リリカルなのは~ほんとはただ寝たいだけ~   作:真暇 日間

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StS
81~90


 

 

 異伝7 その81

 

 side out

 

 DSAAインターミドルチャンピオンシップの会場を中心に、ミッドチルダと言う都市一帯を襲った大きな振動が止む。

 その震源地とも言える場所は大きなクレーターができており、物理破壊ではないただの魔力の爆発のせいでかなり頑丈に作られているはずの天井や観客を守るための結界にまで被害が来てしまっている。

 

「……けほ。ぁ……いったぁ………」

 

 そんな魔力乱流を、起こした本人を除けば最も近場で食らったはずの白い少女は、叩きつけられ、がらがらと崩れかけている壁から這い出してきていた。

 咄嗟に『太陽』を防御に使い、なおかつバリアジャケットのお陰で被害が少なくなっていたとしてもかなりの被害が来ているはずだが、白い少女はそれでも立ち上がる。

 

 ライフポイントは初めの半分以上残っている。『太陽』の大半は散ってしまったが、全速力で周囲から集束を続けている。

 丁度散らされた膨大な魔力のお陰で『太陽』を作るのに苦労することは無いだろうが、体の方は全体的にボロボロだ。

 

 しかし、それでも白い少女は諦めない。それは、白い少女と黒い少女の戦闘と言う名の鍛練には付き物であったからだ。

 

 白い少女は、カウントギリギリにリングに上がる。そして、戦闘続行の意思を込めて黒い少女を見詰める。

 カウント開始までの時間を含めれば20より数段長い時間を使って組み直された『太陽』と、同じように『星』を集束させて作り上げられた『月』が浮かぶ中で、二組四つの視線が絡まり合う。

 

「……我ら住まう星の如何に小さきかを」

『星々の世界より眺め、心に確かめる』

「輝き、煌めき、集い、撃ち抜け!」

 

 黒い少女と白い少女の言葉に合わせ、『太陽』と『月』が動き始める。

『太陽』は体積を縮め、さらに密度を上げながら変型する。白い少女の要望通り、全てを貫くための『突撃槍』に。

 対して『月』は、ただそのままに白い少女を押し潰そうと落ちて行く。

 

「落月」

「サンライトスラッシャー!」

 

 落ち行く桜色の『月』に、白色の槍が突き刺さり、そして貫かれる。

 中心核を貫かれた『月』は僅かに軌道を逸れ、そして『月』を貫いた『太陽の槍』はそのまま直進する。

 そして、『月』と『太陽』は、互いに狙った相手に触れることなく炸裂した。

 

 二度目の爆音が響き渡り、会場の天井が消し飛ぶ。

 白い少女も黒い少女もリングの上に姿が無く、壁はほぼ完全に粉砕されている。

 ……いや、リングの上に姿が無いのは当然だ。何故ならば、既にリングなど消滅してしまっている。

 

 管理局から会場にどんな事件かと打診が入るが、大会の開催者はただ事実のみを答えた。

 

「これはテロ行為や犯罪事件ではありません。決勝選手二人による、非殺傷設定の個人魔法戦技です」

『はぁ!?』

 

 しかし、ここまで来てはバリアが残っているのが奇跡。更に驚くことに、選手二人のライフは互いに0ではない。

 つまり、あの二人はあれほどの攻撃を受けながらにして未だに戦闘可能状態を維持していると言うことになる。

 

 高町なのはのライフの残量は2930。シュテル・イーストエッジのライフの残量は6850。けしていい勝負とは言えないが、お互いの攻撃力を考えれば既に一撃で勝負がついてもおかしくないライフ。

 ……と言うか、一撃で決着がついてくれないと困る。主に建物の被害が凄まじい。

 

 頭を抱えながら、あの二人がどちらかでも今ので魔力切れになって棄権してくれたら……と思ってしまう。

 

 しかし、その期待を裏切るように無くなった天井から覗く青空は星空に染まり、今まで以上の大きさと明るさを持つ『太陽』が会場を光で染め上げた。

 同時に、崩れ落ちた壁から二つの影が立ち上がる。二人ともボロボロだったが、それでも互いに戦意に満ちた表情を浮かべている。

 

「……次で終わりとしましょう」

「なんで? 私はまだ満足してないよ」

「周りを見なさい」

 

 黒い少女に言われて、白い少女は周囲の半分廃墟となった会場を見回した。

 

「……仕方無いなぁ……それじゃあ、本気で行くからね?」

「望むところです」

 

 二人の少女は、お互いに構える。今までに無いほど強大な魔力がミッドチルダを多い尽くすが、二人は欠片も気に止めていない。

 

「私に力を与える太陽よ!圧縮せよ!そして、私の体と同化せよ!」

 

 白い少女の言葉に、巨大すぎる太陽はその身を収縮させる。

 しかし、魔力反応まで小さくなったわけではなく、量はそのままに圧縮されて密度が急激に上昇した。

 その高密魔力の直径がおよそ20センチメートルになった時、白い少女はその魔力を胸に取り込んだ。

 

 瞬間、白い少女の髪が風も無いのにざわりと広がる。

 全身を魔力光の白で被い、その背中からは白の翼が片方だけ生える。

 

 そして、その翼に周囲の魔力が集束し、更に白い少女は輝きを増す。

 

「星光よ、我らが力を天高く知らしめよ」

『偉大なる星神よ、幾ばくの間もなく栄光自在に舞い踊れ』

 

 朗々と歌われる声に合わせ、空に浮かぶ無数の『星』が全て一ヶ所に集う。

 それは『月』のように巨大になることは無く、『星』のまま光量と内包する魔力を増幅していく。

 それは『太陽』とおなじように、小さな一つの魔力の塊となって黒い少女の前に漂う。

 

「陽光一殲!」

「星光万閃」

 

 互いに最大限まで高めた魔力塊に、方向性を持たせる。

 ここまで巨大な集束砲の正面衝突が起きればどうなるかはわかったものではないが、少なくともろくなことにはならないだろう。

 

 それでも、白と黒の二人の少女は止まらない。腕と杖を振りかぶり、

 

「サンライトスレイヤー!」

「流星群」

 

 そして、同時に撃ち放つ。

 

 方や巨大な大威力集束砲撃。方や無数の高威力流星群。

 二つがぶつかり合い、そして………白き陽光が桜色の流星群の大半を飲み込んだ。

 

【高町なのは

 ダメージ:2580

 LIFE:350

 

           】

【シュテル・イーストエッジ

 ダメージ:8620

 LIFE:0

           】

 

 こうして、たった5分にも満たない短くも長い都市決勝は、白い少女……陽光の殲滅者の勝利にて幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 異伝7 その82

 

 side 高町 なのは(ミッドチルダ)

 

 そんなわけで都市本選にて優勝を飾った私は、世界戦にも出場して優勝したのですが……ミッドチルダの翠屋に『高町なのは』のファンが押し掛けてくるようになってしまいました。

 私は一応『高町なのは』ではなく『鷹牧桃華』と言うことになっているのでその事を逐一説明するのですが、信じてくれる人はあんまりいません。

 まあ、確かに私は高町なのはなのですが、今は鷹牧桃華なので高町なのはだろうと言われても違うとしか答えられないんですよね。

 

 それと、レジアス中将に一応事情聴取を受けました。

 私じゃないと言い、証言を集め、実際に都市本選の時間に店に居たことを証拠として提出したら信じてくれました。

 しかし、次は『高町なのは』がどこに行ったか知らないかと聞かれ、流石に結界や世界の壁で遮られていたら聞こえないと答えておきました。

 実際にかなり聞きづらくなりますし、そこまで間違いではないんですが……ああ、心が痛いです。

 

 あと、私の店に『高町なのは』のサインと『シュテル・イーストエッジ』のサインを飾ってみました。それから少しだけお客さんが増えたような気がします。

 ……ブラボーさんのサインは飾ってないです。金庫の中に大事にしまってあります。世界戦初優勝記念ですし、これからも増えていくでしょう。

 

 さあ、今日もまた音楽活動にお菓子作りに学校に修行に食べ歩きにと、忙しい毎日が始まります。

 

 

 

 私、高町なのはの朝は基本的に早い。

 毎日ミッドチルダでは朝の仕込みをして、店の中と店先を掃除し、さらに店のレシピを盗みに来るサーチャー等を破壊したりしつつ過ごします。分身じゃなかったら倒れているでしょう。

 地球では私の作ったいくつかのケーキをお店に並べるためにこちらも結構忙しいですが、それでもミッドチルダの朝早くほどではありません。

 シュテルちゃんやレヴィちゃん、ディアーチェちゃんは居ますが、元が眠たがりが極まったさくらさんなので朝早くはあんまり戦力になりません。開店時間の10時くらいになればしっかり動いてくれるのですが………それまでは正直等身大の置物レベルです。

 

 昼はミッドチルダの私はお仕事の真っ最中。一番お客様が多いのは三時ごろですが、それでも忙しいときはなかなか忙しい。

 それに、時々管理局本局の人が勧誘に来たりするので毎回毎回毎回毎回断り続けています。

 地球の方ではそんな面倒な事は無く、普通にアリサちゃんやすずかちゃんとお話ししたりご飯を食べたりしています。

 たまにアリサちゃんが可愛いところを見せてくれたり、アリサちゃんが男前なところを見せてくれたり、すずかちゃんと軽い冗談を言い合ってみたりと、毎日が小さな幸せと小さな不幸に満ちた、総合すれば『普通』の生活を送ることができています。

 ……それは、とても幸せなことですよね。自覚している人は少ないですが、毎日飢えることもなく、働いてお金をもらって生活できるって言うのは恵まれています。

 この世界のこの時代に生まれることができて、私は本当に運がいいみたいです。

 

 さて、そんな風に運がいいことを自覚したところで、夕方の話に移りましょう。

 ミッドチルダでは翠屋は夕方の5時頃に気分次第で店仕舞いの準備を始めます。気分次第ですから6時までやっていることもありますが、終わる時には毎日三曲、弾きたい曲を弾いて終わりにします。

 これも結構好評で、この時間には多くのお客様がいらっしゃいます。

 

 一方地球では、学校を終わらせた私がアリサちゃん達と遊んだり、お姉ちゃんと一緒に翠屋のお手伝いをしたり、狂気の提琴を片手に公園で演奏会をしたり……まあ、とても自由に過ごしています。

 

 夜になれば地球の私とミッドチルダの翠屋に住み着いているシュテルちゃん達は眠りにつき、ミッドチルダの私は夜のお掃除と次の日の仕込みで時間がかかるものを作り始める。

 分身ゆえに睡眠も休息も食事すらも必要としないこの体は、こういった仕事にはとても向いている。

 そしてミッドチルダの各地で起こった出来事を、逐一レジアス中将に報告しながら……私は夜のミッドチルダを楽しむ。

 

 ちょっと背伸びをしてお酒を飲んでみたり、ただ意味もなく星空を見上げて地球とは違う星を見つけてみたり、放浪している私からの情報を集めて新しいお菓子の試作品を作ってみたり、戦闘訓練をしたり、分身への魔力供給を周囲の魔力を自分に集束することで賄ってみたり。

 ちなみに、大気中の魔力を使った自分への魔力供給は、生身の自分にやるとリンカーコアが潰れてもおかしくない荒業だったりします。

 分身なら魔力のみで構成されていますから、魔力をどれだけ注ぎ込んでも潰れることはありませんが、リンカーコアの処理できる量には限度があるからです。

 

 私の分身は、言わば容量だけは無限に近いリンカーコアを装備した自動人形を作る技術みたいなものです。

 欠点は、あんまり外の魔力を取り込みすぎると私の歌で崩れて内包していた圧縮魔力が炸裂して凄いことになること。

 ですから当面の目標は、更なる圧縮による術式の強化と歌に対する耐性をつけること。圧縮についてはそれぞれの分身が個別に頑張ってくれているお陰で、完全版の分身がもう一体作れそうになっています。

 

 ……努力って、凄いですね。私の場合は才能もあるんでしょうけど。

 

 なお、話に出てこなかった放浪を続ける私は、大抵の場合は食事のために動いています。

 頻繁に世界間移動を繰り返すため、昼夜逆転問題なし、完徹無休もオールOKな分身でなければそんなことはできなかったでしょう。

 それに、あれだけ食べ続けても太らないしお腹一杯にならないのも分身特有。本当に分身ができるようになってよかったと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 異伝7 その83

 

 side 高町 なのは (海鳴)

 

 私がミッドチルダに来てから約六年ほどが過ぎた頃のこと。既に高校を卒業して本格的にお店につきっきりになろうとしている私ですが、ここでちょっとしたなぞなぞです。

 

 私の目の前に、はやてちゃんの後頭部が見えます。しかし、はやてちゃんは私に背中を向けている訳ではなく、むしろ真正面から向き合っています。一体どんな状況でしょうか?

 

 ①.はやてちゃんは踊っていて、ちょうど回転して私に背中を向けた瞬間を切り取って、あたかもずっと後ろを向いているかのように説明している。

 

 ②.はやてちゃんは宴会芸の練習としてロンダートからの伸身三回宙返り二回半捻りの着地の寸前で、この着地によって点数が決まる。点数次第ではお姉ちゃんと道場でバトルすることになる。

 

 ③.久し振りにはやてちゃんの家にお呼ばれをして玄関を開けたら『いらっしゃーい!』という声と共に額に『はやてちゃんの後頭部』と書いてある紙を張り付けたままはやてちゃんが出迎えてくれている。

 

 3.5.そのまま上がらせてもらうとなぜかその紙を手渡され、そのままお話をしようとしている。

 

 ④.私の目の前に鏡があって、はやてちゃんの後頭部が映っているのがよく見える。

 

 ⑤.はやてちゃんも分身をしていて、片方のはやてちゃんは私の方を見ているけどもう片方のはやてちゃんは後ろでヴィータちゃんたちのお世話をしている。

 

 5.5.分身しているはやてちゃんのうち、片方は分身ではなく別人。本物でないほうをはやてちゃんと呼ぶと、『ひぃっかかったなぁぁぁ!馬ぁ鹿めぇぇぇ!!』と若本ボイスで怒鳴られる。

 

 ⑥.はやてちゃんの正面は元々顔ではなく後頭部だから、後頭部を見せると言うことは正面から向き合うということになる。このまま放っておくと二口女になって食べられる。食べられたら一寸法師みたいにやれば出られる。

 

 ⑦.はやてちゃんに新しく頭が一つ生えて二つになっていた。今はその事で相談を受けている。

 

 ⑧.前と後ろに両断された死体と御対面。周りではフェイトちゃんやアリサちゃん達が泣いていて、ヴィータちゃん達はすでに消滅している救いのないバッドエンド。

 

 ⑨.はやてちゃんが⑨だから。⑨なら仕方無い。

 

 ⑩.はやてちゃんが⑨だから。⑨なら仕方無い。

 

 ⑪.はやてちゃんが⑨だから。⑨なら仕方無い。

 

 はい、答えはなんでしょう?

 

「……⑬の、『なのはが鬼畜砲撃魔神TAKAMACHIで、レベル1の勇者はやては命を散らす覚悟で直訴のために土下座をしているから。なのはは悪魔で魔王で覇王で冥王で砲撃王で撃墜王で殺戮王で、どんな理由よりやっぱりなのはだから仕方無い。』………かな?」

「フェイトちゃんも中々言ってくれるね。⑫は?」

「⑫は『なのはが疲れて幻覚を見ているから。体は資本、大切にしようね。』だよ?」

「ふーん、そっか」

 

 そんなわけで答えは⑬。『私が鬼畜砲撃魔神TAKAMACHIで、レベル1の勇者はやてちゃんは命を散らす覚悟で直訴のために土下座をしているから。私は悪魔で魔王で覇王で冥王で砲撃王で撃墜王で殺戮王で、どんな理由よりやっぱり私だから仕方無い。むしろさくらさんの弟子だから仕方無い。』でした。

 

 ……最後に何か追加されてる? あははは、そんなことないヨ?

 

「あと、その話は断るから」

「そこをなんとか!ほんまに頼むわ!こんなこと頼めるの、なのはちゃんしかおらへんねん!」

「そうなんだ、大変だね。でも断る」「頼むわ!」

「だが断る」

「ほんまに!色々融通効かすから!」

「へぇ? そうなんだ? だけどやだ」

「お給料とかいっぱい出すし、危険手当てとか保険も万全やから!」

「そうなんだ、凄いね。けどやだ」

「命令の完全拒否権とかもあるし、責任をとらせるとかそんなことも一切ないから!」

「わぁ良心的。しかし断る」

「副業も認めるし、気に入らんかったらすぐ辞めてくれてもええから!」

「それ公務員としてやっていいことなのって聞きたくなるくらいに好条件だね。まあ、辞めるときには辞表を出してすぐさまその場で受理してくれて、あらゆる命令を拒否することができて、私の行動によって起きたことに責任をとらなくていいんなら………一年間だけ臨時に雇われてあげないでもないよ?」

「ほんまか!?」

 

 私の言葉を聞いたはやてちゃんは、すごく嬉しそうな顔で私のことを見上げてくる。

 

 ……ここで、笑顔を浮かべながら『そんなわけないでしょ、馬鹿じゃない?』って言ったら、はやてちゃんはどんな表情を浮かべるだろうか?

 

 そんなちょっとした悪戯心を沸かせつつ、それを外に出さずに笑顔を浮かべる。

 

「その前に、とりあえずお仕事の内容を包み隠さず全部教えてくれないかな? 話はそれからだよ」

 

 私の協力を取り付けるところまでもう少しだと判断したらしいはやてちゃんは、嬉々として私のお仕事の内容を説明し始めた。

 

 ……正座のまま。

 

 ……もう崩しちゃっていいって言っても、どうしてかはやてちゃんは崩そうとしないし………昔にアースラでやった粗探しみたいなことのネタにされないようにしてるのかな? 無駄な話だけど。探すまでもなく普通にあるけど。

 

 ……どうも本気でその事に気付いてないみたいなんだよねぇ……。私には大して関係無いけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 異伝7 その84

 

 side 高町 なのは (海鳴)

 

 はやてちゃんに部隊の説明を受ける。簡単に言うと、ミッドチルダの地上で本局がすぐさま動かせるような部隊が欲しいから作られた部隊だということ。ロストロギア対策のための部隊であること。地上本部の発言力の大きさが最近深刻になってきていること。犯罪発生率に対して検挙率が異常なほど高くなり、それなのに本局の方にはその恩恵を与えようとしないからできればそのノウハウを盗んでくること等々、表の理由から裏の理由まで色々と教えてもらいました。

 

 ……とりあえず、検挙率がある時期から突然跳ね上がった件については私が深く関わってるよ。あんまり協力しないけど。

 だって、表向きの裏の理由は教えてもらったけど、実際の裏は教えてもらってないんだもん。はやてちゃんってば、しばらく見ない間に腹芸が上手になったね。

 ……だから、ご褒美にしばらくは騙されてあげるよ。友達でもなんでもない相手ならズドンだけど、はやてちゃんだからね。

 

 フェイトちゃんでも多分優しく対応してあげたと思うけど、フェイトちゃんは腹芸が上手になっても天然でうっかりばらしちゃいそうだし。

 それに対してはやてちゃんは、流石はさくらさんに『子狸』と言われてるだけあって感情を隠すのが得意みたいだ。

 まあ、私もそういうのは得意だけど……女狐扱いされたことは無いなぁ。悪魔扱いとか魔王扱いとか殲滅王扱いとか太陽と破壊の女神扱いならされたこともあるけど。

 

 ……そうそう、私はあの都市決勝の時から新しく『陽光の殲滅者』という渾名を頂きました。シュテルちゃんバージョンのさくらさんも同じように『星光の殲滅者』と呼ばれていたりします。

 ただ、この名前は結構有名ですが……恐らくもう公式戦に名を連ねることは無いでしょう。

 あったとしたら、それはきっと私の子供か弟子か……そのくらいだと思います。

 ちなみに、はやてちゃんもフェイトちゃんも知りません。お仕事にばっかり集中してるから地上の大事件も知らないんです。

 

 ……あの時の魔力のぶつかり合いで、地震が起きましたからね。その上地盤沈下や地下施設の崩壊もありましたし、本格的に最終戦争みたいになっていました。手札を五枚墓地に送ってフィールド上をリセットです。

 文字通り地上が広野にリセットされてしまいそうになりましたが……ならなくてよかったです。

 

 ……今ではもう少し強くなっています。生身で完全版の『太陽』を取り込むのは無理ですが、少しずつ取り込める量を増やしてリンカーコアの容量と出力の底上げを実施中。現在の魔力量はSSですが……そろそろその辺りは打ち止めになりそうな気配です。

 つまり、生身で『太陽』を取り込むのは辞めた方がいいよと言うことなので、今度は『太陽』を並列起動することに力を入れてみようと思います。

 手始めに、現在完全に制御できるのが6体のところを10くらいまで増やすことにします。マルチタスクの練習にはちょうどいいので、いつでも最大数を増やす努力はしていますが……やっぱりなかなか難しいです。

 演算力等は地道に上げていくしかないので、努力は欠かせません。

 

 ……はやてちゃん達が流行と地上の情報に疎いという話は置いておくとして、なんというか終始一貫してグレーゾーンを突っ走るようなやり方で作られている部隊だなと言うのが感想です。

 はやてちゃんを筆頭に、ヴィータちゃん、シグナムさん、シャマルさん、リインフォースⅡ、ザフィーラさんという八神家オールスターズに、フェイトちゃんと私の幼馴染み。更にフォワード達は全員が『将来有望な新人』で、他のスタッフ達も殆ど身内みたいな立ち位置から来ていることがわかった。

 

 ……本局の上層部からすれば、自分達に被害が来そうならすぐに切り捨てられて、何か掴めたらラッキー程度にしか思われてないんだろうね。

 特に、はやてちゃんは『闇の書事件』の首謀者みたいに考えられてるし、使えるうちは使ってやるって言うのが透けて見えてるよね。

 まあ、それでもはやてちゃんは誰かを守ることができれば本望なんだろうけど。じゃなかったら死ぬ気で私を平穏から引きずり出そうとかしないはずだし。

 

 それじゃあ私は、友達のよしみでちょっとだけ便宜を図ってあげようかな。後見人にクロノ君とリンディさん、それに聖王教会のカリムさんの三人が居るなら必要ないかもしれないけど、地上が勝手に動くのを止められないのと同じように、はやてちゃんの動きの邪魔をされないようにしてあげる。

 

 ちなみに、私の魔導師ランクはE+で取ってある。一時的にリミッターを馬鹿みたいに強化して、SSから7.5ランクダウンさせてみた。

 これで少しは魔導師保有制限が楽になるんじゃないかな? 私は基本的に自前の魔力はあんまり使わないし、正直0でも問題ないと言えば問題ないんだけど……。

 まあ、魔力がなくて魔法が使えないのにあんなことができる訳ねえだろって突っ込まれたら大変だし、その事を考えるとギリギリ魔法が使えないこともない程度の量にしておくのが一番かな。

 

 ちなみに、レジー(長い付き合いでもはや友人感覚)の所の人達に一度だけ教導みたいなことをしたことがあるんだけど、魔力量は多くない代わりにチームワークと個々の練度が凄くよかった。

 魔力量がネックになっている人達が多かったから、天才方式で悪いけれど改善案とカートリッジシステムについての案を出しておいた。

 シグナムさん達みたいに膨大な量を一度に炸裂させるんじゃなくて、魔力の電池みたいな扱いなんだけれど………うまく使えばリンカーコアが無くても魔法を扱う(あくまで『扱う』だけ。『使いこなす』のは難しいと思う)こともできるようになるんじゃないかなー、なんて考えてみたり。

 

「……それじゃあ、こんどちゃんとした契約書類持ってきてね」

「うん!うんうん!」

「よかったね、はやて」

「ほんま助かったわ!いろんな意味で!」

 

 はやてちゃんのお仕事と、はやてちゃんの命と、はやてちゃんの家族と、はやてちゃんの知り合いの命と、ついでに管理局そのものかな。助かったのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 異伝7 その85

 

 side 高町 なのは(ミッドチルダ)

 

 そんなこんなで機動六課への所属が決まり、はやてちゃんの持ってきた資料にけちをつけて無駄遣いを今できる範囲で限界までカット。もう発注しちゃったとかそんなのも少しはあったから全部はできなかったんだけど、私が軽く全体的にやったら初めの資金が一割とちょっと減った。どれだけ無駄遣いしようとしていたのか凄くよくわかる数字ですね。

 

 大体、ある程度同じ機能があるんならわざわざ新品のデスクなんて必要ないのになんで新しいのを買っちゃうの? 観測機器だって、もっとよく探せば性能がそんなに変わらない中古とかだっていっぱい見付かるんだよ?

 ミッドチルダに翠屋を開いて五年以上過ぎている。そのためそこそこ上手になったと言える経営術の初級編を駆使して、がりがりと必要ないところを更に削る。

 ロッカーなんて中古でも新品でも変わらないんだからといい中古品を探し、椅子だって変わらないからと揃いの中古を探し、ヘリもそんなに大人数を乗せることはないんだから乗員数より性能重視に。とりあえず私の砲撃に耐えられる程度でいい中古を見つけたので購入。

 

 そんな風にひたすら必要ないところを削っていったら、最終的には一番初めの見込みの七割弱まで抑えることができた。

 

「うわぁ……三割削ってもうた……」

「このくらい地上本部じゃ普通だよ。削れるところは削らないと、どう頑張ってもミッドチルダの平和を守れないくらい人材もお金も無いからね」

「まるで地上のことをよく知っとるみたいな言い方やね?」

「地上本部に勤めてるリシュやレジーから色々聞いてるからね」

 

 ……ああ、リシュって言うのはオーリスさんね。オーリスさんも私のことを『モモ』って呼ぶからお互い様……かと思ったら、私は偽名だから全然お互い様なんかじゃなかった。なんだか悪い気がするなぁ……。

 もっとも、レジーは私の偽名に気付いててわざと見逃してる空気があるから気にしない。

 

「……地上本部ってそんなにきついん?」

「……うーん………アースラの武装隊って、魔力平均はBくらいで、隊長さんくらいでA+だったでしょ?」

「正解やけど、なんでそんなことを管理局勤めでもないなのはちゃんが知っとるんか聞いてもええか?」

「うん、やっぱり合ってるね。なんの関係が……」

「また無視かい!?」

「……なんの関係があるのかって思うかもしれないけど、地上本部の実働隊の平均は……Dだよ? 隊長さんでもいいとこC+で、Bあったら物凄い有り難がられるレベル。知ってる理由は昔乗ったときに聞いたから」

「ほんまになのはちゃんはフリーダムやな!? ……って、その話………マジ? 信憑性は?」

「人間は首を切り落とされたら死ぬくらい」

「100パーやんな!?」

 

 そうだね。普通に考えればそうだよね。

 まあ、私は分身なら死なないけどね。

 

 ……そうそう。私はもうお父さんとお母さんに、ミッドチルダでお店を出していたと言うことをバラしました。かなり怒られましたが、経営と味ではもう合格点を貰っているので『隠していたこと』だけを怒られました。面目次第もございません。

 それと同時に、私の分身のことも話しました。やり方を教えてみたら……お父さんもお母さんも早速実践して二人に増えていました。

 

 ………もしかしたら、この高町家こそ浮き世の地獄なのかもしれません。鬼の末裔的な意味で……。

 

 そんなわけで、私はいつも通りにミッドチルダの翠屋と、海鳴の翠屋と、世界各地を放浪しているのと、そしてここにいる私の四人を人目にさらして、音楽修行用に一体と戦闘修行用に作っています。

 一人を消せばそれだけ演算力も上がるので、本当に一番強いのは一人だけになることなんですが……危ないですからね。

 

 そんな感じで地上本部の金欠っぷりを教えてあげて、はやてちゃんから地上本部の検挙率の秘密を知らないかって聞かれてノーコメントで通し、それから色々ギリギリな挨拶回りを計画して、レジーのところに送る報告書を作る。

 

 ああ、本当に忙しい。びっくりしすぎて機動六課の挨拶回りの時に売られた喧嘩をみんな買っちゃうくらいに忙しい。

 

 ……ところで、私が『太陽』を出さずにシューターで優しく相手してあげた時のはやてちゃんの『なんやなのはちゃん教導もできるやんか。帰ったらヴィータと一緒に新人達の教導にも軽くでいいから手ぇ出してくれへんか打診してみよ。やってくれるとは思えへんけど、やってくれる気になったら御の字や』みたいな顔はなんなんでしょうか? (【直感:A】発動中)

 ついでにお土産は翠屋の限定シュークリームとちょっとしたお話。それと人によっては軽い演習。喜んでくれる人も多かったです。

 普通のシュークリームならともかく、限定シュークリームは1日50しか作っていませんからね。そう簡単には食べられない物ですし。

 具体的にどこが違うかと言うと、全体的に手間がかかっています。一つ作るのに普通のシュークリームの2.5倍くらいの労力がかかっているのです。

 それらの手間がよりシュークリームを美味しくするための物ですから苦にはなりませんが、それでも1日の売り上げ個数が700を優に越えるシュークリーム全てにその技を使うことはできないので……残念ですが、先着順になっています。

 

 ……さて、それじゃあそろそろお仕事にしましょうか。やりたくないお仕事とはいえ、一応雇われの身ですから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 異伝7 その86

 

 side 高町 なのは(ミッドチルダ・機動六課)

 

 はやてちゃんに連れられて、機動六課に入隊してもらう予定の新人の二人に会いに行く。

 フェイトちゃんのところの二人じゃなくて、士官学校を卒業した将来有望な二人。エリオとキャロが将来有望じゃないって訳じゃなくて、即戦力として期待できる方っていう意味でね。

 

 ……あと、実は片方の子とは前に一度出会って適当な偽名を名乗っちゃってるんだよね。はやてちゃんやフェイトちゃんには言ってないけどさ。

 言ってない理由? 私がこっちに来てたってバレたら楽しくないからだよ?

 バラすんならバラすでいいタイミングっていうのががあるからね。それまでは秘密♪

 

 ………なんて言ってみても、その子と会ったらわかっちゃうんだけどね。その子が私のことを忘れてなければ。

 確か……石竹って名乗ったんだっけ? 花の名前と色繋がりで。

 で、その子の名前はスバルだったはず。あんまりよく覚えてないなぁ……なんだかよく泣いてたイメージがあるけど………。

 ついでに、犬か猫かで言ったら犬かな。多分だけど。

 

 ……アリサちゃんは犬屋敷に住んでるのに猫系だよね。すずかちゃんは逆に猫屋敷の犬……犬っていうより狐かな? 犬だけど性質として猫に似てる部分がある。

 そう考えるとアリサちゃんだって、さみしがりでみんなと一緒に居たがるところが犬っぽいけど、それは人間として普通のことだしなぁ……。

 

 そんなことをとりとめもなくつらつらと考え続けていたら、いつの間にかそこは新人(予定)達のBランク魔導師試験場に!

 

 

 ……いや、一応気付いてたよ? この思考はマルチタスクの一つだから、他のを使ってここまで何にもぶつかったりしないで歩いてこれたんだし。

 まあ、そんなことは置いといて……のんびり試験の見物でもしようかな。時間はたっぷりあるからね。

 

 頑張れー。

 

「頑張るですよー」

 

 あ、リインだ。

 

 ちなみに、闇の書の管制融合機として名を馳せたリインさんは、闇の欠片事件から暫くして姿を消しました。

 そして遠距離で狙いをつけたりするのが苦手な大雑把なはやてちゃんは、その穴を埋めるためにリインフォースさんの後継機、リインフォースⅡを作ったようです。

 

 ですから、私にとってリインフォースさんはリインフォースさんで、リインはリインなんです。

 ……どうでもいい話かもしれませんけど。

 

 

 

 そんなこんなで試験は終わり、結局不合格だったけれど新人(予定)達は輝くものを見せてくれた。

 まだまだ磨きが足りなくて、ごつごつしている原石同然だけど……それでも磨きあげた時が楽しみだと思えるような子はなかなかいない。

 

 ………とは言うものの、私は人に物を教えるのは本業じゃないから割とどうでもいいんだけどね。

 それに、魔導師ランク的には私はE+ってことになってるし、魔力もそのくらいまで抑えてるから強くは見られないんだよね。

 

 ……14歳の頃の私の伝説(笑)を知っている人から見ると、それだけの魔力であんなことができるなんて凄いって見られるんだけどね。どんな努力と技術であんな真似ができるのかって。

 

 そのお陰で、なんだか目をキラキラさせたちびっこ達にサインをねだられたりもしたし。

 あれから毎年参加して、デビューから今までの公式戦全ての累計ダメージが0のキャプテン・ブラボーことさくらさんには……なんだか凄まじくコアなファンができてたりするし。

 例えば、バリアジャケットを私やさくらさんと同じにする人とか、弟子にしてくださいと頭を下げてくる人とか……翠屋の私とDSAAに参加した私は別人だって言う話は広まったけど、私が堂々『高町なのは』を名乗ったら弟子入り志願が急増したし……。

 それに、六課に入りたいって人も少し増えた。

 

 ……そうそう。ついでに六課に取材が来た時に、私のことが特集されてた。どうやら私とシュテルちゃんの対個体殲滅型限定地域殲滅魔導師vs大群殲滅型超々広域殲滅魔導師による対個人殲滅戦は、本格的に伝説になっているらしい。

 お陰でその本が売れる売れる。私の魔導師ランクがE+だってことも報道されてたけど、嘘だって思われてるみたい。確かに実際にはSSだけど、現在の自前の魔力はほんとにEくらいなんだよね。

 それに、EでもSSでも私の戦い方はそんなに変わらないしね。大気中の魔力を集束して、その魔力を使って魔法を使う。それだけ。

 

 もちろん自前の魔力が多ければ魔力のない場所でも魔法が使えて便利だし、自分の意思を込めやすいから重宝はするんだけど………無くてもそんなに困らないよね。私的にはだけど。

 

 ……さてと。それじゃあ私も寝ようかな。本体は時間がある分身に移動して寝てるんだけど、たまには家でゆっくり寝るのもいいよね。

 はやてちゃんに寮の外で生活することは認めてもらったし、世界間転移を自由にしてもいいっていう許可証もあるから、一番近い世界(片道二秒未満、アンダーグラウンドサーチライトの中)に跳んでからもう一度ミッドチルダの翠屋に跳べばタイムラグはほとんど無い。

 新人(予定)達との顔合わせは……また今度でいいや。

 

 ……おやすみなさい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 異伝7 その87

 

 side 高町 なのは (ミッドチルダ・機動六課)

 

 機動六課の指導の日。はやてちゃんが隊員達の前で似合わない言葉遣いで挨拶をしている。

 

 ……正直に言って似合わない。ほんの僅かも似合ってない。むしろ死んだ方がいいんじゃないかってくらい似合ってない。もしかして私を笑い殺す気なの? だったらその選択は大正解だよ。

 まあ、私の背中のさくらさん(なんでか縮んで4~5歳くらいにしか見えなくなっている)を起こさないようにも、私はこの場で大笑いするわけにはいかないんだよね。

 

 なんだかフェイトちゃんとかヴィータちゃんとかシグナムさんとかシャマルさんとかリインとか地上の皆さんとか、色んな人からちらちらちらちら視線が向けられてるのが鬱陶しいけど、そのくらいならどうと言うことは無い。

 

 私がさくらさんをおんぶして現れた時のはやてちゃんやフェイトちゃんの顔は……………なんだか昔の少女漫画を思い出しちゃうような表情でした。具体的には硝子《ガラス》の仮面。

 ピシャーン!ってな感じに背景に稲光が走り、はやてちゃんはぶつぶつと

 

「うそや……だってなのはちゃんやで? うそ、そんなんうそや……嘘に決まってる……そや、うちは今幻覚を見とるんやな~。あははは、いくら六課ができて気が抜けとるからってここまで趣味の悪い幻覚が見えるようになるなんて……うちももう末期やな~あははははは~……………」

 

 ……なんて失礼なことを言うもんだからつい私も

 

「ごめんねはやてちゃん。この子のお世話で遅くなっちゃって……」

 

 なんて言ってしまい、発狂したはやてちゃんにフラッシュバスターを五発ほど撃ち込んで止めて、頭をガンガンと壁に打ち付けているヴィータちゃんにフラッシュバスターを五発ほど撃ち込んで止めて、私の存在しない恋人の命を狙って暴走を始めたフェイトちゃんをバインドで空中に縫い止めてリミッターを一時的に解除してゆっくりゆっくりゆっ…………くり時間をかけて溜めたスターライトブレイカー(外見だけでそんなに威力はない)を撃ち込もうとしたらフェイトちゃんがマジ泣きしながら命乞いをしてきたのでにっこり笑顔でとりあえず撃ち込んでしまいました。

 

 ……一応言っておきますと、私は結構モテる方です。

 自慢する気はありませんが日本人にしては胸も大きい方ですし(すずかちゃんがいるからあんまり目立たないけど)、顔だって悪くはないでしょう。お菓子作りの延長で料理もそこそこできますし、掃除と洗濯等の家事は得意な方です。

 しかし、肝心の私自身がさくらさん以外の男性に男性女性の関係を持とうとしたことが一度もなかったので、今も私は一人身と言うだけです。

 

 ……さくらさんは基本的に男女関係と言うものに興味がほとんど……と言うかまったくと言っていいほど無いので、多分私はずっと一人身でしょう。

 

 ……いいもんいいもん、さくらさんと死ぬまで一緒に生活できればいいもん。

 

 ……似合いませんね。

 

『それじゃあ私からの話も終わったところで……リクエストの多かった高町なのはさんからのご挨拶です♪』

 

 …………聞いてないんだけど?

 

 

 

 

 

 side ティアナ・ランスター

 

 ミッドチルダの地上には、いくつもの突拍子もない噂が溢れている。

 

 例えば、地上の守護神と呼ばれ、現在も地上の平和を守り続けているゲイズ中将には愛人がいると言う噂。

 例えば、地上の平和を守るべく新しく開発された『魔力電池式デバイス』の出展は民間協力者からだとか。

 例えば、実はゲイズ中将はあの顔で大のケーキ好きだとか。

 

 そんな根も葉もない噂が、探せば探すだけ溢れ出してくる。

 

 そんな『噂』の中には真実であるものと嘘であるものがあり、その噂が事実あったことであまりに巨大なことであれば、その噂はいつの間にか『噂』から『伝説』へと昇華する。

 

 最近の『伝説』で言えば、地上の犯罪発生率が五年前に比べて半減し、さらにこの数年の検挙率は軒並み80%を大きく上回るという物がある。

 

 これは管理局から正式に発表された資料であり、疑うものもあったがネット等を通じて事実だと広く知られるようになった伝説の一つ。

 

 そして、先程まで背負っていた黒髪の子供を自分の座っていた椅子に座らせて私達の前に出てきた女性も、その伝説の主人公の一人。

 

 その女性は、八神部隊長を一睨みしてからマイクを受け取り、私達を端から端まで見渡していく。

 八神部隊長はなんだか顔色が悪いけど、誰もがそんなことは気にしていない。私達の視線はただ一人、目の前にいる女性にのみ注がれているんだから。

 

 すぅ……と女性が軽く息を吸う。ただそれだけの音に、奇妙なほどに引き込まれていく。

 

『初めましての方は初めまして、お久し振りの人はお久し振り。私のことを知ってる人にも知らない人にも、まずは自己紹介から』

 

 そこで彼女は一瞬だけ言葉を切り、意識を更に自分に引きずり寄せる。

 

『高町なのはです。今回は機動六課にフリーランスの魔導師として雇われました』

 

 彼女の名前を聞いた途端に、周囲からざわめきが起きる。しかしそれもすぐに収まった。

 

 そう、彼女こそが『伝説』の人。近代DSAA、インターミドルの話をするならば避けて通ることはできない女性だ。

 

 五年前。インターミドルチャンピオンシップに突然エントリーした彼女は、並み居る優勝候補を凪ぎ払って悠々と都市決勝まで駒を進める。

 

 そこで起こった極大魔法戦。陽光と星光、二つの光の名を持つ二人の魔導師の少女の激突。それによって、ミッドチルダのある一帯に震度にして6弱の地震が瞬間的に起こり、魔法的にも物理的にも強固な防壁を持つ会場が荒野になったと言う話だ。

 

 そして、勝利したのは陽光の殲滅者と呼ばれるようになった彼女、高町なのは。

 

 彼女は当然のごとく世界戦にて優勝し、そしてその一度きりの出場以来きっぱりと姿を消した。

 

 そんな彼女と、彼女と互角の戦闘を繰り広げた星光の殲滅者は当然のように伝説となるが、それ以降一度も表舞台に現れることはなかった。

 

 そんな彼女の話に意識が集中するのは当然のことだけど……その中でもスバルが彼女を見る目は凄いものがある。と言うか、凄すぎて目が飛び出したり顎が落ちたりするんじゃないかってどきどきしてしまうくらい凄いことになっている。

 

 ……いったいなんなのよ?

 

『それでは、私からの話を終わります』

 

 ……あ。終わっちゃった。

 

 ゴキンっ!

 

「はぅ!?」

 

 …………あ、ほんとに外れた。

 

 ―――――――――――――――――

 

 この後はやてがどんな目に遭ったのかは……輝く太陽のみが知っている……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 異伝7 その88

 

 side 高町 なのは(ミッドチルダ・機動六課)

 

「……で、その子は誰やねん」

 

 私は今、はやてちゃんに連れられて部隊長室にまで来ています。

 部隊長のはやてちゃんが私の前でどこかの神経の名を冠する組織の暗い室内ですらサングラスを外さない指令のように座り、その隣にはシグナムさんがどこかの神経の(中略)副指令のように立っていて、私の周りにはどこかの秘密結社のモノリス群のように取り囲むようにして見慣れた顔がいくつもならんでいました。

 そしてその視線が向けられているのは、私ではなく私の膝の上。

 その膝の上には、どうやってか小さくなったさくらさんが座って眠っていた。多少騒がしくする程度なら起きないでくれるとは思うけれど、とりあえず優しく抱き締めて胸と腕でさくらさんの耳を塞ぐ。

 心音を聞きながら寝るのは、基本的には誰でも落ち着くらしい。特にリラックスしている時のゆっくりした心音は、精神安定にとてもいいとか。

 

 そこまでやってから、私はにっこりと笑って言う。

 

「名前は鷹牧さくら。ミッドチルダの翠屋店主、鷹牧桃華さんの家族だって」

「……そんで、なんでなのはちゃんがその翠屋の子を連れとるんや?」

「ホームステイ先の子を預かってるから」

「だからシュークリームあんなに用意できたんやな!? 羨ましい……」

 

 そこなんだ? 普通はホームステイをどうやって認めてもらったのかとかそんなことを聞くべきだと思うんだけど?

 特に、場所が私とそっくりの人がやっている翠屋っていう名前の喫茶店だなんて、突っ込まれない方がおかしいくらいに怪しいよね。

 

 まあ、聞かれても大丈夫なようにカバーストーリーは作ってきたけど。昔ミッドチルダに来た時に知り合って、すごいそっくりでびっくりしてからの付き合いだとか、お菓子作りの腕を互いに高め合ったこともあるとか、その時の伝を辿って……みたいな感じで。

 

 あと、どうしてさくらさんにこんなに好意的なのかって聞かれた時には、大きな嘘と小さな嘘で覆い隠せるようにと考えがある。具体的には………。

 

「ところで、なのははなんでそこまでそいつに構うんだ?」

 

 ヴィータちゃん、ナイスタイミング。

 私はヴィータちゃんに笑顔を向けて(どうしてか一瞬怯えられた。ザフィーラさんのズボンをぎゅっと握り締めて、すぐにそれに気付いたみたいで慌てたように離してた。可愛いなぁ……)、私は言った。

 

「光源氏計画って知ってる?」

 

 どうやら知っているのははやてちゃんだけだったみたいで、ほとんどの人が首をかしげたり、不思議そうな顔をしている。

 けど、はやてちゃんの顔だけはひきつりが凄い。

 

「なのは。ヒカルゲンジ計画って……なに?」

 

 今度聞いてきたのはフェイトちゃん純粋でほんとに可愛いなぁ………。

 

「光源氏計画って言うのは……昔のお話で『光源氏』っていう人が居たんだけど……」

「うんうん」

「……簡単に言うと、『好みの子供を自分好みの性格に育てていろんな意味で美味しく頂いちゃおうとする話』や」

『!!?』

 

 あ、はやてちゃんに先に言われちゃった。残念。

 

 …………なんだか視線が痛いなー。理由はわかりきってるけど視線が痛いなー。

 

「…………なのは……クロノとおんなじになっちゃった……」

「あれと一緒にしないでくれないかな?」

「だって……だってぇ………」

 

 ああもう泣かないの。フェイトちゃんってば涙もろいんだから……お化粧崩れちゃうよ?

 

「……なのは」

「なあに? フェイトちゃん」

「…………エリオには近付かないで」

「酷いなぁ」

 

 ただの作戦のための冗談なのに。

 

「……………………(なのはを冷たい目で見るヴィータ)」

「……………………(なのはを呆れた目で見るシグナム)」

「……………………(頬を染めながらなのはを見るシャマル)」

「……………………(目を閉じたまま黙秘を続けるザフィーラ)」

 

 わあ痛い。視線がちくちくちくちく突き刺さってくるよ?

 

「……一応言っておくと、私は『光源氏計画って知ってる?』って聞いただけで、実行中だとかやるつもりだとかそんなことは言ってないはずなんだけど?」

「なのはちゃん? 普通はあんな答え方をされたら実行中とかやるつもりだとかそんな風に思われても文句は言えんよ?」

「だから言ってないじゃない。やったとは言ってないよ? って言っただけ」

「やってないともやる気がないとも言わないんやな?」

「やってないしやる気もないよ」

「あらっ?」

 

 ……そもそもさくらさんは私より遥かに歳上だしね。やろうとしてもできないよ。

 

「ついでに言っちゃうと、私が本気でそういうことを企んで実行に移したら、誰も気づけないうちに結果が出てるに決まってるじゃない」

「あ、納得や」

「うん、納得だね」

「ああ、納得だな」

「うむ、納得だ」

「納得するしかねえな」

「納得ねー」

「…………やれやれ」

 

 なんだか凄い割合で納得されちゃいました。別に悲しくもなんともないですが………なんだかちょっと八つ当たりをしたい気分です。

 

「!?」

「? フェイトちゃん?」

 

 あ、フェイトちゃんには気付かれちゃったみたい。でも、はやてちゃん達には気付かれてないから巻き込んじゃおうかな。

 

 Eランク魔導師(別名、魔力ランク詐欺。あるいはEランク(笑)魔導詐欺師)の底力を見せてあげます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 異伝7 その89

 

 side 高町 なのは (ミッドチルダ・機動六課)

 

 部隊長室でのちょっとした言論戦争(私の完全勝利。隠すべき所は隠してうやむやにして気をそらして不思議にすら思わせずにすり抜けてみた)を終わらせて外に出てちょっと歩くと、見たことのある青い髪の女の子を見付けた。

 ちょうど食堂に向かっているみたいなので、私も久し振りにさくらさんと一緒にご飯にしようと思います。

 

 ……さくらさんはなんにも食べなくても平気みたいですけど、私はさくらさんに食べてほしいので一緒に食べます。そのためにお弁当も用意してきたんですから。

 

 

 

「あ……」

「……ほら、あんたが自分で聞いてきなさいよ」

「で……でもぉ~……」

「……まったく。私もついてってあげるから」

「……うん」

 

 うん、とりあえず聞こえてるから。秘密にしたいんだったら秘匿念話でお願いね。

 ……まあ、最近は魔力でうまく強化すれば秘匿念話だろうがなんだろうが聞きとれるんだけど。

 

 食堂でさくらさんと一緒にお昼ご飯を食べていたら、ぽそぽそといろんなところから小さな小さな噂話を聞き取れた。

 その中から、なんだか他のとは少し熱の入り方が違う一人……スバルの言葉をのんびり聞きながら、私は作ってきた二人分のお弁当を弄っていた。

 

 片方はさくらさん用で薄味であまり固かったり苦かったり辛かったりはしないそれは、さくらさんにはそこそこ好評です。

 そして私のは、とても普通な健康重視なお弁当。カロリーは結構高いけど、魔法を使うのも頭を回すのもカロリーがかなり必要だから、たくさん食べないと体が持たない。カロリー控えめにしたら、あっという間に痩せ細っちゃうよ。

 

「あ、あのっ!」

「ん?」

 

 椅子の背凭れの上を通って後ろに視線を向ける。まあ、聞こえてたからびっくりもなにもしないんだけどね。

 

 スバルはなんでかかちこちで、隣に立っているオレンジ色の髪の女の子に脇腹を肘でつつかれていた。

 

「どうしたの?」

「あの……セキチクさん………ですよね?」

 

 スバルの目が不安そうに揺れている。そう言えば、翠屋に来てお礼をしようとしてたことがあったっけ。

 ……なんというか、ほんとにまっすぐなんだよね。いい意味でも悪い意味でも……。

 

 そんなわけで、正直に。

 

「久し振りだね、スバル。……うん、大きくなったね」

 

 そう言ったら、なんでかスバルはぽろぽろと泣き始めてしまった。どうやら私がスバルのことを覚えていたと言うのが嬉しかったらしい。

 まあ、それはそうとしてこの体勢で泣かれると色々困るんだけどなぁ……。

 

 泣いてる子供をあやすのはあんまり得意じゃないんだよ。イライラしている時のさくらさん式あやしかただったら別だけど。

 ちなみにイライラしている時のさくらさん式あやしかたは、できるだけ苦しい方法で殺して甦らせてを相手が泣いたり笑ったりしなくなるまで繰り返す。そのやり方を初めて聞いた時には、久し振りに突っ込みを入れてしまいました。

 ……『あやす』が『殺《あや》す』になっちゃってるんですよね。無理矢理読もうとすればそうとも読めますけど、普通はそうは読みません。大抵『殺《ころ》す』としか読みません。

 

 それは置いておくとして、とりあえず泣き止んでもらわないと。あんまり続くとさくらさんの癇にさわる可能性があるからね。私のためにもみんなのためにも、泣き止んで~。

 

「……えっと……ランスター二等陸士だよね?」

「あ、は、はい!」

 

 ざっ!と綺麗な敬礼をするランスター陸士。どうやら自分に話の矛先が向くとは思ってなかったみたいで、少し慌ててる。心音が一瞬加速したけどすぐに平常に戻ろうとしているから、多分理性的なタイプなんだろうね。

 

「悪いんだけれど、スバルを座らせてあげてくれるかな?」

「はい!」

 

 さてと。それじゃあちょっとデザート用に作っておいたシュークリームで泣き止んでもらおうかな。

 

 私のお菓子を一口食べれば、泣く子は泣き止み笑い出す。私はそんなお菓子作りを目指しています。

 

 

 

 

 

 side ティアナ・ランスター

 

 憧れの人に会えて、しかも相手も自分のことを覚えていてくれたことに感激してえぐえぐと泣き続ける相棒を椅子に座らせると、そのすぐ前にお皿に乗ったシュークリームが一つ、滑るように置かれていた。

 見てみると、私の前にも同じようにシュークリームが一つ。いつおかれたのかわからないけれど、どうやら目の前の女性……高町なのはさんが関係しているみたい。

 

「落ち着いたら食べちゃっていいよ。あと、私は民間協力者って言う立場になってるはずだから、敬語とか敬礼とかもいらないよ?」

「は、はい!いただきます!」

 

 なのはさんの声を聞く度になんでか妙に緊張してしまうけれど、私はその緊張を振り切ってなのはさんに渡されたシュークリームを一口食べる。

 

「……!美味しい……!」

「……うぅ……ひっく………もきゅもきゅ……おいひいれす……もきゅもきゅ………」

 

 スバルも泣き止んでもいないのにシュークリームに口をつけて、またぱくりとまるごと口に入れる。

 何度見ても凄い食べ方だけど、確かにこのシュークリームは美味しい。いったいどこのシュークリームだろう?

 

「……ふふふっ♪ 泣き虫なのはあの頃と変わってないね。スバル」

「!そう、そうですよセキチクさん!」

 

 スバルがガタンと立ち上がる。そしてそれと同時に、スバルの口にシュークリームが押し込まれる。

 

「ちゃんと聞くから、静かにね?」

「ふぁい……もきゅもきゅ……ごっきゅん」

 

 ……まさか本当に‘ごっきゅん’なんて音を聞くなんて思ってもみなかったわね。

 私がそんなことを考えている間に落ち着いて椅子に座ったスバルは、もう一度ゆっくりと身を乗り出した。

 

「どうして、偽名なんて名乗ったんですか?」

「なんとなくだね。特に理由らしい理由は無いよ? 精々悪い人に追われてて巻き込まれると危ないから接触したってバレないようにするくらいの意図しか無いし」

「それだけあれば十分理由らしい理由になりますよ!?」

 

 あ、陽光殲滅魔導師にツッコミ入れちゃった。どうしよう死んじゃう。

 

「死なないから大丈夫だよ?」

 

 心まで読まれた。どうしよう死んじゃう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 異伝7 その90

 

 side 高町 なのは (ミッドチルダ・機動六課)

 

 さくらさんと一緒のお昼ご飯とデザートを済ませて、スバルとティアナ(そう呼んでいいと言われたから呼んでいる。私の呼称は『なのはさん』で固定みたいだけど)と別れた。

 これから私はこの六課を歩き回って問題点があったらはやてちゃんに報告、それと六課に私が居ることによって広がったソナーの領域内の犯罪行為の報告をレジーとリシュに。ついでに気が向いたらフォワードメンバー達に色々教えてあげてほしいと言われたので、とりあえず気が向いたら訓練場に行ってみなくちゃね。

 

 そんなわけで私、高町なのはは、ミッドチルダの翠屋での営業に機動六課の民間協力者、地球での音楽活動(最近、バイオリンではなく歌の方でスカウトされました。が、お断りしました)、放浪先でのレシピ研究、アンダーグラウンドサーチライトの中での戦闘訓練×2にと、忙しい毎日を送っています。

 

 そして今日は、そんな気分になったので初めての新人達の教導です。

 まあ、教導と言っても今の状態じゃあ精々基礎固めくらいしかできないんですけどね。模擬戦をするには早すぎますし。

 一応スペックを簡単に測ることくらいはできますけど……流石にそんなことはしないでしょう。いったいどんな脳筋ならそんなことをするんでしょうね。よっぽど脳筋じゃないとそんなことをしようとは思わないでしょうし。

 

「おうお前ら、今日はとりあえずこいつと模擬戦をしてもらうぞ」

 

 ……どうやら、ヴィータちゃんはしばらく見てない間にものすごい脳筋になってしまったようです。

 

 …………あれ? 元々ヴィータちゃんは元々脳筋だったっけ?

 確か前に知恵の輪を渡してみた時は、シグナムさんはレヴァンティンで切って外して、ヴィータちゃんは初めは頑張ったけど最終的にグラーフアイゼンで叩き砕いて外して、シャマルさんとザフィーラさんは普通に外したんだっけ。

 

 ……やっぱり脳筋だったね。ヴィータちゃんとシグナムさん。

 まあ、例え脳筋でも筋肉が無くって脳筋にすらなれないような人よりはずっといいんでしょうけど……悲しいことです。

 

「おい、なんか失礼なこと考えてねえか?」

「やだなあヴィータちゃんそんなの……考えてないわけがないじゃない」

「上等だコラ」

 

 突然殴られそうになったので、とりあえずアイゼンに送られているヴィータちゃんの魔力の支配権を奪い取ってから指先に集束。そのままヴィータちゃんの眉間に人差し指を当てて、ズドン。

 

「うぉあっ!? おま、今なにやった!?」

「何って……ヴィータちゃんがアイゼンに送った魔力をちょっと魔力集束でインターセプトして、私の魔力として弾殻を作り直して撃っただけだよ?」

「『撃っただけだよ?』じゃねえよ!ああもうこいつは『なんにも不思議なことなんて起こってません』みたいな面しやがって!この化物が!」

「……新人より先に、ヴィータちゃんからやろうよ。突然現れたEランク魔導師の言うことなんて聞けるかって思ってる人も居るだろうし、ここは一つ実力を知っておいた方が後々やりやすいんじゃないかな?」

「マジすんません、調子に乗ってました」

 

 瞬間でヴィータちゃんに土下座されちゃいました。……とりあえず、アリサちゃんがやってるみたいに踏めばいいのかな?

 でも私はアリサちゃんみたいに相手を苛めて喜ぶような趣味は持ってないんだけど………。

 

『あたしだってそんなの持ってないわよ!』

 

 ……どこからかアリサちゃんの声が聞こえたような気がしましたが、とりあえずなんにもなかったことにしましょう。

 

 まあ、私がなんと言おうと私は教導官の資格なんて持ってないただのヴィータちゃんのお手伝いなんだから、ヴィータちゃんの言った通りにするけどね。

 一応身体能力の記録は見て覚えてるけど、そんなの大して役に立たないから……まあ、実践で確かめてみよう。

 

 ただ、私は本気は出さないけどね。『太陽』も出す気は無いし、陽光殲滅魔導も使う気はない。

 手加減しづらいから下手するとリンカーコアが潰れちゃうしね。

 

「まあ、そんなわけで模擬戦ね。一応手加減して飛ばないであげるから、頑張って私に一撃を当ててみてね?」

 

 それじゃあ、始め!

 

 

 

 

 

 side ヴィータ

 

 あたしの目の前では、四人の新人達がなのはの奴にいいようにあしらわれている。

 

 スバルの高速の突撃からのデバイス攻撃は、当然のように横合いから叩かれて逸らされ、優しく放り投げられる。

 ティアナの弾丸は、シールドやバリアで受け流されて地面やスバルに向かう。

 エリオの突撃は、遠隔で丁度顔の高さに小さなシールドを張ってやるだけでカウンターのように地に落とされ、泥まみれに。

 キャロはスバルやエリオ達にブーストをかけたり、フリードにブラストフレアを使わせていたりしたが、そうして威力や速度が上がった状態でもなのははまったく問題なくあしらい続ける。

 

 しかし、なのははけして自分から攻撃しようとはしない。まるで、全員の限界を見極めようとしているかのようだ。

 

 ……まあ、実際そうするように頼んだんだが………マジで欠片も容赦ねえ。

 いやいや、ちゃんと加減してるのはわかるんだが……なんと言うか、加減をすることと限界ギリギリまで追い詰めることを矛盾無く同居させてるっつーのはなかなかできるもんじゃねえ。

 

 それに、あいつの恐ろしいところはそれだけじゃない。

 まるで心でも読んでるんじゃないかと言うくらいに新人達(と言うかティアナ)の作戦を看破して、そして正確に最善の方法で叩き潰している。

 

 そのくせ相手の心を折ることなく相手のことを観察し続けるってのは……本当になかなかできることじゃねえ。

 

「……なのはの奴、実は年サバ読んでんじゃねえか? 20か30くらい」

 

 じゃなかったら、あんな芸当があの年でできるとは到底

 

『知ってる? 集束した魔力の中に入ると、全身の骨という骨、細胞という細胞、そして体内の魔力の流れる道が歪み軋み崩壊していくのが感じ取れるんだよ?』

「マジすんませんっしたぁぁぁぁっ!!」

 

 あたしは全力でその場で土下座した。

 

 

 

 

 

 

 

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