side 織斑 なのは(ミッドチルダ・自宅)
帰ってきた……と言うのもおかしいかもしれませんが、平行世界から帰還してきました。
分身の一人は普通にここに居ましたし、向こうの世界にも何人か居るので帰ってきたと言うのはやっぱりおかしいような気もしますが、それでもなんとなく帰ってきたと言う気分です。
ああ、平行世界間移動術式ですが、どうやら成功したようです。今私がこの場に居ることが何よりの証拠と言えるでしょう。
時間も私が消えた瞬間からそう過ぎていませんし、とりあえずあの時の用事を終わらせてさっさと家に帰りましょう。今日のご飯は……カツカレーで。沢山動いたからお腹空いちゃったしね。
「ただいまー」
「お帰り、なのちゃん。……なんか事件にでも巻き込まれた?」
……流石はさくらさん。必要以上に鋭いなぁ……。
まあ、別に隠すような事じゃないし、バレたところでさくらさんなら問題ないと思うし、構わないんだけどね。
「はい、色々ありました。でも、もう解決してきたのでさくらさんが手を出すことはないと思います」
「そうか」
「はい!」
さくらさんはそれだけ聞くと、ゆるゆると薄く開いていた目蓋を閉じていく。やっぱり、さくらさんは自分の周りが静かなんだったら何でもいいんでしょうね。
……そして私も、そんなさくらさんの事が大好きなんだなと再確認。ゆっくりと眠りに落ちようとしているさくらさんの髪を撫でて、それからヴィヴィオのために晩御飯の準備をする。……なんと言うか、こんなごくごく普通の日常を過ごせることが凄く嬉しい。今回みたいに事件に巻き込まれたりすると、こんな平凡な日常をとても愛おしく感じてしまう。
「平凡っつっても常識的でも平和でもないんだけどな。訓練とか模擬戦とかで荒っぽい毎日だし、犯罪もかなり多いしよ」
「それはしょうがないよアギト。私がこうして一時でも平和を感じることができるのは力を見せつけて逆らうのも馬鹿らしいと思わせてるからだし、恩を売ってなかったら色々厄介なことになってる可能性もあったしね」
非常識さについては、さくらさんの影響だからしょうがない。私にはどうにもできないよ。
私の認識の中では『私が非常識なのは当然のこと』だから、私が非常識じゃなくなると言うのにそもそも無理がありすぎる。なにしろ私には私の行動のどれが非常識な物でどれが常識的な物なのかという区別がつかないんだから。
……ついでに言わせてもらうけど、常識的な行動しかとらない私を見てどう思う?
「……なに企んでんだ?」
「何も?」
「…………ぅわ気持ち悪っ」
ボソッと呟いたアギトの首根っこを掴んで、隠し味のヨーグルトを入れておいた器に放り込む。べしゃっと水音がして、アギトの全身がヨーグルトにめり込んだ。
このくらいは軽いお仕置きだよね。ヨーグルトの方にはちゃんと火を通すから大丈夫だし、汚いとか勿体無いとかそう言うことは無い。
「……ぷはっ!何すんだよ姐御っ!」
「アギトがあんまり失礼なことを言うから……つい」
「『つい』じゃねえよ!? ああもうベトベトじゃねえか……」
そう言いながらアギトはヨーグルトの器から飛ぶ。全身白くてベトベトした半液状のナニか(ヨーグルトだよ?)に被われているアギトは……その道の人(主にロリコンとかペドフィリアとか言われる人)が見たら即座にお持ち帰りしたくなるだろう状態だけど……他人には見せないから問題ない。ついでに私は女の子同士には興味は無いからこっちの方も問題ない。
……なのにどうして地上本部では私とリシュの薄い本が売りに出されてたり、地上本部内ナイスカップルランキングの上位に私とリシュの名前があったりするんでしょうか?
一応言っておきますが、私はそっちの趣味はありません。確かに家の外では男の影はありませんし、リシュやフェイトちゃん、ヴィータちゃんと結構濃密なスキンシップをすることもありますが、けして同性相手に欲情するようなことは……………………………………………………。
ありません。
「今のバカ長え空白はなんだよ!?」
「ちょっと自信が揺らいだだけだよ。大したことじゃない」
「大したことだろそれ!?」
……相手がすずかちゃんじゃなければ大したことだったんだけどね。
すずかちゃんの場合は魔眼使って私の血を吸おうとしてくるから、ちょっと気を抜くとゾクッとしちゃうんだよね。言ってくれれば行動に支障が出ない程度にならあげるって言ってるのに……。
まあ、相手がいないからあの時の処理が大変なのはわかるんだけどね。早くいい相手みつからないかなぁ?
……ちなみに、私もアリサちゃんもすずかちゃんの相手をしたことがあったりします。普段はファリンさんが相手をしてるそうですが、私達が相手をした方が早く満足してくれるそうです。
そんな若干歪んだ友人関係は今もまだ続いていますが、外見上はそれまでの関係と一切変わっていません。
アリサちゃんもすずかちゃんも、そして私も、ちょっと危なっかしくも平和で楽しいこの関係を壊すことを望まなかったから。
「だから、問題ないよ」
「だからって言われても…………はぁ……いや、なんでもねえ。よくよく考えたら姉御が相手だったら別にいいや」
いいんだ? 確かに私もアギトが相手だったら別にいいけど、できればこの微温湯のような関係は壊したくないんだよね。
「あたしもだよ、ロード」
私とアギトはちょっとの間微笑みあって、それからお互いに行動を再開した。
具体的に言うと私は料理に、アギトはお風呂に入る準備を始める。
夕食の時間までもう少し。ヴィヴィオはまだリオちゃんやコロナちゃん、ノーヴェと一緒にストライクアーツの練習中。元気なのはいいことだけど、酷い怪我はさせないようにね? だからって自分が怪我をしてもいいって訳じゃないから、ちゃんと気を付けること。
言わないでもわかってるとは思うけど、一応ね。知ってるとは思うけど、私ってこれでも結構親馬鹿だから。
でも、フェイトちゃんはこれでも厳しいって言うんだよね。いったいフェイトちゃんの『優しい』って言うのはどのくらい甘やかした状態なんだろ?
……知りたいような、知りたくないような……。