鯖総入れ替え四次(おっさんホイホイ)   作:ケット

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バーサーカー

 冬木に古くより住まう名家のひとつ、間桐家。

 その地下蔵では、おぞましい悲鳴とともにおぞましい儀式が行われていた。おぞましい音がぎしぎしと漂い、おぞましい臭気と湿気がはびこっていた。

 蟲。そこら中に、どんな昆虫図鑑にも、どんな生物図鑑にもあり得ぬ、甲殻や軟体の小動物が這いまわっている。

 血の匂いがかすかにする。

 

 体の半分が麻痺し崩れた白髪の男が、激しい苦痛に血の涙を流しながら、呪文を唱えていた。

 切嗣や、すでに召喚を終えている教会の者が唱えた呪文とは、わずかにことなる。余計な一節が挿入されている。

「されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者」

 バーサーカー……狂戦士。狂った逸話を持つ英霊を、狂ったまま召喚する。理性とひきかえに能力が向上する……魔力消費も激しくなるが。

 弱い英霊を召喚しても戦い続けるために。強くはなるが寿命が縮む薬を打って戦い続けるような、後先を考えないことだ。

 そうするしかなかった。

 術者……間桐雁夜には、生命しか手持ちのチップがなかったのだ。

 

 はじまりの御三家のひとつ、間桐家の主臓硯は狂っていた。不老不死にかぎりなく近い、人食いの虫の集合体だった。家族も含め他者の苦悶を喜びとし、不老不死の妄執だけにとらわれた悪霊だった。

 雁夜と当主である兄、鶴野の母も、今は遊学している鶴野の息子、慎二の母も、男子を産んだら蟲の餌となった。最悪の拷問よりひどい苦痛、何千もの極悪囚人に輪姦されるよりもむごい凌辱、人間の糞尿をためたプールにもぐるよりおぞましい不潔、地獄より悲惨な生ののちに。

 そんな狂った家から、雁夜は逃げて普通の人間の生活をしていた。

 恋もあきらめた。愛する女をそんな地獄に落とすなど、

(できようはずがない……)

 このことだ。

 だが、逃げたことはより悲惨な結果を産んだ。愛した女、遠坂葵の娘……何度か遊んでいた美しく穢れない少女、遠坂桜が、間桐家の養女に迎えられたのだ。

 魔術は一子相伝、姉の凛がいる以上、もう一人の子はほかの魔術師にゆだね養子に出すのが魔術師の常識。だから同じ始まりの御三家の一つに……魔術師としては常識的であろう。

 間桐家に、子を持つ母親がいないということを考慮しなかった……相手のことを調査しなかった、という許しがたい怠慢あってのことだ。

 雁夜に冷静な思考はない。愛する女の娘が、考えられる最悪の不幸に落ちた……その衝撃は、圧倒的な怒りになった。愛する女を奪われ、しかも彼女が不幸でいること……嫉妬は憎悪に、殺意に変わった。

 

 雁夜は、自らの人生を捨てた。特高警察もゲシュタポもKGBも想像すらしたことがないような拷問を覚悟した。

 聖杯戦争の駒として戦う……聖杯はくれてやる、ひきかえに桜を開放しろ。

 それだけが、普通の人間でしかない雁夜にできる交渉だった。

 耐えた。

 最悪の虫歯の何千倍もの苦痛を。指先を真っ赤に焼いた針で貫く何百倍もの苦痛を。昔の最悪の部活で、一滴の水も許されず炎天下フルマラソンを走り切るよりひどい疲労を。何日も一睡もしないより激しい精神の負担を。

 体内に蟲をうめこまれ、中から生きながら食われ続けた。寿命は使い果たされ、聖杯戦争の二週間持ちこたえれば奇跡といわれた。

 気力だけだった。憎悪と復讐だけだった。

 体内の蟲が、普通の魔術師が用いる魔術回路と同様の働きをする。宿主の血肉を食って魔力に変換し、サーヴァント召喚の魔術を可能にしている。

 

 そして唱え終わった瞬間……すさまじい魔力、ずっと、

(これ以上の苦痛などありえない……)

 と思っていた、さらにそれに倍する苦痛に身を焼かれながら、雁夜は見上げた。

 長身の、鍛え抜かれた男。

 竜のうろこを思わせる鎧を着て、片目には奇妙な、突起の多いメガネのようなものをかけている。

 片方の肩から、背に負った長大な刀剣の柄が見えている。柄頭は竜の頭のような彫り物がある。

 狂った英霊、名を名乗ることも話すこともないだろう。戦うだけだ……

 だが、強いことはわかる。自分の命が今消えてもおかしくないほどに。

 満足と苦痛に気絶しようとした雁夜の耳に、奇妙な音が聞こえた。

 ヒイイイイイ……ン……

 ジェット機のような。高速鉄道の最高速のような。

 そして男の額に、輝きが生じた。直線によって構成された、竜の顔を思わせる文様。

 バーサーカーの体が静かに輝きをまとう。

「ふん……出来損ないが、よい駒」

 老人の姿をした臓硯が、静かにいったとき。

「バーサーカー、竜の騎士、バラン。なんだこの化物は、『ニフラム』」

 バーサーカーが言葉を発した、ありえないことに。その身を覆った光が、風となり吹き荒れた。

 臓硯が一瞬で消えていく。蟲の集合体である本体をむき出しにし、そのまま火炎放射器の炎を浴びた雪玉のように蒸発していく。

 さらに光の風は広がる。今も幼い桜が凌辱と拷問に苦しむ蟲蔵に。屋敷のいたるところに。

 雁夜の体内にも。

(やめろ!)

 一瞬の喜びののちに、その結果に気づいた雁夜は叫んだ。

 雁夜も。そして桜も。

 中枢神経も、必須内臓も、いくつも蟲に食われている。蟲が神経や臓器の代行をしている。蟲を完全に浄化してしまったら、死ぬしかないのだ。

 絶望の中消えていく意識。そこに、かすかな声が響いた。

『ベホマ』

 すっと、苦痛が消える。身体が楽になる。一年ぶりの、安楽な眠りが訪れる。

 絶望と悲しみに満ちた、いっそ永遠であればいい……そう考えることもできない、容赦のない眠りが。




「DRAGON QUEST ダイの大冒険」より。

「悪霊退散」と「治癒」両方ができるバーサーカーが条件。
孔雀も考えましたが、本編で治癒術使ってたのが思い出せず。
エルリックも竜の毒がありますがあれは薬というより猛毒で常人は死ぬ代物なので。

本作の英霊はバーサーカー経験がある者が多いです。

原作単行本のプロフィールは無視、まあDQ3全呪文と考えてます。
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