リリカルなのは~ほんとはただ寝たいだけ~   作:真暇 日間

7 / 59
The Buttle Of Aces~空白期
61~70


 

 

異伝7 その61

 

闇の書の闇を壊してからしばらくして、海鳴上空に色々気持ち悪い気配が現れ始めた。恐らく殴り飛ばした闇が集まり始めたんだろう。面倒臭い。

……が、ほっといたら色々不都合が出るから仕方ない。何とかするかね。

……まったく、本当に面倒臭い。死ねばいいのに。

 

そんなことを言っていても死んでくれる訳じゃないので、さっさとまとめて消滅させよう。フルボッコにすれば良いらしいし、適当に……。

 

 

 

そんなわけでサテライト30で限界数の30人に分身し、ヘルメスドライブを使って欠片を巻き込むように転移して一ヶ所に集める。

なのちゃんが蒐集されていないにもかかわらず、星光の殲滅者の姿があるのが気にはなるが……まあ、いいか。

 

顔だけは知っているやつ。顔も知らない奴。色々居たが、とりあえず俺は自分以外のここにいる全員を皆殺しにすればいいんだよな?

だったらそれは俺の得意分野だ。

 

じゃあ、行ってみようか!

 

 

 

 

 

side 雷刃の襲撃者

 

突然、黄金色の炎が沸き立つ。僕はそれを上空に飛び上がって避けようとするけれど、炎は避けたはずなのに何故か体に切り傷がついてしまった。

そこからじりじりと痛みが体を走り、僕の集中力を削ぐ。

 

僕以外にも避けた奴や初めから当たる場所に居なかった奴がいる前に、一つの影が現れた。

 

その影は、青い髪を二つに分けて頭の横でくくっていた。

その影は、黒いぼろマントのようなバリアジャケットをしていた。

その影は、黒い戦斧のデバイスを持っていた。

 

そしてその影の顔は、僕にそっくりだった。

 

「なんだ、随分と生き残っているようだね。羽虫も集まれば多少の楯にはなり得ると言うことかな?」

「君はなんだ! どうして僕と同じ姿をしている!?」

 

ぶつぶつと何かを小声で呟き続けているその影に向かって叫ぶように問いかける。すると、僕と同じ顔をしているそいつは僕のことをちらりと見て、それからまた小声で、けれどなんとか伝えることができるような限界を見極めきったような音量で呟くように答えた。

 

「君は僕が何者かと聞いたが、僕は君のことを知らない。名乗られてもいないし、答える理由も意味もない。名乗られていたのならば答えてやってもいいけど、こんな礼儀知らずが相手じゃやる気が失せる」

 

そう言いながら僕と同じ顔のあいつは、黄金色の炎とその炎の中に隠されている無数の剣を僕達にけしかけた。

 

「まあ、別にそんなの初めから期待していなかったし、自己紹介くらいは普通にしてあげてもよかったんだけどね。僕の名前はレヴィ・サブラク。壊刃の襲撃者って呼ばれることもあるよ。君達には呼んで欲しくないからとりあえずここで死んでもらうけど文句がある奴は出ておいで。真っ先に殺してあげるよ」

 

僕と同じ顔をしたあいつは、炎の波に乗ってひたすら殺し続ける。

局の魔導師の姿をしている欠片も、僕のオリジナルの姿をしている欠片も、オリジナルの友人の姿をしている欠片も、壊れた融合機の姿をしている欠片も、子鴉の姿をしている欠片も、騎士達の姿をしている欠片も、みんなみんな炎に呑まれて焼き潰され、剣に刻まれ、時々いるあいつに襲いかかる奴も一撃で叩き落とされ消えていく。

 

僕はその間に欠片を取り込み強くなる。次々消されていくけれど、少しでも多く取り込んで強くならなければここで闇の書の復活という願いは消える。

 

そんなことはこの僕が許さない。僕はあの暖かで絶望と慟哭に満ちた闇の中へと還る。そうしなければ、僕が生まれた意味がない。

 

「だから……だから、僕は負けない!負けられないんだ!!」

 

 

「あ、そうなのかい? でも殺すよ」

 

焼けつくような熱気と、相反するような声。強化されているはずの腕が、脚が、炎の舌に舐められて黒い炭へ、白い灰へと変わって行く。

残った胴体には背中から何本もの刃が突き刺さり、ぐじぐじとその傷を広げていく。

 

声の聞こえてきた後ろを向くと、僕と同じ顔をしたあいつがすぐそばに立っていた。

 

こいつを殺したい。腕をうごかそうとするけど、腕はもう肩から無くなっている。

 

こいつが恐ろしい。逃げようとするけれど、激痛と恐怖で集中できない。

 

こいつから離れたい。脚がない。

 

こいつから逃げたい。もう僕には、なにもない。

 

「じゃあ、無様に惨めに薄汚く這いつくばって死んでいけ。君達の屍を踏み台に、僕は今まで通りに生きていく」

 

魔力が集束されたデバイスが振り下ろされ、僕の体は粉々になって消えていく。

 

…………ちくしょう……ちくしょぉぉぉぉっ!!

 

 

 

 

 

side レヴィ・サブラク(役の織斑一夏の分身)

 

闇の書の構成体の一機、‘力’のマテリアルである雷刃の襲撃者の討伐完了。これで俺の仕事は終わりだ。

星光の殲滅者を模した俺は星光の殲滅者を。闇統べる王を模した俺は闇統べる王と戦う。

それぞれ戦い方は違えど、全員が個人で軍団を殲滅することに長けている技を使うのだから、どうせ後に尻拭いのようなことをすると言うことは無いだろう。

本来ならさっさと消えて帰りたいところだが……まあ、何があってもおかしくないからな。一応こうして全てが終わるのを待っている。

流石は構成体三人の中で唯一個人のラストが無かっただけはあり、なんと言うか速くはあるが脆いために広域殲滅型の俺《レヴィ》とは相性が悪かったようだ。

俺としては嬉しいが、期待外れだな。

 

……さて、他の奴らはどうなってるのかねぇ……?

 

 

 

そんなわけで、闇の欠片事件の開幕です。

 

一番初めに散ったのは雷刃の襲撃者。理不尽な壊刃さんに刈られました。

 

以下、プロフィール

 

 

壊刃の襲撃者。

一夏の変装。演技をしているので戦闘中は口数が増えるが、ぶつぶつと小さく呟くので爆音やら何やらに阻まれて大抵聞こえない。

名前のモデルは‘灼眼のシャナ’より“壊刃”サブラク。口数が増えるのは彼の影響。

流石にスティグマを使うのは難しいが、千の顔を持つ英雄で『癒えない傷を追わせる武器』を作れば真似事くらいはできる。

炎と一緒に初めに広範囲に一撃をくれてやり、じわじわと削っていく戦法を取る。

 

作者がノリと勢いで簡単に合成して考え出した二つ名を、雷刃の襲撃者ゆえの無邪気さから普通に名乗る。

残る二人に比べて精神年齢が最も低い。が、世捨て人のような雰囲気も持っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

異伝7 その62

 

side 星光の殲滅者

 

私が他の闇の欠片を集めている所に、その影は降り立った。

私と同じ顔をしていたその少女は、私が闇の欠片を集めているのをただ見ていた。

そして、私が蒐集しているのとは別の欠片が彼女に襲い掛かろうとした時、彼女は動き始めた。

 

私とは違い、ルシフェリオンを持っていない彼女は、ただの拳の一撃でその欠片を滅ぼした。

 

「……闇一色とは………また、つまらない空です」

 

私と同じ顔をした、一人の少女が呟いた。

そして彼女が手を上げると、彼女の真上を中心として星空が広がった。

 

ざわり、と背筋が粟立つ。

‘理’のマテリアルである私が理論ではなく直感に従うと言うのもおかしな話ではあるが、今はそんなことを気にすること無く全力で頭上にバリアとシールドを何重にも張り巡らせる。

 

そこで、私と同じ顔をした彼女が呟いた。

 

「━━━流れたまえ」

『フォーリングスター』

 

その瞬間。無数の桜色の流星が、私達に着弾して数多のクレーターを作り上げた。

無数の星は途切れること無く降り注ぎ、私に吸収されていなかった闇の欠片を消滅させていく。

それはまるで、天の怒りが地上に降り注ぐかのように。

 

「我ら星なり。歌う星なり」

 

そこに、彼女の歌が響く。

光が降り注ぎ、闇が掻き消されていくという状態でありながらなお地獄絵図でもあるこの場に、この地獄の王からの葬送曲とでも言うつもりでしょうか。

そう考えながらも、私は頭上に間断無く降り注ぐ流星群を防ぐべく、バリアとシールドに魔力を強く込めていく。

 

『輝く光で、歌う、星なり』

 

すると、先程の歌に繋げるかのように別の声が歌を返す。

その声はどうやら彼女が腰から下げているメダルのようなものから聞こえるようだ。恐らく、あれが彼女のデバイスなのだろう。

シールドを削られ、バリアが軋みを上げる。私はそれを押さえるため、闇の欠片を吸収して集めた魔力をさらに注ぎ込む。

 

しかし、私達に死を振り撒く流星群の勢いは止まらない。周囲でも防げている者は多く存在したが、誰もがあまりの密度と量に疲労と焦躁を隠せていない。

 

「我ら鳥なり。火を放つ鳥なり」

 

また彼女の声が響く。けして大きくない声だというのに、流星群を防いでいるシールドとの激突音の方が数段五月蝿いというのに、なぜかその歌は音に掻き消されること無く私の鼓膜を震わせる。

そしてそれと同時に、流星群の単発の威力がじりじりと若干上昇していく。速度は変わらず、密度は変わらず、ただ威力だけが。

 

フェイトと言うらしい、雷刃の襲撃者のオリジナルの姿をとっている闇の欠片が、防御しきれず潰れ始めた。数体は彼女に向かって飛び、攻撃しようとしているようですが……避けきれずに消滅させられていく。

 

『天の世界を、縦横に飛び渡り』

 

彼女のデバイスが歌い、今度は速度が上がる。

それはつまり攻撃力の上昇であり、密度の上昇でもある。

また何体もの闇の欠片が無惨に潰され、消し飛んでいく。残っているのは私と、元々防御力の高かった数人しかいない。

魔力を集められただけの魔獣はとっくに私の中か流星群に潰されており、その姿はどこにもない。

所詮は体の大きなだけの肉の壁。しかしその壁としての役割すら満足に果たせないとは……。

 

「斯くして我ら、星と鳥は」

 

ふっ、と、ほんの一瞬だけ圧力が弱まる。しかし、周囲には未だに流星群が降り注いでいるため移動はできない。

そんなことも理解できなかったらしい数人が、バリアやシールドを張ったまま彼女に突撃していく。

私はまた、嫌な予感に従って周囲に存在する膨大な魔力を集束する。

 

そして、それは来た。いつの間にかもう一度手を挙げていた彼女が、ひゅん、と手を振り下ろすのが見えた。

それと同時に、私はバリアを破棄してシールドを先の途切れた円錐状に配置。そして、集束した魔力を砲撃として一度に撃ち出した。

 

ルシフェリオンブレイカー。私の最大にして、威力だけを取ってみれば最強の魔法。それを、天空に向けて撃ち放った。

 

『輝き燃える、銀河となる』

 

デバイスの声と同時に、私の視界は私の砲撃の色だけではなく、彼女の流星群の色でもある桜色に覆い尽くされた。

 

威力だけならば私のルシフェリオンブレイカーが数段上を行っている。

しかし彼女は、その威力の無さを連射弾数と速度によってひっくり返そうとしている。それも、私以外の場所にも無差別で流星群を落としながら。

 

視界の端で、闇の欠片が砕けていく。バリアやシールドを抜かれ、魔力を削り取られ、消えていく。

そのことは、こうして魔力を使い果たそうとしている私にも言える。私は今にも消えそうだった。

 

けれど、せめてこの撃ち合いには負けたくない。私の視界に入るなかで、私以外の全ての欠片が砕かれても、私はこうして砲撃を続ける。

それは、負けるとわかっている状態からしてみればただの無駄だったのかもしれない。しかし、今の私にはそれしかない。

私の存在を削り、ルシフェリオンに魔力を送る。

 

「……どうです? 私の魔導は………強かったでしょう?」

 

最後に笑顔を浮かべ、私は流星群を撃ち抜いて消滅した。

 

 

 

 

 

side シュテル・イーストエッジ(役を演じる織斑一夏)

 

……ちょっとびっくりした。まさかあの弾幕を撃ち抜いてくるような奴がこの世界に居たとは。

相手は星光の殲滅者だったから、多分なのちゃんも同じようなことができるんだろうな。

……もし本気で敵対することがあったら、超々遠距離から町ごと吹き飛ばすのが一番良さそうだ。

 

……無いと思うけど。

 

じゃあ、レヴィの方はもう終わってるみたいだし、後はディアーチェだけか。

あの戦い方は時間かかるからなぁ………運がよければ逆に最速で終わるけど。

 

 

 

そんなわけで、今回は星光さんでした。

勝利に貪欲な彼女も、あの鬼畜戦法の前に敗北してしまいましたが……局地的な威力なら彼女が最強なのではないでしょうか?

 

以下、プロフィール。

 

星河の殲滅者

一夏の変装。簡単に言うと愚直でありながらミステリアスな空気を持つ不思議さん。

名前のモデルは同じく‘灼眼のシャナ’より“星河の喚び手”イーストエッジ。戦闘時に歌うのは彼の影響。

光を凝縮して星群にするのは不可能(正確には、頑張ればできるがやりたくなかった)だったので、千の顔を持つ英雄で『桜色に燃える金属塊』を上空から無数に高速射出することによって代用。爆発はランブルデトネイターによるもの。

主にそれを使った超々広域殲滅砲撃を行うが、必殺技的な隠し技がある。

 

自分のことを話そうとしないが、とりあえず雑魚敵殲滅には一番向いている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

異伝7 その63

 

side 統べ子

 

「消し飛べ!アロンダイトっ!」

 

ズドン、ぼろっ!sideは死んだ!スイーツ(笑)

 

 

 

side 闇統べる王

 

…………よし。これならばいいだろう。

 

我は闇の支配者。闇の書の闇、その王。人は我を『統べ子』と……違うわ!……『闇統べる王』と呼ぶ。

そんな我の元に、次々に闇の欠片が集まって来る。これでこそ王というものだ。

我がなにもしないでも、勝手に糧の方から我の元へと貢がれる。それは我にだけ与えられている特権だ。

 

数多く存在する欠片の中には、不届きにも我に逆らう欠片もある。しかしそれは、我の力で平伏させ、そして飲み干せばよい。我にはそれだけの力がある。

 

故に、それが現れた時もそう考えていた。

 

突然、我が飲み込むはずだった闇の欠片が砲撃によって消滅していく。

 

「……何者だ!」

 

我が不届きな下手人のいる方向を睨み付けると、そこには全身鎧のような人型があった。

 

二メートルに届きそうな身長に漆黒の装甲を持ち、異様に大きな両腕には二つずつ砲口が開いている。

まるで星光の殲滅者のような感情の無さ。数十体の闇の欠片を一撃にして消し飛ばした破壊力。こいつは間違いなく強敵だ。

 

……だが。

 

「その程度で、我に敵うと夢でも見たか!」

 

手に持つ闇の書から魔法を引き出す。引き出す魔法はアロンダイト。直撃すれば当たった周囲に魔力乱流を引き起こし、広域にダメージを与えることができる。

我はその魔法を、目の前の木偶人形に撃ち放つ。木偶人形は暫く耐えたが、十を数えぬうちに崩れ去った。

しかしそこには次なる木偶人形。気付けば周囲は機械仕掛けの木偶人形共に囲まれていた。

私の周りに居た闇の欠片は、どこからか無数に湧き続ける機械人形にほぼ殲滅されている。

烈火の将や紅の鉄騎を模した欠片はいくつか残っているが、それも巨大な砲撃の嵐に飲まれて次々と姿を消していく。

いくつかは破壊することもできたようだが、敵の量からすればその程度の量は端数として切り捨てられてしまう程度でしかない。

 

「……おのれ塵芥の分際で!」

 

我は上昇する。どこかに、この機械人形を産み出している元凶が居る。この機械人形に守られているからと油断しきっているだろうそいつを、広域殲滅で機械人形ごと消し飛ばしてくれる!

 

ある程度まで飛び上がってみれば、それはすぐに見付かった。

機械人形の群の中で一人椅子に座り、機械人形に運ばれながら戦場を蹂躙させている。

 

「……見付けたぞ、塵芥!」

 

我はその小さな影に向けて、エクスカリバーを撃つために魔法を組み上げる。

それに気付いたのか、機械人形が我に向けて両腕の砲口を向けてエネルギーを溜め始める。

 

「消し飛ばしてくれる!エクス……カリバー!!」

「撃て、者共」

 

その影の号令と共に発射された機械人形の群の撃つ砲撃と、我のエクスカリバーが拮抗する。

数十も集まって力を束ねれば、そこそこの威力にはなると言うことか。

 

「だが弱い!」

 

我はエクスカリバーにさらに力を注ぎ込む。エクスカリバーは巨大化し、機械人形のエネルギー砲撃を飲み込んでいく。

そして、着弾。辺り一帯が我の魔力光と同じ色で染め上げられ、煙で被い尽くされる。

 

「は……ははははは!我に逆らおうなどと考えるからこうなるのだ!身の程と言うものを知るがいい。塵芥が!」

 

 

「ふむ、我が機兵を恐れずか。これは暫く時間のかかりそうな相手だな」

 

その声と同時に、我に数十本もの光線が突き刺さる。それも、魔力を削る非殺傷ではなく、直接殺すことができる殺傷設定で。

咄嗟にかなりの魔力を使って作ったシールドを張って大部分は防いだが、角度の問題で防げなかった場所から飛んできたレーザーに片足が焼き切られた。

この身は闇の欠片の集合。修復することに苦労などしないが、それでも腹が立つ。

 

「まあ、多少手こずるだろうが……時間はある。ゆるりと死んで行け」

「貴様がな!」

「いや、貴様がだ」

 

またしても体を撃ち抜かれる。何もいなかったはずの背後に、眼下に並ぶ機械人形と同じものが飛んでいた。

気が付けば、全周囲を機械人形に囲まれている。レーザーを撃たれ、体を再構築し、また穴を開けられ、攻撃を返そうとすれば背後から攻撃を受ける。

我はただ削られていく。圧倒的な数に。一対一なら負けることはまず無いはずの塵芥の群れに、少しずつ削られて消されそうになる。

 

「残るはお前だけだ。ここまで残った褒美に、我が名を教えてやろう。感涙に咽び泣き、誇りに思ったまま死んで行け」

「……誰が、この程度で……っ!」

「貴様だよ、闇統べる王。我が名は、ディアーチェ・サウスバレイ。群機を召し上げ、纏めるものだ」

 

防げないレーザーが突き刺さる。10、20、30、50……さらに多く。

いつしか再生も防御も追い付かなくなり、我は何も残せず、何もできずにただ消えていく。

 

精々十数体の機械人形を壊し、目眩ましをした程度。ただそれだけで、闇統べる王はこの世界から姿を消した。

 

 

 

 

 

side ディアーチェ・サウスバレイ(役の織斑一夏分身体)

 

……ふう、と一息ついて、作りたての機械人形ことゴーレムⅠ型を消した。

【群魔の召し手】サウスバレイの真似事ではあるが、亡者の代わりに機兵としてゴーレムⅠ型を呼び出す。それで大体の奴はなんとかなる。

俺が作り続ける限りいくらでも現れるゴーレムⅠ型に、闇の欠片はほぼ全て消滅した。

……どうやら俺が最後らしいし、後はどうにでもなるだろう。

 

……もう一基居たような気もするが、こんだけ消してりゃ問題ないだろ。多分。

まあ、俺としては存在されたらヤバイ三体は殺し終えたからどうでもいいんだが。

じゃあ、もし何かあったらがんばれー。俺は寝る。

 

……すかー…………。

 

 

 

これにてマテリアル三人娘編は終了です。

 

そして、プロフィール。

 

 

群機統べる王

一夏の変装。土塊の群ではなく機械の群を操る。

ただし、その機械は全て束特製ゴーレムⅠ型。やろうとすればバスターバロンの群れだろうがゴーレムⅣ型だろうが作って操れる。そういう能力を貰ったからだが、やられる側にとってはただの悪夢。

例えそれがゴーレムじゃなく、さまようよろいであったとしても絶望的。なにしろ無数であるがゆえに。

 

名前の由来は同じく『灼眼のシャナ』より、“群魔の召し手”サウスバレイ。一人相手だろうが千人相手だろうが、自慢の土塊製の亡者の群れで食い尽くす、そんな感じのえげつない人。

そんな彼を真似ているせいか、ディアーチェも戦い方がえげつない。そして気分が乗ると『もっとだ!もっと砕いて殺せ!私の可愛い機兵共!』とか言っちゃう。

 

個人の戦闘能力的には恐らく最弱だし、戦い方的にシュテルとレヴィには勝ちにくい。超々広域殲滅系の相手は鬼門。それ以外なら大体なんでも勝てる。

 

………一夏設定により、10歳時では同じく10歳のヴィヴィオに腕相撲で負ける。StSではエリオにも負ける。キャロとはいい勝負ができる(お互い10歳ボディ)。

 

 

 

 

 

 

 

 

異伝7 その64

 

やっぱりちょっと足りていなかったらしい。なのちゃん達が頑張って消し残しを消していってるようだ。

まあ、それでも俺が大半は消してやったから実際零からやるよりは数段どころじゃなく楽なんだろうが……どうでもいいな。

なお、なのちゃんは結界内ではアースラ等に映像記録が残されないという辺りを考慮して狂気の提琴を使用したらしい。物理破壊だから相手が挽肉になるだろうと思ったが、挽肉になったそばから闇の欠片は消滅していったそうな。

まあ、闇の欠片だしそんなもんだろう。

 

そうしている間にも色々ドラマがあったそうだが、俺はそんなのは一切気にせず寝ることにした。

アンダーグラウンドサーチライトの入り口はシルバースキンで防御して、それで平和に眠っていられる。

正直なところ、俺がなにもしない方が世界は平和なんだよな。

 

……それじゃ、お休み。

 

 

 

 

 

side 高町 なのは

 

管理局の人達と協力して闇の欠片を殲滅するお仕事中。管理局の予想よりずっと被害は少ないらしいけど、それでも油断はできない。

今はとりあえず闇の欠片を攻撃し、魔力を削って崩壊させることに集中しないとね。

 

ちなみに、さっきまでは一人だったから狂気の提琴を使いたい放題だったけれど、今はヴィータちゃんと合流したのでレイジングハートで頑張ってます。

 

「……ってかよ、高町にゃの……」

「……深呼吸して、練習してからにしてみる?」

「……すぅ……ふぅ……。………高町なのは」

「なに? ヴィータちゃん」

 

なんにもなかったことにして、ヴィータちゃんとお話を続ける。

最近、ようやく怖がったり睨まれたりすることなく話をしてくれるようになって、ちょっと嬉しかったり。

それに、ヴィータちゃんはやっぱりなんだか子供っぽい。ヴォルケンリッターの中でも特にそうだし、そうじゃなくても……ハンマー振るっているところを見てなかったらほんとにただの子供だよね。アイス好きだし。

 

そんなヴィータちゃんがちょっとほっぺを赤くしながらもう一度聞いてくる。

 

「なのはってよ……なんであんだけ砲撃してて魔力が持つんだ? 普通無理だろ? お前の魔力量って精々Sちょいだし」

「……ああ、そういうことね」

 

確かに私は闇の欠片を消滅させるのに砲撃を多用した。どうしてか私の姿をした闇の欠片は見付からなかったみたいだけど、そんなの関係なしにバインドして砲撃してバインドして砲撃してを繰り返す。

 

そんなことをやってたらいくらSランクの魔力量を持っていても魔力が持たないはずなのに、私は平然としている。ヴィータちゃんはそれが不思議でたまらないんだろう。

 

「えっと……まず、フラッシュバスターは射程と持続時間が凄く短い分、術式を組み上げる早さと燃費は凄くいいの。これはわかるよね?」

「ああ、わかる。……眼鏡なんてどこから出したんだ?」

「様式美です」

「答えになってねえよ」

「……じゃあ、私だから」

「なのはなら仕方ねえな」

 

自分で言ってあれだけど、なんだかちょっとショックです。

 

「……それで、そもそも燃費がいい魔法なんだけど……実はあの魔法を使うときには私自身はたいした魔力を使ってないんだよ」

 

そう言いながら私は小さな魔力の球体を作る。それの形を崩して薄く広げ、周囲の魔力ごと引き寄せて魔力球を再構築。魔力の球体は、一回り大きくなっていた。

 

「……集束魔法?」

「そうだよ。私はあらゆる魔法に集束魔法を応用させてるの」

 

例えば、シューターを作るときには小さな魔力球を散らして空中で再構築させて作る。

例えば、バスターも同じように核の部分を置いて、そこに空中の魔力を引き寄せるようにして作り上げる。

フラッシュムーブメントも手首足首の羽に空気中の魔力を集束して注ぎ込んでるし、シールドやバリアなんて空気中の魔力だけじゃなくて相手の攻撃からも直接魔力をもらってるしね。

 

「そう言う訳で、私の魔力的なスタミナは大気中の魔力素と敵対する相手の魔力によって補填され、たまに直接リンカーコアに集束することで回復しているのでした」

「予想以上に無茶苦茶だなオイ!?」

「にゃははは」

「誉めてねえよ!いや誉めてるけど!」

 

どっちなんだろうね? ヴィータちゃんみたいな天邪鬼な子はわかりやすいからなぁ……♪

……私の周りには可愛い人が多くて困ります。アリサちゃんしかり、フェイトちゃんしかり、レイジングハートしかり、ヴィータちゃんしかり。

 

「……まあ、納得したけどな。道理であんだけやっても魔力が持つわけだ。使う量は最小限な上、回復量が桁外れって訳かよ」

「そういうことになるね。びっくりした?」

「したよ。非常識め」

「ヴィータちゃんったら酷いなぁ。後ろからなでなでしちゃうよ?」

「なんでそうなんだよ!?」

「ヴィータちゃんが可愛いからに決まってるでしょ? 何を言ってるの? 当然じゃない」

「なんで常識を諭すみたいな口調なんだよ!? そんな常識はこの世界どころか次元世界のどこを探しても存在しねえよ!」

「にゃははははっ♪」

「笑って誤魔化してんじゃねえ!」

「あ、新しい反応だよヴィータちゃん」

「おいなのは話をそらしてるんじゃ」

「ヴィータちゃん。今はそんなことを話してる場合じゃないでしょ? 世界の平和がかかってるんだよ?」

「……てめえ………」

 

まあ、あとでのんびりお話しする分にはなんの問題もないけどね。

 

私とヴィータちゃんは時に笑い、からかったりツッコミを入れられたりしながら次の場所に向かう。

それじゃあ、あともう一踏ん張り。頑張ろうかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

異伝7 その65

 

千の顔を持つ英雄でデバイスが作れるかと言われれば、迷わずイエス。アームドならなおさら作りやすい。

勿論アームドだけじゃなく、インテリジェンスもブーストも作れるし、作れるからには使いこなせる。

 

じゃあ、闇の書あるいは闇の書になる前の夜天の書を作れるかと言われると………どっちも作れちゃったりするんだよな。すぐさま消したけど。

驚いたことに中身も再現できたんだが、ちょっと驚きすぎて中身ごと消してしまった。ごめんね管理人格。それに烈火の将、紅の鉄騎に風の癒し手。ついでに蒼き狼も。

 

まあ、そんなどうでもいいことは置いておくとして、そろそろ適当に新曲でも作ってみようと思う所存。

……新曲と言ってもボーカロイドの曲を改変するだけなんだけどな。

それじゃ適当に………一眠りしてからやるかね。いつになるかわからないけど。

 

……すか~…………。

 

 

 

 

 

side 高町 なのは

 

歌って踊れて演奏できる二代目翠屋店主になるには、お菓子作りの修行も必要。

そんなわけで今日は、お母さんに簡単なレシピを教えてもらってチャレンジ!

……初めてでも、最悪お姉ちゃんよりは上手に作りたいです。

 

そんなギャグテイストなことは置いといて、お菓子作りは真面目にやります。

 

まずは体を清潔にすること。これは料理をする中で最も基本的かつ当然のことだけれど、とても大切なこと。食中毒は怖いです。

 

それから器具を清潔にしてあるかどうかの確認と、材料の確認。

作りはじめてから材料が足りなくなったりすると、作るための行程やリズムが乱れて一番美味しくなる時間を逃してしまうこともあると、お母さんから聞いています。

だから、これもとても重要。ここまではできていて当然だけど、ある意味出来上がるお菓子の半分はここで決まると言っても過言ではありません。

 

……お姉ちゃんのお菓子は残り半分でどんな退化(しんか)を遂げてあんな風になってしまうのか、ある意味凄く興味深くはあります。真似は絶対にしたくないですけど。

 

そんなわけで、全ての準備を終わらせて、それからようやく調理開始。秘密のスパイスは【愛情】だそうです。

 

そんなわけで、私も愛情を込めて頑張ってみようと思います。

レシピの改造は……もっと私が上手になってから。じゃないと絶対後悔するしね。

 

 

 

作ってみたのは簡単なクッキー。一番初めだったから、特別なものはなんにも入れずに作ってみた。

ただ、お父さんやお母さんが食べて『美味しいよ』って言って笑ってくれたらいいなと想いながら作ってみた。

思うんじゃなくて、想ってるところが重要ね。

 

結果。ちょっと固めで控えめな甘さの中にほんの少しの塩気のあるクッキーができました。

私はこういうのも好きだけれど、やっぱりお母さんは『失敗してもそれなりに食べられる』ようなクッキーのレシピを渡してくれたみたいです。

……初めてでもそれなりに食べられるクッキーができてよかったけれど、私もまだまだだなぁ……と思い知らされました。

 

やっぱり私の周りには凄い人がいっぱい居て、目標には事欠かない。そんな状態にある私は、きっととても幸福者なんだと思う。

誰よりも才能がある訳じゃない私は、お菓子作りに関しては努力すれば超一流な人になんとか追い付ける可能性が出てくるくらいには才能があるそうです。

全てが才能で決まる訳じゃないけれど、無いよりはあった方がいい。それが才能と言うものですからね。

 

……試食は済ませたし、次のレシピのクッキーを作ってみようかな。

お母さん達に渡す味見用に少しずつ残しておかないといけないから、また違うお皿にクッキーを乗せて……っと。

 

さくらさん。お母さん。私、高町なのはは頑張っています。

 

……こねこね。むぎゅーっ!

 

 

 

お仕事を終わらせて帰ってきたお父さんとお母さん。学校と翠屋のお手伝いを終わらせて家に戻ってきたお姉ちゃんとお兄ちゃん。四人が帰ってきてから自作のクッキーのお披露目をします。

とりあえず、お姉ちゃんのクッキーよりは美味しいと自信を持って言えます。お姉ちゃんのクッキーより不味かったら………自信喪失以前に料理は絶望的だと思った方がいいでしょう。

 

……お姉ちゃんは多分主夫的な人と結婚した方がいいと思います。それがきっと自分も相手も幸せになる方法だと思う。

だから、私のクッキーを食べながら落ち込むのはちょっとやめてほしいかな? 

『妹にまで負けた……』とか、見ててなんだかこっちの方が悲しくなってくるから………ね?

 

お姉ちゃんはお兄ちゃんやお父さんに慰められながら、もしょもしょえぐえぐと泣きながら私のクッキーを食べていた。

 

……なんだか私が悪いことをしているような気になっちゃうなぁ……。

 

 

 

 

 

side 高町 美由希

 

うぅ……なのはのクッキー美味しいよぉ……涙のせいかしょっぱすぎるような気もするけど………美味しいよぉ………………。

……もぐもぐ……。

 

「あー……美由希?」

「……もぐもぐ……ひっく………なに?」

「……なんだ、元気を出せ。お前が泣いていると……どうしていいかわからん」

 

……恭ちゃん………。

 

……デレた?

 

めりっ

 

「デレてない」

「あいたたたたたたたたたいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいってば恭ちゃあぁぁぁんっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

この異伝の主人公はもうなのはでいいと思う。

 

 

異伝7 その66

 

リリカル楽団に新メンバーが参戦した。

その少女の名は……なんだっけ? ……とりあえず、金黒ビリビリ少女。フェイ子だっけ?

 

「フェイト!フェイトだよ!」

「まあ覚えられないから未来永劫まともに呼ばれることはない。諦めるといい、フェトソン君」

「誰!?」

 

どうやらフェトソン君はどちらかと言えばツッコミらしい。

だが、なのちゃん曰くボケながらツッコミをしてくることもあるらしいので、シャルのようなものだろうか。

よかったなシャル、仲間が増えたぞ? 増えてもシャルが楽になる訳じゃないけど。

かわりにバーニングは少し楽になるかもな。ツッコミが増えると楽になる。

ただ、毎回いい感じにハモってツッコミの量が倍になると結局一人辺りのツッコミ量は変わらないから楽にはならない可能性も無きにしもあらずだけど。

 

まあ、そんなことは本人が決めるべき事だから俺はどうでもいいし、どうなっても知らないけどな。

 

それと、フェトソン君は苦労人気質のようなのでフェトソン君の名前が似合っているような気がする。

……いや、ヴィータの方が似合ってる可能性もあるが……リリカル楽団に参加してないのでなんとも言えないな。

 

 

 

本日の練習中に、なのちゃんから手作りのクッキーが差し入れとして渡された。

バーニングやつっきーは喜んで食べていた。フェトソン君は凄く喜んでもきゅもきゅ食べていた。俺はほんのりした甘さの中の少しのしょっぱさを楽しみながらカリカリ食べた。美味かった。

そしてなのちゃんはその事を伝えられると、にっこり笑って喜んだ。微笑ましい絵だよな。

 

……それにしても、塩クッキーか。これはまた失敗しにくいクッキーを選んだもんだな。間違いじゃないけど。

俺の好みは甘さ控えめのやつだから、悪いことなんて一つもないけどな。ちー姉さんに影響されて、甘ったるいものよりは控えめな方がいいと思うようになったとさ。

 

……美味い美味い。

 

 

 

 

 

side 高町 なのは

 

初めて作ったクッキーはそこそこ上手にできたので、楽団のみんなにも食べてもらおうと思って新しく作ってきてみました。

甘さ控えめな塩クッキーは人によって好みが別れるけれど、とりあえず愛情は溢れるほどに込めている。

ついでに魔力も込めてしまっているけど、特に意味も効果も無い。

 

……そう思っていたら、実は効果があるらしい。なんと、込めた思いをしっかり感じるようになるそうだ。

つまり、アリサちゃんやすずかちゃんが言っていた『私の愛情を感じる』って言うのは妄言なんかじゃなくって本当のことだったって言うことでいいのかな?

だとしたら……嬉しいなぁ……♪

 

とりあえずこの嬉しさを込めて、私は狂気の提琴を弾き鳴らす。愛情が伝わるって言うのはいいことだよね。世界平和のための第一歩だと思うよ。

時々迷惑な愛情なんて言うのもあるけれど、それもまた愛情。私はそういうのは断固拒否するつもりだけれど、私が関わり合いにならない範囲なら勝手にどうぞ。

 

私は断固拒否するつもりだけれど。

 

「二回も言うの!?」

「大事なことだからね。なんならあと何回か言おうか?」

「いや要らないよ!一回で十分!」

「そうかな?」

「そうなの!」

 

そうなんだって。びっくり。

 

まあ、私はなんと言われようと私だし、なんにも変わらないけどね。私だし。

いつも通りに平穏を望み、有事の時のために戦いの修行をしながら平穏を満喫するために音楽とお菓子作りを練習する。多分だけど、私は頑張ればそれなりにいいパティシエになれると思うから余計に頑張る気が起きる。

目の前に壁があるなら突き抜けたい。人間としてそう思うのは、不思議じゃないよね?

 

……あと、私は戦いが好きと言うわけでも自分を限界まで追い詰めるのが好きとか言う変態的な趣向があるとかそんなことはありません。ごくごく一般的な夢見る小学三年生(音楽家兼パティシエ志望)の女の子です。

 

「なのは、なのは、なのは。前にも言ったけど、なのはが、一般的とか、普通とか、夢見すぎ。お菓子を作る時にお酒を使って泥酔状態なの?」

「お母さんは小学生の私にお酒を使うようなお菓子のレシピを渡すほど非常識な人じゃありません。私と一緒にしちゃダメだよ」

「なのはちゃん。それ自分が普通じゃないって言っちゃってるから。墓穴掘っちゃってるから。それもギザのピラミッド級の物凄いやつ」

「やだなあすずかちゃん。自覚するのは大切なことなんだよ? 見たくない物から目を逸らして見たいものだけ見ていても進歩はしないんだから。私は『自分は普通だ』って言うことで、平穏を楽しむ時くらいは普通でありたいと願い、夢を見る夢想家な女の子なの」

「例え自分でそれが嘘だとわかっていても?」

「自分が『そうだ』と貫くことで、変わる未来や世界もあるからね」

 

すずかちゃんはそう言いきった私を見て、くすくすと笑う。

 

「……なのはちゃんってば、かっこいいなぁ……惚れちゃいそうだよ♪」

「あははははっ♪ 私はすずかちゃんのことは大好きだよ?」

「私も好きだよ、なのはちゃん」

 

「……ちょっと。フェイトが固まっちゃってるわよ。すずかとなのはが両想いだって言うのはよーくわかったから、見せ付けるのはその変にしときなさい」

「…………(真っ赤)」

 

あはははは………と笑って私とすずかちゃんは離れた。

……でも、今度はフェイトちゃんとアリサちゃんに近付いていって、手をとった。

 

「……勿論、私もすずかちゃんも、アリサちゃんとフェイトちゃんのことが大好きだよ?」

「なっ!?」

 

アリサちゃんはかぁぁぁっ!とほっぺを真っ赤にしていく。フェイトちゃんは元々真っ赤だったけど、目に見えて赤みが増した。

 

ああもう、アリサちゃんもフェイトちゃんも可愛いなぁ……。

 

 

 

 

 

……そう言えば、さくらさんは?

 

「……すぅ………」

 

あ、お休みタイムですか、そうですか。

 

 

 

 

 

 

 

 

異伝7 その67

 

闇の書事件から数年。なのちゃんは立派なパティシエ見習い兼音楽家になっていた。

パティシエ修行の方は漸くシュークリームが商品にできるレベルまであとちょっとというところまで来ていて、その他のケーキ等も次々と覚えている真っ最中だ。

管理局に入っていないため事故が起きるなんて言うことも無く、とても平穏な日々が続いている。実にいいことだ。

 

なのちゃんが言うにはあの子狸娘と赤ロリハンマー、侍ポニテと緑化現象とザッフィーは管理局に入り、フェトソン君も管理局で頑張っているそうだ。

別に俺のところに来なければ管理局がどこの誰を相手に強盗やら拷問(非殺傷なら死なないからな)やら非合法な実験やらをしていても構わないが、わざわざその片棒を担ぎに行くなんて奇特な奴も居たもんだ。

まあ、一応真面目に他人を守りたいと思っている奴もいるんだろうが………一体どの程度になるのやら。

 

なお、なのちゃんは一応次元世界進出も考えているそうだ。

次元世界のお菓子の技術を手に入れて翠屋のお菓子を改良し、海鳴でも次元世界でも翠屋を有名にしてやるんだと豪語していた。

そのために必要な技術は分身。今のところ分身と本体とを合わせて同時に存在できる数は三体だから、地球の海鳴に一人。ミッドチルダに一人(変身魔法で大人になり、上手く行けば店を出す場所を見に行ったりなんだりとするらしい)、管理世界管理外世界構わずに見て回るのに一人を予定しているらしい。

少し前までは分身は分身で本体は本体だったそうだが、今では分身を本体に変えたりすることもできるようになったそうな。

 

……俺はなのちゃんにサテライト30は渡してないはずなんだが………まあ、いいか。なんでも。

 

計画発動は小学校卒業と同時。それまでに翻訳魔法と変装用の幻術魔法を完成させておきたいそうだが……楽々やり遂げそうだと思うのは俺だけじゃないはずだ。

この計画を知っているのはなのちゃんと俺の二人だけ。なのちゃんがミッドチルダや管理外世界で死んだりしてもなのちゃんの本体あるいは分身が海鳴にいる限りなのちゃんは死なない。つまり最終的な失敗はまずありえない。

……まったく、嫌になるほどよく考えられてるな。一応俺からもプレゼントとして逃亡用のアリス・イン・ワンダーランドを用意してあるけどさ。

 

まあ、俺はなのちゃんのやりたいことを否定したりはしない。やりたいんだったら勝手にやって、それが原因で死ぬならそれまでだ。

例えば、分身を本体にしている間に死んだら残った分身を本体にすることはできるのかとか、そんな質問はいくらでも出てくるが、それでも止めない。死ぬも生きるもなのちゃん次第。

 

頑張れ若人。古い人間の俺は、お前の夢を応援してるぞ。

 

 

 

 

 

side 高町 なのは

 

お父さんとお母さんの夢は、駅前に自分の喫茶店を持って、そこでお客さん達に自分の作ったお菓子を食べてもらって笑顔になってもらうこと。前にお母さんからそう聞いたことがあります。

そして私の夢は、そんなお母さん達の夢の店をもっと盛り上げて行くこと。そのための手段の一つとして、今回の『分身による異世界偵察計画(プロジェクト)』は発案されました。

 

そのために必要な物は、まず物騒なことに絡まれても大丈夫なように最低限の実力。そして言葉が通じないと困るので各種翻訳魔法と読解魔法。あとノートと鉛筆代わりのレイジングハートの記録領域と転移魔法。

なくてもいいけどあった方が良いのが、偉い人とのコネ。現実的じゃないけど、できれば作りたい。

特にミッドチルダに権力があればお店を出す時に少しくらい融通を利かせてくれるかもしれないしね。

 

……まあ、まずできないだろうけど。望み薄にも望み薄で、わざわざ選択肢に入れる意味がわからない程度には確率の低い話だけど。何でわざわざそんなことを言ったのか自分でもわからないくらい確率低いけど。

 

………今は考え事よりお菓子作りに集中しなくっちゃ。愛情と夢と希望を魔力に乗せて……美味しくなぁれ♪

子供っぽいかもしれないけれど、これで結構上手くできるんだよ? 必要か必要じゃないかで言えば、必要じゃないけどね。

……お母さんもバレンタインでお父さんに渡すための特別なチョコを作ってるときには秘密の液体を入れながらやったりするしね。

……ところで、バイアグラってなんでしょうか? 前にお母さんに聞こうとしたらにっこり笑顔に封殺されて聞けなかったのですごく気になります。

けれど、お母さんは本当に必要ないこと以外はちゃんと教えてくれるので、きっと私が知るにはまだ早いんだろうと思っています。

 

その話をさくらさんにしたら、黒いのはもしかしたら遺伝なのかもしれないなって言われました。どう言うことかと聞いてみたら、私とお母さんはよく似ているって事だそうです。

よくわからないけれど、なんだか嬉しくないことを言われている気分になりました。お母さんに似ていることはいいことのはずなのに……いったいどうしてなんでしょうか?

 

そんな考え事をしている間に、カップケーキの焼けるいい匂いがしてきた。

今回のケーキは抹茶風味にしてみました。二年もこうやってお菓子作りをしていればこのくらいは誰でも………………大体の人はできるようになりますからね。

 

そんなわけで、カップケーキの完成です♪

後は綺麗にラッピングして、明日アリサちゃん達楽団メンバーに渡そうと思っています。

 

味見もして……よし、美味しくできた。

……ふふふ♪ アリサちゃん達の喜ぶ顔が楽しみだなぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

異伝7 その68

 

時は進み、なのちゃんがこっそり異界に出陣する日になった。

ひっそり分身をして、こっそり転移魔法でミッドチルダに跳ぶ。それだけのことなんだが、結構難しいらしい。主にこっそりと言うところが。

まあ、実は俺がこっそりミッドチルダに先回りしてアリス・イン・ワンダーランドをばらまきまくっておいたからそんなに頑張らなくても大丈夫なんだけどな。

 

まあ、是非とも頑張っておくれ。夢のために頑張るって言うときこそが、人間が一番輝ける時だからね。

たまになのちゃんのお母さんのように夢を叶えて忙しく働いている時が一番輝くってのも居るには居るが、夢を叶えられる人間も叶えた後に楽しめる人間も少ないからな。

 

だから、頑張れ、高町なのは。

 

……ん? 10年も頑張れば覚えられるさ。なかなか呼ばないけど。

勿論鈴達のも覚えてるよ? 普段から呼ばれてると心臓と言うか体が持たないからと言う理由で殆ど呼ばないけど。

 

 

 

 

 

side 高町 なのは(ミッドチルダ)

 

ミッドチルダに跳んだ私は、とりあえずお金を集めるためにちょっと裏路地に入ります。

しばらく歩いていると、明らかに柄の悪いお兄さんお姉さん達がたくさん居る広場に出ます。まあ、狙ったんですが。

私の普段の知覚範囲は50キロメートルを越えます。集中すればさらによく聞こえるようになりますが、今は50もあれば十分。

 

「おやおやおやぁ? こんなところに子供が何の用かなぁ?」

「ヒッ!?」

 

ニヤニヤと笑いながら近付いてくるお兄さんに、わざとらしいくらい大袈裟に怯えて体を引いてみます。するとお兄さんはさらに笑みを深めて来たので、どうやら悪いのは柄だけじゃなかったようです。

 

「わ……私……私は………」

「くくくく……迷子にでもなっちゃったかなぁ? いけないぜぇ? この辺りは危ないからよぉ……」

「そうそう、なんとこわーい狼が出るからなぁ?」

 

そう言いながら、壁に落書きされている……どうやらチーム名らしいロゴマークを他のお兄さんが指差します。

えっと………hound wolf? 猟犬……じゃなくて猟狼?

……聞いたことのない名前ですけど………まあ、別になんでもいいですけどね。これから潰れるチームの名前なんて。

 

とりあえず正当性を持つために、わざとピンチを演出してみる。少し服を破かれたりしたけれど分身だから全然問題ない。

勿論それを表に出すことはしないで、まるで天敵の前に放り出されて怯える小鹿のように演技する。昔とった杵柄と言うべきか、こういう演技は苦手じゃないんです。

 

……苦手じゃないっていうだけで、好きでもないんですけど。

 

そこで、服の胸元に手をかけられた辺りで声圧砲を集束拡散で放つ。後ろは壁だからやらないで、その分前方に居る人達に衝撃が走る。

半分くらいの人達が血を吐き、私の一番近くに居たお兄さん等は口からだけじゃなくて目や鼻、耳からも血を流して悶絶している。

………私がこの光景を見ても普通にしていられるのは、さくらさんに言われてグロ耐性を着けていたからでしょう。

それも、さくらさんの超リアルな分身体で。

私の作った分身は殺されれば消えるけれど、さくらさんの分身は死んでも消えない。だからその分身を解体することでグロ耐性をつけました。

 

……たまに不意打ちで音撃を食らって目の前で真っ赤な華を咲かせたりもしましたが、お陰で全然気になりません。

とりあえず悶絶している人に近付き、フラッシュバスターで気絶させる。そして次の人、また次の人へ。

途中で起きそうになったらまた一歌い。全員夢の世界に送った後は、レイジングハートに捜査してもらってお金を貰いつつ一人一人ポケットを漁る。

 

後は一人ずつ起こして、アリス・イン・ワンダーランドで念入りに記憶を改竄して放置する。ついでに、ミッドチルダに居てもおかしくない服も貰ってから裏路地を出る。

……その前に、変身魔法を使って夜に外を歩いていても捕まらないような年齢に変身して………と。

 

それじゃあ、私の初めての異世界旅行。頑張ってできる限りのことをやってみようかな。

まずは……情報を集めてからお菓子の食べ歩きかな。

その他にちょっと演奏して……あ、そう言えば私って管理局法はあんまり知らないや。

でもまあ路上での演奏に許可は必要なかった筈だし………大丈夫だよね。

それでも一応狂気の提琴じゃなくて、分身して外見だけ真似た普通のバイオリンでやっておくべきかな。

管理局って本当にいちゃもんばっかりつけてくるからね。気を付けてなんとかなるところは気を付けないと………後が怖い。と言うか面倒。

 

そんなわけで、私、高町なのはの異世界旅行。始まります。

 

……あー……でも、どうせ変装したんだったらついでに偽名も考えておいた方がいいのかな? よくわからないけど、そうしといた方がいい気がする。

そうと決まればすぐに決めよう。さくらさんに関係ある名前にしたいから……さくらさん……桜………植物……ピンク………桃。お母さんの名前にも関係あるようになっちゃった。

けど、桃だけじゃなんとなく味気ないから……桃華(‘とうか’じゃないよ!‘ももか’だよ!)でいいかな?

 

……どうせそんなに有名になるはずのない名前だし、これでいいや。

 

それじゃあ改めて、私、桃華の異世界旅行。始まります。

 

 

 

 

 

 

 

 

異伝7 その69

 

side 高町 なのは (ミッドチルダ)

 

高町なのは改め桃華です。名字はありません。名前だけ。

そう言えば、さくらさんの名字を私は知らない。それ以前に、さくらって言うのが名字か名前かって言うのも知りません。

……もし名字だとしたら、漢字は‘佐倉’かな? それで名前だったとしたらやっぱり‘桜’だと思います。

あるいは渾名と言うこともありますが、そこまで行っちゃうと名前の予想が困難になるので考えないことにしておきます。

 

そんな今気にしなくてはならないことでもない考えはどこかに押しやって、今必要なことをやることにしましょう。

 

そう言うことで、私は夜のミッドチルダを散策します。変身魔法を使って大体二十歳くらいになっている私なら、少なくとも管理局に補導されたりとかそんなことはされないはずです。

夜の町を歩くのは、あの事件以来で久し振り。この空気の冷めた感触が心地いい。

路地裏では湿った空気が絡み付いてくるような気がして楽しいものではありませんが、やっぱりなかなか気持ちいいです。ちょっと不良になった気分。

 

今の私は分身だから、睡眠を取る必要は無い。それはつまり、休まず散策を続けることができると言うことなので、今回の旅行にはうってつけの能力なのです。

ああ、練習しておいて良かった。

 

夜の町には色々な人がいます。笑顔の裏で良からぬことを考えていそうな雰囲気を持つ人。仕事に疲れて家へと帰る途中だと思われる男の人。なにかいいことがあったのか、意気揚々と歩いていく女の人。

けれど、その人はそんな人達の中でも特に目立って見えました。

 

ぼんやりと公園の花壇の縁に座り、両手に持った缶コーヒーに視線を落としながら、疲れたようにため息をつく女の人。

私よりは年上だろうけれど、二十歳になっている私と同じくらいに見える、眼鏡をかけている人。

 

………何があったのかはわからないけれど、話を聞いてあげた方がいい気がする。どうしてかな?(【直感:B+】発動中)

 

そんなわけで、私はその人に近付いていく。その人は私に気付いたそぶりも見せず、また溜め息を一つ。

私は意を決して、そんな彼女に話しかけた。

 

「どうしたんですか?」

「……え?」

 

……この時の私は、これをきっかけにあんなことになるなんて思っても居なかったのだった。

 

 

 

弱っている心に少しずつつけこむようにして話を聞かせてもらっていたら、なぜか私はあれよあれよと居酒屋のような場所に連れ込まれてしまった。

それからあの女の人と一緒にお酒(私はお茶)を飲みながら女の人の愚痴を聞いていたら、なんだか凄い話を聞いてしまった。

 

とりあえず、名前から。

女の人の名前はオーリス・ゲイズ。お父さんは管理局で中将をやっているらしい。

しかし、最近色々と物騒で、この近くでとある組織の連続強盗殺人事件が多発しているらしい。そして管理局の本局の方からお父さんのせいだとか色々言われているらしい。

その他にも、本局が資金をむしりとって行くとか人材をむしりとって行くとか次元航行艦一隻の維持費がいったいいくらかかると思ってるんだとか本局めとかハラオウンめとか本局死ねよマジ滅べとか………これ聞いてよかったのかな? と思ってしまうようなことをたくさん。

 

……とりあえず聞かなかったことにして、オーリスさんが酔い潰れてしまうまでは付き合うことに。一応お金はそこそこあるからここの分を奢っても問題は無いんだけど、流石にそこまではしない。

 

「ひっく……どうせ私は行き遅れ……ひっく………」

 

仕事の愚痴が一段落したと思ったら、次はなんと私生活にまで愚痴り始めた。

仕事についての愚痴はその人をとにかく肯定していればいいけど、流石に私生活の愚痴はね……。

私は今はこうして二十歳の姿をしているけれど、中身は普通の12歳(もうすぐ13歳だけど)。そんな私生活のアドバイスなんてできないよ。

 

私のアドバイスのせいでその人の私生活からどんどん壊れていくとかそんなことになっちゃったら、流石に罪悪感があるからね。

 

でも、これだけは言っておこうかな。賛否両論あるだろうけど、私が心に決めていることだけ。

 

「まあ、私が言えるのは一つだけです。人生の全てが思い通りになるなんてことは無いんだから、せめて少しでも自分の望んだ方に近づける努力をする。辛いときもあるでしょうが、充実した人生を送るには大切なことですよ?」

 

ひたすら愚痴を言い続け、ぷつりと愚痴が途切れた時に、私はオーリスさんに向けてそう言った。

多分、この人はこれからも苦労にまみれた人生を送っていくだろう。

けれど、きっとお婆さんになってから振り返ってみると、この頃が一番輝いて見えるんだろう。

 

私はくすりと笑顔を浮かべ、くいっとお茶を飲み干した。

 

……これで少しは楽になってくれるといいんだけどね。

 

「………ありがとう」

「どういたしまして」

 

私がそう返すと、オーリスさんは私と同じように笑顔を浮かべ………ぱたりとその場に突っ伏した。

 

……とりあえず、どこか適当に泊まれるところに運ばないとね。ここで寝ちゃうと邪魔になるだろうし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

異伝7 その70

 

side 高町 なのは (ミッドチルダ)

 

オーリスさんを適当なホテルに連れ込んでベッドに寝かせ、私はお酒と煙草臭くなってしまった服を洗濯してお風呂に入る。

どうしてコインランドリーが部屋に一つあるのかはわからないけれど、便利だからいいことにする。

ここは私が選んだ安ホテル。良心的なお値段で設備にランドリーがあったから選んだのだけど、大正解だったかも知れない。

 

レイジングハートは海鳴の私が持っていて、ここにいる私が持っているのはさくらさんがどこからか用意したそっくりさん。紫色のコアが綺麗な『ルシフェリオン』という名前のデバイスだ。

名前も知らないどこかの世界に跳んだ私も同じものを持っているから、ルシフェリオンは私の分身用と言ってもいいのかもしれない。

 

鼻歌を歌いながらお風呂から上がり、召喚魔法で水を喚ぶ。払わなくていいところは節約しないとね。

そう考えながらあのチームの人達の所から貰ってきたタオルで髪を丁寧に拭いて、体に巻き付ける。

 

………うーん……大きいのかちっちゃいのか……日本人としては大きい部類に入るってところかな? 平均をよく知らないけど、多分そう。

変身した自分の裸をこんなにまじまじと見ることなんて無かったからなぁ……。

 

……そうだ、お肌のケアもしておかないと。あんまりやったことは無いけど、未来で役に立つと思うし。

ただ、さくらさんが言うには『魔力で肌を被えばよっぽどのことがなければ肌荒れとは無縁になる』ってことなんだけど………まあ、いいや。知らないよりは知っておいた方が良いよね。また今度ちゃんとしたやり方を覚えてからやろっと。

 

……それにしても、オーリスさんはいつになったら起きるんだろう? もう朝だよ?

私は別にいいけど、管理局に勤めてるんだったらまずいんじゃないかな?

 

「……ん………」

 

あ、起きた。

 

「おはようございます、オーリスさん。気分はいかがです?」

 

にこっと笑って聞いてみたんだけど、オーリスさんはなんだか呆然としたまま動かない。二日酔いかな?

そう思っていると、オーリスさんは突然動き出して自分の服を確かめ始めた。まるでお酒で一夜の過ちを犯してしまった少女のような反応だと思ったけれど、それは思うだけにしておいた。

ちなみにオーリスさんの服装は、息苦しそうだったから上着を脱がせてYシャツの上から二つほどボタンを外した状態になっている。

上着はハンガーに掛けてあるから皺にはなっていないけれど、スカートの方は寝乱れて少し皺がついてしまっている。……パンツ? 知らないよ。見てないもん。

 

その辺りを確認して安心したんだろうオーリスさんは、次は私に視線を向けてきた。

 

「……ここはどこ?」

「あの店の近くにあった安ホテル。息苦しそうだったから上着を脱がせてボタンを外した以外はなにもしてないから安心していいよ」

 

何を安心すればいいのかは知らないけど。

 

「あと、寝てる間に何度か連絡があったよ。早く折り返し連絡した方がいいんじゃないかな?」

 

私がそう言うとオーリスさんは慌てて枕元の棚の上に置いてあった鞄から携帯端末を出して、そして頭を抱えた。小声で言っていることを聞き取ってみると、どうやらお父さんからだったみたい。怒ると怖いよね。

まあ、年頃の娘が親に言わずに外に泊まっているのを知ったら、地球だったら当然心配するんだけど……どうやらミッドチルダでもその辺りは変わらないみたいだ。

それに近頃は強盗殺人事件が多発してるんだし、当然と言えば当然かな。

 

………私が叩きのめした人達は全身のダメージが酷くて大半が動けないみたいだし、体のダメージ的には動ける人も魔力ダメージでまだ起きれていない。

このまま放っておいたら死んじゃうんじゃないかとも思ったりするけれど、その時はその時、自業自得だよね?

 

『とにかく直ぐに出勤しろ。いつハウンドウルフの奴等が動くかわからんからな』

「はい」

 

…………なんだか聞き覚えのある名前が出てきたような気がするよ?

ハウンドウルフ……あのロリコンなお兄さん達のいたチームの名前だよね?

 

そう考えながら、通信を切ったオーリスさんに話しかけてみる。

 

「あの……オーリスさん?」

「何でしょうか」

 

あ、きりっとしてる。仕事モードってことかな。

仕事モードと個人モードを使い分けられるのはいい社会人なら当然のことだよね。詐欺師も仕事と個人とを分けられるけど。

 

「ハウンドウルフって、昨日言ってた強盗殺人団体のこと?」

「ええ。その通りです」

「オーリスさんのお父さんは、その人達にある意味煮え湯を飲まされてるんですよね?」

「……ええ」

 

だからどうした、馬鹿にしてるのか……って言う雰囲気だね。

 

「それじゃあ、ちょっと時間を頂けませんか? 急いでるのはわかっているんですけど、いい話ですよ?」

 

私がそう言うと、オーリスさんは怪訝な顔をしながら……頷いた。その際、お父さんだと思われる人にメールで連絡をしていたけれど。

 

 

 

 

 

side オーリス・ゲイズ

 

昨日の夜に出会ったばかりの彼女に連れられて、ミッドチルダの裏路地を歩く。

普段ならば少し歩くだけでも数人の人間と鉢合わせする場所のはずが、しばらく歩いていても人っ子一人見当たらない。

不思議に思いながらも彼女に着いて歩いていくと、その理由が見えた。

 

広場の一つに、多数の人間が倒れている。ほぼ全員が口から血を吐いていて、まるで思い切り腹を殴られて胃が破裂した時のようにも見える。

周囲を見渡すと、その壁には【hound wolf】の文字が書きなぐられていた。どうやらここに倒れているのがハウンドウルフのメンバーであるらしい。

 

「早く連絡した方がいいと思いますよ? 今なら簡単に捕まえられますしね」

 

私は彼女の言葉に従い、近くの局員詰所に連絡を入れた。

それから父にも連絡を入れる。『ハウンドウルフが壊滅した』と。

 

それから彼女を横目で見てみると、彼女は私のことをじっと見つめていた。

 

なんの意味もなく。ただ、じっと。

 

 

 

 

 

side 高町 なのは (海鳴)

 

「……あ、できちゃった」

 

期待なんてしてなかったんだけどなぁ……。

 

「? なにができたのよ?」

「うん? 新しいタルトの飾り付けの草案かな?」

「できたら今度見せなさいよ?」

「勿論だよ」

 

私はアリサちゃんと一緒に笑った。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。