やみなべのネタ倉庫   作:やみなべ

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私にしては珍しいHF√からの逆行物。
ご都合主義満載のハッピーエンドを目指したのがきっかけです。


Fate/Zero~最初で最後の反抗期~

 

誰かの声が聞こえる。

漂白されつつある意識に、誰かが語り掛けてくる。

もうここがどこで、自分がだれで、何をしていたのか、何がしたかったのか、そのほとんどが失われてしまった。

にもかかわらず、不思議なほど明瞭に声が聞こえてくる。

 

―――――――悔いはない?

 

いいえ、そんな綺麗なことは言えない。

 

―――――――心残りはない?

 

まさか。やりたかったことも、見たかったものも、数えだしたらキリがない。

 

―――――――満足してる?

 

……………………………………ええ、もちろん。

悔いはある、心残りもある。だけど、私はこの選択に満足している。

だって、今私は生まれて初めて、こんなにも誇らしいもの。

 

―――――――他人のために命を捨てることが?

 

血の繋がりはないし、共有した時間は短いせいの中でもさらに極僅か。

なるほど、そこだけを拾えば確かに“他人”ね。

 

―――――――恨んでいたのでしょう?

 

どうだろう。そうだった気もするし、そうじゃなかった気もする。

私の十数年の生、その大半は灰色で色彩に乏しい。

だから、そんな灰色の時間の中で名前を付けた感情が、果たして正しいのかよくわからない。

 

―――――――なら、今何を思ってるの?

 

愛おしい。私は、ただただあの子が……あの子を取り巻く世界と人々が愛おしい。

そのために使えるなら、生命だって惜しくないと思えるほどに。きっと、お母様もそうだったんでしょうね。

ほんのわずかな共に過ごした日々、だけどその日々はお母様たちと過ごした時間に負けず劣らず……ううん、圧倒的なま間での鮮やかさを持っていた。

だからはっきりと断言できる、私はあの子を……シロウを愛している。

 

―――――――それは、なぜ?

 

そんなの簡単よ。だって私は……

 

「お姉ちゃんだもん。弟を愛するのも、弟を守るのも、当たり前のことじゃない」

 

そう、それは当たり前のこと。長い間ずっとずっと知らなかった、いくつもの“当たり前”の一つ。

ああ、でも、やっぱり悔いや心残りはたくさんある。

 

「もっとシロウ達と一緒にいたかった、たくさん話したかった」

 

「お花見っていうの、一緒に行きたかったなぁ」

 

「キリツグのこと、もっと聞いておけばよかった」

 

「シロウとサクラの結婚式、出たかったなぁ」

 

「春の空、夏の海、秋の山……見たことのないもの、いっぱいあるんだよね」

 

「二人の子どもも見たかった、きっと可愛かっただろうなぁ」

 

「それに、叶うなら……」

 

お母様にシロウを会わせてあげたかったし、家族みんなでシロウのご飯を食べたかった。

 

ああ本当に、心残りばっかりだ。

 

だけど、それでも…………シロウはこれからも生きていく。サクラやリンと一緒に。

 

なら、それだけで……私は満足だ。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――本当に?

 

その一言を最後に、私の意識は今度こそ真っ白になった。

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *

 

 

 

「……」

 

硬い感触。柔らかなベッドからはかけ離れた、無機質な硬さ。

 

「…………」

 

湿気を含んだ土の香り。嗅ぎ慣れない、だけどどこか落ち着く畳の香りからは遠い匂い。

 

「………………」

 

肌を刺すような冷たさ。まるで何も身にまとっていないかのような、ダイレクトな冷気が体を包んでいる。

 

「……………………え?」

 

そこに来て、ようやく白い少女は重い瞼を開いた。

目を開けはしたものの、光源に乏しいせいで周囲の状況はよくわからない。

ただ、やけに広々とした空間に自身がいることだけはわかった。

 

少女は状況への理解が追い付かないまま、ゆっくりと体を起こす。

 

「どうして私、生きて……シロウ、シロウは!?」

 

ようやく頭がはっきりしてくると同時に、ただ一人の家族のことを思い出す。

しかし、いくら周囲を見渡せど、影も形も見つからない。

焦りはやる心を何とか落ち着け、彼女は冷静に状況を確認していく。

 

「……まずは、どうして私が生きているか、よね」

 

そう、彼女は確かに死んだ。正確には、肉体を最愛の弟のために譲り渡し、自身の命を以て大聖杯の門を閉じた……その筈だ。

にもかかわらず、今確かに彼女は失ったはずの肉体と命の息吹を得ている。

 

(まさか、第三魔法が失敗した?)

 

一瞬その可能性が頭をよぎり、体が内側から凍り付いたかのように凍えたが、すぐに否定する。

 

(ううん、今の状況と第三魔法の成否は関係ない。仮に、もし仮に失敗していたとしても、私が生きている理由にはならないもの)

 

彼女が命を失ったのは、正確には大聖杯と一体となることで内側から門を閉じたためだ。

第三魔法の成否にかかわらず、彼女は肉体を失う事になる。

それにより魂のない抜け殻となった身体を弟の暫定的な入れ物にするというのが、彼女が講じた弟を救うための方法だった。

つまり、第三魔法の成否以前の段階で彼女の死は確定している。

 

(それに……)

 

ようやく暗闇に慣れてきた目で周囲を見渡せば、案の定と言うべきか……見覚えのある風景が目に映る。

 

(やっぱり、ここは大空洞……だけど、どういう事? サクラとリンの戦いで、大空洞は崩落寸前だった。なのに今は、まるでそんな様子がない。それどころか、大聖杯も無事。これじゃ、何もかもなかったみたい……)

 

背後にそびえる巨大な構造物を見る限り、大聖杯は今も問題なく稼働している。

その中に巣食っているはずの存在に関しては、今のところなんとも言えない。

表面的には気配はないように思えるが、奥の方はどうだろう。

 

(大聖杯に触れればわかるでしょうけど、下手をすると今度は私が汚染されかねない。

 それに、今の状況もわからないことが多すぎる。まずは、一つずつ確認していくべきかしら。そのためにも、とりあえず外に出るべきよね)

 

一番手っ取り早い方法であると同時に、最もリスクの高い方法でもあるそれは、最終手段にすべきだ。

なにより、彼女にとっての最優先事項はそこではない。状況の把握など所詮は建前、まず何よりも優先すべきなのは……

 

(シロウは、無事かしら?)

 

命と引き換えにしてでも助けたかった、弟の安否。

状況を把握するために外に出るなど、結局はそのための口実に過ぎない。

もし、状況が彼女にとって最も望ましいものであるのなら、理由は定かではないがこれは好都合。

自身の選択に満足し誇らしく思ってはいても、心残りも悔いも山ほどあったのだ。

 

だが、何がどうなっているかはともかく、命があるのならそれらを拾い上げていくことができる。

疑問も大聖杯が稼働している事実も、その前では芥同然だ。

 

しかし、そんな彼女の期待は見事に……ある意味では当然のように裏切られた。

 

「はぁ、ホントどうなってるの?」

 

まだ気怠さの残る身体に鞭を打ち、なんとか大空洞から出て山を下り、道中で拾ったボロを纏って裸足のまま歩くことしばし。

ようやくたどり着いた衛宮邸は……荒れ果てていた、とまではいわないものの明らかに人の気配がなかった。

また、彼女の記憶が確かならばなかったはずの傷や汚れが散見されたし、あのシロウがそれらを放置していたとは考えにくい。

 

(まさか、あれから何十年も経っていて、もうだれも住んでないとか?)

 

ある意味、一番ありそうな可能性がそれだ。

というか、とりあえず思いつく可能性がそれしかない。

まぁ、全くよくはないし限りなく最悪に近いが、その場合でもできることがあるにはある。

 

「…………とりあえず、遠坂の屋敷を目指すべきでしょうね。血筋が途絶えたりでもしない限り、管理者が居を移すとは考えにくいし」

 

冬木の土地で二番目の霊格を有する遠坂邸から移転する可能性は、魔術師的に在り得ない。

あれからどれだけの時間が経っているかはわからないが、アインツベルンを名乗る者が現れれば遠坂としては無視できないはず。

頼れるかどうかはともかく、ある程度の情報を得ることはできるだろう。

 

(リンの子孫って考えれば、少し位は期待しても良さそうだけど……せめて、衣食住だけでもなんとかしたいわね)

 

なにしろ、今の彼女には生きていくために必要なものが全て不足している。

エネルギー源となる食料も、体を休められる寝床も、体を温める衣類も、何もかもがない。

今でこそボロを着ているが、それまでは一糸まとわぬ全裸だったのだ。

名門魔術師の令嬢でもあった彼女にとって、あらゆる意味で在り得ない。もちろん、今も大差はないが。

 

「本当は、ここに入れればいいんだけど……」

 

最後に、衛宮邸の重厚な門扉を寂しそうに見上げる。

彼女の身体能力では、壁をよじ登ることも難しい。また、弟の家に不法侵入するというのも情けなくて涙が出るのでしたくない。彼女にとっても、ここは家に等しい場所なのだ。

 

現実的な理由として、まだ結界の類が残っていないとも限らない。

変に怪しまれるようなことはすべきではないだろう。

 

「はぁ………痛っ!? もう! 小石踏んだ~!」

 

裸足で歩いていれば、そういう事もある。

できるだけ石やガラスなどを踏まないように気を遣っているが、なにぶん夜間なので完全にとはいかない。

恐らく、この先も似たようなことはあるだろう。ましてや、ここから遠坂邸まではかなりの距離がある。

そのことを考えれば、ますます憂鬱になるというものだ。

 

「うぅ~、お腹空いたし、寒いし、足は痛いし。もうどうなって……っ!」

 

たまりにたまった鬱憤を少しでも晴らそうと叫ぼうとした瞬間、彼女の感覚が微かな魔力を感知した。

 

(魔力? 夜とはいえこんな街中で?)

 

人通りもほとんどなく、月の位置から見て真夜中なのは間違いない。

しかし、だとしても碌に隠蔽もせずに魔力の気配を漏らすなど、いくらなんでもあり得ない。

魔力の量は微細だが、それでもだ。

 

「…………………………………………………………………………………………………少しだけなら」

 

大いに逡巡した末、彼女は魔力の発生源を確認することに決める。

碌に自衛手段もないまま乗り込むのは危険だが、それ以上に気にかかる。

 

魔術師としてはあり得ないほどに杜撰なこの状況。

誘いや罠の可能性もありはするが、そもそも管理者のいる霊地でそんな不躾な真似をするとは考えにくい。

かと言って、管理者が……それもあの遠坂がこんな杜撰なことをすることも、許すこともあり得ない。

直接間接を問わず管理者の関与はないだろうし、外部の者の仕業にしても稚拙すぎる。

だからこそ、今の状況を知る何らかのヒントになるかもしれない。そう考えたが故だ。

 

あるいは、彼女も焦っていたのかもしれない。

だからこそ、短慮であると思いながらも情報を得られる機会に飛びついたのだろう。

 

だがその決断は、結果的に彼女にとって最良のものとなる。

 

「これは……酷いわね」

 

魔力の気配を追って侵入したのは、何の変哲もない一軒家。

扉に鍵はかかっていたが、そんなもの彼女にとってはないも同然。

魔術で軽く解錠し、簡単な隠行の魔術で侵入を果たすことができた。

 

案の定と言うべきか、侵入されることは想定していないらしく、結界をはじめ諸々の備えはなし。

まぁ、そのおかげで楽々侵入できたのだが……内部は、惨状としか言いようがなかった。

 

恐らくはこの家の住人であろう中年夫婦とその親と思しき老婆、それに子どもが二人。

誰一人として生存者はおらず、全員がいっそ鮮やかな手際で殺されていた。

 

(魔力の元は……これね。でも、これって……)

 

死体に魔力の気配はなかったが、代わりに足元から微かな魔力を感じる。

薄暗いため見づらくはあるし、まだ不完全ではあるが……それは、彼女にとって無視できないものだった。

 

(サーヴァントの召喚陣、この人たちの血を使って書いているのね。

 でも、こんなやり方で陣を描くなんて、三流術者だってやらないわよ。それに……)

 

リビング中央の召喚陣とは別に、壁に掛けられたカレンダーには無視できない数字が書かれている。

もしそうだとすれば、あまりにも想定外だ。

 

だが、あまり状況を飲み込むための時間は与えられていないらしい。

廊下の方から水の流れる音がしたかと思えば、扉の開閉音と何者かの足音が聞こえてきた。

 

「いやぁ~、まいったまいった。俺としたことがこんな大事な時に催すとはねぇ。

 にしても、どうするかなぁ。思っていた以上に血が足らなくて結局全員殺っちゃったけど、せっかく悪魔呼んでも生贄の一つもないんじゃ悪いよなぁ」

「悪魔? ふぅ~ん、いったいどこで知ったのか知らないけど、随分半端な知識しか持っていないようね」

「ん? あれ、お嬢ちゃんどこに隠れてたの? っていうか、絶対ここの子じゃ……」

「生憎、あなたの質問に答える気はないわ。私の質問に、嘘偽りなく答えなさい」

 

外見相応、あるいはそれ以下の身体能力しか有さない彼女だが、それ以外の武器がある。

相手が弟にも劣るど素人となれば、暗示にかけることなど訳はない。

この場の下手人であろう男を即座に暗示にかけると、必要な情報を聞き出していく。

とはいえ、聞きたいことなど精々二つだけだったが。

 

―――――今の年月日は?

 

―――――いったい何をしようとしていたの?

 

ただ、それだけ。男の素性やその他諸々に興味はない。

本当に、自分にとって必要な情報だけを尋ね終えた彼女は、最後に命令を与えた。

 

「そう。じゃ、あとは誰かが起こすまで眠っていなさい。もちろん、目が覚めても逃げないこと」

 

その指示を聞き届けると、それまで虚ろな表情で答えていた男は倒れるように血溜りの中で眠りにつく。

これで、地震が起きようが嵐が来ようが起きることはない。

あとは、誰かが見つけて警察にでもしょっ引かれるだろう。

 

「ふぅん、令呪の兆しはもうあるのね。シロウは……まぁ、なんだかんだで選ばれるべくして選ばれたけど、これは人数合わせにもほどがあるわ。まぁ、せっかくだしそれは貰っておくけど」

 

男の手の甲に刻まれた痣が、少女の元にあっさりと移動する。

男から必要な情報を得たことで、少女はいま置かれている状況を把握することができた。

これから先、これは必ず必要になる。

 

「それにしても、まさかずっと先の未来じゃなくて十年前とはね。ホント、いったい何がどうなってるのよ」

 

理屈をはじめ何もかもが不明なままだが、今の状況だけは理解できた。

今は、彼女が生きていた時代から十年前。まだ彼女が両親と共に過ごしていたであろう時期。

いや、今はもう両親は帰らぬ戦いに出立した後か。

 

とはいえ、それなら衛宮邸の有様も納得がいく。

家事の達人である弟があの家に住むようになるのは、今より少し後の話。

それ以前がどうだったかは知らないが、あの様子からして空き家だったのだろう。

大聖杯のことも、それなら得心が良く。

 

(まぁ、遠坂の所に行く前でよかった。それに、いいこと思いついちゃった♪)

 

魔術師ですらない人数合わせの男から兆しの痣を奪うのと前後して浮かんだアイディア。

何の奇跡か偶然か、こういう状況になってしまったのなら……やってみるのもいいかもしれない。

 

(どうせいつまで動けるかわからない身体ですもの。なら、精々少しでも心残りを晴らしてみましょう。

 まずは、あの子と縁のあるものってなると……やっぱり“土蔵”かしら。なら一度引き返して、それからは相談して決めましょ。乗ってくれるといいんだけど……)

 

この先のことを考え微かに笑みを浮かべながら、それまでとは一転して軽い足取りで立ち去っていく。

 

「さぁ、せっかくの機会ですもの。最初で最後の反抗期、はじめちゃうから覚悟してよね、キリツグ」

 

 

 

※以下、セリフのみによるダイジェスト版、そして盛大なネタバレの嵐です。

 

「召喚に応じ参上した、君が私のマスター…か?」

「ええ、よろしくアーチャー」

「…………」

「あら、どうしたの? 見惚れちゃった? それとも、懐かしい?」

 

「いや、状況は理解した。色々と疑問点はあるが、君にもわからないことを聞いても仕方がないな」

「あ~、その他人行儀な感じヤだなぁ。別に、私のことは“お姉ちゃん”って呼んでくれていいのよ」

「外見から言えば、“妹”……いや、むしろ“娘”だろうに」

「あら、それを言うなら“誘拐犯”と“攫われた女の子”じゃないかしら」

(この上なく苦々しい表情だが、否定できないとも思っている)

 

「とりあえず、一つ訂正しておこう。というか、真っ先に気付くべきではないかね」

「? なにが?」

「私のクラスはアーチャーではない。キャスターだ」

「え? まぁ、弓兵よりも妥当と言えば妥当だけど……」

 

「それで、聖杯にかける望みでもあるのかね、君は」

「そんなものはないわ。というか、今の話を聞いてなんでそうなるのよ」

「確かに。最早私には思い起こすことができないが、そのような破綻した願望機に願ったところで結末はしているからな。だが、ならば君はなんのために聖杯戦争に参加する?」

「そうね~、強いて言えば前はできなかった反抗期をしようかと思って」

「反抗期?」

「ええ。シロウもせっかくだしどう? この際だから、思いっきりキリツグを振り回してあげようと思うんだけど」

「…………………………………………くっ、なるほど。それは確かに、君だけの特権だ」

「違うわ。私じゃなくて、“私たち”の特権よ。子どもが親に甘える、ごく当たり前のことでしょ?」

 

「あ~、あのバーサーカー、シロウとの相性最悪だわ。ちょっと勝ち目がないと思う」

「ほぅ、それは困ったな。それで、いったいどこのサーヴァントかはわかるかね?」

「なんか隠蔽能力みたいなのがあって、ステータスすらよく見えないのよね。

 でも、状況から考えて間桐のサーヴァントだと思う」

「なるほど、ならば好都合だ」

「そうね、敵としては相性最悪だけど、味方としての相性はむしろすごく良いし。

 サクラを助けるついでに、マスター権だけでも奪えるといいんだけど」

 

「ねぇシロウ」

「なにかね?」

「カリヤ、あのままでいいの? 勝てるとは到底思えないけど、万が一うまくいっても、父親殺したらむしろサクラ……はわからないけど、リンからは恨まれると思うんだけど」

「まぁ、少なくとも良い感情は向けられないだろうな」

「でも、カリヤはそれがリンやサクラのためになると思ってるのよね?」

「そうだな。おそらく、冷静な思考能力はもうないのだろう」

「元はサクラを助けるためにだったのに……」

「残念ではあるが、致し方あるまい。すでに説得が通じる状態ではない。事実を突きつけたところで、かえってコントロールできなくなるのが目に見えている。ならば、彼の最初の想いにできるだけ沿う形で誘導してやるべきだろう」

 

「いいの? セイバーに声をかけなくて」

「今の私と彼女の間柄ではな。何を言ったところで、敵の言葉を鵜呑みにするとも思えん。

 まぁ、今回は君の提案に乗ると決めたのだ。横道は極力控えるさ。それに……」

「それに?」

「今回ではないようだが、いずれ彼女が解き放たれるときは来る。

 その時に関わるのも、やはり私なのだろう」

「ふぅ~ん」

 

「さて、一つ取引といこう」

「取引ですか?」

「ああ。間桐は早晩潰える。そこで君のもう一人の娘、桜の身の振り方についてだ」

「でも、それは夫と……」

「確かに、遠坂時臣が遠坂の当主であるからにはそうするのが筋だろう。

 だが、今は聖杯戦争の真っ最中。終結後もあの男の命があるとは限らん以上、より生きている可能性の高い者と交渉すべきと判断した」

「っ! それは、あなたが夫を殺すという事ですか」

「特別狙っているというわけではないが……かといって、助ける義理もないのでね」

「それは……」

(実際問題として、あの様子だとうまく事を運ぶのは難しいのよね。リンには悪いけど、トキオミには死んでもらった方が都合が良いし)

(否定はしないが、君はリンも助けたかったのではないか?)

(ええ、そうよ。私が助けたいのはリンとサクラ、そしてシロウ。

 積極的に殺すつもりはないけど、サクラを助けるのに邪魔になるならそうするわ)

「桜が間桐に養子に出された理由は大凡察しがついている。彼女の才覚を思えば、養子に出すという選択そのものは理解できる。まぁ、相手のことをもう少し考慮すべきとは思うがね」

「なにを、言って……」

「とはいえ、先ほど言った通り間桐は長くない。ならば、代わりの養子先が必要だろう?

 そこで私は、衛宮切嗣を推す」

 

「衛宮の魔術は時間干渉。虚数属性の桜との相性も悪くはない。また、あの男は魔術師ではなく魔術使い。良くも悪くも魔術師としての拘りがない。身を守るために魔導の教えを必要とする桜には、むしろ好都合な相手だろうさ」

「……」

「無論、ただでとは言わん。これに応じてくれるのなら、君に……いや、遠坂にこれを譲ろう」

「これは、いったい……」

「真作ではなくて申し訳ないが、それでも性能的には申し分ないと自負している。凛なら、それがあれば階を掴むことができよう」

 

「あなた、は……」

「ふむ、目が覚めたかね。アイリスフィール・フォン・アインツベルン」

「サーヴァント、キャスター」

「ああ、お察しの通り。と言っても、未だ顔を見せていないサーヴァントは私一人なのだから、そう考えるのは当然だな」

「なぜ、私を……」

「むしろ当然だろう? 君は今回の儀式の賞品そのもの。手元に置いた方が有利なのは明白だ」

「っ!?」

「クッ、思いのほか素直な反応だが、そういうものは隠した方がいい。でないと、せっかくの隠蔽が意味をなさない」

「カマをかけたのね」

「いいや、この件に関して言えば既に知っていたことだ」

「それは、どういう……」

「ふむ、答えるのは吝かではないが、体調の方はどうだね? だいぶマシになっているはずなのだが……」

「え? ど、どうして……あなた、私に何を!」

「私は何もしていない。ただ、私のマスターが君の負荷の原因を取り除いた……いや、この場合は奪ったというのが正しいか。完成度で言えば、彼女は君を上回るからな」

 

「聖杯に興味がないといったな、キャスター」

「ああ、その通りだ」

「ならば……ならば私に渡せ! 私には聖杯が」

「必要か? だが、断る。私は聖杯に興味がない。しかし、誰かに渡すつもりもない。

 あれは、私の手で破壊する。もう二度と、こんな馬鹿な真似ができないよう完膚なきまでにな」

「なんだと!」

「あれは君が考えているようなものではない。いや、そもそも君に聖杯など本当に必要なのか?

 よく思い返せ、アルトリア・ペンドラゴン。君は本当は、何が欲しかった。何のために王になった」

「だまれ! 何も知らぬあなたに知った風な口をされる謂れはない!」

「そう、だな。最早君の事情を思い出せぬ私に、何を言う資格もない。ならば、腕づくで阻むのみだ!」

 

(バカな、バカなバカなバカなバカなバカなバカなバカなバカなバカなバカな!!

 なぜ、私の剣が防がれる。これではまるで、剣の間合いも、私の太刀筋も全て見切られているようではないか)

「君の疑問は正しい。確かに私は、君の間合いも太刀筋もよく知っている」

「なに! 私はあなたと合ったことなど……」

「ああ、ない。ただし、それはあくまでも“君”に限った話だがね」

(いったい、いったい彼は何を言っている。私は知らない、なのに彼は知っている。そんなことがあるわけが……)

「あるだろう、一つだけ。交わるはずのない線が交わる可能性が」

「っ! あなたは、まさか……」

「そういう事だ。君にとってはあずかり知らぬことだろうが、あえて言わせてもらおう。

 “久しぶりだ”な、セイバー!!」

 

「なかなかどうして、私も捨てたものではないだろう」

「…………ええ、見事でした。まさか、魔術師相手に……」

「だとすれば重畳。今思えば、私はずっと……君に届かせるために剣を振るい続けていたのかもしれないな」

「私の、ため……」

 

「どうかね、騎士王。まだ、聖杯を求めるか?」

「…………ええ、私はまだ引き下がるつもりはありません」

「やはり、そう何もかもうまくはいかないか。まぁ、イリヤの目的は概ね達せられたのだから、それで良しとしよう」

「ですがそれは、聖杯に願いを託すためではありません」

「?」

「あなたは私が間違っていると言った。私はそれを易々と受け入れるつもりはありませんが、あなたの言に耳を傾ける価値があることは認めます。故に……いつか示して見せなさい。私が納得のいく答えを」

「……なるほど、そのための聖杯か」

「ええ。聖杯を追い続ければ、いずれまたあなたと出会う日も来るでしょう。その時には、今度こそ」

「承知した。では、私も精々君に示すに足る答えを探すとしよう」




大空洞から出てきたイリヤのイメージは、一人並行世界に飛ばされた美遊が下地です。

タイトルが示す通り、イリヤとエミヤの二人による切嗣及び桜救済√。ただし、時臣は邪魔になりそうなので見捨てる方針。桜を助けるのと時臣の生存って、両立無理なじゃないかなぁと。

ちなみに、すべてうまくいくとイリヤと桜が義姉妹になり、凛の手元には例のあれがあるという結構ズルい状況に。当然、士郎は衛宮にはなっていません。慎二は……色々屈折しなくなるので少しはましになるんじゃないですかね。
エミヤの方の正体が切嗣やアイリに露見するかは未定。
というか、本当に色々細部は考えていないので、始まることは多分ないです。
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