幻想郷のサンタさん   作:亜嵐隅石

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 そんなわけでやってまいりました、深夜の博麗神社。

 いまの私はあたかも賽銭泥棒のようでもあり、寝起きドッキリのリポーターのようでもある。だが、その実態は――いたいけな少女の幻想を守る、奇跡への案内人、サナエクロースなのだ!

 

 ……深夜なのに私、なんでこんなにテンションが高いんだろう?

 やれやれ。こんなんだから、巷で一時期、はっちゃけ早苗さんなんて言われたりするのだ。ここは一旦、深呼吸で気持ちを少し落ち着かせよう。

 大丈夫。私ならば上手くやれる。神奈子様と諏訪子様のような失敗は絶対におかさない。

 

「うぅ、それにしても寒いですね。炬燵が恋しくなるわ」

 

 凍えるような寒さで吐く息が白い。夜の冷え込みは思った以上に辛辣だった。これでも大分、厚着をしてきた方だと思うのだが、それでも体温を徐々に奪われていくような寒さだ。

 そして、何より――さっきから鼻水がヤバい。この鼻水、遠慮という言葉を知らんのか。

 

 これは風邪をひく前にさっさと任務を完了した方が良さそうだ。

 そう考えた私はふと手にした箱に視線を落とした。

 包装紙できちんとラッピングして、可愛らしくリボンをあしらった、それは――無論、言うまでもなく霊夢さんへのクリスマスプレゼントである。ちなみに中身はショールとブローチだ。

 

 冬の寒空のもと、肩と二の腕を露わにする、霊夢さんのあの巫女服スタイルは見ているだけで寒さを感じる。というか、あの格好はかなり寒い筈だ。私には痛いほどよく分かる。年頃の女の子が体を冷やすのはいけない――私は常々、霊夢さんを見てそう思っていた。

 そこで今回、私が人里で購入してきたのがこの、赤と黒のチェック柄が入った毛糸のショールだ。そして、ワンポイントの為にフリージアを形どったブローチという二段構え。フリージアの花言葉は『無邪気』『あどけなさ』。正しく霊夢さんにはピッタリの贈り物だろう。

 完璧だ。完璧過ぎるほどのプレゼント職人ぶり。このプレゼントには霊夢さんも思わずニッコリするに違いない。私は自然と笑みが零れた。

 

「待っていて下さい、霊夢さん。サナエクロースがいま行きますよ!」

 

 そう意気込んでから私は社務所を見やり――さてどうしたものかと考えあぐねる。

 サンタと言えば、煙突から家に侵入するのが常套手段であるが、当たり前な話、霊夢さんの家には煙突がない。となると、考えられるのは玄関からの正面突破か、炊事場の勝手口から侵入するという手口のどちらかである。

 でも、いくら霊夢さんが呑気な性格をしているとは言え、流石に戸締りはきちんとしているだろう。少なくとも雨戸は全部閉められているし。これはもう最悪な場合、軒下から無理矢理侵入という強行手段を取らざるを得ないか。

 

 私は試しに玄関の取手口に手を掛けてみる。駄目だ。やはり鍵が掛かっている。

 ならば勝手口の方はどうかと試してみたが……なんと予想外なことに。こちらには鍵が掛かっていなかった。私は実にあっさりと霊夢さん宅へ侵入することに成功してしまった。

 あまりにも拍子抜けする結果に緊張の糸が少し切れそうになる。

 

 まあ、霊夢さんって異変以外の時は結構、肝心なところで抜けてたりするから、多分、うっかり勝手口の鍵を閉め忘れたんだろう。なんとも無用心だとは思うけど、いまはその天然ボケっぷりに感謝である。

 さて。内部へ侵入してしまえば、最早、こちらのものだ。今宵の任務はほぼ成功したと言っても過言ではない。あとは寝ている霊夢さんの枕元にこっそりプレゼントを置いてくるだけ。氷精でも出来る、簡単なお仕事を残すのみだ。


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