森の奥深く。
結界に閉ざされた城というべき大邸宅の奥で、その儀式は行われた。
主催するのは衛宮切嗣。魔術師殺しと言われ、外道の魔術師を狩ってきた傭兵。魔術師としては異端なことに近代兵器も抵抗なく使う。
その傍らにいるのは、素晴らしい美貌の、白に近い銀髪で瞳の赤い女。その実はホムンクルスである。
この城を維持する貴族魔術師、アインツベルンによって鋳造されたもの。
彼女は、奇跡的に発掘されたものを手にしていた。
錆も傷もない、美しい鞘だった。
まさに伝説そのものの結晶。値をつけるなら、何兆円どころかアメリカの軍事費一年分でもその真の価値には及ばぬ。
現代人が美術品として作ったのであっても、ビル一つ買える価値はあろう。
黒髪で死んだような瞳をした衛宮切嗣は、それも拳銃と同じただの道具として見た。
そして何か思いつくと、儀式を始める。
術式そのものは簡素。呪文も比較的短い。
魔術の多くは、聖杯戦争そのものが担うからだ。
聖杯戦争……日本の冬木という霊地で60年に一度行われる、奇妙な魔術儀式である。
3つの名家によって行われるが、7人の魔術師を本来必要とする。
遠坂家が霊地を管理し、アインツベルンが聖杯の術式をおこない、マキリ……帰化して間桐となった……が、サーヴァントの令呪を担う。
サーヴァント。それがこの魔術儀式の核となる。
神ではないがそれに準じるような、伝説的な英雄たちの霊……英霊を、人間に近い特殊な使い魔として召喚するのだ。その能力はせいぜい超人の水準だが、それでも本気で暴れれば核兵器に匹敵する脅威となる者も多い。
さらに英雄の誇りをもつ英霊が、魔術が衰退したこの時代の魔術師にやすやすと従うはずもない……本来は。
それを従わせるのが、令呪。マスターに配分される、三度使える特殊な聖痕。巨大な魔力が装填され、サーヴァントにいかなる命令でもすることができる。
(令呪からもたらされる莫大な魔力を一度に用い、全力で戦え……)
でも、
(空間転移をおこなえ……)
でも、
(自害せよ)
でさえも。
令呪の力でサーヴァントを従えた魔術師が、サーヴァントが最後の一人になるまで殺し合う。
マスターが死んで適当な令呪を宿す者と再契約できなければ、魔力が切れたサーヴァントは消える。神秘の存在であるサーヴァントは刃や銃弾では殺せないが、神秘で神秘を打ち消す……きわめて強力な魔術や同じサーヴァントが使う宝具などでならば殺せる。そして死んだサーヴァントの膨大な魔力は聖杯に帰り、蓄積される。
それが六体分たまり、最後の一人が勝ち残ったときに聖杯は顕現し、勝者のいかなる願いもかなえる全能の存在となる。
その願いのために、七人の魔術師は殺し合うのだ。
最小限、神秘の隠匿という魔術師共通のルールだけは守らねばならぬとされ、魔術師とは敵である聖堂教会から監督も入ってはいる。
その令呪を輝かせつつ、衛宮切嗣は呪文を詠唱する。
大きな魔力を消費し、苦痛に耐えながら。
傍らの美しい妻すら犠牲にする覚悟を決めて。いかなる鬼畜外道の所業も行うと覚悟して。勝利のために。城の奥で眠る幼い娘のために。
悲願……
すさまじい魔力が凝縮した。
異変が起きた。本来は英霊、その伝承と魔術儀式をつなぐための触媒……
アインツベルンのすさまじい金と権力で手に入れた、アーサー王の「血を除く鞘」が、魔法陣から弾かれたのだ。
だが呪文は終わり、魔術儀式は完成している。
強大な魔力は渦巻き、人の形を成していく……
「あんたがオレのマスターか?」
若い、大学生ぐらいの、黒髪に動きやすい作業服の男が強い目で切嗣を見据えた。
「……え?」
魔術師たちは、
(どんな間違いがあったんだ……)
と茫然とするしかなかった。
この鞘を触媒にしたのなら、呼ばれるのはアーサー王に決まっている、そのはずなのに。
「魔力のパスは感じる。あんたがマスターだな」
「お、おまえは」
「セイバーのサーヴァント、ってやつか。『アーカム』の『スプリガン』、御神苗優」