最初の少しだけマスター視点です。
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目の前の光景。アナが自身の武器をゴルゴーンに突き刺し、そして共に落ちていく。マスターの目の前で、姿が消える。
アナ! そう叫び、駆け寄り手を伸ばすが、もう届くはずもなく。
最後に見えたのは、こちらへと笑顔を向けるアナ。そしてそれもすぐに見えなくなった。
「うわああ!」
叫び声を上げて、マスターは飛び起きた。荒い息をつき、周囲を見回す。見慣れた部屋。カルデアの自分の部屋だ。
「夢、か……」
アナが戻ってきてくれてからは見なくなった夢だが、それまでは本当に何度も見た。自分が思っているよりもずっと深く、心の傷になっているらしい。
「ちょっと寝れそうにないな……」
そう思って、コーヒーでも飲もうかと立ち上がったところで、ドアがノックされた。こんな夜更けに誰だろう。不思議に思いながら、マスターはドアを開けた。
・・・・・
何となく。本当に何となくだ。アナは夜中に目を覚ました。あてがわれている部屋を抜け出す。何故かあまり眠たくない。ただこのまま何もしないというのも暇なので、散歩をしてみることにする。
歩き回れば眠たくなるだろう、と思ってのことだったのだが。
「どうして私はここに来ているのでしょう」
気づけば目の前はマスターの部屋だった。自分でもよく分からない。
もしかしたら、起きているかも。起きていたら、お話とか、しても、いいかな……?
自分で自分に言い訳しつつ、ドアをノックする。寝ているところを起こしたくはないので、控えめに、小さくだ。さすがに起きていないだろうと思っていたのだが、
「はい。……え? アナ?」
マスターが出てきたことにかなり驚いた。寝ているものと思っていた。
「あの、こんな夜更けにごめんなさい、マスター。何となく眠れなくて、散歩をしていたのですが……」
「いや、いいよ。俺も嬉しいから」
何故かマスターは、心底安堵したような表情を浮かべていた。その表情の意味が分からずにアナが首を傾げていると、マスターに部屋に招き入れられた。
「ココアでもいれるよ。座ってて」
「はい」
いつもの椅子に座り、周囲を見る。何か作業をしていた様子ではない。むしろ先ほどまで眠っていたような感じだ。
「マスター、もしかして起こしてしまいましたか?」
不安になって聞いてみると、キッチンから苦笑が届いた。
「ちょっと嫌な夢を見てね。それで起きたんだ。気にしなくていいよ」
「そうですか」
嫌な夢、とはどういうものだろうか。気になりつつも、何も言わないでおく。思い出させる必要はない、と。
だが、ココアを持って戻ってきたマスターは、何かと語ることはなくても普段とは違う行動をした。
「え? マスター?」
「ごめん。ちょっとだけ、ごめん」
目の前にココアを置かれた直後、何故か後ろから抱きしめられた。マスターの体温を直接感じて、アナの心音が早くなる。それとなく抜け出そうとしても、マスターは放してくれそうにない。
「どうかしました?」
アナが聞くと、マスターが小さく頷いたのが分かった。
「夢、だけどさ」
「はい」
「アナが、ゴルゴーンと一緒に落ちていく夢だった。
それを聞いて、アナが一瞬だけ息を呑んだ。なるほど、とマスターの行動の意味を理解する。放さない、という意志を感じるマスターの行動を。
「マスター」
マスターの手を握る。マスターの体がわずかに震えた。
「私はここにいます。もういなくなったりしません。大丈夫、です」
そう声をかけて、マスターの手を撫でる。マスターがまた、小さく頷いた。
どうやら以前のアナは、マスターにトラウマを植え付けてしまっていたらしい。自分のことなのでそうする他がなかったというのは分かるのだが、少しだけ、過去の自分を非難したくなってしまう。こんなにマスターが苦しんでいるぞと。
それと同時に。少しだけ、嬉しくもなっている。マスターはこんなに、自分のことを大切に想ってくれているんだなと。過去の自分に自慢したい。結局は自分なのだが。
「大丈夫です、マスター。私は、ここにいます」
「うん……」
マスターの小さな声。アナは薄く微笑みながら、このままでもいいかと思うようになった。マスターが落ち着いていられるのなら、これでいいだろう、と。
「すう……」
「へ? マスター?」
ただ、まさかその体勢のまま眠ってしまうとは思わなかった。唖然とした声を発しながら、しかし身動きは取れない。
アナは薄く苦笑して、マスターに身を預けた。マスターの体温を感じながら眠るのも悪くない、と思いながら。
そして翌朝。アナは焦っていた。
マスターは未だ眠ったままだ。あの体勢のまま。つまりはアナを抱きしめたまま。
これはまずい。非情にまずい。何がまずいって、マスターの社会的地位がまずい。
確かもうすぐ、マシュがマスターを起こしに来るはずだ。朝はいつも一緒に仕事だからと、マシュに起こしてもらっていると聞いている。それを聞いた時はちょっとだけ嫉妬して。
いや違うそれを思い出している場合ではない。
よく考えてみよう。
早朝。マスターの部屋。いるはずのない自分。朝から抱きしめられた格好。
よく考えなくてもアウトである。
「マスター! お願いします、起きてください! マスター!」
「うん……。アナ……」
「はい! いえ、嬉しいですけど! でも今回は違うんです、起きてくだ……」
「おはようございます、マス、た……」
ドアが開いた。マシュがいた。こちらを見て、凍り付いていた。
時が止まる。マシュと目が合い、お互いに引きつった笑みを浮かべる。そして。
「おじゃましましたあああ!」
「あああ! 待って! 待ってください! マシューーー!」
その後、騒ぎを聞きつけた他の職員やサーヴァントが駆けつけて、ちょっとした騒ぎになってしまったが、語るのも恥ずかしい話なので割愛するとする。
ただその後、各所で謝るマスターを、姉二人と未来の自分に対して土下座するマスターを見てしまい、とても申し訳ない気持ちになってしまった。
ごめんなさい、マスター。次はちゃんと起こします。
余談だが。
「絶好の機会をふいにするなんて! 何をやっているのよ!」
「痛い! 痛いです下姉さま!」
妹の情けなさに半ば以上本気で怒るエウリュアレの姿が目撃されたとか。
たまには甘いお話を、と思ったらこうなりました。解せぬ。
あと。お気に入りや評価、ありがとですよー!
とても嬉しいので朝のちょっとした時間で仕上げました! がんばった!
通勤、通学の暇つぶしになれば幸いなのです!
Q.これ、夜這いじゃね?
A.言うな! 本人に自覚はないよ!