鯖総入れ替え四次(おっさんホイホイ)   作:ケット

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試し

 聖堂教会本体、冬木教会、時計塔のロードたちなど多くの人に手紙を送った、ライダー・ランサー連合陣営は円蔵山に向かった。

 

「あんたはなぜ聖杯戦争にかかわり続けるんだ?帰った方が安全だろう?何かかなえたい願いでもあるのか?」

 孔雀がソラウに聞いた。

「……そのとおりだ」

 絞り出すようにケイネスは言った。ほとんど力を失った今、ソラウを守ることができない。

 衛宮切嗣の礼装と思われる弾にやられてからもずっと現実を見ていなかった。が、ウェイバーが訪れマスターを変更する、という話になって、初めて考えてしまう。

(ソラウを失うことは、耐えられない……)

 だから、安全なイギリスに帰ってほしい。あんな外道の魔術師がいるのだから。

「……何か、見つかるかもしれないから」

 ソラウは、何か悲しげな眼をしていった。

「戦場では……」

 宗介が言いかけて、やめた。

 戦場はひたすらむなしく悲しい。だが戦友との交情は、平和な世界では到底味わえぬものがある。

 戦場に何か見つかるか、と戦場に来るものもいる。やっと戦場から帰れたのに、平和に順応できず戦場に戻る者もいる。自分は平和の中、短かったが生きられたが……

「それに、神秘の秘匿は魔術師の義務。私も魔術師の端くれよ」

 そう言われては、ケイネスもウェイバーも反論できなかった。

 

 

 途中の人目がなくなったあたりで、突然バンが追い越しをかけ道をふさいだ。

「警戒を」

 ライダーが言って運転しながら宝具のドラグノフを構える。場合によっては装甲車で体当たりの構え。

「誰だ」

 ウェイバーが車を盾にして聞く。

 止まったバンをかばうように、鎧を着た男が実体化した。

 ごくり。人は皆つばを呑む。

 この聖杯戦争で唯一、サーヴァントらしいサーヴァント。見れば神話級の英雄だとわかる。そしてマスターたちは、すさまじいステイタスも知っている。

 走る車の真正面に立ったまま背の剣を抜く。鋼でできていれば普通の人間では振るのが無理な重さになろうほど、長く広く厚い剛剣だ。

 宗介は思い切りアクセルを踏み、偽装装甲車を加速させる。

 ウェイバーは覚悟を決めたように、令呪を手で覆っていた。

 ケイネスは『月髄霊液』に命令しようとして、今や力がほとんどないことに気がついた。老人のように鈍くしか動かぬ手でソラウを抱きしめた。

 ソラウはそれなりに優れた呪文を使おうとする。

 孔雀は、リラックスしている。見る者が見ればわかる、宗介を信じつつ、いつでも主を守れる実力を持ってのことだと。

 全速で激突、と見せて宗介はブレーキとハンドルを複雑に操った。

 縁石に乗り上げ、ガードレールにぶつかった装甲車は、すさまじい勢いでバランをかわして横滑りする。

 ワイヤーガードレールにぶつかって急停止しつつ、鋭く宗介はウェイバーをつかんだまま車から滑り降り、ドラグノフを構えバンに向かって走った。

 バランの剛剣は振り下ろされ、道路を深く斬っている。瞬時に横薙ぎが加わり、剣圧は爆風として吹き荒れている。

 はねようとしたら、車ごと斬り飛ばされていたろう。

 突進し、しかもぎりぎりでよけたことで、一瞬だけでもバランを束縛したのだ。

「メラミ」

「ナウマクサンマンダ・バザラダン・カン!」

 火球がぶつかり合う。

 炎が爆発的に巻きあがった、その隙にバランは車から降りたケイネスとソラウを襲う。

 ケイネスは必死でソラウをかばった。

 だが、バランは途中で引き返す。バンの主人を宗介の射撃と手榴弾から守ったのだ。

 宝具であるドラグノフの弾は神秘を帯び、サーヴァントにも通じるが、竜闘気はそれも弾いていた。また手榴弾の爆風も、握った手でやすやすと封じてしまう。痛みすら感じていないようだ。

 

「魔術師、でも女を愛することはあるんだな」

 そう、バンから出てきた男が言う。その腕には少女が抱えられていた。

 

 

「なぜここで。僕たちには用事があるんだ」

 ウェイバーが言うのにバランは、

「そちらのマスターとサーヴァントを見極めておきたい」

 とウェイバーに答えつつ、孔雀の独鈷を切り払った。

「問答無用のようです、マスター」

 宗介がドラグノフに銃剣をつける。ちょっとした槍になる。

「先生、それにランサー、早く円蔵山に。中腹から道が隠されていて、洞窟につながっています。ここで食い止める」

 ウェイバーが決意の目で立ちふさがる。

 

 ケイネス一人では素早い移動はできない。孔雀がケイネスを連れて行けば、誰がソラウを守るのか、またケイネスは令呪も使えない。

 逆にケイネス陣営が足止めをしても、ウェイバー陣営は聖杯をどうにもできない。

 できればケイネスの学識もあったほうがいい。孔雀一人でもどうにかなるかもしれないが、強力なマスターのフォローが必要だ。

 

「……逃がしていればよかったのだ、安全なイギリスに。だが……」

 ケイネスは嘆き、サーヴァントをソラウに移す儀式を始める。

 令呪は使えないのだから、ソラウしかいない。ウェイバーが二人支えるなど無理なのは明白だ。

 絶体絶命、それもソラウの生命がおびやかされ、やっと決断ができた。

「我に従え。ならばこの命運、汝が槍に預けよう……」

 ソラウの美しい唇が美しい声をつむぐ。

「ランサーの名に懸け誓いを受ける……貴方を我が主として認めよう、ソラウ。

 世界が破壊されないために戦う、前世ではずっとそうしてきたし、今回もそのために来たのだから」

 孔雀がソラウに手をさしのべ、ケイネスはその程度の魔術にも疲れてくずおれた。ソラウが彼を支える。

「頼む」

「ああ」

 宗介は振り返りもしないで、バランの猛攻を銃剣でしのいでいる。

 孔雀は両手にケイネスとソラウを抱え、真言を唱え始める。

「オン・マユキラテイ・ソバカ

ノウモボタヤ・ノウモタラマヤ・ノウモソウキャ・タニヤタ……」

 守護神である孔雀明王呪。光の翼が広がり、飾り羽が舞う。

「魔術師としての使命感、誇りはある。そして女のほうは、ただ求める思いがある……」

 雁夜が静かに言った。ルポライターとしての洞察と表現。

「ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリといえば、ケイネス先生以上の、世界でも有数の名家のひとだ。

 高い魔力を持ちながら、政略結婚以外の人生がない、自分の意志がない……自分の望み、自分の人生を生きたい、だから逃げなかったのか」

 ウェイバーが分析する。

「それも一子相伝などと馬鹿なことをしているからだ。さらにそこから聖杯戦争なんて正気じゃない。もしかしたら一子相伝も嘘で、どこかの家が一子相伝という空気を作って、滅んでいくライバルを尻目に大家族でウハウハしてるかもしれないだろう」

 雁夜の、魔術にわずかに触れていながら普通人だから言えた言葉は、魔術師への道を歩みつつあるウェイバーには衝撃だった。

 雁夜の腕の中で、桜が悲痛な表情をしていた。魔力消費は耐えられる。だが自分のために雁夜が命をかけ、試すためと人が傷付けられている……優しい少女の、幼い心には負担になる。

 

「見極めてどうするんだ!もう聖杯戦争なんて意味がないんだ、聖杯は汚れている!」

 ウェイバーの叫びに、雁夜が答える。

「もとより聖杯など興味はない。信頼できる魔術師を探したい。戦いで見極めたい」

「勝手なことを……それどころじゃないんだ。あっちには大変なものがあるんだぞ」

(もう、決断の遅れで負けたりしない。間違っていても後悔したくない!)

「令呪をもって命じる、ライダー、宝具を使え!」

 ウェイバーの手から光がほとばしり、令呪の一角が消える。

 莫大な魔力を注がれた宗介の姿が薄れる、その周囲に何かが生じる。

 まるでとんでもない巨人に変身したような。

 いや、それは硬い素材でできた、ロボット。

 赤と白。ところどころの黒。長い白髪をポニーテールになびかせているようだ。

 全高は9メートル近く、四階建ての校舎に近い。

「ARX-8レーバテイン。信頼性を考えればM9ガーンズパックのほうが」

 言いかけた宗介を、

「またともに戦えてうれしいです」

 とAIの声がさえぎる。

「おまえもいたのか、アル」

 宗介は少し憮然とするが、嬉しそうでもある。

 ウェイバーも雁夜もアームスレイブの巨体に度肝を抜かれていた。

 

 使い魔についたカメラを通じて見ている衛宮切嗣などは、冷汗にぬれつくしている。弱いと見てうかつに襲っていたら……

 明らかにEX、規格外の対城・対軍宝具。

 異界の、現在より圧倒的に上のテクノロジーによる超近代兵器。

 そしてこの陣営の戦略もわかった。脅威ではないと見せ、つぶし合いで人数が減るか、全員が集まったところをまとめて殲滅する……近代兵器・監視を操る手腕も高い。やられていたら完敗だったかもしれない。

 マスターは毎日のように長距離ランニングをしていたが、それも大半では人目があり、森に入ったら逆に何を出してくるかわからないのでうかつに攻められなかった。

 慎重で正しかったと痛感する。

 

「ふ……昔巨人族と戦った竜の騎士の戦闘経験は、ある!」

 バランが大喜びに闘志を燃やす。

 その彼に、突然すさまじい弾幕が襲った。頭部の12.7ミリガトリング2門、腰の20ミリガトリング、通称バルカン砲2門。

 一秒に400発の弾。よけても動きの速い頭が正確に追随する。

「ぬうううっ!全開、竜闘気(ドラゴニックオーラ)!」

 バランの体が猛烈な光に包まれ、戦車すら破壊する弾幕に耐える。

 だが、それだけではない。レーバテインはバランにもフットワークで追いつき、巨体に似合わぬ精密な動きで巨大なナイフで切りつけてくる。

「ただの巨人ではない、剣士としても一級か!おもしろい!」

 バランは笑い、強烈な一撃を受け流す。彼でさえもまともに切り結べる力ではない。重量が違いすぎる。

 バンを盾にするマスターたちをかばいながら後退したバランは、静かに剣を上段に構えた。

「ギガデイン」

 闇夜が明るく輝くほど強大な雷。

 それが大剣に吸収され、光の剣となる。

「受けてみよ竜の騎士の最大奥義。ギガブレイク!」

 すさまじい突進、恐ろしい一撃。どんな怪物でも断つであろう美しい一刀両断。

 見えぬ壁に阻まれる。ラムダ・ドライバ、レーバテインなどの特殊世代ASに装備されたブラックテクノロジー。

 もし万全のケイネスがここにいれば、どれほどの衝撃か。これは本質的に、精神世界からの物質世界の書き換え、魔法の領域に迫る技術なのだ。もしそれが普及すれば、神秘の衰退がもっとひどくなるだろう。もちろん、軍事民生で実用化されればその価値ははかりしれない。

「ぬうううっ」

 硬い壁を切ろうとするように、バランはすさまじい力をこめる。

 激しい稲妻の余波が周囲を焼き焦がす。

「ああああっ!」

 叫びとともに、両者が離れ……同時にマスターたちを守った。

 

 雁夜の頭を精密に狙撃した弾を、バランが防いだ。

 同時にウェイバーを狙った炎の矢を工業素材の巨人が受け止め、より強い神秘で上書きして消す。

「間桐雁夜!桜を返せ!」

「カリヤおじさん、桜を返して!」

 遠坂時臣と凛の絶叫。

 車から赤毛の少年が降りて、ふたりの激しい感情に戸惑っている。そして目の前の巨大ロボットに驚愕し、憧れの目を輝かせて食い入るように見つめていた。

「汚らわしい蟲め、間桐の血を引くだけでも八つ裂きにしても飽き足らん……」

 時臣の言葉に雁夜は叫んだ。

「大いに同感だあっ!」

 時臣は虚を突かれた。

 雁夜はウェイバーを向いて説明を始める。

「ウェイバーと呼ばれていたな……説明しておく。

 この子、桜はあっちの遠坂時臣の娘だが、魔術は一子相伝だからと、間桐家の養子とされた。でもその間桐家の当主は怪物になっており、まともに子を育てられなかった。調べもしなかったんだよそこのバカは!八つ裂きにしても飽き足らない虫野郎に、娘を渡したあいつは何なんだ!

 うちの当主はサーヴァントが潰してくれたが、絶対に死んだとは言いきれない。おれももうじき死ぬ。

 普通の家で育てるには、この子の素質が高すぎるそうだ。子を人間らしく育てられる魔術師を探しているんだ」

 時臣にとっては、これはどんな復讐よりも痛かった。

 聞いている桜もすさまじい辛さ哀しさをこらえている。記憶を消された桜にとってはつい数日前に覚悟を決めて別れたばかりの家族との再会でもある。そして雁夜が自分のために命を捨てていることもわかってしまった。

 雁夜は、時臣たちが匿名の手紙を受けて間桐家に殴りこんだのを監視カメラで見ている。それで、時臣が冷酷非道ではなくただのバカだとわかって、復讐心はほぼ消えた。

「お父さま……これが遠坂のうっかりなのね。……私も同罪よ。どんな償いでもする」

 凛が、その名の通り凛と背を張った。幼い心身で、すさまじい激情を抑えて。

「だから、今はそれどころじゃないんだ!」

 ウェイバーが絶叫する。

「あっちの柳洞寺の地下に、大聖杯がある。あれはよくわからないけど、すごく汚染されているんだ!先生が先に向かったけど……神秘の漏洩を防ぐのが魔術師だろ!」




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相良宗介

マスター:ウェイバー・ベルベット
クラス:ライダー

宝具

「レーバテイン」ランクEX
AS(アームスレイブ)。番号はARX-8。強力なラムダ・ドライバもあるが兵器としては欠陥が多い。
要令呪。
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