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「メドゥーサ。いい加減もう少し美味しくいれられないの?」
「ごめんなさい、下姉さま。次こそはがんばります」
紅茶というのは難しい。様々な要因で美味しくなったり不味くなったりする。詳しい人から何度か聞いたりもしているのだが、なかなか上達しない。
「あまり言ってはかわいそうよ、私。ほら、これも……そうね……、その……。味があるわ」
「フォローになってないわよ、私」
笑いを堪えるエウリュアレと、素知らぬ顔で紅茶に口をつけるステンノ。口をつけるとわずかに顔をしかめるので、やはり美味しくはないのだろう。
マスターならもっとうまくいれるのだろうか。あの人は何でもそつなくこなすので、アナよりも上手だろう。
「マスターに聞いてみようかな……」
小さな声のその言葉を、姉二人ははっきりと聞き取ってしまったようだ。
「ふうん。困った時のマスター頼み?」
「え? あ……」
「ふふ。マスターのことがよほど好きなのね?」
「ちが、そうじゃ、なくて……」
「隠さなくてもいいじゃない。分かってる分かってる。かわいいわね、メドゥーサは」
「あうう……」
「それで? 愛しいマスターとはどうなのかしら?」
「あああ……」
真っ赤になってフードをたぐり寄せて顔を隠すアナ。姉二人はこの上なく楽しそうににやにやしている。顔を隠してないで、と下姉さまに頬をつつかれていると、
「アナ。ちょっと頼みたいことがあるんだけど、いいかな?」
マスターの声をかけられた。
「あ、マスター……!」
「あらあら、嬉しそうな顔しちゃって」
「え、ちが……」
「犬みたいね。尻尾振ってそう」
「…………」
その場で小さくなる。その様子に姉たちは笑いながら、マスターへと言った。
「遅かったじゃない、マスター」
え?
「ちょっと書類がね……。それじゃあ、約束してた通り、アナを一日かりるよ」
はい?
「あら、かりるなんて遠慮しなくても。あなたにならあげるわよ? 大事に、してくれるならね?」
「ははは。もらえるならもらいたいんだけどね」
アナの思考が追いつかない間に話が進んでいく。アナが顔を上げると、マスターがのぞき込んでいた。驚くアナに、マスターが言う。
「買い物に行こう」
カルデアは深い山の中にあるが、当然ながら人の出入りがないわけではない。定期的に物資の搬入もあれば、用事で出かける者もいる。カルデアのことを口外しないように特殊な制約がかかるが、口外しなければ特に何も問題はない。
マスターは事前に申請を出していたらしく、二人は問題なくカルデアを出発した。ヘリコプターに乗って、目的地へ。
寒い山を離れてたどり着いたのは、大きくはないが小さくもない、ちょっとした町だった。
「あの、マスター。どうしてここに?」
「ちょっと欲しいものがあってね」
「私を連れてきた理由は?」
「アナと一緒に回りたかったからだよ。さ、行こうか」
笑顔で手を差し出してくるマスター。アナは逡巡しつつも、その手をしっかりと握った。
温かく、大きな手だ。その手を握っているだけで、安心感がある。マスターにそんなことを言うと、笑われそうだけど。
マスターと一緒に町を巡る。様々な露店が並んで、客寄せの声が絶えない。とても楽しい雰囲気だ。
ふと、鼻をくすぐる良い匂いがした。そちらを見ると、何かの肉の串焼きがあった。
「あれが食べたいの?」
「その……。はい……」
顔が熱くなるのを感じながら頷く。すると、すぐにマスターが買ってきてくれた。大きな串焼き肉を手渡してくれる。味付けは塩胡椒のみのようだが、それ故に肉の香りが強い。
ぱくりと一口。濃厚な肉の味に塩胡椒がよくきいていて、とても美味しい。
「俺も一口、いいかな」
「はい。どうぞ」
「…………。躊躇なしかあ……。いただきます」
二個目の肉をマスターが食べる。うん、美味しい、とマスターが言ったのを聞いて、アナは少しだけ嬉しくなった。
そして、その直後に。自分が何をしたか思い至り、顔を真っ赤に染めた。
「アナ? どうかした?」
「な、何でもありません!」
マスターが気にしていないのだから、アナが気にすることではない。でも、少しぐらい、何か考えてもくれていいのではないだろうか。
ちょっとだけ不満に思っているアナの横では、マスターが安堵しつつ顔を赤くしているのだが、アナはそれには気づかない。
たっぷりと時間をかけて買い物をして、そして小さなホテルに入った。初めて聞いたが、今日は泊まりらしい。それで姉たちに一日と言っていたのかと今更ながらに思い至った。
「あの、マスター……」
「心配しなくても部屋は二つ頼んである。大丈夫」
「そうですか……」
安堵のため息を漏らす。それなら安心だ。ただ、ちょっとだけ寂しいと思ってしまうのは何故だろう。
部屋は二階で隣同士だった。廊下でマスターと別れ、自分の部屋に入る。ベッドにテーブル、椅子と必要最低限のものしかないが、こんなものだろう。
ベッドに座り、今日一日を振り返る。マスターと一緒に買い物をして、とても楽しかった。思わず頬を緩める。幸せ、だった。
この先もマスターと一緒にいられるだろうか。いられたら、いいな。
そう考えた瞬間、以前の姉の言葉が脳裏に浮かんだ。他の子に負ける、という言葉。
自分以外の誰かが、マスターの隣にいる。それを想像するだけで、胸が締め付けられるように苦しくなる。
ああ、やっぱり、私はマスターが好きなんだな……。
ぼんやりと、そんなことを考えて。
先日のジャンヌにした相談を思い出した。どうしていいのか分からないと言ったところ、ジャンヌは、マスターなら受け入れてくれると言っていた。アナも、そう思う。
自分の気持ちに正直になっても、いいんだろうか。
静かに立ち上がり、部屋を出る。隣のドアを数度叩くと、マスターが顔を出した。
「アナ? どうかした?」
「あの……マスター……」
フードを被りたくなるのを堪えて、マスターを見る。真っ直ぐに。しっかりと。
戸惑うマスターに、アナは言った。
「今日、この後に、お話、いいでしょうか」
甘酸っぱいより甘甘の方がいいのかな、ということで、
ついにアナちゃんが動きました。
次話、告白! のような何か!
その先は砂糖増量だあああ!
Q.カルデアに人の出入りはあるの? あってもヘリコプターは無理じゃね?
A.知らないよ! きっとあるよ!
ヘリコプターはあれだよ! 魔術的な何かで守られてるんだよ!