side 織斑 なのは(異世界)
……人間ヌンチャクってあんな感じかなぁ……? 流石さくらさん……じゃ済まないような気もしなくはないけど、なんにしろ流石さくらさん。
よくあの武器を持ったままのトーマを軽々と振り回せるよね。しかも筋力的には三人の中で最弱クラスのディアーチェちゃんモードで。
「まあ、ディアーチェと言えど強化すれば貴女の弟子の戦闘機人程度の膂力を持つことは不可能ではありませんからね」
「技術力ならディアーチェが一番だし、シールドもバリアジャケットも全部抜く技を生身でやることくらい寝ていてもできると思うよ」
「流石さくらさん、そこに痺れて憧れる。さっきアースラの厨房の片隅を借りて作ったシュークリームですけど、食べます?」
「カスタード? 生クリーム? ピスタチオ? チョコでもいいよ?」
「残念ながら、今回はリンディ提督の部屋から許可を得てちょろまかして来た抹茶味です」
「では、紅茶ではなく緑茶の方がいいですか?」
「そうだね。……ヴィヴィオちゃんやアインハルトちゃんも起こして、それからこっちのみんなも呼んで食べようか?」
……だけど、トーマは無理かもね。あれだけ(物理的に)振り回されたら気持ち悪くなってご飯とか食べられなさそうだし。
ついでに人間ヌンチャクなんてやったら遠心力で頭に血が上りすぎて脳の血管が破裂しちゃったりするかもしれないし。
……ああ、でもトーマはエクリプスドライバーらしいし、そのくらいのちょっとした怪我ならすぐに治るよね?
「そんな状態になるほどやっとらん」
「と、トーマ……」
「ぁ~~~~……リリィが三人に見える……ぐるぐる世界が回ってる~~……」
……十分酷いと思うけどね。トーマの目の焦点ぶれすぎじゃない。普通に喋ってるし後遺症とかは残らないとだろうけど……。
「……水、飲む?」
「……いただきマス……」
……さてと。それじゃあ他の皆も呼んでこようかな。どうせ後で記憶に封鎖をかけるんだろうし、問題ないよね。
これでも喫茶翠屋・ミッドチルダ支店の店長だし、お菓子作りにはそれなりに自信があるよ? 流石にお母さんに勝てるとは言えないけど、いい勝負はできると思うし。
……コーヒーや紅茶を淹れるのは私よりもシュテルちゃんの方が上手だけど。
まあ、その辺りは気にしないでおくとして……英気を養うのは大切だからって言う理由で呼べばなんとかなるかな?
それとこっちの世界のレヴィちゃんは……呼べば来るかな? 呼ばなくても来そうだけど、できればちゃんと来てほしいんだよね。そして私の作ったお菓子を食べて感想を言ってほしかったり。
……でも、闇の欠片でシュテルちゃん、レヴィちゃん、ディアーチェちゃんの三人がここにいるから喧嘩になったりしそうなんだけど……素直そうな子だったし言えばわかってくれるかな?
……こっちのレヴィちゃんがレヴィちゃんに勝てるとは思えないけど。
「くんくん……この部屋からいい匂いがするぞっ!」
「犬かなにかですか貴女は……」
シュンッ、と音をたてて開いた扉から、こちらの世界のレヴィちゃんとシュテルちゃんの二人が現れた。
どうもレヴィちゃんがいい匂いをかぎとってここまで来たみたいだけど……そんなに匂いが強いお菓子なんて作ったっけ?
「……おや、貴女は……ナノハ……ですか?」
「一応ね。正確には平行世界の高町なのはだから、君の知っているなのはちゃんとは別の存在だけどね」
「……ああ、理解しました。それでは改めて……初めまして、タカマチナノハ」
「初めまして、シュテルちゃん。……で、いいんだよね?」
「はい」
……なんだかレヴィちゃんは随分違いがあるのに、シュテルちゃんにはあんまり違いが無いんだね? 別にだからどうしたって訳でもないんだけど。
「……それで、食べてく? 大したものは無いんだけど、食べるんだったら感想を教えてくれると嬉しいな」
「いえ、私達は」
「美味しいっ!シュテるんも食べなよ~」
………………。
「……食べていくといいよ。どうせもうちょっと作る予定だったし」
「……それでは、お言葉に甘えさせていただきます」
「はい、どうぞ。……ああ、喧嘩しないでね? 君じゃあ勝てないから」
「……聞き捨てなりませんが、喧嘩をしないと言うことについては了解しました」
うん、やっぱりこの子はいい子だ。そんなわけでこっちの世界のシュテルちゃんの頭を撫でる。髪は……ああ、昔の私の髪質にそっくり。
違いと言えば、ちょっともふもふしてるかな? 私は昔から伸ばしてたから、髪の自重でもふもふはあんまりしてなかったからなぁ……。
「……なんの真似ですか」
よしよしとシュテルちゃんの頭を撫でていたら、シュテルちゃんにそう訪ねられた。嫌がっているわけじゃなさそうだけど、こうやっている理由がわからなくって困惑してるみたい。
理由なんてあってないようなものなんだけど、理由が欲しいなら一応答えておこうかな。
「シュテルちゃんがいい子だな~と思ったから、頭を撫でてるの。嫌だった?」
「別に嫌ではありません。しかし……」
そこで言葉を切ったシュテルちゃんは、頭を撫でる私の手の上に自分の掌を重ねた。
「……温かい……ですね」
そう言って、シュテルちゃんはまるで私の腕の中で眠るヴィヴィオのような安心しきった笑顔を浮かべた。
……ナデホスキルでも発動したかな? これさくらさんだけじゃなく、フェイトちゃんやはやてちゃんにも効いたし、アルフや他の動物達にも効いたからあり得ない話じゃないんだけど……。
まあ、可愛いからいいかな。
「……もう少し、撫でていただいてもよろしいですか?」
「いいよ。どうせなら座ってからにしようか」
私はこちらの世界のシュテルちゃんの頭を撫でながら、のんびりとソファーに移動するのだった。
「あっ!それ僕が目をつけてたんだぞー!」
「知らないよそんなこと。目をつけるだけで自分の物になるんだったらこのクッキーの山は僕のものだ」
「これこれやめぬか二人とも。喧嘩などせず仲良く食べよ。シュテルも何か言うてやれ」
「……すぅ…………」
「……やれやれ、シュテルはまだ眠るか。……おお、なのは。それにこちらの世界のシュテルか。まあ楽にするがよい」
……凄いことになってるなぁ……いろんな意味で。