やみなべのネタ倉庫   作:やみなべ

11 / 18
先日、鬼滅の刃の総集編「柱合会議・蝶屋敷編」を見ていてふと思ったこと。
炭治郎は一貫して禰豆子は「妹なんだ」「人を喰わない」「人を守って戦える」と主張していました。彼の兄としての立場と人柄、妹を人に戻すことを目的の一つにしていることを考えるなら、あの主張は当然のものでしょう。が、実際にはそれで禰豆子を守れたかといえばそんなことはなく、辛うじてお館様のとりなしと禰豆子の頑張りがあって事なきを得ました。
でも、本当にあの時炭治郎にできることはなかったのか? と考えた時、思いついた主張があったのですが「これ絶対炭治郎の口からは出て来ないわ」と即座にわかる内容でした。加えて、他の会議参加者も「こういう考えする人はいねぇよなぁ」となった次第。では、どんな人ならこの主張を口にできるかと考え「冷徹かつ冷酷に割と人でなしの考えができる客観的な立場の人物」となった時、丁度良さそうなのがいたので話を膨らませてみました。酒飲んだ勢いで書いているので、割と粗が目立つかもしれませんが「こういう考え方もあるかもな~」と生暖かくご覧ください。
ちなみに、結果的には炭治郎アンチやもしれないのでご注意を。



蝶屋敷には家事幽霊が憑いている(柱合会議編)

鬼を連れた隊士

 

それは過去前例がなく、そもそも重大な鬼殺隊の隊律違反である。当然だ、なにしろ鬼殺隊は人喰い鬼を滅し、人々を守ることを存在意義とする組織。故に、張本人である竈門炭治郎と鬼になった妹の禰豆子、そして彼らを鬼殺隊に導いた冨岡義勇、以上三名の処罰を柱たちの多くが求めるのは自然なこと。

にも関わらず、鬼殺隊の長たる産屋敷輝哉は本来あり得ない筈のことを口にする。

 

「二人のことは私が容認していた。そして、みんなにも認めてほしいと思っている」

 

鬼を滅する。その志は同じであるはずなのに、誰よりも自分たちの心の内を理解してくれているはずなのに、どうしてそんなことを口にするのか。柱たちには到底理解できないことだ。

だからこそ、彼らは自らが正しいと信じる言葉を口にする。それが例え、誰よりも敬愛する人物の願いを否定することであったとしても。

 

「私は承知しかねる。鬼はもちろん、そこの憐れな子どもも殺すべきでしょう」

 

鬼殺隊最強は盲いた目から涙をこぼしながら断じ

 

「俺も派手に反対だ。鬼を連れた鬼殺隊員などあり得ない」

 

派手な化粧と傾いた格好の美丈夫が宣言し

 

「私は、全て御館様の望むままに」

 

全体的には桜色、しかし毛先だけが薄緑という目を引く色彩の少女は恭しく賛意を示し

 

「僕は……どうでも。どうせ忘れるので」

 

茫洋とした眼差しの少年は興味無さそうに

 

「信用しない信用しない。そもそも鬼は大嫌いだ」

 

白蛇を連れた虹彩異色の男は会議の念を隠しもせず

 

「敬愛するお館様ではあるが、理解できないお考えだ。反対以外ありえない!」

 

炎のような色合いの髪と羽織の男もまた譲る気は一切なく

 

「竈門・冨岡、両名の処罰を願います」

 

全身傷だらけの男はさらにその先を求める。

 

「そうか……君の考えを聞かせてくれないか、衛宮」

 

お館様と呼ばれる青年が後ろに向けて声をかける。すると、つい先ほどまで誰もいなかったはずの空間から声が返ってきた。

 

「はぁ、突然呼びつけられたかと思えば……私はそもそも部外者なのだがね」

 

そこにいたのは、褐色の肌の上から着流しを纏った偉丈夫。視界に入れば絶対に気付くであろう目立つ風貌の持ち主が、座敷の奥から立ち上がり日の差し込む板の間まで歩を進めてくる。

 

(あの人、一体いつから……それに、嗅いだことのない不思議な匂いだ。まるで、焼けた鉄のような……)

「確かに君は鬼殺隊ではないが、蝶屋敷の一員であるなら部外者というわけでもない。それに、私の個人的な友人でもある」

「組織の長として、公私混同は如何なものかと思うがね」

「なにより十二鬼月…それも上弦の弐を退けた君には柱合会議に参加する資格が十二分にある。この場の誰も、君を部外者と軽んじたりはしないよ」

(上弦の、弐……!?)

 

上弦の弐、即ちそれは鬼舞辻を筆頭とする鬼たちの中で第3位の実力者ということ。それを退けた……倒したかどうかまではわからないが、それがどれほどのことか下弦の伍相手に九死に一生を得た炭治郎には想像もつかない。

同時に理解する。彼が声を発すると同時に場の空気が僅かに変化した、その理由を。

 

「古い話を持ち出してくれるな。今の私にもう一度同じことは望めんよ。できて、柱たちの稽古相手が関の山だ。最後の力を振り絞ったアレも、正直見るに堪えん不出来さだよ」

「それでも十分過ぎるくらいなのだけどね。みんな多忙過ぎて中々顔も会わせられないし、必然的に柱同士で研鑽することも難しい。かといって、下の子たちでは稽古の相手には物足りない。

 その点、蝶屋敷に行けばいつでも稽古ができる君の存在は有難いものだ。ただ刀を振るうよりも、打ち合う方が得るものが多いのは私にもわかる。加えて、療養中の子どもたちに血鬼術の対策も教えてくれているんだろう?」

「昔取った杵柄という奴だ。血鬼術には明るくないが、その手の異能には少なからず痛い目を見てきたからな。知らないよりかはマシだろうさ」

 

ぶっきらぼうに返しているようで、不思議と会話のテンポが良い。“友人”という言葉も、あながち嘘ではないのかもしれない。

 

「それで、君の考えを聞かせてくれないか」

「…………………………まったく。おい、小僧」

「か、竈門炭治郎です」

「貴様の妹は二年以上にわたり人を喰っていない、これに嘘偽り誇張はないか」

「はい! 今までも、これからも禰豆子が人を襲うことはありません!」

 

妹を守るため、同時に人としての尊厳を守るために炭治郎は断言する。しかしその瞬間、男の鈍色の瞳が鋭さを増した。それはまるで、獲物を補足した鷹の如き眼差しだった。

 

「根拠は」

「え?」

「今後も人を喰わない、その根拠を問うている」

「だ、だから、禰豆子は今まで……」

「過去などこの際どうでもいい。私が聞きたいのは未来に対する保証、万人を納得させられる確たる証拠だ。貴様は何を以て“これからも人を喰わない”と口にした。よもや、“これまで大丈夫だったからこれからも大丈夫”などという思考停止ではあるまいな」

「そ、それは……」

 

曖昧な回答を許さない鋭い問い。

無論、炭治郎は禰豆子がこれからも人を喰わないと信じている。しかし、それを保証する具体的な証拠を出せと言われても、そんなもの炭治郎の手元にはない。

 

「……話にならん。二年間人を喰わなかった、なるほど真実だとすれば大したものだ。鬼は人を喰う、これは人が食事を取るのと同じことだ。故に人に飯を食うなといったところですぐに限界が訪れるように、鬼もまた長く人を喰わないままではいられない。それを覆した貴様の妹は驚嘆に値する。

だがそれは、過去の実績であって未来を約束するものではない。今日までは大丈夫だった、だが明日人を喰わないと何故言い切れる。明日は回避しても、明後日は? その先は? いったいいつまで抑えられる。鬼舞辻を滅するその日までか? くだらん、そんないつになるかもわからん話を信用できるものか」

 

吐き捨てるようなその言葉に、炭治郎の中で怒りがこみあげてくる。だが、同時に彼の言葉が一々もっともであることも理解していた。

 

「先ほど、不死川に面白いことを言っていたな。善良な鬼と悪い鬼の区別もつかないのなら柱など辞めてしまえ、だったか? バカバカしい話だ。そもそも前提が間違っている」

「前提、だって?」

「そうだ。問おう、そも鬼は邪悪だから殺さねばならないのか?」

(ぇ、だって、人を殺すのは悪いことで、人を喰う鬼は殺さなければいけないから……)

「鬼殺隊が鬼を殺すのは鬼が悪だからではない。鬼が人を喰うからだ。生き物の大前提は自らの命を守り、子孫を増やし繁栄すること。故に、自身と同胞の命を脅かす鬼は殺さねばならない。

 そしてこれは鬼にも言えることだ。鬼は人を喰う、だがそれ自体に善悪は関係ない」

「善悪が、ないだって……」

 

炭治郎は信じられないものを見るように、男の厳めしい顔を見上げる。まるで、自分とは違う生き物を見るように。

 

「訳が分からないという顔をしているな。では見方を変えてみろ。例えば、人を喰う熊がいたとする。貴様は、その熊を邪悪だと思うか?」

(それは、どうなんだ? 熊だって生きるために必死なわけだし……)

「無論、最終的にはその熊は処分しなければならないだろう。だが、熊が人を喰うこと自体に善悪を問うなど愚かなことだ。だとすれば、鬼が人を喰ったところで悪でも何でもあるまい。もしそこに善悪を問うとすれば、喰い方…だろうな。ただ殺して喰うだけならそれは自然の摂理だが、そこに自らの愉しみを挟むようなら話が変わる。家畜をただ殺して喰うのと、必要もないのに嬲り殺しにするのでは大分印象が違うだろう?

 まぁ、多くの場合において鬼は必要以上に嬲ってから人を喰うのだから、“邪悪”と言って差し支えないかもしれんがね」

 

確かに、言わんとすることはわかる。炭治郎も、別に家畜を殺して食うことを非難したりはしない。殺される家畜を哀れに思いはするが、それは仕方のないことだからだ。もちろん、男の言う様に意味もなく痛めつけているようであればその限りではないが。そして、確かにそのような行為は“悪”と言って良いだろう。

 

「で、でも! 人を喰わないのなら……!」

「人を喰わないから善良、というのは人間の勝手な言い分だよ。逆に聞くが、人喰い以外の非道に手を染めた場合、それは善良なのか邪悪なのか、一体どちらなのかね?」

「そ、れは……だけど、人を喰わない鬼ならそんなこと」

 

しない、と続けようとしたところで、それまで沈黙を保っていた人物が口を開いた。

 

「衛宮、話が逸れてやしないかい?」

「むっ、確かにな。どうにも、青臭い正義感には物申したくなる…私の悪い癖だ」

「昔の自分を見ているようで、かい?」

「口が過ぎるぞ」

「おっと、これはすまない。それで、君の意見は?」

「………そこの箱に入った娘が二年以上人を喰っていないことを前提とした上で、私はそれが未来を保証するものではないと考える。なぜなら、何故喰わずにいられたのか、その理由がハッキリしない。理由がわからない以上、これから先も喰わないとは考えられんな」

「だからそれは、眠ることで……!」

 

恩師である鱗滝の推測である「眠ることで回復している」と主張しようとする炭治郎。しかしそれは最後まで口にする前に一言の下に切って捨てられた。

 

「たわけ」

「なっ……」

「眠ることで力の消耗は抑えられるだろう。だが、睡眠は回復の手段にはならん。

人が眠ることで回復するように見えるのは、その前に食事を取り、眠ることで消費を抑えることで回復が消費を上回るからに過ぎん。つまり、力を回復するためには何らかの形で外部からの補給が必要ということだ。貴様の妹は人の血肉はおろか、二年以上一切何も口にしていないのだろう。では、いったいどこから力を補給している」

「たしかに、それは私も不思議に思っていた。炭治郎には……心当たりはないようだね。でも、私の見立てでは衛宮、君には目星がついているんじゃないか?」

「さて、な」

 

誤魔化しはしたが、実のところある程度の目星はついている。ただ、もっともその可能性がありそうな男が現在進行形で割とぴんしゃんしていることから、あまり自信がないというのが本音だった。

 

(考えられるとすれば周囲からのドレインの類だが……その場合、小僧が真っ先に消耗するはず。精密に対象を指定できるのか、あるいは範囲が広く個々の吸収量は少なく済むのか。まぁ、これ事態が間違っている可能性もあるわけだが……)

「フンッ、つまりアンタも反対ってことでいいんだろぉ」

「結論を急ぐな、不死川」

「話が長いのがお前の欠点だ、衛宮。さっさと結論を言え、持って回った話はうんざりだ」

「やれやれ……では結論だ。その娘が今後も人を喰わないという保証はない。それを踏まえた上で、私はその娘を殺すことには反対だ」

「「なにっ!?」」

「え?」

 

結論を急がせた不死川と伊黒の両名が目を剝き、炭治郎もまた目を見開く。いや、驚いているのは他の柱たちもまた同様だ。今までの話の流れでは、彼もまた処分を要求すると思っていたからだ。にも関わらず、彼は一転して炭治郎たちを擁護しようとしている。

 

「どういうつもりだぁ、衛宮ぁ!!」

「南無…お前がそう言うからには相応の理由があるのだろう。だが、私には理解できん」

「おうおう、派手な手のひら返しじゃねぇか。派手に意味が分からねぇぞ!」

「俺も宇随と同感だ! 衛宮殿、説明を求める!」

 

反対派の柱たちが次々に説明を要求する。

そんな面々の様子を、男は「まぁ当然の反応か」と至って落ち着いた様子で受け止めていた。

 

「確かにその娘が人を喰わない保証はない。が、二年以上にわたって人を喰わずにいる、その事実は無視すべきではないだろう。先ほど理由がわからないと言ったが、まずはその理由を明らかにすべきだ」

「明らかにして何になる、必要ない必要ない。そんなものに何の意味がある」

「……鱗滝翁からの手紙によれば、その娘は強靭な精神力で人を喰わずにいるという。だが、私はその考えを支持しない。なぜならば、その程度のことで人喰いの衝動を抑えられるなら、過去にも似たような例はあったはずだ。無論、それを確認する前に殺していたという可能性もあるだろうがね」

「で、でも禰豆子は確かに……!」

「その娘の精神が脆弱だと言っているのではない。むしろ、強靭な部類に入るだろう。私が問題にしているのは、それだけが理由とは思えんということだ」

「それなら、君はどんな理由があると考えているのかな?」

「まず思いつくのは、体質だろうな。古い文献によれば、かつて“鬼喰い”なるものをした隊士もいたという。それと同じように、鬼舞辻の血に対し特殊な耐性をもつ体質である可能性がある」

 

禰豆子が鬼になった時、彼女はまだ十代半ばにもなっていなかった。そんな年頃の娘が、果たして食人の衝動を抑えられるほどの精神力を持っているものだろうか。もちろん、無いとは断言できない。しかし、その程度の年齢の少女に抑えられるのなら、過去にも前例が合って良いはずだ。

それなのに、実際に禰豆子のような存在は過去に例がない。だとすれば他に理由があると考えるのが妥当だろう。

 

「確かに、それならただ心が強いというだけよりも納得はし易いね」

「だからこそ、調べる必要がある」

「調べて何になるというのだ! 浅学な俺にはとんと考えが及ばんのだが!」

「……なるほど、読めたぜ。解毒剤か!」

「むっ、どういうことだ宇随!」

「そこの鬼の娘は鬼にはなったが地味に鬼になり切ってねぇ。だとすれば、そいつの体質を調べれば鬼舞辻の血を中和する薬が作れるかもしれねぇってことだ」

「……鬼を殺す毒を作ったしのぶならば、可能性はあるか」

 

考えられる効果としては、まず鬼の弱体化。続いて、藤の花の毒の強化。あるいは、予防接種のようにあらかじめ摂取しておくことで抗体を作る、ということもできるかもしれない。そうなれば、鬼を増やさないという手も打てる可能性がある。

 

(流石士郎さん、どんな時でも冷静で……ステキ!)

(空が、青いなぁ……)

「このように、その娘の存在には無数の可能性がある」

「可能性があるからなんだってんだぁ!! 鬼を殺してこその鬼殺隊だろうがぁ!!」

「上弦や鬼舞辻はどうする。歴代の柱たちは尽く上弦に敗れてきた。君たちの実力は認めるがね、明確な対抗策も手立てもなく“勝てる”とは言えまい。だが、その娘を調べることで何らかの打開策につながるやもしれん。奴らを殺す手掛かりになる、それだけで生かす理由としては十分ではないか」

 

その言葉に、いよいよ反対派も何も言えなくなる。自分たちの実力には自信があるが、その上で上弦の鬼が相手ではどうなるかわからない。ましてや、それ以上の力を持つであろう鬼舞辻が相手となれば……。

奴らを討つためのキッカケになるかもしれない、その可能性はあまりに魅力的過ぎた。

 

「未来の危険性は確かに看過できないが、それを上回る利用価値があるのは理解できただろう。ここで殺してしまうのは、些か早計だと思うがね」

「……だが、人を喰ってからじゃおせぇだろうがぁ!!」

「別段、鬼の一匹や二匹確保する程度ならいくらでもやりようはあるだろう。鎖で雁字搦めにして牢に閉じ込めておくなり、藤襲山に放り込んでおくなり、な」

 

実際、弱い鬼であれば殺さずに藤襲山に閉じ込めて最終選別に利用したりしているのだ。それと同じように考えることもできないことはないだろう。

 

「ああ、ついでにそこの小僧も生かしておく方が良いだろう。その娘が人を喰わずにいられる理由が体質によるものだとすれば、血縁である小僧は良い比較対象になる。あるいは、小僧も同じような体質かもしれんしな」

 

その言葉に対する反論は上がってこない。反感はあれども、彼らを生かすことでより多くの鬼を殺し、人を救う可能性が開かれるかもしれないのだ。反論など…できるはずがない。

そう、ただ一人を除いては。

 

「そんな、そんなこと認められるか! そんな、禰豆子を物みたいに扱うなんて!!」

「くだらん」

「なにっ!」

「わからんか、小僧。これは本来、貴様が言うべきことだ。

妹を愛し、尊厳を守る…ああ、麗しい兄妹愛だな。実に結構なことだ。お涙頂戴の家族ごっこ、反吐が出る」

「なん、だと……!!」

「貴様はそれで満足だろうがな、その結果はどうだ。妹は危うく処分される寸前、貴様に一体何ができた。

 自分の妹なんだ、妹は人を喰わない、人を守って戦える…実に下らん妄言ばかりだ。ここにいるのは鬼殺隊の柱、その妄言の先に何があるかを知り尽くした者たちだ。家族だからと訴え食い殺された者、訴えに迷い剣先が鈍り殺された者、そんな連中を腐るほど見てきたのだ。あるいは、身内が鬼になった者もいるだろう。

そんな者たちを相手に、お前の言葉には芥子粒ほどの価値もありはしないと何故わからん」

 

そう、少し想像力を働かせれば分かったはずだ。禰豆子のような存在は過去に例がない、だからこそこれまで通り柱たちは禰豆子を殺そうとした。

過去に例がないものを理解し受け入れろというのなら、それだけのものを示さなければならない筈なのに。

 

「なにより、お前の言葉は情に訴えるばかりで何一つとして利がない。組織を動かしたくば、確かな利を示せ。危険を冒してでも生かしておくだけの価値を示す、それだけが妹を生かす道だとわかっていたはずだ。そしてそれは本来、お前がするべきことではないのか」

「それ、は……」

「貴様は結局、自己満足のために妹の命を危険に晒しただけだ。真に妹の命を守ろうと考えるのなら、なりふり構うな。人の心のうちなど、どうせ他者にわかりはしないのだ。舌先三寸、大いに結構。心にもないことを、妹をモノ扱いするのはさぞかし不本意だろう。だが、それで妹の命が買えるのなら安いものだ、違うか」

(反論したい! 言い返したい! 何もかも全部、否定してやりたい! この人の言葉を、何一つとして認めたくない!!)

 

それでもわかってしまう。この男の言葉には、非の打ち所がない。禰豆子を守ったのは自分ではなく、この男の非道な言葉だった。もしこの男がいなかったらどうなっていたか…考えるだけで身が凍る思いだ。

今回のことは運がよかっただけに過ぎない。禰豆子を守ることを第一に考えるのなら、他者を説き伏せ納得させるための備えをしていなければならなった。恩師や冨岡、善逸や伊之助といった理解者に恵まれたからこそ見落としていた。炭治郎は、禰豆子を守るためにやるべきことを怠ったのだ。

 

「……守るということは綺麗ごとではない。泥をかぶる程度で守れるなら進んで被れ。その覚悟もなく守れるほど、お前の妹が置かれた状況は生易しくはない。それを、肝に銘じておけ」

(それは、守りたかったものを切り捨てた自分自身に向けた言葉じゃないのかい、衛宮。あるいは、守ることを選んだ炭治郎が、最後まで大切なものを守れるように……)




こういうこと言わせるのに本当に便利な男だぜ。

加えて、冨岡の全力で後ろ向きなところとか、伊黒の自分自身に対する価値観とかは共感できそうなんだよなぁ。あと、多分甘露寺はしょっちゅう蝶屋敷に入り浸って(当時は)珍しい菓子とか作ってもらってそう。この男もいい食べっぷりで食べてくれるのは喜ぶだろうし、ますます色々作るのではなかろうか。

そして瞋寿郎……個人的に、あの人が酒浸りになったのって息子たちを「失望させる」ためだったのもあるんじゃないかと思ったり。自分の無力さとか最愛の妻を亡くした失意とかももちろんあるだろうけど、息子たちに同じ思いをさせたくないってのもあったんじゃないかなぁ。とはいえ、杏寿郎の性格を考えれば「やめろ」と言って聞くとも思えないし、なら悪い見本になって情熱に水をぶっかけようとしたのではないか、とも考えたり。まぁ、それだと任務中の問題行動とかの説明がつかないので、この線は薄いだろうけど。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。