「――きて。――なえ、早く起きて」
「……んあ?」
「――ねえ早苗、早く起きてってば!」
耳元で喧しく囃し立てる声に私は薄らと目蓋を開いた。
ぼんやりとした視界に映るのは見知らぬ天井。
はて。ここはどこだろう。私は誰だろう。私はミラクルフルーツ☆東風谷早苗ちゃんです!
私は寝癖立った髪の毛を掻き毟りながら、ゆっくりと布団から体を起こした。
ふと視線を隣りへやれば、そこには満面の笑みを浮かべる、霊夢さんの顔が。
ああ……そうか。確か昨日は霊夢さんの家に泊まったんだっけ。
「ふわぁ……おはよう御座いましゅ、霊夢しゃん。東風谷早苗の朝はいつも一杯のケロッグコーンフレークから始まりますん」
「……ケロッグコーンフレーク? ちょっともう、寝惚けてないでこれ見てよ! これ!」
まったく。朝っぱらから、何をそんなにはしゃいでいるのやら。
私はやれやれと溜め息を吐き、眠気眼のまま、霊夢さんが胸元に掲げてる物体へ視線をくれた。
その次の瞬間――私の眠気は一気に吹き飛んだ。
「えっ!? 霊夢さん、それは――」
「今朝、枕元にあったのよ! ふふーん、サンタさんからのプレゼント~!」
「……えっなんで? ど、どうしてそれがここに?」
霊夢さんが大事そうに抱えてる、その箱は――間違いない、私が用意したプレゼントだ。
でも、それは昨日、どこかに紛失したまま行方不明になっていた筈である。
なのにどうして。何がなんだか分からない。
「……どうしたの早苗? ボーッとして。さっきからなんか様子が変よ」
「いや……その。なんかちょっと、吃驚して」
「何よそれ。私がサンタさんからプレゼント貰えるのがそんなに意外? まさか、アンタ……昨日まで――どうせ霊夢さんは悪い子だし、サンタさんなんか来るわけないよ――とか、そんなこと思ってたんじゃないでしょうねえ?」
「へっ? ……あっ。いやいや。別にそういうわけじゃなくて!」
「もう! 失礼しちゃうわね! ……まあ良いわ。それよりもほら、早苗も自分の枕元を見てご覧なさいよ。アンタにもちゃんとプレゼントが届いてるわよ」
「……えっ?」
そう言われて直ぐ様、自分の枕元を見やる。
すると――霊夢さんの言う通り、そこには確かにプレゼントの箱が置かれていた。箱の大きさは大体、霊夢さんのと同じくらい。きちんと包装紙でラッピングがしてあって、可愛らしくリボンがあしらわれている。
まるで私が霊夢さんに用意したプレゼントと瓜二つ。なんだか双子みたいだ。
いやいやいやいや。ちょっと待って。本当にこれはどういうことなの。私の灰色の脳細胞を駆使しても、この状況がまるで把握出来ないんですけど。霊夢さんだけじゃなくて、なんで私の枕元にもプレゼントがあるのー?
これはミステリーでしょうか?――いいえ怪奇ホラーです。何これ怖い。イミフ過ぎて怖い。
まさか……幻想郷には本当にサンタさんが実在する?
サンタさんもついに幻想入りしちゃった?
それともあるいは……。
「ねえねえ早苗! プレゼントの見せ合いっこしようよー!」
「霊夢さん、朝からテンション高いですって。そんなにサンタさんからのプレゼントが嬉しかったんですか?」
「あったり前でしょう! んもう、そんなことは良いから、早く見せ合いっこしようよー! もう私、さっきからプレゼントの中身が気になって仕方ないの!」
あまりにも不可解な現象に考えれば考えるほど謎は深まるばかりだ。
でも、まあ……霊夢さんが嬉しそうだから結果オーライ。これはこれで良いのかも知れない。
というか、霊夢さんが子供みたいにはしゃいじゃって可愛い。何あの眩しい笑顔。低級妖怪ぐらいなら、余裕で消し去るぐらいの破壊力があるよ。アンデッド系のモンスターだったら即死だよ。ああーもう霊夢さん可愛い過ぎか!
――ギュッと抱き締めて頭をナデナデしたら変だと思われるだろうか?
「早苗、プレゼント持った? 準備はいい? 私、もう開けちゃうよ?」
「そんな焦らなくてもプレゼントは逃げませんよ。大丈夫、私の方も準備が出来ました」
「うん! それじゃあ、せーので開けるからね。せーので」
「分かりました! いつでもバッチコイですよ!」
「よーし。それじゃあ……せーのッ!!」
霊夢さんの合図でプレゼントの箱を開け始める。
果たして、中身はなんだろう。まさかのビックリ箱とか、そんなオチじゃあないよね。
あーもう。私も霊夢さんのこと言えない。すっごくワクワクして中身が気になって仕方ない。そして、何より――いまのこの時がメチャクチャ楽しい!
「……うわー! うわーーー! ねえ早苗、見て見てこれ! 毛糸のショールにブローチ! それに毛糸の手袋もあるよ! うわーとっても暖かそう!」
手袋……!? 毛糸の手袋ってなんだ?
はて。そんなもの買った覚えがないんですが。
なんかまた謎が増えたし!
「早苗のは!? 早苗のプレゼントはなんだった?」
「あっ。ちょ、ちょっと待って下さい。いま開けます」
「んもー早苗ったら遅い! せーので開けようって言ったじゃん!」
「あははっ。すいませーん。包装紙とか綺麗に剥がしたくなるタイプなもので」
霊夢さんに急かされながら私はプレゼントの箱を開ける。
中身は――緑と白のチェック柄が入った毛糸のショール? それにこのブローチ。モチーフは胡蝶蘭だろうか。そして、私のプレゼントにも毛糸の手袋。霊夢さんのが赤なのに対して、私のは緑色だ。
「あら? それってなんだか、私のとお揃いじゃない?」
「い、言われてみれば、確かにそうですね」
誰からの贈り物か知らないけど、随分と粋なことをするものだ。
霊夢さんが赤で私が緑。そう――まるでマリオとルイージのようじゃないか。
でもでも、私と霊夢さんだったら、どっちかと言えば、私の方がお姉さんよね。霊夢さんが妹で。ふふっ……いいなそれ。霊夢さんが私の妹とか。ヤッベ。妄想が捗るわあ。
しかし、本当に一体、このプレゼントの贈り主は誰なんだろうか?
このプレゼントのチョイス、ただの偶然とは思えない。私が霊夢さんにどんなプレゼントを贈るのか知った上での、明らかに狙って選んだものに間違いはないと思うんだけど。
――おや? よく見たら、箱の底にまだ何か……これはクリスマスカード?
『優しいサンタさんにもメリークリスマス!』
カードにはたった一言、それだけが書かれていた。
なるほど――どうやら私の行動は全て把握されていたようだ。いつの間にか枕元に置かれていたプレゼントの件といい、この幻想郷でこんな芸当が出来る人物は非常に限られてくるわけなのだが――私は自分の推測にいまひとつ確信を持てないでいた。だって、くだんの人物はいまの時期、冬眠しているという話だし。
でも、それでもたったひとつだけ明らかなことがある。この贈り主も私と同様、いたいけな少女の幻想を守る、幻想郷の優しいサンタさんのひとりなのだと言うことだ。
「ちょっと早苗……。何をそんなニヤニヤしてるの? かなりヤバいわよ、いまの顔」
私はカードをサッと袖の中に隠した。
このカードを霊夢さんに見られるわけにはいかない。
何故ならば、これは私達、幻想郷サンタ同盟だけの極秘な内緒話なのだから。
「いや、そうは言いますけどね。霊夢さんだってさっき、おんなじような顔してましたよ。それはもう、すごーーーくヤバい顔でした! 危うく理性が飛びそうでしたね、うん」
「だって、サンタさんからのプレゼントが嬉しかったんだもーん!」
霊夢さんはとても上機嫌だ。いまにも鼻歌交じりに小躍りしそうなほど。
これだけ喜んで貰えると私も嬉しい。そして恐らく、どこかで見ているだろう誰かさんも。
「ねえねえ。早速、これ着てみない? それで人里に行ってみない? 小鈴ちゃんのところとか!」
「こんな時間にですか? ……流石にまだ寝てるんじゃないですかね?」
「ああ、そっか。うーん……それじゃあ、魔理沙のとこ! 魔理沙なら大丈夫でしょう! 寝てても私が叩き起こすし!」
「ヒドっ!! というか霊夢さん……単にプレゼントを誰かに見せびらかしたいだけですよね?」
「……ふ、ふふーん。サンタさんからのプレゼント~」
「ちょっ! 誤魔化さないで下さいよー」
私達は互いに顔を見合せ、やがて――どちらからともなく、プッと吹き出した。
霊夢さんが楽しそうにしてると私も楽しい。霊夢さんが笑顔になると私も自然と笑顔になってしまう。こんな素敵で暖かい時間が過ごせるのならば、来年のクリスマスも是非、霊夢さんの為にサンタ役を買って出たいところだ。
さーて――来年のクリスマスは霊夢さんにどんなプレゼントを贈ろうかな?
「もう早苗! 何をモタモタしてるの? 早くしないと置いてっちゃうからね!」
「ちょっと待って下さーい! ブローチを着ける位置、どこにしようか迷っちゃって~」
「そんなの、胸か肩のあたりで良いでしょ! ほら~早く~!」
すっかりと冬らしい装いに身を包み、神社の鳥居の前で霊夢さんが大きく手を振っている。
その子供っぽい仕草に一瞬だけ微笑むと、煌めくような朝の曙光が射し込む中、私は手を振り返しながら霊夢さんへ向かって駆け出した。
ここまでご読了頂きましてありがとう御座います!
作者は茨霊夢好きのレイサナ派です、病的な
レイサナ派の人もそうではない月人も
少しでも楽しんで頂けてたら幸いで御座います
あのー誰か、私にショールとストールの違いを教えてくれませんか???