リリカルなのは~ほんとはただ寝たいだけ~   作:真暇 日間

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異伝7 その101

 

side 高町 なのは (ミッドチルダ・翠屋)

 

予想通りと言うか計画通りと言うか、レジーからお呼びがかかりました。あと、どうやらオーリスさんは裏の方の黒いお話は知っていたらしいので、今度からはそう言うことも細かく話しておくことにします。

ちなみに連絡方法は、私が渡したベルを鳴らしてからレジーが一言呟くだけ。それを私が聞き取れば、言葉を伝えるだけなら十分なのです。

 

えっと……一週間後の夕方六時に地上本部のレジーの執務室ね。

了解の意を込めて、私はレジーの持つベルを遠隔で一度鳴らす。拒否する場合は木霊法で声を届けるから、間違えることは無いんですけど。

 

……それじゃあ、来週の六時は空けとかないとですね。こっちから誘ったんですし、すっぽかすわけにはいかないでしょう。

ちょうど閉店の時間ですし、そうでなくても新しく一体戦闘には使えないけれど日常活動には支障がでない程度の分身を送ればいいかな。うん。

 

……カメラをお返ししまーす♪

 

 

 

 

 

side 高町 なのは (ミッドチルダ・機動六課)

 

機動六課と言いつつ実はホテル・アグスタにいる私ですが、私が持ってきたケースの中身がどこかの誰かのお陰でドレスにすり替えられていました。

予想はしていたので、とりあえず後でスーツケースではやてちゃんの頭部を殴打することにして(この時、はやてちゃんは全身に悪寒が走ったそうだけど、私は何も知らないよ?)、こんなこともあろうかとレイジングハートに収納しておいたスーツを着る。

着替え終わった私を見て、はやてちゃんは愕然としてたけど……私はなんではやてちゃんがそんな表情を浮かべていたのかはわからない。どうしたんだろうね?

 

そんなわけで着替え終わった私は自分にステルスをかけて存在を隠す。私にとっては姿を隠しておいた方が得だからだけど、一応はやてちゃん達にも得になるからいいんじゃないかな?

オークションの会場の端の方に寄りかかって立ち、目を閉じて周囲の警戒を始め大体700キロメートルくらいの所にガジェット発見、ついでになんでか子供連れらしい二人組も発見。何をやってるのかは知らないけど、ガジェットの方はフォワード達の訓練の代わりにちょうどいいかな?

ガジェットくらいならフォワード達にも丁度いいだろうし、守らなきゃいけない時にはちゃんと守れるしね。

 

……それにしても、発見が遅すぎると思う。確かにAMFがあって魔法じゃ探知しにくいのかもしれないけれど、肉眼なら確認できるんだし、魔力だったとしても波なら結合を崩されても問題ないと思うんだけど……。

……まあ、いいか。なんでも。

 

放っておいても近付いてくれば関知されるんだろうし、私はもうちょっとのんびりしてようかな。

多分フォワード達とヴィータちゃんとシグナムさんに任せておけばここまでガジェットがやってくるようなことは無いだろうしね。

 

……それにしても、ジュエルシード欲しいなぁ……レイジングハートはちゃんと待っててくれてるし………レイジングハートが高性能になりたいって言ってるんだから、してあげるのがいいマスターって言うものだよね。

 

『ありがとうございます。マスター』

(いいよいいよ、気にしなくても)

 

……あ、そうか。気付かれない内に壊して集めればいいんだね。たいした量にはならないけど、レイジングハートを改造するにはそんなにたくさんは必要ない。だったら……

 

『っ!クラールヴィントのセンサーに反応……シャーリー!』

 

……ちぇっ。一歩遅かったかな。残念。

 

『次があります』

(ありがと、レイジングハート)

 

………でも、残念。やっぱり今回は見送りかなぁ……。

今あるだけで改造してもいいけど、中途半端な改造はレイジングハートに負担がかかるんだよねぇ……。

やっぱりちゃんと使うのに必要な分は全部集めてからにしないと、巡り巡って困るのは私だし……。困った困った。

 

まあ、機会があったらできるだけ集めようかな。ジュエルシードを使った改造でレイジングハートがどうなるか、とっても楽しみだし。

 

前に一度すずかちゃんの家のにゃーたんがジュエルシードで巨大化しているのを見てから、ジュエルシードはかなり具体的な願いじゃないと聞いてくれないんじゃないかって思うんだよね。

例えば『強くなりたい』って願いだったら、何をどうやってどの程度どんな風に強くするのかをしっかり指定する必要がある。

だからにゃーたんの『大きくなりたい』って願いは純粋なサイズアップとして叶えられたんだと思うし。

 

だから、ジュエルシードを使って私がレイジングハートを強化するのは無理だけど、レイジングハートがどう強くなりたいかをジュエルシードに願えばきっとかなえてくれる。

いくら人間臭くても、レイジングハートは機械だからね。ノイズのない純粋な願いなら叶えてくれるよ。多分。

 

……それじゃあジュエルシード集めは次回に期待することにして、今はフォワード達を見守ろうかな。

ヴィータちゃんとシグナムさんが居ればフォワード達のところにまで行くことは無いと思うけど、絶対じゃないからね。

例えば、相手に召喚師や転送が得意な補助魔導師がいれば、結構簡単に抜けてくる可能性もある。油断は禁物だよ?

 

………あ、やっぱり魔力反応……しかも召喚系かな? 何か魔力を持っている生命体が増えてるし。

二人連れの女の子の方は召喚師かぁ……もう一人は……どうだろう?

……まあ、後で話をしてみよう。分身ならすぐにあそこまで行けるしね。

 

だから、もうちょっと待っててね? ルーテシアちゃんとゼストさん。アギトって言うのは……男の子かな? 名前的に。

全部終わったらお話に行くからね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

異伝7 その102

 

side 高町 なのは (ミッドチルダ・機動六課)

 

女の子に呼び出されたのは、多分無機物を操縦する虫。地味にディアーチェちゃんの天敵かもしれないね。

ディアーチェちゃんはさくらさん設定で部下の機兵がいなかったら一番のもやしっ子だし。腕相撲でなら私でも楽に勝てるし。

まあ、ディアーチェちゃんは乗っ取られたあの鎧みたいなのをいつまでも使ってるほど優しくないし、きっとすぐに消して新しいのを出すんだろう。

……いったいあの鎧みたいなのはどこから供給されていて、大体どのくらいあるんだろう? 見当もつかないや。

 

そんなことはどこかに置いておくとして、呼び出された小さな虫に操られたガジェットは突然動きがよくなった。少しだけAMFの濃度も上がったみたいだし、フォワード達じゃあ倒すのはちょっと難しいかもね。

先行しているヴィータちゃんやシグナムさんもそれに気付いたみたいで、ヴィータちゃんが急いで戻ってきてるけど………大丈夫かな?

まあ、スバルについては細かいところはわからないけど、ティアナに関しては少しとはいえ手を出したからね。無茶をしなければヴィータちゃんが来るまで被害ゼロで持ちこたえるくらいはできそうだけど……あの突撃思考があるからなぁ………。

 

あと、上しか見ていないから自分を小さく見てると言うか、他人は良いところを大きく、自分は悪いところを大きく見ているから、なんだか勝手に自分を卑下しちゃってるし……。

ティアナは自分を凡人だって言うけど、ティアナより魔力が低い人や技術が低い人なんて、それこそ掃いて捨てるほどいる。その事に気づきもしないで自分を凡人だなんて、私としては実に下らない思い込みだと思うしかない。

 

……そうだね、致命的で取り返しのつかないような無茶をする前に、一応話をしておいた方がいいかも。

あと、技の数を増やさないと行き詰まるとか考えてそうだから、今の状態はかなり切羽詰まった状態だから、ある程度扱えている武器の性能を上げてる途中だって言っておかないと。

まだまだガジェット相手になんとかなるレベルじゃないから、中距離射撃だけでそこそこのレベルになれたら近接と砲撃……クロスレンジとロングレンジの戦い方も教えていこうと思ってる………みたいな感じで。

 

ティアナは執務官志望らしいし、近接中距離遠距離のどこでもある程度戦えるようにしないとあとで困るもんね。でも、今ここで無茶をして体を壊したりしたらもっと困るだろうし………まったくもう。先生って言うのは中々大変みたいです。

 

……あ、ミスショット。しかもスバル直撃弾。危ないなぁ。

……えい。

 

……よし、撃墜成功。放っておいてもヴィータちゃんが間に合ってただろうけど、一応このくらいはやっておかないとね。

 

『とりあえず、ティアナとスバルはヴィータちゃんに任せて一回下がろうか』

『な……なのはさん……?』

『ち、違うんです!その、これもコンビネーションの内って言うか……』

『本気でそんなことを言ってるんだったら、もう一度陸士学校に戻ってもらわなくちゃいけなくなるんだけど? いいから一回下がって』

 

流石にあの勢いと負荷の中で二人の力で無事に終わらせることができたとは思えない。そんな真似ができるんだったら私の訓練前の体操(つい最近までこれだった。体力とか判断力が絶対的に足りてなかったから)の半分くらいが必要なかったんだけどね。

 

『ヴィータちゃん。後はよろしくね』

『おう。……ところで、さっきの魔力弾って白かったよな? どうやったんだ?』

『大気中の魔力だけで作るとそうなるの。私の魔力がちょっとでも混ざるとピンク色が出てくるんだけどね』

『マジで化物だな』

『ヴィータちゃんは今日の差し入れのシュークリームがいらないみたいだね? 代わりに私が食べておいてあげるよ』

『あたしが悪かった。シュークリームを下さい』

『いいよー♪』

 

ヴィータちゃんはガジェットと戦いながらそんな風におしゃべりをしてくれる。ヴィータちゃんも随分私に慣れてきたよね。

昔はシールドエッジを見ると半狂乱になったのに、今じゃ普通に対応できるし。

フェイトちゃんももう少しでピンク色の光を見る度にビクビク怯えることが無くなりそうだし、はやてちゃんは………最近また酷くしちゃったからしばらくかかりそう。

シュークリームでご機嫌とれるからまだいいんだけど……そうだね、六課のお給料で翠屋のシュークリームを六課の人数分買って配ろうかな。リインは0.5人でカウントして、はやてちゃんは1.5人分食べれば……いやいや、リインなら一人分くらい食べちゃうね。

よし、それじゃあ一人一つで用意しとこっと。

 

……ついでにガジェットの中の小さな小さなジュエルシードも集めとこう。塵も積もれば山となる。千里の道も一歩から。レイジングハート強化計画はひっそり進んでいたりします。

 

……強化と言うより狂化って言った方が正しいような………気のせいですね。だって狂ってはいませんから。一応ですけど。

狂ったような改造ではありますが、ちゃんと成功の目処も立っていますし。

 

……ああ、来た来た。レイジングハート。纏めて封印しようか。

 

『はい、マスター』

 

こっそりこっそり、封印完了。魔力は粒子であり波だから、波の方向を弄って探知させないようにしたからだーれも気付かない。こっそりなにかをするには便利だよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

異伝7 その103

 

side 高町 なのは (ミッドチルダ・機動六課)

 

ティアナを下がらせてジュエルシードをこっそり回収した私は、一応ティアナを軽く叱ってからお仕事に戻る。

本当はあんまり叱るとかはしたくないんだけど、やっぱりたまにはやらなくちゃいけないからね。

けど、フォワード達は基本的に真面目で素直な子達だから、叱って伸ばすよりも誉めて伸ばす方がいいんだよね。

 

ほら、私は基本的に叱ってからいいところを誉めるタイプだから、あんまり新人教育とかには向いてないんだよね。

それをなんでかはやてちゃんは私に教導官の真似事をさせたがる。ヴィータちゃんのお手伝いって事ならなんとか誤魔化しが効くからなんだろうけど、あんまりおすすめしないよ?

私が入るか入らないかで毎回訓練方法が変わってたらヴィータちゃんも大変だし、だからって私は毎回訓練に参加しようとは思わないしね。

 

そんなわけでティアナを軽く叱り終えてから、一応ヴィータちゃんと一緒に教導の狙いをティアナ達に伝えようという話をする。

ヴィータちゃんは不思議そうだったけれど、ティアナの問題点と言うかそう言うのを伝えて納得してもらった。

 

ただ、最近まで私は訓練じゃなくて準備体操みたいなものしかやったつもりはないと言ったら、ヴィータちゃんはひきつったような表情を浮かべていた。

魔法を使うのには体力も必要だ。だから私はランニングを欠かしていないし、分身の一体の旅に乗り物を使うことはほとんど無い。

分身のトレーニングの分までフィードバックできるようになったのは嬉しいけど、その時分身が大怪我をしてたりしたら怪我までこっちに来ちゃうんだよね。

まあ、分身の方のフィードバックはやるからやないかを選択できるし、そういう時にはやめればいいだけなんだけど。

 

……ああもう、また話が逸れた。今はこれからのティアナ達の訓練メニューについてだってば。

概要は今まで通りで、内容の意味をしっかりと伝えて中距離射撃戦の基礎を確立させる。

それからクロスレンジとロングレンジの戦い方を教える訳なんだけど、ロングレンジはともかくクロスレンジは懐に潜り込まれた時の緊急用だから、とにかく相手を引き離す事に特化しつつ、一応相手に止めをさせる必勝の小技を一つ教える。

それにはやっぱり体力が必要になるから、これまで以上にしっかり体力作りをしていかないとね。

 

……なお、シュテルちゃんはロングレンジだろうがミドルレンジだろうがクロスレンジだろうが砲撃をよく使います。拳撃に『星』を乗せる『星拳』や、ミドルレンジを征する『星群』。遠距離からのピンポイント攻撃の『星撃』等々、盛りだくさんです。

攻撃力が上がっていくと、『星』から『流星』とか『月』になったりもしますが、今のところそこまでしか見たことはありません。

 

……そう言えば、レイジングハートの整備を全然していません。さくらさんに今度頼んでみようと思います。

ルシフェリオンが作れるんですから、できますよね? 多分ですけど。

 

 

 

 

 

side 高町 なのは (ミッドチルダ・翠屋)

 

…………えーっと……ああ、もう一度何が起きたのか思い出しながら整理してみましょう。

 

まず、私がさくらさんにレイジングハートの整備ができないかと聞いたら、さくらさんはポケットからジュエルシードを一つ出して手渡してきた。

そして『それを使って整備と強化をすればいい』と言われたけれどビックリしすぎて反応しないでいたら、不思議そうな顔で『足りないのか? じゃあもう一つ』ともう一個出てきたジュエルシードを渡されて、とりあえず言われた通りにレイジングハートの整備と強化を終わらせて……。

 

……うん、なんでさくらさんのポケットからジュエルシードが出てきたのかがわからない。

……嘘です、何となく理解できます。

ジュエルシード事件で管理局が回収したジュエルシードの個数は19。本当は21なくっちゃおかしいんだけれど、どこをどう探しても残りの二個は見付からず、最終的に見付からなかった二つは地球に来ていなかったんだろうという話になった。

 

しかし、恐らく実際にはジュエルシードは全て地球に降ってきていたけれど、私にもフェイトちゃんにも見付からないうちにさくらさんが二つほど拾っていたんだろう。そして今の今までさくらさんのポケットの中で眠っていたと。

 

……流石さくらさんと言うべきか、やっぱりさくらさんかと呆れるべきか、さくらさん何やってるのと突っ込むべきか迷いますが……ここは気楽にスルーしましょう。心労は持ちたくないですし、悪いことでもありませんし。

 

さて、それじゃあレイジングハートの強化改造も終わったところだし、ちょっとアンダーグラウンドサーチライトの中で性能を確かめようかな。

前にスバル達に確認させたのに、私が確認しないわけにはいかないし。

それに、確認しないと怖くてしょうがないしね。

 

だって、多分大丈夫だとは思うけどジュエルシードだよ? ロストロギアだよ? 分身に何度か使わせてみないと怖くて怖くて。

分身で安全を確認して、全力起動をして、それから私が自分でやってみて、それからじゃないととてもとても。

私は臆病なんだよ? そんな怖いことができるわけ無いじゃない。常識的に考えなよ。

 

『あんたにだけは言われたくないわよっ!』

 

あ、アリサちゃんのツッコミが聞こえた。アリサちゃんも大概非常識になったなぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

異伝7 その104

 

side 高町 なのは (ミッドチルダ・翠屋)

 

あれから一週間が過ぎ、レジーとの約束の日になりました。地上本部はまだ色々なところで起きている犯罪者を相手するのに忙しそうですが、きっと嬉しい悲鳴と言うものでしょう。

昔に比べれば犯罪発生率も大幅に減っているのでけして組織を回せない程忙しいわけでは無さそうです。

毎日毎日私からの通報でミッドチルダ中を飛び回っている管理局地上本部の皆さんには、頑張ってもらいたいですね。

 

そうそう、あまり関係はありませんが、ミッドチルダ地上では子供たちの将来の夢が『本局の武装隊員』や『次元航行艦の艦長』よりも『地上で家族を守りたい』というのが増えてきているようです。

レジーにとってはいいことでしょうね。未来の地上は安泰かもしれませんよ?

 

……なんて考えながら、私はリシュと一緒にレジーのいる最上階へのエレベーターに乗っている。

……忘れている人に一応言っておくと、リシュって言うのはオーリスさんのことですよ? 渾名みたいなものです。

お仕事中はリシュではなくオーリスさんと呼んでいますが、プライベートで翠屋に来てくれた時などにはリシュと呼んでいます。

 

……私のプライベートな話は置いておきまして、今はレジーとのお話し合いです。

昔とは違って割と柔らかな空気ですし、私はリシュの好きな甘めのケーキと、リシュがいつも持ち帰る苦めのケーキの二種類のケーキが入った箱を受け渡す。

 

「お土産です」

「後で食べさせてもらおう。オーリス。冷蔵庫に入れておけ」

 

レジーの視線を辿ってみると、部屋の隅には備え付けの冷蔵庫が一つ。翠屋の業務用冷蔵庫とは比べ物にならないくらい大きさに差があるけれど……あ、中身は翠屋で最近売り出したバウムクーヘン(自作。手作りだから量は少ないけれど美味しいよ?)が入っているみたい。よく手に入ったね? あれって本当に朝早くに売り切れちゃうんだけど。

 

……っとと、今はケーキの話じゃなくて、色々な細かい裏の話です。

リシュ……じゃない、オーリスさんはちゃんとこの事を知っていてレジアス中将に協力しているらしいので、人払いとかはしなくても大丈夫かな。

 

私は笑顔を少し抑えて、管理局地上本部の重鎮たるレジアス・ゲイズ中将に向き合う。

 

「……とりあえず、私に翻意はありません」

「わかっておる。何年お前を見てきたと思っている」

 

精々五年くらいだと思うけど、五年もあればレジアス中将には十分すぎるのかな?

確かに私は自分の願いを隠すような真似はしてなかったけど、結構信用されてるんだね。信頼は……されてるのかされてないのかわからないけど。

 

まあ、私の言葉を信じてくれるなら話は早い。こういう面倒な話はさっさと終わらせるに限るからね。

 

「それじゃあ、いつも通りに言いたいことだけ言わせてもらいますね」

「そうしろ。まだるっこしい話をするのは信用できん奴だけで十分だ」

「了解。それじゃあ率直に………公開意見陳述会……狙われてますよ」

「ほう? 地上本部の防御が抜かれると?」

「抜く必要なんて無いでしょう。囲んで無力化してしまえば墜ちたも同然です。その状態で町に被害が出ても、何もできないでしょう?」

 

正直に言って、地上の戦力じゃあガジェットの群は相手をするのは難しいだろう。いくら地上の武装隊が優秀でも絶対量が少なすぎるし、ガジェットだけではなく戦闘機人も混ざってくるとなればさらに難しい。航空隊は特に数が少ないしね。

 

……まあ、とある事情で地上隊でも対空戦闘ができる人は多いけどね。

 

それに、数が揃えば揃うほどにAMFは強くなる。そんな中で魔法を使うには、相当固く魔法を組まなくちゃいけないだろう。

 

私の言葉でそれを理解したのか、レジアス中将は顔を歪めた。

 

「……ですから、その時だけ臨時で人を雇いませんか? 超広域殲滅魔法の使い手で、中々強いですよ?」

「……条件はなんだ?」

「当日、高町なのはもそこにいるでしょうから、デバイスを持たせてあげてください」

「………………」

「………………」

 

じっ……とレジアス中将と視線を絡ませ会う。あんまり心臓にはよくなさそうな空気なんだけど、ここで引いたらなんとなく大変なことになりそうなんだよね。

 

「……いいだろう。条件付きで許可する」

「緊急事態以外には使わない、だけでしたら了承しましょう。地上の局員に対して攻撃魔法は使わないと言うのも了承です」

「成立だ」

 

よし、これで大体のことはできたかな。レジアス中将とのお話し合いは心臓に悪いけど、さくさく進んでいいよね。

 

「それで、紹介される人材についてのデータは?」

「星光の殲滅者です」

「……お前のライバルだったな」

 

あら、そろそろバレてもおかしくはないと思ってたけど、どうしてわかっちゃったのかな?

 

「……一応隠してたつもりだったんですけど、よくわかりましたね?」

「お前が今、翠屋に居ることを確認している。………どうやっているのかは知らないが、お前は複数の場所に居ることができるのだな?」

 

……まあ、確かにその通り。ついでに、今の戦闘に耐えられるレベルの分身の最大数は11。修行は他の人と一緒にやるのもいいですね。

 

「大正解です。スカリ博士には黙っておいてくださいね?」

「無論だ」

 

ああ、よかった。バレたら研究されちゃうからね。管理局とか一部を除いて大嫌いです。

 

……それじゃあ、今日はこのくらいにしておこうかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

異伝7 その105

 

side 高町 なのは (ミッドチルダ・機動六課)

 

毎日毎日きつい訓練を繰り返して、その上自主練までしている努力は認めるよ? 私は他人の努力はしっかり認めてあげる派だからね。

だけど、努力だけを純粋に認めるのは訓練まで。実戦は疲れた体じゃあ危ないし、それ以前模擬戦闘でティアナのいいところである中距離からの精密射撃を捨ててまで苦手な分野の接近戦を仕掛けようとしてくるのはありえない。

そして、スバルの防御力を信じて囮にしたのかどうかは知らないけど、とりあえずティアナは私のことを甘く見すぎだね。私が手加減してなかったらスバルの首から上は消し飛んでたよ? やってないけど。

 

幻影に砲撃させるように見せかけて、中距離から削るんだったらまだわかる。スバルのウイングロードの上にスバルの幻影を置いて、スバル本人はミラージュハイドで隠れてもらって二重に引っ掻けようとするくらいだったら、練度によっては私でも音がなかったら引っ掛かっていたかもしれない。多分私も引っ掛かってあげていたと思う。

 

……だけど、流石にこれまでの準備運動の意味を教えて、それでもこれからの四人の理想形に向けていくためにやっていた訓練の内容を無視されちゃったら………私としてはちょ~っと腹が立つ。

 

魔法の危険性を忘れてこんなことをするなんて、管理局員とは思えないようなことをするよね。ああ怖い怖い。この子達の将来はいったいどうなることやら。

 

…………おしおき、しちゃおっかな?

 

 

 

 

 

side ティアナ・ランスター

 

練習成果の一つ、クロスシフトC。それは、今のところ上手く嵌まっている。

なのはさんは私の幻影とスバルに気をとられて、本体である私には気付いていない。

 

スバルは練習通りになのはさんの弾幕をすり抜け、時に防ぎながらなのはさんに接近。そしてプロテクションに拳を叩きつけて動きを止める。

 

私はスバルの作ったウイングロードを駆け登り、カートリッジをロードして作った圧縮魔力刃をなのはさんに向けたままにウイングロードから飛び降りる。

狙いは、なのはさんの頭。常に周囲に張られているバリアを切り裂いて、威力が減衰するより早くフィールドを突き抜ける、一撃必殺技。

 

この時点でなのはさんはスバルにだけ視線を向けていて、私達の作戦は確実に上手くいくことを予想させた。

 

「━━━ぁぁぁああああああっ!!」

 

━━━そして、予想の通りに私の作った魔力刃はなのはさんに届いた。

私の視界では、私の作った魔力刃がバリアをゆっくりと切り裂く瞬間を捉えた。

ゆっくり、ゆっくり、まるで粘度の高い水飴をヘラで切り進む時のような抵抗を感じるが、私はなのはさんにクロスミラージュの銃口を向けながら落ちていく。

 

バリアを貫いた瞬間、少しずつ威力が削がれていくというフィールド特有の存在を感じ取るが、なのはさんはすぐそこだ。このままの勢いなら、十分な威力を持ったまま魔力刃を突き立てることができるだろう。

私は、クロスミラージュに魔力をみなぎらせながら、なのはさんに向けて最後の一押し。

全力で、なのはさんに向けてクロスミラージュを突き出した。

 

………その瞬間、感じたのは違和感。クロスミラージュを持つ右手に、妙な感覚がした。

何度も練習した感触とは違う。しかし、失敗しているわけではない。

 

確かに魔力刃はなのはさんに直撃している。魔力刃が何かを貫いた感触もある。だから、失敗しているわけではない。

むしろ、感触が強すぎるのだ。

まるで、昔に少しやったことがある料理の時に、やり方がわからなくて包丁を肉に突き立ててしまった時のような……けれど、それよりずっと硬い感触。

 

その感触に対する謎が晴れる前に、爆煙が広がって答えを覆い隠してしまう。

しかし、答えはこれ以上無いほど明瞭に現れた。

 

私の頬に、何かが触れる。クロスミラージュを握る右手にも、熱い液体が飛び散った。

同時に濁った機械の回転音と、水音。まるでハンバーグのタネを作る時、挽肉をかき回しているような音がする。

 

「あ……あぁ………」

 

弱々しいスバルの声が聞こえる。ゆっくりとリボルバーナックルの回転音らしい音が消えて行き、それと比例するように何かをかき回す音が小さくなっていく。

煙が晴れて行き、少しずつ周りが見えるようになってきた。

 

そこで、初めて目に入ったもの。それは、手首まで深紅に染まった私の腕と、魔力刃を煌々と光らせ続けるクロスミラージュ。その魔力刃は途中で折れているかのように短いが、感覚としてはちゃんともとのままの長さで存在しているということがわかる。

 

「……あ゛……わる゛い゛んだけど、スバル゛?」

「ひっ!?」

 

突然聞こえてきたのは、いつもとは変わり果てたなのはさんの声。そして、何かに怯えるようなスバルの小さな悲鳴。

そうしている間にも煙は晴れていって、私がさっき感じた違和感の全貌を見せつけた。

 

「ぁ……ぁあ………っ!?」

「……あ゛、ティア゛ナも゛だけど………う゛ごかさな゛いでね゛? …………死ん゛じゃうがら゛」

 

肩に、私の魔力刃が深々と突き刺さり、そこから鼓動に合わせてか血がリズムよく吹き出している。

スバルの右拳はなのはさんのお腹を貫き、拳の一部が背中から見えてしまっている。リボルバーナックルの回転部分は丁度なのはさんのお腹に埋まっているので、さっきまでの挽肉を混ぜるような音は恐らくその音だろう。

 

なのはさんの手はスバルの腕を握っていて、引き抜かれないようにしている。

それと同時に私に浮遊魔法をかけて、これ以上魔力刃が体に食い込まないようにしている。

 

「わ……わたしたち、こんな………」

『ふふ……わかってるよ。ふたりとも、いいこだもんね………』

 

ずぢゅる……と鈍い水音を立てて、スバルの拳が少しずつ引き抜かれていく。

 

『……だから、私からのプレゼントだよ?』

「あ……そんな……」

「なのはっ!だめぇぇぇっ!!」

 

フェイトさんの声と同時に、なのはさんの体からスバルの腕が引き抜かれ、お腹の傷から真っ赤な血が溢れ出す。

 

『……ふふ……卒業、おめでとう』

 

それだけ言って、なのはさんはぐらりと体勢を崩す。

魔力刃が肩の肉を引き裂きながら外れ、なのはさんはウイングロードを踏み外して落下していく。

 

あ………。

 

「なのはさぁぁぁぁぁぁんっ!!」

 

スバルの絶叫が響き渡る。しかし、なのはさんの体は止まることなく落ちていって、衝撃で崩壊したビルの土煙中に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

異伝7 その106

 

side 高町 なのは (ミッドチルダ・機動六課)

 

「はい、それじゃあ今回の模擬戦の反省なんだけど……」

「待ってよなのは!? 何事もなかったかのように話を進めるのはやめて!?」

「えー……じゃあどうすればいいの? あんな酷い傷を受けた上にウイングロードから浮遊魔法も飛行魔法も使わないで自由落下してどう考えても挽肉になるかぐちゃぐちゃになるか死ぬかぐらいしか無い中でどうやって生き延びてあまつさえあれから30分くらい探し続けても見付からなかった私が隊舎で普通に書類作ってて問い詰めようとした途端になんでもないかのようにこうして普通に自分の足で立って行動できている上にさっきの模擬戦がただの幻覚かなにかだったんだよと言い聞かせようとしたところで私から模擬戦の反省という言葉が出てきてああやっぱりさっきのあれは現実だったんだと理解させられたからとりあえず落ち着こうとしてわからないことを手当たり次第に聞いてみようとして一番最初に出てきた私がどうやって助かったかをゆっくり説明してほしいとか?」

「あたしとしてもその説明はほしいところだなぁマジで」

「えぇ? ヴィータちゃんも?」

「なんであたしが聞くと驚くんだよ?」

「だって、ヴィータちゃんは私よりずっと年上だから年の功で簡単に予測してくれるって思ってて……」

「確かにあたしは長く生きてきたけどな!お前みたいな常識を濡らしたティッシュを先端の尖った鉄パイプで貫くみたいに突き破る理不尽極まりない奴なんかあたしの記憶には一人たりともいねえっつーの!」

 

酷いなぁ。私なんてさくらさんの踝にも及ばないのに。

……及んだら及んだでちょっと落ち込みそうだけど。

そんなことを考えつつも、私はヴィータちゃんとフェイトちゃんに対する説明の内容を分かりやすく纏め始めていた。

 

「……話すと長くなるんだけど」

「三行でお願いね、なのは」

「…………。

実体のある分身と幻術を組み合わせてあれを作った。

教えたことを完全に無視されて少しいらっときたから躊躇わずやった。

さっき表情がなくなってひたすら『ごめんなさい』を繰り返しながら自殺しようとしたから落ち着かせるために一回気絶させられた二人を見て、ちょっとやりすぎだったかもと思っている。

でも後悔はしていない。全くしていない」

「ちょっとじゃねえよ確実にやりすぎだ!あんなんされたら大体の奴はトラウマになって一生魔法が使えなくなってもおかしくねえぞ!?」

「ああ、それは大丈夫。さっきちょっと魔力を関知されないほど薄く作って半透明にしかならない幻術で作った私に二人を応援させてきたから。それでも駄目なら直すし」

「怖いよ!? なんで人に『直す』を使うの!? 『治す』だよね!?」

「普通はね」

 

……あと、四行やってみたのにツッコミは来ないんだね?

 

「できる状況に無いからね!」

「他ん所にツッコミ入れるだけで精一杯だわぁ!」

 

そう。たーいへん。

 

 

 

 

 

side スバル・ナカジマ

 

瞼の裏に、あの時の光景が焼き付いてしまっている。

あの爆煙の中でも、戦闘機人である私は視界を失うことはない。

そのせいで、私ははっきりとその瞬間を見てしまっていた。

 

なのはさんの体に突き刺さる、私の拳。砕かれた骨片や筋にリボルバーナックルが絡まって起きる断続的な抵抗と、ぶちぶちとそれらを引きちぎりながらなのはさんの肉を掻き分けていく拳の感触。

突き刺さった場所から真っ赤な血が溢れ、私の腕とリボルバーナックルを染め上げる。

そして徐々に体温を失っていくなのはさんの体と、そんなことを微塵も感じさせない、なのはさんの真っ白な笑顔。

 

手を見てみると、さっき洗ったばかりのはずなのに、鉄錆のような臭いのする真っ赤な液体で染まっている。

それを見た途端に、ごぽりともうなにも入っていないはずの胃からなにかがせりあがってきて、私は思わずトイレに駆け込んだ。

 

出てきたのは、赤。そして鉄錆の臭い。それを吐いて、吐いて、吐いて、吐いて…………どれだけ吐いても止まらない。

 

周囲が真っ赤に染まる。右腕が真っ赤に染まる。床が、体が、全身が、真っ赤に染まる。

赤い赤い赤い場所。赤は形を変えて、燃える空港になった。

そこには私となのはさんが居て、私はなのはさんの手を握りながら、ゆっくりと歩いている。

 

『なのはさんの手は暖かいですね』

 

小さな私は笑顔を浮かべる。なのはさんも、透明な笑顔を返してくれる。

 

『そうかな? だって、ほら』

 

どろり、と、私の手に赤いものが伝う。いつの間にか私の体は大きくなっていて、訓練用のバリアジャケットに身を包んでいる。

 

目を向けると、私はまた赤く染まっていた。左手にはなのはさんの右手が握られていて、どんどんと温もりが失われていくのがわかる。

 

『……ね? どんどん冷たくなっていくでしょ?』

 

ゆら……となのはさんの体が倒れる。ウイングロードの下には真っ黒の闇が広がっていて、なのはさんはいつまでも落ちていく。

私は手を伸ばしてなのはさんを助けようとするけれど、なのはさんにはもう届かない。

私はなのはさんの名前を必死で呼ぶ。けれどなのはさんは答えてくれない。ただ、ゆっくりゆっくり落ちていく所を見せ付けられる。

 

そしてついに、なのはさんの体か完全に見えなくなってしまったところで、私は目を覚ます。

全身が汗でぐっしょりと濡れていて、服が張り付いて気持ちが悪い。

 

『起きたみたいだね、スバル』

「……なのは……さん………?」

『うん、そうだよ?』

 

声のした方向を向くと、そこにはなのはさんが座っていた。

にこにこと笑いながら、私をじっと見つめているその姿は、まるで…………。

 

「……夢?」

『スバルがそう思うなら、そうなんじゃないかな?』

 

なのはさんはいつものように軽い口調で答えてくれる。けれどその体は僅かに透き通っていて、まるで都市伝説の幽霊みたいだ。

なのはさんはまだ笑顔を浮かべているけれど、私はただ口から溢れるに任せて言葉を紡いだ。

 

「……ごめんなさい」

『なんの話?』

 

どこか遠くから聞こえてくるような声に、感情に任せて言葉を発する。

 

「だ、だってなのはさんのお腹……私が……」

『ああ、うん、痛かったよアレ。慣れてるし別にいいけど……』

 

そう言って、なのはさんは私のことをじっと見詰める。

 

『いい? 魔法は『比較的クリーンで安全な力』なんて言われてるけど、使い方次第じゃこんなことも簡単にできちゃうんだよ?』

「……はい」

『そして私は、スバル達がそんな風にならないようにってはやてちゃんが無理して雇ってくれたの。だから私は、ある程度とはいえスバル達のことに責任を持たなきゃいけないの。わかる?』

「……はい」

『………だから、危ないことをしようとしていたり、明らかに破滅に向かっていたりしたら、私はこうして止めるんだ。あの時、魔法が怖いものだっていう意識なんて、欠片も持ってなかったでしょ? ティアナも、スバルも』

 

少しは怖いものだっていう自覚を持ってくれたかな? と、なのはさんは笑う。

 

「……はい。凄く、怖いです。魔法を使うのが……」

『こらこら、そうじゃないってば』

 

すっ、と俯いていた顔をあげると、なのはさんが真剣な目で私を見ていた。

 

『用は使いようだよ。魔法は人を傷つけるだけじゃなくて、守ることだってできるんだから。質量兵器だって魔法だって、結局は使う人の意思次第なんだから……上手に使うんだよ?』

「……はい!」

『ん。いい返事』

 

なのはさんはにっこりと笑って、私の頭を撫でてくれた。

暖かいような冷たいようなよくわからない感触だったけれど、なんだかとっても落ち着けた。

 

『……まだ夜だし、今日はいっぱい寝て、しっかり体を休めてね』

 

その言葉を最後に、私は重くなる瞼をその重みに逆らわせることなく閉じて、ゆっくりと意識を沈めていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

異伝7 その107

 

side 高町 なのは (ミッドチルダ・機動六課)

 

……よし。それじゃあ次はティアナかな。ティアナもそろそろ起きると思うんだけど、準備は万端に整えておかないとね。

そう考えながら、私はアリス・イン・ワンダーランドを起動する。人の感覚どころかデバイスまでも狂わせる薄い霧の中で、私はスバルにも使った幻術を使う。

 

……スバルは割と大雑把だけど、ティアナは鋭い上に細かいところにまで気を使うからなぁ……きっちりかっちりしっかり騙さないと。

 

 

 

 

 

side ティアナ・ランスター

 

目を覚ますと、私は真っ暗な場所にいた。いつも起きてすぐに目に入る相方のベッドの裏側ではなく、もっと高い場所にあるように見える。

 

『ああ、起きたんだね、ティアナ』

 

頭の中に直接響く念話とはまた違う、遠くから響いてくるような聞き覚えのある声がした方向に振り向くと、そこになのはさんがいた。

慌てて起き上がろうとすると、なのはさんは苦笑してそのままでいいと言ってくれた。

 

『……さて、それじゃあちょっと反省会ね。スバルは先に起きたから個人スキルのところと意識の持ち方にダメ出ししたところなんだけど、ティアナにはもうちょっと厳しく言っておくからね? 主に意識の持ち方を』

「……はい」

 

私は俯いて、なのはさんの言葉を聞く。

 

曰く、スバルの軌道については加減してなかったらカウンターになって一撃で脳震盪を起こして落ちる危険性があった、とか。

曰く、拳が当たる前にスバルの顔のすぐ前にシールドを出せばなのはさんに攻撃は当たらずスバルが首にかなりのダメージを受けていた、とか。

曰く、最後の私のアレなんて砲撃を一発撃ち込めば逸らして地面まで落としてイヌガミケ(イヌガミケって何でしょうか?)だった、とか。

曰く、あれじゃあ下手したらスバルも私も無駄死にという結果に終わる可能性が非常に高かったとか、本当に色々ダメ出しされてしまった。

 

『……とまあ、技術的なダメ出しはこのくらいにしておいて、次は心構えの方のダメ出しかな?』

「………………はい……」

 

もう心が折れそうです……なんて言う弱音を吐きかける自分自身を叱咤して、なのはさんに向き合う。

心構えでダメ出しがあるって言うことだけど、いったいどんなダメ出しなんだろうか?

 

『……とりあえず質問なんだけど、ティアナはお兄さんの後を継いで執務官を目指してるんだよね?』

「? はい」

『じゃあ、どうしてあんな変なことを言ったの?』

 

変なこと? 私はいつ変なことを言ったんだろう?

 

首をかしげていると、なのはさんは軽くため息をついた。そしてまた私に視線を合わせる。

 

『私はね、ティアナ。七年とちょっと前にミッドチルダに来たんだけど……その頃はまだティーダさんは生きてたよね?』

「……はい」

『それで私はティーダさんのことを知ってるんだけど……ティーダさんの弾丸は、どんな時にも守るために存在していたはずなんだよね』

「ッ!?」

 

そう言われて、やっとさっきのなのはさんの言葉の指すものが理解できた。

それは、私がミスショットをしたあの出動の時の言葉。

あの時、私はこう言った。

 

『“ランスターの弾丸は、ちゃんと敵を撃ち抜ける”……だって?』

「あ……あれはっ……」

『“あれは”………なに?』

 

なのはさんの言葉に、私は答えることができなかった。

一度言った言葉は言っていないことにはできない。それは当然のことだけれど、それでも私はできることならばあの時の私を黙らせたいと思っていた。

あれだけ兄の夢を叶えると豪語して。それができるのは私しかいないと言っておいて。その私が兄を裏切ってしまった。

 

私の目から涙が溢れる。視界が滲み、嗚咽が漏れ始める。

 

『大丈夫だよ、ティアナ』

 

ふっ、と体が何かに包まれるような感覚がして、すぐ近くでなのはさんの声が聞こえる。

それで私はなのはさんに抱き締められていると言うことに気付いたが、力が入らない。

 

『確かにティアナは間違ったことをしていたかもしれないけれど、それに気付くことができたじゃない』

 

なのはさんの言葉が、私の脳裏に染み込んでいく。

なんだかなのはさんの声をきいているだけで、頭の奥がぞわぞわしてくる。

少しずつ私の息が荒くなってくるけれど、なのはさんはそれを気にせずに言葉を続ける。

 

『それに、ティーダさんは優しいからね。間違いをしていたとしても、間違っていたことに自分で気付くことができたティアナを叱るような人だったかな?』

 

なのはさんの胸に顔を埋めて、首を横に振る。兄さんは、間違っていたことに気付いたときにはちゃんと誉めてくれた。

 

『うん、そうでしょ?』

「ひっく……えぐ………」

 

しゃくりあげているせいで頷くしかできない私の頭を、なのはさんが優しく撫でてくれる。

なのはさんの服に染みを作ってしまうんじゃないかとか、いろんなことが頭によぎったけれど……どうしても涙を止めることができそうにない。

 

『……それじゃあ、今日はいっぱい泣いて、いっぱい寝て、また明日からがんば』

 

突然、アラートが響き渡る。どうやらどこかにガジェットが出てきたみたいだけど……………なのはさんがすごく怖い。

 

『……ティアナとスバルは出動待機から外れとこうね? かなり疲れたでしょ?』

「……はい。休ませていただきます」

 

……私は、そう答えることしかできなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

異伝7 その108

 

side 高町 なのは (ミッドチルダ・機動六課)

 

なにもない海の上を、ガジェットⅡ型が隊列を組んで飛び回っている。

ちょっと本気で耳を澄ませてみると、この間の召喚師の女の子がスカリエッティと通信をしている事に気が付いた。

とりあえず今はそっちの方は無視することにして、ガジェットの方から片付けないと。

 

……スカリエッティの狙いはこちらの戦力偵察らしいから、レイジングハートの新フォームも私の本気も出せないし……要するにそれはいつも通りってことなんだけどね。

……八つ当たりってことはわかってるけど、それでも潰したいなぁ……壊したいなぁ………。

 

「……あ………あのぉ……なのはちゃん?」

「……どうしたのかナ?」

「ヒィ!?」

 

あれ、なんだか凄く怯えられちゃった。そんな脅かすようなことなんてしてないのに。

 

(ふぇ、フェイトちゃん!なのはちゃんの瞳がネコ科の動物みたいになっとるよ!?)

(………)

(……なに書いとるん?)

(ほら、私って執務官で、結構お給料もいいじゃない)

(そやなぁ……で、それがどうしたん?)

(…………私が死んだら、私が保護責任者をやってる子供達に綺麗に分配しないといけないじゃない?)

(既に生き延びることすら諦めとる!?)

 

……二人とも酷いなぁ。まるで私が本気でキレてるみたいな扱いじゃない。ちょっとイライラしてにゃんこ目になっちゃっただけなのに。すずかちゃんだってちょっとイライラすればにゃんこ目になるんだよ? 普通普通。

私が本気になったら、目を閉じて耳に集中してるだろうから目なんて見えないよ。……言わないけどね。

ただ、見せるべきところでは見せると思うよ? 相手を落ち着かせる時とかは、しっかり視線を合わせた方がいい時だってあるからね。

 

そんなわけで多少イライラしながらも、ティアナとスバルは今回は休ませることを伝えてからヘリに向かう。

今回出動するのは私とフェイトちゃんとヴィータちゃんの三人。空戦だからフォワードのみんなは連れていけないんだよね。つれて行っても足手纏いにしかならないし、危ないし。

 

……でも、どうしてみんな私から引いてるんだろう? フェイトちゃんもそうだし、ヴィータちゃんはさらに分かりやすい。キャロなんて半泣きになってるし、フリードも怯えて丸くなってる。

……まったくもう。いったいどうしちゃったのかな?

 

「はーイ、それじゃあこれから18歳以下オ断りのガジェットは強制参加の殲滅ゲームの会場に出発したイと思イまース♪」

「ヒィ!?」

「ッ……!(ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ…………)」

「キュクゥ……(ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ………………)」

 

……うん、ちょっと不謹慎だったかな。わかってはいるんだけど、こうやってテンションを無理矢理にでもあげておかないと、黒化しちゃいそうだから仕方無いんだよね。

 

ちなみに前に黒化した時は、なんと言うか凄まじく荒っぽくって喧嘩っぱやい荒くれさんみたいになっちゃったんだよね。

確かあの時は有志を募って(隠れ潜んでテロの計画を練っていた犯罪者達をこっそり捕まえて)、それから派手に花火を上げたんだっけ。

口の中から肺に魔力をゆっくり詰め込んでいくと窒息してどんどん顔が青ざめていくのを見て死なない程度に加減して、仕方無く次はお腹の方に入れて浮遊魔法で上空に放り出してお腹の中の圧縮魔力を炸裂させると、その魔力を詰め込まれた人の魔力光の色に輝くから、それで『………ハ。汚い花火だ』って言うのを何回かやったら必死に命乞いをしてきたからとりあえず全員が記憶を無くすまでスターライトブレイカーを撃ち込んで地上本部の人に通報したんだっけ。

 

……私がやったって言う証拠はどこにも残ってなかったよ? アリス・イン・ワンダーランドは凄いですね。

 

…………忘れてた。一応非殺傷設定だったよ? 一部を除いてだけど、そんなに変わらないからね。

 

「さア、ヴァイス君。出発しよウ?」

「り、了解ですなのは様!」

「アはははははは………『様』なンてつけなくてイイよ?」

「失礼しましたなのはさん!」

 

びっしぃぃ!と凄く綺麗な敬礼をされてしまった。そうか、今の私はそんなに怖いか。

 

私は心を落ち着けるために、ゆっくりと深呼吸をする。

頭の中でバイオリンを弾いて、シュテルちゃん達と一緒に演奏会を開いて………うん、落ち着いた。

 

ゆっくりと目を開いて、それからヘリに乗る。

離陸のちょっと前にエリオ達の方に振り向いて、一言残しておく。

 

「厳戒体制が解かれるまではお仕事だから、眠いかもしれないけど頑張って起きててね?」

「はいっ!」

 

びっしぃぃ!と敬礼。どうやら怖さは抜けないらしいね。

ああ、悲しいなぁ。自業自得なんだけど。

 

 

 

 

 

side フェトソン君

 

「……ねえ、ヴィータ」

「……なんだよ、フェイト。あたしは今忙しいんだ」

「……ガジェットって、バインドで捕まえられ」

「あーあーあー聞こえねえ、あたしはなーんも聞こえねえ。忙しいって言ってんだろ後にしろよ」

「そっか、ごめんねヴィータ」

 

私はヴィータに向けていた顔を前に向けて……もう一度ヴィータの方を向く。

 

「…………ねえ、ヴィータ」

「…………なんだよ、フェイト。あたしは今忙しいんだ」

「…………ガジェットって、手を向けられるだけで爆散す」

「あーあーあーあーあー聞こえねえ、あたしはなーんも聞こえねえ。現実逃避に忙しいんだよ後にしろよ」

「そっか、ごめんねヴィー………………ねえ、ヴィータ」

「………………なんだよ、後にしてください」

「……ガジェットの殲滅、終わったみたいだよ」

「…………そっか」

 

……じゃあ、帰ろうか。機動六課に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

異伝7 その109

 

side 高町 なのは (ミッドチルダ・機動六課)

 

ティアナとスバルの暴走事件(他の人は『高町なのは不死身発覚事件』とか『高町なのは「ふっ、残像だ」事件』とか言っていたりもするけれど、その辺りは無視することにします)から二週間。二人は初めは私を化物を見るような目で見たこともあったけれど、おおよそ問題なく日々は流れています。

ただ、訓練したりない何人かにはちょっと密度を上げておいたせいか、前日に比べて悲鳴が目立つ訓練だったけど、まあ問題らしい問題は無いはず。

怪我らしい怪我もなく、事件らしい事件も無く特にピンク色の光にトラウマを植え付けられた人が量産されるようなこともなく、本当に平和な二週間だった。

 

………ちょっと気になるものがミッドチルダの路上を走っているようだけど、運のいいことに今日はフォワード達が町に出る予定だから、休日を潰しちゃうのは可哀想だけど拾ってもらおうかな?

……封印はされてないみたいだから一応わかるんだけど、多分レリック二つに生体ポッド(女の子入り)がトラックに積まれて移動中。

放っておいてもいいんだけど、放っておいたら翠屋のあるミッド中央にガジェットが釣られて来ちゃう可能性があるからなぁ……。

 

仕方無いから、ちょっとズドンしようかな。女の子については多分人造魔導師……少なくとも、一部に科学技術が用いられていると思うしね。

……伊達や酔狂でレジーの裏の方に関わってそれを許されてる訳じゃない。そのことがわかるだけの知識はあるし、色々と考えるだけの頭もある。

そのくせ今回の女の子についてはレリック関係だからって六課に回そうとしてるんだけど。私ってばまるで蝙蝠だね?

 

さて、それはそれで後で考えることにして、現在第二段階の抜き打ちテスト中。スバルもティアナもエリオもキャロも、みんな元気に頑張っている。

一部は元気じゃなくて『必死』なところもあるように見えるけど、概ね大丈夫じゃないかな? 知らないけど。

 

……見たところ流石に理想値には届かないけれど、十分想定内……と言うか、想定していた中でもかなりいい方じゃないかな?

このくらいなら合格でいいと思うけど……。

 

ちらり、と私とフェイトちゃんの間に立っているヴィータちゃんを見ると、私の視線に気付いたらしいヴィータちゃんは小さな笑顔を浮かべた。やっぱり合格らしい。

 

ちなみに、私とヴィータちゃんとフェイトちゃんの三人での教導の時には、ヴィータちゃんが分かりにくい飴、フェイトちゃんが緩衝材、私が鞭の役割分担をしている。

ただ、ヴィータちゃん曰く私の鞭は常時数千度にまで熱されている有刺鉄線の束の鞭らしいけど………そんなじゃないよね? そこまで酷くないよね? もしそうだったとしても、ちゃんと手当てしてあげてるし大丈夫なはずだよね?

 

「手当てをしたって傷痕は残るし、じりじりと痛むことだってある。いつもはしっかり加減してくれてるみたいだからいいけど、前みたいにキレるなよ?」

「私、ヴィータちゃんの前で怒ったことはあっても本気でキレたことは無いよ?」

「…………つまり、アレの上があるってことかよ……おっかねえな……」

 

まあ、実際あるけどね。アレの上。

 

まあ、とりあえず合格ってことだけ伝えて解散にしようかな。あんまり長々と引き止める訳にもいかないし、時間がもったいないしね。

 

「そんなわけで、今日は一日お休みです。町に出て遊んでくるもよし、隊舎でのんべんだらりと過ごすもよし……周りに迷惑をかけない範囲で自由にするといいよ」

「はいっ!」

 

うん、いい返事だね。

 

 

 

そんな感じでフォワードメンバーを送り出してから、私はのんびりご飯を食べる。フェイトちゃんのいつもの親馬鹿も見れたし、たまにはなんにも考えずに友達と一緒にご飯を食べるだけっていうのもいいよね。

 

そんな感じのことを考えながら、もきゅもきゅとパンを千切って食べる。

食堂のテレビ画面にはミッドチルダのニュース番組が流れているけれど、正直あんまり興味がない。

 

地上本部の事だったら多分喋っているキャスターさんよりもよく知っている自信はあるし、なにより直接レジーから聞けるしね。

 

そう思いながらぼんやりとテレビを見上げていたら、噂をすればなんとやら、レジーの姿がそこに映った。

レジーは堂々とした態度を崩さないまま、局員とテレビカメラの前で演説を行っている。

そう言えばこれって昨日聞いたなーなんて思いながら、私は止まっていた食事を再開させる。

 

「……このおっさん、まだこんなこと言ってんのな。あんだけの成果出しといて」

「まあ、それに見合うだけの苦労もしてきてるんだけどね。知ってる? 地上の年間総予算って本局のそこそこ大きい部署の年間総予算と同じくらいなんだよ? 比で表すと地上の年間総予算:本局の年間総予算で1:20以上の差が付くし」

「……マジで?」

「…………ごめん、本当はもっと差がついてるのに軽く言った」

「…………マジで?」

 

今回は大マジなんだよね。残念ながら。

私が協力してなかったらその成果も無かっただろうし、そうしたら多分今ごろアインヘリアルの方の計画が最終段階にまで進んでたんだろうなぁ……。

 

実際には私が居て、レジーはアインヘリアルより個人個人の能力の底上げを優先したからアインヘリアルは企画で止まってるような状況なんだけどね。

 

「まあ、レジーは昔から頑固な武統派だからね。頭が固すぎるのが難点だけど、それでもミッドチルダの平和を守りたいって心底から考えてる人なんだよ?」

「レジーてこら、友達感覚かい」

「実際友達だもーん♪」

「………………え?」

「………………なに?」

「………………え?」

「………………え?」

「………………え?」

「………………なんですかこの沈黙は?」

「ちょっとした爆弾発言があっただけだから、リインは気にしなくても大丈夫だよ?」

「そうなんですか?」

「そうだよ」

 

間違ってはないよね。気にしたって変わらないんだからさ。

 

……あ、三提督の皆さんだ。こうして見てるとふつーのおじいさんおばあさんだよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

異伝7 その110

 

side 高町 なのは (ミッドチルダ・機動六課)

 

民間協力者ゆえの簡単な仕事を全部終わらせてから、さくらさんのいる六課の私の部屋へ行く。今まで私が使ったことなんて数えるくらいだけど、さくらさんはアンダーグラウンドサーチライトを使って大抵ここにいる。

場所的には、ベッドの脇の壁に入り口があって、その中には広いベッドが拡がる空間がある。

そこでさくらさんは食事をすることもなくひたすら眠り続けている。小さいさくらさんがわらわらと居ることもあって、とっても愛らしくて可愛い。

さくらさんは男前なこともあればこうして凄く可愛いこともある。アリサちゃんとはまた違った格好よさと可愛さがあるんだよね。

アリサちゃんは可愛い主体だけど、さくらさんは………可愛いと言うよりもむしろ愛おしい。

 

私はアンダーグラウンドサーチライトの中に入り、さくらさんの姿を確認する。

そこには普段通りのさくらさんが居て、私はほっと一息ついた。

そしてさくらさんの頭を軽く撫でて、狂気の提琴を呼び出す。いつも通りの休日を過ごすための、ある意味儀礼のようなものだからね、これは。

 

私が歌うのは『揺り籠の歌』。やっぱり子守唄と言えば、さくらさんに聞かせてもらったこの歌が出てくるんだよね。

本当はバイオリンだけじゃなくてピアノもあるといいんだけど、私はバイオリン以外には能がないからなぁ……。

 

……一応アンダーグラウンドサーチライトの入り口は開けておいて、呼び出しとかがあったらちゃんと聞こえるようにしておいて………呼び出しがあるまではこうして平和を享受するのもいいよね。

私は平和な日々が大好きで、お母さんの作ったケーキやお父さんの入れてくれたコーヒーが大好きで、そしてさくらさんとさくらさんの淹れてくれた紅茶が大好きな一般的な恋する女の子なんです。

 

……フェイトちゃんに聞かれると、ありえないとか夢見すぎとか酷いことを言われちゃうけどね。

確かに私は色々と他人にはできないことができるけど、それでもあくまで普通の人間なんだよ? 多少非常識なだけで。

自分が異常だって自覚があるだけ、自覚のない異常者よりずっとましだと思うけど。

 

……まあ、いいや。もうほとんど仕事は終わってるんだから、今日はそんなことは考えないでのんびりしていよう。

 

 

 

 

 

side 高町 なのは (海鳴)

 

今日も今日とていつもの通り、地球の翠屋でお母さんと一緒にケーキを作る。

私も一つのお店を持つ身として、毎日こうしてお菓子作りの腕を磨き続けると言うのは当然のこと。毎日が忙しくも充実した素晴らしい日々です。

 

……本当に、ミッドチルダと違って平和でいいなぁ………私も頑張ってるけど、ミッドチルダと海鳴じゃあまず犯罪の発生率が違いすぎるんだよね。

だからその事を考えると……老後はやっぱり海鳴かなぁ…………。

向こうのお店は……どうしようね?

 

「なのは。なんか老後のことを考えてそうな顔してるけど、流石にまだ早いと思うわよ」

「そうかなぁ? 実はもう結構前から老後のために貯金をしてるんだけど……」

「それはいいことだと思うけど、やっぱり早いわよ。私もしてるし、いいことだと思うけど」

「アリサちゃんってば、自分だってしてるのに早いって言っちゃうんだね?」

「だってあんたは老後のためって決めてるでしょ? 私は老後とは限らない未来のために貯めてるんだから、結構変わるわよ。個人の自由だし、感想を言うことはあっても否定はしないけど」

 

うーん……やっぱり私って精神的には老けてるのかな? でもたまに子供っぽいって言われることもあるし………どうなんだろう?

 

「私もしてるし、べつにいいんじゃないかな?」

「やっぱりそうだよね? 自分の未来のことを考えるのは大切なことだよね?」

「勿論そうだよ。私も大学に行きながら働いてるけど、お給料はちゃんと貯金に回したりファリンのお給料になったりしてるからね」

「あ、ファリンさんはやっぱりすずかちゃんが直接雇うようになったんだ?」

「うん、そうなんだ」

 

やっぱりね。

 

……今はあんまりお客さんがいない時間帯だから、こうやって友達とおしゃべりを楽しむことができている。ミッドチルダの翠屋だと、どうしても強盗とかに気を付けないといけないからそういうことができないし、それ以前に私がケーキを作る係りだから私が仕事をしないと翠屋は回らないんだよね。

そんな風に作ったのは私だし、作った私自身も後悔なんて欠片もしてないんだけど。

 

「……ところで、フェイトとはやての方はどうなの? 元気にやってるかしら?」

「やってるよ。今日はなにもなければ一部を除いて全体的に休日気分なんだけど、毎日ちゃんとノルマの分のお仕事は終わらせてるから苦労はしないはずだしね」

「……フェイトちゃんやはやてちゃんたちも、大変だね……」

「警察と軍隊を中途半端に混ぜ合わせてファンタジーとSFを追加したような場所だし、色々大変みたいだね。私はあくまで民間協力者扱いだから大した苦労はしてないんだけど」

「嘘でしょ? たくさん分身して、毎日しっかり働いて……結構疲れてるんじゃないの?」

「昔なら騙されてたけどね。付き合いも長くなればわかるわよ」

 

……うーん……やっぱりばれちゃうか。

無理の出ない範囲でやってるから問題ないと言えば問題ないし、時々分身でも休んで休息は取ってるんだけど……それでも疲れてないとは言えないんだよね。

あまり無茶をする気はないし、無理なことは絶対にしないようにしてるから、一応大丈夫だとは思うんだけどね………。

 

「まあ、あんたが無事なら私はそれでいいんだけどね」

「わかってると思うけど、なのはちゃんの心配をしてるのは、桃子さんや士郎さんだけじゃないんだよ? その事をよーく覚えててね?」

「うん。ありがと、アリサちゃん。ありがと、すずかちゃん」

「いいわよこっちが勝手に心配してるだけなんだから。ほら、シュークリームもう一つ!」

「ふふふふ……アリサちゃんたら………それじゃあ私も……今度はケーキがいいな。ブリオッシュってあったよね?」

「御注文承りました。シュークリームが一つとブリオッシュが一つでよろしいですね?」

「ついでに紅茶もちょうだい。すずかの分もね」

「あはは……よろしくね?」

 

注文を受けた私は、すぐに厨房に向かう。

木霊法で声を飛ばしておいたから、お母さんとお父さんがちゃんと用意してくれていると思う。

 

……なお、昔はコーヒーに比べて若干紅茶が弱かった翠屋ですが、お父さんのたゆまぬ努力のお陰でその弱点は克服されました。

弱点の少ない喫茶店……いいことだと勝手に考えてみます。

 

 

 

 

 

 

 

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