異伝7 その91
side 高町 なのは (ミッドチルダ・機動六課)
とりあえず全員の能力値(身体能力方面のみ。作戦立案能力やら魔法技術方面はまだデータが足りない)をしっかり測り終わるまで模擬戦を続けてみた。
結果、みんな年齢からすれば優秀すぎるほどに優秀な能力を持っていた。
スバルは一撃一撃が大振りで隙だらけだし荒っぽすぎるけど、近付いたときの爆発力には目を見張るものがある。あと、シールドやバリアもかなり硬い。
体力的には十分だけど、動きに無駄が多いからついてこれるかな?
ティアナは頭の回転が速くて魔力操作も上手。ちょっと突撃思考が意識の根底にあるのが気になるけど、それは持ち味って言っても大丈夫な程度。直射弾は私より硬いけど、速度はちょっと劣るくらいかな?
幻術と射撃のコンビネーションはかなり相性がいいけど、まずは中距離射撃の精度の底上げかな。
エリオはなんと言ってもスピード。今の時点でこれなら、成長したらどうなるのかがとっても楽しみ。
欠点は、やっぱりちょっと一撃が軽いんだよね。だからっておもいっきり突撃してくると隙が凄いし、やっぱり動きが単調になるから……。
とりあえず、こっちも体の方の成長に期待かな? うまく攻撃の瞬間にだけ体重を倍加して載せられれば威力は上がるけど、そうできるようになるには時間がかかりすぎるしね……。
キャロは主に支援をしてたけど、レアスキルの竜召喚は使わなかったね? 目から見える感情からすると、自分の力が怖いのかな?
優しい子だとは思うけど、精神構造的に戦いには向いてないね。
理想は竜召喚で自衛しながらの味方の強化と回復。完全サポート型の極みとも言える形かな?
まあ、それはこれからキャロ自身が決めることだけど……。
「って感じだと思うんだけど、ヴィータちゃんはどう思う?」
「………お前ってさ……本当に多芸だよな」
「そうかもね」
ちなみに、魔力量とか密度とか操作能力とかはこちらが魔力波を『聞いて』やれば大体わかる。作戦内容も念話用の魔力の波を一部傍受してやれば簡単にわかる。カンニングみたいなものだけど、できるんだからしょうがない。
「まあ、あたしの考えてたのとそんな変わらねえけど……お前、ほんとに厳しいよな」
「そうなの?」
「自覚ねえよこいつ」
だって私の基準はさくらさんだからね。さくらさん方式で考えればこの程度はどうってことはない。
もう一人の師匠はお母さんで、お菓子作りのことに関しては本当に厳しく教えてもらった。
つまり、私のこれは多少厳しい程度でスパルタでも何でもない。
それに、私にとってはこれは教導じゃなくってただの準備運動ってところだからね。ちょっと激しかったけど。
「それじゃあみんなお疲れ様。朝の軽い運動は終わったし、これから朝御飯だよ。しっかり食べてちゃんと休んでね?」
「………………(返事がない。まるで屍のようだ)」
「………………(へんじがない。まるでしかばねのようだ)」
「………………(へんじがない。まるで(ry)」
「………………(へんじが(ry)」
「キュクー!」
フリードだけが、元気に返事をしてくれた。
……それじゃあ、私もご飯にしようかな。運動してお腹空いたし、後のことはヴィータちゃんに任せちゃおう。
元々本職じゃないし、そういう風に振る舞えるだけの権力もはやてちゃんから貰ってるしね。あくまで私は民間協力者なんだから、本職の人に頑張ってもらおう。
頑張れヴィータちゃん。応援してるよ。
side ヴィータ
とりあえずなのはが凄まじい地獄耳だということがよくわかったあたしは、滅多なことを言わないように口を閉じる。
新人達を見てみると、全員が限界まで動き回ってぐったりとしている。
まあ、あんだけ追いかけ回されりゃそんな風になるのも理解できなくはねえが………いくらなんでもあいつはやりすぎだろう。あれが軽い運動って………あいつはほんとに人間か?
「ヴィータちゃん?」
するり、と。後ろから私の首に腕が回された。優しく抱き締められていて暖かいはずなのに、あたしの背筋には冷や汗が流れる。
「いま、何か、考えた?」
一言ごとに区切られた言葉に、まるで砲口を向けられているような気分にさせられる。
カタカタと震えるあたしの体を、なのはがゆっくりと抱き締めている。
「どうしたの? そんなに顔を青くして……こんなに体を震わせて………寒いのかな?」
蛇に睨まれた蛙ってのは、もしかしたらこんな感じなのかもしれねえな。
あたしの頭の中の妙に平静な部分が、そんなことを呟く。
……いくらこいつでも、こんなところで殺しにかかることはないよな?
「大丈夫。別に怒ってないよ」
「ほんとかっ!?」
なのはの言葉にうつむいていた顔を上げると、すぐ横になのはの顔が見えた。
なのはは笑顔を浮かべたままあたしのことを見つめている。
「勿論。私は別に気にしてないよ」
……た………助かったぁ……。
あたしは緊張からガチガチに固まった全身から力を抜いて、その場にへたり込もうとしてなのはの腕に支えられた。
いつもだったらここで自力で振り払うんだが、その時のあたしは体に力が入らず、なのはのいいようにされてしまった。
なのははあたしを横抱きにして、訓練場から歩いていく。
…………なんつーか、フォワード陣から妙な視線を感じるような気がするんだが……気のせいか?
「気のせいってことにしといた方がいいよ、ヴィータちゃん」
「……お前が言うなら……間違いねえな………」
……多分。
異伝7 その92
side 高町 なのは (ミッドチルダ・機動六課)
ヴィータちゃんをシャマルさんのところに届けてから、私は食堂で適当に食事をします。
分身している他の私達の分まで食べることもできますが、食べないこともできるので大抵食べないことにしています。
食費も馬鹿にならないし、分身は食べないでも魔力さえあれば行動できますから。
ただ、やけ食いしたいときには便利です。六人居れば栄養とかカロリーとかを考えないでいつもの全力の四倍くらいなら食べてしまってもまったく問題ありませんし、なにより食べても食べても戦闘訓練中の私と歌曲トレーニング中の私に送ってしまえばあっという間に消費されますから太りません。
前にはやてちゃんに羨ましいと言われたこともありますが、なんのことはない種も仕掛けも普通にあるトリックです。頑張ればはやてちゃんにもできると思います。
……ところで、新人達はまだ演習場から動いていないような気がするんですが……何があったんでしょうか? 事故? それともまだ動けないとか?
『……スバル~……』
『……なに~?』
『……動けるようになった~?』
『……ごめ~ん、まだ~』
『……そう。エリオ達は……』
『……ご、ごめんなさい、動けないです……』
『……私も……』
『キュクー!』
『……それにしても、強かったね~……』
『……そうね……』
……どうやら本当に動けないようです。……まったくもう。仕方無いなぁ。
遠隔で魔法を使う。四人の体が浮き上がり、ふわふわと移動を始める。
『ふわわわっ!? なになに!?』
『誰かが私達に魔法を使ってるのよ!それも、私達が感知できないほど遠くから!』
『……どこに連れていくつもりなんでしょうか?』
『さあ……』
どこって、シャワーだけど? 泥だらけだし、仕方無いよね。
フリードは……どうすればいいのかな?
『とりあえず、暴れないでね』
『!?』
『な、なのはさん!? これはなのはさんが!?』
『そうだけど? これからシャワー室に連れていってあげるから、それまでしっかり休んでてね。簡単な回復魔法もかけるから』
『はい!ありがとうございます!』
スバルは元気だね。まるで年寄りの言う感想だけど、若いっていいよね。
私もまだ若いつもりだけど、やっぱり子供の時みたいな無邪気さは無くなっちゃってるからね。
『あの頃はよかった』とか言う気はないけど、私って自分で言うのもあれだけど精神的な成長が早かったから、無邪気に遊べたのはほんとに小学生くらいまでだったんだよね。
その点フェイトちゃんはあの天然っぷりを存分に発揮してたし、きっと学校にいるときはすごく無邪気に学校生活を楽しんでいたんでしょうね。
それでこそフェイトちゃんという気もしますが、なんだかちょっとだけ嫉妬。
……パルパルパルパルパルパルパル…………。
……さて、適当な冗談も終わったところで回復魔法といきますか。
音響魔法の回復魔法じゃなくて、ミッドチルダ式の回復魔法。ただし、ちょっと改造してちゃんと超回復が起きるようにしてある。
……………すっごく痛いけど。
ちなみに私はもう慣れた。それ以前にさくらさんの訓練ではあの程度の痛みは普通にあったからね。問題なんて欠片もなかった。
むしろ、さくらさんに与えられたのなら痛みでも優しさでも恥辱でもなんでも快楽に変わるんだけど……それはけして外には出さない。
さくらさんはそう言うのはネタとして弄るくらいにしか使わないと思うけど、一応ね。
『そんなわけで、結構痛いよー』
『へ? なにがで』
「「「「ぴゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!?」」」」
あ、結構離れてたのにここまで普通に聞こえた。と言うか『ぴゃあ』ってなに? 『きゃあ』とか『ぎゃあ』とか、百歩譲って『いやぁぁぁっ!』まではわかるけど、『ぴゃあ』って…………。
『なにするんですかぁ!』
『動けるようにはなったでしょ? それに、普通の回復魔法じゃ超回復が起こらないところを起こるようにしてみたんだから、そのくらい痛いのは当然だと思うよ?』
『…………』
あ、手をぐーぱーしてる。動くかどうか確かめてるのかな?
手だけじゃなくて腕も曲げ伸ばしして、次は足……そして全身。空中でそんなことをやってるのって、端から見てるとすごいシュールな光景だよね。
『動いた?』
『……動きましたけど………』
『じゃあ、動いた確認ついでにデバイス解除してくれるかな? もうすぐ隊舎だしね』
貸し出してたデバイスの方は、私が受け取って返しておきます。ここまで運んだのは私なんだから、そのくらいはやってあげないとね。
『……なんだか、体が少し軽くなったような……』
『それが超回復だよ。筋肉痛が勢い余って治りすぎて前より強くなるだけだよ。うまくすれば体力もつくから、お願いされればいつでもやってあげるよ。痛いけど』
『はい!是非また今度お願いします!』
はい、お願いされました。
……お願いされるとは思ってませんでしたけど。フェイトちゃんなんて一回で泣いちゃったし。
我慢強い子なのか、それとも鈍い子なのか、はたまたただ単に痛みに強いだけなのか……体内から聞こえてくる機械の駆動音を聞いていると、最後のが一番正しいような気がします。
それでも悲鳴を上げたと言うことは、きっとかなり痛かったんでしょう。ですから、痛くても目標のために頑張れる子と言うことにしておこうと思います。
異伝7 その93
side 高町 なのは (ミッドチルダ・機動六課)
あれからスバルは毎日私にあの回復魔法をかけてもらいに来るけれど、あんまり一度にスペックを上げすぎると中の機械部品の磨耗が早くなるんじゃないかな? などと思ってしまう。
あと、時々ティアナとエリオも来るようになった。けれどキャロはあの一回以降は来ていない。
まあ、召喚師はあんまり体は使わないからね。避けるのに少しは使うけど、あんまり筋肉を付けすぎても成長が阻害されちゃうから、それはそれでいいんじゃないかな?
ただ、実際に瞬発力をつけるにはあの回復魔法は相当優秀だから、スバルはよく来てるんだろうね。
何回やってもあんまり筋肉がついたようには見えないけど、確り瞬発力系統の数字は延びてるし、かなり高い。ほんとに、戦闘機人ってスペックだけなら凄いよね。
あとはあの凄まじい突撃思考がもう少し緩和してくれれば完璧なんだけど……無理かなぁ……。
……とりあえず、そこはブレーンのティアナに期待しておこうかな。ティアナ自身もかなりの突撃思考だけど。
二人して背中に『一撃必倒』って背負っててもなんにもおかしくないような感じなんだよね…………いいコンビだけど。
そんなわけで、今日も今日とてのんびり過ごす。海鳴の翠屋と言えばお母さんのケーキとお父さんのコーヒーだけど、ミッドチルダの翠屋では私のケーキとシュテルちゃんの紅茶なんだよね。
お父さんのコーヒーもいいけど、シュテルちゃんの紅茶も捨てたものじゃない。むしろ凄く上手。
シュテルちゃんは紅茶を淹れるよりコーヒーを淹れる方が得意らしいけど、あんまり匂いが好きじゃないそうなので……。
ですから、私がコーヒーを淹れられるように練習中です。具体的には、六課の私の机の上には常にコーヒーサイフォンが置いてあって、よくはやてちゃんやフェイトちゃん、ヴィータちゃんにシグナムさん、その他にもいろんな人がやって来て淹れてくれと言ってきます。
そのため、私のコーヒー汲みの腕はかなり上がっている。中にはリピーターと言うか、それじゃないと飲めなくなったという人や明らかに中毒なんじゃないのかって思っちゃうほど頻繁に来る人もいる(と言うかその筆頭がはやてちゃんだったりするんだけど)。
一人の料理人として、例え本業から多少外れていても自分の作った料理を気に入ってもらうというのは嬉しいことですね。
ちなみに、私の店で扱っている材料などは殆ど全て私が自分の目で見て厳選した無名で優良な物になります。安くていいものを使うなら、そうするのが一番かなと思いまして。
そんなことのためにも放浪用の私の分身が居るのですから、私はただそうして見付けたところと契約して時々小麦やフルーツ等を卸してもらうだけ。それを使ってケーキを作ったり紅茶を入れたりするのです。
なお、私はアンダーグラウンドサーチライトを使って一人で運んでいますから、運び屋を通した場合より数段安く仕入れられるのが強みです。
『なのはちゃーん、コーヒーいれてーな』
『いいよ。三分待ってね』
『インスタントラーメンやないんやから』
『じゃあ二時間待つ?』
『三分で頼むわ』
了解。それじゃあできるだけ早く美味しく淹れられるようにと考えて淹れたこのコーヒーを……と。
いつもはもっと多く淹れて必要に応じて追加してるんだけど、いつまでもそれじゃあ駄目だと思ってちょっと努力している。お父さんみたいに早く上手に淹れられるようにならないと、喫茶店のコーヒーとしては失格だと勝手に思ってるからね。
……だからといって、完璧に淹れようとしても二時間も待たせるようなことは無いけどね。ただの軽い冗談だよ?
そんなわけでコーヒー中毒患者のはやてちゃんに出すためのコーヒーを二分で淹れた私は、のんびり歩いてはやてちゃんの居る部隊長室に向かう。
ついでにリイン用の小さなシュークリームも用意して、あの可愛らしい小さなデバイスに餌付けをしてみようと思っていたりして。
……いや、ちょっとミッドチルダの翠屋常連客を増やそうと思ってるだけだよ? それ以外の理由なんて、食べてる時のリインの笑顔が可愛いからってくらいしか無いし。
フェイトちゃんとリインとヴィータちゃんを三人並べてシュークリームを目の前に積んでみると、三人全員が目をキラキラさせながら笑顔でぱくぱく食べるんだよね。
あれがもう可愛くて可愛くて……。
最近だとスバルとエリオの食事シーンもいいと思うんだ。あの細身のいったいどこにあんな量が消えていくのかはわからないけど、あれだけ食べてお腹がぽっこり膨らむとかそんなこともないんだから驚き。
……もしかして、私みたいにどこかに分身がいたり………するわけ無いね。うん。
まあ、私は割と異常だけど結構普通な部分も持ち合わせているし、可愛いものは嫌いじゃないよ?
アリサちゃんとか、すずかちゃんとか、フェイトちゃんとか、ヴィータちゃんとか、さくらさんとか。大好きです。特にさくらさん。
……丁度部隊長室についたし、この辺りで無駄な考え事はやめとこうかな。頭を回すのはそれが必要なときだけで十分だよ。うん。
異伝7 その94
side 高町 なのは (ミッドチルダ・機動六課)
ヴィータちゃんから、ティアナに中距離射撃型に大切なものを教えてやってくれとお願いされたので、とりあえず私は判断力と命中精度(私が砲撃を使えてなかったら多分それと弾速ばっかり伸ばしていたと思う)を底上げしていこうとレイジングハートを取った。
ヴィータちゃんが言うには、一応私の訓練についていけるギリギリくらいの体力はつけさせたからと言っていたけど………私の訓練は結構辛いらしいから余裕を持たせていたらしくて、ちょっと見誤った。
ヴィータちゃんに『軽く』って言われたから軽くしたんだけど、もうちょっときつくしてもよかったかもしれないね。
……でも、どうやらデバイスの方には限界が来ていたみたいで、あと少しで壊れてもおかしくないような音を出していた。
でも、それは悲鳴じゃなくて悲しみの声。もうティアナと一緒に戦えないことを嘆く声だったから……ティアナはきっとそのデバイスを、大事に大事に使ってたんだね。
私は割とオカルト方面のことを信じるタイプだ。科学万歳のミッドチルダで暮らしていて何を言ってるんだと思うかもしれないけれど、そんな人達にはこう言いたい。
『じゃあ、さくらさんはいったいなんなんだ』と。
人間? あり得ない。人間は素の力でポケットを使った居合いを利用して拳圧を飛ばしてきたり、その拳圧で山を丸々一つ消し飛ばしたり、アルカンシェルを高速の掌打で弾いて方向を変えさせたりとかはできないから。
戦闘機人? どんな【IS】を使えばそんな真似ができるの?
人造魔導師? どんなレアスキルなら以下省略!
結論として、さくらさんはどう考えても人間じゃありません。私も知り合いには化物だとか魔王だとか言われることが多々ありますが、そんな私でもさくらさんを見極めるのは不可能です。
私が全てを知っているなんてことは言いませんし、そんなことを思ったこともありませんが、それでもさくらさんをこの世界で一番長く見てきたのは私だという自負があります。
そんな私が、さくらさんは人間の理解の及ぶ存在ではないということを断定します。
そういった存在のことを、人間は神だとか悪魔だとか化物だとか呼ぶんです。
しかし、そんなさくらさんが存在するのですから、この世界に妖怪だとか九十九神だとか言う存在が居ないとは言い切れません。
…………長々とくっちゃべって、結局のところ何を言いたいのかと言うと…………私は、そう言った者の声を聞くことができると言うだけの話です。
前に聞いたことがありますが、さくらさんとある程度以上仲がいい人は、大概の場合何かが人間から外れるレベルで伸びるそうです。
ある人は気配に関連する事象に。
ある人は戦略思考に関連する事象に。
ある人は操作に関連する事象に。
ある人は幸運に関連する事象に。
ある人は超絶的な直感に。
ある人は全てが平均して高く。
ある人は自分すら騙せる演技力に。
ある人は戦術・戦闘・高速思考に。
ある人は世界さえ変えうる超頭脳に。
ある人は物理事象すら超越する身体能力に。
ある人は膨大な上にも膨大な精神力に。
全員が違うけれど全員に共通して、さくらさんを基点とする異常がある。
そしてその共通点は、私にも適用されている。
私は基本を音として、転じて波の関連する事象に特化している。
魔力を波として捉えれば膨大な集束力を扱うこともできるし、念話に使われる念波を傍受することも、脳波を読み取って相手の動作の起こりや思考を読み取ることもできる。
ただ、波の質が違うせいか光をうまく読み取ろうとすると疲れます。普通に見るにはなんの問題もありませんが……。
……っと、どうしてティアナのデバイスの話から私の能力の話にまで飛んだのでしょうか。自分でも驚いてしまいます。
話を戻して、今はティアナのデバイスがもうそろそろ限界だと言う話をしないと。
……まあ、その辺りの話は既にヴィータちゃんにしているから、私にはあんまり関係ないんですけど。
それに、話をしたときのヴィータちゃんの反応を見る限りでは既に何らかの対策があるみたいでしたし、心配もあまりしてません。
……もしかしたら、新品のデバイスを用意してあるのかもしれませんが………渡された直後に出動があったら困りますよね。
はやてちゃんやフェイトちゃんはミッドチルダに来て長いですし、新しいデバイスがあれば完全に新品でも今まで以上に魔法が使えると楽観視しているのかもしれませんけれど……私はやっぱり心配です。
例えば、スバルのローラーの性能が突然上昇したとすると、もしかしたら実戦でその勢いに驚いたスバルは敵の目の前で転んでしまったり、止まりきれずに壁に激突してしまうかもしれない。
エリオだったら、今までのデバイス使用時との加速の違いに追い付けず、ふとした時にデバイスを離してしまう可能性だってある。10歳だしね。
キャロの場合、ブーストの効果が高すぎて味方の体を壊すような効果の高すぎるブーストをしてしまうかましれない。
…………なんて言ってみたけれど、どれも慣れればいい話なんだよね。多分はやてちゃん達もちゃんと考えてるだろうし……。
……………………考えてるよね? ミッドチルダ生活が長くてそうやって突然並の性能からかなり高性能なデバイスに変わった場合の弊害を考えなくなっちゃったとか、そんなことはない……よね?
異伝7 その95
side 高町 なのは (ミッドチルダ・機動六課)
新人達に新しいデバイスが渡されるらしい。個人に合わせて作られたフルオーダーメイドで、かなり高性能らしい。
どのくらい高性能かと言うと、私がちょっと興味を示してみたらレイジングハートが必死に自分をアピールしてくるくらい。
……ああもう、レイジングハートは可愛いなぁ……私がレイジングハートを捨てるなんて、そんなことしないってわかりきってるはずなのにさ。
だから私は、そんな可愛いレイジングハートを指先で優しく撫でる。すると私の言いたいことが伝わったのか、レイジングハートは落ち着いてくれた。
ちなみに、私が興味を示した理由は『新人達に使いこなせるスペックか』が気になっただけだったりする。
前にも言ったけれど、突然スペックが大きく変わりすぎると使いこなせなくなるなんてこともあり得るわけで。
まあ、その辺りは扱いきれるギリギリの位置にリミッターを付けて、成長していくに連れて徐々に緩くしていくとか、そういう風にして少しずつ慣らしていけば大丈夫だと思うけど。
…………だからさ、はやてちゃん。
「そう言うのを確かめもせずにいきなり実践投入とか頭が湧いてるんじゃないかと思わせるようなあり得ないことを提案しないでくれないかな? と言うかほんと何を考えてるの? 馬鹿なの? もしかして無様に惨めに腸《はらわた》ブチ撒けて禿鷹に啄ませる芸でも見せて詫びてくれるの?」
「そんな芸見せられへんよ!? と言うか死ぬやん!あといくらなんでも言い過ぎやと思うんやけどその辺りはどないや!?」
「五月蝿いなぁ。あんまり変なことを大声で叫びすぎるとクロノ君になるよ?」
「ならへんよ!?」
「いい加減にしてください八神はやて部隊長。今は八神はやて部隊長が子狸だとか八神はやて部隊長がクロノ提督だとか八神はやて部隊長がおっぱい星人で日夜八神シグナム一尉のおっぱいを揉んで悦に浸っているという噂があるとかそんな話よりも、フォワード達のデバイスを新調したばかりなのに実戦に出しちゃうあり得なさについての話をしているのですから」
「待って!? ほんまに待って!? 子狸とかはよく言われるしクロノ君の話も今しとったけど、最後のは初耳やで!? あとフルネームに階級呼びとクロノ君呼ばわりとその毒舌辞めてもろてええ? なんや物凄く心に突き刺さるんよ……」
地味にクロノ君呼ばわりも嫌がったね。私も『クロノに似てきたね』ってフェイトちゃんに言われたら即座にさくらさんにお願いして管理局の本局ごとクロノ君を消滅させたくなるけどさ。
「……それで、なのはちゃんの言いたいことはわかったんやけど……ならどうするん? 代案は?」
「特に無いよ」
「ないんかい!」
私が考えるようなことじゃないからね。考えてないよ。
私はただのちょっと自由な民間協力者なんだから、部隊長であるはやてちゃんの決定を覆せるような権限もなければ命令を他人に無視させることもできない。
ただ、はやてちゃんにちょっと提案したりすることしかできないんだよ?
「それにしちゃあ随分と自由人やなぁ? なのはちゃん?」
「自覚は多少はあるよ。直す気はまったく欠片もこれっぽっちもほんの僅かも小指の甘皮ほども無いかもしれないしあるかもしれない」
「結局どっちや!?」
「はやてちゃんはどっちがいい?」
「ある方やな」
「どう答えてもわからないままなんだけどね」
「じゃあ何で聞いたりしたん!?」
「はやてちゃんをからかうためと、ヴィータちゃんをからかうためと、画面越しのフェイトちゃんをからかうためと、実は自分でもよくわかってないと、はやてちゃんをからかうため。どれだと思う?」
「何で私の名前だけ二回出したん!? 私が目の前に居るからか!?」
「流石はやてちゃん。私の思考回路を理解できるようになってきたんだね」
「あかん死にたい。なのはちゃんに思考回路が近付いてきたとかほんまに死にたい」
『だ、駄目だよはやて!落ち着いて!』
「死ぬなんて許さねえぞ!はやてだって死ねないって言ってたじゃんか!」
あー、もう本当にカオスな事になっちゃったね。
「とりあえず、新人達にはしっかりスペックデータを読み込ませるね。付け焼き刃だし、どこまで効果があるかわからないけどやらないよりましだから」
「あはははは……あれぇ? あれは彗星かなぁ……? いや、彗星はもっとシューって流れるしなぁ………」
……許可ってことにしとこっと。
それじゃあ、私はこれからシャーリーのところに行って、フォワード陣のデバイスのスペックデータを貰ってこないとね。
そしてそれをフォワード陣に送って読み込ませて、かなり性能差があるから気を付けてってことも伝えなくちゃ。
……ああ忙しい。単なる民間協力者の私がこれだけ忙しいんだから、きっと本職の人たちはもっと忙しいんでしょうね。
……そうそう、ついでにちょっとした裏話を。
分隊の名前のことなんですが、ヴィータちゃんを隊長としたスターズ分隊にはスバルとティアナの二人が所属して計三人。ほんとは私に正式に入隊してもらって、スターズの隊長になってもらうつもりだったらしいんだけど……まあ、私はやってないことから結果がこうなったとだけ。
そしてフェイトちゃんが率いるライトニング分隊は、副隊長にシグナムさん。フォワードにエリオとキャロの二人が居て、ついでにキャロの使い魔扱いでフリードが居る。
そして私の居る分隊の名前は『フリークス』。明らかに化物扱いですねわかります。
まあ、それを聞いた時にはイラッとしましたが、フリークス分隊のことは私に完全に任されていたのでとりあえずさくらさんとシュテルちゃんの二人を所属させておきました。これでシュテルちゃんは翠屋を守れますし、さくらさんは自衛できます。
……さて、それじゃあちょうどシャーリーからスペックデータを貰いましたし、早く行ってあげましょうか。
フォワード陣とヴァイス君が私を待ってます。
……多分。先行ってていいよって言ったのに……指揮権はリインに一任されてるはずなのに………私が行かなきゃならない理由なんてどこにもないのに…………。
……はぁ。
異伝7 その96
side 高町 なのは (ミッドチルダ・機動六課)
新人フォワード達の初出動を尻目に、私はバリアジャケットを着てヘリの助手席に座ったまま空中のガジェットを壊し続けていた。
私の魔力を少し多目にした薄い桜色の集束魔力弾を一つ作り、そこに魔力を集束させながらガジェットに何度も突撃させる。
私の魔導師ランクがEだと知っているヴァイス君(そう呼んでいいと言われたから呼んでいる)は、なんだか驚愕かなにかでひきつったような顔をしている。
……えーっと………?
(……す、すげえなオイ……流石は陽光の殲滅者………ってか、これでEランクって嘘だろ!? ただの詐欺だろそりゃあ!?)
「ただの詐欺でごめんね」
「ッ!!?」
ヴァイス君の体がギシッと固まった。そしてなんだかだらだらと冷や汗を沢山流しているみたい。脈拍が速くて、どうやら相当焦ってるみたいだね?
「……えっと……俺って何も言ってませんよね?」
「大丈夫だよ。言ってないから」
ヴァイス君の顔は明らかな驚愕と……ちょっとの恐怖。陽光の殲滅者を怒らせたかっ!? ってびくびくしてる。
私はくすくす笑いながら、ヴァイス君に言う。
「私は別に怒ってないよ。確かにある意味詐欺みたいなものだしね」
「は……はぁ……そうっすか………」
「そうだよ」
そんな感じに軽口を叩きあう間にも、私は耳を澄ませながらガジェットを落とし、そして初めてのデバイス仕様で初出動のフォワード達にも意識を向ける。
ちょっとくらいの危険については、私は基本的に無視するタイプなんだけど………あんまり問題なさそうだね。
まあ、流石に誰かが気絶したままリニアレールから放り出されるようなことがあったら浮遊魔法くらいはかけてあげるけどね。
意識があったら、キャロは竜召喚で飛べるし、エリオはストラーダのブースターで上に向けて突進できる。スバルはウイングロードで走れるし、ティアナはアンカーをリニアにくっ付けて戻れるだろうし。
とにかくみんな死にはしない。だったらおよそ問題ないよね。
……ああ、これでガジェットは壊し終わったけど………いったいなんだろう? なんと言うか、懐かしい気配を感じるんだよね。
具体的には、10年くらい前に何回か感じたことのある空気というか魔力というか……。
そう思いながら壊して引き寄せたガジェットの内部機関を物色していると(ヴァイス君は隣でひきつっていた)、恐らく原因だろうという物を見付けた。
内部機関の一部に、小さな、本当に小さな青い宝石がある。
とん、とその部分を叩いて振動させて固定を緩ませ、指先より遥かに小さいそれを取り出した。
「……レイジングハート」
『封印処理ですか? 破壊ですか?』
「封印ね」
『了解』
レイジングハートは本当に小さなジュエルシードに封印をかけ、そして格納領域に取り込んだ。
この大きさだと、多分全体の数万分の一程度。ジュエルシード一つで数万機のガジェットが作れることになってしまう。
………そうだ、今回フェイトちゃんに落とされた分からもジュエルシードを抜いておこう。集めれば少しは大きくなるだろうし、力も強くなるだろう。
バレたら? バレなければ大丈夫……なんてことは言わない。それでバレたら破滅だしね。
まずはバレないように隠し通す。あるいはバレても大丈夫なように手を回す。最悪、バレたら地上本部への本局によるロストロギアの管理不行き届きの証拠として全部提出する。
最後のをやっちゃうと管理局の名声が地に落ちるだろうし、その後に出る大量の失業者とか逆怨みしてくる馬鹿とかが面倒だからやりたくないんだけどね。集めた努力が水の泡だし。
「……あのぉ……なのはさん?」
「ん? どうしたのヴァイス君?」
「いえ、あの……チビ共がリニアから落ちてってるんですが……」
「…………ああ、エリオはストラーダから手を離してないし、キャロは自分の力を怖がらなければ竜召喚もちゃんと使えるから大丈夫だよ」
「え……確か、暴走するんじゃ……」
「してたけど、しなくなったよ。しなくさせたんだけど」
どうやってかと言うと、自分の力を怖がってたから更なる恐怖でそれを上書き………いやいや冗談だよ? そんなことをしたらフェイトちゃんに怒られちゃうし。
ただ、キャロの力よりずっと強いものがあるってことを教えただけなんだよ?
アンダーグラウンドサーチライトに連れ込んで、私の最大集束魔法を見せてあげたら、なんだか暫く目からハイライトが消えて吹っ切れた感じになっていたので、そこで竜召喚をやってもらったら簡単に成功させちゃったというだけの話。
竜召喚は他人を傷つける怖い力だと思っていたのかどうかは知らないけど、そんなの竜召喚に限らず力だったら大体そうなんだから怖がる必要はないと思うんだけどね。
……例えば、キャロにとっては親代わりとも言えるフェイトちゃんだけど、フェイトちゃんなら暴走させたフリードを楽々殲滅できるだろうし、私はスペック上ならヴォルテールくらいならある程度なんとかできる。
竜召喚は確かに危ないかもしれないけれど、制御してしまえば怖いことは殆ど無い。
本当に怖いのは、制御を離れた力のことを言うんだよ?
私も、一度集束の限界を試してみようとして失敗し、アンダーグラウンドサーチライトの中身を私の分身ごと大破させてしまったことがある。
あの時の圧力は本当に怖かった。けれど、あれがあったから私は波に大きな適性を持つことがわかったんだから、感謝もしてるけどね。
………ああ、来た来た。壊されたガジェットから取り出されたジュエルシードの欠片。砂粒よりもさらに小さなそれを、封印してレイジングハートの格納領域に取り込む。
まだまだ一つ分にすら満たないけど、それでもエネルギー結晶としては優秀だからね。願いを叶える効果は無いけど、電池のかわりには優秀だと思う。
……あ、作戦完了かな? 今回のはなかなかいい仕事だったかな?
これからもガジェットを狩るお仕事は積極的に受けていくことにしよう。
異伝7 その97
side 高町 なのは (ミッドチルダ・機動六課)
今回の出動についての報告書を作って提出する。部下がいないとこういう時は楽でいいよね。
ヴィータちゃんはスバルやティアナを相手に簡単に報告書の作り方を教えてあげながら自分の分を作ってたりするけど、そうやって座学みたいなことをするなら眼鏡をかけると面白いよ? 私が。
はやてちゃんは変態だから『ロリ上司が背伸びしてるみたいでかわええなぁ♪』とか言うに違いないよ。
自分の方が上司だし、年齢的に考えて闇の書時代も入れればヴィータちゃんやシグナムさん達の方が明らかに年上なんだけど………まあ、見た目は明らかにヴィータちゃんの方が下だし仕方ないのかな?
……今度こっそりヴィータちゃんの胸ポケットに細身の伊達眼鏡を入れとこっと。そしてそのことをはやてちゃんに言えば、はやてちゃんなら涎をたらして息を荒げ、目を怪しく輝かせて指をわきわきと蠢かせながらヴィータちゃんに眼鏡をかけることを強要するに違いありません。
「なのはちゃんはいったい私をどんな目で見とるん!?」
「えっと……」
「いやいや言わんでええ、と言うか言わんといてくれるか? なんちゅーか凄い聞いたらあかん気がすると言うか、聞いたら後悔しかしない気がするんよ」
多分だけど正解かな? 正直に言うとクロノ君ほどじゃないにしろ変態だと思ってるし。流石にあの『下は小学生から上は50代まで行けちゃうSMどっちも大丈夫な抵抗できない相手に魔力弾で攻撃したり拘束したりかわいい女の子に踏まれたりするのが大好きな変態の中の変態』、クロノ・ハラオウン提督と一緒にしたら人間的に終わりだもんね。
「……その話……マジ?」
「冗談以外のなんでもないよ。わかるでしょ?」
「………まあ……な」
……なんだろう、まるでなにか心当たりがあって否定しきれないみたいな反応なんだけど……。
……ちょっとはやてちゃんの手を取って……血管の上に親指置いて……。
「な、なんや?」
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど……いい?」
「そりゃ特秘事項になるようなこと以外は構わへんけど……スリーサイズでも聞くんか? シグナムの」
「あははは、違うよ。
はやてちゃん、クロノ君と、浮気したり、した?
」
…………あー……うん、なるほどね。
私ははやてちゃんの腕から手を離す。そっかそっか。ふーん。
「……なのはちゃん? 私はなにも言っとらんのになんでそんな顔しとるん?」
「え? ……どうしてだろうね?」
「なんでそんなにいい笑顔を浮かべるん!? なんやなのはちゃんの腰の辺りからとがった尻尾が見えるで!?」
「にゃはははは♪」
「誤魔化す気や!この笑い方は誤魔化そうとしとる時の笑い方や!?」
「誤魔化されておいた方がよかったと思うよ?」
「なんでや!?」
私は無言ではやてちゃんの後ろを指差す。はやてちゃんが振り向くと、その視線の先には………。
「は……はわわわわわわわ………ヴィータちゃん!大変なのです!はやてちゃんが……はやてちゃんが………」
ヴィータちゃんに向かって念話を飛ばしながらも、慌ててしまっているのか口にも出してしまっているリインフォースⅡの姿が!
「はやてちゃんがクロノ提督と不り」
「ちょっと待てぇぇぇい!」
はやてちゃんは必死にリインの口を押さえたけど、もう遅い。そこまで送信されちゃったら内容はわかっちゃうと思うな~♪
私はこっそり部隊長室を出て、のんびり廊下を歩いていく。なんだかどたばた騒がしいけど、いったい何があったんだろうね?
……それと、別にはやてちゃんは浮気も不倫も枕営業もしてないよ? 私もミッドチルダの翠屋でよくわからない地上げ屋みたいな人達に何回か要求されたこともあったけど、みんな無視してやったし。むしろ潰したし。
……何を潰したかって? それは勿論繋がりのあった裏の組織と、本人と、相手の尊厳と、股間にぶら下がってた汚いモノとか……まあ、色々。
一部に管理局本局のお偉いさんが居たからレジーに報告しちゃった♪ その上で引きずり回して久し振りにフラッシュバスターのラッシュをやることに。最後にやった時より集束率と連射速度と弾速と威力と操作性能とトラウマ刺激力が上がっていた。
それまでのフラッシュバスターの一発を1MFとすると、その時のフラッシュバスターは1.3MFくらいのトラウマ刺激力を持ってたからね。
ちなみに、1MFは大体120GLくらいかな。MFの読みは『マジ泣きフェイトちゃん』でGLの読みは『ガクブルリーゼさん』だけど。
……リーゼさん達って、RなのかLなのかわからなかったからとりあえずLってことにしておいた。
あと、5MFで1HV(半泣きヴィータちゃん)ね。
……単位の読みがおかしい? 単位の読みなんてそんなものだよ。放射線量なんて人名ばっかりだし。ベクレルとかキュリーとか。
……キュリーは違ったっけ? 多分放射線に関することの単位だと思うんだけど………。
だから、トラウマ刺激力の単位がマジ泣きフェイトちゃんだったり半泣きヴィータちゃんだったりしてもおかしくないよね?
……私は他にも色々勝手な単位をつけてますけど。非常識度にHA(ひきつりアリサちゃん)とか、腹黒度にNF(涙目フェイトちゃん)とか、発狂度にMS(マジギレさくらさん)とか。
MSは今のところ1より上には行ったことはないけどね。行ったら怖すぎるよ。
「なあなのは!はやてはどこにいるかわかるか!?」
あ、ヴィータちゃんだ。ずいぶん急いでるね。
「はやてちゃんなら、部隊長室でリインに飛びかかっていくのを見たよ」
「そうか!わかった!」
ヴィータちゃんはそう言うと、すぐに部隊長室に走っていった。
……大変だね。色々と。
私は何事もなかったかのように、のんびり廊下を歩き出した。
………報告書は提出したし、地上の犯罪はいつも通りにレジーに報告してるし………今日はもう翠屋でお菓子作りに没頭しようかなぁ……?
異伝7 その98
side 高町 なのは (ミッドチルダ・機動六課)
リインやヴィータちゃんの誤解(私は『はやてちゃん、クロノ君と浮気した?』って聞いて、答えを聞かずに『へぇ……』って言っただけで、勝手にリインが勘違いしちゃっただけなのに、なんで私のせいになるんでしょうか?)を解いて、ちょっとしてからのこと。
少し体力のついてきたフォワード達の訓練は漸く個別スキルに入り始めて、ひーひー言いながらもちゃんとついてこれている。見所あるよね。
私は基本的に一人寂しくソロだからポジションとかは気にしてないけど、他のみんなは結構ちゃんと自分のポジションとか役割分担とかを気にしてるんだね。
人付き合いは割と得意な方だけど、こういう味方同士の連携とかはあんまりやったことないなぁ……。
訓練の時にシュテルちゃんやレヴィちゃん、ディアーチェちゃんと組んだことはあるけど、それぞれがある意味理不尽すぎる存在だからまともな戦術や戦略は組めないんだよね。
特に、ディアーチェちゃんとシュテルちゃんが組むと酷い。攻撃は『星群』で防がれるし、一度見失ったら『群機』のお陰でまず見つからない。
『太陽』は『群機』と『星群』に撃ち抜かれちゃうし、レヴィちゃんの『壊刃』は機械にはあんまり効果がないから……あの二人のペアはほんとに反則だと思う。
……それはそうとして、今はティアナの方に集中しようかな。
ティアナのポジションはセンターガードだから……正確な射撃能力で中距離を征するのが必要なんだよね。
それができるようになったら近接とちょっとした砲撃も教えて……ああもう、あれもこれもみんな教えなきゃ。ヴィータちゃんはよく教官資格なんて取る気になったよね。私はあんまりやりたくないかな。人に教えるのは得意じゃないし。
まあ、はやてちゃんに気が向いた時にでもって言われてるから、暇なときには教えてあげてるけどね。
まずは自分の魔力をちゃんと使えるようにならないと私の真似をするのはできないから、魔力操作はしっかりとね。
ちなみに、私は基本的に魔力を固めることはしない。術式を作ることもあるけど、大抵の射撃や砲撃はただ圧縮して密度をあげた魔力を撃ち出すだけ。弾殻も無いから分解されない。
だから、AMFで分解されるのは召喚と音響魔導を使わない回復魔法くらい。通信は木霊法で代用できるし、後はあんまり使わないしね。
それ以前に、音響魔導を使えばガジェットなんてそれこそ鉄屑同然なんだけどね。
……そうそう、ガジェットのことだけど、レジーに内燃機関のことを報告しておいた。ジュエルシードという『本局が厳重に封印しているはずの』ロストロギアが使われている事や、私(高町なのは)が私(鷹牧桃華)にそういった情報を流してくれている事も。
一応、私(高町なのは)は私(鷹牧桃華)の居候みたいな扱いだからってことになっているけど、仕事には真面目だから部外秘の事は教えられないからこっそり独り言を聞いたことにしている。
これでレジーは私(高町なのは)が敵ではないことを理解してくれただろう。レジーは頭がいいしね。
だからレジーはまだ本局にジュエルシードのことを言っていない。ちゃんとした証拠がなければ、簡単に揉み消されてしまうから。
だから今度ガジェットが来たら、地上の方に最低一機は確保しておくつもりらしい。
……仕方無いなぁ。あんな状態になってたらシリアルナンバーはそんなに関係ないから、今までのを適当に一つに纏めることにしよう。わざわざシリアルナンバー順に揃えてたんだけど………私の手元に戻ってこないんなら完成しない可能性が高いし、別に混ぜちゃってもいいよね。同種のエネルギー結晶だし。
そして一つ分が完成したら、その魔力を使ってレイジングハートを改造してあげるんだ。レイジングハートは前から改造してほしいって言ってたからね。
『……マスター………』
「どうしたの? レイジングハート」
『……感謝します、マスター』
「あはははっ♪ なんでレイジングハートがお礼を言うの? 今まで待たせたのは私なんだから、こっちこそ『ありがとう』だよ」
ほんと、レイジングハートは私にはもったいないくらいのデバイスだよね。
『そんなことはありません。マスターは私にとって最高のマスターです』
「ありがと、レイジングハート」
私が胸の上で光るレイジングハートを指先で撫でると、レイジングハートは嬉しそうな雰囲気のままにぴかぴかと光った。
……ほんと、レイジングハートは可愛いなぁ……。
一途で、思いやり深くて、意思が固くて、優しくて、純粋無垢で………本当に、いい子だよ。
……レイジングハートのためにも、私のためにも、頑張らないとね。
……色々と。
side 高町 なのは (ミッドチルダ・翠屋)
ケーキの生地を捏ねる時……ただその事だけを考え、お客様の笑顔を想い、総身に溢れんばかりに存在する愛情を込めて………捏ねる!捏ねるっ!捏ねるっ!!
「……ふむ。流れるように無駄の無い手際。その集中力。人目を気にせず普段通りに生地を捏ねる精神力………見事です」
「うむ。職人たるもの極限の集中力を途切れさせず、その中で動くことができてこその職人。見事に育ったものだ………あの母親も喜んでおるだろう」
「味見は是非とも僕に任せてくれよ。僕は食べるのが大好きだし、忌憚の無い意見を出せるから丁度いいと思うよ? まあ、君のお菓子は大体美味しいけど、時々ものすごい大ポカをやらかすことがあるから注意しておくんだけどね。今は先に味見をしてくれるから割と安心しているけどね」
…………ふぅ。後は一次発酵をさせて……オーブンを暖めながら中に入れるクリームを作って………。
「……聞いていないようですね。これではまるで道化のようです」
「良いではないか。どうせこの姿は一時の夢を映したモノだ。儚き夢のそのまた影。であるならばせめて、道化として名を残そうぞ」
「シュークリーム♪ シュークリーム♪ 美味しい美味しいカスタード♪」
残念だけど、このシュークリームはカスタードじゃなくてピスタチオなんだ。
「なん……だと……!?」
「なんで……すって……!?」
「な、なんだってー!?」
三者三様の驚きをありがとうございます。
異伝7 その99
side 高町 なのは (ミッドチルダ・機動六課)
……さて、大変なことが起きようとしています。
なんと、はやてちゃんが私のスリーサイズを聞いてきたのです。
……どこが大変なのかがわからない? それははやてちゃんのおっぱい星人っぷりを知らないから言える言葉ですね。本当に。
はやてちゃんは本当に救いようのないおっぱい星人です。女の子のおっぱいが大好きなんです。
どのくらい好きかと言うと、昔の話ですが学校に来た初日に先生とアリサちゃんとすずかちゃんのおっぱいを揉んじゃうくらい。私も揉まれそうになりましたが、結界に閉じ込めて120GH(ガクブルはやてちゃん)くらいフラッシュバスターを打ち込んだら諦めてくれました。
なお、1GHはだいたい0.3HV(半泣きヴィータちゃん)くらいですから、そこまでたくさん撃ち込んだ訳では無いです。
……とにかく、そんな感じにおっぱい大好きはやてちゃんが私のスリーサイズを聞いてくるってことは………セクハラ以外のなんでもないと判断しても問題ないと思うんですが、どう思いますか?
「よーしなのはちゃん、とりあえずそのアホみたいな量の魔力が籠った拳を解いて下ろそ。な?」
「平手にすればはやてちゃんの鼻っ面に叩きつけちゃっていいんだね?」
「良い訳あるかい!殴るんならせめてその前にこっちの話くらい聞けや!」
「え? なに?」
「話を聞いてくださいお願いします」
またちょっと密度を上げてみたら、はやてちゃんは体勢を変えずに椅子から飛び上がってその勢いのままに机を飛び越え、頂点から落ちていく一秒足らずの間に体勢を座位から正座に切り替え、同時に頭を下げる。
そして頭を下げきった瞬間、床に綺麗に着地。掌、額、膝、脚。全てがまったく同時に絨毯に接地し、とても美しい土下座のポーズをとっていた。
凄いのは、ここまでではやてちゃんは魔法を使っていないってところ。まあ、魔法を使ってたら周りに溢れた魔力を集めて使うことで私の攻撃の威力が上がるんだけどね。
そんな綺麗な土下座に免じて、集めた魔力を散らして握り拳を解く。
「……じゃあ、早めに説明してくれる?」
「これからお仕事でホテル・アグスタってところに行くんやけど、そこは正装やないと入れんのよ。やからなのはちゃんにドレスを一着プレゼントしたろと思ったんや」
「正装用の服の一つや二つくらい持ってるからいらないよ。それで、どうしてそんなところにロストロギアの一種であるレリックを集める部隊であるはずの機動六課が呼ばれるの? オークションで取引許可の出てるロストロギアも出てない密輸品のロストロギアもたくさん出品されたり裏でこっそり取引されたりするから、その反応をレリックと誤認したガジェットがわらわらとまるで腐肉に群がるゴキブリや死体に群がるハゲタカのように集まってくる可能性が高いから警備に呼ばれたとか?」
「大体あっとるけど言い方最悪やな!? 確かにそんな感じやけどゴキブリやらハゲタカやら酷ないか!?」
「だから?」
「なのはちゃん外道や!? いや割と昔から知っとったけど!?」
「はやてちゃんは私に協力してほしいの? それとも怒らせて敵対したいの? 友達と敵対するのはあんまり嬉しくないけど、敵になるなら加減はしないよ?」
「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!なのはちゃんと敵対する気なんて欠片も無いよ!?」
「そう? ならいいんだけどね」
……それにしても、ホテル・アグスタ……ね。
……レジーに報告挙げとこうかな? 確かガジェットの中の一部を欲しがってたし……。
……それより、何機か捕まえてアンダーグラウンドサーチライトの中に放り込んで渡してあげるって言うのもいいかもね。壊す手間も省けるし。
でも、本局から盗み出された訳じゃなくって地方の研究所に貸し出されているところを盗まれちゃってたみたいだから、そんなに痛くもないだろうね。
まあ、そうやって不祥事を起こしたってだけでも責めようとすれば責められるんだろうけど………そんなのはある意味じゃあ日常茶飯事だしね。
できればもっともっと上の方の人の失態とか……あるいは物凄く大きな失敗を知ることができれば………。
「……なのはちゃん? 急に黙ったと思ったら、なんやものすごい邪悪な笑顔を浮かべとるんやけど……なにが」
「はやてちゃん」
私ははやてちゃんの言葉に被せるように言葉を紡ぐ。
魔力を僅かに乗せたそれは、なんだか威圧感がバリバリ増しているらしい。
アリサちゃん曰く、なんだか逆らおうとする気が根刮ぎ奪われるって言ってたけど………そんなことないと思うんだけどなぁ……?
……まあ、なんでもいいけどね。使えるなら。
私は、未だに正座のまま私のことを見上げているはやてちゃんの顎を優しく持ち上げて、視線を合わせる。
瞳の中に恐怖を浮かべ、僅かに涙を滲ませるはやてちゃんに笑いかけた。
「……知らない方が幸せなことって、あるよね?」
こくこくと何度も頷くはやてちゃん。なんだかこれじゃあ私が脅してるみたいじゃない。
私はそんな気は全然無いのになぁ……。
「うん、それじゃあ私はちょっと出掛けてくるね」
「あ……うん……いってらっしゃい………?」
はーい、いってきます、と。
異伝7 その100
side 高町 なのは (ミッドチルダ・機動六課)
はやてちゃんからのドレスのプレゼント(動きにくいので嫌いです)の話を無かったことにして、一応私はホテル・アグスタに行くことに。正装用のドレスの一つや二つは持っているので、正直必要ないんだよね。
まあ、私の場合は正装と言えばドレスじゃなくてスーツなんだけど。お母さんは嘆いてたけど、私はやっぱりドレスよりスーツの方が好きです。
何て言っても、さくらさんのお手製であるという点がいいよね。うん。丈夫だし、動きやすいし。
そういう点ではコックコートも好きですけど、あれは厨房という名の戦場のためにある服ですから。外出用には向きません。
そんなわけで、私達はヘリに乗ってホテル・アグスタに向かっています。さくらさんは六課の壁に作ったアンダーグラウンドサーチライトの中で眠っていますが、でかける直前に応援の言葉をくれたので私は元気一杯です。
私が警備するのは会場内だけど、毎日の修行のお陰で色々わかる範囲が広がったからね。わかる範囲なら魔力を集束して魔法を使うことができるから、ある程度までなら離れてても問題なく行けるんだよね。
そうそう、私は最近漸く波の苦手を克服しました。そのお陰で音のような疎密波以外にも弾性波もしっかり使えるようになったため、完全物理技ですがシュテルちゃんのように頭上の光を一点に集めて炎にして降らせると言うことができるようになりました(威力はお察しくださいレベル)。
ここまでやってわかったことと言えば、物理法則って、昔思ってたほど凄いものじゃないみたいだってことくらいです。
……それにしても、ジェイル・スカリエッティ……ね。レジーと何度か連絡を取っていた気がするけど……また今度、一応聞けるだけ聞いてみようかな。
その他にも色々取っといた真っ黒な記録も提出して、腹を割った話し合いをしてみよう。
昔のように、さくらさんと出会う前のひたすらに人の善性を信じていた純粋な私に戻って……。
……そう考えると、私はやっぱり変わって来ているんだなと思います。
「? なのはさん? どうしたんですか溜め息なんてついて……」
「……気にしなくていいよ、スバル。ちょっと昔の事を思い出してただけだからね」
……あの頃の私に戻りたいとは思わないけれど、やっぱり懐かしいな。
………私が、人を疑うことを覚えたのはいつごろからだっけ?
……確か……さくらさんと出会って、音楽と出会って、それから少ししたころ……だったかな? よく覚えてないけれど、たぶんそのくらい。
…………まあ、なんでもいいんだけどね。人間はいつまでも変わらないことはできないんだから。良くも悪くも人間は変わっていく。なら、それをできるだけいい方向に向けていくのが人間として正しいことなんじゃないかな?
……さくらさん? さくらさんはほら………さくらさんだから。ね?
……ああ、そうだ。着替えの準備はしてあるし、到着したらすぐに着替えないとね。
あと、私は基本的に民間協力者だから、あんまり人前には出ないように気を付けないと。じゃないと六課の戦力の一番強いのが私という奇妙な状態が周囲に知られてはやてちゃんが苦労することになりそうだし。
『民間協力者より弱い局員しかいない部隊』なんて、叩くにはいい材料にしかならないと思うしね。
だから、表に出ないようにこっそりこっそり……。
まあ、正確にはもう出ちゃってるんだけど、それでも事実として私が最強だって立証されてる訳じゃないしね。だったらいくらでも言い訳はできるし。
それじゃあ、そろそろ到着だし、もう一度音で色々確認を………って、あれ? なんだかどこかで感じたことのある気配の波が……。
……あ、ユーノ君だ。局員待遇の民間協力者っていう私と同じ待遇のユーノ君だ。懐かしいなぁ……。
side レジアス・ゲイズ
鷹牧から連絡が入った。どうも、今日オークションのあるホテル・アグスタに、ガジェットが現れる可能性が高いとのこと。
だが、ガジェットの中のジュエルシードは本局預かりではない状態で紛失しているため、大した問題にはできない。
そしてその他にも、ガジェットの内燃機関にサインが見つかったそうだ。
その名は、ジェイル・スカリエッティ。儂と裏で繋がりのある、広域指名手配犯。
それと同時に、儂とスカリエッティの繋がりを示す証拠が次々と。
……成程。今回オーリスを通さなかったのは、そういう理由か。
オーリスはこの事をとっくに知ってはいるが、それを外に出すことはほとんどない。だから、知っていなかった場合を考えて一応気を回しておいたのだろう。
ここで、これを出してきたのが鷹牧以外だったら脅迫されていると考えるが、あの女は自分の周囲が平穏であればそれでいいと思っている。
自分が菓子を売り、それで暮らしていけるのならばそれがいいと。
しかし、それならば黙っていればいいだけのこと。態々提出してきたと言うことは……直接話をしたいから時間を作って欲しいと言うことだろう。それも、できるだけ早く。
儂は鷹牧から送られてきた特秘メールを消し、オーリスを呼ぶ。
「できるだけ急いで時間を空けたい。鷹牧から重要な話があるそうだ。2時間でいい」
「畏まりました」
オーリスは即座に手帳を確認し、ずらせる予定やキャンセルできる予定を選んでいく。
儂も仕事を急ぐが……やはりこの魔力電池による身体強化を使うのは早いな。金がかかるのが難点ではあるが、思考と動きが加速するのは便利ではある。
部下達もこうして使っていることが多い。その上放っておけば勝手に回復しているし、じつに使い勝手がいいな。