカルト方面じゃ別格だもん、あの連中。

要は、色々な意味で運用しやすい反面サーヴァントとは相性の悪い艦娘と、色々な意味で使い辛いがハマる場面では強いサーヴァントといった感じ。
深海棲艦も、基本的には艦娘と同じ立ち位置。

とまぁ、だいたいこんな感じ?

あ、あとおまけで魔術師たちは基本的に不干渉です。
とはいえ、流石に流通が滞ると研究材料の確保も難しくなるし、場合によっては資金源が潰れてしまうかもしれないということで、艦娘の存在には目をつむっています。自分たちの秘奥とは関係ないし、神秘としては出来損ない扱いです。
自力で深海棲艦何とかすればいいじゃんって話ですが、なんでそんな些末なことに手を煩わせられなきゃならんのだ、と考えるのがほとんどなため無視を決め込んでる次第ですね。

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