side 織斑 なのは(異世界)
海鳴臨海公園からこんにちは、異界の音楽家織斑なのはです。
現在私は膝の上に魔力集束を続けるレイジングハートを乗せ、索敵と攻撃と防御を同時に行うべく狂気の提琴を弾いています。観客はユニゾンしてそのまま分身を取り替えることによってこの世界に連れてきたアギトと、レイジングハートだけ。
初めのうちは闇の欠片も聞いていたけど、そのうちのかなりの量を構造の基礎を揺るがして砕いてやる事で魔力に還元してレイジングハートが吸収したため、もうほとんど誰も残っていない。
残っているのは、今のところたった一人だけ。
「……いい曲ですね」
「ありがとう。まさか君に誉めてもらえるとは思ってなかったよ」
……うん、システムU-Dだね。背中の翼っぽいのが手に変型して本人と一緒に拍手してる。なんだかちょっと可愛いかも。
でも、システムU-Dって言う名前はなんだか味気無いよね。勝手に改名しちゃおうか。
えっと、U-D……ユーディ…………よし、ユーリ。勝手にユーリって呼ばせてもらおう。拒否は認めない。
……本気で嫌がられたらまた新しいのを考えるけどね。悲しいけど。
「それで、ユーリはなんでこんなところに? 全てをぶっ壊したい病の発作が刻一刻と進行しててかなり不味い事態だって聞いてたんだけど」
「……ユー……リ?」
「いや、その前に『全てをぶっ壊したい病』にツッコミ入れろよ」
きょとん、とした表情で私を見つめるユーリ。もしかしたら割と天然なのかもしれないね。小動物のような雰囲気が……。
まあ、そう言うことは置いとこう。アギトからツッコミも入ったし。
「U-Dだと味気無いから勝手にそう呼ばせてもらうけどいいよね?」
「はい、構いませんが……」
よし言質とった。無くても呼ぶつもりだったけど。
「それで、全てをぶっ壊したい病は大丈夫なの?」
「はい、どうしてか貴女の音楽を聞いていたらいつの間にか暴走が止まっていて、それに魔力を集めるのもあんまり上手く行ってないのでエグザミアの暴走には暫く時間がかかるでしょうから」
「全てをぶっ壊したい病に心当りあんのかよ……と言うか、暴走?」
「はい、暴走です」
暴走ね……どうすれば止まるかな? こっちの世界のディアーチェちゃんが頑張ればなんとかなったりする?
「まあとりあえず……魔力集束が上手く行ってない理由にも暴走が一時的に止まってる理由にも心当りはあるから……しばらくここでのんびりしていくといいよ」
「さっすが姐御、あたしに予想もつかないことを平然とやってのける。痺れはするけど憧れねえ」
「ありがとうございます~」
ちぱちぱとユーリは小さな手を打ちならす。見た目は普通の子供なんだけど、精神的には大人なんだよね……子供っぽくはあるし、若干天然入ってるけど。
「あ、あたしは『烈火の剣精』アギトだ。姐御のデバイス兼翠屋の従業員やってる。よろしくユーリ」
「あ、はい。ユーリことシステム『アンブレイカブル・ダーク』。U-Dです」
「それじゃあ私も。織斑なのはだよ。平行世界のミッドチルダで喫茶店の経営をしてるから、もしも来ることがあったら歓迎するよ」
「……いや、それは無理だろ姐御じゃあるまいし」
「後で限界ギリギリ魔力供給の刑ね」
「すまんかった姐御。だからあれは勘弁してくれマジで」
アギトが空中で器用に土下座する。ちなみに限界突破魔力供給の刑って言うのは、相手の体表に魔力の膜を作って魔力の発散を防いだ状態のまま限界ギリギリまで魔力を送り込むだけの技。ただしやり過ぎると『ひぎぃらめぇ』状態になる……らしい。私はなったこと無いからわからないけど、フェイトちゃんとかアギトとかがそう言っていた。
苦しいけど体の中を他人(この場合私)の魔力で埋め尽くされて染められそうになって、危機感を煽られるけどなんだか気持ちがいい……らしい。フェイトちゃんも変態さんになっちゃったみたい。可哀想に……。
「姐御のせいだからな? もしかしたらフェイトにそういう素質があったのかもしれねえけど、それを目覚めさせちまった原因の大半は姐御だからな?」
「? 『そういう素質』ってなんですか?」
「子供が知っちゃいけないようなことだよ。知りたいんだったらもうちょっと大きくなってから今の話を近場の頼りになる人に聞いてごらん」
「……私には時間がありません。今は落ち着いているけれど、私の中のエグザミアの暴走はまだ続いているんです」
ユーリはそう呟いてうつむいた。暴走ね……確かこっちの世界のディアーチェちゃんが何かしようとしてたはずだから、それに期待しておこうかな。
それまでは……まあ、私がなんとか押さえておこう。膨大な魔力で編まれた障壁のお陰でノイズストームの中でもユーリは形を失うことは無いみたいだし、それ以前に闇の書の闇の一番濃くて一番深い所を濃縮還元した状態の相手に手加減なんて必要かどうかすらわからないけど。
まあ、それもユーリが正気を失って私に襲いかかってくるような事があったらの話だけどね。
そんなことになったら私は喜んで……いや、喜びはしないけど容赦もしないで反撃するけどね。死にたくないし。
分身使えば死なないけど、例え分身だったとしても私を殺していいのはさくらさんだけだからね。ちなみにシュテルちゃんとレヴィちゃんとディアーチェちゃんの三人はさくらさんに入ります。
……さてと。それじゃあ私の持ち曲の一つを披露しようかな。
私の持ち曲の中で思い出深い曲の一つ。具体的には昔々にお父さんの怪我を治すのに一役かった『癒し曲』。
『星空のSpica』
……あんまり怪我人が出なかったから歌うのは久しぶりなんだけどね。