1日早いですが、バレンタインのお話です。
明日は投稿する時間がなさそうなので。
3900文字
「マスター。朝です。起きてください」
朝。優しく体を揺すられて、マスターは目を覚ました。目を開ければ、こちらをじっと見つめるアナと目が合う。マスターは小さく欠伸をして、笑顔で言った。
「おはよう、アナ」
「おはようございます、マスター」
少しだけ恥ずかしそうにアナが返してくれる。それだけのことに、幸せを感じてしまう。
「マスター。いつものことですけど、放して下さい」
「いつものことだけど、やだ」
大事な人に逃げられないように少しだけ強く抱きしめる。アナの温もりを堪能していると、アナがため息をついたのが分かった。
「じゃあ、朝ご飯はなしですね」
「なっ……」
思わず固まるマスター。アナは小さく微笑みながら体を寄せてくる。
「どうしますか? 私はこのままでも構いません。朝ご飯はなくなっちゃいますけど」
「うぐぐ……!」
何もなければ。ただのご飯ならマスターもこのままでいいと言っただろう。だがアナがこの部屋に泊まる日は、いつも朝ご飯を作ってくれる。アナの手料理なのだ。
ぐぐぐ、と長い葛藤を終えて、マスターは腕の力を緩めた。
「ご飯で……」
「分かりました」
楽しげに笑うアナがベッドから出ようとして、しかしやはり放さない。少しずつアナの目が冷たくなってくる。
「マスター?」
「えっと……。一回だけ……」
そう言った直後、アナの顔が真っ赤になった。あうあうと慌てるアナはやっぱりかわいい。抵抗しないということか、受け入れたものと判断する。判断したマスターの行動は早い。素早くアナの唇を塞いだ。
「……っ!」
固まるアナ。しばらくそうしてアナを味わってから、そっと解放した。
「あ、う……」
「うん」
「ご飯を……作ってきます……」
「うん。待ってる」
ふらふらとベッドから抜け出して、アナがキッチンへと向かう。マスターも体を起こして伸びをする。気持ちの良い目覚めだ。
椅子に座って、備え付けのタブレットを確認する。仕事はいつもこのタブレットを通じて連絡される。今日も一日の流れを確認しようとして、自分の目を疑った。
昨日までは確かに仕事が入っていたのに、何故か休みになっていた。
「なんで?」
首を傾げていると、通信が入った。タブレットを操作すると、その上空に半透明のウィンドウが表示される。そこに写るのはマシュだ。
「おはようございます、先輩」
「うん。おはよう。俺の仕事どうなってる? 休みになってるけど」
「はい。先輩は今日は休みです」
「急だね。何かあった?」
よほどの緊急の案件でもない限り、このような事はあり得ない。予定が変わったことは何度かあったが、それらは緊急の案件、つまりは別の仕事が入っただけだ。急に休みになるなど聞いたことがない。
「はい……。いろいろありました……」
遠い目をするマシュ。よくよく見れば、彼女の目の下にはくっきりと隈が見て取れる。
「何があった?」
気持ちを切り替える。よほどのことがあったのだろう。すぐに出なければならないかもしれない。
だがそんなマスターを見て、マシュは慌てて言った。
「いえ、マスターは本当に気にしないでください! むしろ絶対に部屋から出ないでください! 絶対に! 絶対に出ないでください!」
「え? あ、うん……。え?」
「返事は!」
「はい! 今日一日部屋から出ません!」
「ありがとうございます! それでは!」
ぶつりと通信が切れる。何だったのか。
不思議に思うが、マシュが意味の無いことをするとは思えない。ここは大人しく従っておくのが吉だろう。
「マスター、どうかしました?」
キッチンからひょっこりとアナが顔を出す。ピンク色の可愛らしいエプロンを着けている。ちなみにアナにこれを渡したのはメドゥーサらしい。よくやった。
「なんて言えばいいのかな……。急ぎの用事でもないみたいだし、朝食の時に話すよ」
「そうですか。ではもう少し待ってください」
キッチンに戻るアナ。マスターはそれを見送ってから、もう一度タブレットを確認する。
休みの文字の隣に注釈として外出禁止が増えていた。意味が分からない。
アナが作ってくれた朝食を食べる。メニューは炊きたての白ご飯にお味噌汁、鮭のホイル焼きだ。エミヤから材料を渡されていたらしい。わさびマヨネーズをつけるとまた違った味わいが楽しめるそうだ。
「うん。美味しい」
「はい。ありがとうございます」
アナの料理の腕は着実に上達している。今ではエミヤから教わりつつ、自分なりにアレンジを加えているほどだ。そういったアレンジは全てマスター好みの味になっている。何というか、ちょっとだけ照れくさい。
ただ、時折、背が低いために上の棚に手が届かず、涙目でマスターに助けを求めて来ることもあるが。それもまたかわいい。
「マスター、今何か失礼なことを考えていませんか?」
「うん。アナはかわいいなって」
「…………」
沈黙して顔を逸らすアナ。よく見なくても顔が真っ赤だ。
「と、ところで!」
アナが誤魔化すように声を上げる。小さく笑いながら、うん、と頷く。
「先ほどの話は何だったんですか?」
「え? ああ。いや、それがね……」
アナにマシュとの通信のことと、急に休みになったことを話す。全て聞き終えたアナは、マスターの予想とは違って納得しているようだった。どういうことかと首を傾げるマスターに、アナが言う。
「扉に耳を当ててみてください」
「うん? 分かった」
席を立ち、扉の側へ。ドアはロックされている。耳を当てると、防音でありながらもかすかに音が聞こえてきた。
「貴様らいい加減にせぬか! 我も我慢の限界だ!」
「わあああ! 待ってください英雄王! ここで宝具はだめですエアを抜かないでえええ!」
「乱心だ! 英雄王がご乱心だ!」
「ええい! 放せマシュ! 逃げるな雑種がああ!」
「ここは一時撤退です!」
とんでもないことになっている。ギルが結構キレている。一体何があったのか。
頬を引きつらせてアナへと振り返ると、アナは素知らぬ顔で言った。
「マスターが出ると余計に混沌とするので、部屋にいてください」
「了解……」
最後に聞こえてきたのは清姫の声だった。何となく想像ができるので、マスターも頷いておく。好意は嬉しいのだが、押しが強すぎて少々困るというものだ。
「でも急にどうしたんだ?」
マスターが首を傾げると、食器を片付けながらアナが言う。
「マスター。渡したいものがあります」
「ん? なに?」
「取ってくるので、椅子に座って待っていてください」
分かった、と頷いて椅子に座る。アナはキッチンへと走って行き、そしてすぐに戻ってきた。その手には小さな箱がある。
「あの、マスター。どうぞ」
どこか緊張しているような面持ちで箱を渡される。受け取って中を見てみると、
「チョコレート?」
「はい……」
「どうしてまた急に?」
「マスターの故郷の風習だと……」
首を傾げる。そして思い至るものがあった。カレンダーを見ると、二月十四日とある。
「バレンタイン……」
「はい……」
「てことは、外の騒ぎと清姫たちは……」
「多分、マスターの想像通りです」
なるほど、と苦笑する。確かにこれは出ない方が良さそうだ。
アナからもらったチョコレートは卵の形をしていた。真ん中に切れ目が入っている。アナ曰く、開けることができるらしい。上部分を持ち上げてみると、可愛らしくデフォルメされた蛇のチョコが、ハートを持っていた。
「手が込んでるね……。食べるのがもったいないよ」
「その……がんばりました……!」
「うん。ありがとう。……ちょっとごめん」
とりあえずチョコの写真を撮る。固まるアナの前で、丁寧に、何枚も。
「あ、あの。マスター。何を?」
「いや、食べないわけにもいかないけど、かといってもったいないし。せめて写真だけでも」
「恥ずかしいです。ひと思いに食べてください」
「満足いく写真がとれたらね」
「うう……」
二十枚ほど写真に残して、満足した。これでいつでもまた見直せる。
さて、こうしてさっさと写真に残した理由は単純で、食べるためだ。本当ならいっそ一日中見ておきたいが、この後を考えると美味しく食べられるうちに食べておきたい。
「この後?」
「うん。みんな気を遣ってくれてるけど、それでも作ってくれた以上は受け取ってあげたいから」
マスターが好きなのはアナだ。そう明言しているが、それでも好意を示してくれる人がいる。そういった人が頑張って作ったチョコを、知っていて受け取らないのは失礼というものだろう。
ちゃんと受け取って、食べて、お返しをする。それぐらいはする。
ただそれでも、チョコだ。絶対に飽きる。だから、美味しく食べられるうちに、一番好きな子のチョコを食べておきたい。
そう言うと、アナは顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「それじゃあ、いただきます」
「ど、どうぞ……」
ぱくりと食べる。甘すぎず、苦すぎず、マスターが一番好きな味だ。さすがだな、と感心しつつ食べ進め、あっという間に食べ終えた。
「うん。美味しかった」
「はい……」
アナはやっぱり恥ずかしそうで。マスターは薄く苦笑して、立ち上がる。アナを抱きしめると、戸惑ったように顔を上げてきた。
「マスター?」
「うん。ありがとうの気持ちを込めて」
「意味が分かりません」
そう言いつつも、アナがくすくすと笑う。アナの笑顔を見つつ、優しく頭を撫でると、気持ち良さそうに目を細めた。
「あの、マスター」
「うん」
「そのですね。もちろん、義理とかではなく、本命、で……。えっと……」
「あはは。恥ずかしいなら無理して言わなくても。分かってる。ありがとう、アナ」
ぎゅっと抱きしめる。アナは恥ずかしそうにしつつも、幸せそうに微笑んだ。
余談だが。
午後からはちゃんとチョコを受け取っておいた。なかなかの量になり、それを見ていたマスターの目が死んでいたというのはアナの証言だ。
アナの方は、夜は大好きな姉たちにもチョコを渡してきたらしい。嬉しそうに、報告してもらった。
壁|w・)バレンタインイベントは冒頭から腹筋崩壊しました。
これだからきよひーは。これだからきよひーは。
いいぞもっとやれ。
バレンタインのアナちゃんもかわいかったです。
さて、そんなわけでバレンタインのお話でした。
あまり甘くなかったかな、とちょっとだけ反省。ちょっとだけね。
さて、本格的にネタ切れです。
何かこれを題材にして書いてほしい、というものがあればメッセージでもいただければと思います。
時間があれば書くかもしれません。時間があればね!
感想欄だと規約違反だったはずだからメッセージでお願いするよ!
Q.ギルガメッシュの立ち位置は?
A.愉悦を求めて暇つぶしを探してるよ! あまりに暇すぎてマスターとアナちゃんの恋路を見守るぐらいに暇してるよ! 人間とサーヴァントの恋愛がどうなるのかを知りたいらしいよ! 暇か! 暇だった!