2800文字
それはある日のこと。
「アナ。明日はホワイトデーだ」
「え? あ……。そうですね」
「でも俺は料理とかできない」
「はい。そうでしょうね」
「…………。いや、違うんだ。頑張ろうとは思ったんだ。でも、忙しくて、一度しか練習できなくて、愛情さえあれば、愛情さえあれば大丈夫だと思って作ってみたんだけど」
「えっと……。はい。続けてください」
「顔真っ赤だよ?」
「続けてください!」
「はい! えっとね、まあ、なんだ。……食えたものじゃなかった」
「…………」
「やめて! 憐れむような目をやめてくださいお願いします!」
「私は気にしませんから。その、一緒にいてくれたら、嬉しい、ですけど……」
「うん……。えっと、ありがとう。良かった、そう言ってもらえて。それじゃあ」
「はい」
「明日はデートに行こう」
「はい。……はい?」
そういうことになった。
さて、そんなわけで。アナは今、マスターと一緒にカルデアから出かけ、小さな町にいる。落ち着いた雰囲気の喫茶店に入り、その奥の個室に案内された。マスターが予約していたらしい。
テーブルの中央には綺麗な白い花が飾られている。部屋の奥の窓からは、ちょっとした花畑が見えて、利用者を楽しませてくれる。もっとも、アナは花を見ている余裕はないのだが。
向かい側に座るマスターを見る。メニューを持って、店員に注文しているところだ。
最初、デートと聞いた時はとても驚いた。山を散策でもするのかと思ったら、わざわざ外出許可を取って、ここに連れてこられた。小さな個室で、二人きりだ。なんだかちょっと緊張してしまう。
「アナはココアでいいかな?」
「あ、えと、あの……。はい……」
「あと、ショートケーキも頼んでおいたから」
「はい……」
アナの様子にマスターは首を傾げるが、特に気にした様子もなく最初に出された水を飲んだ。アナも自分の水を飲んで、どうにか気持ちを落ち着かせる。大丈夫だ。平常心。平常心。
小さく深呼吸すると、マスターがこちらをじっと見つめていることに気が付いた。
「あの、マスター? どうしました?」
「んー……」
言うか言うまいか、少し悩む様子のマスター。アナが首を傾げていると、扉が開いて店員が飲み物とケーキを運んできた。湯気の立つココアと白いケーキがアナの前に置かれる。ちなみに、マスターはカフェオレとチョコレートケーキだった。
「いただきます」
二人でケーキを食べる。甘さが口の中に広がる。けれどしつこい甘さではなく、意外と食べやすい。何度かケーキを食べたことはあるが、一番美味しいかもしれない。
「どう? 美味しい?」
マスターがそう聞いてきたので、アナは素直に頷いた。他のケーキも美味しいのだろうか。
口にしたわけではなかったのだが、顔に出ていたのかもしれない。マスターが、自分のケーキをフォークに載せて差し出してきた。
「食べる?」
う、とアナは唸る。興味はあるが、あれはマスターのケーキで、食べてしまうのはちょっといけないような気がする。マスターの分が減ってしまう。そこまで考えて、それなら自分のものもあげればいいのでは、と思い至った。
早速自分のケーキを切ってフォークで差し出す。マスターは目を丸くして、何故か顔を赤くしつつそれをぱくりと食べた。アナも、マスターが差し出してくれているチョコレートケーキを食べる。やはりショートケーキよりも甘いが、それでもまだ食べやすい甘さだ。
そうしてケーキを呑み込んで、そして、自分が何をしたのか思い出して。
「…………」
今更ながらとても恥ずかしくなってきた。今すぐに逃げ出したい。穴があったら入りたい。そう思っているのはマスターもなのだろう、顔を真っ赤にして目を逸らしていた。
二人で飲み物を飲む。飲み物の温もりが気持ちを落ち着かせてくれる。二人でゆっくりと息を吐いて、居住まいを正した。
「お金は心配しなくていいから、好きなものを頼んでいいよ」
「はい。ありがとうございます」
そう言ってもらえるのは嬉しいが、ケーキを大量に食べたいとは思わないので、別に問題はない。こうして、マスターと一緒にいられれば十分だ。
どうにか気持ちが落ち着いてきたアナは、ココアを飲んで頬を緩める。とても静かだが、アナとしては悪くないと思っている。こうして、マスターと二人きり。マスターを独占できているのだから、文句のつけようがない。
のんびりとその空気に身を任せていると、マスターが心配そうな顔で口を開いた。
「アナ。大丈夫?」
「何がですか?」
「いや……。こんなところに連れてきちゃったから、無理してないかなって。ほら、アナはあまり、人が好きじゃないだろ?」
人が好きではない、というよりは、どうしても人を怖く思ってしまうだけだ。これは、自分の未来に由来することなので、仕方のないものではある。それに、ある程度は慣れてきてもいる。
「もしかして、気にしていたんですか?」
アナが問い返すと、マスターは頬をかいて、まあ、と頷いた。
「大丈夫です。それに、あの……。マスターが、一緒ですし……」
「アナ……」
二人で、見つめ合う。しかしすぐに二人とも気恥ずかしくなって顔を逸らした。
「け、ケーキ! 食べましょう!」
「あ、ああ! そうだな!」
二人は顔を真っ赤にしつつ、ケーキを口に入れた。
この部屋は今日一日、自由に使えるらしい。なので急いで出る必要はないそうで、ケーキを食べ終わった今はお代わりのココアを飲みながら、マスターとのんびり寛いでいる。
「こんなお返しで良かったかな?」
どこか不安げに聞いてくるマスターに、アナは笑顔で頷いた。
「はい。もちろんです」
こうしてマスターと二人きり。何も文句はない。十分すぎるほどだ。
そう言うと、マスターは嬉しそうに笑って、
「そっか。良かった。それじゃあ、その……。ここからは、俺の我が儘なんだけど……」
「はい?」
アナが首を傾げると、マスターは静かに立ち上がって、そしてアナの隣に座った。首を傾げるアナを抱き寄せてくる。
「え? あの、マスター?」
「だめ?」
「だめ、ではないですけど……」
いつも部屋でしていることだ。なのに、何故だろう、場所が違うからだろうか。いつもより、恥ずかしい。それでも、嫌だと感じないどころか嬉しく思っているのは、惚れた弱みというやつだろうか。
「あの、マスター」
「うん」
「ちょっと、恥ずかしい、です」
「うん。俺もちょっと恥ずかしい」
「じゃあ……」
「もう少し」
「あの……。はい……」
こうなると、マスターは放してくれない。アナは仕方が無いと苦笑しつつも、自分からそっと身を寄せた。
ケーキとココア、あとマスターの温もりを堪能して、お土産にケーキを大量に購入して帰路についた。ケーキは数十個。予め予約していたらしい。どうしてかと思えば、
「いや、他のみんなへの、ホワイトデーのお返し」
「なるほど」
「給料飛んだよ……」
「…………」
遠い目をするマスターの手を握っておいた。握り返してくれたので、きっと大丈夫だろう。
壁|w・)ホワイトデー関係ない!
ただのデートですが、気にしないように!
それなりに甘く書けたかな、と思います。
本当は14日にこれを投稿するつもりでした。
なんで早くなったかというと、どうしても今日、何かを投稿したかったのです。
何故かって?
いえね、私事ではあるのですが。
祝! アナちゃんレベル100!!
ようやく! ようやくレベル上げが終わったのです!
つまり、自分の記念にぶち込んでおきました笑
さあ、次はスキル上げだよー! がんばるよー!
ではではまたいずれ!
Q.マスターのお給料っていくら?
A.私が知りたいよ!