side 高町ヴィヴィオ
こんにちは、高町ヴィヴィオです。
突然ですが、皆さんにお願いがあります。
「はっはっは、俺、やっぱなのちゃんのこと嫌いだわ」
「奇遇ですね、私もさくらさんの事がずっとずっと嫌いでした」
「「あっはっはっはっはっはっは」」
……誰か助けてください。
「おいヴィヴィオ、姐御とあいつの間に何があったんだよ!?(ヒソヒソ)」
アギトが私に小声で叫ぶように聞いてくるけど、私だってそんなの知らない。昨日の夜までは普通に仲が良かったはずなのに、目が覚めたら突然修羅場の真っ直中に居るなんて、予想できるわけもないし想像すらしていなかった事。私にできることは、ママとさくらさんが全身から発散しているプレッシャーを全力で耐えることくらいだ。
狂気的とも言えるほどのその圧力。しっかりと意識を繋ぎ止めておかなければ、今にも机に突っ伏してしまいそうになる。
「ヴィヴィオ」
「……は、はいっ!」
突然、ママが私に話しかけてきた。じわりと増した圧力に一瞬返事が遅れてしまったけれど、それでもなんとか意識を保って返事をする。
「ヴィヴィオは今日も学校だよね。気を付けて行っておいで」
「は……はぃ」
私はすぐにこの場から離れる。アギトから『私も連れていってくれ!』って言う視線を向けられているけど……ごめん、私にはなにもできないよ。アギトを見捨てる形になっちゃうけど……弱い私を許して。
それに、私にはアギトを連れていける正当な理由がない。アギトは一応法的にはママのデバイスだし、アギトのいつもの仕事を押し退けてでも連れていける道理もない。
だから……ごめん、アギト。
『オイコラヴィヴィオ!あたしを置いてくんじゃねえ!』
『ごめんっ!』
『ヴィヴィオぉぉぉぉぉッ!』
後ろから聞こえてくるアギトの念話を振り切って、私は全速力で学校に行く準備を整えた。『うらぎりものー!』とか聞こえてくるけれど……残念、裏切った訳じゃない。この件に関しては私とアギトは別々の立ち位置に居るわけだから、裏切るもなにもない。
……本当は助けてあげたいんだけど、私にはなにもできないんだ。本当だよ?
「それじゃあ行ってきまーす!周辺警護にアギトをちょっと借りていってもいい?」
「いいよ。最近は犯罪者が多いしね。スカリ博士とか」
いけた。ダメで元々と思っていたんだけど、なんとかできてしまった。
アギトから感謝の視線が凄いけれど、私も正直かなり驚いている。よくこんな風にできたよね。
うん、この後は学校に行って、それからリオとコロナ、アインハルトさんと一緒にちょっといつもの練習。今のところ勝率は私が一番高いけど、少しずつその差が埋まり始めている。みんな強くなってきてるよね。
そんな皆でも、全員集まってもママ一人にも勝てないんだけどね。ママの強さは本当に凄いよ。
……さあ、トレーニングついでに走って行こう。魔力リミッターによる枷もついてるし、それだけでも十分に鍛えられる。
ママも昔似たようなことをして魔力を鍛えていたそうだし、頑張ればいつか私もママみたいに強くなれるに違いない。強くなって、いつかママみたいな凄い人になるのが夢なんだよね。
そう、管理局本局を脅迫できるくらい強い人になるんだ!
「フェイトが泣くぞそれ。もうちょっと控えめにだな……」
「ママに勝つのが目標だから……」
「遠いなぁ……」
「遠いね……」
「「…………はぁ……」」
私とアギトは溜息をついて、学校に向けて走り出した。
……ママに勝つには、まだまだ力が足りない。もっともっと頑張らないと。
side 織斑なのは
「なのちゃん、大嫌いだよ」
「私も、大嫌いです」
「あまりになのちゃんが嫌いすぎて、嫌悪感が溢れ出しそうだよ」
「私なんてさくらさんを見るだけで胸の奥にどろどろとしたものが湧き出してきそうです」
「そうかそうか、お揃いだとか嫌過ぎるね」
「奇遇にも私もそんな感じです」
「「あっはっはっはっは」」
………………。
「……もうすぐ午前も終わりますし、そろそろ逆に言うのやめません?」
「なのちゃん、愛してるよ」
「にゃうっ!?」
突然の不意打ちに、私は真っ赤になってしまう。顔が凄く熱い。こういう不意打ちは狡いと思う。
「嘘……かもな?」
「どっちですか!?」
「さあ? 本当に嘘かもしれないし、その『嘘』と言う言葉が嘘かもしれない。嘘だ、と言うのも嘘……と言うのすらも嘘かもしれない。もしかしたら初めに言った『嘘を辞める』と言う言葉が嘘と言う可能性もある」
「……さくらさん、私のこと嫌いですか?」
「さっき言ったろ、愛しているよ」
「はぅっ!?」
にっこり笑顔でそんなことを言うさくらさんは、本当に楽しそうだ。さくらさんは人が困っていたりするところを見るのが好きだと言うし、ある意味仕方ないね。
「……ところでなのちゃん」
「はぁ……なんですか? もう惑わされませんよ」
「そうか? じゃあ……ちょっとしたゲームをしようか」
「俺はこれから一つだけ嘘をつく。正解できたらなのちゃんの勝ちだ」
さくらさんはそう言って、私に真剣な目を向けた。
「今から一つ、嘘をつく」
一息置いて、さくらさんは続けた。
「俺は、なのはのことが好きだ」
その言葉を聞いたときの衝撃を、いったいどのように現せばいいのだろう。高速で迫る竜巻よりも、巨大な津波よりも、突然の噴火よりも遥かに大きな衝撃を受けた。
しかし、さくらさんはそんな私に構わず言葉を続ける。
「その蒼穹を思わせる目が好きだ。自分の利点も欠点も全てを受け入れて自分らしくあろうとするその意思が好きだ。お前のその精神を落ち着かせてくれる深みのある声が好きだ。自分の手で自分の望むものを掴み取るために必死に努力できるその在り方が大好きだ」
「ふぇっ、や、まっ───!?」
心音がうるさい。さくらさんの声が聞こえ、私の頭がその内容を理解していく度にどんどんと拍動が早くなり、私の顔に血が集まっていく。
それなのに、さくらさんは真剣な表情で私の目を正面から見つめながら更に言葉を続ける。
「お前と出会い、一度別れて再会した時に、俺のことを覚えていてくれてよかった。お前が音楽を続けていてくれてよかった。ミッドに来た時に俺を誘ってくれて嬉しかった。俺の我儘で俺自身の三人の演技を別人と受け入れてくれたのも感謝している。
……なのは。愛している」
「──────」
もう、何も言えない。嬉しくて、恥ずかしくて、でもやっぱり嬉しくて、嬉しすぎて───私の目から涙が溢れる。
さくらさんが私の名前をちゃんと呼んでくれて、私のことを好きだ、愛しているとまで言ってくれた。
心臓はいまだにばくばくとうるさいほどに激しく動いていて、顔はきっと耳どころか首まで真っ赤になってしまっているに違いない。それが自覚できるのに、それもいいと思えてしまうのだから……本当に大変。
そしてさくらさんは、私のほっぺにそっとキスをした。
ただそれだけ。ほっぺのキスなんて何度もしてもらっているし、唇同士のキスやそれ以上のことだってしていたのに……私はそれに耐え切ることはできなかった。
これ以上は早くならないだろうと思っていた心臓の音が更に早くなり、頭の中では考えが纏まらないであっちこっちに飛び回り、そうしている間に……いつの間にか私は気を失っていた。
……店の分身と意識の共有をしていなくて本当によかった。こんな理由で店を回せなくなったら大変だしね。
side 織斑一夏
気が付いたらなのちゃんが顔を真っ赤にして目を渦巻き状にして気絶していた。昔にちー姉さんに似たようなことをやったら辺り一面が血の海になったが、どうやらなのちゃんはそこまで酷いことにはならないらしい。
そう言うことで、俺はなのちゃんをお姫様抱っこでベッドまで運ぶ。どうやら起きる気配は無いようなので、そのまま寝かせておくことにした。
「……そう言えば、回答をまだ聞いてなかったが……この状況だし不戦勝ってことでいいよな?」
答えが返ってくるはずもないが、一応そう聞いておいた。案の定答えは無かったが、まあそれはそれでいい。十分になのちゃんで楽しめたし。
……さて、俺も寝るかね。なのちゃんの腹を抱き枕にして……お休み。