鯖総入れ替え四次(おっさんホイホイ)   作:ケット

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時系列バラバラ日常会。


食事

 遠坂家は、朝からお出かけの支度がある。

 今朝はリナ・インバースの食欲を満たすため、冬木市内のバイキング形式モーニングがあるファミレスに、葵・凛・士郎・リナの四人+運転手のアーチャーで出かけた。

 時臣は貴族らしく優雅にイングリッシュ・ブレックファストをたしなむのだから、葵は大変だ。

 また、リナも家で食べることもある。それはそれで、葵が苦労することになる。

「なんでいつもこんなに食べるの?」

 食事中は微妙な話はしてはならない、とさすがに学んだ士郎がリナに聞いた。

 リナの独特の美貌が、良家の令嬢の服装だとやや違和感がある。

「いい、あたしはここに、二週間しかいられない。14日。おやつと夜食を入れても70食。

 それでこの地球全体に、いくつの店がある?チェーン店は一つとしても、どれだけ?

 そして、一つのレストランだけでも、何種類のメニューがある?普通のファミレスのランチでも10以上、グランドメニューとなると30はある。

 さらに高級レストランでワインとの組み合わせ、考えてみて?牛、豚、羊、鶏、魚の五つと、ワインリストだけで普通20は軽くあり、それに日本酒や焼酎、ウイスキーなども含めたら、あっというまに1000を超えるのよ。さらに多彩な調理法を入れたら、合わない組み合わせを抜いても万にはなる。

 そしてさぁらに、この星には国だけで130以上。国の数だけ料理があり、それぞれ何十もメニューがある。フランスなんか地方ごとに料理もワインも違って別の国も同然。中国だって四大料理がありそれぞれ何百もある。

 それからどーやってたった70選べってゆーのよっ!せめてこーゆー形で、いろんな地方や種類のものを食べるしかないじゃない!」

「それより全部入るのがどうなってんの」

 と、小食で特に朝はホットミルク程度の凛が嫌味を言う。

「あたしは生前、若いころ長い旅をした。どの町も一期一会、一晩泊まって翌朝旅だったら、二度とそこに行くことはない」

 どの町でも二度と来ないでくださいと泣いて拝まれるか、あるいは町ごと滅ぶかしたからである。誰と組んでいた時も、一人でいた時も。

「だから全メニュー制覇で、その店のいろいろな食べ物だけでも全部味わう!それが礼儀ってもんじゃない」

「そうなのか……」

「それは、リナさんが生前も超人だったからですよ。普通の人間が真似をしようなどとしてはいけません。士郎さん、あなたも貴族に近い魔術師になるのですから」

 と葵が言うが、彼女は自分の言葉がどれほどずれているか知らない。士郎がどれほど異常で、時臣の頭をさいなんでいるのか……

 

 その士郎は、常に無口で控えめすぎるアーチャーと、どう接していいかわからなかった。

(男の中の男だ……)

 とはわかるのに、霊体化していることが多くてほとんど実体で会うこともない。せいぜい運転手として動いているときだ。ほとんど食事もしない。それ以前に巨大すぎてとても会話できない。

 リナはすごく親しく接してくれる……というかいつも時臣をバカにしてはそれに怒る凛と口げんかをしていて、怖くて固まって震えているのが正直なところだ。

 かりそめの生を最大限に楽しんでいるキャスターの姿と、任務に専念しているアーチャーの対比が、新しい生活に惑う少年の心をかき混ぜていた。

 ある意味家族になった三人の人間も。

 貴族的で距離が遠い、何かにものすごく心を注いでいる時臣。

 優しくよく世話をしてくれる美人だが、しつけには厳しく、何かとても悲しそうな葵。

 そして激しく、ものすごい力を常に放っている……近くにいるだけで火傷しそうな、それでいて時々強い悲しみ、触れたら折れそうな脆さも発する凛。

 魔術という新しい、奇妙な世界……自分の命が脅かされている、ということは、この年齢の男子にはあまり現実感はない。

 遠坂家でも外食でもリナにご相伴して食べられる、実家とは桁が違う豪華な食事も、どちらかというとそれどころではない。何よりも、葵も凛もそれをまともに味わうには、悲しみが大きすぎるのだから……

 

 凛は、突然生活に入ってきた士郎という普通の同学年男子と、どう接していいかわからない。もともと猫が落ちてケンカしていた時に声をかけられたのだし、遠坂家でもリナがいるので猫をかぶっているときなどないに等しい。

 この素質がありすぎる、それでいて貴族の礼儀作法をぜんぜん知らない男子に、つい苛立ちと悲しみをぶつけてしまう。なかなか反応がかみ合わない、うまくケンカすることも難しい。

 あまりひどいことをして母親や、まして大切な戦いに生命をかけている父親の足を引っ張ってはならない、といくら思っても……

 それだけではない。令呪という力、自分の魔力。どちらも父親を守るものであり、今は母親も守っている。重すぎる責任を孤独に、一人で抱えている。

 突然家族から離れて、わけのわからない魔術の修行を始めた少年を真に思いやる余裕はなかった。

 

 

 ある夜から、間桐雁夜と桜は金や書類を持って、大型のバンで冬木市内を逃げ回っている。

 かさばる宝物は別のところに送って預けている。

 金には不自由はない。バンの後ろ席を畳み、市販のエアマットを敷き寝袋を使えば、寒いが寝られる。風呂などはビジネスホテルなどの休憩を使う。

 まだ体調が万全ではない二人、食事には気を遣う。

 粥を出してくれる食堂を探すのも大変だし、時には雁夜自身がキャンプのように公園でシリアルなどを煮る。

 朝食などはドライブスルーの、シェイクの類で済ませることもある。

 麺類も、汁に入ったものを選び少し待って柔らかくすれば何とか食べられる。ヨーグルトも食べられる。

 長く固形物も食べられなかった、そして死を見つめている雁夜は、その一食一食がたまらなくうまかった。そして少しでも、桜にもおいしい食事をしてほしかった。

 今の雁夜は、マスターではない。彼は知らないことだが、アイリスフィール・フォン・アインツベルンと同じように、偽装マスターである。そして買い物や契約、運転ができない桜に代わって、動き、食事を用意し、市役所や弁護士事務所に通って書類を書く。

(命のすべて、この子のために……)

 霊体化して見守っている……銃という危険な飛び道具に警戒するバランも、心は一つだった。

 聡い桜はそれを知っているのか。母や姉、父を求めながらそれを寝言以外には出さず、黙って我慢を続けている。

 修行の苦痛の記憶は消されたとはいえ、家族から離された苦しみと気丈さが伝わり、いつも雁夜は辛くて仕方がなかった。

 ある程度、時臣が桜を手放した事情は理解してきているが……

 また、幼稚園や学校に通う子供たちを見る桜を見ても、胸が痛くなる。

(なんとしても、桜ちゃんが学校に行けるように……無事に生きられるように……)

 晴れ姿を見ることはかなわぬ身でも。

 

 

 ケイネス・エルメロイ・アーチボルドも、ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリも、きわめて上位の貴族である。

 だから実体化して食事したがるサーヴァントのマナーの悪さは、きわめて不快だった。

 ともに食事するなど冗談ではない、だが離れていては万一の時に危険だ。

 というわけで、基本的には他人のふりをし、近くのテーブルだが別々に食事をしている。

 また、貴族として普段食べている食事と、日本で食べられる食事はやはり違う。何よりも紅茶と英国式茶菓子、特にクロテットクリームの質は、冬木市最高級であってもイギリスには大きく劣るのだ。

 不快を隠さない表情で、逆に孔雀に器の浅さを見透かされていることを、ケイネスは知らない。ソラウはわかっているが関心がない。

 また、ケイネスには気に食わないサーヴァントの事よりも、ソラウの歓心を買うことの方が重要だ。家柄も富もはるかに上、自分の実績ですら大したことと思わない彼女の心を、どうすれば手に入れられるのか……

 戦争だけではない。恋も、ケイネスにとっては初めてなのだ。

 

 

 ウェイバー・ベルベットは目が覚めた時、夢を思い出していた。

 

 爆発に吹き飛ぶ、高校の靴箱。

 その中に発見された手紙の残骸を解読し、別の戦いを準備する宗介……

 

「愛してるぜカァァァシィィィムゥゥ!!!」

 最後の最後まで嫌がらせをしぬき、大切な戦友たちや、学校で関わる人も深く傷つけた敵……

 自分のサーヴァントの決してあきらめない闘志、そして敵の底なしの邪悪さと執念。

 どちらも圧倒されるものだった。

 また、普通の学校でのあまりにとんでもない騒動……

 

 だがそれに浸る暇はない。まず全身の筋肉痛がある。

 それから、マッケンジー夫妻に甘やかされ、反発しながらの朝食。

 着替えての長いランニングが待っている。今日はどんな目にあわされるのか……

(今日は、少し聞いてみようか)

 この骨の髄まで軍人であるサーヴァントが、どんな生活をしてきたのか。

 同じように、学生だったのならその思い出話も。ハリセンで殴りつけてきた髪の長い美少女のことも……

 そう考えて、ふと気がついた。

 おそらく、彼女は別の世界の、しかももう故人なのだろう。

 サーヴァントというのがどれほど遠い存在なのか。

 そして、はるか遠いイギリスの学生生活が、まるで霧の向こうのように感じる。それがどういうことなのかは、まだわからない。

 サーヴァントの宗介は、食事はとらないしマッケンジー夫妻の前にも顔を出していない。

 

 

 奥森かずいは、夜間の情報収集を終えマスターと情報を突き合わせる。

 多くの陣営についての情報を得る。一人一人の心を知り、理解し、それを戦いに生かす。

 高い気配遮断スキルを持つ彼でも、危険は小さくない。

 特にアインツベルンのセイバーは、自分がプロの工作員ならどこに隠れて見張るかを逆に考える。そこにサーヴァントにも通用する宝具化された銃弾を用いた罠を仕掛けている。

 着ぐるみのサーヴァントも、同様のことができる。

 だから大抵は、偵察にアーチャーも同行してもらっている。彼ならばあらゆる罠を事前に見抜き、解除できる。

 そして朝になれば、なんとかもぐりこんだ病院で医者としての仕事をする。

 たくさんの人の愚かしさ、邪悪さに触れる。できるだけマインドアサシンの力を使わず、知恵と現代認められる医学だけで対処する。

 それでも、彼の力が必要になることがある。霊体化と気配遮断がある分、調べ、極悪人を闇に葬ることは生前よりも容易になっている……

 彼は食事を必要としない。ただ、人間として怪しまれない程度には食事もしている。

 結構彼の美貌と長身を注目している女性がいることは、あまり意識していない。

 

 言峰綺礼は、隠れ家で激しい修行を積んでいた。

 敵の恐ろしさが見えていくにつれて、死の恐怖が増していく。

(戦うには、以前の何の目的もなく、命惜しさもない、ただ何かを求めている異端者のほうがよかったのか……)

 と思うこともある。

 多くの普通の人間が戦っている。中には無様に散る者もいるし、運悪く死ぬ者もいる。薬物などに手を染める人もいる。

 以前のあの自分と、今の普通の人間、どちらが戦いに向いているのか。生き残れるのか。

 もう、衛宮切嗣は眼中にない。いや、今の綺礼ならば、容易に理解できる、

(あまりにも悲しい目にあい、ひたすら、より多くを助ける機械であることを自分に課してきただけ……)

 だと。

 聖杯戦争に参加した理由も、いくつかの仮説に絞れている。その一つ……少年じみた狂った理想というのは、ばかばかしすぎるが一番可能性が高そうに見える。以前の綺礼には想像もできなかったことだろうが。

 むしろ恐ろしいのが、その衛宮切嗣のサーヴァントだ。彼が何を意図しているのか……サーヴァントたちの同盟の気配も、アサシンがつかみつつある。

 今は小康状態の戦いも、もうじき動くだろう。そのとき、以前の技術と経験はあっても、ただの人間でしかない自分は生き残れるのか……

 迷いと恐怖は、修行で晴らすことしかできない。以前の自分より弱いのかもしれない。アサシンの警告通り、

(人工的な魂でしかない自分が、これほどまで生き残りたいなど、笑止ではないか……)

 と思ってしまうこともある。だがそれ以上に、死の恐怖のほうが圧倒的に高いのだ。

 一人ではない、と思えるのが救いだ。殺し屋としても経験豊富な自分のサーヴァントは、代行者の自分にとっても優れた参謀なのだから。

 腹が減っては戦はできぬ、との参謀の助言に従い、行きつけの中華料理屋で、この好みは以前と変わっていない極上の麻婆豆腐を味わった。今日は葵とキャスターもいたので、最悪店が消し飛ぶかと警戒したが。

 二人の子供はまだこの店は早いと、すでに別のところで食事を済ませて車で休んでいる。

 

 

 久宇舞弥は、機械であり部品である。

 だからこそもっとも効率のいいカロリー補給の方法として、菓子を食べる。

 この冬木市には、たくさんの素晴らしい菓子屋がある。

(たとえこの大都市を焦土にしても……)

 切嗣の悲願を果たすつもりである彼女は、この市のすべての菓子を食べたい。

 同じように、すべてを楽しみつくしたいと思っている敵のキャスターとしばしば隣の席になるのは、仕方がないともいえる。

 マスターではない舞弥は、魔力も調整している彼女がそんな存在だとは気づかない。ただひたすら、甘いものを食べているだけである。

 

 

 アイリスフィール・フォン・アインツベルンは、今日も冬木市を楽しんでいる。

 エスコートする青年は、どう見ても彼女の高雅な美しさには合わない。なんだかチンピラのような印象なのだ。

 だが、彼女はそんなことに頓着していない。リナと同じように、かりそめの短い命を満喫している。リナほど多量の食物を食べることはできないとしても、だからこそ厳選し、考え抜き、選び抜いて。

 その都度優は憔悴していくのだが……女性の買い物の荷物持ちよりは、

(生前の体でAMスーツなしに、朧とボーマン教官にしごかれつくすほうがまし……)

 なのだ。

 時にわがままを言い、高校時代にクラスメートたちと楽しんだファストフードなどにも入る。アイリスフィールはそれにも夢中になり、大口を開けてかぶりつく。

 

 衛宮切嗣は、食事を楽しむ習慣はない。自動車にオイルとガソリンを入れるのと同じ、ただの補給と割り切っている。

 だから基本的にはジャンクフードだ。アインツベルン城の豪華な食事も、嫌悪のほうが強かった。

 だから、とても嫌なのだ。妻とサーヴァントが買ってくるおみやげは。

 ひたすらな高級品ではなく、掘り出し物の駅弁など楽しませようとしてくれるのはわかる。

 だが、機械にはそんなのは不要だ……

 そう叫びたくなる。

 さらに今日何があったのか、楽し気に報告するアイリ……幸せそうであればあるほど切嗣は苦しみに胸がねじれるようだ。

 そしていくら無視しても、蛙の面に小便で話しかけてくるサーヴァント……

 どれほど馬鹿にされているか、どれほどなめられているか、どれほど差があるのかはいやというほどわかっている。

 

 

 腹が減っては戦はできぬ。戦士たちは今日も食べ、戦っている。

 そしてサーヴァントたちは情報を集め、網を張り巡らせ、牙を研いでいる。

 この食事が最後になるかもしれない。一口の粥が心を大きく変える。

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