リリカルなのは~ほんとはただ寝たいだけ~   作:真暇 日間

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151~160 (完)

 

 

異伝7 その151

 

side 高町 なのは (ミッドチルダ・機動六課)

 

毎日毎日本局から機動六課の私宛にメールが大量に届く。内容も変わらず『是非とも本局の○○部隊に来てください』と言うもの。

私はそれに毎回毎回たった一言、『嫌』と返しているんだけれど……そろそろキレてもいいよね?

翠屋の方にもシュテルちゃん達へのスカウトの人が来て仕事になりません。注文しないなら帰ってください、営業妨害です。

シュテルちゃん達……つまりはさくらさんもしつこく付きまとってくる本局のスカウトさんに辟易としていて、次来たら帰りには脳天に殺傷設定の砲撃を撃ち込んでやると意気込んでいます。

 

……なお、地上本部の方は形式的に一応聞いてきた程度で、あとはしつこいスカウト等はありませんでした。

実際には少し暴走しそうになった新局員も居たようですが、本当にこっちに来る前に鎮圧してくれたようです。

 

「それではやてちゃん。そろそろ私も怒っていいと思うんだよね。お仕事の時間の半分はメールに返信してる時間だし」

「怒る気持ちはわからなくもないけど勘弁してやなのはちゃん。本局の方も悪気は無いんよ」

「悪気がなければ罪に問われないんなら、はやてちゃんは闇の書事件の罪を償わなくても大丈夫だよ。それを今の今までぐちぐちと言ってきてるんだから、私が報復しちゃって問題ないよね」

「大有りや!何人死ぬと思っとるんや!」

「知らないよそんなこと。死ぬなら死ねば?」

「…………それ……本気で言っとるんか?」

「本気でそういうことを言いたくなるくらい苛々してる。知ってる? プライベートの時間でも関係無しにメールが来るから最近はあんまり寝れてないんだよ。……まあ、昨日の夜はウイルス送って通信網を八時間くらい叩き切ってやったからよく寝れたけど」

「何しとるん!? と言うか今日の騒ぎもなのはちゃんのせいかい!自重せいや!?」

「……自重してるから予言の通りになってないってこと、わかって言ってる?」

 

私がそう言うと、はやてちゃんは気まずそうに口をつぐんだ。と言うか、はやてちゃんとヴォルケンリッター達とフェイトちゃん、リンディさんとクロノ君のハラオウン一家、それにレジーとリシュとユーノ君……ついでにカリムさんにお願いされてなかったらとっくに我慢なんてやめてさくらさんと一緒に本局に嬉々としてテロを仕掛けてるだろうしね。

 

本当にやるとしたら、とりあえず私はスカリ博士達を出してあげて、それから秘書さんとクアットロにお願いして情報封鎖をかけて混乱しているところでワープゲートを破壊する。

同時に次元航行艦はシュテルちゃんなさくらさんが破壊して、ディアーチェちゃんなさくらさんがガジェットのような物とAMFを大量に用意してまともな魔法を使えないようにする。

中の全員の防御が紙になったところで、レヴィちゃんの『大炎壊』が中の生命体をゴキブリ一匹残さず焼き尽くす。

最後に人がいなくなった空っぽでこんがりミディアムレアで焼かれている本局を、私の『最大集束・サンライトスレイヤー』とシュテルちゃんの『彗星群』、レヴィちゃんの『炎刃全壊』からの『灼火燎嵐』、ディアーチェちゃんの『大号令』で、ゆりかごと同じようにこの世から消えてもらえば……うん、完璧。

 

欠点は、ユーノ君が向こうにいるから数人くらいは逃げたり助かったりしちゃう可能性があることだけど…………それなら作戦決行前にユーノ君を拐っちゃえばいいことだよね。

 

「あかんなのはちゃん本気や……クロノ君……なんとか頑張ってや…………」

 

はやてちゃんはなんだか遠くを見るようにして、今は多分本局で頑張って説得をしつつも成果がまったくと言ってもいいほどに出ないため、片手できりきりと痛む胃を押さえつつリンディさんと一緒に食い下がっているだろうクロノ君の名前を呼んだ。

 

……なお、この後届いたメールによって、この状況は一変することになる。

 

…………気がする。(【直感:A】発動中)

 

 

 

 

 

side ???

 

ドクターから聞かされた彼女の話から推測すると、彼女はこうして巨大な組織に飲み込まれることを嫌うことくらいはわかっていた。勿論、管理局がそれに構うことなく何度も何度もアプローチをかけるであろう事も。

それを予測したドクターは管理局に囚われる前に、秘密裏に私に命令を下していた。

 

その内容は、『管理局が【高町なのは】に手を出し始めたら止める』こと。その止め方は問わないが、できるだけ手早く確実に。そうでなければ私達の御主人様であらせられる高町なのは閣下に申し訳が立たない!

 

……とのことだったので、高町なのは達をどうやって管理局に引き入れるかを議論していた脳みそ三つを即時破棄して、その上で管理局全体に命令を出す。

『あちら側から近づいてこない限り、高町なのはには手を出すな』と。

それだけではペナルティが足りないので、最高評議会の名前で高町臨時教導官を名前だけ『管理局地上本部所属の大元帥』として登録しておく。権限は無いに等しいが、自由度はすさまじいことになっている。これで手を出そうとは思わないだろうし、例え手を出されたとしても合法的に反撃が許される。三提督を相手にしても問題ない。

 

……この程度しかできませんでしたが……とりあえず二ヶ月ほどしたら脳味噌共は死んだと公式発表しましょう。どうやら査察官達が査察を秘密裏に入れようとしているようですしね。

 

……ああ、これを伝えたら御主人様は御褒美をくれたりするだろうか?

それはなんになるだろう? ……鞭かしら? それとも蝋燭? 全身の体表の皮膚だけに切り込みを入れるなんて言う手間のかかる御褒美なんて…………ああんっ♪ そんなにされたら……ドゥーエは壊れてしまいますぅぅぅんっ♪

 

 

 No.2、ドゥーエ。彼女もまた、変態だった。

 

―――――――――――――――――

 

Q.ドゥーエさんも?

 

A.ドゥーエさんも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

異伝7 その152

 

side 高町 なのは (ミッドチルダ・翠屋)

 

私が管理局の(名前だけ)大元帥になり、管理局からのしつこすぎる勧誘がぴたりとなくなってはやてちゃんがほぉぉぉ…………とふかーく安堵の息を着いてから数日の時間が経過している。

私はあれ以来、機動六課にはあまり行っていない。行く義務は無いし、お尻に殻がついていたフォワード達も立派になった。私のお仕事はもう終わりでいいだろう。簡単に言うと、卒業です。

 

何回か前の教導でフォワード陣にそう伝えたら、なんでかひき止められた。まあ、それでも色々舌を回して最終的には納得してもらって、笑顔と涙で見送ってもらった。

……まあ、最終試験は一応用意してあるけどね。二択で。

片方は、自己リミッター全解除状態の私とフォワード陣での本気の模擬戦。もう片方は、さくらさんに頼んでゆりかご事件を完全再現してもらってフォワード陣に解決してもらう。

 

……今のスバル達ならギリギリなんとかなりそうなんだよね。ギンガやヴィータちゃんに協力を要請したりすればもっと楽に解決できるだろうしね。

誰も『他の人に協力を要請してはいけない』なんて言うルールは作ってないから正直思い付いたもの勝ちなんだけど……思い付けるかなぁ……?

頭を柔らかくする訓点はさせてきたつもりだし、頭を柔らかくするってことは適応力を上げるってことだと考えれば十分すぎるくらいだとは思うんだけど……。

 

…………まあ、思い付かなかった時は思い付かなかった時で、頑張って自分達の力でなんとかしてもらえればいいけどね。

あと、フェイトちゃんやヴィータちゃん達には、フォワード陣がお願いしてくるまで手は出さないでと言っておいたからその辺りは大丈夫だと思う。

 

……そうそう、ゆりかご事件の完全再現は、アンダーグラウンドサーチライトの中でやるので大丈夫です。中で何があってもまずわかりません。

 

…………とまあ、しばらく行く予定の無い機動六課のことはそろそろどこかに置いておくとして、そろそろ話を進めましょう。

 

最近、本当につい最近の話ですが、翠屋で人を拾いました。突然空から落ちてきた時にはどうしようかと思いましたが、とりあえずアリス・イン・ワンダーランドで周囲の目を眩ませてから翠屋に引っ張り込みました。

それから音響魔導による簡単な治療を行いましたが……あの人はあの状態でどうして生きていたんでしょうね。人間の身体の神秘です。

 

そう言うわけで私は今、その人と一緒に落ちてきた小さな女の子……“烈火の剣精”アギトの話を聞いています。

 

……アギトって、女の子だったんですね。男だとばっかり思ってました。

 

 

 

 

 

side アギト

 

あたしは今、管理局地上本部に程近い一つの喫茶店に身を置いている。

あたしの前には目を閉じて、まるで死んでいるみたいにほとんど動かない旦那が横たわっていて、その隣で見慣れない楽器を使って回復魔法をかけている一人の女が座っている。

なにがどうなってあれで回復魔法がかかるのかはわからないけど、実際にかかっている所を見せられては納得はしなくとも受け入れるしかできない。

 

最後の音が消えて、同時に旦那の体を覆っていた光が消える。これで今回の治療はおしまいらしい。

あたしは座っていた机からひゅんと飛び立ち、目を開いたその女……鷹牧桃華に話しかける。

 

「なあ、旦那の様子はどうだ?」

「いつもと同じで良くないね。じわじわ治してはいるけれど、元が元だし治りが悪い。本当にあの状態で起きて活動してたって言うのが信じられないよ」

「……治せるんだよな?」

「それは保証するよ。立って歩くには多少困るかもしれないけど、慣れさせれば大丈夫だと思うし……魔法だってまた使えるようになる」

 

核金も使ってるしね、と言う鷹牧の言葉に、あたしはほっと胸を撫で下ろす。核金が何かは知らないけど、相当大事なものであるらしいことは私でもわかる。

そんなものを、鷹牧は旦那のために使ってくれている。鷹牧曰く『使っても減らないし、使うあてもないから』らしいけど、それでもあたしは鷹牧と言う女に感謝している。

 

こうして旦那が落ちて、あたしがここにいるのには訳がある。それを語るには、二週間ほど前まで話を遡らなければならない。

そう、それはゆりかご事件の途中で、あのバッテンチビの融合機と、そいつのロードだろう紅い騎士との戦いだ。

 

あの紅い騎士は強かった。一撃一撃が妙に重く、手数が多く、融合機とのユニゾンアタックもほぼ完璧に使ってきた。

あたしと旦那も全力で戦ったけど、地上の防御が回復するのが想像以上に早く、それでいて紅い騎士が並外れてあたし達に食らいついてきたのが原因で、あたしは融合解除の直後に大技を撃ち込もうとしてしまう。

そこに隙が生じないはずも無く、紅い騎士はあたしに向かってハンマーを振るおうとする。

そんなバカなあたしを守るために、旦那は自分の身体がボロボロなのにも関わらずフルドライブを使ってしまう。

結果としてあたしがこうしてここにいることから、旦那が紅い騎士に勝ったことは理解してくれると思う。

けれど、その時に紅い騎士から使われた指弾によって、よりにもよって心臓付近に傷を受けた旦那は……最終決戦に参加しようと地上本部に向けて飛んでいる時に限界が来てしまう。

血を吐き、胸を押さえながら落ちていく旦那を支えようとしてバリアジャケットを背中から引っ張り上げるけど、ちょっとスピードが落ちるくらいで止まらない。

ぐんぐんと地面が近付いてきて、ぶつかる!……と思った瞬間に、あたしと旦那の体は急減速した。

そして紫色の宝玉のついたデバイスを持った鷹牧が来て、あたしと旦那の治療をしてくれている。

 

もちろんあたしは初めは疑ったけど、鷹牧が割とお人好しと言われる類いの人間だとわかってからは大して疑わなくなった。

それに、鷹牧は嘘をついたら即座にネタバレするし、オブラートの持ち合わせはないから率直に言ってくるけど悪いやつじゃないからな。一応そこだけは信用している。

 

…………ありがとよ。

 

「どういたしまして」

 

平然と人の心を読むなよ。

 

 

 

Q.なのはさんはいつこの二人を拾ったんですか?

 

A.その143にて。地の文で『あ、私が何か拾った』と言っています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

異伝7 その153

 

side 高町 なのは (ミッドチルダ・翠屋)

 

「……む……」

「旦那っ!起きたかっ!」

 

そんな声が二階のゲストルーム(使用回数は月一くらい。ただし使うのは大抵リシュ)から聞こえたので、分身を一人向かわせる。

実際には向かわせるんじゃなくてゲストルームのすぐ前に分身を出すだけだから、ほとんどタイムラグは無いんだけどね。

 

「……アギトか。…………ここは?」

「喫茶翠屋、ミッドチルダ支店のゲストルームですよ」

「っ!?」

 

扉を開けて普通に入りながら説明したら、なぜか妙に警戒されてしまった。気配が無いところから突然話しかけられたからかな?

まあ、槍型デバイスは倉庫にしまってあるし、大した驚異にはならないんですけど。

 

「何者だ」

「鷹牧桃華。翠屋の店主をやってます」

 

そう言いながら私はゼストさんの額から落ちていた濡れタオルを拾い、冷たい水を張った洗面器に静かに入れる。指先に触れる冷たい感触がちょっと気持ちいい。

 

「……俺は、なぜここに?」

「店の前で墜落死しそうだったので助けたんです。一週間くらい前の話ですけど、体調が悪いのに空なんて飛んじゃ駄目ですよ」

「……気を付ける」

 

……こういうタイプの人は、気を付けるって言っても守らないんですよね。

それに、あの体からするともうあんまり長くないだろうし……本人もその事はわかってるはずなのにあんな無茶をしたってことは…………多分、何か死ぬ前にやらなくっちゃいけないことがあるんだろうね。

 

……まあ、冥土の土産って言うのもおかしいかもしれないけれど……ちょっとくらい手伝ってあげようかな。こう言う自分の意思を曲げない人は結構好きですし。

ほら、さくらさんって『寝る』と決めた時はがっつり寝ますから。シュテルちゃんレヴィちゃんディアーチェちゃんの三人もお休みして寝るくらいですから。

 

そう言うわけでちょっとしたお手伝いをすることに決めた私は、とりあえず地上本部の公開意見陳述会の時にレジーに話があると言うことは聞いていたので、携帯端末を取り出す。勿論かける先はレジーの個人用の通信端末。短縮ダイヤル三番に登録されています。

 

『……儂だ』

「ちょっと用があるから今すぐ時間作ってくれませんか? かなり重大な話ですよ。少なくともレジーには」

『わかった。すぐに開けさせよう。……オーリス、とりあえずこれから三時間以内にある予定は全てキャンセルしろ。鷹牧からの重要な話だそうだ』

『了解しました』

 

……よし、これでつれていく準備は整ったね。あとはゼストさんを適当に言いくるめるだけなんだけど……。

 

「…………」

「…………」

 

……うん、難しそうだね。

 

「ゼストさん……ですよね?」

「そうだが……アギトに聞いたのか?」

「ええまあ。大事に想われてますね?」

「ああ」

 

……うん、わざわざ遠回しにするのも面倒だし、率直に行こう。

 

「ご飯が終わったら、ちょっと地上本部の私の用事に付き合ってくれませんか?」

「…………は?」

「…………へ?」

 

あ、ゼストさんの表情が呆けた所なんて始めて見たよ。結構人間味もあるんですね。

アギトが呆けるのはもういつものことですし、スルーします。

 

「ちなみに仕事内容ですが、ちょっとしたお菓子の配達です。新作の蓬風味のワッフルなんですけど……手伝ってくれたら味見してもいいですよ?」

 

あ、アギトがよだれ溢れさせてる。そしてゼストさんに『行きたい!凄く行きたい!旦那の目的にも近付けて一石二鳥だぜ旦那!乗らない手は無いって!』って言う意味を込めているだろう視線を向けている。

……デバイスだろうが何だろうが、女の子は甘いもの好きだからねぇ……。

たまに甘いもの嫌いな人も居ますけど、少なくとも海鳴とミッドチルダでは少数派ですね。

 

「いつもなら私以外に何人か居るから着いてきてもらうんですけど、今日はみんなお休みだから……お願いできませんか?」

「……いいだろう。承った」

 

……第一関門クリア♪

私はこっそりと心の中で喝采をあげた。

 

 

 

 

 

side オーリス・ゲイズ

 

ティン!と来た。モモは何やら企み事をしているらしい。それも恐らく、かなり大きな事を企んでいるはずだ。

……とは言うものの、モモが地上本部の害になるようなことはまずしないはずだ。モモは頭がいいし、今の状況で地上を潰したら面倒臭い(あくまで面倒臭いだけ。何とかしようとすればなんとかできると思う)ことになるということくらいは簡単に見通しているはずだ。

 

それではなにか……なにか…………。

 

…………!? もしかして、新作お菓子の試食会か!? それなら父さんが人払いをした上、予定をキャンセルしてまで時間を作ったことも理解できる。

今日の予定は殆どが政務だったとは言え、即座にキャンセルを命じてきたことには驚いたが……どうやらこれで間違いないわね。

 

……さて、今回の試食会にはいったい何が出てくるのだろうか……?

……ドーナツ? シュークリーム? ケーキ? マカロン? バウムクーヘン?

 

……まったく、何が出てきてもおかしくないから困るわ。

 

……じゅるり。

 

―――――――――――――――――――――――――

 

Q.ゼストさんはちゃんと動けるんですか?

 

A.とりあえずシグナムと喧嘩していい勝負ができるくらいは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

異伝7 その154

 

side 高町 なのは (ミッドチルダ・翠屋)

 

目の前には呆然とした表情のレジーが一人。私の後ろには呆然とした表情のゼストさんが一人。片方は紅茶のポットとカップを持っていて、もう片方は翠屋のお持ち帰り用の箱を持っている。

 

……うん、面白い状況だね。凄く。

 

「……鷹牧。どういうことだ?」

「話があるんだって。レジーも話したいことがあるでしょ? 他人の耳は潰してあるから大丈夫だよ」

 

ついでに目も潰してあるんだけどね。

 

そこまで言って、私はゼストさんの手からケーキの箱とアギトをひょいと取り上げてリシュの所に行く。リシュもアギトもぽかーんとしていたけど、とりあえず離れたソファーに座らせて、箱を開けて中身を出した。

 

「……モモ。これは?」

「ワッフル。色んなクリームやシロップも持ってきてるから、色々試して見てくれる?」

「いや、そっちじゃなくて……なんでゼストさんがここに?」

「ちょっと前に拾った。空から女の子が降ってくる映画なら見たことがあるけど、突然男の人が降ってくるのはあんまり見たことがないね」

 

女の子も一人降ってきてるけどね。ちょっと小さいけど。

 

ワッフルをお皿に取って、リシュとアギトの前に出す。別に手掴みでもいいけど、このあと書類を触るんなら手には油とかがついてない方がいいからナイフとフォークも。

ジュエルシードによる強化のお陰か、レイジングハートの格納領域は物凄い量があります。それこそ、ちょっと頑張って詰め込めばゆりかごが丸々入るくらいには。

その中には今回取り出したようなナイフやフォーク、スプーンだけではなく調理器具も入っているため、今のような状況や屋外での料理にとても便利です。

 

「……ゼストさんは死んだはずなのだけれど?」

「それは知らない。ただ、体内になにかを埋め込まれていて動いてはいるっていう状況かな」

 

打診してみたらそんな感じの結果が帰ってきたんだよね。胸の辺りになにかの力の塊とも言えるようなものがエコーのようにして現れているのが見付けられたから。

だからこそ、ああして動くことができている理由が理解できないんだけど……私に理解できることだけで世界が構成されている訳じゃないし、『人間って凄いね』で納得しておくことにしましょう。

 

……ああ、始まるのかな?

 

 

 

 

 

side レジアス・ゲイズ

 

もう二度と会えることは無いと思っていたかつての親友が、儂の前に立っている。

ゼストはあの頃と変わりなく、儂はあの頃に比べて些か老いた。そして儂はあの頃よりも汚くなった。

 

「……生きて、いたのだな」

「……いや、死んでいる」

「……ならば、なぜ?」

「……話せば、長くなる」

「……そうか」

 

暫しの沈黙が続き、今度はゼストから口を開く。

 

「……あの時、お前は何を考えていた?」

「……話せば、長くなる」

「……そうか」

 

そこまで言った時点で、儂とゼストは久方ぶりのウォーミングアップを始めていた。

儂は机の中から、ゼストは自分のデバイスの中から、それぞれ古ぼけたオープンフィンガーグローブを出して手に填める。

儂が上着を脱ぎ、ネクタイを外している間に、ゼストはデバイスを待機形態に戻してバリアジャケットを解除する。

 

……まったく、こうして拳で語り合うのも懐かしい話だ。昔から説明したくない時にはこうして殴り合い、相手の拳に乗った意思を読み取って来た儂とゼストだが、今回の語り合いは積もる話もあるだろうし……長くなりそうだ。

 

「……準備はいいか?」

「ああ」

 

言葉も少なく、儂とゼストは互いに構えをとる。

 

「ゼェェストォォォォォォっ!!」

「レェェジアァァァァァァスっ!!」

 

ドゴシャアッ!と鈍い音が執務室に響き渡り、ゼストの思いと儂の思いが交差した。

 

儂の拳がゼストの頬を捉えると同時に、ゼストの拳も儂の頬に突き刺さる。

互いによろけるが、すぐに体勢を立て直して再び顔面を殴る。

 

……は。何が死人だ、馬鹿者め。死人にこのような熱い拳が振るえるものか。

 

ゼストの拳を肘で打ち落とし、腹に体ごと叩き付けるように拳を打ち込む。

ゼストはぐらりとよろけるが、直後に全身を回転させてのスクリューブローを上から叩き込んでくる。

 

……やはり、強いな。ゼスト!

 

 

 

 

 

side アギト

 

「な……なあ。旦那と中将のおっさんが殴り合い始めたんだけどよぉ……」

「そうなの? 大変だね。だけど私は今はちょっと手が離せないからまた後でね。リシュは?」

「残念ながら、私は私で右手がフォークに、左手がナイフに、そして視線がワッフルに固定されていて役に立てそうにありません……はむ……もきゅもきゅ…………ごっきゅん。ワッフルは私に任せて先に行ってください」

「任せねえよ!例え行ったとしてもワッフルは任せねえよ!」

「……ちっ。……残念です…………ちっ」

「二回も舌打ちされた!?」

 

あはははは……まあ、リシュはお菓子が好きだからね。ついつい舌打ちが出ちゃっても仕方ないんじゃないかな?

 

……それにしても、レジーがあんなにはしゃいでるところは初めて見るなぁ。とっても楽しそう。

レジーの笑顔と言えば、苦笑いかあくどい笑顔のどっちかだったから、あんな爽やかな笑い方もできるなんて知らなかったよ。

 

……うん、やっぱりもう一つ用意しておいてよかった。ドッキリって言うのは本当に面白いよね。

……横から見てる分には。

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

Q.レジアスと殴りあえてるゼストさん凄くね? 体治りきってないんでしょ?

 

A.気合いと火事場の馬鹿力です。友情パワーもありますが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

異伝7 その155

 

side 高町 なのは (ミッドチルダ・翠屋)

 

後ろから聞こえる色々と暑苦しい声を聞き流しながら、私はのんびりとお菓子を食べる。

……地上本部に戦闘機人が居るなんて初めて知ったけど、……まあ、いいや。

 

そんな風に地上の犯罪(ゆりかご事件の直後に瞬間的に激増し、そしてあっという間に鎮火した)や地上本部の中の適当な情報を聞き取り、通報したりスルーしたりしつつのんびりレジーとゼストさんの喧嘩を眺める。

 

「……今回は結構長いわね」

「前にもあったのかよ? えーと……」

「オーリスよ。ええ、しょっちゅうね。……まるで殴り合うことで意見交換でもしてるんじゃないかってくらいに」

「……はー……旦那にもそんなことがねぇ……」

「私としては、むしろ貴女とゼストさんが知り合った経緯を聞いてみたいわね。喋りたくないなら別にいいけれど」

 

こっちはこっちでリシュとアギトがガールズトークを続けている。女三人寄れば姦しいってよく言うけれど、二人でも十分だと思う。

とりあえず、ミッドチルダの翠屋からお菓子の追加を持ってこようかな。消費が予想外に早くて、レジーとゼストさんに食べてもらう前に無くなっちゃいそうだし。

 

「どうしたゼスト!貴様はその程度か!」

「……ふっ、あまりに貴様の拳がぬるくてな……眠気が起きてしまっただけだ!」

「よく言った!どるぁぁぁぁっ!」

「せいやぁぁぁぁぁっ!」

 

ズドンッ!ドゴッ、バギッ!ドゴス!ガッ!ガガガガガガガッ!

 

……本当に、元気だねぇ……。

 

「……モモ? なんだかやんちゃ盛りの孫を見つめるお婆ちゃんみたいな表情を浮かべてるんだけど……どうしたの?」

「ちょっとレジーとゼストさんを見てるとね……年齢よりずいぶん若く見えるからさ……」

「……ああ、そう言うことね」

 

リシュもなんとなく理解できたのか、いまだに暑苦しい喧嘩を続けている二人に視線を向けた。

アギトも一緒に視線を向けたけど……多分この子にはわからないだろうなぁ……。

 

「……しばらくすれば落ち着いてくれるかな?」

「昔の通りなら……まあ、あと10分程度で決着がつくと思うわよ? 父さんのレバーブローが何発も入ってるし、逆にゼストさんのスクリューブローもいい位置に入ってたし」

「……いやいや、なんで見えるんだよ。あたしでも飛び飛びの残像くらいしか見えねえぞ」

 

アギトがそう言ってくるけれど、見えるものは見えるんだから仕方無い。リシュも実は結構強いしね。

具体的には……まあ、トーレくらいなら一対一でなんとか倒せるくらい。レジーはトーレはちょっと無理でもボードちゃんくらいならなんとかなるだろうね。パワーだけならブーツちゃんの跳び蹴りを正面から撃ち落とせると思うし。

 

……でも、昔よりは強くなってるはずのレジーの拳をあれだけ受けて、ゼストさんはよく立ってられるよね。それどころか時々レジーをふらつかせてるし。……気力が充実してるからかな?

まあ、なんにしろしばらく続きそうだよね。この男の子同士の意地の張り合いみたいな殴り合い。

 

「……ふ……ボロボロだなゼスト……左腕が落ちてるじゃないか。……もうギブアップしたらどうだ?」

「ははは……堅物だったお前も、しばらく見ない間に面白い冗談を言うようになったな。……お前こそ、膝が笑っているぞ」

「は。貴様程度の拳ではそんな儂すらも倒せんだろうが」

「貴様こそ、腹の肉のお陰で漸く立っていられるだけの状態で……よく吠えるものだな」

 

横から見てるとどっちもどっちでボロボロだけどね。どっちもただのボロ雑巾みたいなものだよ。

 

 

 

約10分後。お互いの頬に全力の拳を入れ合ってばったりと倒れた意地っ張りな少年二人の傷を消毒する。

回復魔法で回復すれば一番早いんだけど、そこは『痛くなければ覚えませぬ』と言うことで。

 

「ぐっ……」

「我慢して。あれだけ殴りあったんだからちょっとくらい痛いのは平気でしょ」

「お父さんも、いくら古い親友と再会できたからってはしゃぎすぎです。自重してください」

「「し、しかしだな……」」

「「しかしも案山子もありません」」

「うまくハモったなこの二組。仲良しか? ……仲良しだったな」

 

アギトがなんだか呆れたように呟くけれど、実際割と仲はいいからね。

 

…………だけど、どうやら時間が来たみたいだ。

 

突然ゼストさんは胸を押さえ、咳き込んだかと思えば大量の血を吐き出した。

私としてはむしろあの身体であれだけ動いてまだ生きている方が不思議なんだけど、どうやら他の皆はその事を予想もしてなかったみたいでかなり慌てている。

 

「旦那っ!」

「ゼスト!」

「……ふ……なに、限界が来た……だけだ……そうだろう?」

 

ゼストさんは私にそう問いかける。実際はとっくに限界を通り過ぎていた体を精神力だけで持たせてたわけなんだけど、ついにそれにも限界が来たらしい。

もう最後の願いも叶ったし、思い残すことが無くなったから気が緩んじゃったんだろうね。

 

「……まあ、正直に言って限界なんて彼方に放り出して動いてたからね。さっきから死んでないのが不思議でしょうがなかったよ」

「……は。正直だな……お前は」

「必要ない嘘はつかないか、ついてもすぐネタばらしするようにしてるからね」

 

……本当に、なんで動けたんだろうね? びっくり。

 

「なあ!あんたのあの回復魔法でどうにかならないのか!?」

「無茶苦茶言わないでよ。流石にこの状態から治そうとしたって数分の延命が限界だって」

「そんな……どうにかならないのかよぉ!」

 

……いや、一回死んでくれればそれなりになんとかなるけどね。この場でそれを言ったら顰蹙買うから何も言わないけど。

 

「……アギト。もういい」

「いいもんか!旦那はもっと生きて、ルールーと一緒に……」

「もう、いい」

 

…………あ、そう言えばルーテシアは大半のナンバーズ達と一緒に更正施設入りしてるんだっけ。してないのはトーレとセッテくらいで、二人は地上で訓練漬けの日々を楽しく過ごしてるんだったね。本気で忘れてたよ。

それじゃああの子の精神安定のためにも、一回死んで生き返ってもらおうかな。核金を心臓の代わりにすれば死にたてなら生き返るらしいし。

 

「……鷹牧。お前には感謝している」

「そう? それじゃあ貸しを返し終わるまでは死なないでくれるかな? 私が死ぬまでお願いとかはしない予定だけど」

「……無茶を言う」

 

ゼストさんは口の端から血を流しながら笑って言う。全身ボロボロで相当痛いはずなんだけど、よく笑えるよね。

 

「重ね重ねすまんが……アギトを頼む。あれには管理局以外の保護が必要だ……頼む」

「旦那ぁ……」

 

……まあ、一人分の食費くらいどうとでもなるけど……私、デバイスのメンテナンスとかできないよ?

 

「いいよ。お願いされた」

「ああ……感謝する」

 

……うん、邪魔者はもう黙ってた方がいいよね。黙って核金三つ用意しないと。

黒一つと、白二つね。

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

Q.なんで黒い核金を持ってるんですか?

 

A.「死にそうになったら使え」と言われて一夏に持たされていたようです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

異伝7 その156

 

side 高町 なのは (ミッドチルダ・翠屋)

 

召喚魔法を使ってこっそりと呼び出した黒の核金一つと、白の核金が二つ。これだけボロボロの体を黒の核金のエネルギードレインによる高速修復で治して、治りきったら白の核金を使って黒の核金を普通の核金に戻す。

そうすれば多分ちょっと頑丈で怪我の治りが早いだけの人間として暮らせるだろうし、問題無いはず。

……まあ、魔導師として生きていけるかどうかはわからないけど、止めておいた方が無難だよね。

 

……よし、来た来た。準備はこれで完了だね。後は黒の核金を埋め込んで…………ロストロギア扱いされちゃうかな?

……さくらさんが私の目の前でさっき作ってくれた物ですし、大丈夫ですね。そういうことにしておきましょう。

説明は……事後報告でいいや。地上の皆ごめんなさいね。

 

それじゃあ、実行……と。

 

 

 

 

 

side アギト

 

あたしがまだ暖かい旦那の体にすがり付いて泣いていると、あたしの上に影がかかった。

見上げてみると鷹牧が居て、その顔には涙の一つも見当たらない。

 

「はいちょっとどいててね」

 

ひょい、とつまみ上げられて旦那の体から引き離されたあたしは、引き離した当人である鷹牧を睨み付ける。しかし鷹牧はあたしに見向きもせずに旦那の体を弄っていた。

 

「何すんだよ!」

「後で説明するよ」

「今しろよ!」

「……一言で言うと死者蘇生?」

 

………………は?

 

………………え?

 

……………………今こいつ何て言った?

 

呆然としているあたし達を放置して、鷹牧はごそごそとポケットから黒いなにかを取り出して、旦那の胸に入れた。

その次の瞬間、突然あたしの体から力が抜ける。どうやらそれはあたしだけじゃないようで、レジアスのおっさんとオーリス(友達みたいなもんだ)も驚いたような表情を浮かべている。

 

「しばらく我慢しててね。三分も経たずに終わるから」

「いや、これ三分ってキツいだろ……」

「? そうか? このくらいなら二時間は行けるだろう」

「ええ。二時間半は余裕です」

「こいつらも地味に化物だ……しかも死者蘇生するとか言われても全然驚いてねえし……」

「鷹牧だからな」

「モモの言うことですから」

 

ああもうこいつら駄目だ。完全にこの女に毒されてやがる。常識と非常識の区別がついてねえ。

 

「常識は投げ捨てるもの、非常識は受け入れるものだよ?」

「違えよ!? 常識は大事にしろよ!?」

「人間が重力と言う鎖に囚われているのは、常識なんて言うものを持ってるからだよ?」

「違えってんだろうが!」

 

ああもうやだこの女。非常識すぎて相手するのも疲れる。もうやだほんと。

 

しばらくして鷹牧はもう片方の手に持っていた白いなにかをさっきと同じように旦那の胸に押し付ける。ぱぁぁぁ……と光が起きて、あたしの体から力が抜けていくのが止まった。

 

「…………よし、成功した」

「っ!」

 

旦那の胸に耳を当ててみると、さっきまでは完全に止まっていた心臓の音が聞こえる。

青を通り越して土気色をしていた顔色も、徐々に赤みを取り戻してきた。

 

「よ……よかったぁ………………」

 

あたしはその場にへたり込む。その場っつっても旦那の胸元なんだが……にしても本当によかった。

 

「よかったぁ~……よかっだよぉ~~~…………」

「あーあーまったく、泣かないの。寝起きのゼストさんには泣き顔じゃなくて笑顔を見せてあげないと」

「ひっく……うん…………」

 

ぐしぐしと涙まみれの顔を拭き、ちーん!と鼻をかむ。そうだ、あたしは旦那にまず笑顔を見せてやんないと!

 

「それで、旦那はいつ頃起きるんだ?」

「さあ? 多分何時間かで起きると思うけど、正確な時間はちょっとわかんないや」

 

それでも、起きてくれるんならそれでいい。

烈火の剣精アギト。一度受けた恩は必ず返すぜ!

 

 

 

 

 

side 高町 なのは (ミッドチルダ・翠屋)

 

ゼストさんは犯罪者でした。これは間違いありません。地上本部襲撃の際に、ヴィータちゃんがしっかり顔を見ていますから誤魔化しも利きません。

しかし、ゼストさんはさっき死にました。これにも間違いはありません。波を操る私が、ゼストさんの脳波が完全に失われていたことを保証しましょう。

 

……そして、地上に限らず管理局法には『死人に対して行使される刑罰の条文』なんて物は存在しない。と言うことは、すでに死んだゼストさんを裁く法は存在しない。

 

「そんな訳で、ここにいるゼストさんは新生したばかりで何の罪もないまっさらな人間と言うことでいいよね」

「全く何の問題もないな」

 

ゼストさんの実質的な無罪が確定しました。後はルーテシアが更正施設から出てきたら復活したメガーヌさんと一纏めにしてどこか適当な場所に住まわせればいいと思います。

残念ながら地上ではゼストさんの事をよく知っている人が多いと思われますので、そこそこ近くてそれなりに地味な無人世界にでも送るのがいいと思います。

 

なお、ゼストさんの罪がなくなったことによって必然的にアギトの罪もなくなりました。ルーテシアは六課を襲った(洗脳されていたらしい精神状態をしていたそうなので、かなり罪は軽くなりそうですが……まあ、本局では人手不足が凄いそうなのでどうにかして管理局に入れさせるために無罪にはしないでしょう。フェイトちゃんの時のように)と言う罪状がありますから無罪にはなりませんが、それでも軽いお説教的な更正施設入りで終わることでしょう。

 

……本局は黒いところは真っ黒で、綺麗な所はかなり綺麗だから厄介ですよね。時々自分の正義に酔った馬鹿も居ますし。

 

……なにもしてませんよ? 最高評議会からの命令があったのに手を出してきたから肩と肘と手首を同時に捻り上げてその形のまま固定させて、二ヶ月後に両手があらぬ方向にねじ曲がった腕をそのままにアリス・イン・ワンダーランドとルリヲヘッドをつかって記憶を消して逃がしてやったなんてことは一切無いです。

 

……ええ、無いですとも。

 

―――――――――――――――――――――――

 

Q.近ければ近いほど効果が高いエネルギードレインをオーリスとレジアスはどうやって耐えたんですか?

 

A.単に絶対量が違いすぎるだけです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

異伝7 その157

 

side 高町 なのは (ミッドチルダ・翠屋)

 

黄泉返った(漢字が変? 気にしない!)ばかりのゼストさんを『死んだから』と言う理由で無罪にしてから、ちょっと打診してゼストさんの身体の調子を見てみた。

すると、やっぱりと言うかなんと言うか、魔法を使えないようになっていた。魔力が欠片も見当たらない。

まあ、自力で使えないだけでアリサちゃんの真似をしたり、地上本部で流行りの魔力カートリッジで魔法を使う方式だったらどうとでもなるんだろうけどね。

 

とりあえずその事を正直にアギトに伝えて、多分もうユニゾンとかもしない方がいいと言っておいた。融合事故を起こしかねないと言うか、起こす可能性が非常に高いから仕方無いんだけどさ。

アギトも流石にその事は理解できたのか、ちょっと涙目になりながらも納得して頷いてくれた。

 

……そう言うわけで、なぜか現在、アギトは私と一緒に暮らしている。なんでも『恩人の恩人はあたしにとっても恩人』と言うことらしいけど…………なんと言うか、実にアギトらしい台詞ですよね。

今では翠屋でちっちゃい身体でウェイトレスみたいなことをやっていて、おじいちゃんおばあちゃんの人気をレヴィちゃんと二分している。誉められたり飴を貰ったりと、実は満更でもなさそうだ。

 

「姐御~!カボチャのプリンとアイスティーとバニラアイスと豆乳クリーム甘さ2とシフォンケーキ1つずつ!」

「はーい、そこにできてるから持って行ってー」

「早っ!? 持って行くけど何度見ても早っ!?」

 

今朝作った作りおきを出しただけだし、実際はそこまで早くもないんだけどなぁ……。注文は聞こえてたから適当にぱぱぱっと纏めておくだけの簡単仕様なんだけど……。

……お母さんなんて私よりずっと早いし……いったいいつになったらその背中に手をが届くのでしょうか?

 

あと、アギトは私の事を『姐御』と呼ぶようになりました。ゼストさんが『旦那』で私が『姐御』で、レジーは『レジアスのおっさん』、リシュのことは普通に名前で呼んでいるようです。

さくらさんのことは『坊主』と呼んでいましたが、さくらさんの実年齢(最低でも億越え)を知ったら『さくら』と呼ぶようになり、時々四方山話に花を咲かせる仲になったみたいです。

……まあ、古代ベルカ式の純正の融合機にとって、自分よりも長く生きている存在って言うのは中々お目にかかる機会は無いでしょうからね。仲良きことは美しきかな……。

 

……そうだ。二ヶ月くらい過ぎたし、久し振りに機動六課に行ってみようかな。スバル達も鈍ってないといいけど……頑張ってくれてるよね? 真面目だし。

それと、アギトのお披露目も兼ねてみようかな。いつか必要になる事だしね。

 

 

 

「ママっ!」

「久し振りだねヴィヴィオ。元気してたかな?」

「んん……っ!」

 

久し振りに会ったヴィヴィオは、抱き締めていたなのはさん人形(デフォルメされて三頭身になっている私。動くし喋るし空も飛ぶ。ただし戦うことはそんなにできない。三頭身だからね)を放り捨てて私に抱きついた。

放り捨てられた私(分身ってある程度自由に変形できるから便利だよね)は、ふよふよと浮いて私達にすいーと近付いてくる。

ヴィヴィオには私とこの分身が同じ存在だと教えておいたし、毎日夢に干渉して夢の中で話しはしていたけど……やっぱり寂しかったんだろうね。昔の私みたいに。

 

抱きついてくるヴィヴィオを抱き上げて、頭を優しく撫でてあげる。こうやってなつかれているって言うのは、悪い気はしないよね。

 

「……姐御、子持ちだったんだな」

「血は繋がってないけどね。でもそんなことは些細なことでしょ?」

「そーだな」

 

三頭身の小さな私の隣に浮いていたアギトとそんな感じに話をして、一緒に六課を歩く。

作ってきたお弁当を一緒に食べたり、お昼の訓練(ヴィータちゃんやシグナムさん、フェイトちゃん達とフォワード陣との模擬戦。かなりいい勝負をしている)をこっそり聞いてみたり、ヴァイス君とアルトも交えておやつをしてみたり、リインに見付かってはやてちゃんに連絡が行ってはやてちゃんが凄い速度で走ってきたり、一日だけで色々あった。

六課にはあんまり思い入れは無いし、例えもう一度結成されることがあったとしても、もう参加することはないだろうけど…………結構楽しかったよ?

 

……そうだね。最後にスバル達フォワード陣と、ヴィータちゃん達前衛隊長陣に、ちょっとしたプレゼントでもあげようかな?

アギトがいいって言ってくれたら、アギトも一緒に。私とアギトの融合相性って、実はそれなりにいいんだよね。

私には炎熱変換は無いからそれなり止まりだし、正直に言うとシグナムさんとの相性は気違い染みて良いんだろうとは思うけど……まあ、本人がシグナムさんと一緒に居たいって言うんだったらお嫁に出してもいいと思うけど。

 

……お嫁はちょっと違うかな? 身も心も一つになる(ユニゾンする)って言うのはそんな感じだと勝手に思ってたりするんだけど……やっぱり違う?

 

「まあ、違うな」

「そっか」

「ああ」

 

そうなんだ? まあ、別に違うなら違うで構わないけどさ。

 

「一応考えるだけ考えてみてくれる?」

「…………まあ、今のあたしのロードは姐御だしな。考えるだけはしといてやるよ」

「ありがと」

 

……アギトとの付き合いは短いけど、私に被害が来ない範囲で幸せにできる人には幸せになってもらいたいからね。

それはゼストさんもそうだし、リシュやレジーにも言えることだけど。

 

……でも、最優先は自分の幸せだよね。自分すら幸せにできない人が、どうやって他人を幸せにできるのだろうか?

つまり、人を幸せにするにはまず自分が幸せでなければならない。そういうこと。

 

…………とかなんとか言ってみる。

 

さてと。それじゃあ自己リミッター外して『太陽』は使わないで行ってみようかな。

『太陽』は全力戦闘用で、手加減をするっていう概念はどこにも無いからね。

 

―――――――――――――――――――――――――

 

Q.最後の仕上げは模擬戦なの?

 

A.そうらしい。

 

 

 

Q.ところで、クリームの甘さ2ってなに?

 

A.砂糖の量です。0が最低で最大は10です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

異伝7 その158

 

side 高町 なのは (ミッドチルダ・機動六課)

 

機動六課が設立されて、早くも一年が経過しました。

この一年は、本当に激動の一年とも言っていい一年だったと思います。

 

例えば、ゆりかご事件や戦闘機人事件の一応の終結。広域指名手配されていた次元犯罪者の逮捕。大きなものでもこれだけあり、小さな物も合わせればきっと100はあるでしょう。

 

私の場合は、一番は子供ができたことでしょう。とりあえずお父さんとお母さんに報告と紹介は済ませました。

それから、トーレとセッテの地上本部入りと、他の戦闘機人達の裁判終了に無罪とはいかないまでもかなり軽くなった罪を何とかするための無償奉仕の期間終了。

スカリ博士と秘書さん、眼鏡さんはそれをやっていませんが、どうやってか簡単に脱獄したり入獄したりを繰り返しています。

 

それと、地上本部にこっそり潜入していた仮面さんことドゥーエは、レジーの秘書二号としてリシュと一緒に働き、たまに私のところに来て色々と変態的な欲望をぶち撒けていきます。

毎回毎回気絶させて簀巻きにして地上本部に送り返しているんですけど、それでも懲りることなくきています。

 

ゼストさんは、蘇生されたルーテシアのお母さん(メガーヌさんと言うらしい)と、施設から割と早く出てくることができたルーテシアと一緒に無人世界に島流し(?)にされました。向こうで幸せに暮らしているそうです。

 

機動六課ではヴィータちゃんがアギトの姿を見て騒いだり、フォワード陣が私を見つけて大騒ぎしたり、はやてちゃんが平和になったせいかシグナムさんにセクハラかましたりフェイトちゃんにセクハラかましたりシャマルさんにセクハラしたり、暇になった六課のメンバーが小さな事で大騒ぎしてみたり、本当に色々あった。

 

そして今日は、機動六課の最終日。とりあえずはやてちゃんやシャマルさん達八神一家とフォワードメンバー、そしてフェイトちゃんにアルフさんまで呼んで、初の私との全力戦闘。フォワードメンバーはやる気満々といった表情を浮かべているけれど、フェイトちゃん達は絶望的な表情を浮かべてるね。

 

……そんな酷いことなんてしないよ。私はアギトとユニゾンするけどそれだけしかしないつもりだし、再起不能とか後遺症が残るほどにはやらないつもりだし。

まあ、私は自他共に認める負けず嫌いだからわざと負けようとはしないけど……自覚の無い異常人の集まりである機動六課のフルメンバーなら私に勝てる道もあるよ。

 

……多分。

 

「と言うわけで、最後に私と全力模擬戦闘です。殺傷設定は使っちゃ駄目だよ?」

「言われんでも誰も使わんわ!」

「ルールとして明言されてなかったら私は使うよ?」

「使うなや!?」

「使わないでよ!?」

「使うなよ!?」

 

はやてちゃんとフェイトちゃん、それにアギトの三人によるトリプルツッコミを受けた。ティアナもつっこみたそうな表情をしたけど、我慢したみたいだ。

まあ、あらゆる命令や規則を無視できて、殆どの規則の縛りを受けない以外には何の権限も無いとはいえ、一応私は上官らしいしね。所属は違うけど。

 

「だから、使わないためのルール設定じゃない。ちゃんと考えておいた方がいいよ?」

「…………そやな。できるだけ命の危機は少なくしとかんと……」

「とりあえず、撃墜判定の出た相手に対する追撃と、撃墜判定を受けた人による攻撃は禁止しておかないとね。じゃないとわざと自爆してアギトは残ってるからチームとしては敗けじゃないけど普通に動けて攻撃してきてこっちから攻撃したら反則負け……何て言うこともありえるし」

「ああ、最低限それは必要なルールやな。あと、撃墜された人物を武器にするのも無しにしとかな」

 

アギトが『えぇ~……お前そんなことまでやんの?』という表情を浮かべながら表情の通りの念話を送ってきたので、模擬戦ではやらないと返しておいた。

するとアギトは一瞬安堵の表情を浮かべ、そしてその直後に『って、模擬戦じゃなかったらやるのかよ!?』なんて言ってきた。

 

……その前に、模擬戦以外で『撃墜判定の出た相手に追撃して失格になる状況』なんてものが存在するかどうかを考えてほしいけどね。

いくらなんでも実戦でそんな真似はしないし、それ以前にできないよ。

 

……敵の骸を楯にしたり、そのままそれでぶん殴ったりとかはしそうだけどね。レヴィちゃんがディアーチェちゃんでシュテルちゃんの『星群』を叩き落とした時みたいに。

流石に私はやられたことはないけど、あれは痛そうだったなぁ……ディアーチェちゃんが篠斑神拳っていう合気柔術を使ってなかったら死んでたかもだしね。

 

……さてと。とりあえずルールは大体決まったみたいだし、試合を始めようかな。

 

はやてちゃんがコインを取り出して、私とはやてちゃんのぴったり真ん中に落ちるように弾く。

高く高く上っていったコインはゆっくりと減速していき、それから進行方向を変える。

 

くるくると回転しながら吸い込まれるようにコインは地面に落ちて行き…………地面に接触した瞬間に私達は動き始めた。

 

 

 

 

 

side 織斑 一夏

 

…………うとうと……。

…………すぴー…………。

 

「……ぅー……」

「……みー……」

「……なー……」

 

……ん……ちー姉さん……ご飯はちゃんと食べないと…………。

 

…………すー…………。

 

「ぅに……」

「……ふみぃ…………」

 

…………すかー……。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

Q.ドゥーエが懲りない理由って……

 

A.やっていることがご褒美だからです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

異伝7 その159

 

side 高町 なのは (ミッドチルダ・機動六課)

 

とりあえず開始直後に会場全体に響き渡るように【波】を打ち出す。当然私を中心として離れていくに従って威力は減衰していくけれど、それでも相当の威力は出ていて訓練施設の結界が初撃で悲鳴をあげた。

回避不能の空間攻撃で相手方の出鼻を挫いて、それから即座にアギトとユニゾンする。

髪の色が若干薄い金色になり、青だった瞳は赤が混じって赤紫に。バリアジャケットにも金色が混じって……なんと言うか…………本格的に趣味悪いよねこの制服、みたいな感じになっちゃった。

 

そのままレイジングハートをブーストモードにして、呼び出すのは狂気の提琴。スッと構えて弾き始めよう、音と炎の狂詩曲。

 

タイトルは、【人狼狂詩曲】。始まります。

 

 

 

 

 

side アギト

 

バイオリンの音に合わせて、あたしは炎を生み出し乗せる。

ただの音が熱波と衝撃に変わり、周囲に破壊を撒き散らす。

……鷹牧……いや、姐御の中に居るとよくわかるんだが、姐御の音には様々なイメージが込められていて、音はそのイメージを反映した破壊をもたらしている。

 

例えば、姐御の音の基本は【砲】。全方向に向けて巨大な高波を叩きつけるようなイメージで、与える破壊は主に衝撃と打撃。熱波として炎を乗せると相手から見えづらい。

次に多いのが【弾丸】。圧縮した小さな塊を高速で撃ち出すイメージ。与える破壊は主に貫通。軽いが鋭いから、旦那の槍と同じように炎を乗せることができる。

そして【剣】。魔力刃を飛ばすようなイメージ。斬撃で、一番炎を乗せやすい。

後は打撃の【拳】と威力の高い打撃の【槌】、速度はいまいちだけど貫通力と突貫力に優れた【槍】。何かに当たると炸裂するようにする【焼夷化】等を使っていて…………試合開始から五分。姐御は、まだ一歩も動いていない。

 

実のところ、あたしは全部の音に炎を載せている訳じゃない。炎を乗せる音と、熱波を乗せる音と、なにも乗せない音と、三種類がそれぞれに別れている。

炎を乗せればその音は可視化する。熱波を乗せればその音は注意すれば見えるようになる。何も乗せていなければ、その音は直撃を貰うまでは見えない。

 

そんな感じで三種類の攻撃を使い分けて幻惑し、さらに相手のデバイスや観測機器、レーダーや方向感覚や距離感を鈍らせる霧まで出しているため、本格的に手がつけられない。

正直に言って、あたしは姐御が旦那と戦わないでくれて良かったと思っている。

名前の事で嘘をつかれたり、突拍子も無いことを言ってあたしにツッコミをさせたりする姐御だけど、まるで子供の部分と大人の部分が同時に存在しているかのように無邪気で、それでいて無駄に計算高く、時々抜けていて憎めない。

そんな相手だから……と言うこともあるけど、やっぱり一番はこの戦闘能力。しかも旦那を復活させてくれた時のエネルギードレイン(と言うらしい。姐御に聞いた)をある程度自在に使えるみたいだし、正直に言って勝てる気がしない。

なにより、テレビで見たあのゆりかごを破壊した時の魔法。あの時は四人がかりでやっていたけれど、単発の威力が一番でかかったのは多分姐御の撃った桜色の集束砲だろう。あんなものを食らったら、たとえ直撃を避けたとしても余波だけで十分死ねる。

 

……本当に、敵じゃなくなってよかった。

 

あと、姐御に言われてちょっと気にしてる剣使いの女……シグナムっつったか? ……なんだが、確かにあいつとの融合相性はかなり良さそうだ。剣を使うし、炎熱変換持ちだし、バトルスタイルだったら姐御より数段あたしに合ってると思う。

ただ、姐御の【剣】の音も変則的ではあるけど炎を纏わせやすいし、レイジングハートを槍に見立てて魔力刃を出して、そこから炎を出すことだって熱を持たせることだってできる。

簡単に言うと、どっちも融合の相性は結構いいんだよな。姐御の方はかなり変則的だけど。

 

常に自分を中心とした広域空間攻撃をぶっぱなしながら相手の居る場所ピンポイントで狙撃を撃ち込むスタイルで、さらに感知方法が特殊すぎて情報量が多い姐御。ほんと、デバイス泣かせだよな。姐御の頭の中身は多分そこらのデバイスの処理速度なんて鼻で笑えるレベルだろうし。

姐御の役に立ちたいって言うデバイスからしたら、本当に厄介な主人だと思うぜ?

 

……それだからこそ仕え甲斐がある、っていう奇特なデバイスも居るんだけどよ。

 

さて、【人狼狂詩曲】の次の【結んで開いて羅刹と骸】も終わり、三曲目の【Bad Apple】へ。ここまでで大体八分三十秒。

相手は後衛の緑色の騎士と前線で攻撃を受け止め続けた守護獣、そして拳銃型デバイスを使うオレンジ頭と速いけど装甲の薄い黒い魔導師が落とされているにもかかわらず、こっちの被害は全くのゼロ。魔力も自前のはほとんど使ってないから元気一杯と言う、かなり酷い状況。

 

一騎当千の存在ってのが居るのは薄れた記憶の中に若干こびりついてるんだけどよ……実際にこの目で見ると理不尽以外の何物でもねえな。いやマジで。

旦那もかなり強かったけど、手段を選ばない戦闘行為なら流石に勝てないよなぁ……。

 

この光景を見てると、『一対一ならベルカの騎士に敗けは無い』っていう台詞が薄っぺらく見えてきちまう。

その上、本人は『私より強い人を知ってる』って言うんだから……世界は広いよなぁ…………。

 

……ああ、終わったか。それじゃあいつもの通りに寝に行くか。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

Q.エネルギードレインの真似事って?

 

A.接触状態からの魔力の収奪です。正確には触れてなくてもできますが、触れていた方が効率がいいのは代わり無いので。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

異伝7 その160

 

side ヴィータ

 

なのはの全力戦闘。わかっちゃいたが相手にするとこんなにもきついもんだったとは!

あたしは歯を食い縛りながら、飛来する炎塊をグラーフアイゼンで叩き落とす。

あの赤い融合機の力だろうこの炎は、純粋な熱量だけではなく衝撃までこちらに伝えてくる。

 

広域に伝わって常にこちらの体力と魔力を削ぎ落としていく魔力波と衝撃波で、防御の薄いフェイトはもう落ちた。

……つーか、なんで音源が一つなのにこっちの全周囲から攻撃するなんてことができるのかが不思議でたまらないんだが……まあ、なのはなら仕方ねえよな。

 

ただ、この常時展開されている衝撃波は、なのはに近付けば近付くほどに威力を増していって、最終的には魔力の構成を揺るがされてバリアジャケットすら纏えなくなってしまう。一回あたしが攻撃しようとしたら剥かれた。

だからと言って離れたままだとじわじわと削ってくる攻撃で落とされちまうし、そうでなくともたまに来る炎弾やら炎塊やらにやられちまう。

 

射撃と砲撃も、遠距離からじゃあ減衰が酷くて使い物にならない。はやての空間攻撃も、近付けば分解されてなのはに使われる。

 

近付いたら魔法が使えないで無防備になる上に避けれない。

遠くに居れば攻撃は当てられないで一方的に削られる。

唯一なのは相手にリンカーコア抜きができるシャマルは、フェイトの次に集中攻撃されて落とされた。

 

……マジでこれ詰んでるよな。勝てる気がしねえや。

 

それからフォワード陣の頭脳のティアナが落とされ、魔力集束を応用してのちょっとした必殺技が使えたキャロが落とされ、防御の要であったザフィーラが落とされた。

そこから雪崩をうつようにぼっこぼこにされて、あたし達機動六課フルメンバーvsなのは・アギト組の模擬戦は終了した。

 

…………あー………………死ぬかと思ったけど、死ななくてよかったぜ。マジで。

いや、なのははあれで殺人とかはしないと思うしな。敵ならともかく、味方なら特に。

 

 

 

 

 

side 織斑 一夏

 

なのちゃんと機動六課フルメンバーとの模擬戦を覗いてみて、思う。

なのちゃんは強くなった。俺が相手をするときも縛りプレイじゃ攻撃の決め手に欠けるようになったし、能力値的にもちょろータム強化形態(IS学園入学時の蘭ちゃん=中学三年生の弾くらいの身体能力。ちょろさ控え目、95%減)くらいはある。

ほんと、成長したよなぁ……。

 

「さくらさんっ♪」

「おー、お疲れ様」

 

俺のところにひゅんっと現れたなのちゃんは、にこにこと純粋に嬉しいと言う表情を浮かべている。

久し振りに身体のサイズを大きくして、なのちゃんの頭を撫でる。ナデホスキルは一応持ってるし、これで和んでくれよ。

 

「……んぅ……はぅ……♪」

「……わぉ。姐御もこんな顔すんだな」

 

「ん? ああ、確か……アキトだったか」

「アギトだ」

「それは悪いな、アジト。あんまり長い名前は覚えられなくてな」

「アギトだよ。長くねえよ三音だぞ」

「いやいや、俺にとっては三音は長いんだよアリコ。俺にとっての長くない名前は二音までだ」

「アギトだっつってんだろ。二音の名前は短い名前だろうがよ。あんまりいねえぞそんな奴」

「仕方無いだろアミト。覚えられないものは覚えられないんだから」

「だからアギトだっての。いい加減燃やすぞ」

「まあ、十年もかければ覚えられると思うから、それまで気長に待っててくれや。なのちゃんの名前も十年くらいかけたし」

「長えよ」

 

まあ、気にするな。

 

……それじゃあ、のんびり寝るか。

 

「そうですね。お昼寝タイムに突入しましょう。アギトも一緒にどう?」

「あー……結構疲れたし、一緒に寝かせてもらうわ」

 

そう言ってアリトは俺となのちゃんの後について、アンダーグラウンドサーチライトに入る。

中は一面の布団だし、基本的に薄暗くて寝ようとすると真っ暗になるからこのままでいいよな。

まあ、靴は脱いでもらうけど。

 

……それじゃあ、お休み。なのちゃん。それに…………(ちらり)……アギト。

 

「はい。お休みなさい、さくらさん」

「おう……って、普通に呼べんじゃねえか」

 

まあ、カンニングしたからな。

 

……すぴー…………。

 

 

 

 

 

side 高町 なのは

 

目を閉じてすぐに眠ってしまったさくらさんの頭を私の膝に乗せて、優しく髪を撫でる。

ヴィヴィオも同じように膝の上に頭を乗せて眠っていて、アギトもさくらさんの眠気オーラにやられてか、こっくりこっくりと船を漕いでいる。

 

……今ならいいかな。

 

私は、小さくなったさくらさんの耳元に口を寄せる。

今までは恥ずかしくて真っ正面からは言えなかったことなんだけど……まあ、ちょうどいいし言っちゃおうと思う。

 

「……さくらさん。私は、さくらさんが……織斑一夏が大好きです」

 

そう言って、さくらさんの唇に触れるだけのキスをした。

 

………………あ~~~、うん、顔が熱い。頭が熱暴走しちゃいそう。熱い熱い、沸騰しちゃうよ。

見えないけれど、多分真っ赤になっているだろう私の顔をぱたぱたと扇ぐ。全然意味がない気もするけど、気にしない。

 

…………よし、寝ちゃおう。なんにもなかったかのように。

 

私はさくらさんとヴィヴィオの間に体を滑り込ませて、目を閉じる。

こう言うときに、意識を鈍らせてすぐに眠れるようにしておいてよかったと思ったり。

 

……それじゃあ、今度こそ……お休みなさい、……一夏さん。

 

「ああ。お休み、なのは」

 

………………?

 

……………………っ!?

 

…………………………ッ!?!?

 

――――――――――――――――――――――――――

 

Q.一夏はいつ本名を教えたの?

 

A.なのはが偽装戸籍を取ったときです。覚えてますよね?

 

 

 

 

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