やみなべのネタ倉庫   作:やみなべ

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はい、お久しぶりです。
自分でも続きを書くと思っていなかった「蝶屋敷には家事幽霊が憑いている」第3弾。今回は衛宮士郎の特技を生かしてもらう回になります。まぁ、能力的には滅茶苦茶衰えているので、あんま役に立ってませんけどね。


蝶屋敷には家事幽霊が憑いている(蝶屋敷編)

 

「お待たせしました。こちらがご依頼の品です」

「ああ、忙しい中スマナイ」

 

蝶屋敷の一室で隠が差し出したのは白木造りの細長い箱。

箱のフタを開ければ、そこには半ばほどで折れてしまった漆黒の日輪刀。

その柄を手に取り、目を細めてみれば……ノイズ交じりにこの刀の来歴が流れ込んでくる。

 

(‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥衰えたものだ。たかだか数日前の情報を読み取るのにも難儀するとは)

 

かつて(全盛期)であれば、刀一口程度一瞥するだけで素材や製法はおろか、理念や来歴に至るまで読み取れたというのに。いまでは意識を集中して入念に精査してなおノイズが交じる有様。

胸中に呆れとも失望とも判然としない感情が湧いてくるのは一旦脇に置き、情報を読み取ることに集中する。

不明瞭な点も多々ある中、それでも辛うじて読み取れた内容は得心のいくものだった。

 

(やはりか)

「……」

「……不思議かね」

「ぇ、いや、その……」

「まぁ、当然だろう。折れた刀をわざわざ“検めさせて欲しい”などと……疑問に思って当たり前だ」

「……はい」

「ちょっとした特技でね。刀を見れば、どう使ったかある程度分かるのさ」

(スゴッ! え、達人ってそんなことまでわかるの!?)

 

上弦を退けたという話はそれなりに広まっているので、“ケガなどが理由で引退した柱並みの実力者”という認識が浸透している。勘違いされていることは何となく察しているが、説明するのは面倒くさく、実害もないことから放置することに。

 

「君は、新米の隊士が十二鬼月と遭遇したら、どうなると思う?」

「‥‥‥‥‥‥‥‥もう、命はないものと」

「そうだ、それが普通だ。時透という例外もある以上“絶対”ではないが、基本的に隊士となって間もない者が十二鬼月と遭遇するということは死を意味する。だが」

「竈門隊士は、生き残った」

「そうだ。冨岡に救われるまで命をつないだ、それだけでも驚嘆に値する。その理由が気になってね、こうして里に戻す前に見せてもらおうと思ったわけだ」

 

言わんとすることはわかる。しかし、本人に話を聞くという手もあるはずだ。先の任務で負傷した炭治郎たちは、現在ここ蝶屋敷で療養中なので機会も時間もいくらでもある。ならば、回収された彼の刀をわざわざ見る必要はない。隠のそんな声なき声を聞いたかのように肩をすくめて見せる。

 

「柱合会議でのことがよほど腹に据えかねたようでね。どうも、相当に嫌われたらしい」

「あ~……」

 

この隠も柱合会議の場に居合わせたらしく、その時を思い出して納得してしまう。

 

(確かに……あれは、嫌われても仕方ないかも)

「そう言うわけでね、当分話を聞くのは難しいというわけだ」

「な、なるほど……ご苦労様です」

「なに、身から出た錆という奴だ。幸い時間もある。あの小僧は単純だからな、聞き出す方法はいくらでもあるさ」

(竈門隊士、すごくお人好しっぽいし、普通に聞けば答えてくれそうだけど……)

 

とは思ったものの、何となく口にできなかった隠はそのままその場を後にした。

“手間賃”としてお土産を持たされて。

 

「蝶屋敷のお土産と言えば珍しいハイカラな菓子だよな……ヤッホイ!」

 

そんな隠の後姿を見送る神崎アオイの目には、どこか哀れみが宿っていた。

 

「…………たしか今朝士郎さんが作ってたのって、塩大福じゃなかったっけ?」

 

 

 

*   *   *   *   *

 

 

 

その日の夜半、患者たちの回復訓練の計画について意見を聞くべく、カナエは士郎の部屋を訪れていた。

 

「……嫁入り前の娘が、夜中に男の部屋を訪れるなと何度言わせれば」

「娘に手を出すような倒錯趣味じゃないでしょ。ね、“お父さん”」

「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ(言いたいことは山ほどあるが、言っても聞かないのはわかりきっているので堪えている)」

 

何とも言えない味のある表情でコメカミを揉む目の前の偉丈夫に、カナエはコロコロと笑みをこぼす。

本人が「親として不適格にもほどがある」と思っていることは知っている。彼の過去を知る身として、その自己評価はあながち間違ってもいないと思う。しかしそれは結局過去の話、蝶屋敷で暮らす娘たちにとって今の彼は誰がなんと言おうと“善き父”なのだ。

だから、諦めてこの呼び方を受け入れてもらわないと困る。

 

時が経てば、いずれ嫁に行く娘も出てくるだろう。その時に、父として送り出してもらいたいのだ。カナエでは姉代わり、どんなに頑張っても母代わりまで。父親役は彼以外にいないし、娘たちも納得しないだろうから。

 

「それで、これが小僧どもの訓練計画か。なかなかに無茶をさせる。全集中の常中など、出来ない隊士の方が多いだろうに」

「ええ。三人とも筋が良いようだし、特に炭治郎君は妹さんのこともあってか強力な鬼との遭遇率が高いみたいで……早く強くなってもらわないと」

「その割には回りくどい仕込みのように思うがね」

「自分で気付いた方がやる気が出るでしょ?」

「なるほど……そうして、ゆくゆくは次代の柱候補、か?」

「そうなってくれたら嬉しいかな」

 

困ったような、悲しそうな、そんな複雑な表情を浮かべるカナエ。彼らの未来に対する期待はある。だがそれは、同時に苦難の道へと放り込むことを意味する。手放しには、その未来を喜べないのだろう。

特にカナエは、上弦との交戦経験を持つ数少ない一人だ。奴らと戦うことの意味を誰よりもよく知っているが故に。

 

「…………まぁ、その方が都合がいいのは確かか」

「都合がいい?」

「こちらの話だ。いずれにせよ、動けるまで回復しなければ話にならん」

「まぁ、いいけど……何か企んでない?」

「さてな」

(…………仕方ない、か。腹芸では敵わないし、この人のことだから悪いようにはしないでしょう)

 

ジト目を向けるも、そこは年季が違う。涼やかに流され、その考えを読み取ることはできそうになかった。

 

 

 

  *   *   *   *   *

 

 

 

それからしばらくして、炭治郎たちも無事回復。回復訓練に関しては、善逸と伊之助が逃げたりサボったりを繰り返しながら、一応は順調に全集中・常中を習得しつつある。

そんなある日のこと、炭治郎は道場である人物を待っていた。

 

「私に話があるそうだな、小僧」

 

炭治郎に遅れて道場にやってきたその人物は、用意されていた座布団に腰を下ろすなりそう切り出した。

 

「はい。でも先に……」

「? なんだ、いつぞやの文句であれば……」

「いつも美味しいご飯をありがとうございます! あなたのことは嫌いですが、お世話になってます!!」

(律儀というか、バカ正直と言うか……)

 

面と向かって「嫌い」と言える精神もどうかと思わないでもないが……。

 

「しのぶさんが、あなたなら“火の呼吸”について何か知っていると」

「いや、知らんが」

「知らんのかい!!!!」

「うるせぇぞ、紋逸」

「善逸だって言ってんでしょ!!」

 

炭治郎の両脇を固めるいつもの二人が何やら騒いでいるが、とりあえずスルー。一々相手にしていると話が進まないのは、決して長くはない蝶屋敷暮らしでもすでに知れ渡っている。

 

「そもそも呼吸の剣士ではない私が知るわけがないだろう、たわけ」

「うぐっ……」

「それより、こちらも貴様に聞きたいことがある。小僧、貴様……どうやって下弦の伍と戦った」

「えっ……」

 

それは、丁度炭治郎が彼に聞きたかったことだった。

 

「あの時点での貴様の実力では、下弦とはいえ十二鬼月相手に生存の目はなかったはずだ。妹の助けがあったとしても、それで何とかなる様な実力差ではない。にもかかわらず、貴様は生き延びた。

なぜだ? 貴様は何をした?」

「それは……」

 

炭治郎の口から語られたのは、竈門家で耳飾りと共に代々伝えられてきた“ヒノカミ神楽”と称される厄払い舞の存在。同時にそれは、一年間の無病息災を祈って新年の始まりに山頂にて、舞を一晩中繰り返すことで奉納するという極めて過酷なものであるという。

 

「それで、ヒノカミ神楽の舞の型は十二あって……」

「やってみろ」

「え?」

「四の五の言わずやって見ろ……ああ、今回呼吸は不要だ。今の貴様では負荷に耐えられまい、ただ型の動きだけなぞればいい」

「は、はぁ……(あれ? なんでこの人、俺がヒノカミ神楽の呼吸を使いきれてないことを知って……)」

 

疑問はあるものの、とりあえず言われるがままにヒノカミ神楽を舞って見せる。

病み上がりとはいえ、機能回復訓練と全集中・常中の修行のおかげでむしろ基礎体力は上がっているのが功を奏したのだろう。以前とは比べ物にならないほどスムーズに舞うことができる。

 

円舞(えんぶ)

 

碧羅(へきら)(てん)

 

烈日紅鏡(れつじつこうきょう)

 

灼骨炎陽(しゃっこつえんよう)

 

陽華突(ようかとつ)

 

日暈(にちうん)(りゅう) 頭舞(かぶりま)い”

 

斜陽転身(しゃようてんしん)

 

飛輪陽炎(ひりんかげろう)

 

輝輝恩光(ききおんこう)

 

火車(かしゃ)

 

幻日虹(げんにちこう)

 

炎舞(えんぶ)

 

十二の型、全てを舞い終えると拍手が炭治郎を労う。

 

“パチパチパチパチパチ”

「しのぶさん?」

(たぁすかったぁ―――――っ! 俺この人(士郎)苦手なんだよなぁ優しい音してるはずなのに時々滅茶苦茶怖い音がするって言うかあったかいと冷たいが両方あるって何なのこの人ホントあれでしょ周りの人のことスッゲェ大切にするけど必要ならばっさり切り捨てちゃう人種じゃん!!)

「話を聞いて私も気になっていたので後学のために見学をと思って……構いませんか、炭治郎君」

「はい!」

「そういや伊之助も妙に静かだけど、どうしたの?」

「……アイツはヤベェ。毒蛇とか毒虫と同じだ、強いとか弱いとかとは別のところにいやがる」

 

伊之助は伊之助で、善逸とはまた違う形ながら士郎のことをひどく警戒しているらしい。

善逸自身、個人的には禰豆子をモノ扱いしたことに文句の一つも言ってやりたいと思っているのだが、聞こえてくる音がおっかなすぎて何も言えないでいるのである。

 

(……やはりか)

「あの、これで終わりなんですけど」

「む? ああ、ご苦労」

「それで士郎さん、何かわかりましたか」

「……そうだな。まずは確認だ。現在、呼吸は多くの種類がある。しのぶの蟲やそこの被り物の獣はかなり特殊な部類だが、他にも霞や音、蛇といった具合にな。だが、それらはすべて元々あった呼吸の派生だ。ここまではいいな」

 

柱であるしのぶには今更な話だが、経験の浅い炭治郎たちには必要な知識だろう。

 

「当然、派生であるからには遡れば元となった呼吸に行き着く。そして、最終的に行き着くのが水・風・岩・雷・炎の五つの呼吸だ。しかし、本来これはおかしい」

「そうなの?」

「なにがだよ、イログロ」

「失礼だぞ、伊之助」

「呼吸の源流はどの型なのか、ですね」

「そうだ。“最終的に”というのであれば、基本となる五つの呼吸の更に元があるはずなのだ。少なくとも、五つの型が“呼吸”という技法を獲得するに至った“なにか”が」

 

ここまで話せば、よほど察しの悪い者でなければ士郎の言わんとすることがわかるだろう。

そして、少なくとも炭治郎と善逸はそこまで察しが悪いタイプではない。

 

「えっと……今の話の流れだと炭治郎のヒノカミ神楽がその…?」

「ヒノカミ神楽の呼吸と円舞についてはわかっていたから確認のために他の型も見せてもらったが、おそらく間違いあるまい。基本の五つの呼吸同士に共通点はほぼないが、ヒノカミ神楽はすべての呼吸に通じるものがある」

(あれ? ヒノカミ神楽の呼吸は見せてない筈なのに、どうして……)

「ですが、どうして炭治郎君の家で神楽舞として伝えられていたんでしょう?」

「さて……よほどこの技を後世に伝えたくない者がいたのだろうよ。まぁ、おおよその見当はつくがね。

付け加えるなら、武を舞という形で隠して伝承するのは割とよくある手法だ。技の断絶を恐れた竈門家の祖先は、どこかの誰かの目を眩ませるために“ヒノカミ神楽”として伝承したのだろうさ」

 

一点、士郎の推理を訂正するとすれば、竈門家の祖先は明確に「隠す」という目的をもって“ヒノカミ神楽”としたのではない。“まるで踊っているようだった”から舞という形をとったに過ぎない。

少しでも彼が受けた印象が違うものであったら、この技の伝承の形は別のものになっていただろうし、そうなればこの技を恐れた誰かの目に留まり、技が途絶えていた可能性が高い。

 

「黒く染まった日輪刀の使い手に適した呼吸は現在確認されていませんが、もしかして……」

「ヒノカミ神楽…いや、“ヒの呼吸”こそがそうなのだろうな。ただ、小僧の様子を見るに相当に負荷が大きい。使い熟すには並々ならぬ呼吸の練度が必要になるだろう」

「つまり‥‥‥‥‥‥‥‥‥炭治郎君はまだまだ修行が足りない、ということですね♪」

「ああ、使い熟すためには辛い修業が必要だろうな」

「「フッフッフッフッ……」」

(あ、これ俺死んだ?)

「炭治郎」

「善逸」

「強く生きろよ――――――――――――――――……!!」

「善逸――――――――――っ!?」

 

伊之助の腕をひっつかみ、雷の呼吸お得意の脚力を無駄に活かして逃走を果たす善逸。

虚しく空を切った炭治郎の右手が物悲しい。

 

「逃げたか……」

「大丈夫ですよ、炭治郎君。一人は寂しいでしょうが、仲間がいればきっと乗り切れます」

(……これ、二人もあとで捕まる流れだな)

「まぁいい。とりあえず小僧、先ほどのヒノカミ神楽だが順序を入れ替えてもう一度やって見ろ。少々気になることがある」

「は、はぁ……」

 

そうして、言われるがままに何十通りというパターンでヒノカミ神楽を舞うことになるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……やはり、少し妙だな。通常、型とはそれ単体で完結するものだ。もちろん、攻防いずれにせよ次の動きにつなげやすいようにできてはいるが、ヒノカミ神楽の場合明らかに“型同士の連続性”がある。特定の型から特定の型に繋がる場合、他の型より確実に流れがスムーズだ。流石に、この流れに従わない場合支障をきたす…というほどではないが)

 

舞として考えるなら流れがよりスムーズに、流麗になる方がよいのでそれで問題はない。しかし、実戦ではわずかな流れの淀みが致命的な隙となるかもしれない。そのため、もし支障をきたす場合、実戦への投入は考えなければならないところだが、そこまでではないのは幸いだろう。

 

(気になるとすればもう一点。呼吸の源流とも言うべきこの技を継承してきたことと、あれの妹の体質との因果関係か。しのぶが調べてくれているが、そうそう成果が出るようなものでもなし。いまは置いておくしかあるまい。

 当面の問題は、これが舞として伝えられていく過程で加えられたアレンジなのか、それとも元からそうなのかという点だが……)

 

可能性としてはあまり高くないが、もしも初めからそのような構成になっていたとしたら、その意図はいったい……

 

「……ちっ、情報が足りんな。この技を伝えた者の刀でも残っていれば、そこから読み取ることもできたのだが……」

 

生憎、竈門家にそのようなものは伝わっていないらしい。

推理はここでとん挫し、ヒノカミ神楽の真相究明は一旦お蔵入りとなる。しかしそれも、炭治郎が刀鍛冶の里を訪れたことで、再度動き出すことになるのであった。




士郎の存在により、炭治郎のヒノカミ神楽への理解と鍛錬の比重が増すことになるので、原作よりちょっと強くなる…かもしれません。少なくとも、柱稽古より前には日の呼吸の真相にはたどり着けそう。それが事態を大きく動かすほどの影響を及ぼすかは……ちょっとわかりませんが。
もし第4弾を書くことがあるとすれば、前日譚に近い童磨を退けた時の話ですかねぇ。やるかわかりませんけど。
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