短い……けど、ギリギリ間に合ったァぁぁ!!
そう言うことで、正月短編です。半日でやったにしては、まあまあですかね。
後、今回それなりに甘いです?
……嘘、微糖くらいです。
side 織斑 なのは
何事もやっている本番よりもその準備をしているときの方が楽しいと言うのは、大体の人なら納得してくれる話だと思う。
けれど、ミッドチルダは多民族国家……と言うか、色々な次元世界から色々な人が来ているから多民族って言う言葉で一括りにして問題ないのか悩む程に多くの人種がいるせいか、国全体で何かをすると言う行事が全くと言っていいほど無いので若干困ってしまう。
クリスマスは聖王教会の方で聖王の生誕祭があったのでそれに便乗したけれど、流石にお正月の方は何もない。精々が多くの会社が休みだと言うくらいで、喫茶店を経営している私達には関係のない話となってしまう。
……そこで、喫茶店の方は分身で小規模開店することにして、私とさくらさんはお休みをとることにしました。今日は丸一日、さくらさんと一緒におこたでのんびりぬくぬくです。魔法を駆使すれば殆どの場合でこたつから出ないですむので……何と言うかもう堕落してしまいそうです。
「さくらさん、みかん剥きましたけど食べます? 甘いやつですよー」
「……ん、食べる」
「はい、あーん」
「……あむ」
さくらさんに、綺麗に剥いたみかんを食べさせる。さくらさんはみかんの白い皮とすじは残っていても全く気にしないけれど、ある程度以上酸っぱいのは目が覚めるから嫌がるので、空港で缶詰を叩いて中身を当てるようにしてみかんの糖度を測ったり、足りなければちょっと魔力を使って一部の酸味を分解して甘く作り替えたりしてやれば、甘くて美味しいみかんが出来上がる。魔法って本当に便利だよね。
「……この世界の魔法でみかんを甘くするなんて、お前くらいしかやらねえんじゃないか?」
「やらないだけでできるんだから魔法が便利なことには変わりないじゃないですか」
……私以外にできる人は知らないけど、きっと糖度を増すことくらいできるはず。理屈でわかっちゃえば簡単なんだし、できないとは思えないんだよね。
そう考えながら、私はさくらさんにみかんを食べさせつつ私も食べていく。さくらさんの唇に触った指で食べるみかんは、やっぱり甘さが増してるように感じる。実際に糖度を計測してみても何も変わっていないんだから、これはきっと私の精神的な問題なんだろう。
少しサイズの大きいジャージの上にお揃いの紺色の半纏を着た私達は、いつも以上にのんびりと過ごしている。ヴィヴィオは私の出身地である地球の日本のことを知っていて、そして今日がお正月と呼ばれる日だと言うことを知っている。去年はお父さんとお母さんのいる日本に帰ってお年玉を貰ったりしてのんびり過ごしたし、一応の理解はあるはずだ。
……ちなみに、ヴィヴィオはこたつが大好きだったりする。こたつに一度入ってしまうと早々出てこようとしないし、許されるなら毎日こたつで眠りたいと言うほどにこたつの魔力にやられてしまっている。
まあ、そんなヴィヴィオも今はリオちゃんやコロナちゃん、アインハルトちゃんと一緒に修行中。今、この場所には私とさくらさんしかいない。
……実のところ、アンダーグラウンドサーチライトの中にヴィヴィオが入る時は修行の時のみ。それ以外では全力で入りたがらないと言うか、全力で拒否しようとする。
何度も私に殺されては蘇生させられ、殺されては蘇生させられを繰り返しているのだから仕方ないのかもしれないけれど、その程度でトラウマになるんだったら私はいったいこれまで何百回トラウマを刻まれているんだと思っているのか。この程度ならまだまだ大丈夫な筈だ。
私は平気だったし、ヴィヴィオも多分大丈夫。実際、私の小規模砲撃なら完全に防げるようになってるし、中規模砲撃を受けても全力状態だったらなんとか耐えられるようになったしね。
……さて、そんなことは置いておいて、私は久し振りにさくらさんに甘えようと思う。
いつもはさくらさんを膝にのせたり撫でたり抱き締めたりすることばかりで、私の方から甘えることはあんまりなかったからね。たまにはいいと思うんだ。
隣に座っているさくらさんに寄りかかるようにして身体を預けると、さくらさんは私の意思を理解して私より頭ひとつ大きいくらいにまで成長してくれる。
さくらさんはそのまま私の肩を抱き寄せて、ゆっくりと頭を撫でてくれた。
「……ヴィヴィっ子の面倒とか喫茶店の仕事とか、色々ご苦労様」
「……はい」
しゅるる……と掠れるような音と共に、さくらさんの指が私の髪を梳いていく。やろうとすればこの世の全てを塵すら残さず破壊することのできるさくらさんの手が、私の髪を優しく撫でていると言うのは、さくらさんにとって私が多少なりとも意味のある存在なのだと教えてくれているような気がして、少しだけ嬉しく思ってしまう。
普段は眠ってばかりで面倒臭がりで時々とんでもないことを平気でやらかすような人だけれど、こうして私が甘えるとそれに応えてくれるだけの優しさを持っている、私の大切な人。
アンダーグラウンドサーチライトの中に用意されていた畳敷の小さな部屋に、二人が並んで座れば埋まってしまうような小さなこたつと生活感のある本や雑貨、生きていくのに最低限必要な物を並べたこの小さな世界で、私は愛しい人にしか見せない甘えたがりで寂しがりな本当の私の顔を見せる。
「……さくらさん」
「……どした、なのちゃん」
肩を抱かれたまま、さくらさんに囁きかける。さくらさんと触れ合っている場所がとても暖かくて、なんだかふわふわとしてくる。
「……ぎゅっ、て、してくれませんか?」
さくらさんは一旦私の髪を梳く手を止めて、それから私を片腕で強く抱き締めてくれた。さっきと触れ合っている面積も場所も変わっていないはずなのに、さっきよりもずっとずっと暖かいと感じるのは……いったいどうしてなのかな?
「……あったかいです」
「……そうか」
一応あるものの、つけられていないテレビのブラウン管に、さくらさんの肩に寄りかかった私の姿が映る。そこに映った私の姿はほんの少し歪んでいて、それでも今の私が笑顔を浮かべている事くらいはわかった。
私とさくらさんは、振り子時計が時を刻む音の中で時間を過ごした。今日のミッドチルダは快晴、日本は晴れ。きっとこんなにいい天気じゃなかったら、ヴィヴィオは家でのんびりしていただろう。
ぼんやりと、何を見るでもなく瞼を持ち上げる。きっと私にとって、こうやってさくらさんとなにもしないでいる時間が一番幸せを感じることのできる時間なんだろうなと、そんな風に考えながら。
「……さくらさん」
「……なんだ、なのちゃん」
何を見るでもなく前を向いている私と、何を見たいわけでもないのに前を見ていたさくらさんの視線が、ブラウン管に反射して絡まった。
「……私、さくらさんに会えて……なんだかちょっと人間としておかしくなっちゃいましたけど…………幸せです」
頬をさくらさんの肩に擦り付けて囁くようにそう言ったら、さくらさんはまた軽く私の髪を梳くのだった。