異伝7 その111
side 高町 なのは (ミッドチルダ・翠屋)
毎日忙しく働くことができる。喫茶店の経営者としてはこんなに嬉しいことはない。
そう考えながら仕事を続けて早くも七年くらい。ミッドチルダにもかなり馴染んできて、今では結構有名な喫茶店になっている。
時々リシュが来て山ほど買い溜めしていったりもして用意が大変なこともありますが、それでもなかなか楽しい日々を過ごしています。
……まあ、平和になったとは言っても元々の犯罪発生率が高かったミッドチルダなので、そこそこ犯罪は発生しているんですけど。
それがある程度以上凶悪な物だったり私のお店が巻き込まれたりするような物じゃなければある程度放置していますが、実際に何かをしてしまった場合には即座に通報しています。
あと、管理局法からすれば明らかにあっちゃいけない物についても通報するようにはしています。ガジェットとかね。
……実は、翠屋には結構な頻度でガジェットが来ていたりする。
原因は多分、アンダーグラウンドサーチライトを始めとするさくらさん達の自作の道具の数々。物によっては結構な魔力を持っていたりするから誤認して引かれて来てもおかしくはないんだけれど、こっちとしては迷惑極まりない。
お客さんの目に入る前に遠隔攻撃で撃ち落とし、見かけ上は平和にしてるんだけどね。
……はぁ………やっぱり色々大変だなぁ……。
……ほら、また事故が起きた。しかも中身は人造魔導師素体とレリック2つ。原因はガジェット。
そろそろ六課の私の短い短い休日は終わりになるのかな? 分身は魔力さえあれば休息も睡眠もいらないとはいえ、やりたくもない仕事ばかりだと気が滅入ってくるから休みは人並みに欲しいんだけどね。
……とりあえず、六課の私に情報だけは渡しておこうかな? 面倒事は嫌だから伝えるだけで手は出さないけどね。
どうしても出すことになったとしても、私やシュテルちゃん達が直接出るんじゃなくてディアーチェちゃんの『機兵』の何体かを使うことになるんじゃないかな?
……あれはあれで質量兵器だからバレたら不味いんだけどね。特殊なアームドデバイスだって言って誤魔化してもアウトになるくらい不味い。
……バレなければ問題ないんだけど。
それにしても、なんで魔法が安全っていう認識で銃とかが危険だって言い切られてるのかがわからない。結局戦う力でしょ? お陰で合法的に力を持てるから別にいいけど。
それじゃ、私は喫茶店業務を頑張るから、六課のわたしもお仕事頑張ってね?
side 高町 なのは (ミッドチルダ・機動六課)
翠屋の私から連絡が入った。どうやらガジェットが来る可能性が高いみたいだ。
まあ、実のところ殆ど独立しているとはいえ繋がっているんだから、報告なんて言うことはあんまり必要ではないんだけどね。
ただ、重要な情報に意識を向けさせるための信号みたいなものを送ればそれで大体わかる。離れていても一つだからね。文字通り。
そんなわけで戦仕度(と言ってもレイジングハートを持って狂気の提琴に召喚用のマーキングをする程度)を終えてさくらさんにちょっと出掛けてくる旨を伝え、アンダーグラウンドサーチライトを出た。
実際に出動になるまでにはそれなりに時間が必要だろうから、それまではのんびりしてればいいかな? 結構時間がかかりそうだけど。
「あ、見つけた、なのはー」
「あ、フェイトちゃん」
ちょうどよかった。時間が空きすぎて困ってたんだよね。
しばらくフェイトちゃんと適当な話し合いでもしてれば時間は埋まるし、それでも暇ならレイジングハート用のカートリッジ擬きでも作ってようかな?
……レイジングハートのカートリッジ擬きっていうのは、ジュエルシードの改造でできた、カートリッジシステム擬きのこと。空気中の魔力素を集めて勝手にカートリッジがわりに出力を上げることができるパーツで、ある程度の数を分けて内部に溜めておくことができる。
願いを叶えてからっぽになったジュエルシードを電池の代わりにして、そこに魔力を溜めることで実行しているみたい……ジュエルシードに魔力を充填してまた願いを叶えるようになったりしないのかと思ったけれど、願いに反応してそれを叶える機構を砕いて魔力に還元し、純粋な魔力のタンクみたいなものにしているみたい。
確かに魔力結晶に特殊な効果をつけようとするなら、それは魔法的な改造をしないといけなくて、そしてそれは当然ながら魔力でできているわけだから……やろうとすればできないことはないんだよね。思い付くかどうかは別だけど。
「ところで、どうしたのフェイトちゃん。プライベートな話? それとも仕事の話ですか?」
「一瞬でよくそこまで態度を変えられるねって称賛したい気分だけど、一応今はお仕事半分プライベート半分ってところだね」
そっか。それじゃあ口調はいつものままでもいいかな。仕事中は敬語も使ったりするけど、必要無いならあんまり使いたくないしね。
理由は簡単。お仕事モードの私って、ちょっとどころじゃなくシュテルちゃんに似ているから。
流石にあそこまで冷酷無情にも無感動にもなれないけれど、かなり感情の起伏が表に出なくなるし、声も冷たくなるし………ついでに必要なら容赦も無くなるし。
容赦が無いのはいつも通りだなんて言う人には、全身に魔力を纏わせて身体中のありとあらゆる関節を逆方向にねじ曲げる刑です。
「容赦が無いn…………なんでもない」
「フェイトちゃんは危機察知能力が高い子だね。長生きできるよ?」
嫌味じゃなくね。
そうこうしている間にキャロから全体通信が入った。どうやら出撃みたい。
さてと。急いでヘリまで行かなくちゃね。
異伝7 その112
side 高町 なのは (ミッドチルダ・機動六課)
さて、ここでちょっとした問題です。
私は音楽が好きです。自分で演奏するのも歌うのも、他人が演奏している曲を聞くのも大好きです。
そんな私が、演奏中に呼び出されたりしたらどんな気分になるでしょうか?
シンキングタイムはありません、即答してください。
……はい、怒りますね。外には出てなかったとしても怒ってますね。はい。凄く。
まあ、フェイトちゃんはともかく、スバルやティアナにバレるような演技力をしてません。怖がらせちゃいけないから、少なくとも外側だけは落ち着いてるように見せないとね?
まあ、シュテルちゃんっぽくしてればいいかな? フェイトちゃんにはそれはそれで怖いって言われるけど、それでもなにもしないよりはましだと思うし。
だって今の私は、腸煮えくり返ってますからね。それはもう、犯人を見つけたらハンバーグを作りたくなるくらいに。
材料は……ね?
「な……なのは……こわい………」
「あははははっ♪ 失礼だなぁフェイトちゃんってば。これでもちゃんと抑えてるのに」
「抑えてるから怖いんだよぉ……」
……ああ、なるほど。つまり、爆発することができるのはわかっているけれどいつ爆発するかわからない爆弾が近くにあるような状況ね。確かにそれは怖いかも。
まあ、多分そう簡単には爆発しないと思うけどね。怒ってても普通に抑えられる程度だし、元々この程度なら戦闘訓練で発散できちゃうくらいだし。
……まあ、このイライラをぶつけていい相手がでてくれば別だけどね。例えば………ガジェットとか?
……それにしても、人造とは言え子供だし、ちっちゃくて可愛いなぁ……ぼろぼろだったり、悪夢を見てるのか表情を歪ませたりしているのが珠に疵だけど、そこらへんは時間が癒してくれると思うしね。
………面倒だし、早めに運んでおこっと。またガジェット相手に殲滅作業が始まることになりそうだし。
今回は数が多いからしばらく時間がかかりそうだなぁ……フォワード達にも動いてもらうことになるだろうけど、大丈夫かな?
……大丈夫だよね、きっと。それなりにとはいえ鍛えてはあるし、お相手もそんな危なそうな相手は………ああ、召喚師の女の子……ルーテシアとか言ったっけ? ……その子くらいかな。
いまさらガジェットにてこずるような事は無いだろうし、安心できる。
……念のため、ヴィータちゃんには直接スバルやティアナ達の向かうところに行ってもらおうかな。召喚師ってことは転送でレリックのところに直接先回りされちゃう可能性もあるってことだから、フォワード達が危ないしね。
なんて考えてみても、私はあくまで民間協力者なんだから、そういうことに対する決定権は無いんだよね。何度も同じようなことを考えてきたような覚えがあるけど。
さてと。私は任されたお仕事の方をちゃんとやろうかな。フェイトちゃんと一緒にお空のお掃除です。
リインとヴィータちゃんもこっちに向かってきているそうだから、そんなに時間はかからないでしょ。
……何事もなければ、の話だけど。
なにもないことを祈りましょう。
side フェトソン君
薄い桃色の魔力光が舞い躍り、ガジェットを次々と破砕していく。
どれもこれも的確に必要なだけ壊されていて………なんだか私の出る幕が無い。
ぽつんと空中に漂っていても、一基も逃さず撃ち落としているなのはの弾幕に惚れ惚れとするくらいしかできない。それくらい圧倒的で綺麗で容赦の無い弾幕を、なのははガジェットに向かって張り続けていた。
……と、突然なのはが何機もガジェットを後ろに通してしまう。それなのになぜかそっちを向こうともせず、まるでなにも無いかのようにひたすら前方のガジェットに弾幕を張る。
私は急いでなのはの弾幕を抜けたガジェットに攻撃を加えるけれど……なぜか、全てすり抜けてしまった。
どうやら幻術だったみたいだけど……なんでなのはは気付けたんだろう?
『ライトニング1とフリークス1へ、こちらロングアーチ!突然、そちらに大量のガジェットの反応が現れました!』
「うん、こっちでも確認してる。肉眼で見えるんだけど、なのははどうしてか本物と偽物がわかるみたいでみんな叩き落としてるから大丈夫………だよ?」
『……高町さんって本当に人間ですか? こっちの観測機器も誤魔化されてるのに………』
「……ほら、なのはだからね」
『…………納得したくないのに納得させられる魔法の言葉ですね、それ』
まあ、なのはだから仕方ないよね。だってなのはだし。
「……あ、私はヘリの方の護衛に行くね? ここに私の出番は無いみたいだし……」
『はい、お願いします』
私は溜め息をつきながら海上のガジェットから離れるように飛び去る……前に、今もガジェットに圧縮した魔力を叩き込んでは内部機関で炸裂させて問答無用で一撃必殺をしているなのはを見る。
『なのは。頑張ってね』
『大丈夫だよ、フェイトちゃん。ここは私に任せて、フェイトちゃんは早くヘリの方に行ってあげて』
……前に、そんな感じのことを言って死んじゃった人が居たような………そういうのを何て言うんだっけ…………えっと……しぼうふらぐ?
……まあ、なのはだったら大丈夫でしょ。なのはが死んじゃうところとか、アルカンシェルでも撃ち込まれないと想像できないし。
流石のなのはもアルカンシェルには勝てない……よね?
私はそんなことを考えながら、とりあえず嫌な予感に従ってヘリに向かって飛ぶことにした。
side クアットロ
「クアットロのIS【シルバーカーテン】……電子の織り成す嘘と幻術で、踊ってもらいましょ♪」
↓
「え、ちょ、なんで見事に幻術だけまるっと無視して実機だけ叩き落としてるのよ!?」
↓
「まさか……シルバーカーテンが効いていない? そんな馬鹿なこと……っ!」←今ここ
↓
「ん? なにかしらあのひかr」
↓
「面倒だし、さっさと投降してくれる? しないなら今かけてるバインドしたまま意識を失うまで意識を失っても廃人になるほど廃人になるまで廃人になっても砲撃撃ち続けるけど?」
「きゃぁぁぁぁぁぁっ!!」
異伝7 その113
side 高町 なのは (ミッドチルダ・機動六課)
次から次にやって来るガジェットを一方的に落としていく。幻術と実体との違いを見つけるのは凄く簡単。
幻術の方は空気を切る音がしないんだもん。分かりやすすぎて泣けてきちゃうね。
確かに視覚的には完璧だし、魔力の方も十分誤魔化せるだろうけど……私には効かないよ。『クアットロ』さん?
わざわざ名乗ってくれてありがとうね。遠かったから聞こえないと思ったのか、それとも自己陶酔の一環かどうかは興味が無いから知らないけど、考えが甘いよ。
……まあ、普通は人間の聴覚が200キロメートル離れたところの小さな声を拾うとは思わないけどね。
普通は。
……まあ、私が普通じゃないっていう自覚はあるよ? 普通に戻りたいとは思ってないけど、多分私は普通を名乗り続けると思うけどね。
矛盾が酷いって? ごめんね。私は矛盾した考えを突き詰めていくのが、さくらさんの次の音楽の次のお菓子作りの次のアリサちゃん達の次に好きなんだ。
修行? 嫌いじゃないってくらいかな。戦いは好きじゃないよ?
そう言うわけでこの幻術を使っている相手の位置を特定した私は、圧縮した狙撃砲を200ほど離れた『クアットロ』さんに撃ち込むべく照準をつけた。
まあ、私にとってはある意味照準なんて飾りなんだけど……なんて考えながらもトリガーを引く。
すると、普段なら威力を上げるためにジャイロ回転させたりしながら撃ち出す砲撃は、今回は周囲のAMFに魔力を拡散されないことに重点を置いたために回転せずに直進する。
『きゃあぁぁぁぁぁっ!?』
クアットロって人(にしては体内で機械音がする)は、流石にあれだけ離れてればいくら速くても避けてしまった。砲弾も小さいし、仕方無いと言えば仕方無いことなんだけど……まあ、当たるまでやればいいや。
私の周りのガジェットは、実機はみんな落としたから私自身はかなり安全。
あとは誰かが私を狙って遠距離から狙撃してきたり、あるいはフェイトちゃんやさくらさんみたいに超高速で接近して攻撃してくるとかそういうことをされなければ………まあ、一応警戒はしっかりしてるんだけどね。怖いから。
さくらさんに学んだ戦闘の心得……とどめをさす時が一番危険。ピンチはチャンス、チャンスはピンチ。最後の最後まで気を抜かないように、家に帰るまでが戦闘です。
そう言うわけで、意識を拡散しながら全方向に集中させる。
絞り込むわけじゃなくて、自分の器を広げる感じで………あ、さっそく成果が出たね。
……さあ、勝負が終わるまで頑張っていきましょう。
side レジアス・ゲイズ
オーリスの持ってきた、高町の戦闘のリアルタイム映像を見ている。
周囲のガジェットを全て無視し、超遠距離に向けて射撃を繰り返しているようだが……あれは確実にEランクの魔導師に使えるような技ではない。実際の実力はどれほどの物なのだろうか……。
「公式にはE+となっています」
「今回使っている魔力は」
「A+ですが、事前に登録されている魔力とは波長が異なります。よって、お得意の魔力集束による魔法だと考えられます」
幻術は音で解析して無力化し、そして隠れた術者をAMF内であるにも関わらず一方的に攻撃する……か。
やはり、儂に使いこなせるような人材ではないな。
闇の書事件の八神はやてが高町を部隊に入れたようだが………凄まじい苦労を背負わされているだろうな。
「……オーリス。近々お前が直接査察に行け。本局を叩けるような内容は無いだろうが、探せるだけ探して叩け」
「はい」
………既に調べてはいたが、あの部隊は本局の連中からすればよくできている。
例え大きな失態を見せたとしてもすぐに切り捨てられる部隊構成で、その上期間限定の実験部隊扱い。闇の書事件の八神はやてならば罪を押し付けたとしても疑う者は少ないだろう。
まったく、本局の連中はこういったことばかりに頭が回る。回りすぎてバターになってしまえ。
……バター……か。
「オーリス」
「既に」
オーリスが執務室の冷蔵庫から出してきたのは、生地が何百と重なってできているケーキ。高町がクロワッサン生地を応用して作った新作らしいが……さて、肝心の味の方はどうだ?
机の中のマイフォーク(持ち手の端にデフォルメされた兎がいる)を出してケーキを削り取り、咀嚼する。
オーリスも同じようにデフォルメされた猫の意匠がされたフォークを使い、ぱくぱくと食べている。
……うむ、美味い。
「美味いか、オーリス」
「はい。とても」
そうかそうか。それはいいことだ。
…………ああ、フォークについてはオーリスの趣味だ。そしてオーリスの可愛い物好きは儂の影響だ。
その事実を知る者はほとんどいない。儂とオーリスと妻と……今は亡き友人達だけだった。
恐らく高町も知ってはいるだろうが、高町は他の者に言いふらしはしまい。されても儂は困らんが、高町はそういう奴だ。
「……うむ。これを食べ終わったら仕事に戻るとするか。なあ?」
「はい、中将。………もきゅもきゅ」
……もぐもぐ。
異伝7 その114
side 高町 なのは (ミッドチルダ・機動六課)
せっかくの休日に現れてくれたガジェットと、ガジェットの幻をだして混乱させようとして来た戦闘奇人……機人だった……と、その戦闘機人を私の砲撃から護って空中を走り回る戦闘機人と、召喚師の女の子とその召喚蟲であるガリューを相手に砲撃を続ける。
まあ、召喚師の女の子にはルーテシアって言う名前があるみたいなんだけど、わざわざ呼んであげる義理もないよね。一応報告とかの時には名前を出すけどさ。
……多分、ああいう女の子のことを『蟲愛づる姫』って言うんでしょうね。私はガリューだったらともかく、ゴキブリは徹底的に排除するタイプですけど。
勿論ゴキブリだけじゃなくてダニとかノミとかそういう害虫も一緒に殲滅するけど。
さくらさんは攻撃する相手を選択してそれ以外のものには一切影響を出さない攻撃ができるから、それを使って広域殲滅すれば害虫のみ排除できたりします。
それに死体も卵も何も残らないので、細菌とかが繁殖したりすることもない。とっても便利な技です。
ただ、私はできないんですよね。残念ながら。
『ぐぅぅっ!!』
『トーレ姉様!』
ちぇっ。かすっただけか。流石にあの速度の相手に遠距離からの狙撃を当てるのは難しいや。
一応炸裂させてはいるんだけど、それでもかすらせるだけでも骨が折れる。
ちなみに、相手の狙撃手は砲口に弾丸を放り込んで炸裂させたら自分でも溜めてたらしいエネルギーも一緒に暴発してリタイア。フェイトちゃんに拾ってもらおうとしたら、その前に地面から現れた戦闘機人の子に連れていかれた。
まあ、ちょこちょこ手だけが潜望鏡みたいに地上に出てくるから攻撃できないことはないんだけど(と言うか、既に非殺傷設定で手首に何発か入れた)、致命傷は与えられないからね。
相手の手の甲の方からシューターを撃ち込んだから、相手は多分なにをされたかもわからなかったと思う。
『はぐっ!?』
『く……無事かクアットロ!』
『……かなり痛くはありますけどぉ……ちゃぁんと非殺傷にしてくれてるみたいですよぉ?』
好きでやってる訳じゃないけどね。できればさっさと終わらせたいよ。
………あ、地下の方はヴィータちゃんとリインが間に合ったみたい。フォワード達はこれで大丈夫かな?
大丈夫じゃなさそうになったら、私がここから炸裂鉄鋼弾を撃ち込んで気絶させればいいかな。大丈夫だと思うけど。
レリックの方も大丈夫みたいだし、被害もほぼ0。これで犯人を取り逃がしてなかったら大手柄だよねぇ?
まあ、私の方はあんまり本気は出せないから捕まえるのは難しそうだけど……そっちの方は油断とか陽動に引っ掛かったりとかしなければ大丈夫かな? 多分だけど。
まあ、それじゃあこっちもそろそろ砲撃だけじゃなくて射撃もやろうかな。
射撃の弾幕で檻を作って、じりじり削りながら攻撃する。
直接空気中の魔力を使って魔法を使うのは隠し技みたいな物だからやる気はないけど、私の魔力を混ぜ込んじゃえば全部桜色に染まっちゃうからわからないもんね。
さて、行ってみよー!
side トーレ
止まれば壊される。今の状況ではまさにそれが正しかった。
ただ、闇雲に動いても壊される。体内に炸裂弾頭を撃ち込まれて内部から爆破されて死ぬ。
考えるのをやめれば壊される。思考を停止させれば、あっという間に単調になった行動を読まれて炸裂する桜色の弾頭が撃ち込まれるだろう。
確かに、あれには非殺傷設定らしきものがつけられてはいる。だが、それでも炸裂すれば爆圧はあるし、ましてや体内でそれが起これば問答無用で体組織が根刮ぎ駄目にされるだろう。
先程からクアットロのISで姿を隠し、幻のガジェットで編隊を組んで突撃させたりしているものの、それはなんの効果も見せていない。まるで幻術が全く効いていないかのようだ。
しかし、そんなことがありえるだろうか? 管理局のサーチシステムすら騙しきるクアットロのシルバーカーテンを、完全に無効化するなど……
爆音が響き、背中に衝撃が走る。クアットロの悲鳴が聞こえたが、それに答える余裕も無い。
自己解析………基礎フレームに若干の歪み。筋肉組織の一部欠損と焼き付き。機動力が18%ダウン。さらに出血による体力の消耗。持久戦になれば確実に捕まる。
結論……私がここから逃げ切る確率は、時が過ぎれば過ぎるほどに低くなる。
私はクアットロを抱え込む。そして両足の翼に最大の力を込めて、全速力で駆け抜ける。
後方からの攻撃は無い。側方からの攻撃も当たらない。危険なのは、前方に存在する弾幕群のみ。
最早傷を負うことは避けようのない事実。ならば、傷を負ってでも戦力を残すことを私は選ぶ。
セインに連絡し、私は海中に飛び込む。背の破損から海水が入り、ショートするが……弾幕はこれ以上追っては来なかった。
何発も近くを抜けていったが、幸運にも直撃だけは免れた。
ショートする身体をクアットロに任せ、海中にてセインに救難信号を送り続ける。
今回の作戦は失敗だったが、敵の戦力を見直す必要があることが発覚しただけよしとしておくか……。
異伝7 その115
side 高町 なのは (ミッドチルダ・機動六課)
最終的には、ヴィータちゃんは召喚師の女の子と融合騎の子を取り逃がし、フェイトちゃんは狙撃手の子を取り逃がし、私は幻術師のクアットロと速度特化のトーレを取り逃がしてしまい、ほとんどいいとこ無しという結果に終わってしまった。
それに、フォワード達の機転がなかったらレリックまで奪われていた可能性があるって言うんだから、本当に救えないよね。
……………私は手抜きしてたけど。
本当に捕らえたかったらいくらでもやりようはあったしね。
例えば、相手の体内に直接魔力弾を作って炸裂させるとか、陽光殲滅魔導で檻を作って閉じ込めながら黒ひげ危機一髪ゲームを射撃と砲撃で楽しむとか、バインドで捕らえてからのフラッシュバスター連打とかね。
やりようはいくらでもあったけど、やらなかったわけだし。
まあ、被害はほとんど出てないし、フォワード達も経験を積めたという点では喜ぶべき事なのかもしれないね。
ちなみに私は上手くやればあの救援に凄くよく呼ばれていたセインっていう名前のモグラみたいな子も一緒に捕まえられました。遠隔で自分の魔力を使わずに魔法を使ったことが本局にバレたら色々面倒だと思ったからなにもしなかったんだけどね。
……本局に信用が無いって? しょうがないでしょ、私がDASSインターミドルチャンピオンシップで優勝した時に一番長く勧誘してきたのも本局の人だったし、人によっては地球の翠屋にまで来て勧誘しようとしたからね。
しかもそうやって勧誘に来る人来る人みんな顔は良いんだよね。明らかに引っ掻けようとしてるのが丸わかりと言うかなんと言うか……。
それに、ミッドチルダの【鷹牧桃華】が【高町なのは】では無いと認知された時に即座に掌を返したような態度を取ったのも本局の人だったし、妙に高圧的な人が多かったしね。
勿論地上にそういう人がいない訳じゃないけど、本局に比べてかなり少ないことは確かなんだよね。
元々の人数が少ないからって言うこともあるんだけど、地上だと高圧的な態度をとる人はまず始めにボコボコボロボロにされて高圧的な態度を矯正されることになるらしいからね。
地域密着型だから、地上の評判によってははまるっと動きやすさに差が出るし、未来の戦力を集めることにも繋がるからか、その辺りのことは徹底されているみたい。
……さて、それじゃあそろそろ現実逃避は辞めて現実に向き合おうか。
「……そんで、なのはちゃん? レジアス中将と友達言うとったけど、いったいどんな感じで知り合ったん?」
「ん~……話すと長くなるんだけど……ちょっと待ってね、纏めるから」
…………うん、こんな感じでいいかな。
「ミッドチルダの翠屋でお手伝いをしていたら、ある日親子連れがやって来て、それがレジーとリシュでした」
「……そう言えば前に地上本部のことをよく知っとる友人がいる言うとったな……」
「ちゃんと渾名だけど名前も出したでしょ?」
「確かに出しとったけど……まさか中将本人とその娘さんとは思わんやんか」
「それははやてちゃんの手抜かりだね。私のせいにされても困るよ?」
「反論できへん。悔しいけど反論できへん」
まあ、反論なんてさせないためにあんまり量は渡してないしね。
「だから、はやてちゃん達が疑ってるみたいに六課の業務内容をレジーに教えてるとかそう言うことは無いから安心していいよ? 代わりに週明けにオーリス三佐直々の臨時査察が入るみたいだけど」
「ありがたいようなありがたくないような情報やな!? ありがと!」
大した情報でもないのにお礼を言われちゃった。はやてちゃんは本当に地上の出来事に疎いなぁ。
本局だからとか聖王教会だからとか言う気は無いけど、もう少し仲良くしてればこのくらいの情報は簡単に入ってくるのにね。
……何でこうなってるかと言うと、朝にあったレジーと友達発言事件のことをちょっと問い詰められているだけだったりする。
あの時フェイトちゃんが私を探していたのもそれが理由だったみたい。
まあ、私を連れていく前に事件が起きてできなかったみたいだけど、今は時間もあるしね。
……でも、報告書とかは大丈夫なのかな? 私はそんなに量が無いからたいして困りはしなかったんだけど、はやてちゃんやフェイトちゃん、ヴィータちゃんは結構多いと思うんだよね。書類仕事。
まあ、私にはあんまり関係無いことだけど。
……あ、そうだ。あの女の子のお見舞いとかも行った方がいいんじゃないかな?
多分プロジェクトFで作られた、金色……と言うにはちょっと色が濃い髪の色をした女の子。名前は知らない。
一応機動六課として助けたんだし、ちょっとくらいはね。
まだ起きてないだろうし、お土産は食べ物よりも人形の方がいいかな?
病院で一人って結構寂しいだろうし、人形でもそれを少しまぎらわせることくらいはできると思うしね。
……行くんなら早く行った方がいいよね? ちょっと転移でアンダーグラウンドサーチライトとミッドチルダで世界間転移を二回繰り返して行けば一応合法で簡単に転移できるから、早く行っちゃおうかな。
その前に何か適当に買い物をして、人形か何かを買わないと。お土産も無しじゃあさまにならないし。
……小さい子供のお友達にするんなら、大きいのよりも簡単に抱きしめられる程度の大きさの方がいいよね? 正直、私はあのくらいの頃にはもう音楽の虜になってたから、あのくらいの年頃の子供が欲しがるおもちゃとか人形とかには疎いんだよね。
とりあえず、デフォルメされた動物の人形でも渡しとけばいいのかな? よくわからないけど。
……あ、そうだ。久し振りに病院で演奏しようかな。多分止められることは無いと思うし、新しい曲も練習してるしね。
ついでにノイズィソングと同じ効果をバイオリンで再現できるようになったし。
共鳴させて威力を上げれば、相手の攻撃魔法も防御魔法もみんな纏めて構成を緩ませて解体して奪い取ることができるし。
私が使う時には、圧縮するだけで固めなければ普通に使えるしね。射撃や砲撃は難しいけど、『太陽』の運用にはなんの影響も無いから大丈夫。
…………魔導師殺し? いやいや、波ならある程度操れるからもうちょっと範囲は広いよ?
多分ディバイダーでも私の『太陽』は分断できないと思うしね。
……だって、元々固めてないから切ったところですぐに元通り。水銀の粒を斬っても元に戻っちゃうのとおんなじようなものかな?
……さてと。はやてちゃんは頭を抱えたまま固まっちゃったし、私になにか用がある人もいないみたいだから、ちょっと出ようかな。
私は仕事は終わらせてるからね。いつでもお見舞いに行けるよ?
異伝7 その116
side 高町 なのは (ミッドチルダ・機動六課)
聖王教会の病院に預けられたその女の子は、夕方にはまだ目を覚ましていなかった。
ただ、しきりに誰かを探し続けていた。
曰く、『ママ』……と。
流石に時間軸を逆行させて別れた当時のお母さんを探しに行く訳にもいかないし、それ以前にこの女の子の記憶がどこの誰の物かがわからなければ探しようが無い。
ただ、左が赤で右が緑の光彩異色ということを考えれば少しは出てくるかもしれないけれど………どうも面倒事にしかならないような気がするんだよね……。(【直感:A】発動中)
なんでそう思うかって言うと、答えは割と簡単。病院の色々なところにある『歴代聖王の肖像画』がなにか引っ掛かる。
見てみると、かなりの高確率で左目が赤、右目が緑の光彩異色として描かれている。どうやらこれは聖王の家柄にはよくあることだったみたいだけど………他の所じゃ中々無いよねぇ……?
それに、あの子は人造魔導師。やろうとすれば聖骸布なりなんなりについていた古代の細胞の欠片やらDNAやらを採取することだってできなくは無いと思うし、それを復元してクローンを作れば………。
……なんて考えてはみたけれど、証拠なんてどこにもないんだから立証なんてできないんだから考えるだけ無駄かなぁ……と、デフォルメされたウサギの人形を病院の売店で買いながらのんびりと考えてみた。
……この人形は、多分一般的な『可愛い』の内に入るよね? こういう人形には疎いからなぁ……。
趣味は音楽鑑賞とかそういうのばっかりで、人形なんてここしばらく触ってすらいないから……。
……まあ、あの女の子のことをどう思ってるわけでもないけど、一応やるなら喜んでくれた方が気分がいいからね。
私は仕事はきっちりするタイプなんだよ? プライベートはあんまり誉められたものじゃないけど。
だから、人形を枕元に置く時にはしっかり女の子が起きて回りを見回した時に目に入りやすいところに置いておく。今までの話と関係あるのかって? ほとんど無いよ。
……それじゃあ、またね。名前も知らない女の子。
side ジェイル・スカリエッティ
なんだこの化物は。
それが『彼女』を初めて見た時の私の思いだった。
今回の作戦では、クアットロのIS【シルバーカーテン】で視覚とセンサーの両方を撹乱させ、その間にマテリアルとレリックを奪取する筈だった。
マテリアルは先に向こうの手に渡り、二つのうち片方のレリックは紛失していた状況に置いても、最悪レリックの一つくらいはこちらに来る筈だった。
しかし、現実にはクアットロのISは一切『彼女』には効果が無く、トーレの速度に追い付きかねない速度の砲撃と正確無比な誘導射撃弾によってトーレとクアットロに予想外の損害を与えた。
砲撃でヘリを落とすはずだったディエチはチャージ中に砲口に炸裂弾を命中させられて武装が大破。これはもう一から作り直した方が早いような状況まで追い込まれた。
唯一無事と言えるのはセインだけだが、そのセインも左手のペリスコープ・アイに皹が入り、左手のみ基礎フレームから作り直すことになってしまった。
ルーテシアとアギトには怪我らしい怪我は無いようだが、それはなんの慰めにもならない。
私の傑作の内の三人を一方的に撃墜し、一人にかなりのダメージを与えた『彼女』。
人工筋肉や強化骨格を楽々と撃ち抜き、撃ち込んだ魔力弾の魔力を体内で炸裂させ、数十キロメートル離れた位置からの狙撃にも対応できる相手。それはもう化物としか呼びようがない。
治療用ポッドに入って傷を癒す四名を眺めながら、私は身を震わせる。
それは恐怖に? 否、恐怖ではない。
それは狂気に? 否、狂気でもない。
では、ただ寒かったから? ……そうだと思う者は前に出たまえ。丁度ディードの武装の実験をしたいところだったんだ。切り刻んでやろうじゃないか。
この身の震えを言葉にするのならば、それは‘歓喜’という言葉が最も正しく当てはまるだろう。
身体の奥底から沸き上がるそれを押さえ付けようと、私は全身を掻き抱くように腕を回す。
……ああ、ああ!私はようやく見つけることができたのかもしれない!
鋼鉄の子宮よりこの世に生を受け、以来ずっと探し続けていた‘何か’を、『彼女』は持っているのかもしれない!
画面に写し出された『彼女』の映像を見ながら、私はぞくぞくと身体を震わせる。
あの、真冬の海のような温度の無い青の瞳。
それを否定するような温度を持つような、桜色の魔力光。
そして何より、あの容赦の欠片もない戦術機動。
全てが、私の望み通り……いや、それ以上の完成度を誇るであろうことを簡単に予想させ………私はまた総身を歓喜に震わせた。
『ドクター、レジアス中じょ………失礼しましたレジアス中将。お見苦しいものをお見せしました』
『……かまわ……うっ……』
『無理をなさらないでください。大事なお体なのですから』
『……フン。白々しい。そう思うのならば地上への襲撃など計画するな』
『とんでもない。そのような事実はございません』
『そうか、邪推して悪かったな。はははははははははははは!』
『問題ありません。ふふふふふふふふふふふふ……』
……横でそんな会話があったことには、後に記録音声を聞くまで気付かなかった。
異伝7 その117
side 高町 なのは (ミッドチルダ・機動六課)
一人の女の子の発見から始まったあの事件が終わってからまだ一日。私は報告書は帰りのヘリの中で書き終えていたので大した苦労は無かったけれど、他のみんなは結構な量の報告書と格闘したらしい。
まあ、それでも流石は管理局に務めて10年近くと言うだけあって、隊長陣は割と簡単に全ての書類を片付けていた。
そこで私はちょっとお願いして、聖王教会の病院まで車を出してもらった。向こうには顔馴染みのシスターさんが居るということだったので、運転手はシグナムさん。私は残念ながら運転免許は持ってないんだよね。持ってたら多分自分で行ってたと思うし。
そう言うわけで、私はのんびりとシグナムさんが運転するフェイトちゃんの車で寛ぐ。その間にはお仕事の話をしたり、あの女の子の話をしたり、はやてちゃんの被害にあってないかと聞いて視線をそらされたりと言うことがあったりもしたけれど、なかなか平和。
本当に、こういうなんでも無い日がずっと続いてくれればよかったんだけどなぁ……。
そんな感じで平和を噛み締めていたところに、突然空気の読めていない通信が入った。相手は、今向かっている聖王教会のシスターで……………シャッハ・ヌエラさん。
さくらさんならここで『ヒャッハーさん』とか『マッハ・ヌギマ』とか間違えるんだろうけど……特に後者の方だと『キャストオフ!と叫んだ瞬間に音速で服を脱ぎ捨てる、脱衣限定音速の騎士』とかいう説明も入りそうだね。
……さくらさんの間違いには時々悪意を感じるけど、あれで本当に間違えてるって言うんだからびっくり。
そして本名じゃなくて渾名とかコードネームとか二つ名とか偽名とかだったら普通に覚えちゃうから、二音以上で名前を覚えられたら大抵偽名って言う公式が成り立つんだよね。
「それで、どうしたんですか?」
『申し訳ありません。こちらの不手際で、検査の合間にあの少女が姿を消してしまったのです』
…………あーあ、知ーらない。あの子かなり重要な子供なのにね。
まあ、ちゃんと避難とか封鎖とかはしてあるみたいだけど、空を飛んだり転移してきたりしたらあんまり意味が無いよね。
感知できるって言っても、それに追い付いて邪魔できるかどうかは話が違う。いったいそのあたりはどうするつもりなんだろう?
……まあ、別にいいけどね。見付けるだけなら簡単にできそうだし。
海鳴の演奏会では、ハーメルンのバイオリン弾きの名を欲しいままにしてた私だからね。ソナーも絶好調だし、こんな狭い空間でなら簡単に人探しをすることができるからね。
……まあ、急がず焦らずのんびりやってようかな。私は元からそこまで急いでるわけでもないし、どこに居るかはもうわかってるし。
……ちなみに、焦ってるシグナムさんやシスターシャッハには悪い気がしなくもないけど、私はあの子を探すつもりも、居場所を教えてあげるつもりも無い。面倒だし、理由も無いし。
とりあえず、私は中庭のあたりで狂気の提琴を弾いてようかな。
曲はやっぱり私のお気に入りの『ハジメテノオト』。元気の出るいい曲だよ? 子供を引き寄せるのにも良いしね。
それじゃあ一曲。この場所一帯に広がるように、ゆっくりのんびり弾いてみようかな。本当なら二分と三十六秒かそこらのところを、今回は三分かけて演奏する。
ゆっくりのんびり、それでいておかしくならないように……。
一曲終えて目を開くと、そこには見覚えのある女の子が立っていた。
右目が緑、左目が赤の光彩異色。恐らくと言うかなんと言うか、この子があの子供だと思う。
私があげたウサギの人形も持ってるしね。
……セップククロウサギ? なんの話? 私があの子に渡したのは、白いウサギだよ? 口がバッテンマークになってるやつ。
まあ、そんなことはどこかに置いておくとして、私は目の前に居る女の子に話しかける。
「どうしたの? なにか探し物?」
そうしたら、女の子はウサギの人形を抱く腕にさらに力を込めて俯いてしまった。
そして、その口から小さく言葉が漏れる。
「……ママ……いないの………」
…………それは……私にはどうしようもないなぁ……。
私にできることと言えば、バイオリンの演奏と歌うこととお菓子作り。おまけに戦うことくらいしかない。
だから、この子のお母さんを探すんだったら誰かにお願いしなくちゃいけないんだけど……人造生命体の親って言うのは製作者ってことになるのかな?
……とりあえず、私はそう言うことに関してはなーんにもできないんだよね。
まあ、それでもこうやって泣いてる子供をあやすことくらいはできるんだけど。
私の隣に女の子を座らせて、用意していたシュークリームを渡して演奏再開。今度は明るめの曲をチョイスして演奏してみる。
【メルト】とか【君と一緒に】とか【ハト】とか。
……微妙な曲がある? 気にしないで。私も気にしないから。
それに、どれも結構好評だったしね。
そうやって演奏とお話を繰り返している間に、名前を聞き出したり、病室からいなくなった理由を聞き出したりすることができました。
……そしてその結果。物凄くなつかれてしまいました。それこそ、離れようとするとぐずり出し、視界からいなくなれば大泣きしてしまうくらいに。
……いったい私のどこをそんなに気に入ったのかなぁ……。
異伝7 その118
side 高町 なのは (ミッドチルダ・翠屋)
どうやらあの女の子……ヴィヴィオはしばらく機動六課で引き取ることになったみたいで一安心。それと、私の方もシュテルちゃんが三回まで動いてくれると言う確約をもらったので安心。
これで、ちょっと待ってもらってたレジーへの説明を済ませることができる。
なんでさくらさんでなくシュテルちゃん一人なのかと言うと、レヴィちゃんとディアーチェちゃんの二人はどう考えても戦法が犯罪確定だから。シュテルちゃんもかなりギリギリの線だけど、あの二人よりはずっとましだからね。
そう言うわけで私はシュテルちゃんを連れて地上本部に挨拶に行く。サインをねだられる回数が増えたけど、気分がよかったから先着三人にあげたらその三人が壁の向こうに引きずり込まれて数瞬後に絶叫が上がった。
絶叫と言うよりも断末摩って言った方が正しいような気がするくらい凄い声だったけど、大丈夫かな?
「おい、今の悲鳴はいったい何が───た、高町臨時教導官!? お久し振りです!」
「た、高町臨時教導官!?」
「お、お久し振りです臨時教導官!」
……あ、そうだそうだ、確か私が天才方式で技術を叩き込んだ生徒達だね。
昔に一回だけ受け持った時には大抵二等陸士だったけど、今じゃ一番上の人は二等空尉かぁ……出世したね?
なんだかざわざわと五月蝿くなって来たところで、私はパンパンと手を叩いて少し静かにしてもらう。シュテルちゃんはいつもの通りに無表情だけど、なんだか面白そう。
「はーい、みんな久し振り~。最近の活躍は聞いてるよ? 地上の犯罪検挙率が95%を越えたんだって?」
「勿体無いお言葉です!」
私がそう誉めてあげると、なんだか全員がすごく嬉しそうな顔をして頭を下げた。
「臨時教導官!今回はどのような御用向きで!」
「ちょっとレジアス中将と約束があってね。アポはもう取ってあるはずだから、隣の子と一緒にちょっと通してもらっていいかな?」
「はい!お時間を取らせて申し訳ありませんでした!」
ざっ!と人垣が割れて、エレベーターまでの道が出来上がる。
私はその道を普通に歩き、シュテルちゃんがそれに着いてくる。どうやら先に誰かが呼んでくれていたみたいで、丁度エレベーターの前に着いたところで扉が開き、私達を招き入れる。
「ありがとう。これからも、地上の市民のために頑張ろうね?」
「はい!」
その場に居た全員が唱和したのか、結構な音量が響いてくる。
それに、私は別に上官じゃないから敬礼はいらないよ?
そう思いながらも、私はエレベーターの扉が閉じる前に敬礼を返した。
「……大人気ですね、高町なのは」
「ちょっと力をあげただけなんだけど、その『ちょっとの力』こそを求めていたみたいでね」「成程。納得がいきました」
苦笑しながらの私の台詞に、シュテルちゃんの姿を取るさくらさんは無表情を僅かに崩して呟いた。
……それじゃあ、レジーとシュテルちゃんをお互いに簡単に紹介して、今日のところは引き上げかな。
目的は顔合わせだし、精々持参のケーキをつついて終わりってとこだろうね。
side 高町 なのは (放浪)
最近は戦争に巻き込まれることもなく、犯罪組織の陰謀に巻き込まれることもなく、平和にお菓子屋巡りができている高町なのはです。毎日結構凄い量のお菓子を食べて、それを研究することに身命を賭しています。
たいして大きくないケーキ屋さんでも、そこの世界にしかない特殊な材料や技法を使っていることもあり、行く場所行く場所で新しい発見があるのでこの役目は辞められません。
取ったカロリーは戦闘訓練をしている私に送ればあっという間に消費してくれますから、ある意味では世の女性にとって夢のような状況なのかもしれません。
そして私は今日もまた、寂れた喫茶店で美味しいパイを食べました。どうやら私も知っている次元世界では一般的な材料を使っているようですが、生地のサクサク感をここまで強くするのはどうすればいいのでしょうか?
とりあえず、食べてみたのなら答えを覗く前に自分でも作ってみるとして、答え合わせはそれからですね。
これこれこんな感じのパイ生地がありまして、サクサク感が凄いと言うことを伝える。あとはミッドチルダの翠屋の私と地球の翠屋の私、そしてお母さんが協力してそれを再現するために試行錯誤を繰り返す。一応の完成を見るまで答え合わせはお預けです。
……それにしてもここのお店のパイは美味しいですね。タルトも美味しいです。
今まで作ってこなかったけれど、ミートパイに挑戦してみるのもいいかもしれません。
とりあえず、しばらくはこの世界で寝泊まりをすることになりそうですね。答えが出るまでは動けません。
一人の職人として、知らない技術があるなら知りたいと思う。それは実に当然のことだと思います。
それはお母さんも同じ気持ちらしく、分身の一体をお店に出しながらもう一体は家の台所で頑張っています。
……もちろん私だって頑張ります。お客さんの笑顔のためにも、私自身の満足のためにも!
なぜなら私は一応職人で、ついでに言えば完璧主義者。自分を高めることには欠片も躊躇はありません。
……ある程度人道的な範囲に限りますけどね。
異伝7 その119
side 高町 なのは (ミッドチルダ・機動六課)
ヴィヴィオに物凄くなつかれてしまい、正直に言ってお仕事ができなくて大変です。
そこで私は色々考えた結果、フェイトちゃんに丸投げすることにしました。フェイトちゃんはクロノ君の子供達の面倒も見ていた時期があったし、エリオとキャロも育てたのはフェイトちゃんだったので手慣れているはずですからね。
最悪さくらさんに頼むしかないんですけど、それは本当に最後の手段ってことにしておかないと色々とヤバイですよね。ヴィヴィオが泣いたり笑ったりできなくなっちゃいますし。
「そんなわけでフェイトちゃん。ちょっと助けてくれない?」
「ん、いいよ」
よかったよかった。流石にこんな子供にさくらさんの拷問地獄を味あわせるような極悪非道なことはあんまりしたくないですし。
だから、できればこれで納得してほしいんだけどなぁ……。
それに、なんだかヴィヴィオはフェイトちゃんにもなついてるみたいだし……できればそのままフェイトちゃんの方にくっついてくれたりしないかな?
なんて思ってみても、ヴィヴィオはやっぱり私のズボンを放してくれない。シワがついても大丈夫な普段着なんだけど、それでも一応人前に出れるような程度の品質は保っている。
なお、私はどちらかと言うとズボン派だ。なんとなく全体がだぼっとした服とかが好みで、一番好きなのは甚平。もちろん下にシャツは着るけどね。
ピッチリするスーツとかはあんまり好みじゃないから、スーツを着るときは一つか二つサイズの大きい物を買って袖や裾の長さだけを調整して着ていたりもする。
……どうでもいいことだけどね。
……さてと。そろそろはやてちゃんに話を聞きに行こうかな。今回話してくれなかったら六課を辞めて地球に帰って翠屋を継ぐことに専念しよう。
戦闘機人とかレリックとかスカリエッティとか、色々と面倒なことになってきてるんだし、そのくらいは許されるはず。
……と言うか、いつでも辞められるんだから、辞める時になればそんな風に条件付けしなくても勝手に辞めちゃうけどね。
「……とまあそう言う訳で…………あの時“全部話して”って言ったのに黙ってたことを一切合切全部纏めてきっちりかっちりゼロから百まで一切の隠し事無くはやてちゃんの口から微細漏らさず問答無用でまるっと話してもらうよ?」
「わかった!わかったから握手してる手から私の魔力を吸い出して作った集束砲を散らしてな? 魔力吸われてるお陰で防御もできんのにこれは本気で怖すぎるわ!」
「フォトンスマッシャー・ファランクスシフトだから集束砲じゃないよ? 単発の出力はA+くらいのが多方向から全く同時に16×12回撃ち込まれるだけだから」
「この状態でそんなもん食らったら非殺傷設定使ってても蒸発するわ!」
「大丈夫だよ。私も巻き込まれるけどガードするから」
「私も一緒にガードしたりはしてくれへんのやろ!? だったらなんも変わらんやんか!」
「大丈夫。非殺傷設定だから消し炭にも芥子粒にも粉々にもぐちゃぐちゃにもバラバラにもボロボロにも…………ボロボロにはなるかもしれないけど、再起不能までは行かないはずだからね。多分」
「多分とかはずとかそう言う辺りが信用できんわ!」
それは大変。まあ、私は初めからからかってるだけだから、こんなの撃つことは無いんだけどね。
だからもらった魔力はそんなに多くないし、実際にはAランクにギリギリ届くくらいのを一発撃つだけの簡単なものだし。
はやてちゃんに言ったのはなんだったのかって? そんなのただの冗談だよ。
「……嘘はつかないでね?」
「こんなん見せられたら嘘つくっていう選択肢が尻尾巻いて逃げ出すわ。つかんよ。もう嘘はつかん」
そう。よかった。
私はフォトンスマッシャーを散らして、はやてちゃんからの魔力収奪を止める。それだけで真っ青だったはやてちゃんの顔色がかなりよくなった。
とりあえず私ははやてちゃんに話を進めてもらいたいんだけど、はやてちゃんはこれから聖王教会に行く予定があって、それにフェイトちゃんと私を連れていってそこで説明をするらしい。
私としてはそれでも構わないんだけど、そうするとヴィヴィオの相手をしてくれる人がいなくなっちゃうんだよね……。
正確には、ヴィヴィオが納得してくれる人が……なんだけど。
……寮母のアイナさんとか、ザフィーラならなんとかしてくれないかな? ザフィーラって海鳴じゃあ子供達に大人気だし。
……って、よくよく考えたらちっちゃい私を出せばいいじゃない。私の分身は頭身が同じならスケールもある程度変えられるから、リインとかアギトっていう子と同じ感じにすれば怪しまれ…………るね。うん。
まあ、私だからで押し通したらなんとかなりそうな気がしなくもないけど、わざわざ突っ込み所を作ってあげる意味も無いし、何より面倒だしね。
とりあえず一回フェイトちゃんをここに呼んでおかないとね。
フェイトちゃんの番号は……っと。
『ふえぇぇぇぇぇぇぇん!!』
…………これは何事? ヴィヴィオがかなり本気で泣いてて、フォワード達どころかフェイトちゃんまで慌ててるんだけど……。
「……フェイトちゃん? どうしたの?」
『え……な、なのはっ!すぐ来て!お願いっ!』
『うぇぇぇぇえぇぇぇんっ!!』
…………まあ、いいけどさ。
異伝7 その120
side 高町 なのは (ミッドチルダ・機動六課)
私がヴィヴィオの所に行くと、フェイトちゃんがほっとした表情で私を見てきた。
そして、大泣きするヴィヴィオを私に差し出してきたので一応受け取ったら、ヴィヴィオは私のことをかなり強く抱き締めてきた。
「ひっく……ひっく…………」
「……何があったの?」
「うーん……なのはが突然いなくなっちゃったから、寂しくなっちゃったみたいだよ?」
「……ふーん」
いまだにえぐえぐと泣き続けているヴィヴィオの頭を撫でながら、私はこの状態をどうしようかなぁ……と考えてみた。
あいにくとケーキとかは持ってないし、持っていたとしても今日の分はあげちゃったからあげたくない。
だから、私にできるのは1つだけ。相手を落ち着かせるように意識を込めながら、歌うこと。
魔力が声に乗り、緊張を解して張りつめた心を弛緩させる。
鬱病になっていた人を立ち直らせたり、泣いている子供を泣き止ませたり、初めて(プレシアさんやアリシアちゃん……アリシアさん? ……じゃなくて、管理局に勤め初めてから)人の死に触れたフェイトちゃんを立ち直らせたり、自分の命令で捕らえた犯人が獄中で自殺したっていう話を聞いたときのフェイトちゃんを立ち直らせたり、自分が昔捕らえた犯人の身内が現れて罵倒された時のフェイトちゃんを立ち直らせたり、犯罪組織のアジトで沢山のクローンの子供の死体を見ちゃって本気で落ち込んだときのフェイトちゃんを立ち直らせるのに一役かったり、お姉ちゃんが『彼氏ができないよー!』って言いながらやけ酒してた時に励ましたり、いろんな所で役に立ってきた私の歌は、どうやらこの子にも効果はあるみたい。
ぎゅうぅぅ……と痛いほどに込められていた力が抜けてきて、私はようやく普通に動けるようになった。
ふと周りを見てみると、さっきまであわあわしていたフォワード達やフェイトちゃんが、なんだか物凄く安らかな表情を浮かべていた。
そして私のすぐ後ろには、ついさっきまで困っている私を見ながらニヤニヤと親父くさい笑顔を浮かべていたはやてちゃんが居て、こっちはこっちでなんだかトリップしてしまっている。
「……はやてちゃん?」
「!? は、はいお母はん!」
「……え?」
「………………私、今なんて言うた?」
…………お母はんって……私は自分と同い年の子供を持った覚えは無いんだけど?
……まあ、別にいいけどね。
そんなことを考えていたら、はやてちゃんの顔がみるみる真っ赤に染まっていく。
「……ねえ、フェイトちゃん」
「は、はい!母さん!」
「…………え?」
「…………あ……」
フェイトちゃんの顔もみるみる真っ赤に染まっていく。両手で頬を押さえているけど、真っ赤なお耳が見えてるよ?
……とまあ、しばらく放っておいた方がいいと思ったので、また話の相手を変える。
「ねえ、スバルにティアナ」
「「は、はい!母さん!」」
「………………え?」
「………………」
「……あ、あの、今のは違くて……その…………」
……スバルはわたわたと慌てて弁解を始め、ティアナはぐるりんと後ろを向いてしまった。二人とも耳は真っ赤だし、心音ははやてちゃんやフェイトちゃんに負けず劣らず早い。
……フェイトちゃんは私のことを『母さん』って呼ぶのは初めてじゃないんだから、そんなに焦らなくてもいいと思うんだけどね。
悲しいことがあってお酒を飲んでいる時とか、本当によく私に抱きついて『母さん……』って……まあ、プレシアさんの事だと思うけど。
……それにしても、こうしてこの歌を歌うとみーんな私のことを『お母さん』って呼んじゃうんだよね。すずかちゃんも呼んだし、アリサちゃんも呼んじゃったし。
…………お兄ちゃんの奥さんですずかちゃんのお姉さんの忍さんにも呼ばれたことがあります。なんで?
あえて意識を外していたエリオとキャロに視線を向けて、呼び掛けてみる。
「エリオ。キャロ」
「……か……母さん………」
「……おかあ……さん………」
後ろでフェイトちゃんがものすっごくショックを受けている感じの反応をした。こう、『ピシャーン!』とか『ずがーん!』って感じの。
……ごめんねフェイトちゃん、お母さんって呼ばれちゃって。本当なら、フェイトちゃんがそう呼ばれたかっただろうにね。
でも、キャロにとってはフェイトちゃんは『優しいお姉さん』らしいから、そう呼ばれたいならそう呼んでって言っておけばよかったのにね。
「……ママ?」
……腕の中からそんな声が聞こえた気がしたけど、きっと気のせいに
「……ママぁ……」
……気のせいじゃなかったみたい。
視線を向けてみると、赤と緑の瞳が私のことをじっと見詰めていた。
……まあ、別にママでもいいけど……あんまり優しくはできないよ?
とりあえずヴィヴィオの頭を撫でてあげるけど、しばらくすると徐々に力が緩んできた。
「……私はちょっとお出掛けしなくっちゃいけないんだけど、ヴィヴィオはいい子で待ってられるかな?」
「……うん」
うん、いい子。
……とりあえず、周りに頼れる人がいなくて心細いだろうヴィヴィオに、心許せる相手を作ってあげればいいのかな?
どうやってやればいいのかは知らないけどね。
それじゃ、行ってきます。