やみなべのネタ倉庫   作:やみなべ

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半ばオリキャラに等しい我らが藤丸立香がリリカルな世界に……というネタです。
ついでに、もう一人半ば以上オリキャラに近い人もいます。

映画を見たら久々になのは熱が再燃したので書きなぐった次第。
全体通してダイジェスト版みたいな代物です。たぶん、ちゃんと書こうと思えば書けるんでしょうけどね……。

ちなみに、他にも案はいくつかあり…キャロのところにジークとジャンヌがひょっこり顔を出して保護者になるとか、UBW後な士郎がフェイトの父親代わりみたいな感じになると、そんなようなの。後者に関しては似たようなのを見た覚えがあるので、あえて書きませんでしたが。前者は書いてみても面白いかもしれませんね。エリオもジークに懐きそうですし。


〈リリカルなのは×FGO〉魔法少女リリカルなのは ~星見の夢現~

『胡蝶の夢』という言葉がある。

夢と現実とがはっきりと区別できないこと、またその区別を超越できないことのたとえとされ、中国の思想家『荘子』が、蝶となった夢を見、目覚めた後、自分が夢のなかで胡蝶になったのか、胡蝶がいま夢のなかで自分になっているのか、と疑ったと伝える『斉物論』の故事に由来する。

 

この言葉はある意味、藤丸立香という人間の在り様を的確に表現しているといえるだろう。

いつの頃からそうだったのかはわからない。何かきっかけがあったのか、あるいは初めからそうだったのか、もはや判然としない。ひとつ確かなのは、()には自分とは別の()の記憶が並列して存在しているということ。

どちらが夢で、どちらが現なのか、はっきりとしたことはわからない。荒唐無稽なあちらの()の方が夢であるようにも思えるし、その実()こそが()の見る夢なのかもしれない。

 

思春期の頃には割と真剣に悩んだりもした。なにしろ、こちらの()は男性なのに対し、あちらの()は女性なのだ。そりゃ色々悩む。色々が具体的に何かは聞かないでほしい、色々は色々だ、『色』だけに。

 

……いや、つまらないことを考えるのはよそう。

ただ、どうやら自分(藤丸立香)という人間は、あちら()こちらも()も夢というものに縁の深い人間らしい。なにしろ、あちらの()はこちらの()を認識することはないが、代わりに色々な夢の中に迷い込んでいた。

 

そう、当初は平凡な人生を送っていた()だったが、ある時気まぐれで受けた献血がきっかけでスカウトされ、あれよあれよという間に「フィニス・カルデア」なる場所に足を踏み入れることになった。

そこから先の人生は荒唐無稽にして波乱万丈、一時期は「あ、あっち()が夢だな」とも思ったものだが、夢というにはあまりにも生々しすぎた。なにしろ、あちら()が受けた傷と同じものがこちら()にもあったし、夢を見ている間はそれが夢とは思わず死に物狂いで駆け抜けた。あちらとこちらでは時間の流れが違うのか、一夜で数日が経過することもあれば、その逆もあった。まぁ、総合的にはあちらの方が進みが早いようで、気付くと数年の差が生じていたが……まぁ、この程度は些細なことだろう。

問題なのは、ダメ押しとばかりに()が身に着けた魔術と交わした縁が()にも繋がっていたこと。

どちらが夢にせよ、あれは決して蔑ろにしてはいけないものだと気づくのにそう時間はかからなかった。

 

だから、彼らと縁を結んだ身として、最低限の責務を果たさなければならない。

あちらで言うところの霊基グラフの代わりとでもいうように、全身に刻まれた彼らと繋がる“シルシ”。

当初、この身に刻まれた縁はわずかだったが、なんとなくどこにそれがあるかが分かった。高校生の長期休暇というのは、まぁそれなりに自由が利くものだ。両親が割と自由にやらせてくれる人だったおかげもあるが、とりあえずは日本全国津々浦々、わずかに感じる縁を辿って“シルシ”を集めて回った。あちらの()の旅に比べれば、マウンテンバイクに跨っての一人旅など何ほどのものでもない。まぁ、共に旅する相棒(後輩)がいないことには、一抹の寂しさを覚えたものだが。それでも高校を卒業するころにはあらかた集め終わったものの、どうやら全体の1/10にも届いていないらしい。

残るは海外。離れれば離れるほど距離感も方角も曖昧になるが、放置するわけにもいかない。旅先で偶にあったことだが、“シルシ”から力が流れ出し“シャドウ”のような状態になったこともあった。騒動になる前に回収できたのは、幸運以外の何物でもない。次もまた幸運が働くとは限らない以上、早急な回収が望ましいだろう。

 

幸い、大学に進学したことで行動の幅も広がる。おそらく、数年後にはパスポートは様々な国の判で埋め尽くされることになるだろう。

皆の力を借りられればいいのだが、あいにく俺の魔力量ではサーヴァントの召喚は一騎が精一杯。二騎目を維持する余裕もないし、それどころか長期的に一騎を維持することすら難しい。ましてや、宝具の発動など論外だ。カルデアのような魔力供給システムを確立できれば解決できる問題だが、一学生の個人資産で作れるようなものではないし、そのための知識も技術もない。作れる仲間に心当たりはあるが……

 

「いや、その程度のことのために呼びつけるわけにはいかないよな」

 

いつだって結論はここに行きつく。みんなと会えないことに寂しさを覚えたことは一度や二度ではない。でも、“シルシ”の回収は基本的に一人でできるし、必ずしも皆の力が必要なわけではない。そもそも、皆が力を貸してくれたのは「人理の危機」があったからこそだ。そういった緊急事態でもないのに彼らの力を借りるのは、きっと違う。安易に彼らの力に頼り、縋ってはいけない。それはきっと、みんなとの縁、彼らの信頼への裏切りに他ならない。

できることはできる範囲で努力し、できないこともできる範囲に収めるべく最善を尽くす。そのうえで、どうしても足りない部分を補わなければならない、そんな時にほんの少しだけ力を借りる。たぶん、それが正しいのだ。

 

そもそも、何のために自分にはあちらの記憶があるのだろう、彼らとの絆が残されているのだろう。

そこに意味があるのか、実は意味などないのか。

彼らとの交流の中で鍛え上げられた対人スキルのおかげで、幸い色々なところに顔が利く。こちらにも多少の不可思議なことはあるようだが、彼らの力を必要とするほどではない。

この世界で生きていくには、あまりにも過ぎた力と繋がった自分。いったいどうすればいいのか、自問自答の日々は続くが答えは出ない。

 

いや、実を言えば少しだけ不安なのだろう。

()は本当はみんなと縁を紡いだ()ではなく、みんなと共に旅をしたマスターではないのではないか、と。彼らを召喚すれば、それが明らかになる。それが……怖い。自分はみんなのことを知っているのに、「お前は誰だ」と問われることが恐ろしい。

 

「まぁ、それでもやらないわけにはいかないんだけどさ」

 

とにもかくにもシルシの回収は必須だ。力の流出はそうあることではないので、のんびり気長にやればいい。人一人にできることなどたかが知れているし、できる範囲で頑張るしかないのだから。

さしあたっては、ゴールデンウィーク中にでもまずは大陸に渡るべく準備を進めるべきか。パスポートは手配済みだし、旅券も問題なし。あちらとこちら、その双方で旅慣れてはいるつもりだが……準備に手を抜くべきではないだろう。

 

不測の事態はいつ何時でも起こりうる。

そうちょうど、今まさに目の前でオレンジ色の毛並みの狼(っぽい生き物)が同年代のグラマラスな美女に変身したように。

 

(バイト帰りに、近道しようとしたのがまずかったかなぁ……)

「……」

「…………」

「……見たね」

「……いえ、拙者何も見ていないでござるよ」

「……ああ、そうかい。そいつは悪かったね」

「いえいえ……」

「ところで、狼ってこの辺りじゃやっぱり目立つかねぇ?」

「犬で誤魔化せないこともないと思うけど、あのサイズだとどうしても……あっ!?」

「やっぱり見てんじゃないか―――――――――――っ!!!」

「しまった―――――――――っ!?」

 

ふじまるりつかはにげだした。しかしまわりこまれてしまった。

 

そのままビル脇の路地裏に引きずり込まれる立香。遮音の結界でも貼ってあるのか、いくら夜間とはいえこれだけ叫び合っていても誰ものぞきに来ない。それが誰にとっての幸で、誰にとっての不幸かは定かではないが。

とりあえず、割と「見ちゃいけないものを見た」らしく、訳も分からないままひときわ高いマンションの一室に連行される。

そこで待っていたのは、古今東西の美男美女を見慣れた立香をして「将来的には美の女神もかくや」と思わせる、長い金髪をツインテールにした黒衣の少女。

 

「アルフ? どうしたの、その人」

「ごめん、フェイト! 実は……」

 

両手を合わせて勢い良く頭を下げ、かいつまんで何があったかを説明するアルフ。よく見ると、いつの間にか頭の横に犬耳と腰の後ろに尻尾が生えている。

なんとなく蚊帳の外というか口を挟み辛いというか、手持無沙汰な立香は何とはなしにマンションの一室に視線を巡らせる。広々としており家賃は相応に高そうだが、あまり生活感は感じられない。人が暮らしていれば相応に染みつく、それぞれの「匂い」がまるでないのだ。

 

(仮宿ってところかな? それにあの子たち……退魔士や妖怪の類がいるのは聞いたことがあるけど、そのどれとも違う。魔力っぽい感触はあるけど、なんか違うんだよなぁ)

 

あちらの自分が収めた技術や知識については、こちらの立香も無駄にはできないと一応修練は積んでいる。まぁ、元の才能がお察しなので、大したことはできないが。

それでもある程度魔力を感知する感覚はあるのだが、いかんせん目の前の少女たちから感じる力の感触はいまいち判然としない。魔力っぽいものがあるような気はするのだが、いまいち図り切れない。まるで度のあっていない眼鏡越しに対象を見ているような感じだ。

それはあちらにとっても同じなのか、微妙に警戒心をはらんだ視線が向けられている。魔力を帯びていることに気付いたのなら相応の警戒をするはずだし、逆ならこのようなどちらともつかない視線を向けないはず。彼女たちとしても、立香のことを扱いかねているのだろう。

なんてことを考察していると、フェイトと呼ばれた黒衣の少女が歩み寄ってくる。

 

「あの、ごめんなさい。アルフのこと、見ちゃったん…ですよね?」

「うん、まぁ」

 

もう誤魔化しても仕方がないので、素直に答える。内心では、少しばかり身構えながら。いったい何が語られ、何を聞かれるか。その場合、どこまで話せばいいか慎重に思考を巡らせていた立香だったが、フェイトの口から出たのは予想外の言葉だった。

 

「あなたには、しばらくここにいてもらいます。できるだけ早く自由になれるよう頑張りますから、少しだけ我慢してもらえませんか?」

 

俯きながら、心底申し訳なさそうにか細い声で紡がれる言葉。何も聞かない代わりに、何も教えない。つまり、一切合切関わらせるつもりがないのだろう。その上で、秘密を知られてしまったから事が済むまで拘束する。そういう方針ということか。

もしここで開放すれば、余計な情報の流出が発生し何らかの不都合が発生するかもしれない。少なくとも、彼女がしようとしている何かにはそれが起こりうるということだ。何も聞かず語らないのは、巻き込みたくないからだろう。

気持ちは、わからないでもない。同時に、優しい子なのだろうとも思う。拘束云々は彼女の都合だが、聞かず教えずの姿勢は立香への配慮が見て取れる。だが、こんな小さな子がこうまで背負い込むのは何とも痛々しい。せめて少しくらいは……と思ったのだが。

 

「あー、それは……」

「本当に、ごめんなさい」

(やれやれ、これはまた……)

 

随分と意志が固い…いや、これは頑固や意固地に近いかもしれない。それなりに対人関係においては質・量ともにこなしている立香だが、話を聞く気がない者が相手ではできることは限られる。

少なくとも、フェイトの心の扉を開くには相応の時間を要するだろう。

そして、今の彼に彼女の要求を突っぱねる手段はないに等しい。なにしろ、もてる技術と力を総動員してもアルフから逃れられる自信が全くない。なら、答えは一つだ。

 

「はぁ……わかった。とりあえず、ここから出なければいいんだね?」

「はい。この部屋の中なら、自由にしてもらっていいので」

「OK。ただ、大学の友人とバイト先には電話させてくれないかな。無断欠席と欠勤はさすがに不味いからさ。もちろん、余計なことを言わないかの確認がてら傍についていてもらって構わないから」

「不自由させるあんたには悪いけど、もしもなにかやろうってんなら……」

「アルフ、ダメだよ! ごめんなさい。そういうことでしたら大丈夫ですから」

 

そうしてフェイトの許可を得たところで、立香はバイト先にはしばらく欠勤することを伝え、大学の友人にも代返を頼む。幸い顔が広いこともあって、どちらも快諾をもらえた。まぁ、大学入学後まもなくしばらく欠席になるとは思いもしなかったし、まさか「年下の女の子に拉致監禁」される羽目になるとはもっと思わなかっただろうが。

 

 

 

こうして立香とフェイト、そしてアルフとの奇妙な共同生活が始まった。

二人は昼夜を問わず度々外出し、部屋には鍵以外にも何らかのロックがかけられることに。立香では詳細はわからなかったが、テレビは見られるし二人が雑誌や新聞を差し入れたりしてくれるので、「監禁」という字面ほど不自由には感じなかった。

 

むしろ、問題なのは食事面。何をしているかは知らないが、忙しいのはわかるとはいえ、レトルトやコンビニ弁当の類で済ませるのは如何なものか。

大学進学を機に一人暮らしを始めた立香だが、一応は自炊する方向で生活を組み立てている。この辺り、あちら側の自分と契約した某オカンの影響だろう。腕前は「男料理」の域を出ないが、さすがに小さい女の子の不摂生は見逃せない。というか、どう見たって顔色が悪いフェイトを放っておくなどできるはずもない。

まずはアルフに食材を買ってこさせ、消化に良い粥や野菜スープで胃を鳴らすことから始めることに。気付くとどこぞのメシ使いよろしく、すっかり家事全般を請け負うようになっていた。

まぁ、アルフがドッグフードをスナック菓子感覚でバリボリ食べていたのには若干引いていたようだが。ただ、そのアルフからは……

 

「あんた、自分の置かれてる状況理解してんのかい?」

 

と苦言を呈されることに。もちろん立香とて自分が監禁されていることはちゃんと理解している。ただ、その程度で物怖じするような神経はとうの昔に放り捨てているだけだ。

そんな日々が続くうち、やがてフェイトが怪我をして帰ってくることが増えた。ある時は手を、またある時は肩を、酷い時には全身を鞭で打たれたような姿で。その度にアルフとともに手当てをしてきたが、ついに今日アルフは返ってこなかった。

誰よりもフェイトを案じていた彼女がフェイトの傍にいない。その異常性を立香はよく理解していた。

 

「フェイト」

「なにも、聞かないで」

 

フェイトは頑なだった。何度か立香も対話を試みたものの、何も語ろうとはしない。普通に話はできるようになったし、食事をはじめとした家事のことで感謝もされている。そういったことについては、恥ずかしがったり控えめながらに自分の思いをちゃんと口にしてくれる子だ。きっと、しっかりとした大人に厳しくも優しく育てられたのだろう。

ただ、外で一体何をしているかや彼女の関係者にまつわる話になると固く口を閉ざす。そこに、彼女なりの配慮が多分に含まれていることはわかる。立香を巻き込まない、その一点においてフェイトは大変頑固だった。

いっそ空気を読まずに踏み込むべきかと思ったことは一度や二度ではない。だがきっと、それをすればフェイトはもっと頑なになるだろうことは容易に予想できた。

 

ただでさえ、最近の彼女は悲壮感すら漂っている。これ以上追い詰めるようなことはしたくない。むしろ、少しでも心身を安らげられる場所を提供すべきではないか。そう思った立香は、あえて踏み込むことをしなかった。

代わりに、彼が選択したのは……

 

「ぁっ……あの!」

「何も言わなくていいから。今はゆっくり眠るといい」

「……………………………………………はい」

 

フェイトをベッドに横にならせ、その頭をやさしくなでる。

 

(子守歌の一つでも歌ってあげられれば、いいんだけどな)

 

歌とかハロウィンとかには、あちら側の影響で若干トラウマがある。夢にトラウマを植え付けられるとは、何たる理不尽か。おかげで、懸命に頑張っている子どもに子守歌すら歌ってやれないのだから。

だから、立香はせめて精一杯の思いやりを込めて絹の如き金の髪に触れる。この健気で優しい子が、少しでも張り詰めた心を緩められるように。

 

「フェイトは、偉いね。その年でこんなにも頑張って……君は、本当に立派だ」

「私は、そんなんじゃ……」

「それは、君がよくないことをしているから?」

「っ!? それ、は……」

「答えなくていい。ただ、君の様子を見ればなんとなくわかる。正しいと思えることをしているなら、君はもっと誇らしく胸を張っているはずだ。そうじゃないってことは……そういうことなんだろうって、俺が勝手に思ってるだけ」

 

実を言えば、フェイトたちが何をやっているかはすでにある程度つかんでいる。稀釈した自分の血を使って描いた召喚陣。散々悩みはしたが、どうしてもフェイトを放ってはおけずサーヴァントの召喚に踏み切った。喚んだのは、諜報においては無類の力を発揮する「百貌のハサン」。正直、どうなるか不安だったのだが……

 

「アサシン、ハサン・サッバーハ。召喚に応じ参上した、汝が我らを招きしマスターか」

(ああ、やっぱり……)

 

その声を聴いて思ったのは「やはり」という諦観だった。

結局、彼らと縁を繋いだのは()ではなく、あちらの()だったのだろう、と。

だがそんな思いは、堪え切れぬとばかりにあふれた笑い声によってかき消された。

 

「く、ククククク! ハハハハハハ!! なんという顔をしているマスター! ああまったく、雨に打たれる捨て犬のような顔をなさるとは……我らに他人行儀にされるのがそれほど寂しいので?」

「百…貌?」

「安心召されよ、我らが主よ。たとえ世界が違おうと、姿かたちが変わろうと、あなたが我らがマスターであることに変わりはありませぬ」

「………………………………………………………泣くよ、割とマジで」

 

こうして召喚した百貌の一人をフェイトに着け、残りで街を探査。結果、途中参加ということもありことの仔細まではわからないし、フェイトたちが転移したりした場合には同道できないので肝心かなめの部分はよくわかっていないが、ある程度の情報はつかむことができた。

まぁ、それ以前のフェイトの様子から得た印象だけでも、今話している程度のことは察せられていたのだが。

ちなみに、召喚陣については百貌たちに協力してもらって完璧に始末したことで、フェイトたちには怪しまれていないらしい。

 

「たとえ君のしていることが正しくないとしても、それでも君が誰よりも頑張っていることは本当だ。それは、事の善悪とは別の問題だよ。一生懸命頑張っている、その事実はちゃんと評価されるべきことだ」

「……」

「だから、君はとても立派だと思う。誰かのためにそんなにも頑張れる君は、いつかきっと……みんなに愛される女性(ヒト)になれるはずだ」

「愛…して、もらえるのかな?」

 

顔を枕に埋めたまま、か細い…涙声が漏れてくる。

 

「うん、きっと……」

「私、頑張ってるよね?」

「ああ。ちょっと頑張りすぎなくらいに」

「頑張ったんだ、母さんに喜んでほしくて。頑張って、頑張って……でも、なんでこんなに辛いのかなぁ? 私はただ、母さんに笑ってほしいだけなのに……」

 

それは、初めてフェイトが零した自身にまつわる話であり、心からの慟哭だった。

甘えることをせず、弱音を吐くことなく、痛ましいほどに強くあろうとした彼女が見せた弱さ。

そこから先は、もう言葉にはならなかった。縋りつき、ただひたすらに泣きじゃくるフェイトを、立香はただ黙って受け入れる。

ある程度状況を理解しているとはいえ、彼女の家庭環境については無知に等しい。何も知らない者が、賢しげに語っていいことではない。

 

一体どれほどそうしていただろう。ようやく泣き止んだフェイトだが、まだ嗚咽を漏らしている。

そんな彼女に向けて、立香は心に深く刻まれた言葉を贈る。今すぐでなくてもいい。いつか彼の言葉が、この優しい少女の救いになればいいと願って。

 

「ある人が言っていた。命とは終わるもの。生命とは苦しみを積み上げる巡礼だ、って」

「……じゃあ、私たちは生きている間ずっと、苦しまなくちゃいけないの?」

「いいや、それは違う。確かにあらゆるものは永遠ではないし、最後には苦しみが待っているのかもしれない。

でもそれは、断じて絶望なんかじゃない。限られた生をもって死と断絶に立ち向かうもの。終わりを知りながら、別れと出会いを繰り返すもの」

 

そう、それは決して苦しいだけの道ではない。生きるということは誰かと出会うということ。出会いとは、魂の欠片の交換だ。受け取った欠片は自分自身と混ざり合い、次の誰かに新たな欠片となって引き継がれる。

そうして人はどこまでも遠く、どこまでも広く繋がっていく。たとえ生命が終わったとしても、自分という存在は終わらない。それが人間という種の輝きであり、それこそが歓びなのだ。

 

「……輝かしい、星の瞬きのような刹那の旅路。これを、愛と希望の物語と云うんだよ」

「よく、わからないよ……」

「大丈夫、いつかきっとわかる日が来る。たくさんの人と出会って、別れて……そうしていつか気付く。君の人生は、ただ目が覚めているだけで―――――――――」

 

そうして、最後の夜が更けていく。

翌朝、決意を秘めた表情でフェイトは立香に別れを切り出した。「たくさん迷惑をかけてごめんなさい」「いっぱい優しくしてくれてありがとう」「何も返せなくて……」そこまで言ったところで、立香はフェイトの頭を優しく撫でて言葉を止めた。

 

「フェイト。いいかい、覚えておくといい。こういう時はね、『またね』っていうんだよ」

「でも、私はもう……!」

「縁は異なもの。どこでどう絡み、結び、繋がるかわからない。一度はキレた縁が、思いもかけない所でひょっこり顔を出したりするものさ。俺も君も、まだまだ人生は長い。だから、何かの拍子でまた会うことがあるかもしれない。だからここは、『またね』が正しいんだよ」

 

そうして二人は別れた。この時のフェイトにとっては今生の、立香にとっては一時の別れ。

なんとなくだが、彼女とはまた会う気がしていたから。

 

同時に、フェイトの様子から終わりが近いことは予想できた。きっと舞台は、ここ(地球)ではないどこか。

英霊とは人類の超越者ともいうべき超人たちだが、それでもフェイトたちの足跡を追えるものは限られる。

ずっと蚊帳の外ではあったが、立香はせめてあの優しい女の子の顛末を見届けたかった。

だから、喚ぶ。ぶっちゃけ、すっごく気は乗らないのだが……いま回収しているシルシの中で、それができるものはあのロクデナシしかいないから。

 

「あ~、すっごくヤダ。フェイトはあんなにいい子なのに、なんでよりにもよってあんなのを……」

 

口ではブーブー文句を言いつつ、久しぶりに戻った自室で召喚陣を組み上げる。すでに百貌は一度退去させている。魔力の余裕はあまりないが、どうせこれでケリがつく。ならば、多少の無茶は許容範囲だ。

で、召喚は成功し、狙った相手はちゃんと来てくれたのだが。

 

「やぁ、久しぶりだねマスター君。事情は大体承知しているよ、ほら私『千里眼』持ちだからね。いやぁ、あんな女の子を弄れるなんて、すごく……」

「余計なことはしないこと。あくまでも目的は見届けることであって、茶々は入れない。本当に、どうしても必要な時以外は口も手も出さない。オーケー?」

「え~、それじゃつまらな……」

「ん?」

「はいはい、お望みのままに。まったく、君がそこまで気に掛けるとは……まぁ、いずれの楽しみにとっておこう」

 

そうして、自力で獲得した「単独顕現」を用いて立香の縁を辿り消える花の魔術師(最高峰のロクデナシ)

改めて、あんなのにフェイトを任せなければならない現状に頭を抱える立香だった。

 

「っとと……あ、これはちょっとやばいかも……」

 

さすがに、この短期間でサーヴァントを連続して二騎も召喚するのは堪えたようだ。

パラケルススから学んだ秘薬を一息に煽り、早々にベッドの中へ。フェイトのことを心配していないわけではない。むしろ、花の魔術師は夢魔との混血だ。夢を通じて彼が見ているものを見られるように手配済み。

 

そこで立香は、一人の母親の大きく純粋であるが故に踏み外してしまった愛を垣間見る。

それは悲しくも、何よりも美しい娘への愛だった。だからこそ、花の魔術師に頼んだ。虚数空間という魔法の使えない領域に落ちる彼女の夢と繋げることを。花の魔術師の夢に関する能力は、術というよりも夢魔としての生態に近い。どうやら魔術も成立しない空間のようだが、それでも関係はない。

そこで預かったのは、遅すぎたかもしれないが大切なことを思い出した彼女から託された遺言。いずれ機を見て伝えることを約束した彼女の顔は、本来の穏やかな為人がうかがえる、フェイトによく似たものだった。

 

 

 

  *  *  *  *  *

 

 

 

ところで、話は全然変わるのだが、立香にはここ「海鳴市」で大変気になる人物が一人いる。

とても良く見知った風貌で、名前にも憶えがあった。まぁ、風貌の持ち主と名前の持ち主はそれぞれ別の人物なのだが。とはいえ、彼の知る人物たちとは微妙に違う。

まず年齢、立香の知る彼と似た人物たちは十代後半か二十代後半の容貌だ。だが、彼は高く見積もっても十代半ば。見かける時は買い物袋を提げているか、フェイトと同年代と思しき少女の乗った車いすを押していることが多い。まぁ、その辺はなんだかとても「らしい」としか言えないが。

 

(まぁ、俺っていう例もあるし、あっちも記憶が同期しているかはさておき、並行世界的なアレなのかな?)

 

なにやら、並行世界の同一人物がうんぬんかんぬんという話を某聖杯の少女に聞いたことがあるような、ないような。まぁ、穏やかに暮らしているようなので変な茶々を入れることはすまい。

縁があれば、そのうちちゃんと出会うときが来るだろう……と思っていたのだが、フェイトとの別れから数ヶ月後、何とも奇妙というか、なんというか……。

件の車いすの少女の他に、妙齢の美女二名と幼女一名にアルフ並みにデカい犬(狼?)を連れた一行の一員として歩いているではないか。『可愛い子なら誰でも好きだよ、オレは』とか言っちゃう色黒のほうを思い出し、もしかしてそういうあれなのか、と思ったとしても許されるだろう。

まぁ、実際にはステディというよりもファミリーだったわけだが。

 

あと気になることがあるとすれば、百貌たちをフェイトにつけていた時、彼女と何かとぶつかり合っていた白い女の子のことか。白状すると、割とあれにはびっくりした。

何しろ、高校時代の同級生の妹ではないか。今も同じ海鳴大学に通っており、特別親しくはないが知らない仲ではない程度の間柄。そんな相手の妹が、やけにメカメカした杖を握って、光弾をぶっぱしているのだ。驚くなという方が無理な話だろう。

フェイトとの一件が終結した後も、早朝などに訓練をしているようで……割と気が気でなかった。

 

まぁ、一応隠す努力はしているようなので、立香も基本的には知らぬふりをしているが。

なにしろ、立香としても彼女たちとどうかかわればいいか、そもそもかかわるべきか自体が判断できない。

百貌たちに集めてもらった情報はどうしても断片的で、事件の全容と関連した人や組織については判然としないことも多い。花の魔術師は残された魔力量の関係で、フェイトの母親との対面を終えた段階でやむなく退去せざるを得なかった。

再度召喚できるようになる頃には、すでにこの町に彼らの影も形もなかった。あとは花の魔術師に縁を辿ってもらうか、白い少女…高町なのはから情報を得るか、だ。ただ、どちらも気が乗らない。花の魔術師は何をしでかすかわからない不安があるし、なのはにあまり無体なことはしたくない。どうやら彼女が、フェイトを救ってくれたようだから。

なので、立香はあえて更なる情報収集はせず、偶に陰からなのはを見守るにとどめている。もしも彼女が下手をうち、その力が露見しそうになるならフォローできるように。

 

あとは、また春先のようなことがあっても対処できるように、魔力供給システムの確立に向けて動き出したくらいか。とはいえそちらの場合、資金繰りの問題もあって即座にどうこうというものではないが。

それが結果的に、次なる事件でも蚊帳の外でいざるを得ないことになる。

 

 

 

ことが発覚したのは12月に入ってから。

魔力供給システム確立のために召喚したサーヴァント(省エネ(リリィ)Ver)が設置した、簡易センサーが反応を示した時だった。

急ぎ現場に駆け付けた時にはすでにことが終わった後。何が起こったかわからず、何かが起こっていることしかわからない状況にやきもきしていた時、立香は懐かしい顔と再会した。春に出会った、優しくも繊細な金色に。

 

「えっと…その……」

「ほら、言ったとおりだ」

 

いざとなるとなんと声をかけていいかわからず、しどろもどろになるフェイトに立香は「してやったり」といった顔を向ける。

変わらぬ微笑みに安堵を覚えたのは彼女だけの秘密。色々と迷惑をかけた自覚があるだけに、再会した時にどんな反応が返ってくるか不安だったのだが……それは杞憂だった。

あの時と変わらず、この青年はあるがままの自分を受け入れてくれる。それが、初めての友達との再会と同じくらいにうれしかったのだ。

 

「スゥー、ハァー…………………………“はじめまして”フェイト・テスタロッサです」

 

それは、出会いのやり直し。あの時は結局、一度もちゃんと名前を名乗ることがなかった。だから、再会できた時には最初からすべてをやり直そうと決めていた。

何も聞かずただ静かに傍らにい続けてくれた、きっと何か大切なことを教えてくれた人と、今度こそちゃんと向き合えるように。

そんなフェイトの思いを、立香は確かにくみ取った。だからこそ、彼もまた答えるのだ。彼女と同じように……

 

「“はじめまして”藤丸立香です」

「私と、友達になってくれますか?」

「もちろん、喜んで」

 

後に知ったことだが、フェイトは立香と再会することを望みながら、保護者であるリンディたちの「居場所を探そうか?」という申し出を断っていたらしい。かつて別れ際に立香が言った、「縁があれば何かの拍子でまた会う」という言葉を信じて、その時が来るのを待っていたのだ。

ただ、事はそれでは終わらず、立香が一人暮らしをしていることを漏らしたことがきっかけとなり、「男の子の一人暮らしは栄養が偏りがちだから」というリンディの気配り(誰に対してかは不明)から、おかずの差し入れと称してフェイトは足繁く立香の元を通うように。立香も家事はそれなりにこなす方だが、どこぞのオカンには及ばない。いつの間にか掃除・洗濯を手伝うようになり、誰が言ったか「通い幼な妻」状態に。

フェイトは善意100%なので断りづらいのだが、実を言うと世間体なんかがちょっと気になる立香であった。実際、一度ならず職質されたこともあったわけで……妙な顔の広さもあって事なきを得たが、あれには本当に困った。

 

閑話休題。

何かが起こっていることはわかっていながらも、魔力的な余裕のなさもあって蚊帳の外のままいつの間にか事態は進展。

結局、全てが終わる聖夜の夜になってようやく事件の現場に踏み込むことができた。とはいえ、センサーからの信号を受けて途中から覗き見していた立香には、やはり事態の全容は知れなかったが。それでも、わかったことがいくつか。

全身を鎖や光の輪でがんじがらめになった銀髪の女性と、フェイトとなのはが背に庇った少女…「八神はやて」は深く結びついた存在であること。本来なら彼女が負うはずの役目を、はやてにとって兄にも等しい人物が身代わりになったこと。そして、はやての未来のために「ろすとろぎあ」なるものを使い、銀髪の女性もろとも虚数空間の彼方に消えようとしていること。

ああ、あと「あんのバカ兄―――――――――っ!!」とはやてが激怒し、「1発どつかな気が済まん!」と息巻いていたことか。

 

残る情報は断片的で判然としない。フェイトとなのははどこかの誰かと通信していたようだが、それは傍受できなかった。

ただ、はやてと銀髪の女性が切り離されている状況は好都合らしく、うまくやれば最善の結果も望めるらしい。そのためにははやてが何らかの干渉をしなければならないらしいが、そのままだと弾かれてしまうので、女性に負荷をかけて隙を作る必要があるとの結論に至り、それはもう派手なドンパチが繰り広げられた。

サーヴァントの中には天変地異レベルの出力を誇る者もいるが、規模だけなら引けを取っていないから驚きだ。途中が、外部からの攻撃だけでは足りないということで、フェイトがわざと本のようなものに取り込まれたりしたときには立香も本気で焦った。よくはわからないが、現状回収しているシルシの中で最大火力を誇る「施しの聖者」を召喚してしまうくらいに。

結局フェイトは自力で脱出し、よくはわからないがことはうまく進んで知り合いによく似た少年も無事救出。以前はやてや少年と一緒にいた面々がサーヴァントのように出現したりと、立香をして理解に苦労する場面が出るわ出るわ。

とりあえず、海上に出現したなんか黒いのを倒す必要があるということで、自分の名前は秘密にしてもらったうえでせっかく召喚した「施しの聖者」を派遣。黒いのから出てきたキモいのがぶっぱしたビームを受けてちょっと傷を負っただけで済んだ彼に周囲が驚愕したり、防御を抜こうとしたら「対神宝具」の一撃で勢い余って半身蒸発させたのにもっと唖然としたり、な~んてこともあったようだが無事に事態は収束。

 

ただ、立香としてはむしろこれからが本番だった。

退去する寸前、「施しの聖者」がそれはもう不穏なことを言い残してくれたのだ。

 

「退去の前に、少しいいかマスター」

「え~…な~に~、俺いま割と魔力底つきそうでやばいんだけど……」

 

フェイトたちにとってどうかは知らないが、立香たち魔術師にとって魔力はほぼ生命力とイコールだ。当然、消費しすぎれば割と命が大ピンチ。今はバックアップもろくに受けられない状態だというのに、A級サーヴァントの最強宝具をぶっぱしたのだ。むしろ、よく生きているものである。実際、彼は自室のベッドで息も絶え絶えだ。多分、彼が微妙に加減してくれたのだろう。加減してあれというのが恐ろしい限りだが。

とはいえ、あの「施しの聖者」がわざわざ何か言いに来たのだ、ちゃんと耳を貸さなければならない。

 

「うむ。リインフォースといったか、あれには先がない。因果・宿業に囚われ、その呪いはいずれあの小さき王にも及ぶだろう。それを断つために、あれは自ら消えることを選ぶ」

「なにそれ……」

 

それでは事態は何も解決していないではないか。フェイトやなのは、それにはやても死に物狂いで頑張った。きっと、彼女たちの後ろでは数えきれないほどの人々の尽力があったはずだ。だというのに、その結末はあまりにもあんまりだ。

救えないものはある。犠牲無くして守れないもの、進めないときはあるだろう。そんなこと、反吐が出るほどよく知っている。あちらがの()が嫌というほど体験したことだ。

仲間を失い、友を失い、何の罪もない全ての生物、その世界(歴史)をも消滅させて進んできた。だから、今更きれいごとを言う資格はないのだろう。だがそれでも、そんな結末をただ黙って受け入れることなんて、できるわけがない。

 

(どうする、どうすればいい……誰ならなんとかできる!)

 

今にも断線しそうな意識をつなぎ留め、死に物狂いで思考を巡らせる。「施しの聖者」の姿はすでにない。どうせなら答えくらい教えていってほしいところだが、彼が一言足りないのはいつものことだ。

 

(でも、みんな(サーヴァント)にアレが何とかできるのか? 見た感じ、魔術っていうより科学・機械方面って感じだし……だったらエジソンかテスラ? それともバベッジ……はシルシがない! っていうか、エネルギーの系統違い過ぎて二人も無理かな。なら、ダ・ヴィンチちゃんに解析してもらう……ってあの口ぶりだとその時間すらないっぽいし………………あーもー!! こんなとき式がいればなぁ!! 因果だの宿業だの、そんな面倒なの全部まとめて“殺せる”のに……待てよ。因果に宿業? それって確か……)

 

思い浮かんだのは、立香が契約したサーヴァントのうちの一騎がかつて口にしていたこと。

そう、初めて会ったとき彼は言っていた「オレが求めたものは怨恨の清算――縁を切り、定めを切り、業を切る名刀だ」と。そしてこうも言っていた、「即ち。宿業からの解放なり」と。

 

(っ! どうだろう、いけるかな? 多少強引でも理屈が通れば押し通せるのがこっちの強みだし、たぶん行ける。問題なのは残りの魔力。はっきり言って、今の俺は残りカスも同然だ。薬を飲んで、全身からかき集めても多分喚ぶので精一杯。となると、とてもじゃないけど宝具までは回らない)

 

彼は幻霊が依り代の力を借りることで足りない霊基を補った「疑似サーヴァント」。霊格に関しては最底辺、故に消費する魔力量も決して多くはない。だが、宝具を使うとなればさすがに相応の魔力がいるだろう。今の立香では、とてもではないが捻出できない。

こんなことなら、魔力供給システムの完成を急ぐべきだった。資金も資材も時間も、何もかも足りない中で彼女は頑張ってくれている。正直、今の思考はないものねだり以外の何物でもない。

そんなものはさっさと切り捨て、より建設的な方に頭を切り替える。足りない魔力を補う術はそう多くない。

まず浮かぶのは魂食いだが、そんなことを彼にさせるなど論外だ。しかしそうなると……そこで思い出す。そういえば、彼とよく似た容姿の人物がいたことに。

 

「あっ! もしも並行世界の同一体だとしたら、ロードの時のアレができるかも。それなら……ああ、でも!」

 

たとえ魔力の問題が解決しても、問題がもう一つ。彼の宝具は、神ならぬ身で使えばエーテルが崩壊を始め、消滅してしまう。果たして、一度消えた霊基がどうなるかは立香にもわからない。カルデアであれば再召喚もできたが、彼らの霊基は立香の身体に取り込まれたシルシに依存している。再召喚が可能なのか、あるいはいずれ霊基が修復されるのか、現状は全くの未知。また、彼の力を借り受ける側もどうなるか……。

そこでようやく理解する。「施しの聖者」はあえて先を語らなかったのだ。立香をはじめとした当事者たちが、それぞれの意思で決めるべきことだから。

 

「……………………………そうだ。決めるべきは、当事者一人一人の意思だ」

 

決意を固め、立香は召喚陣の前に立ちなけなしの魔力をかき集める。

最後の判断は、力を貸す側と受け取る側、そして今まさに消えようとしている者が降すべきだ。立香はただ機会を用意し、それぞれの決断を尊重する。どのようの結果になったとしても、負うべき責のすべて負う覚悟で。

 

結論を言えば、立香が目覚めた時、普段は目に見えないシルシの一つが(チカラ)を失っていた。

ならば、そういうことなのだろう。このシルシに再度(チカラ)が宿る日が来るのかはわからない。来るとして、その時に立香が生きている保証はない。だからもしかすれば、結局碌に顔を合わすこともなく、言葉を交わすこともできなかった彼とは、もう会えないのかもしれない。

 

その実感が湧くにつれ、目からとめどなく涙があふれた。

自分の無力が悔しくて、助けてくれた彼への感謝を伝えるように、何より……助かってくれた人たちを寿ぐように。

 

余談だが、魔力の使い過ぎで立香は年末年始見事に体調を崩してしまった。

すっかり入り浸るようになったフェイトが様子を見に来ると、熱を出してぶっ倒れた立香の姿。

慌ててリンディに助けを求め、懸命に看病しつつ立香の実家に連絡。そのまま実家に護送されたのだが、家族の目が微妙に冷たかったのは気のせいであってほしい。自分は断じてロリコンなどではないのだから。

 

 

 

その後は、まぁ割と平穏に時が過ぎたといえるだろう。

一年の間に二度も事件が起こったのがウソのように、次の一年はつつがなく過ぎていった。

強いて言えば、3月あたりでフェイトがしょんぼりしてやってきたことか。なんでも、国語や社会といった科目の成績が良くなかったらしい。まぁ、この国で生まれ育ったわけでもないのだから当然だろう。

 

しかし、一体どこで調べたのか。立香が大学で人文学部の歴史専攻であること、あとついでに単位目当てに小中学校の教職課程を取っていることがばれていた。

別に隠していたつもりはないのでいいのだが、ちょっと清姫の気配を感じて背筋がぞっとした。

 

(まぁ、フェイトは本当にいい子だし、きっと気のせいだな、うん)

 

ということで納得し、別に断る理由もないので家事を手伝ってくれるお礼がてら教えることに。

ついつい雑学が入り、特に歴史方面になると雑学九割本題一割になりがちだったが、本人は喜んでいるしちゃんと成績は上がっているようなので問題ないだろう。ちなみに、フェイトの友人が「どこの予備校の名物講師よ」と漏らすような内容だったと知ったのは、しばらく後のことだ。

 

(それにしても、フェイトはなんで怪我をしていると絆創膏とか湿布、包帯の交換を控えめに強請ってくるんだ? それに、ちょっと痛がったりしつつ微妙に嬉しそうなのが気になるんだけど……)

 

フェイトの拠点に監禁されていた時は彼女が少しでも気を休められるよう、甘えられるように気を配っていたし、再会してからもどちらかといえば甘やかすように接してきた自覚はある。彼女は甘え下手で、放っておくと自分に厳しくするばかりなので、甘やかすくらいがちょうどいいと思ったからだ。ついでに、「この調子で家でも甘えるように」なんて助言をしたこともある。フェイトが運んできた差し入れにこっそり感謝を伝える手紙が同封されていたのも、記憶に新しい。

なので、まぁ甘えてくれるのは一向にかまわないのだが、甘え方にちょっと首をかしげる立香であった。

 

あちら側の自分が女性なので、世の男性の大半よりは女性心理に詳しいつもりだが、こればっかりはよくわからない。フェイトからそれなりの好意を向けられていることはわかるのだが……

 

(所詮、男に女の子の心理は完全には理解できないってことか)

 

ということで納得しておく。

 

 

 

そうして瞬く間のうちに時が過ぎ、季節は移ろう。

 

フェイトは友人たちと毎日充実した様子で学校に通い、度々立香の部屋を訪れては家事をしたり勉強を教わったりしながら、日々のあれこれを嬉しそうに報告してくれる。

 

かつて見かけたよく見知った風貌の少年は、変わらずはやてをはじめとした面々とともにいる姿をよく見かける。だがそこに、あの銀髪の女性の姿はない。ただ気落ちした様子も見られないので、何かしらの形で落ち着くところに落ち着いたのだろう。

むしろ、はやてと少年の距離感が妙に近くなった気がする。具体的には、はやてが随分とぐいぐい距離を詰めている。少年は困ったような表情を浮かべつつ、それでもはやてを受け止めているようだ。

なんとなくだが、あの少年は聖杯の少女たちの語る兄に近いように感じるし、はやての様子は彼女たちを彷彿とさせるものがあった。つまりは、そういうことなのだろう。

 

そういえば、なのはも偶に薄い金色の髪の同い年くらいの少年と連れ立って歩いているところを見かける。

 

(俺がアレくらいの頃は、そういった意識なんてなかったと思うけど……最近の子は進んでいるなぁ…っていうのは、ちょっとやめておこう。ここは、女の子の成長は早いと考えるべきだな、うん)

 

ただ、手を引かれている少年が真っ赤なのに、なのはの方は特にそういった様子がないので、その限りではないのかもしれないが。

 

そうして季節は、フェイトと出会って3度目の春。フェイトたちも早いものでもう小学五年生。立香も大学三年となり、いよいよ進路を真剣に考える時期だ。

この間、結局そちら方面でフェイトたちに関わることはなかった。やはり、彼ら(サーヴァント)の力を無闇に借りるべきではない以上、あえて知らせるべきではないと思ったからだ。

 

なので、とりあえずはこの世界で地に足をつけて生きていくつもりでいる。

幸い、フェイトに教える中で本気で教職を目指す気も湧いてきたところ。そういうわけで、進路に関してはそれほど悩んではいない。うまくいくかどうかは、この先の頑張り次第だろう。

 

ただ、プライベートの方で問題が一つ。

最近、フェイトの自分を見る目に若干本気の色が混じってきている気がするのが悩みどころだ。

なにぶん、あちらの自分()は一部サーヴァントから熱烈な愛情を向けられていた。曲者ぞろいのサーヴァントたちとの交流で感情の機微には聡くならざるを得なかったのが、ますます敏感になってしまった。その影響は、きっちりこちらの自分()にまで及んでいる。正直、経過を考えるとまったくうれしくないが。

とはいえ、そのせいでフェイトが自分に向ける感情の変化にも気づいてしまうわけで……。

 

(いい子だとは思うんだけど、さすがに十歳の子どもは対象外だなぁ……)

 

恋に恋する年頃とか、年上への憧れとか、甘えさせようとしてきたこととか、その辺がいろいろ化学反応を起こした結果なのだろう。一過性の子どもの恋と切って捨てることは簡単だが、当人にとってはきっと重大事の筈。

あまり不誠実な対応をするのは、さすがにかわいそうだろう。

 

(傷つけない、なんてのは論外。傷つけることを前提として、どうやってそれを最小限にとどめるかを考えるべきなんだろうけど……)

 

現状、できることなんてなーんにもない。

そもそも、別に告白されたとかそういうことではないのだ。立香が早々に気付いてしまっているので、さてどうしたものかと考えているだけに過ぎない。

フェイトの方からアクションがあれば対応できるが、まさか何もしていないのに「君の思いにはこたえられない」もないだろう。かといって、フェイトを遠ざける口実になりそうなものも特にない。立香の部屋に通い詰めるようになった初期なら、色々建前の使いようもあったのだが……まだ母との別離からそう時間も経っていない彼女の心を慮り、少しでも心穏やかに過ごせるようにと受け入れてしまったのが運の付きか。

まさか、あの時点でこの未来を見通すなど、それこそ千里眼でもなければ無理だろう。

 

(当分は現状を維持しつつ、少しずつフェイトとの距離をとる方向で……いけるか?)

 

正直、あまり自信がない。今まで散々甘やかそうとあの手この手を使ってきたので、今更感が強い。

最終的にフェイトを傷つけることになるのは覚悟しているが、彼女が自分を責めるようなことにはなってほしくない。彼女自身には、まったく過失などないのだから。妙な勘違いをさせるような真似は慎むべきだろう。

 

(情けない話だけど、いっそフェイトの方から動いてくれないもんか。でも、あのフェイトが自分から告白……ないなぁ)

 

正直、フェイトが自分から告白してくる姿というのが、まったく浮かばない。勇気も行動力もある少女だが、同じくらいに控えめで恥ずかしがり屋だ。周囲のためには前者になれるが、自分のためになると後者になってしまうというのが立香の評価。そして、それはおおむね正しい。

なので、当分は勤務時間の長いバイトを入れたり、会えた時もあまり甘やかさないようにしたりしていくしかない。しばらく会えなかったりするとすごくしょんぼりするので、すごく罪悪感を覚えるが。いや、会えた時には華やいだ顔を見せてくれていたことを思うと、もっと早くに対応すべきだったか。

 

(あとは、恋人でも作ることだけど……う~ん)

 

思いを寄せる少女を諦めさせるために恋人を作るというのは、相手にもフェイトにも大変不誠実だ。

一応飲み会やら合コンやらにはそれなりに参加している立香だが、今のところそう言った間柄になった異性はいない。できるならそれが一番だろうが、できないなら仕方ない。少なくとも、不純な動機で作るものではないだろう。

 

しかし、そんな立香の懊悩は思いもよらぬ形で断ち切られる。

ゴールデンウィークに海外にシルシ探しの旅に出て帰ってきたところ、ぱったりとフェイトが顔を見せなくなったのだ。内心で首を傾げつつ、しばらく様子を見ることにした立香。

 

彼は気づいていなかった。今回回収したシルシから無理やり現界した「静謐」が彼にくっついている現場を、フェイトがばっちり見ていたことを。ついでに、思い切り勘違いしてしまい、泣きながら家に駆けこんだことも。

当然、いち早くフェイトの胸に宿った思いの萌芽に気付いていたリンディが、その芽の名に気付かせたなど知る由もない。

 

季節は間もなく夏。新たな戦いの時は、刻一刻と迫っていた。

プロジェクトフェイトとシステムフェイト。

運命の名を冠したそれらに縁深い二人の運命が真に交錯するまで、あと少し。

 




とりあえず、映画三期でようやく立香の正体が露見する方針です。

ちなみに、八神家にいるのは例のブラウニー……の並行世界の同一個体。ただ、どちらかというと在り様は美優の兄の方に近いですが。元々は夜天の書とその主であるはやての監視のために家族っぽく振る舞っていたのが、情に絆されて何とか救う方法を考えて頑張った感じ。
はやて的には家族であり、兄であり、家事の先生。正直、ヘルパーさんとどっちのポジションがよかったかはいまだに悩み中ですが。一応名前は「衛宮士郎」ですが、これは日本で暮らすために適当に選んだ偽名だったり……でも、はやてのために生きることを決めたため、それ以前の名前は捨てているので同じこと。

立香の視点だと何があったかさっぱりですが、大まかには守護騎士たちが収集に動き出す時点で真相を明かし、はやてを助けるために一緒に死んでくれ、的なことを告げた感じ。
元々は、虚数空間への道を開くロストロギアを使って完成した闇の書もろともはやてを落とす計画。魔法の使えなくなる虚数空間なら、夜天の書のあれこれも機能しないだろうと踏んでの策でした。そこに付け加える形で、自分と対象を入れ替え身代わりになるロストロギアなり魔法なりを使ってはやてを助ける計画に変更。リインフォースも協力してくれるからこそ可能な裏技、という設定ですね。

はやてから見ると「ああもう、この人はほんとだめだなぁ」という感じ。大抵のことはなんでもできるくせに、自分を幸せにすることだけは絶対できない。よし、なら自分が思い切り幸せにしてやろう。士郎をハッピーにして、私もハッピーに、そしてみんなもハッピーになれば無問題! いろいろな意味で、士郎は一生はやてには頭が上がらないでしょう。
英霊エミヤになるために必要な要件の大半をスルーしているので、投影も固有結界も使えません。代わりに、一時的にあの人の霊基を預かったのでそっち方面に突出します。

リインフォースについては、防衛プログラムを再構築するあたりなんかを「宿業」としてとらえ、さらに切り離した感じに。おかげで内臓ごっそりないような状態なので、このままだと自壊してしまいます。そこで、休眠状態になりながら無限書庫やらなんやらの協力で復元作業中。いつ目覚めるかは不明なイクス状態、そのためツヴァイもしっかり生まれます。

まぁ、概要は大体こんな感じでしょうか?
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