鯖総入れ替え四次(おっさんホイホイ)   作:ケット

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大聖杯

 世界有数の霊地である冬木市でも最高なのは、柳洞寺がある円蔵山だ。

 そこの反応を調べるよう、優に言われたウェイバーと宗介はある夜中、寺に向かった。

「なんだよこれ」

 すさまじいまでの霊力に、ウェイバーは圧倒された。寺の規模も相当大きい。何十人もの僧が修行できるという。

 山全体が天然の結界になっている。霊は参道を通る道しか歩けない。

 霊力にも圧倒されたが、その中に嫌な予感が混じる。それも怖かった。

 

 そこまでの夜道も、以前と違い心配は少ない。ホテルの爆破解体を防いだ報酬として、セイバーからいろいろともらっている。一見普通だが、装甲が施された自動車も含めて。

 それを宗介が運転し、山に向かった。

 近代生活の便利さと安さ、食文化の多様さに、ウェイバーは毎日驚いている。驚けるだけの余裕を身につけつつある。

 長い長い階段の途中から、魔術で調べながら動いたウェイバーは、横道を発見した。特殊な結界で保護され、参拝客は脇にそれずにまっすぐ寺に向かうようになっている。

「車が入れないところで別のサーヴァントに襲われたら……特に、アサシンが正体不明です。何人もの狙撃手がいることも確かです」

「『ボン太くん』を着れば、ライフル程度なら防げるな」

 と、ウェイバーは宗介に宝具を出させ、着用した。

 宗介が先行し、罠を警戒しながら進んだ。茂みの下を伝う蛇のように、ほとんど四つ足で。恐ろしい忍耐と体力、また注意力だ。

 巨大な洞窟の入り口に着いた時から、ウェイバーは猛烈に嫌な予感がした。感じるのは、ひたすらな邪悪。

 そして洞窟の奥……それがあった。

 圧倒的な悪と呪い。想像を絶するほど高度な魔術。

 ウェイバーの未熟な解析では調べつくすこともできない。

「ど、どうしよう。手に負えないよ」

「自分には魔術知識はありません。マスター自身の魔術では手に負えないのならば、優れた魔術師に頼ることを具申します」

 宗介は相変わらずだが、もしこの黒い汚泥が襲ってきたら撃退する構えでいる。

「わ、わかった。あのセイバーにも連絡してくれ。それに、先生に連絡しよう。時計塔にも知らせたほうがいいか」

 ウェイバーはもう宗介を信用しており、自分にできないことは他人に任せることも考えられるようになっている。

「今取れる限りの記録や、証拠写真も撮っておきましょう」

 危険がない範囲の調査をして、主従は逃げるように山を下りた。

 

 

 ある病院で、孔雀の携帯電話が振動した。

 ウェイバーと少し話し、ケイネスとソラウに知らせに向かう。

 衛宮切嗣の『起源弾』で重傷を負ったケイネス・エルメロイ・アーチボルドは入院中だ。なんとか歩けるが、老人のように弱っている。

 ランサーが守っているし、恐ろしい宝具もわかっているので、遠坂陣営もアインツベルン陣営も手を出していない。

 実は御神苗優は、起源弾までは知らなかった……少々計算が狂っている。だが、修正可能だ。ケイネスの学識・地位・家督・財産・子種はまだ無事、聖杯の封印も桜の保護もまだできるかもしれないのだ。

 ウェイバー・ベルベットはサーヴァントと思われる高校生男子を実体化させて、連れてきた。人目がある、ここでは戦えない。どちらも。

 

 怨師ケイネスの無残な姿を、孔雀に案内されたウェイバーは見た。

 もう、あの恨みも屈辱も、遠い昔のことのようだった。

「先生。大聖杯、は、恐ろしい悪に、汚染されて、神秘の漏洩の可能性があります。助けてください」

 ウェイバーが震えながら言う言葉を、ケイネスは呆然と聞いた。

 つまづきの原因となった、ならば制裁を……

 自分を逆恨みしているのなら、どれほどこの無残な姿を喜ぶか、屈辱……

 だが、ウェイバーが見せたのは驚き、怯え、それ以上の決意。さげすみや喜びではない。

 教室でのウェイバー……ほとんど印象はなかったが……とは、まるで別人だった。

「時計塔にも連絡は、送りました。ですが、僕からの、連絡では、信用されないかもしれない。先生からの連絡なら耳を傾けるでしょう。こちら」

 と、魔術を用いて情報を渡してくる。

 ウェイバーのつたない解析結果。とてつもない、大霊地の地脈そのものを使う大魔術と、その奥の深い汚染。

「……どういうこと?この子、貴方の触媒を盗んだ子でしょ?何かうらみでもあったんじゃない?ならこの姿を見て大笑いでも」

 ソラウの言葉に、ウェイバーは強い怒りをぶつけた。

「戦ったんだからどうなっても当たり前だ!生きているだけでもすごいんだよっ、僕だって負けたけど生きてるんだ!」

 宗介も、

「戦った指揮官を安全圏から批判してはなりません。戦場では常に予想外のことが起きます。常に情報も限られている。判断する時間もない。優秀な者でも愚行をするのは当たり前、マスター、それを知らない士官はいい士官ではない」

「うん」

 その言葉が。

 同じく戦った者の共感と尊敬が。

 ウェイバーと宗介の信頼関係が。

 笑われさげすまれることよりはるかに、ケイネスを深く打ちのめした。

「……神秘の秘匿は魔術師の義務だ」

 魔術回路は寸断され、令呪も起動できない。それでも、学識はある。

 できることはある。

「手紙を書いてから、円蔵山に向かおう」

「はい!」




ケイネスって救いようがない人にも見えますけど、すごく微妙なところでバランスが揺れているんですよねえ…
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