やみなべのネタ倉庫   作:やみなべ

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思いついた追加のネタ。次はもう一つのパターンとか書いてみたいなァ……どうなるかは未定だけど。


は? 陰の実力者って、なんのこと?(リンドブルム編他)

〇聖地リンドブルム編

 

影に潜み、影を狩る者たち…その名は“シャドウガーデン”。

世界の裏側で日夜ディアボロス教団と戦い続ける彼女たちだが、ここ最近はいつにも増して緊張感が高まっている。なにしろ、“計画”の決行はもう間近。この計画は、ディアボロス教団と魔人ディアボロスの秘密に迫るために極めて重要なモノ。不測の事態に備え、複数のプランを用意しているとはいえ、容易くはいかないであろうことは誰もが予感している。

それを裏付けるかのように、敬愛するリーダー“シャドウ”もまた聖地に入ったとの報せがあった。計画のことは伝えていなかったはずだが、神の如き叡智を誇る彼はすべてを見通しているのだろう。故に、彼が現れたのはこの計画になんらかのイレギュラーが発生することを予期してのものに違いない。

 

それを示すように、七陰第一席たるアルファが大聖堂へと潜入すると、大司教ドレイクの遺体を発見した。

王都にまで黒い噂が広がり、近々調査の手が入るはずだった彼は……消されたのだ。恐らくは、ディアボロス教団の手によって。

 

計画決行前に聞きたいことがあったのだが、空振りに終わった。これで当初のプランは破棄せざるを得ず、計画は第二に移行することになる。

念には念を入れて複数の計画を用意していたのが幸いしたが、決行前からこれでは先が思いやられるというものだ。

 

(……だからこそ、シャドウは聖地に来たのでしょうけど。私たちの尻拭いに彼の手を煩わせるなんて……まだまだ足りないものばかりね、私たちは)

 

本来ならシャドウをフォローし、彼の手の届かないところ、目の届かないところを補うためにシャドウガーデンはあるはずだというのに。役目を果たせないどころか、逆に手をかけさせてしまっている現実に忸怩たる思いが湧きあがる。

 

とはいえ、こんな内心をメンバーたちに知られるわけにはいかない。

平静を装いながら仮初の拠点に戻ると、そこには……

 

「う~! う~~~!! う~~~~~~!!!」

 

机に突っ伏して唸る古馴染(ベータ)がいた。

 

(? 何をやっているのかしら……確か今日も、表の顔(作家)としてサイン会だったはずだけど)

 

シャドウガーデンは陰の組織だが、そのメンバーの多くは表向きの顔を持っている。ガンマであればミツゴシ商会の会長“ルーナ”、イプシロンなら作曲家兼ピアニスト“シロン”といった具合だ。

そして、ベータの面の顔は新進気鋭の小説家“ナツメ・カフカ”。ジャンルを問わず多彩な作品を世に送り出す売れっ子作家である。その表の顔の活動として、ここ数日はサイン会に参加していたはず。そんな彼女の人気を証明するように、ベータの周りには大量のプレゼントの山、山、山。

 

(大したものね)

 

その人気っぷりにはアルファも素直に感心するが、それと今のベータの有様が結びつかない。仮に、ファンレターを装ったラブレターやファンからの贈り物の度を越したプレゼントが紛れていたとしても、シャドウ以外眼中にないベータはすべて華麗にスルーするだろう。それこそ、サイン会中に愛の告白をされたとしてもにこやかに流すだけだ。

そんなベータがあれほど唸る事態とは、いったい何事なのか……。

 

これから重要な計画が控えていることを考えると、ベータには急ぎ復調してもらわなければならない。

それでなくても、最も付き合いの古い仲間だ。心配9割と一抹の好奇心から声をかけるべきかと思ったところで、横合いから呼び止められた。

 

「アルファ様、お戻りになったのですね」

「イプシロン…………ねぇ、アレはどういうことなのか、あなた知ってる?」

 

イプシロンがやたらとベータに対抗意識を持っていることは知っているので聞くべきか悩んだが、前情報がないまま本人から話を聞くよりはと思うことにした。

 

「それが……」

「?」

「その……どうやら、サイン会中にお兄さまに会ったようで」

「っ! そう、兄さんに……」

 

イプシロンがやや返事をためらった理由がわかった。まっとうな神経をしていれば、確かに触れづらい話題だと思うだろう。

とはいえ、だからと言って何故ベータがああして唸っているかは未だ不明なまま。懐かしさや連絡を取ろうとしなかった申し訳なさから平常心ではいられないだろうが、だからと言って“ああ”なる理由がわからない。

そして、それはイプシロンもまた同じらしい。彼女が知っているのは、“ベータがサイン会中に昔兄と慕った人と再会したらしい”ということまで。それにしたところで、マネージャー役のシャドウガーデンのメンバーから聞いた話だ。

一応、その時点では今ほどではなかったらしく、唸るようになったのは拠点に戻ってからのようだが。

 

「……いずれにしろ、話を聞いてみるしかないわね」

 

そう思い、意を決してベータに声をかけると……

 

 

 

「次の方、どうぞ」

 

サイン会は順調だった。ベータの著作を手に人々は長蛇の列を作り、中にはファンレターやプレゼントを持参する熱心なファンの姿もあった。彼ら彼女らと二三言葉を交わし、持参した本にサインを入れ、「これからも応援してくださいね♪」と相手によっては大きく開いた胸元を強調しながらにこやかに見送る。

それをちょっと数え切れないくらいには繰り返した末、“彼”が現れた。

 

「っ!」

「あ、サインお願いします」

「は、はい(兄、さん? どうしてここに…いえ、それよりも私と気付いて……)」

「応援してます、これからもほどほどに頑張ってください」

「ど、どうも……」

 

全力で表情筋を制御し、何とか不自然にならないよう努めたつもりだが…正直、ベータとしてはあまり自信がなかった。表情は引き攣っていなかっただろうか、声が上擦っていなかっただろうか……目尻に、涙が滲んでいたのではないか。

だが、記憶より少しばかり大人びた彼がそれに気づいた様子はなく、終始穏やかな声と表情で一ファンと何も変わらないやり取りの末、差し入れとして布のかけられた籠を渡されて終わり。

彼は店の外にいたフードを被った人物と連れ立って去っていった。

 

(やり過ごせた、のかな)

 

それに安堵すると共に、少しだけ寂しく感じたのは事実だ。

 

気付かれなかった / 気付いてもらえなかった

 

無事に誤魔化せた / 分かってくれなかった

 

思い出されなかった / 忘れられた

 

これでよかったはずなのに……それが、酷く悲しかった。

 

 

 

(そう、でしょうね。あの人を巻き込んではいけない、彼に気付かれてはいけない、兄さんは平穏の中で生きるべき人だから……そうとわかっていても、目の前にいながら、気付いてもらえないのは…哀しいわよね)

 

話を聞いて、アルファにはベータの気持ちが痛いほどによくわかった。もし、自分だったらと思うと……きっと、泣きそうになっただろう。これでいいと頭でわかるのと、心は別の問題だから。

しかし、本題はむしろこの後だった。

 

「それで、兄さんがくれた差し入れがそれです」

「………………………これは」

 

籠にかけられた布をめくれば、そこには……

 

「どれも、あなたの好物ね」

 

そう、籠入っていたのはどれもこれもベータの好きだった果物や菓子ばかり。中には、このあたりではなかなか手に入らなかったり認知度が低くかったりするモノまで。

それらの意味するところは、つまり……

 

「気付いてた! 兄さん絶対気付いてましたよね!?」

「そ、そうね……そう、かもしれないわね」

「気付いてて知らないフリとか…滅茶苦茶気ぃ使われてるじゃないですか!? その挙句にコレですよ、コレ!!」

 

言ってベータが差し出したのは一枚のメッセージカード。

 

“充実しているようでよかった。でも、根を詰め過ぎないように”

 

「こ、これは……」

 

言いたいことも聞きたいことも山のようにあるはずなのに、それらには一切触れずベータへの心配りだけが記されたカード。

もう誤魔化しようがない、彼はナツメ・カフカの正体に完全に気付いている。その上、急遽書き足したのか、こんな文言まで。

 

“P.S 色々気を張らなきゃいけないのかもしれないけど、偶には息抜きも必要だよ”

 

対外的には本音を隠していることを見破ったとわかるコメントまで。いっそ不平不満でも書いていてくれればまだ気が楽だったのだが、そんなもの一切ないのがかえってベータの精神的ダメージを大きくしていた。

これにはアルファも、平静を装いつつ内心では……

 

(良かった、会わなくて)

 

と安堵していた。会いたい気持ちがないわけではない。だが、会えばきっと自分も同じようなことになる、その確信があった。こういう気づかいをさりげなくする人なのだ、それが余計に精神的ダメージを倍増させるのだが。

 

とはいえ、ベータと違いアルファは表の顔を持っていない。ならば、会おうとしなければ早々顔を合わすことはない……そう思っていた時が、アルファにもありました。

 

 

 

  *  *  *  *  *

 

 

 

「今年こそその、聖域? だっけ。その扉が出るといいね」

「そうね。でも、こればかりは運次第というかなんというか……」

 

一般席から“女神の試練”が行われる闘技場を見下ろしながら言葉を交わす一組の男女。

二人の目当ては女神の試練そのものではなく、その結果として開かれるかもしれない扉だ。とはいえこの扉、そう簡単には表れない。

 

「アウラが出ちゃうのが一番手っ取り早い気がするんだけど……」

「そりゃ私が出れば確実でしょうけど、教団に“災厄の魔女が復活してますよ”って宣伝するようなものじゃない。今はよくても後々必ず厄介なことになるから却下よ、却下」

「だよねぇ」

「というか、そもそもサーヴァントは女神の試練の判定対象に入るのかって問題があるし。反応して“私”が出てくるなら大成功、反応しなくてもまぁオッケー…でも、妙な誤作動とか起きたら」

「うん、それはそれで面倒臭い」

 

なので、召喚したサーヴァントに参加してもらうわけにもいかないという次第。

聖域の奥に用はあるが、幸い緊急性は高くない。なので、“運良く誰かが扉を開いてくれたらラッキー”くらいの期待値で毎回一応足を運んでいるのだ。最悪、全てのゴタゴタを片付けて後顧の憂いを断ってから、アウロラ自身が乗り込むという手もなくはない。

 

「ベアトリクスもつれないわよね。前々から相談してるのに、やっぱり今年も来てくれないんですもの」

「まぁまぁ……」

 

生者で、実力的にも申し分ないベアトリクスならば何も問題なく聖域への扉を引っ張り出してくれるはずだ。

そう思って以前から打診はしているのだが、そもそもの緊急性の低さから「出来れば来てほしい」としか言っていない以上、そういうこともあるだろう。

 

(アウロラが“こっち(俺関係)”の面倒ごとに巻き込む気満々なのもあるんだろうけど)

 

なにしろ、顔を合わす度に凄く嫌そうな(ウゲェという)顔でアウロラを見ているのだ。

きっと、本当に必要な時以外は極力関わりたくないというのが彼女の本音なのだろう。

まぁ、その気持ちはわからないでもない……彼自身は身内(サーヴァント)の色々なやらかしにすっかり慣れてしまっているが、昔の同僚や上司の反応を思い返せば理解はできる。

 

「ま、あまり期待せずに今はこのイベントを楽しみましょ」

 

やるべきことがあるとはいえ、それはそれとしてふって湧いた第二の生をアウロラは全力で楽しむ気でいる。

生前は色々と不遇だったようだし、それについては彼も応援したいと思っている。いるのだが……

 

(…………飲み物と食べ物滅茶苦茶買い込んで観戦する気満々じゃん。財布、大丈夫かなぁ……)

 

行く先々で財布を空にする勢いで色々買い込むので、今日も今日とてマスターの財布は寒々しい。

 

「あら、このウィンナーちょっと癖があるけど美味しぃ~! エールに合うわぁ~! ……箱と樽で買おうかしら」

「やめてください、(財布が)死んでしまいます」

「え~! 女に貢ぐのは男の甲斐性よ、マスター」

(そろそろ次の金策考えなきゃかなぁ……)

 

昔の経験で、ぶっちゃけ金銭なんて使える当てがないと単なる紙切れと鉄くず…くらいにしか思っていない。サバイバル(野営)経験も豊富なので、使えるなら便利だが無くても何とでもなるという意識が強いのだ。

加えて……

 

(とりあえず……どこかに賭場でもないかな。手っ取り早く増やすならやっぱりギャンブルでしょ)

 

これだ。昔、それこそ一生分…いや、人生数回分はカジノで賭けまくったのだ。アホみたいな額の借金も背負ったし、それを全額返済したりもした。正味な話、ロイヤルストレートフラッシュしか出さないディーラーとか、その身を溶かしつくすまで止まらない悪夢のスロットとかが相手でもない限り、ほどほどに勝って軍資金を得る程度なら造作もない。

実際、今の彼の旅の資金は日雇いのバイト1割、教団施設からの収奪物4割、残りの半分は博打で賄っている。アウロラの散財さえなければ、出費は半分以下に抑えられるのだが……これは言わぬが花という奴だろう。

 

これを知ったベアトリクスは「こいつ正気か?」とでも言いたげな目をしていたが。

ついでに、散財しまくるアウロラをゴミを見るような目で見たりもしていた……のは、気付かなかったことにしておく。

 

「……そういえば、女神の試練で相手が出てくるかどうか、出てきたとして勝つか負けるかで賭けとかしてないのかな? ちょっと探して来よう」

「いってらっしゃ~い」

 

結論を言えば、あんまり表には出せないルートで賭けは行われていた。一応神聖なものなので、表沙汰にはできないのだろう。普通そういうところに出入りするのは容易ではないのだが、それっぽい人を見つけると秒で仲良くなり、あっという間に賭けに参加していたのは流石と言うかなんというか。神話伝承レベルのアウトローに慣れた彼にとって、街の裏の顔くらいは的屋のアンちゃんと大差ねぇのである。

ちなみに、賭けの勝敗については心配していない。勝負勘についてはそれなりに自信があるのである。むしろ、「ギャンブルは勝ち過ぎず、適度に負けるのがコツだよ。勝ち逃げとかすると目をつけられて次がなくなるからね」とは本人の弁……これ、勝てる前提の人の論理ですよね?

 

だが、そんなギャンブル上級者な彼も、今回の女神の試練の展開までは読めなかった事だろう。

 

「シャドウには感謝ね。まさか、こんなに都合のいい展開を用意してくれるなんて」

 

本来ならシド・カゲノーなる人物が出るはずが、突如乱入したシャドウガーデンのリーダー“シャドウ”。

ねらいも何も明かさないまま、彼は試練として現れた“災厄の魔女アウロラ”と戦いこれを打ち倒して見せた。あまつさえ、聖域への扉が現れる前に姿を消した。彼が何を考えて現れ消えたのかは不明だが、怒涛としか言いようのない状況の変化に場は混乱を極めている。これは、聖域への潜入を目論んでいた二人にとって非常に好都合だ。

 

とはいえ、何から何まで思い通りにとはいかない。

 

「アレは……例のシャドウガーデンね。なら、シャドウの目的は仲間に聖域への道を拓くこと? でも、それなら自分も一緒に行けばいいはずなのに…読めない男。マスターの言っていた“名探偵”なら、なにか分かったのかしら」

(やっべぇ…これで賭けが不成立になったらどうしよう。払い戻し、あるかなぁ?)

「マスター?」

「………………よし、難しいことはあとで考えるとして、行こう!」

 

言うや否や、勢い良く観客席の階段を駆け下りていく。観客の視線は聖域への扉をくぐるシャドウガーデンに集中しているため、観客たちが彼らの存在に気付くことはない。

やがて観客席の端までくると勢いを殺すことなく手すりに足をかける。一般席と舞台の高低差は10メートル以上、魔剣士でもなく魔術による強化もまともにできない彼にとっては、十分に致命的な高さ。

それを前に、彼は躊躇なく飛び降りる。

 

「アウラ、着地任せた!」

 

舞台に向けて身を躍らせた主に寄り添い、膝下と背中に腕を回し横抱きにする。軽やかに着地すると同時に降ろすと、万が一に備えて周辺を警戒しながら並走しつつ徐々に閉まりつつある聖域の扉へと向かう。

観客たちもようやく新たな乱入者たちに気付き、中には今度こそ阻もうと動き出す衛兵の姿もある。だが時すでに遅し、彼らが動き出した頃には二人はもう扉を潜った後だった。

 

 

 

   *   *   *   *   *

 

 

 

「ねぇ、マスター。どうするの?」

「どうしようか……」

 

無事聖域に侵入できたのは良い物の、二人は割と途方に暮れていた。

先に聖域へと侵入を果たしていたシャドウガーデンや彼女らに連行されたネルソン大司教代理、そして何故かいるローズとアレクシアの両王女に作家のナツメ・カフカ。彼らは何やら問答をしているようだが、離れた場所に身を隠している二人には良く聞こえない。ただ、断片的に聞こえてくるワードから教団や隠蔽された過去の真実についてと予想できるが、正直そのあたりについては当事者であるアウロラがいるのでわざわざ聞く必要はないだろう。

あくまでも、二人の目的は聖域の奥に封じられているであろう魔人ディアボロスの左腕、その抹消なのだから。

 

「無視して先に行く?」

「行きたいのは山々なんだけど……あのおじさん、教団の幹部なんだよね」

「そうね」

「とすると“アレ”も持ってるかもしれないし、放っておくのもね」

「聖骸か…確かにその可能性は高いわね」

「………………」

 

正直、その“聖骸”という呼び方には一言物申したいところである。何が悲しくて自分で自分の身体を“聖骸”なんて仰々しい呼び方をしなければならないのか。恥ずかしいし、それ以上に痛々しくてたまらない。

 

「せっかくだし、合流する?」

 

それも一つの案ではあるだろう。元々、機会さえあればシャドウガーデンとは協力関係を築けないかと思ってはいたのだ。ただ、あそこには見知った間柄であるナツメ・カフカがいる。なぜ偽名を名乗っているのかとか、再会した時に知らないフリをしていたのかなど気になることは多いが、彼女を巻き込む可能性は極力避けたいところだ。

なので、とりあえずは様子見を…と考えたのが間違いだった。

 

サーヴァントの現界に近い現象と共に現れた英雄オリヴィエ。彼女に伴われながら、いくつかのやり取りをしたかと思うと突如として戦闘が始まったのだ。

いや、それだけであればまだよかった。アウロラに言わせればオリヴィエの力は本来のそれからは程遠く、彼女を操っていると思われるネルソン大司教代理を含めても、シャドウガーデン側が有利なのは明らかだった。

というか、デルタと呼ばれた黒髪の獣人の少女のバーサーカー染みた戦いっぷりは中々に圧巻だ。念のためにいつでも割り込めるようにと備えていたのが、杞憂に終わったほどである。

 

問題だったのは、追い詰められたネルソンが懐から出した球体だった。

 

「……マスター、感想は?」

「クッッッッッッソ複雑!!」

「まぁ、ハゲの掌の上で転がされる自分の眼球とか見れば、そうもなるわよね」

 

自分で自分の眼球と判断できるわけではないが、魔術的なパスかラインでも繋がっているのか、なんとなくそうとわかる。元々その可能性を考えてはいたので、その点で言えば「やっぱり」としか言いようがない。

ただ、召喚された英霊の影(シャドウサーヴァント)が厄介過ぎる。

 

「で、アレは誰?」

「うっわ、よりによってパイセンかぁ……攻撃範囲広いしメッチャタフだし、なによりあとで何言われるか分かったもんじゃない」

 

星の表層管理端末、受肉した精霊とでも言うべき彼女の力はサーヴァントという枠に当てはめられてなお強力だ。

何も知らないまま戦うには危険すぎる。

故に、彼の決断は早かった。

 

「アウラ!」

「はいはい」

 

詳しく説明しなくても、その意を汲んで被っていたフードが外れるのも気にせずアウロラが疾駆する。

同時に、彼もまた己のうちに意識を集中する。

 

術式接続(プラグセット)召喚(サモン)

 

全身を駆け巡る不快感を抑え込みながら、同時に視線はアウロラの進む先……よく見知ったシルエット()に固定する。分かってはいたことだが、何度目の当たりにしても胸が苦しい。無力な自分の呼びかけに渋々ながらも手を差し伸べ、共に戦ってくれた仲間の変わり果てた姿。

なにより、かけがえのない仲間たちを我が物顔で酷使されるのは我慢ならない。

 

「ばかな…なぜ貴様がここにいる、アウロラ!?」

「さぁ、何故かしら。こういう場所だし、そういうこともあるんじゃない?

 とりあえず……死んでくださる?」

「おのれ……殺せオリヴィエ!」

「死んだ後まで続く腐れ縁、か。まぁ、そういうものもあるんでしょうけど……その有様はあなたも不本意でしょ。昔殺してもらった(よしみ)もあるし、優しく殺してあげるわオリヴィエ」

 

全盛期の力を振るえない、という意味ではアウロラもまた同じ。とはいえ、高い知名度補正により本来の状態に近いことに加え、正規の契約者からの魔力供給もあるアウロラに分はある。

一見して拮抗しているように見えるのは、敵の片割れ……自身の契約者が“敵に回すと厄介”と判断した相手を警戒してのことだ。万が一の時、状況の変化についていけず警戒態勢をとっている面々を庇えるようにするために。まぁ極一部、割と見境なく襲い掛かろうとして叱られている狂犬もいるにはいるが。

 

そこへ、朗々とした声が世界に響く。

 

「―――――告げる

 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に

 聖杯の寄るべに従い、人理の轍より応えよ

 汝、星見の言霊を纏う七天

 降し、降し、裁きたまえ、天秤の守り手よ―――――!!」

 

その声と共に、後背にて光が生じる。

理由を知るアウロラ、意志を持たないオリヴィエや影は構わず戦いを続けるが、残る面々の視線が彼の下へと集中する。しかし、彼にそれを意識する余裕はない。

 

「いつ宝具を使ってもおかしくない、みんなを守って!」

「お任せを!」

 

主命を受けて一人の男が最前線へと駆ける。シャドウガーデンの面々の合間を駆け抜けた男は手にした槍の石突を振り下ろした。同時に、彼の周囲に無数の陽炎が立ち上る。

 

「モーラン・ラベ!」

「「「モーラン・ラベ!」」」

 

陽炎は人の形をとり、彼に倣う様に石突を地面に叩き付ける。

 

「モーラン・ラベ!!」

「「「モーラン・ラベ!!」」」

「な、なんなの、これは……」

「ヴゥー! お前、あの時の奴なのです!! あの時やっつけたのに、何でいるのです!」

 

唯一彼を知るデルタが吠える。だが生憎と、彼は非正規召喚時の記憶は持ち合わせてはいないらしく首を傾げるばかり。

なにより、今はそれどころではない。

 

「アウロラ、下がって!」

「っ!」

「レオニダス、宝具を!」

「友よ、命をここに……炎門の守護者(テルモピュライ・エノモタイア)!!!」

 

ランサー“レオニダス”を筆頭に人型の陽炎たちがその手に持つ盾を頭上に構えると、絶対不可侵の場が形成される。

それと、黒い影が爆ぜたのは同時だった。

 

「Aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!」

 

飛び散る肉片、迸る血液……スプラッタ映画も真っ青な光景にシャドウガーデンの面々はもちろん同行している王女たちも息をのんでいる。

その気持ちはよくわかる。あの人、何かにつけてしょっちゅう自爆するから感覚が麻痺しがちだが……

 

「……毎度のことだけど、精神的被害がすんごいなコレ」

「毎度って、あなたこれが日常だったの?」

「ちゃうねん!? パイセンってばなにもなくても自爆すんねん!」

「ハハハハ! これに比べれば、年甲斐もなく駄々をこねる方が幾分マシですな」

「いや、アレはアレでだいぶヒドイ。直視に絶えない的に」

(…………聞けば聞くほど魔境よね)

 

なんか緊張感に欠ける会話をしているが、実際の状況はかなり危険だ。

ばら撒かれた肉片や臓物、あるいは血液が集約し人の形を再構成し始めつつある。だというのに、空からは今なお呪詛が降り注いでいる。ここでレオニダスの守りを解けば全員が呪いに晒されるので論外だが、身動きが取れないままでは宝具の再展開を許し防戦一方になりかねない。

幸いなのは、あちらも呪詛が降り注いでいる間は手出しできないことだが……

 

「私が行ってさっさ潰して来ようかしら」

「……いや、パイセンも含めたら3対1…数の不利はバカにできない。だから……」

「……止めても聞かないんでしょうけど、ほどほどになさい」

「うん、わかってる」

 

フードの下からではあるが、安心させるように微笑みを浮かべて見せる。同時に、脚のホルスターから一本の無針注射を取り出すと太ももに押し当てスイッチを押す。

アンプル内の薬液は血中へと送り込まれ、魔術回路が活性化し心許なかった魔力が満たされる。

 

「ぐっ、術式接続(プラグセット)召喚(サモン)……頼む、セイバー!」

 

二度目の光の奔流と共に現れたのは、屈強な肉体に鎧を纏った勇壮なる騎士であった。

 

「騎士ガウェイン、召喚の招きに応じ参上いたしました。ご下命を、マスター」

「ごめん、陽のないところで」

「なんの。太陽の加護がなくとも、“円卓の騎士”の名に恥じぬ働きをご覧に入れましょう。必要とあらば、日輪の輝きをこの場に招くことも」

「うん。なら、念のためにお願い」

「承知。午前の光よ、良き営みを守り給え」

 

その言葉と共に、呪詛を降り注ぐ暗雲が消え代わって太陽の輝きが聖域内を照らし出す。

 

「「「なっ!?」」」

 

多くの者たちが驚きを露にする中、彼らの動きと判断は早かった。

 

「アウロラはあっちの人(オリヴィエ)を、ガウェインはパイセンともう一人を!」

「ええ」

「……感謝いたします、我が主」

(うん?)

 

指示を受けるや否や二人はレオニダスの守りを抜けてそれぞれの敵へと向かう。

しかし、彼はガウェインの残した言葉に違和感を覚えた。

 

(感謝って……)

 

その意味を一瞬図りかねるが、答えはすぐに知れた。

再構成途中の虞美人へ、手にした聖剣を大きく振り被る。

 

「いざ、真っ正面!!」

 

再構成中の身体を一刀の下に斬り伏せると、続いて標的をネルソン大司教代理に定めるガウェイン。

凄まじい踏み込みで迫る彼に、ネルソンは生み出した分身に迎撃させるが聖剣の一振りと共に生じた炎がその全てを飲み込んでいく。

 

「ええい、だが分身はまだ!」

「いいから、燃えるのです!!」

 

次々に分身が盾になるが、その度に剣戟と炎が薙ぎ払っていく。ネルソンが戦闘を専門としていないことを含めても、それはあまりにも圧倒的だった。

やがて、ネルソンの目前へと迫ったガウェインは剣を握る右腕ではなく左腕を突き出し、その首を鷲掴みにする。

 

不夜のカリスマによって生じた疑似太陽と聖者の数字の合わせ技によって3倍増しとなった膂力で肥満体のネルソンを吊るし上げる。その眼には、普段の彼からは想像もつかないほどに苛烈な怒りが宿っていた。

 

「笑止。如何に分身を生み出そうと、それを制御するのはあなた一人。それは左右の手を別個に動かすことすら難儀する我々の手に余る所業だ。百貌殿のそれとは、比べるべくもない」

「お、おのれ……ええい、何をやっている! 早くこやつを殺せ! 役立た…ぐぇっ!?」

 

ガウェインの背後で再構成を図っている虞美人に向けて怒鳴り散らそうとするが、首を掴む手に力を込めたことで文字通り首を絞められたアヒルのような声が漏れる。

 

「いったい、何様のつもりです。彼の御仁はあなた如きの命に従うような方ではないというのに。

 なにより………………いったい誰の許しを得て、“ソレ”に触れている!!!」

 

ガウェインの怒気が圧となって周囲に震わせる。

 

「ソレは尊き御方の遺体、その一部。貴様などが、汚い手で触れて良いものではない!!」

「ヒッ……」

「あの御方の(むくろ)を辱めるその行い、その身を三度焼き尽くしてもなお飽き足らぬ蛮行と知れ! 聖剣―――抜刀!!」

 

ようやく肉体の再構成を終えた虞美人の影に向かってネルソンを投げつけると同時に、手にした聖剣を天高く投げる。

回転しながら頂点へと至った聖剣は太陽の如き輝きを放つと同時に、一筋の光がガウェインの手元に降り注ぐ。

それをガウェインは力強く握ると……

 

「この剣は太陽の映し身、あらゆる不浄を清める焔の陽炎。

 ――――――――転輪する勝利の剣(エクスカリバー・ガラティーン)!!!」

 

横一文字の一閃と同時に灼熱の業火が波濤となってネルソンと影を飲み込んだ。

太陽の聖剣たるガラティーンの真名開放によって生じる炎は、その由来を示すように摂氏三千度を優に超える。鉄すら蒸発する超高温に飲まれたのだ、生半可な魔剣士に生存の術はない。

 

(やっと、御身を一部とはいえ弔うことができた)

 

微かに安堵の息を吐く。これでもう、彼の瞳が辱められることはないだろうから。

 

「何者なの、アイツ。っていうか、あの剣反則でしょ、アーティファクトか何かなの?」

「あの剣もそうですが、当人の実力もすさまじいです。……正直、私では足元にも及ばない」

「悔しいけど同感ね。こっちの槍を持ってるのもそうだけど、もう一人の方とかまさか本当に女神の試練でシャドウと戦ったあの女なの?

 というか、コイツラを引き連れてるアイツこそ得体が知れないわ」

 

視線の先では、アウロラが手にした鎌でオリヴィエを粉々にしたところだった。

途中から乱入してきた面々の力の程に、畏怖と警戒心が湧きあがっているのだろう。

それはシャドウガーデンの面々にしたところで同じ。いや、同じだった、というべきか。

何故なら、ガウェインの一閃による熱波の余波が“彼”のフードを取り払ってしまったのだから。

 

「うそ……」

(っ! どうして、あなたが、ここに……)

 

フードの下の顔に見覚えのある二人が息をのむ。我が目を疑う光景だった、あり得ないものを見たとしか言いようがない、他人の空似か見間違いであったならどれほどよかったか。

だが、それを否定するように彼は言葉を失った二人に向かって困ったように微笑む。

 

「さて、それじゃ行こうかみんな」

「そうね。まだ私の方の用は終わっていないわけだし」

「そういうこと。それじゃ、あ~……またどこかで」

 

そう言い残し駆け出していく彼に、ナツメ・カフカことベータは自身の立場も忘れて震える手を伸ばしながら、弱々しい声を漏らすことしかできなかった。

 

「まって…まって……行かないで! 兄さん!!」

(なぜ、あなたが……)

 

アルファが彼を呼び留めなかったのは自身の立場を自覚してのことではない。ただただ、目の前の光景を信じられなかったからだ。「なぜ」「どうして」と、意味のない言葉がリフレインしていただけ。

 

そうして、シャドウガーデンと人類最後のマスターの初めての邂逅は終わりを告げた。

 

 

 

Side:人類最後のマスター

 

「良かったの、あれで済ませて」

「う~ん、どうもワケアリっぽいし、あそこで話すのはやめた方がいいかなって」

「それって、どっち?」

「両方、だと思う」

「そ。ややこしいことにならないと良いけど」

「やめてよ、フラグ立てるの」

 

 

 

Side:シャドウガーデン

 

「アルファ様……私、いったい、どうしたら……」

「…………………止めるわ」

「え?」

「きっと、これは何かの間違いよ。あの人が、兄さんがあんな場所にいるはずがない」

「ですが……」

「いたのだとしたら、巻き込まれたに違いないわ。そして、それは……」

「災厄の魔女、アウロラ」

「ええ、あの女と無関係ではないはずよ」

「確かに、はるか昔に死んだはずなのに復活したということは……」

「ええ、何かしらの思惑があるのでしょうね。助けるのよ、なんとしてでも、私たちの手で、兄さんを!」

「……はい!」

 

 

 

Side:シャドウ

 

(え? 第三勢力? それも、一見するとモブっぽいのになんかすごく強い騎士やら大昔の魔女を従えてる? その上、アルファとベータの古い知り合い?)

「アルファ様もベータ様も、さすがに平静ではいられないご様子で……」

(なにそのすっごい美味しいポジション!? シャドウガーデンとディアボロス教団の対立構造に割り込む、得体のしれない第三勢力とか、滅茶苦茶陰の実力者っぽい!! くっそう、僕もやりたかった!!!)

「シャドウ様?」

「……覚えているか、ミュー」

「は? なにを、でしょう」

「もう一つの鍵のことだ。我は、奴らこそが鍵へとつながる手掛かりと踏んでいる」

「まさか!? いえ、でも、確かに彼らは聖骸に思うところがあった様子……」

「奴らの目的は慎重に見定めなければならない。敵の敵が味方とは限らん、奴らこそが異界よりの尖兵やもしれんぞ」

「そんな!? ですが、あちらにはアルファ様たちの……」

「そのための人質か、あるいは利用されているのか。だが、それならばまだいい。最悪、その男こそが中核という可能性もある。あまり、考えたくはないがな」

(確かに、お二人のお気持ちを考えれば、それはあまりにも酷だ)

(ふっふっふっ……確かに今は陰の実力者ポジションは預けておくよ、どこかの誰かさん。でも、最後に陰の実力者になるのはこの僕だ!)

 

 

 

※力尽きたので以下ダイジェスト

 

〇ブシン祭編

 

「ベアトリクス様は、誰か気になる出場者はいますか?」

「……ジミナ・セーネン」

「え?」

「気になると言えば、彼ね」

「…………確かに、勝ち方に不可解な点が多い人物と聞いていますが」

「強さはよくわからない。でも」

「でも?」

「知り合いが気にしていた。あの子に相手の強さを見抜く技量はないけど、相手の危険度を察知する勘の良さは信じられる。少なくとも、見た目通りの相手ではないと思う」

 

「続いて本戦、1回戦第3試合! シュミット・ハーケン対レジェンド・オブ・サムライ!」

「なにやってんの佐々木ぃ!?」

「べ、ベアトリクス様?」

「試合のレベルを考えなさい! 子どもの剣術大会に一国の騎士団長が出るようなものでしょうが!!」

「はっはっはっ! ベアトリクス殿、あまり怒ると小皺が増えるでござるぞ~」

(斬りたい、今すぐこの男を斬り捨ててしまいたい!!)

 

「ふむ、せっかくの親子の語らいに割り込むとは、些か無粋に過ぎる。

 そも、花は愛でるもの。手折るのは、あまり褒められたことではないであろうよ」

「あなたは……なぜ、助けてくれるのですか」

「なぁに、麗しき花一輪…このような男に手折らせるには些か惜しいと思ったまでのこと。

 しかし、御父君はあまり容態が良くない様子だが」

「それは……」

「少々剣を嗜む程度のしがない農夫でもわかるほど死相が浮かんでいる。これは、少々不味いか」

(え? 嗜む程度って、あれで? 太刀筋、何度見てまるで見えなかったのですが……)

「本来はマスターより“やり過ぎた時用”にと預かったものだが……飲ませるといい。なに、医神殿お墨付きの逸品故な、生半可な病ならばたちどころに癒えるであろうよ」

「あ、あの……」

「さて……マスター! すまぬが、足を用意してもらえぬか?」

“ピュィ―――――ッ!(指笛で昔貰った神馬を呼び出す)”

「行かれよ、殿は任された」

「……ありがとうございます。このご恩は、決して!」

 

 

 

〇紅の塔編

 

「シャドウ様!? そんな、私たちを庇って……」

「待って、なにか…来る!」

“ゴッ(紅の塔の最上部が粉砕された音)

「さて、市街に蔓延るあの出来損ないの死者の群れは、あなたの仕業で間違いありませんか」

「おいおい、なにもんだあの女。ヤバい気配がビンビンじゃねぇか」

「同感でありんす。そもそもどうやって外からこの塔を登ったのやら……」

「では、余興です。狩りをしましょう」

 

「……なるほど、再生能力は中々のもの。小技でこれを殺し切るのは少し面倒ですか」

「なんなんだ、あの女は。剣の一振りで氷を生み、嵐に光弾まで……天変地異を操るとでもいうのか!?」

「一撃一撃の威力も尋常じゃないわ。無造作な腕の一振りで壁が消し飛んだわよ!」

(ですが、違和感がありますね。再生能力の割に攻撃性能が低い上に、防御はおざなり。まるで、自ら力を制限しわざと攻撃を受けているような……)

 

「……なるほど、意図せず血を飲まされての暴走と」

「そうだ。エリザベート様は、本来このようなことを望まれるような方では……」

「マスターの望みはこの状況の打開です(別に単独行動で元凶を叩けとは言われていない)。

元来、私に彼女を助ける義理も筋合いもないのですが……彼女の境遇には少しばかり思うところがあります。私自身とはなにも関係のないことですが、あとであちらの私に文句を言われるのも億劫です。気紛れですが、特別に……」

「え?」

「空想具現───! ………千の鎖よ、路を示せ……」

「ガァァァァァァァッァ!」

「静かに、四肢が千切れますよ」

「またかよ! この鎖といいさっきのマグマといい、どっから出てきてやがんだいったい!」

「……どうやら、今度はそれどころじゃないようでありんす」

「あん?」

「見て、塔の下を!」

「これは………城?」

「なんと、荘厳な」

「おや、下ばかり見ていていいのですか」

「「「え?」」」

「仰ぎなさい。星を覆う天蓋を……!」

「まさか、赤く染まった月を戻したというのか!?」

(こんなの人に許された…生き物に可能な範疇を超えている。それこそ、シャドウ様でも…いえ、いいえ! そんなこと、あるはずが!? それにこの人の気配、兄さんと一緒にいた人たちと似ている)

 

「……まったく、ここまで来ているのだから何かしら助ける手立てを用意しているのかと思いきや」

「ぐぅ……」

「だ、大丈夫よミリア! 助けられると思ってなかったんだし!」

「そ、それはそうなんだが……」

「あの、それたぶん追い打ちですよ?」

「仕方がありませんか。あまり気は乗りませんが、アレも召喚されていたことを幸いと思うことにしましょう。

 ふぅ…………ワァタイヘンダァ~、コンナトコロニゼンダイミモンノショウレイガ~」

(((なんで棒読み!?)))

「前代未聞の症例はどこだぁ!!!!!!」

「変なマスクの人が蛇に乗って塔の外壁登って来たぁ!?」

(素晴らしい説明台詞ですね、クレア様)

 

 

 

〇円卓vs七陰

 

「行かれるのですね、アルファ様」

「ええ」

「でしたら我々も」

「ダメよ。これは私情、シャドウガーデンを巻き込むわけにはいかないもの」

「ですが……」

「もしもの時は、シャドウとシャドウガーデンを頼むわねガンマ」

「アルファ様」

「私もいきます」

「ベータ……」

「私も、兄さんを止めたいんです」

「…………わかったわ」

 

「貴公らの考えは理解できる。確かに、我らが主は元来非日常とは無縁の御方。世界の暗部から遠ざけようとする、その思いには共感できる」

「なら、そこを退きなさい」

「すまないとは思う、だが答えは否だ。我らは主の剣、マスターが決断された以上その道行の万難を排すのみである。

 負う必要のない責を負う、その決断は愚かやもしれんが尊いものだ。

 ……出直しなさい。古い知己として旧交を温めるのであれば、我らが貴公らを阻む理由はないのだから」

「……ならば、押し通る!!」

 

「ガウゥ!」

「デルタ!?」

「あなた、どうして……」

「アルファ様の敵はデルタの敵なのです! 敵はやっつけるのです!」

「まったく、この子は……」

「ああ、私は悲しい」

「「「っ!?」」」

「マスターと縁深いお二人だけであれば、ランスロット卿のみにお任せするつもりでしたが……部外者が割り込むとあらば、その無粋の代償を払っていただくことになりましょう。構いませんね、ランスロット卿」

「ああ、トリスタン郷。元より、そういう話だ」

「では、こちらのお二人は私が受け持ちましょう。あなたは、そちらの金髪のレディを」

 

「素晴らしい勘の冴えです。不可視の我が妖弦をここまで回避するとは。そちらの銀髪のお嬢さんもよい腕をお持ちだ。狙いは正確かつ射は迅速、良く錬磨されている」

(私の矢を尽く撃ち落としておいて、なにを……! でも、デルタがいてくれてよかった。私だけでは分が悪かったけど、私が牽制してデルタが攻めるこの戦術でなら!)

「ああ……ですが、私は悲しい(ポロロン♪)」

「デルタにお前のそれは効かないのです!!」

「確かにあなたの勘の冴えは素晴らしい。ですがそれは、己の脅威となるものに限ってのこと。脅威とならない、即ちあなたを傷つけないものにそれは作用しない。それを自覚しないことが、あなたの敗因です」

「ガッ!? なんなのです、動けないのです!?」

「デルタ!?」

「あまり力を込めない方がよいでしょう。過ぎれば、絡みついた妖弦が肌を裂き、肉を切り、骨を断ちますよ」

「攻撃は全部避けたのです!」

「ええ、ですから攻撃ではない弦をばら撒きました」

「罠、ですね」

「察しの善いお嬢さん、その通りです。脅威となる弦は避けられてしまいますが、ただそこにあるだけの弦に彼女は反応しなかった。ならば話は簡単です、彼女の進路上に無数の弦を置いておけばいい」

「なら、引き千切ってやるのです!!! 千切れなくても、繋がってる先ごと動けばいいだけなのです!」

(デルタらしい脳筋発想だけど、それなら!)

「確かに正論です。ですが……それはつまり、この都市そのものを動かすに等しい難行。果たして、あなたにできますか?」

「え?」

「我が妖弦はこの都市全体に張り巡らされています。前例がないわけではないので不可能とは言いませんが、これを動かすとなれば生半可なことではありません。あなたの膂力とこの都市の重み、どちらが勝るか試すのも一興ではありますが」

 

(この騎士、強い!)

「ここだ!」

「このっ、また!」

「これで都合五度、もうあきらめてもよいのではないか。貴公は善く戦った」

(どうしてそこらで拾ったような棒切れで私と打ち合えるの! あまつさえ、私の剣に彼の手が触れた瞬間に支配権を奪われる! 咄嗟にスライムソードを半ばで切り離していなければ、全て持って行かれていたかもしれない……その繰り返し)

「……………才能はある。鍛錬も積んでいる。場数もそれなりに踏んでいるのだろう。だが、貴公には決定的に足りないものがある」

「私に、足りないもの?」

「ここ一番での踏み込みの甘さ、覚悟と言い換えてもいい」

「私に覚悟がないとでも? 見くびらないで頂戴!」

「ああ、覚悟はあるのだろう。命を賭す覚悟も、手を汚す覚悟も。しかし、同時に貴公の中にはわずかな甘えがある。シャドウ、と言ったか。貴公らの主は卓越した力を持つと聞く、最悪彼がいれば何とかなる、そんな思いがあるのではないかね」

「それ、は……」

「その甘えが、極限状況下での踏み込みを甘くする。それこそが、貴公の剣が私に届かない最大の理由だ」

「くっ……!」

「持てるすべてを費やして勝つ、手があるうちは負けない、泥を啜ってでも這い上がる、なまじ優れた才があるからこそそういった泥臭さが貴公にはない。それを非難する気はない。だが、そんな貴公にマスターの選択を否定させるわけにはいかん」

 

「このスライムソードとやらは優れた武器だ。これほど魔力の通りがいい武器はそうはあるまい。

 しかし、言い換えればそれだけだ」

「なんですって?」

「世界には、100の魔力を通して200、300…あるいはそれ以上の性能を発揮する武具が存在する。いや、これはあまり参考にすべきものではないか」

「……」

「魔力の通りがよく、変幻自在にして攻防一体の武器、確かに素晴らしい。しかし、その分弱点も多い。例えば、魔力の流れを阻害する場や流れそのものを断つ武器とは相性が悪い」

(確かに、強欲の瞳のような状況はスライムソードやスライムスーツとは相性が悪いわ。でも、シャドウなら……いえ、この考えが甘えに繋がっている)

「他にも、元がスライムであるが故に強度に不安がある。なるほど、魔力を通している間は鉄を超える強度を発揮するだろうが、それならば芯に鋼を用いてコーティングするようにスライムで覆うのでもいい。その方が、魔力の消費量も抑えられるだろう。また、何らかの理由で魔力の通しが甘くなった際の保険にもなる。まぁ、今ほどの変幻自在さはなくなるが。

 逆に、変幻自在というのならこれくらいはすべきだ」

「っ! これは……」

「戦いは高度になればなるほど無意識に全身の動きから行動を予想するもの。だからこそ、全身の動きとまるで関係のない、あるいは真逆の動きを剣がすれば、それだけで意表を突ける。

 そして、真に変幻自在であるならば“武器”である必要すらない」

(なんなの、あれは……ウマのいない荷車? いえ、むしろ小型の機関車?)

「自在に形を変えられるということは、ある意味では動力と同じ。こうして車輪を回してやれば、小回りは効かんが直線での機動力は走るよりも優秀だ」

(まさか、こんな使い方があるなんて……)

「バイクですか。ふふっ、まるで我が王のようですね。それにしても……アレでは戦いというよりも稽古をつけているようではありませんか」

 

 

 

〇?????

 

「うっ、ここは……?」

「起きたわね、アウロラ」

「……七陰の面々がお揃いで。その上、ローズ王女にアレクシア王女、アイリス王女まで…中々に壮観ね」

「減らず口が叩けるなら問題なさそうね。ところで、ここに来るまでのことは憶えている?」

「それは……」

「正直、私たちも前後の記憶が曖昧で。どうしてここにいるのか、何故この面々で集まっているのか……そもそも、ここに来る前に何をしていたのかもサッパリなんです」

「由々しき事態ね」

「ええ。なにより……この場所の得体が知れなさすぎる」

「この場所? …………………まさか、ここって」

「何か心当たりがあるのかしら?」

「だって、ここは………………………………ミクトラン?」

 

 

 

〇NG

「だって、ここは………………………………チェイテピラミッド姫路城!?」

「「「はぁ?」」」




ちなみに、一番最後のは時系列すら決まってません。ただ、最悪以上の厄ネタがあり、それを知っているのがアウロラだけなので色々大変だろうなァ。
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